ルイズがチ◯コを召喚しました   作:ななななな

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第二話

 

 

 考えることが山の様に有り過ぎて、むしろ考えたくも無くて、ルイズはしくしく泣くことしか出来なかった。

 けれど暫しそうしていて、結局それは生産性のない時間の浪費に過ぎないと、彼女は気付いた。

 たっぷり呆けた。たっぷり絶望した。たっぷり泣いたし、ファーストキスをぶっ飛ばしてフェラチオまで経験したことによりたっぷりえづきもした。

 始祖への呪詛もたっぷり吐いたし、碌に確認もせずチンコに突撃した己の愚行にもたっぷり悪態を吐いた。

 

 

 もう、十分だろう。これからは、先のことを考えるべきだ。前に進むべきなのだ。

 

 

 先ずルイズが考えたことは、どうしてこうなったか、だ。

 

 前代未聞どころの話じゃない。使い魔を男性器として召喚するなんて聞いたことがないし、あまつさえそれが自身に装着されるなんて。

 笑い話を通りこして「ええ……」とドン引く問題だ。だが、この過程を考えてもどうしようもないと、ルイズはその結論に至らざるを得なかった。

 ハルケギニアの全メイジさえも「ええ……」と唸らざるをえない様な事態に、果たして答えは出るだろうか。出るわけない。

 ルイズはその辺りのことを考えるのをやめた。こうなってしまったのだから、こうなってしまったのだ。

 

 次に考えたことは。

 ルイズはごくりと喉をならした。

 

「取れないのかしら」

 

 残酷なまでに底冷えした呟きだった。標的を始末する暗殺者のような瞳だった。

 ちょん切る。その考えがルイズの脳裏を過ぎる。全部なかったことにしよう。魔法で、こう、スパッと。

 そこまで考えた時に、ルイズは左手のルーンが激しく発光していることに気付いた。まるで何かを訴えているかのようだ。

 ルイズは悲しげに首を横に振った。駄目だ。少なくとも無理やりに取ってしまうのは、諦めることにした。

 

 別に、股間の間に現れた第二の杖に愛情を持った訳ではない。持つ訳ない。

 

 しかし嬉しくもなんともないが、コレは最早彼女の一部分になってしまっているのだ。

 正直な話、割と真剣に男性器の取り方を考察すれば――玉の部分が、なんと言うか、そう、ひゅん、としてしまうのだ。

 そう言えば、とルイズは思い出す。男性のコレは、正しく急所。そこへの一撃は生半可な痛みではない、と何処かで聞いたことを。

 自分には縁もゆかりもないと思っていたが、なるほど、改めて自分に備わってしまえば、確かに切ない箇所の様に感じる。また一つ、ルイズは賢くなった。いらねぇ知識だよ殺すぞ。

 

 まぁなんにせよ、ルイズとて進んで痛い目に会うことはしたくもない。加えて言えば、現状魔法が不得手な彼女に適切な『処置』は出来ないし、そうなれば誰かに頼むしかない。嫌だ。

 そしてこれは予感だが、ナニを無理くりにどうにかする場合、多分、何らかの抵抗をしてしまう。自分が、というより、使い魔のルーンが、だ。

 このルーンは、もとよりナニにつくべきものなのだ。それの危機とあれば、今の様に激しく発光しだすだろう。もしかしたら悲鳴をあげるかもしれない。ルーンにそんな効果があるかは知らないが。

 保留。この件については先送りだ、ルイズがそう結論付ければ、よかった、そう言わんばかりにルーンの発光は収まった。よくはねぇんだよ殺すぞ。

 

 

 次。

 

「と言うか、これ、誰の」

 

 

 常識的に考えて。

 ルイズの知らないどこかの地域に、チンコが独立して生活しているところがあるのだろうか。

 想像して、ルイズは発狂しそうになった。何もかもを吹き飛ばしたくなる。先ず在り得ない。在り得たらルイズは爆発して死ぬ。

 

 と、言うことは、この男性器は誰かのモノだったのだろう。形から判断して(この考察がもう死にたくなる)恐らく、それはヒト型生物のものだろう。

 貴族か。平民か。それとも亜人か。もっと言えば、本来ならばヒト形の『誰か』が召喚される予定で、何らかの手違いで一部だけが召喚された可能性もある。

 

 ルイズは申し訳ない気持ちになる。ごめんなさい、名も知らぬ殿方。貴方のチンコは私のチンコになってしまいました。恐らくは私の技量不足で。

 ルイズは怒りも覚えた。なぜよりによってチンコなのか。そりゃ、腕が一つ増えたり脚が一つ増えたりすることも可能性的にありえただろうし、それはそれで嫌だが、なぜ、なぜチンコ。

 

 ヒトの類を使い魔として召喚するのは前代未聞であろうが、部分召喚、主従合一。もはや謎だらけだ。

 出来うるなら即座に返品してあげたい。誰も得しない契約だ。ルイズも、持ち主も。しかしやり方も持ち主も何もかも分からない。名前が書いてある訳でもあるまいし。

 考えても仕方ない。ルイズはまた首を横に振るう。これもまた、どうしようもない問題だ。

 直近でありえる懸念としては、このチンコがどこぞの大貴族のモノで、「私のチンコが召喚ゲートに吸い込まれた!」とかなんとか言い出すことだ。

 なんだろう。いつか、私はチンコの所有権を懸けて、その貴族サマと戦わなければならないのだろうか、ヴァリエールの権力を使う日が来てしまうのか。家族総出でチンコを守らなければならないのか。

 鬼の様に恐ろしく強い母親が、アホみたいな理由で杖を振るう場面を想像して、ルイズは身震いをする。勘弁してほしかった。

 切捨て。そう、思考の切捨てだ。抜け道のない迷路に自ら囚われる必要は無い。はいはい、この話はおしまい。

 

 

 次。

 

「ああ、これ、これ、なんて、なんて……ちぃねぇさまぁ」

 

 家族。それは一生付き合う他人。使い魔はメイジと一生を共にするのならば、股にぶら下っているナニもまた、一生のものになり得る(ルイズはここでつぅと一条の涙を流した)

 早い話、どう家族に説明したらいいのだろうか、という問題。全部正直に言ったところで、お父様も厳しい姉さまも「ええ……」とドン引く未来しか浮かばない。

 ルイズが敬愛している次女、カトレア――ちいねぇさまに説明したら――ルイズは想像する。

 

『ちいねぇさま! 私、使い魔を召喚したの! 魔法が成功したのよ!』

『まぁ……私の可愛いルイズ。よかった、よかったわ。よろしければ、私にあなたのお友達を見せてくださらない?』

『これよ!』

 

 ばばーん。

 

『ええ……』

 

 なんだ、結局そこに行き着くではないか!

 下手をすれば、元より具合がよくないカトレアだ。ルイズのルイズを見たら、更に病状が悪化するまである。だって本人が既に死にたいもん。

 

 厳しくて厳しくてそれはもう厳しさの権化、ルイズの母親、カリーヌに至っては。

 

『ルイズ、杖を抜きなさい』

 

 何故かこうなってしまう。対話とか会話とか慰めとか励ましとか、ルイズは正直、母親をそう言う目で見ていない。ある意味で母親を一番信頼していて、一番知られたくなかった。

 杖を抜いてどうすればいいのだ。もしかして、新たに手に入れた杖(股の間にある奴)を出せということなのか。それを、母親自慢のカッター・トルネードで切り刻むということなのだろうか。

 切なる部分がひゅんとなった。

 駄目だ駄目だ、駄目すぎる。それに冷静に考えれば、魔法研究を行っているアカデミー勤めの長姉、エレオノールにバれるのも不味い。ルイズには厳しいがそれでも血を分けた姉、流石に未知を研究するための解剖まではないと思うが――

 

「あ、でも、らくーに取ってくれる方法を見つけてくれるかも……あー、はいはいわかったわかった。保留保留」

 

 これはこれで良い考えだと思ったが、左手のルーンが『そりゃねぇぜご主人様』と言わんばかりにぴかぴか輝いたので、いったん考えるのを止めにする。何がご主人様だてめぇは私だろうが殺すぞ。

 カトレアを抜けば一番己に甘い父親は――なんだろう、ある種、一番考えてはいけないことが頭に浮かぶ。種だけにね。

 

 なんということだ! これはひょっとすると、ヴァリエール跡継ぎ問題を解決する妙手になり得るではないか!

 

 そう脳内で言い切った父親に、ルイズはごめんあそばせと言いながら股間を蹴り上げた。ヴァリエール公爵は爆発した。

 ――言えない。ルイズの結論はそこに集束する。これもまた問題の先送りにしかならないが、少なくとも今すぐナニについて語ることは出来ない。家族でも。家族だから。

 

 

 そこまで考えて、ルイズは最も近くにある脅威について考えなければならないのではないかと思い直す。

 この際、チンコのことはもういい。

 いや、よくはないけれど、それはまた、追々考えればいいことだ。というか、追々考えなければならないのだ。  

 あまりにも埒外のこの事象。数刻思考して答えが出る問いではない。時間を掛けて、もしくは何かしらの対策が必要な都度に考えていけばいい。

 一番の問題は。もっと言えば、一番根本的な問題として。

 ルイズは未だへたり込んだまま頭を抱えた。

 

「ああああ、使い、使い魔、ちゅか、ちゅかいましょうかん、あ、ああああ」

 

 ――昇級試験。これだ。

 使い魔が召喚出来なければ落第。その重く圧倒的な現実は、ルイズの小さい体を押し潰さんとしていた。

 しかし、出来なければ落第、と言うのならば、出来た今は落第する必要はないのではないか? 曲がりなりにも魔法が使えたのだから、自分はメイジとして皆に――

 ――言えるのか? 

 チンコを召喚してチンコにキスしてチンコと契約してチンコがくっついた。私は立派なメイジよ! そう、言えるのか? 何が立派だ、ナニが。言えないに決まっている。言いたくもない。

 二律背反だ。使い魔を召喚したと証明しなければ落第。証明する為にはナニが起こったか説明が必要。 

 

 どちらも嫌だ。

 

 今まで屈辱に耐えながらたくさんたくさん努力して、いつかきちんと魔法が使えるようになると望んでいた少女に、無様に学院を去るということは出来ない。

 同時に。

 可憐な花の様な乙女であり美少女でもあるこのヴァリエールのルイズに、なんと雄しべもつきました、どやぁ、なんて、少女には言えない。知られたくない。特に、自分をいつも馬鹿にしている級友達には。

 

 容易に想像できてしまう。なにかしらの天才的な閃きで、股にあるぶら下り玉付き竿の存在を学院に隠し通したとしても、周りの学徒はそれで納得しないだろう。

 彼らはルイズの粗を、ボロを、まるで美味しい餌を得る為大口開けて待つ畜生の様に望んでいるのだから。

 何食わぬ顔でルイズが授業に参加したらなば――

 

『おい、ゼロのルイズ! お前、使い魔を召喚出来なかったのになんで教室にいるんだよ!』

『魔法が使えない落第生! さっさと辞めちまえ!』

『ふん、なによ、使い魔ならここにいるわ』

『はん、嘘ばかり! なら見せてみろよ!』

『これよ!』

 

 ばばーん。

 

『ええ……』

 

 こうなる。

 いや、さっきからルイズ二号を見せた時の脳内反応予想が誰も彼も同じでしかないのだが、それは置いといて。

 少なくとも、使い魔を連れていないルイズに他生徒が突っかかるのは確定で、そうした場合、なら使い魔を見せてみろ、という展開になるのも自明である。

 そして勿論、ルイズは見られたくも知られたくない。当たり前だ。知られたら色んな意味で死ぬ。死にたい。

 もういっそ、全てを諦め何もかもを悟りきり、全部全部闇に葬って、おとなしく学院を去って、誰にも真実を知らせず修道院なんかに入って一生を過ごすのも――

 

「嫌よ」

 

 思考の途中、ルイズははっきりとそう言った。あまりにも堂々として、あまりにも決断的なその呟きに、ルイズ本人もびっくりしてしまった。

 けれどそれは、間違いなく彼女の本心だった。

 嫌なのだ。学院に残って、きちんとした魔法がつかえる様になって、やがては立派な貴族になりたい。修道院に篭ってこんな無惨な運命を敷いた神とやらに祈り続けるのは真っ平だった。 

 考えなさい、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。

 お前がやらなければならないことは、泣くことでも喚くことでも悲しむことでも嘆くことでもない。考えて、考え抜いて、己が望む道を走ることだ。

 頭が冷える。瞳が細まる。ルーンが淡く光る。目を瞑り、深呼吸。

 

 視界が黒いっぱいに広がり、ルイズは、暗黒に座り込む幼き自分の姿を幻視した。

 

 歳が十に届いていない頃であろう幼いルイズは、自身に訪れてしまった過酷で笑えねぇ現実に、絶望の眼差しで虚無の闇をぼんやりと見ていた。

 いや、そもそも希望を持ったことすらないのかも知れない。

 家柄だけが取り柄の出来損ない。何度も何度も投げられたその心無い言葉は、果たしてどれだけの悪意を含んでいたのだろうか。

 楽しいこと。幸せなこと。それらは無いことも無かったが、幸福な気持ちなんて儚い物だ。今『ルイズ』にある現実もそうだが、元より彼女が背負っている『魔法が使えない』絶望もまた、冷たい冷たい闇でしかないのだ、

 幼きルイズの瞳からは、もはや涙さえも出ていなかった。

 

 凍えるような運命が幼いルイズの温度を全て奪いさろうとしている最中、暗闇の奥で、のそっと、自分以外の何かが現れるのを、『ルイズ』は見る。

 犬だった。黒くて大きい犬だった。赤い舌をはっはっはっと出して、幼いルイズを見つめるその熱を持ち潤んだ丸い瞳は、どうみても発情期。尻尾もぶんぶんだ。

 その黒い犬は、のそのそと幼きルイズの傍らに近づき、ぺたりと座り込む。相変わらず舌は出しっぱなし、尻尾はぶん回り、幼きルイズに送る目線はこれやばいやつだと言えるほどに爛々としている。

 けれど、何もしなかった。犬はただ幼きルイズの近くにあった。それだけだ。

 そして幼きルイズは、そんな隣の黒犬に見向きもせず、ただ空っぽの瞳を闇に向けている。

 ただ、少女を苛ませていた極寒の絶望が、少し弱まったように、『ルイズ』はそう思えた。

 

 

 

 ルイズは目を開けた。

 

 

 いやこれなによ。

 

 

 なんだが良い話風に纏まっているが、突如始まった自分の範疇にない自分の脳内劇場に、彼女は盛大に突っ込みたい気持ちになった。

 意味わかんない殺すぞ。物騒な言葉が口を衝きそうになるのを堪えて、ルイズはこの情景のことは忘れることにした。それどころではないのだ。

 

 

『どうにかして学院に残り、かつ、チンコ云々は伏せる』

 

 

 考えるべきはこれだ。これしかない。今のところは。

 後のことはどうにでもなる。もとい、それはそれでどうにかしなければならないが、後でいい。

 ルイズは立ち上がった。とりあえずショーツを履き直した。改めて気付いたのだが、ちょっとはみ出している。何がって、ナニが。歯を食い縛る。それどころでは! ないんだ!

 

 考えろ、考えろ、ルイズは考える、

 

 真実は言えない。だが同時に、誰かに知られる必要性もある。

 何もかも全て一人で押さえ込んでしまうには、俗に言う『自然な流れ』に明らかな無理を生じさせてしまう。そうなってしまえばもう終わりだ。

 

 折衷案。

 

 結局ルイズが出した結論はこれだった。

 己に起こったことは隠し通す。少なくとも、明日朝一番に『私の使い魔よ!』ばばーん『ええ……』みたいな盛大な自爆行為はしない。これが絶対。

 その上で。

 誰かに、全てを話す。そしてその誰かに、保証してもらう。自分の使い魔の存在と、それを口外しないことを、約束して貰う。

 知られたくはない学徒や家族向けの言い訳は、今さっき思いついた。そしてその言い訳をそのまま、件の『誰か』にまるで世界が認めた真実の様に語って貰えばいい。

 未だ幼く魔法が使えないこととその性格ゆえに、周囲の信頼さえ覚束ない自分とは違い、その『誰か』の弁は、誰もが信じざるを得ないものだろうから。

 

 それは十全に確定的とは言えない、希望的観測を含んだ未来予想だった。その『誰か』がルイズの期待通りに動かなければ、計画は破綻してしまう。

 賭けだった。しかし状況的に、ルイズは賭けなければならなかった。

 

 ――是非はない。覚悟を示すかのごとく、ルイズは息を長く吐いた。正面の扉を見据える。

 まだ起きていらっしゃればいいのだけれど、そう呟きながら、ルイズはふと、自分は妙に前向きだな、と思った。

 

 泣き続けたい気持ち。喚きたい気持ち。何もかもを諦めたい気持ち。少しだけ真剣に考えてしまった、死にたいという気持ち。

 それらはもう、ルイズの心にはなかった。運命への怒りや憎しみはまぁそこそこあったが、場を占めるのはより建設的な未来の思考だった。

 ドアノブに掛けられた左手が視界に入る。ああ、もしかすると、こういうことなのだろうか。

 召喚され契約されルーンを刻まれた使い魔は、概ね主人に好感を覚えている。それがもし、その召喚対象の個別的な性格によるものではなく、使い魔のルーンによるものだとしたら――

 今、そのルーンが自身の左手にある自分は、要は自分自身に好意を齎せていて、そして励ましてくれているのかもしれない。

 

 自分が使い魔。自分が主。

 自分で自分を慰める。それすなわち、オナ

 

 

「うるせぇぶっ殺すぞ」

 

 

 ルイズはドスがほどよく聞いた低い声で、自身のふざけ倒した考えを爆殺した。左手が淡く光っている。扉が開いた。

 

 


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