シンデレラと野獣   作:BKCT

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借りてたDVDを返すのってたまに忘れませんか。
ということで、投下します。


変わらないモノ1

 翌朝、榊の目覚めは最悪だった。

 

「おっはよーん!」

 

「…。」

 

「あれ??まだ寝てるの??」

 

「起きとるわ!!あほ!!なんで朝一がお前のモーニングコールなんじゃ!!」

 

 朝一から剣崎からの電話がかかってきていた。

どうやら、モーニングコールらしい。

可愛い彼女なら、いざ知らず。

 

「えーだって、もう朝だよ?それに僕これから出張なんだ!」

 

「あっ、そうなんだ!」

 

「そうそう♪今日中に帰ってくるけどね♪」

 

「…切るぞ。」

 

「ちょっちょっ!」

 

「なんやねん。」

 

「いやほんとに特に何もないんだけどね?いやさ、本当に出てくれたからさ…嬉しかったり?」

 

「ふっ…オレもだよ、刀二君…。んなわけあるか!お前はオレの彼女か!?」

 

「僕…男だよ?」

 

「えー!…。はぁ、頭痛い…。はいはい、んじゃな。」

 

「うん!またね!」

 

 そういって剣崎の朝一モーニングコールを切った。

 

「ったく、なんやねん…あいつ。今日仕事やのに、テンションだだ下がりやわ。仕事行くんやめよっかなぁー。…着替えよ。」

 

 そういって、榊は着替え始めた。

今日も榊の忙しい一日が始まる。

 

 

 

 

「「はぁ・・・。」」

 

 パッションプロダクション事務所内は重苦しい雰囲気が漂っていた。

あれから丸一日、榊の情報を全くつかめずにいた。

それもそうだ、容姿と名前以外何の情報もなく都会で一人の男性を探すなど、どこぞの名探偵も真っ青だ。

 

「どうしましょう・・・・。やっぱり、あの時声をかけるべきでしたかねぇ。」

 

「過ぎたことをとやかく言ってもしょうがない。今はとりあえず焦らずに、ね?」

 

「はい…。とりあえず、今日も探しに行ってみますか。」

 

「そうだね、今は我々にできることをしていこう。これは私の勘なんだが。」

 

「はい、なんでしょう?」

 

「アイドルがいるところに彼が現れるような気がするのだよ。」

 

「そう、なんですか?」

 

「もちろん確信はないよ?だが、割と自信があるのだよ。あ、これ社長スキル。」

 

「へぇ、そうですか。でもどうします?」

 

「もっと食いついてくれてもいいのだよ!?…もうこの際、プライドなんかかなぐり捨てて他のプロダクションに協力でも要請でもしようかね。」

 

「…プライド何てあったんですね。」

 

「ぐっ…そ、そうだな!まずは765プロなんてどうかな?あそこのプロデューサーは気さくでいい人だからね、話くらい聞いてくれるかもしれない。」

 

「雪歩ちゃんの一件もありますしね、そうしましょうか。」

 

「ならば、早速連絡してアポを取ろう。」

 

「わかりました。ちょっと待っててください。」

 

 というと千川ちひろは連絡帳を取り出し765プロへと電話を掛ける。

 

「もしもし、765プロ事務所です!」

 

「あっもしもし?パッションプロの千川ですけど。」

 

「あら、ちひろちゃん!久しぶり、音無です。」

 

 電話に出たのは765プロの事務員、音無小鳥だ。

千川ちひろと音無小鳥は以前モバプロダクションに所属していた際に、面識がある。

 

「お久ぶりです、音無さん。」

 

「最近どうなの?うまくいってるの?」

 

「あはは・、相変わらず絶不調ですよ。あはは…。」

 

 千川ちひろは社長の方に目をやるが、彼は全くどこふく風といった様子だった。

全くこの人は…。

 

「大変ねぇー、私にできることがあったら何でも言ってね?」

 

「ありがとうございます…!」

 

「で、今日はどういったご用件で?」

 

「あ、はい。プロデューサーさんいらっしゃいますか?」

 

「あぁ、ごめんなさい。今ちょっと外出してて。」

 

「そうですか…。」

 

「何かあるなら言伝しておくけど?」

 

「あっいえ、うちの社長が直接お会いしてお話ししたいそうで。」

 

「そうなのね!ちょっと待ってね?」

 

 そういうと電話の保留音が流れてくる。

しばらくして音無が電話口に戻ってきた。

 

「あっもしもし?ごめんね?えっとね、でよければ昼一で時間とれるそうなんだけど…大丈夫かな?」

 

「あっ、大丈夫です!うちの社長ヒマですから!」

 

 ドン!

 

 社長がどうやら椅子から落ちたようだ。

図星だったのだろう。

 

「あはは…。じゃあそれでプロデューサーさんには伝えておきますね?」

 

「はい、すいません。わざわざ。」

 

「いえいえ、場所はあとでメールで伝えますので!それじゃ、伝えておきまーす!」

 

「ありがとうございます、失礼します。社長ー!愛原さんが昼一に会ってくれるそうです。」

 

「そうかい!ならば、昼に会いに行こう!」

 

「はい!がんばってください!私はドラマ見てますんで…。」

 

「千川君もくるのだよ!」

 

 かくして、パッションプロの二人は愛原に会うことになった。

何となく言った社長の勘とやらが見事に的中する。

 

 

 

 

「あっどうも、社長!お久しぶりです!」

 

「いやいや、こちらこそ忙しい中すまなかったね。」

 

「すいません。」

 

「いえいえ、そんな!千川さんもお久しぶりです!」

 

「お久しぶりです、765プロデューサーさん!」

 

 喫茶店内で、待ち合わせをしていた社長と千川、そして愛原は軽く挨拶をかわす。

 

「では時間もないだろうし、早速本題なんだが。」

 

「あ、はい。なんでしょう?」

 

「愛原君、榊君という男性に聞き覚えはあるかい?」

 

「え!?あっはい、ありますけど…。彼がどうかしたんですか?」

 

「あっいやね。うちのプロでプロデューサーを雇おうと思ってね?町の中で探してたら君と彼を見かけてね?久々にティンときたのだよ?」

 

「それでですね?プロデューサーさんが榊さんとお知りあいのようでしたので、ぜひ紹介して欲しいと思いまして。」

 

「そう、ですか。あはははは…。」

 

 愛原は頭を掻きながら、苦笑する。

 

「どうしたんですか?」

 

「あっいえ、ここ最近彼の話題ばかり出るなぁ、と。今日の午前中も他のプロともその話題になりましたし。」

 

「そう、なのかね?」

 

「ええ、まぁ。あはは、こりゃとんでもない人に目をつけちゃったかな?」

 

「どういう意味ですか?」

 

「いえね、一応内部情報なんですけど。私も彼をスカウトしようと思ってるんですよ?まぁ、一度断られちゃってるんですけどね?」

 

「…。」

 

「私も一昨日に一度会っただけなので、それ以上詳しいことはわからないんですよ。」

 

「そう…ですか。」

 

「ええ。でも剣崎君なら知ってるんじゃないかな?」

 

「剣崎君だって!?」

 

「ええ。…社長。」

 

「なんだね?」

 

「これは私にも言えることなんですが、彼をスカウトするなら急いだ方がいいかもしれません。」

 

「どういうことだい?」

 

「実は・・・。」

 

 榊を巡る今の状況を伝えた。

榊と剣崎、菱上は大学時代の同級生で友人ということ。

それにより、剣崎とおそらく菱上もスカウトに動いていること。

それになぜかほかのプロダクションも彼をスカウトしようとする動きも少なからずあるということを。

 

「おかしいんですよねー。キュート・クールプロはわかるんですけど、他のプロダクションさんもなんで会ったこともない彼の事をスカウトしようとするんだろうなって。だって、あの961プロも雇おうとしてる動きがあるそうなんですよ?」

 

「なんと…。」

 

 この原因は間違いなく、愛原にある。

愛原は自分自身の影響力をあまり理解していないようなのだが、彼がスカウトしようとした人、というだけである意味お墨付きを得たようなものなのだ。

それくらいこの業界で愛原一心というのは影響力がある。

 簡単に言えば野球のドラフトのようなものだ。

ドラフト1位指名の選手をほかの球団も指名している、そういう状態だ。

まぁ、961プロの場合。

「ウィ?765プロデューサーのスカウトを蹴った男だと?…面白い!」

 

「どうだ!765プロめ!雇いたがっていた男を雇ってやったぞ!ハーハッハッハ!」

 

というところだろう。

 

 

「お力になれずに申し訳ありません、もしよければ剣崎君の方にはこちらから連絡いたしますが?」

 

「いやいや、そこまで迷惑をかけられんよ。剣崎君や菱上君にはこちらからコンタクトをとってみよう。」

 

「すみません。」

 

「いえいえ!こちらこそわざわざお呼び立てしてしまって、申し訳ありません!」

 

「構いませんよ、それではこれで…。お代はこちらに置いておきますので。」

 

「ありがとう、愛原君。」

 

 そういうと、愛原は足早に立ち去った。

先ほどまで愛原が座っていた場所に千川が座る。

 

「さて、これはいよいよ急がなければならないようだね。」

 

「そうですね、ここまで反響がすごいとは…愛原さん恐るべし。本人に自覚はないようですけど。では早速、キュートプロとクールプロにコンタクトとってみますね。」

 

「うむ、頼む。」

 

 そういうと電話をかけるべく、千川は席を離れ喫茶店の店外へと向かった。

しばらくすると、千川が帰ってきた。

 

「社長、剣崎さんは今日出張でいないそうなんです、菱上さんはいらっしゃるそうなんですが夜遅くでも構わないか、とお返事頂きました。」

 

「そうかい、では菱上君には私一人で夜にでも伺うとしよう。その旨、伝えておいてもらえるかい?」

 

「わかりました。社長、がんばってくださいね!」

 

「うむ!」

 

 そういうと千川はあわただしくまた店外へと駆け出していった。

果たして社長はうまく菱上から情報教えてもらえるのだろうか。

 

 

 

 

「ったぁー!つっかれたーー、腹減ったー。でも飯作るのめんどくさいな・・・。」

 

榊は仕事を終え、自宅に帰ってきた。

夕飯の時刻で、自炊するのが億劫だったのか今日の夜は外食をすることに決めた。

 

「あっでも…。」

 

 榊の心の中に、戸惑いが生まれる。

ここ最近歩けばアイドルにエンカウントする、これだけ聞けば嬉しいのだろうが、必ずと言って言いほど厄介なことになる。

かといって、自炊をするにしても食材はゼロに近いしどちらにしろ買い物に出かけなければならない。

そうなれば、やはり外食するのが妥当だが、いかにして回避したものかと、榊は思考を巡らせる。

 

「あ、そうか。居酒屋みたいな場所には、アイドルは来ない!」

 

 榊は答えを出した。

まぁ最初から居酒屋に行くつもりだったので、理由は後付けだが。

そうと決まれば、と榊は準備にかかる。

 

「よっし、着替えたし、財布よし、ケータイよし。おっと危ない、これを忘れたらあかんな。」

 

 そう、昨日返却し忘れたDVDである。

今日こそは返す、と揺るぎない信念で意気込んでいるのだ。

 

「さて、いきますか。」

 

 榊はまた町に繰り出す、何も起こらないことを心のどこかで祈りながら。

しかし、榊は間違いを起こした。

 今の世の中、どのチャンネルをみてもアイドルが出ている、まさにアイドル戦国時代だ。

このアイドル人気にあやかろうと、様々なイベントまで開催されるくらいだ。

つまり、何が言いたいかと言うと。

 アイドル業界は広い。

そう、お酒をこよなく愛するアイドルだっているのだ。

…榊はこの事を知らない。

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