シンデレラと野獣   作:BKCT

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おはようございます。
雨やみませんね、投稿します。


変わらないモノ2

 榊の自宅からは町の中心部にいくまでにはそう時間はかからない。

しかし、今日は金曜日だ。

町の中は人であふれていた。

その中には、大学生同士や会社の同僚、友人同士、先輩後輩、そしてカップルなどが賑やかに会話している。

 

「くそぅ、何が悲しくてこんな時に一人で飲まにゃならんのじゃ・・・。」

 

 もうすでに出来上がっている人などもちらほらいるようで、ワイワイキャッキャっと叫んだり、イチャイチャしていやがるのだ。

爆ぜろ。

 

 そんなこんなで、榊はお目当ての居酒屋に到着した。

ちなみにここで食事を終えた後、帰りにレンタル店へと向かう予定だ。

店内へと入ると、町の外と違わず非常ににぎわっていた。

 

「なぁ、一人やねんけど・・・、いけるか?」

 

 やや気弱そうな店員の女性をつかまえて伝える。

 

「っひ・・・!しょしょ少々お待ちくださいぃ!」

 

 なぜ、持っていたグラスをがたがた震わせながら逃げるように行ったのかはわからないが、しばらく待つ。

しかし、御一人様は案外混雑していてもすぐに入れたりする。

 

「あ、あの!かかカウンターでよろしければ!!」

 

「大丈夫、あんがと。」

 

御一人様でテーブル相席など罰ゲームでしかない為、カウンターだろう普通と榊は思っていた。

店内のカウンター席にも割と人はおり、サラリーマンと若い男性それぞれ2人ずつ、見る限り御一人様は榊だけのようだ。

しかし、テーブルとは違いぽつぽつと空席がある。

見ると奥の端っこは一つ空いており、隣にはサラリーマン風の男性二人が座っており、また空席といった具合で席に荷物を乗せている。

 

 もちろん奥の席を狙う。

 

「すんません、隣…いいっすか?」

 

「え?ひっ!はははい!どうぞどうぞ!」

 

「ど、どうも。」

 

 そそくさと荷物を片付け席を空けてくれた、しかも丁寧なことに2人ともそろって席をずらし、榊の隣の席まで空けてくれた。

 何て親切な人だろう、と榊は半ば強引にポジティブに考えた。

こういったことは日常茶飯事なので、若干自分の中で諦めている所もある。

カウンターの目の前には厨房があり、目の前で焼き鳥を焼いており食欲をそそられる。

厨房の男性に生ビールを一つとおつまみのするめいか炙りを頼み、その間に何を食べるか考えながらメニューを眺める。

すると、ビールとつまみががやってきた。

 

「おおお待たせいたしました!」

 

「どうもっと、注文いいですか?」

 

「はははい!」

 

 焼き鳥数本に、から揚げなどの定番メニューを頼む。

別に誰に言うわけではないが、乾杯と心の中で榊は呟き、ビール一をごくっと一口含む。

 

 ふと、店の入り口に目をやると先ほどよりも混雑していた、カウンターにも何名か案内されたが何故か榊の横は空くまで待ってますという。

 

 一人で二席分。

気を遣わせてすいませんね、本当。

そそくさ食事を終えて出てあげよう、イカをほおばりながら心に誓う。

 

「っぷはぁ…ビールうま。つまみもいい感じにうまいねー。」

 

「すいません。隣よろしいですか?」

 

「え?はいはい、どうぞー。」

 

 女性の声がして奥を見やると、サラリーマンの男性の連れではないようだ。

女性の御一人様か、珍しいもんだなと思う。

しかも、榊の横で。

そんなことはさておき、案内していた店員に注文を聞いてもらう。

 

「ビールとこのイカ、かな?その二つ追加で。」

 

「…ふふ。」

 

「ん?以上で。」

 

「ふふふ…イカ…追加、ふふ。」

 

 隣の女性がうつむきがちにぼそぼそと何か呟いている。

 

「うーん…まぁいいか。」

 

「イカ、まぁいいか…ふふふ。」

 

「…。(何か、笑ってるんやけどぉ!?あかん、気にしたら負けや!)」

 

 さっきから何か榊の言ったことを復唱してダジャレのようなことを言っているように聞こえる。

さすがに、突っ込みたくなる…が。

 

「いかんいかん、放っておこう…。」

 

「イカ。ふふふ…いかん…。ふふふふ…んふふふふ。」

 

「…っだぁーー!なんやねん、なんだよ、なんなんですか!?」

 

 ダメだった。

 

「ふふふ…あ、すいません…。もしかして、わざとですか?」

 

 彼女はうつむきながらフルフルと震えて答える。

こんなことで笑いが取れたら、お笑い芸人さんも真っ青である。

 

「わざわざ、独り言でダジャレなんか言わんわ!」

 

「わざと、ふふ…わざわざ。…うまい…んふふふ。」

 

「おいこら、てめぇ…。面見せやがれこら。」

 

「んふふ…はい。」

 

 今時、ダジャレで大うけする変人の顔を拝もうと榊は顔を見る。

端正な顔立ちに透き通るような瞳、よくみると左右色が違うように見受けられる。

優しく微笑む彼女はまるでどこかの女神か、と思う。

要するに、ダジャレ大魔王さんはすごく美人さんだった。

 

「…もうええわ、忘れてくれ。」

 

「ふふ…すいません。御一人なんですか?」

 

「ん?見りゃわかるっしょ?実はテーブル席のみんなと知り合いで僕だけはぶられました、みたいな悲劇がお望みか?」

 

「いえいえ。ふふ…面白い方。」

 

「あんたには負けるぞ…。いろんな意味で。」

 

「いえいえ、そんな。そうだ、良かったら一緒に飲みませんか?」

 

「急に別の話にトリップ!ぶっとんでるな、あんた。」

 

「ダメ…ですか?」

 

 なんだこの可愛い生き物は。

 

(うるうる上目づかいとは・・・こいつできる・・・!)

 

 冴えない思考の榊が出した、答えは。

 

「いや…別にええけど、席どうせ隣やし。」

 

 肯定だった。

 

「では、乾杯♪」

 

「へいへい、乾杯。」

 

「…ふぅ、おいしい♪」

 

「へぇ!ええ飲みっぷりやん。」

 

「ふふ…ありがとうございます。ところで、お名前聞いてもいいですか?」

 

「オレか?榊大牙って名前や、よろしゅう。」

 

「榊大牙さん…。はて、どこかで聞いたような…。」

 

「っ!」

 

 ふと榊は警戒心を最高レベルに引き上げる。

自分の名前を知っている、など知人以外であるわけがない。

思い返すが、彼女に見覚えは一切ない。

油断していた。

こんな居酒屋でわざわざ自分の横にきた時点で不審に思うべきだったと榊は思う。

警戒しつつ榊は彼女に尋ねる。

 

「あんた、何もんや…?」

 

「ど、どうしたんですか?急に恐い顔して…。」

 

「とぼけんな…。何が目的や?仕事の依頼か私怨か?ええからさっさと…!」

 

「ひぅ…!私、高垣楓っていいます…。一応、アイドルのお仕事やってます…。」

 

「はっ!アイドル…?そんな嘘を…。ん?アイドル?」

 

「…はい。」

 

「あ、あぁ…あああん!?ああああああんた!」

 

 榊は驚愕した。

そして、へなへなと脱力する。

別件の厄介な方だったか、とほっと胸をなでおろす。

 

「あの…私、何かお気に障ることしましたか?」

 

「ええ!?え、いやこれはその…。そう!演技ですよ、演技♪」

 

「演技?」

 

「そうなんですよ、今ねVシネの悪役にはまってましてね!?どうでした!?」

 

 榊自身でも苦しい言い訳だったと思う。

勘違いとはいえ、目の前の女性を半泣きにさせてしまったのだから、必死にもなる。

 

「はぁ…そうだったんですか。なかなか迫真の演技でしたよ…むしろ本物の方かと…。」

 

「そ、そーんな馬鹿なぁー!あはは、ごめんなさいね!急にやりたくなっちゃって!オレの見てた映画に出てた女優さん並に超絶美人だったから、つい!」

 

「ふふ!急にでしたからびっくりしましたけど、大丈夫ですよ?」

 

「す、すんません。しっかしまぁ…。」

 

「?」

 

 こりゃまたどういう訳でお世辞にも綺麗ともいえない居酒屋にアイドルがいるんだ、と榊は思う。

しかももとはと言えば、こういった事態を避けるために居酒屋を選んだ挙句に、だ。

 

「いやいや、本物の高垣楓嬢に会えて至極光栄です、と思いましてね。」

 

「ふふ、お上手ですね。」

 

「ささ!仕切り直しで飲みましょか!生でよろしい?」

 

「はい♪」

 

「すんません!生2つおかわり!」

 

 こうして2人は再び飲み始めた。

最初は例の勘違いからか緊張気味だった、高垣も持ち直したようだった。

料理も運ばれてきた。

 

「お、きたきた!…あっつ!けどうまいな。」

 

「あっ本当だ!おいしそう♪いただきます!」

 

 そういうと高垣は、”榊”の注文していた焼き鳥をいただきますしようとしていた。

 

「…。いや、別に気にしてないよ?オレのやのにみたいなこと思ってないヨ?」

 

「何の話ですか?」

 

「自由だなーあんた。にしてもなんでこないな所に?」

 

「おひゃひぇがひゅきひゃから…はふはふ、ふぇす。」

 

 口に含んだ焼き鳥が熱かったのだろうか、高垣が何を言ってるのかさっぱりわからなかった。

 

「はぁ!?なんやて!?食べてからでええから、な?な?」

 

「んっ…ふう。はい、お酒が好きだからです。」

 

「わお、シンプルイズベスト!ひゅー!」

 

「ふふ!ところで愚痴聞いてもらってもいいですか?」

 

「急な切り返しに置いて行かれそう、おれの鉄壁のディフェンスも置いてかれそうやわ…。なにさ?」

 

「いつもお世話になってる方がいましてね?その人プロデューサーなんですけど…。」

 

「もう何回目やねん。何だこの既視感…。デジャヴ!!…続けてくれ。」

 

「はい、その人ここ数日私のダジャレにあまり反応してくれなくなくて…。」

 

「しょっぼっ!一流アイドルの抱える悩み、しょっぼくない!?」

 

「そんなことないですよ?大問題です。前までは会うたび言ってたダジャレにもめんどくさがりながらも、反応してくれてましたし。」

 

「それは…。どれくらいの頻度でダジャレかましてたんや?」

 

「え?毎日ですよ?」

 

「もはや、テロやないかそれ…。んで、そんな律儀な奴が最近反応してくれない、と?」

 

「はい、そうなんです。何か余裕がない感じで…。」

 

「何かでっかい仕事でもあって、そっちに気がいってるんじゃないん?」

 

「それはありえそうなんですが、あの人すごく頭よくてそんな風になるとは思えないんですよね。でも、私が何か悩んでいたら話だすタイミングまで信じて待っててくれるような方ですので…。」

 

「ふむふむ。なーほどね、そらあれだ、あんたの相手がめんどくなったんじゃね?」

 

「そ、そんなことは、無いです…!あの人は、そんなことしません!」

 

「…。」

 

 最初は心底くだらないと思っていたが、どうも違ったようだ。

高垣の深刻な顔を見れば一目瞭然だ。

要は心配なのだ、高垣はそのプロデューサーの事が。

 人間、いつも行っている行動を相手にされなくなったりすると、途端に不安になったりするものだ。

心配・不安・寂しさ、そんな所だろう。

だが、高垣はそんなことはないと確信をもって言えるならば、気づかせてやるべきだろう。

 

「あんた、子供だな。」

 

「…。」

 

「はぁー、何ていうか寂しいんやろ?そのープロデューサー?ってのに相手にされなくて。」

 

「まぁ、そうですね…。」

 

「んでもって、このまま相手にされなくなったら、どないしよ、みたいな不安。んでも、そんなこと無いって確信もっていえるんやったら大丈夫ちゃうの?」

 

「それはそうなんですけど、心配で。あまり、こういったことが無かったので…。」

 

「ふぅーん。なら確信なんてどこにもないやん。」

 

「っ!そんなこと…。」

 

「所詮、その程度なんじゃないの?なら時間が解決してくれるって。」

 

「その程度、なんかじゃありません…!あの人は!プロデューサーは…!あなたにはわから…」

 

 高垣は顔を赤らめながら、必死に答える。

酔いも助けているのか、瞳にうっすら涙がうかがえる。

 

「やから、そのままでええっちゅうの。」

 

「え?」

 

「そんな確信持てる関係なんやろ?なら、向こうを信じて待ってたれよ。」

 

「あ…。」

 

「それにね?そんな憂い顔で接してたら向こうに心配されるっちゅーねん。心配してる方が心配されるなんてあんたも、望んでないやろ。これで少しはプロデューサーさんの気持ちもわかったんやない?」

 

「どういう事ですか?」

 

「信じて待つっていうのも、結構しんどいんやでってこと。聞きたくても声をかけたくてもぐっと堪える、それはなかなかできることやない。やから、今度はあんたがプロデューサーの事を安心させてあげないと。」

 

「…。」

 

「待っててあげますよって。案外ひょっこり調子もどるかもしれんしな!大丈夫や、あんたのとこのプロデューサーそんなヤワちゃうんやろ?」

 

「…はい。はい!」

 

 この笑顔はその人のために向けられるべきものである。

だからつい思ってしまう、こんな笑顔を向けられたら幸せだろうな、と。

もちろん榊にそんな資格はない。

 

「なら待っててあげなさいな、いい笑顔持ってるんやから、その顔でな。んで、調子戻ったらたっぷり愚痴ってやれ、こんな美人に心配される幸せものなんで3割増しくらいに。んで、またダジャレでも言ってやればええねん。それが一番高垣さんにとっても、その人ってのにも幸せなんちゃうかなぁ。」

 

「そう、ですね…はい。そうですね!」

 

「ま、部外者のオレが言っても慰めにもならんやろうがね。」

 

「そんなことないですよ、ふふ…。ありがとうございます…!」

 

「やから、その反則スマイルはプロデューサーにしてあげて。」

 

「ふふ、…おすそ分けです♪」

 

「そりゃどうも。」

 

「ふぅ!何かスッキリしたらお酒が欲しくなってきましたね♪」

 

「のんべぇがぁ…。」

 

「ふふっ…それにしても本当に榊さんに聞いてもらってよかったです。…ああ!」

 

「どした?」

 

「思い出しましたよ!榊さんの名前…どこで聞いたのか!」

 

「そういや、そんなこと言ってたな。」

 

「プロデューサーが言ってたんですよ、榊さんのこと。」

 

「ん?別にオレアイドル界のプロデューサーに知り合いなんて…あ。」

 

 そう、一人いる。

剣崎だ、しかし確か彼女の所属するプロダクションは。

 

「あれ?高垣さんて、クールプロのアイドルやんな?」

 

「そうですよ?」

 

「やっぱそうやんなぁー。うーん、なんでや?」

 

「ちなみにプロデューサーの名前は菱上蓮三さんって言うんですけど…ご存じですか?」

 

 榊にとって、聞いたことのある名前であった。

 

「へ?あ!?あいつもプロデューサーなん!?」

 

「あー、やっぱりお知り合いなんですね♪」

 

 まさか、友人二人が二人ともアイドルのプロデューサーになっているとは榊は夢にも思わなかった。

ブームなのだろうか、You〇uber的な。

 

「あ、うん…まぁ。マジかよ、なにプロデューサー流行ってんの?なんなの?」

 

 榊は猛烈に帰宅したくなった。

なぜならこの後の流れ的に。

 

「あっ、なら!プロデューサーも呼んで3人で飲みましょうよー!」

「えっちょっおまっ!」

 

 的な展開は予想できる。

いずれは菱上とは会わなければならないとは思っていたが、今日はそんな気分ではない。

 

「あ、やばーい。もうーこんな時間だー。はやく帰らないとー。」

 

 榊自身も思っていることだが、とんだ大根芝居だった。

 

「えー?まだ閉店時間までまだまだですよ?」

 

「そっちの時間じゃねぇよ。いやぁーちょっと用事がぁ!」

 

「えーやだやだー!まだ飲みたいーお話ししたい-!…飲みたいー!」

 

「2回いいやがった!なにこの駄々っ子!?つうか飲みたいだけやろが!?」

 

「えーやだやだー!あともう少しー!あと3時間ー!」

 

「どこが少しだ、こら。あーもう!ほんま、少しだけやからな!ちょっと、お手洗いに行ってくるわ…。」

 

「わーい、やったー!じゃあお酒頼んで待ってますね♪」

 

 そういって榊は席を離れた。

トイレの中で榊は考えていた。

 

「くそがぁ…!!なんでこんなことになるんじゃ…。あ、そうや…!」

 

 このまま帰っちゃおうかと榊は思いつく。。

さすがに食い逃げはまずいので、お代だけ置いて。

 

「うん、そうだ。そうしよう!DVDも返さなきゃならんしな!これはもう用事だ、そうだ。よし、帰ろう。」

 

 そう心に決めてトイレを出る。

一応、自分の席を確認してみる。

しかしそこには、予想外の光景が広がっていた。

 

「お姉さん、良かったら僕たちと一緒に飲まない?」

 

「お代はもちろん出すから!お願い!」

 

「いえ、結構です。」

 

 男二人に高垣はナンパされていた。

 

(そうだ、今のうちに!)

 

 僥倖。

 

(ナイスモブキャラ!)

 

 榊は心にガッツポーズを決めていたが。

 

「お姉さん、ちょー美人だからさぁーお願いだよー。ちょっとでいいから!」

 

「結構です、やめてください。」

 

「まぁまぁそう言わずに!ちょっと顔出してってよ!」

 

「いや…!」

 

 そういうと男は高垣の腕をつかみ、無理やりに連れて行こうとする。

 

(…ラッキーとか思ってすいません。

行きますよ・・・行けばいいんでしょ…!)

 

 こういうときの為の顔面凶器。

頑張れ、強面!負けるな、顔面凶器!

 

「おい。」

 

 榊はただでさえ恐ろしい顔をさらにゆがませ、ありったけの圧迫感で迫る。

 

「オレの女に手を出すなんて、ええ根性しとんのぅ…?出るとこ出るか…ああん!?」

 

 そういうと榊は彼女の肩を拝借して自分のもとに抱き寄せる。

 

「さすがにただの通りすがりさ…。」

 

 という格好いいヒーロー的な登場をするわけにもいかず、高垣の演技力に頼る。

 

「…あ///」

 

 さすが、トップアイドルだ…演技力が凄まじい。

危うく榊は本当に自分の女にしたくなっちゃうところであった。

 

「「ひぃ!?スイマセンデシター!!!」」

 

 そういうと男二人は足早に去って行った。

本当に自分の顔はこれくらいにしか役に立たないな、と榊は複雑な思いを抱く。

 

 

「お邪魔したかね?」

 

「い、いえっ、助かりました…。」

 

「そうか。っと悪い、肩借りたわ。」

 

「あっ…いえ///」

 

(やめなさい、惚れてまうやろー!)

 

「すまんかったな、さて飲み直しといきますか。詫びついでにここのお代はオレが出すわ。」

 

「いえいえ、そんな!助けて頂いたのに…そんなことまで!」

 

「たっははは!トップアイドルのお肩を貸して頂いたのでございますよ?それくらいさせてくださいよ!」

 

「…!では、お言葉に甘えて♪」

 

 この時、実は黙って帰ろうとした罪悪感を拭い去ろうとしただけの榊であった。

 

 

 飲みなおしてから2時間弱、色々な話をしてもらった。

菱上との出会いから、どういう仕事をしてきたのか、どういうお酒が好きなのか。

取り留めもない雑談だが、久しぶりに榊は楽しいお酒を飲んだ。

 

 いつの間にかだいぶ酒が進み、榊が再びトイレに席を立ち、戻ってくると。

そこには先ほどとは違う、驚愕の光景が広がっていた。

 

「なん…だと。」

 

「…スー…スー。」

 

 高垣は寝ていた。

 

「お、おーい。高垣さーん。」

 

「むにゃむにゃ。」

 

(ダメだ、完全に深寝入りしている・・・。)

 

「どないすんねん、これ。…しゃーない。」

 

 そういうとおもむろに携帯を取り出す。

かける先は剣崎だ。

 

「もしもし?お前、ちょっとこっち来い。」

 

「えー?どうしたの急に。」

 

「えーから、早急に今すぐ車に乗ってこい。」

 

「えー、無理だよー。まだ出先から帰ってくる途中なんだもん。」

 

「チッつかえねぇ。」

 

「ひどい!?」

 

「まぁええわ、ほなら蓮三の連絡先教えろー。」

 

「ええ?いいけど、本当にどうしたの?」

 

「また今度話すわ、急いでるから連絡先メールで急いで送ってくれ。」

 

「うん、わかった!」

 

 そういって榊は電話を切ると、本当にすぐメールが来た。

恐らく彼女の携帯にもあるだろうが、さすがに携帯を弄るのは憚られる。

もらった連絡先に電話を入れる。

 

「もしもし、菱上ですが。」

 

「あっもしもし?」

 

「どちら様でしょうか?」

 

「榊大牙様でございます。」

 

「ぶふぇ!!?」

 

 ドンガラガッシャーン

 

 と電話口で大きな物音が聞こえる。

 

「おーい、生きてるかー?」

 

「あ、あぁ。問題ない…。本当に君なのか?」

 

「あぁ、オレだよ、オレ。いや、マジでオレオレ詐欺じゃなくて、榊だからね。」

 

「そうか、君の方から連絡してくるとはな。何用だ?」

 

「いやさ、お前すぐこっち来いって、会わせたい人がおるんやて。」

 

「いや、すぐには無理だ。この後にも予定があるからな。今の所、君なんかに割く時間など無い。」

 

「ったくどいつもこいつも!お前今どこおんねん?」

 

「ん?クールプロの事務所だが?」

 

「それってどの辺??」

 

「住所は○×△だ。」

 

「こっから近いな…。なら、そっちの玄関まで行くからの!ちょっと出てこい、ええな!?」

 

「な!?無理だといっただろう!?」

 

「知るか!何とかしろ、ええか!?今から10分後にいくから!頼むぞ!?」

 

「なっ…おい!」

 

 そういうと、榊はおもむろに携帯を閉じた。

 

「すいません、タクシー1台を…え!?1時間待ち!?マジか…しゃーない。」

 

 そういうと、榊は会計を済ませ高垣をおぶりながら店の外へと出る。

 

「軽っ!栄養足りてるんかいな…。」

 

 お母さんの考えそうなことを榊は考えながら、クールプロの事務所へと向かう。

時折、高垣の艶やかな吐息が耳にあたり、邪な思いと葛藤しながら。

予想通りさほど距離は離れておらず、思いのほか早く目的地に到着した。

そこには予想通りの人物がいた。

 

「よぉ。さすがやな、あんなゴリ押し要求にこたえてくれるとはな。」

 

「大牙…。」

 

 榊は菱上と対面する。

これで、パズルのピースは埋まる。

運命がまた音を立てて動き出す。

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