ルイズがチ◯コを召喚しました   作:ななななな

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長い一日
第十話


 武器を握れば、その最適な使い方が分かる。おまけに身体能力が強化される。

 

 

 これが、ルイズの推測だった。ルイズに与えられた、使い魔のルーンが齎しているだろう、天恵の如き力。

 理由や仔細はどうでもよかった。なぜそうなるだとか、なんでこんなものが、と考えるのならば、そもそもチンコとか訳わかんない。

 だから理論的なものは全て無視した。純然たる『力』として、ルイズはただ有りのままを受け止めた。

 

 武器。

 

 大貴族の子女としてルイズには、馴染みの無いものだった。

 そもそもメイジとは杖を使うものだ。どちらかと言えば、杖とは己の半身的な扱いである。

 あくまで印象だけで言えば、武器という言葉は野蛮な側面が目立つ。少なくとも、ルイズはそう思った。そういう考えが確かにあった。貴族には似合わないものだ、と。

 例えば剣なり。もしくは槍なり。

 そういったものは平民の衛兵や傭兵が使うものなのだ。

 仮に剣を使うメイジがいたとしても、その剣自体が杖である、というのがほとんどである。

 

 

 そもそもの話。

 武器の定義とは、如何なるものなのか?

 剣は武器だ。槍も武器だ。巻き割り用の斧だって武器として使える。では、食堂にあるナイフは? 杖は? 杖から出る、魔法ともいえない爆発は?

 どこからが『武器』で、どこからがそうでないのか。

 

 

 方向性の問題だ。何もかもが。

 

 

 ルイズは自室に立っていた。左手にはタクト状の愛杖があり、けれどルーンの発光はなければ、あの身体が軽くなる感覚もない。

 指向性、意思の行く先の話なのだ。全ての事象において。

 

 ルイズはすうと息を吸う。

 ゆっくりと、息を吐く。吐く、吐く、吐き続ける。息吸は身体を固くする。内なる空気を全て吐き出し、心身を穏やかで透明な状態に持っていく。

 魔法を使う為に、使えるようになる為に学んだ精神集中法を使い、ルイズは今、世界が誇る一つの真理を捨てようとしていた。

 

 杖とは貴族の誇りであり、象徴である。

 

 お笑いだ。そんな考えだから、手にある杖がルーンに反応しないのだ。だって、己がそれを武器と認識していないのだから。

 

 思い描く。自分が持つ力。本来であるならば、忌み嫌うべき、憎むべき、嘆くべき、失敗の力――爆発。

 全てをなぎ払う爆風を、己の魂に刻んだその刹那、左手のルーンが、煌びやかな光を放った。

 

 同時に、宙に舞う羽のような、身体の重さを感じぬほどの突き抜けた力を得た気がした。

 ついでに、杖の使い方が、分かる――無論ルイズにとってのそれは、爆発を産むことしかないのだけれど。

 

 

 満足げに、にっこりと笑う。そうだ、これでいい。

 食事用のナイフは、ほとんど全ての場合武器ではない。あれはあくまで食器であり、食事をするのが本来の用途なのだ。

 では、白銀煌く薄っぺらいナイフは、絶対的に武器になりえないのであろうか。

 では、誇りと象徴の杖は、ただ儀礼的なものでしかないのか。

 

 違う、違うのだ。

 要はその気になりさえすれば、何だって武器になりえるのである。ナイフだって、杖だって――失敗魔法だって。

 

 外は闇の帳にしまわれていて、閉ざされた部屋の明光だけが、佇むルイズを照らしている。今の彼女に、戸惑いや恐れはない。

 無意味に怯えたり、迷ったり、今の自分を否定する段階は終わったのだ。これが己に与えられた力だというのならば、それを使いこなしてやればいい。

 

 ルイズは杖を机の上に置いた。流れるようにベッドに飛び乗り、倒れこむように寝そべった。

 ぼんやりと天井を見ながら、考える。

 力が欲しい。認められるだけの、自分だけの力が。

 もっと、もっと深く考えるべきだ。ただ漠然と思うのではなく、無為に願うのではなく、より具体性のある答えを出すべきなのだ。

 

 

 ――明日は、虚無の曜日ね。

 

 

 左手を真っ直ぐに上へと翳し、まるで何かを掴み取るように、ゆっくりと指を曲げていく。

 ルーンに秘められた力に気付いてから今まで、熟考する時間はたっぷりとあった。

 休日である明日は、その考えを形にして、新しい一歩を踏みしめる日なのだ。

 

 ふいに思う。上げられた掌がルイズの顔に影を落した。

 

 今ある考えは、想いは、ただの幻想にしか過ぎない皮算用でしかないのだろうか。

 所詮子供の、現実が見えていない甘い甘い愚考なのだろうか。

 

 それすらも全部、自分次第だ。もう決めているのだから。邪魔な物は全て、ぶち壊すと。

 

 やってやろうじゃない。いや、やってやるわ。

 ルイズは不敵に笑い、部屋の明かりを消して、眠りについた。

 

 

 

 ちなみに彼女は裸である。全裸である。

 

 

 どうしてかと言えば、ルイズ棒から出る白いネバネバ対策だ。 

 朝起きるたびにばっきばっきのどびゅっしーな為、下着等を洗う手間を考えて、あえてこうしているのである。

 御蔭で洗うのはシーツだけで済み、その言い訳は『寝汗をかくから』というそれらしいもので終わる。

 事実、毎朝毎度のように会うメイド、シエスタにはそう言う風に誤魔化している(シエスタに私がやりましょうか、と進言されたのだ。任せられるわけが無い。ルイズはこれ以上彼女を汚したくないのだ。なお夢精)

 

 

 部屋の中でナニをぶらんぶらんさせているのは、ひたすらにルイズの乙女的な部分をガリガリと削っては行ったが、まぁ慣れとは恐ろしいものである。

 彼女はすっかり裸族になってしまった。これはこれで開放感があるし、チンコだって見なきゃいいだけの話である。

 

 けれどこんな姿。

 母親に知られたら、あまりにもはしたなくてきっとカッター・トルネード。服を刻まれて結果的に全裸になる。なんだ今と変わらないじゃない。

 

 ばれなきゃいい、それだけだ。ばれなきゃ。

 散漫な思索は泥の睡魔に沈み、ルイズはまどろみのなかに、ゆっくりと落ちていく。

 

 

 

 ばれなきゃいいとしたら、では、ばれたらどうなるのだろうか。

 油断は禁物なのである。

 明日が休日でなければ。休日の為、ルイズの精神が無意識下で、いつもより長く寝られる、なんて判断を下さなければ。

 ああ、あんなことには、ならなかったのに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ごうごうとうねる様な暴風が、存在するありとあらゆる物を切り刻んでいく。

 草も木も石も鉄も建物も動物もヒトも亜人も父様も。とにかく全てが、カリーヌのカッター・トルネードの餌食になってしまった。

 地理的な定義上正しいかはともかくとして、ルイズはなんか荒野っぽいところにいた。こう、石とか、岩とか、むき出しになった茶色の土がある、草木ない土地である。それっぽい。

 息も絶え絶えになって、ルイズは罅割れた岩の隣にガクリと膝を突いた。手に持っていた剣のようなものはカリーヌの手刀(!)で粉微塵(!?)になり、哀れ根元だけになった柄だけが彼女の味方だった。

 

 ――もう、時間の問題ね。

 

 ルイズは儚く笑った。

 偏在の魔法を駆使して二十人になったカリーヌのカッター・トルネードは、世界の五分の四をミンチにした。

 かつての学び舎はとうに滅び、正確にどこがどういう被害を受けたかはともかく、とにかく世界が危機だった。

 けれど、救世の英雄になれたらいいなと思っているルイズは、しかしカリーヌには敵わない。なんたって母親だから。母様だから。

 

 それでもルイズは戦わなければならないのだ。その理由は、こう、あの、その……なんだ……オラァ! 

 

「ミス・ヴァリエール!」

 

 聞こえてきた声にルイズが振り向くと、そこには程よい肉付きのメイド、シエスタが立っていた。

 見た目性的には捉えにくい実用的なメイド服を纏っている彼女は、むしろだからこそ、なぜだか扇情的に見える。ここは戦場だからね。

 

 

「シエスタ! あなた、実家に戻ったんじゃ……まさか、ミンチに」

「いえ、寸でのところで、ヴァリエール公爵様がその御身体を御張りになって下さり、被害は最小限に留まりました」

「流石父様」

「私が言うのも無礼千万でしかないのかもしれませんが、御立派な貴族様でございました。だから私は、彼の方の意思を組み、忠義を尽くさなければなりません」

「あっ、シ、シエスタ! だ、駄目よ、そんな、ああ、そんな、そんな大きい忠義で挟むなんて……」

「ふふふ、じっとしてて下さい……ああ、ルイズ様の大通りが、私の忠義でこんなに勃興振起……」

「ううう、駄目っ、シエスタ、あ、ああっ」

 

 

 ルイズはここで達さなかった。

 終わらない。

 

 

 

 

「カッター・トルネード!」

「きゃあー」

「し、シエスター!」

 

 シエスタは唐突に吹き荒れた烈風に弾き飛ばされ、良人に嫁ぎ、幸せな家庭を築いた。よかった。

 

「ルイズ、杖を抜きなさい」

 

 よくない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 基本的に逃げの姿勢はとらない、というのが、キュルケの方針だった。

 それは恋愛的な意味でもあり、人生的な意味でもあり、人付き合いに関しても、またそうだった。

 

 虚無の曜日。学院の学院たる赴き、つまり、学業を学ぶ場所としての運用は、今日は停止。

 休日を謳歌する他生徒のように、キュルケもまた、たとえば男友達と友誼を交わす、というのがいつもの過ごし方だった。時には「友愛」以上の事だって、何度か行っている。

 

 

 けれどキュルケは今、朝も早い時間、誰とも語り合うことをせず、自室の隣、ルイズ・フランソワーズの部屋の前に立っていた。

 

 自分はなぜここにいるのだろうか、今際になって、キュルケは自問する。なんで私はこんならしくないことを、と。

 簡潔に言ってしまえば、キュルケは朝一番にルイズを捕まえ、少し遠出――トリステインの大通りにでも行かないかと誘うつもりなのである。

 

 文字面だけを見るのならば、別におかしくもないことではあるが、実際、ルイズとキュルケはそういう関係ではない。

 キュルケの方はまだともかく、少なくともルイズは、相手のことを不倶戴天の敵と見なしているのだから。

 それを、キュルケは分かっている。ルイズが己をどう思っているのか。少なくとも、好かれてなどはいるまい。

 

 では何故、今日、キュルケはルイズに外出の誘いを持ち掛けようとしているのか。それは、ここ何日かのルイズの言動を鑑みてのことだった。

 

 使い魔を召喚してから、あの少女の行動は、ひたすらにおかしいことばかりだ。

 初日の笑顔。おっぱいおめでとう。授業で暴れだしたという謎の何か。その日以降のギラギラとした眼つきと、闇のように纏う硬い雰囲気。

 どこがどうおかしいと言えば、もう全部おかしい。

 ルイズはあからさまに聞こえる侮蔑の言葉に何の反応も見せず、得体の知れない覚悟を決めた様な透明な瞳を煌かせていた。

 怒りも見えない。悔しさも見えない。癇癪は起こさない。

 実際あの少女の中でどんな感情が渦巻いているかはともかくとして、表向きには、ルイズは不敵に、不気味に、ただ淡々としていた。

 

 それは、あの少女が、誇り高き、己の好敵手に成りえるヴァリエールのルイズが、何か、別な存在に変遷していく様で――

 

 もしそうだとするのなら、キュルケにはそれが我慢できない。

 

 変わらないといけないとは思っている――先日のルイズの言葉だ。

 

 あれが、彼女の持つ輝きを高める為なのなら、それはそれで構わない。むしろ、望むところでもある。己が今まで発破を掛けるような言葉――ともすれば、悪態ともとれる言葉――を投げていたのは、ルイズが殻を破るまで折れないようにするためだったのだから。

 善い方に変わるのであれば、自分は胸を張って彼女と相対することが出来る……

 

 しかし、そうでなかったら?

 

 もし、ルイズが何もかもに絶望して、全てを諦めて、彼女が言う貴族の誇りを捨て去ろうとしているのなら?

 

 

 そんなこと、許せるわけがなかった。

 キュルケに選択権の無いルイズの個人的な事情であってもなお、彼女にはそれを看過出来ない。

 ぴかぴかに光りうる宝石の原石を、無闇に投げ捨てるような行為なんて。

 

 

 だから、キュルケは知るつもりだった。彼女が何を考えているのか、これからどう変わっていくというのか、知りたかった。

 けれどもキュルケはルイズと友人関係とは言えず、会話らしい会話もない。そもそもルイズには友人と言えるものがいない。

 使い魔召喚から今日まで、キュルケは何度かルイズに話し掛けようとした。

 本題ではなく、あくまで他愛ない会話から、ルイズの今の性質を見ようとしたのだ。

 しかし、やたらギラついた瞳でこちらを見るあの少女の気迫に、キュルケは押されてしまっていた。そんな一幕に、またキュルケは悩み、考える。

 

 ――逃げ場をなくす。それがキュルケが出した答えだ。一度一緒に出かけてしまえば、会話の機会なんて、イヤと言うほど在る筈だから。

 

 

 覚悟を決めろ、キュルケは口の中でそう呟く。

 彼女は己の全てに自信を持っており、無論実力も兼ね備えている。

 だからこそ、己の弱さや気後れを認めるのも早かった。

 らしくなく、あの少女を気にしてしまっていること、あの少女ときちんと話したいこと、その上で、あの少女の未来を見てみたいこと。

 全てを内なる心に入れたキュルケは、見せ付けるように開いた胸元から杖を取り出して、ルイズの部屋の錠前に突きつける。 

 

 

 先ずは第一歩だ。扉の向こうに少女が居る。最早キュルケに迷いはない。

 もしかしたら未だ寝ているかもしれないが、それならそれで好都合だ。

 頭が良く回っていないうちに拉致して、なし崩し的に交友すればよい。

 

 

「アンロック」

 

 

 規則違反の開錠魔法は、問答無用に効果を発揮した。

 

 地獄の扉が、ゆっくりと開かれていく――

 

 

 

 ルイズの部屋に侵入したキュルケが、先ず一番に正しく認識したのは音だった。

 かたん、という儚い音。どこから聞こえてきたのか分からないそれは、まるで遠くの砂漠から響いてるような非現実さに満ちていた。

 次に認識したのは、先の音が己の手から落ちた杖から発せられたものだということだ。足元に転がるそれを、けれどキュルケは見る事が出来なかった。

 口が乾いているのが分かった。中の水分が一瞬で蒸発してしまったか如く、加速的に干上がっていく。

 キュルケの脳内は瞳に映る情報について思考するのを拒否していた。だからそれ以外の五感が冴える。自分の息遣い。あの子の寝息。微かに漂う雄の臭い。

 

 ――なんだって?

 

 嗅覚は遮断できない。現実はただそこにある。キュルケの視覚がようやっと事態に追いついた。追いついてしまった。

 

 

 

 ベッドの上でルイズが寝ている――問題ないわ。気持ちよさそうに寝ているし、「だめぇ」とかいう可愛らしい寝言も発している。

 

 なぜか全裸――ま、まぁ、ね、そういう気分の日もあるでしょう。それは個人の嗜好だからね? ふふ、相変わらずの幼児体型ね。

 

 チンコが生えている――チンコが生えている。

 

 チンコが勃っている――チンコが勃っている。

 

 

 いやいやいやいやいやいやいや。

 

 

 役に立たないクソったれの瞳を、一回抉り出して綺麗に洗浄したい気持ちになった。きっと、汚い泥が二つの目に溢れていることだろう。

 ごしごごしごしと目を擦る。チンコはチンコであった。どうあがいたとしても、全世界的な規模の真理で、寝ている可憐な少女に怒張したチンコがついている。

 

 ごくり、とねっとりとした泥をどうにか飲み込めたような、くどい嚥下音が耳に届いた。それが自分のものであると気付くのに、また時間がかかった。

 キュルケは動けない。言葉さえ発せられない。目を逸らすことなんて、出来るはずも無かった。

 視線の先の少女は、未だ起きる気配が無い。

 ルイズの美しい髪の毛が、放射状にベッドに広がっている。その流麗な桃色に相応しい、人形のように整った顔は、穏やかな表情を以って瞳を瞼で隠していた。

 お世辞にも女性らしくない未発達の身体や四肢は、改めて、こうしてきちんと一つの寝床に収まっている様をみれば、どうしようもなく倒錯的で、危うい妖艶さがあった。

 胸の桜色の乳首は僅かなふくらみの上にちょこんと乗っかっていた。ややあばらが浮いた脇腹は、白磁の様に端麗な肌を際立たせている。

 心臓部から腹部にかけては少女の呼吸に合わせてゆっくりと上下しており、か細いながら、確かにそこにある生命を感じさせるが如く規則的だった。

 チンコが勃起していた。 

 

 

 いや、いやいやいやいやいやいやいや。

 

 キュルケはその場で首を振った。五往復ぐらい振った。視線を元に戻す。ルイズのチンコはなくらなかった。それどころかバッキバキである。

 なんだこれ。なんだこれは。どうしたらいいのか。

 もし「隣部屋の少女にチンコが生えていた。少女は寝ており、全裸で、ぼっきんきんだった。さて、どうしよう」という頭が沸いた問いがあったとするのならば、一番丸いのは、見なかったことにする、というのが妥当であろうか。

 どうしようもないことに立ち向かうのは英雄か愚者かどちらかだ。そしてヒトのほとんどは、己が英雄であるとは思っていないし、また愚者になりたくもない。だから無難な選択を取る。

 

 すっ、と音もなく、キュルケの足が前に進んだ。キュルケは英雄だった。もしくはとびきりの愚者だった。

 度を越えた驚愕は、人から正常な判断力を奪い、時として突飛な行動を取らせてしまうという。

 衝動に後押しされた者特有の、荒い鼻息が、ルイズの寝息と同調した。

 

 

 キュルケは一つの声も上げなかった。初心なオボコではあるまいし、それは、そこそこ見慣れたものだったから。

 けれど恐怖は感じていた。心のどこかで、異常事態に警鐘が鳴っているのには、気付いていた。

 

 それでもキュルケは、白痴の様に、幽鬼の様に、覚束ない足取りで、ふらふらと、吸い込まれる様に、芸術が眠るベッドへと歩を進めていく。

 無言だった。無言でベッドに飛び乗った。天使を包む寝台が、誘惑された捕食者の重みでぎしりと僅かに揺れて、しかしルイズは起きなかった。

 キュルケは頬に熱を感じた。己の口から自然に漏れ出た、はぁと言う吐息でさえも、微熱では済まされない温度が込められていた。

 恐る恐る、キュルケは禁忌へと手を伸ばした。

 赤子が初めて見る玩具に振れようとするように、おずおずと、ゆっくりと、褐色の手指を、ルイズの下腹部に生えているナニへと向かわせ、そして、その五指が、包み込む様に、閉じて行く――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ファイヤー・ナンチャラ!」

「ぐわー」

「だ、誰!?」

 

 今まさに実母から説教(スクエアスペル)を受ける寸前だったルイズは、しかし刹那、現れた炎的な魔法に救われた。

 あの恐ろしく母親さえも退ける魔法を放った下手人へと、弾かれたようにルイズは目線を向けた。

 

 そこにはおっぱいが立っていた。

 

「きゅ、キュルケ!」

「はぁーい、ルイズ」

「く、巨乳は相手が悪い……ルイズ、お説教は預けておきます! 首を洗って待ってなさい!」

 

 叫んだ公爵夫人がマントを一振りすれば、霞のようにその姿が消えていく。そんな魔法があるかルイズは知らないが、まぁ母様だし。

 待ってなさい、待ってなさい、待ってない……残響する捨て台詞の擦れた先に、ルイズはおっぱいを真っ直ぐに見つめた。

 一時的なものとは言え脅威から解き放れたルイズではあったが、その心は晴れたものではなかった。

 

「何よあんた……私を、笑いに来たわけ?」唇を少し尖らせて、拗ねる様にルイズは言った。仮にも恩人に対しこの言い方はどうかと自分でも思ったが、それでも止められなかったのだ。

 

 だって、おっぱいの魔法は凄いし、おっぱいの背は高いし、おっぱいは魅力があるし、なによりおっぱいのおっぱいがでかいのだ。

 そんなおっぱい・ツェルプストーが目の前に居る。ルイズは自然、己の矮小さを噛み締めてしまうのだった。

 しかしおっぱいは、いつものように堂々と、憎たらしいほどに、羨望してしまうほどに大人びた仕草で、赤い長髪をかき上げた。これだけでなんかエロい。

 

「つれないわね。せっかく助けて上げたのに」

「余計なお世話よ」ルイズはそっぽを向いた。自分に非がありおっぱいに恩があるのは分かっていた。だけど、どうしても素直になれなかった。

 

「私は、助けなんて要らないわ」

 

 ルイズがそう言った途端、おっぱいは刹那にルイズに近接し、超高速の手腕を以ってルイズのルイズをぎゅっと、こう、あれした。 

 

「う、うぁ!?」

「強がっちゃって。あなたのサラマンダーはこんなにフレイムしたがっているのに」

「や、やめっ、止めなさい!」

「あらあら、威勢だけは一人前ね。なら、これはどうかしら?」

「あ、ぁぁあ……そ、そんな、駄目ぇ、う、うまいぃ、あ、ぅあ……だめ、なのにぃ……きゅるけぇ……」

「ほらほら、どうなの? 悔しくないのヴァリエール? ツェルプストーに、好い様にされて!」

「くぅ……んん、悔しいっ……でもっ、あ、ああ」

 

 ルイズはここで達した。

 始まり始まり。

 

 

 

 

 ぶっぱした後、ルイズはすぐさま起きる。今までそうだったし、今日だってそうだった。

 寝ぼけ眼で天を仰ぐ。すっきりとした気だるさという、矛盾して形容しがたい殺伐とした情感に、少し浸る。

 ――今日は、二段仕込だった。シエスタと見せかけてのキュルケ。その引っ掛けは何の意味があったのか。無駄な動きは止めてよ殺すぞ。

 ああ、とうとう、とうとうやってしまった。家系的に怨敵とも言える。あのツェルプストーに、とうとうナニをナニされてしまったのだ。

 しかしおっぱい大きかったな。それに、いつもよりすっきりとしている。やはり、あの男慣れしているキュルケは、その才腕も卓越しているのだろうか。

 限りなく失礼なことを考えていると、ふと、ルイズは下腹部に妙な感覚があるのに気付いた。

 腹部に乗っているだろう、ネバネバした誇りの残滓の、くっそ不愉快な生温かさ、ではなく、おちびルイズの方が、まるで、心地よい微熱に包まれているような――

 

 ガバッ、とバネ人形の如く、明らかに人知を超えた動きで、上半身を刹那に跳ね上げる。

 ナニを握りマジマジと稚児の如く無垢な眼差しでこちらを見ているキュルケと、ばっちり綺麗に目が合った。

 

「あっ」

「あっ」

 

 

 美しい貴族の息女である二人が、同時に呆けた声を上げた。

 世界はとうに朝を向かえ、外界に舞う小鳥達の囀りが爽やかな情緒を感じさせる。

 静止した時空の最中、先に動いたのはキュルケのほうだった。

 

「は、はーい、ルイズ、その、お、おはよう……?」

 

 キュルケはチンコを見ながらそう言った。

 

「――――――――――――――――!」

 

 とてもとても表現しきれない、超高音の絶望の声無き悲鳴が、部屋の窓ガラスを揺るがす勢いで、ルイズの口から爆発のように解き放たれた。

 


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