ルイズがチ◯コを召喚しました   作:ななななな

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第九話

 

 

 ルイズは傷ついていた。どこがどう怪我をしただとかそういう具体的な話はさておいて、とにかく傷ついていた。

 なんか剣的な物を地面に突き立てて、身体の支えにする。ルイズはとにもかくにも傷ついていて、まぁ満身創痍的なあれだった。

 

「くっ……母様……」

 

 世界の平和と想い人の命を天秤にかけざるを得なくなった勇者の如く凛々しい顔で、ルイズは呟いた。

 なんやかんや意見の相違の様なあれこれがあったとは言え、相手は母親。その母親と敵対することになるなんて……

 美しい少女の瞳から流れる宝石のような涙は、煌びやかな光を放ち、神々しい虹を作る。

 深く辛い悲しみがルイズを満たす。ああ、どうしてこうなったのだろうか。

 苦悩の眼差しで天空を見上げれば、おお、そこには母であるカリーヌのカッター・トルネードが牛さんとか豚さんとか父様とかなんかそんなのを弾き飛ばしている!

 なんだかんだあってとにかくルイズに説教かましたいが為にカリーヌが放ったスクエアクラスの魔法は、なんだかんで世界の三分の四ぐらいをミンチにしたのだ。なんだかんだで。

 

 ルイズは立ち上がる。ここは、自分がやるしかないのだ。かちりと剣のようなものを横に構える。ルーンの極光が果てない地平線を貫いた。

 

「ミス・ヴァリエール!」

 

 背後から聞こえた声にルイズが振り返ると、そこには珍しい黒髪が特徴のメイド、シエスタが立っていた。

 愛嬌の有る垢抜けない顔つきのメイドは、人類の平和の為に実母と戦う少女ルイズを応援する為、このクソみてぇな地獄(ヴァリエール領)に単身乗り込んだのだ。そんな感じの話なのだ。

  

 

「シエスタ! 学院はどうしたの?」

「滅びました」

「そう」

「そんなことより、ミス・ヴァリエール、ああ、なんてことでしょうか、もうルイズ様の貴族サマがこんなに立身出世……」

「あ、駄目、ちょ、あ、あ!」

 

 ルイスはここで達した。

 終わり。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホンット、最低……ごめんなさい……」

 

 半ば無意識ではあったが、生まれて初めて、ルイズは平民に心籠る謝罪の言葉を送った。

 申し訳ない気持ちでおっぱいだった。殺すぞ。 

 

 

 

 

 

 白い粘着性のウォーター・カッターは、主にルイズの心をめたくそに汚しきった。やっぱり亡き物にしたい。ルーンが光った。はいはいわかったわかった。

 

 さておき。

 

 またまた不幸中の幸いだが、『それ』の後は、やたら目が冴えてまだ日が昇る前に行動することが出来るのだ。

 よって、無惨に汚されたシーツやらネグリジェを人知れず洗うことが出来るのだが、もし、この先も『コレ』が続くのならば、こうなればもういっそ裸で寝たほうがいいのではないか。

 ルイズはそう思った。なんせ手間が掛かるし、寝具などはまぁどうしようもないとしても、毎朝人目を忍び下着や寝巻きを洗い続けるのは、ちょっと怪し過ぎる。

 難点と言えば、裸でいることによって常にナニを直視してしまうことだが……もう、それはしょうがない。

 女性であり乙女であるルイズから見れば、悪ふざけとしか思えないこの特異な形状は、もうげんなりしかしない。けれど、いつまでもそんな甘ったれな考えでは駄目なのだ。

 昨日夜遅く風呂に入る時だって見ざるを得なかった訳だし、実を言えば、きちんと洗っている。もう死にたい。だけど洗えたのだ。嫁入り前の子女が。チンコを。やったね。やってねぇよ殺すぞ。

 妙に行く回数が増えた結果として、トイレにも慣れた。そして男性器使用による排泄行為は、そのぷるんぷるん棒を制御しなければならない。

 ほらほら黄金水が飛び散っちゃうよ、触ってね、握ってね、ということだ。ルイズの目は濁るが、膀胱は澄み渡る。

 

 慣れなければならない。怒りも悲しみもうぉえとえずくこともルイズは否定しないが、前を向く為には、それら感情とよくよく付き合っていかなければならないのだ。

 ほら、そう思えば、使い魔(の一部)であるチンコにだって愛着が……湧く訳ねぇだろ殺すぞ。

 

 

 

 賑わいをみせる食堂にて。

 イラつきをぶつけるように、ルイズは朝食をがっついていた。

 食物を貯める小動物のように頬を膨らませているその様は、本人の童顔と相まって微笑ましいものに見えなくも無い。

 けれど、見た目小柄な少女の内に収まるにしては、その量は明らかに間違っている。なまじ作法だけは完璧なだけに、余計に冗談のようだった。

 その様子を周りは奇異の目で見ているが、それだけだ。直接声を掛けることはしない。

 ルイズもまた気にしない。そもそも、他にもっと考えることがある。

 

 

 これは、本能による直感だった。分かるから、そう思う。原始的で根源的な、ヒトに備わる判断能力。

 それらを使いルイズが導き出した答えは――朝の悪夢は、使い魔もチンコも関係ない、自分自身が見た夢なのだ、というあまりにもあんまりな裁断だった。

 

 すっ、と瞬間的に片目を瞑る。意識する。供に在る存在を。

 闇の世界で、黒犬が座っている。その頭を、幼いルイズがてしてしと叩いている。やつあたりだ。犬はじっと目を瞑っていた。尻尾はびんびんのぶんぶんだった。マゾか。

 目を開ける。口の中には豪華な朝食が詰まっているので、ルイズは溜息さえつけなかった。

 

 男性器が使い魔、というよりは、そのナニは呼び出される筈だった使い魔の一部だ、というのがルイズの見解だ。

 つまりルイズと一体化しているナニは、ルイズの物であると同時に、その『呼び出される筈だった使い魔』の物、もっと言えば、黒犬の本体の持ち物なのだ。

 そしてルイズの精神に棲む黒犬は、どうやらある程度チンコを制御できるらしい……授業中の完全フランソワーズ状態がその証左だ。

 あれは、魔法失敗、爆発魔法を使うことででルイズの心が傷つかないようにする為の、あれなりの処世術だったのだ。それは分かる、分かるのだが、やり方を考えなさいよ馬鹿犬。

 それに気付いた、気付けたルイズは、寝る前、二度と白いごにょごにょを出さないように! 殺すぞ。と猛吹雪さえも暖かく思える極寒の呟きを放ったのだった。

 

 結果は二度目の夢精である。現実はただただ彼女に厳しい。

 そしてそのヴァリエール・ブレイクは、黒犬――使い魔はとくに関係していないことなのである。

 

 つまり、ルイズのルイズはあくまでルイズにくっついていて、ルイズのルイズがその本領を発揮するということは、まごうことなく、ルイズの意思が顕現しているということ。

 残酷な結論を語ると、己の姉やあのメイドと、ルイズは『そういうこと』をしたい、性を発散したい、ということだ。あんまりだ。ルイズは大きい肉にかぶりついて、ほどほどに柔らかい筋繊維をぶちんと引き千切った。

 百万歩譲って、姉、ちいねぇさまの件は、姉妹同士の戯れと言えることも、言えることも……あんなのが? まぁ、そういうことにしておくことも、出来なくないことを前向きに検討しつつ俯瞰的な目線で事態を見極め善処するよう努める。政治家かな? 

 

 だがしかし。

 

 あの黒髪メイド、シエスタにいたっては完全に確信犯だ。件の純朴そうな少女は、汚される為にルイズの夢に出て来たと言っても過言ではない。

 ひたすらに申し訳ない気持ちになる。平民とか貴族とか。そういう立場の違いとかなんとか。そんなものより以前の問題として、失礼であり侮辱なのだ。シエスタに対して。女性として。

 会ったばかり、少し話した程度で、即座に性の対象として見る。貞操観念の固いルイズは、そのことがなにより許せない。まるで下賎な獣のようではないか。

 

 

 早朝、水汲み場にて、昨日と同じようにシエスタと出会ったルイズは、少しだけ、彼女と他愛のない会話をした。

 

 

 ルイズは気まずさ全開だったので軽い挨拶だけに止めようとしたのが、なんとシエスタの方からルイズに話を振ってきたのだ。

 いわく、御身体は大丈夫ですか、と。

 大丈夫じゃないわよ、チンコ暴発大噴火的な意味で。とは勿論言わず、何のこと? と引き攣った笑顔でルイズが問えば、シエスタは昨日の広場のことです、と言った。

 聞けば、彼女は昨日の出来事、ルイズが爆発を持って火球を消し去ったところを、部分的に見ていたらしい。その後の、苦しそうな顔と早足で去る様も。

 御身体のことをお聞きしようと思いましたが、お急ぎのようだったので、とシエスタは申し訳なそうに呟いた。ルイズは安堵した。なんせ、その後盛大に勃起しているのだ。見られなくてよかった。くそう。

 それはそうと、ルイズはシエスタに向けて、何も問題ないわよと笑った。本当の意味で、穏やかに笑った。可憐な華のようなたおやかな笑顔だった。

 

 食事の中で、ルイズはシエスタを思い出す。最初の出会いは彼女のドジから始まったが、なんとも良い子だ。純粋にそういう印象を受けた。

 地味だが、気を使えて、暖かい陽だまりのようで、厚いメイド服に隠れているがおっぱいは中々。

 真なる貴族とは、ああいう平民を守り尊重するものだ。ルイズはうんうんと頷く。おっぱいは大事だからね。

 

 ――違う!

 

 ガリッ、と肉の骨の部分に歯を立てて、ルイズは顔を険しくさせる。真なる貴族がおっぱいに惑わされる訳ない。

 なぜだ。なぜ己はこんなに胸に執着をみせるのだ。魔法や家名の大きさに次ぐ劣等感、それが、自身の貧相な体型、そのはずなのに。

 片目を瞑る。予感があった。黒の帳で、幼いルイズがガンガンと黒犬の頭を叩いている。黒犬はまるで『俺は何も知らないぜ?』といわんばかりにそっぽを向いている。怪しすぎる。

 

 やっぱり、こいつか。

 

 目を開け、水で口内を流し、ルイズはそこで溜息をついた。

 

 ルイズは、ふと、以前読んだ本を思い出した。

 大国ガリアで流行っているという、妙齢の女騎士の活劇を描いた物語。

 そこに、ミノタウロスに変性してしまったメイジの話があった。

 そのメイジは本質的にはヒトなのだが、身体は亜人。よって、精神が獣に引っ張られている……という設定だった。

 

 つまるところ、今の自分は、それと近しい状態にあるのではないか、ルイズはそう考える。

 無論、あれは創作なのだろうが、状況を考えれば参考にはなる。己では制御出来ない領域があるという点で。

 一体となっている男性器が、思考に影響を与えている。結論はこれだ。あの使い魔のあんちくしょうは、どうやらおっぱいが好きらしい。そして自分は、その嗜好を引き継いでいる。率直に言って死ね。

 それは絶対に認められない、認めたくないことだったが……

 

 

 

 けれどルイズは、それならそれで構わないと思っていた。

 

 

 何もかも。

 何もかもを呑み込むと、ルイズは決めたのだ。自分が自分である力を手に入れる為に必要なのは、無為な否定ではない。

 受け入れるというよりは、要は卸しきればいいのだ。内なる獣を。出来る出来ないではなく、やるのだ。持つのは覚悟と決意。それだけだ。

 例の物語も最終的には、ミノタウロスになったメイジはヒトの心を取り戻していた訳だし。ルイズは物語の結末を反芻する。

 

 

 まぁあれは、女騎士の友人という、黒髪の謎の女性がもつ謎の魔道具によるものなのだが。謎だらけだ。

 ときたま現れる謎の女性(どういう訳か見た目の描写は女の筈なのに一度も「女性である」という決定的な文節が無い。その辺も謎である)の便利道具を用いて、女騎士が様々な人物を誑し込む、というのが主な話の流れなのである。

 幼い吸血鬼なり翼人なり喋るナイフなりなんなり、夫の不貞に嫌気が指したため騎士になったという過去を持つ妙齢の女性は、ヒト妖魔亜人男女区別なく果ては無機物まで容赦なく魅了し、そのやりたい放題のサマが市井に受けているという。

 次巻はとうとう人類の敵、エルフと対峙するらしい。まさか、それさえも誑し込むというのか。それは始祖ブリミルの教え的な意味で大丈夫なのか。買わなきゃ。ルイズは人知れず決意した。

 

 

 思考の方向がずれているのが分かって、ルイズははっと首を振った。

 そして首を振ったことで、離れた席で食事をとっているキュルケと目があった。あってしまった。

 尋常じゃない食欲を見せる彼女に、キュルケは戸惑いの色を見せている。ルイズはキュルケの首下についている甘い甘いクックベリーパイに釘付けだ。

 なんといういけない果実。主張が激しすぎてはち切れんばかりの肉風船は、まるで地獄への道先案内人だ。 

 

 ルイズは空っぽになった皿へと顔を向けた。表情をまっさらなものへと変える。宿敵を屠らんとする戦士のように澄んだ顔だった。

 

 巨乳は敵! 敵なのだ! そんなものに現を抜かすなんて、姉(胸部に美しい平面図形を描いている方の姉)に申し訳が立たない! 

 憎め! 大きいおっぱいを憎め! もげてしまえ! 平らになれ! 私のように! ああああ、もういっそこのナイフであのユメとキボウを切り取って……

 

 バリッ、とまるで稲妻のような光が、左手のルーンから放たれた。

 そこで、ルイズは身体が異様に軽くなっていることに気付く。それは覚えがある衝動だった。

 きょとんとした顔で、ルイズは暫し動きを止める。巨乳への敵意はそのままに、ルイズはカタンと左手に持ったナイフを落した。身体の軽さがなくなる。

 また手に持つ。きぃんと何かが噛み合う音が、魂の奥で響いた。ナイフの適切な使い方が、適切な『武器』としての使い方が、頭の中に流れてくる。

 

 驚きは一瞬だった。次の刹那には、既に『どういうことか』を考えていた。その場でルイズは両目を瞑って、数瞬の間思考の海を漂う。

 考える。頭を回す。この符号。意味合い。方向性。目的を思い出せ。感情の揺れ。武器としての認識。使い魔のルーン。黒犬が吼え、幼い自分は歓迎するように微笑んだ。

 吹きぬける熱のように、ルイズを妨げるものは何もなかった。過去の屈辱。どうしようもない焦燥。それらを全て、前進する為の気勢へと変換させる。

 

 躊躇うことなど、微塵も無い。

 喧騒は遠く、頭の中には未来だけが回っている。

 

 

 全ての運命が一つの道に繋がっているとするのならば。

 ルイズがその力に気付けたのも、流れの中の巡りあわせなのだ。

 それがたとえ、おっぱいへの敵意により齎されたものだとしても。なにがおっぱいよ揉み殺すぞ。

 

 

 


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