「トッププロダクション会合?」
榊は事務所にて千川からこれからのプロデューサーとしての予定について説明を受けている。
社長は現在退席中だ。
「えぇ、B3~Sランクのプロダクションが参加する会合、要は大きい会議と考えてくれて結構です。それが明日開かれるんですよ。それにぜひ参加して頂きたく思いまして。」
「ほぉ、それが初仕事ってとこかな?」
「えぇ、各トッププロの代表者とアイドル1名が参加するんですよ。前回までは社長に行っていただいてたんですけど、私も何度か行ったことはありますけどね。多くのプロダクションはそこのプロを代表するプロデューサーが参加していますね。なので、今回はぜひプロデューサーさんにお願いしようかと思いまして!」
要はトッププロがその活躍っぷりをお披露目・自慢する会議なんだと榊は脳内変換していた。
あまり気は進まないが、初仕事の手前断るわけにもいかない。
「なるほどね。しっかし、アイドル1名連れてって…ねぇ。」
「うぐっ。そうなんですよね…。」
何を隠そうこのパッションプロには1名もアイドルが在籍していない。
つまり榊は単身で会議に臨む、という訳である。
「嫌味ではないんやけど、”トップ”プロ会合なんしょ?…うちのランクて?」
「E3より下、厳密には無いんですけどFランクでしょうね、実質…。続けますね?以前、パッションプロがキュート・クールと同じモバプロだった、というのはご存知ですか?」
「まぁ聞いたことぐらいは。」
「簡単に言うと、その名残ですね。モバプロはとても大きなプロでしたから。」
聞けば聞くほど後ろ髪をひかれていく、榊。
「なるほどねぇ、にしてもこれ行くメリットあんの?」
「プロデューサーさんには、あるかもしれませんね。」
「どして?」
「今年、行われるイベントやフェス、ライブバトルなんかのルールを確認したり、資料もらえたりするので。だからぜひ何も知らない今は、出て頂こうかなと。」
プロデューサーとして、右も左もわからない榊にとってみればこの会議の内容をしっかり理解すると少しは流れが掴めるかも、と千川は言いたげだった。
確かに榊は何をすればわからない今、情報は少しでも欲しかった。
「オリエンテーリングってとこか、へいへい了解。んでさ、アイドルってやっぱスカウトがメインなん?」
「基本的にはそうなります。募集なんかも大手はやってたりするみたいですね。でもまぁうちは…。がんばりましょう!」
「最後投げやがったな…。んで、その辺の判断基準はオレが決めちゃってええの?」
「はい、社長からもプロデューサーさんに一任すると。」
「一任というと聞こえはいいが、ざっくりいうと丸投げじゃねぇか…。」
アイドルのスカウトをする際にも色々ある。
つまり何を判断材料とするか、だ。
容姿・性格・オーラ・キャラクター性・歌唱力・ダンス・表現力等々。
「あははは…。今日はこれくらいでしょうか、明日から頼みますよ!」
「とにかく、1にも2にもアイドルの子みつけないと夢を叶える土俵にも上がれんっちゅーことやな。うし、了解。まぁ、何とかするわぁー。」
「頑張ってください、プロデューサーさん!うちの社運はプロデューサーさんにかかってますからね!」
「うおっ、プレッシャーやなー。」
「頑張って下さいよねっ!」
千川は満面の笑みで榊に微笑みかける。
そんな顔して、プレッシャーをかけてきているのだから恐ろしい話である。
ここで榊の悪戯心に火が付いた。
「まいっか。にしても一緒に働く人がちひろたんでよかったわ。」
「な、なんですかちひろたんって!…どうしてです?」
「ん?いやだって物凄い、美人やん?見てるだけで癒されるし。」
「そそそんなことないですよ…?」
「いやいや、マジで。てか、ちひろたんアイドルになったらいいんじゃないん?十分通用するやろ。」
榊は割と本気で言ってたりする。
千川ちひろは十分魅力的だと純粋に思う。
よし、自分に免疫のあるアイドルを見つけることができなかったら、千川をアイドルにすることを決意した。
「いやいやいやいや!む、無理ですよ!そんな自信ありませんよー!あと、ちひろたんってやめてくださいよー、恥ずかしいですから…。」
「あら、お気に召さない?でもさ、これから一緒に働くんやし千川ーとかってそんな高校生みたいな呼び方も何か他人行儀やん。」
「そ、それはそうですけど…。何だかお子様みたいじゃないですかー!」
「それもそうか。やっぱ、綺麗…やから、ちひろの方がええの?」
「い、いや、だから…その///」
千川の顔をしばらく見つめてみる。
やはり、20代の女性に可愛いは失礼だろうか。
それに、端正な顔立ちを見ると綺麗という言葉もしっくりとくる。
ここまできて、榊は千川についてわかったことがある。
ちやほやされてしかるべきだろうが、どうやらあまりこういった事に免疫が無いらしい。
一々少女のような反応をする、何とも愛い奴かと榊は齢に似合わない事を考える。
つい悪戯心が芽生えてしまった。
「はっはは!こりゃまだまだちひろたんやなー♪」
「うぅ…。」
「さて、そろそろ帰りますかね。んじゃ、また明日ねー♪」
「あ、あっ!ちょっと・・・!」
そういうと、榊は去って行った。
無駄に弄ばれた感を千川は感じていた。
しかし、千川の中に榊の言葉が再び思い起こされる。
(綺麗…やから。)
「そ、そうでしょうか///」
「…わくん!千川君!」
どうやら、千川はしばらくトリップしていたようだ。
社長の声を認識するまでに時間がかかってしまった。
「わっ!社長!?」
「どうしたんだね?ぼーっとして。」
「あ、いや別に何でもありませんよ!?」
「ん?そうかい。おや?彼はもう帰ったのかい?」
「あっはい、プロデューサーさんは帰られまし…。」
榊の名前を出すやいなや、また先ほどの言葉を思い出してしまった。
「ぽー///」
「一体彼は何をしたんだね…。」
「ただいまーっと。さて、早速明日からか・・・。」
誰もいない自室に帰りの挨拶の声を響かせる、榊。
「プロデューサー、か。」
先ほど千川に呼ばれていたが、何かしっくりこないなと榊は思う。
なにせまだ何も生み出していないし、何の価値も生み出してなんかいないのだから。
「ま、所詮は肩書きか。」
そう所詮は肩書きだ、要は何をするかではなく何を為すかを求められている。
「うし…いっちょ、やるだけやるか。」
そう決意を新たに夜も更けていった。
プロデューサー榊としての仕事は明日からだ。
翌朝
「うーっす。」
「あ、おはようございます。プロデューサーさん!あら?」
千川が朝を迎えてくれた。
ただそれだけで榊はなぜかとても心地が良かった。
「うふふ。」
「朝から人の顔で笑うとは何て奴や。」
「そういう意味じゃないですよ。何かこう、うれしくて・・・。それに、似合ってますよ?その髪型とスーツ姿。」
千川も同様に朝にかわす新鮮な挨拶が心地よかった。
「さいですか。」
榊は昨日の間に髪を黒に戻し髪も切った。
社会人といえばテンプレートも大事なのだ。
「ええ、恐さも1パーセントくらい減りましたかね?」
しかし、恐怖軽減効果はそれほどなかった。
「うるせえわ!?」
「あら?でもピアスは取らないんですね?」
「ん?ああ、ちょっとな。あかんか?」
「いえ、似合ってますし…構わないと思いますよ。その辺、緩いですからねこの業界。」
「そっか、何か言われたら外すよって。」
「おはよう、諸君!」
ここで社長が出社してきた。
重役出勤ではないのが心持ち榊の心象はよかったりする。
「おはようございます、社長。」
「おはよーございまっす。」
「いやぁ、いよいよ今日からだね!頑張ってくれたまえよ!」
「ういっす。まぁ、今日は会議?とやらに出るだけなんでしょ?ちひろたん。」
「そうですね、はい。でも、アイドルの卵たちはどこにいるかわかりませんからね!」
「あそっか。」
「積極的にこの子だって思った子には話していくのだよ?」
「そうっすね。・・・通報されないかな。」
榊は割と本気で心配になる。
一体何度そういう目に遭ったことか。
経験者は語るのだ。
「だ、大丈夫ですよ!多分…。」
「不安増しちゃった!あーあ!さて、そろそろ行くかね。」
「え?まだ時間ありますよ?」
「こういう時は余裕もって行くの!迷うかもしんないし!」
「うむ、言い心がけだね!頼んだよ!」
「会場の地図、確かに渡しましたからね!」
「あいよ、んじゃいってきます。」
「「いってらっしゃい!」」
榊が事務所から出ていく。
と、残された2人はふとつぶやくように話し出した。
「行ってしまいましたね。」
「ああ、ここから・・・ここからだよ。」
「そうですね。」
「まだ、確信は持てないがやはり彼で良かったとそう思うよ。いずれ確信に変わるかもしれないがね。」
「ええ、そうですね。むしろ榊さんでないとダメなのかもしれませんね。」
「彼ならやってくれるさ!そう信じているよ!」
そう、榊ならやってくれる。
やらかしてくれる。
ん、間違いではない。
社長と千川はまだ知らない。
榊大牙は最強のトラブルメイカーということを。
ビジネス街の中心に位置する、大きく綺麗なホテル。
ここが、本日の会議が行われる場所である。
「案外すんなりついたな。にしても・・・」
「かぁーーーーでっけぇ!こないなとこでやるんかいな…。さすがトッププロなんたら。」
榊はそんなことをつぶやきながら、ホテルマンの横を通り過ぎ、豪華絢爛なロビーに辿り着く。
「はぁ、広い広すぎ!どこやねん、会場…。絶対見つけるの時間かかるわ、こんなん。とりあえず、探すかぁー。」
榊がロビーでさまよっている中、一組のプロデューサーとアイドルの姿がホテル内の喫茶店が見受けられた。
「さて、春香何か飲み物でも飲むかい?」
「ええ!?いいんですか?それじゃ…この、紅茶が飲んでみたいです!」
「うん、いいよ。すいません、紅茶とコーヒーお願いします。」
「かしこまりました。」
愛原一心とアイドル天海春香もまたこの会場に来ていた。
開始までにはずいぶんと余裕がある為、ここでしばらく休憩していた。
「えへへ、こういう所で一度紅茶飲んでみたかったんですよね♪」
「そうだね、雰囲気もいいし。いいんじゃないか。春香とゆっくりお茶をするのも久しぶりだな。」
「そうですね!最近少し忙しかったですから。」
「そうだね・・・。おや?」
なにやら、ロビー内が騒がしい。
ここの喫茶は2階にあるがここまで何かの叫び声が聞こえてきた。
「何かあったんですかね?」
「大丈夫だよ、春香は俺が守るよ。」
「えへへ///ぷろでゅ…」
「だっから!!!不審者ちゃうって何回も言うとろうが!!!ほら、ここに名刺がね…?何てまだもらってへんわ!!!とにかくちゃうって!!!離せ、コラ!!!」
「え、この声って…。」
愛原と天海は2人そろって、1階の方を眺めてみる。
すると、ホテルの警備員となにやらもめているガラの悪い男性が。
言うまでもないが、榊である。
「うわぁ、何か恐い人が暴れてますね…。」
「さ、榊さん!?なぜ、彼がここに!?ちょっと春香、待っててくれ!」
愛原が警備員に事情を説明し、とりあえず榊を解放してもらう。
このままにもしておくわけにもいかず、色々聞きたいこともあったので愛原は席に榊を連れて戻ってくる。
「いやぁ、助かりやしたぜぃ…愛原ちゃん。誰だよ!警備強化したやつ!身体検査とかされたり、ねぇ!?」
「いえ、されませんでしたけど…。何やってるんですか…。」
「いやいや、完全に向こうの勘違いやから!ホテルの中うろうろしてたら急に呼び止められてね?」
「そ、そうですか。」
「そうよ、失礼しちゃうわ!あ、すいません!アイスコーヒー一つ!」
「かしこまりました。」
まるで、何事もなかったかのように注文をする榊。
いかにこういった事態に見舞われいるのか、想像することはたやすい。
「にしても、助かったっすよ!愛原ちゃんと…えっと。」
「あっ紹介がまだでしたね。ほら、春香。」
「あっはい!私、アイドルのあま…」
「あぁ!春香ちゃんや!!」
天海春香、765プロが誇るトップアイドルの一人だ。
榊の付け焼刃のミーハーアイドル知識でも知っているくらい有名人だ。
「最後まで言わせてくださいよ!?」
「へぇ、本物やぁー。やっぱテレビで見るんと何かこう、ちゃうなぁ。」
「あ、ははは…。テレビは少し補正かかっちゃいますからね。」
「ん?そう?実際の方が可愛いと思うんやけど?あ、どうも。」
アイスコーヒーを手に取りつつ、そうこぼす榊。
「え!?えへへ、うれしいです…///」
「ちょっと!うちのアイドルを何人口説くんですか!?」
「一人も口説いてへん!ただの感想や、感想!聞き流してくれ。」
「もう…。ところで、あなたはなぜここに?まさか!」
ここで、愛原が最も気になっていたことを榊に聞いてみる。
何となく察しはつくが、あそこまで大事になった榊の顛末を聞いてみたかった。
「そそ、オレもプロデューサーとやらになってみましたよ?ま、今日からやけど。」
「やっぱりそうだったんですか。残念だなぁ、せっかく一緒に働けると思っていたんですが。やっぱりキュートプロで働かれるんことになったんですか?」
「そう思ってもらえてうれしい限りなんやけど、荷が重いじゃない?13人のトップアイドルと働くなんて、ずぶの素人にゃ。いや、キュートプロちゃうよ?理由はほぼ以下同文ってことで。」
「そんなことはないと思いますが。ではクールプロに?」
「それもね、違うんですよね。ちなみに理由は以下同文やね。」
榊・剣崎・菱上の関係性を知っている、愛原はこの2つのプロのどちらかだと確実にそう思っていたが、予想は外れた。
「では、まさか!961プロ!?」
「いやいや、あっこプロデューサー雇わないでしょ。」
「ではどこに?」
「えっとね、パッションプロってご存知?そこですよ。」
「えっ?」
「えっ?」
「私も言った方がいいのかな・・・?」
「ええええ!?パッションプロですか!?」
「おお、予想通り。」
「さっき荷が重いみたいに言ってませんでした!?」
「うーん、言ったっけ?」
「言いましたよ!?」
第三者からみれば、パッションプロほど荷が重い所は他にはない。
「まぁ、よくよく考えたらそれもそうか。どうなるんか何てわからんもんな。正直、自分でも全然自信なんてないで?」
「ではなぜ、なぜですか?」
「ん?そりゃ、愛原ちゃんとか刀二と蓮三に一定の評価以上してもらってオレを買ってくれたことにはホンマこう見えてうれしかったんやで?でもしゃーないやん、頼まれてんから。」
「頼まれた?」
「おう、うちのプロを助けてくれってさ一緒に夢を叶えるのを手伝ってくれって。オレにやで?何の無茶ブリやねん、思うやん?でも、自分に何かできることあったらやるやろ、普通。そう思ってくれてる人がおるんやから。」
「っ!」
あまりにも簡潔でいて当然のようにそう答えた榊に、愛原は驚いた。
愛原には、分かる。
自分にできることはする、当たり前のようだがこれがいかに難しい事かをよく理解している。
「まぁ、そんなとこかね?つうか、よくよく考えたらマジ無茶ぶりやないか。何か腹立つから帰ったらあの緑色をいぢってやる。」
「ははは…。そうか、あなたは…榊さんはそういう人なんですね!うん、やはり私の見る目に狂いはなかったようですね!」
「そりゃ光栄で・・・。」
愛原は13人ものトップアイドルを育てた超一流プロデューサーだが、こう語る榊は非常に羨ましく思えた。
「あの…。」
「なんだい、春香。てっきりどこかに行ったのかと思ったよ。」
ここで、久しぶりに登場…天海春香です。
「いえいえ、空気に徹してましたから!今、榊さんって…。」
「ん?そういや、オレの方が紹介まだやったか?パッションプロのプロデューサー、榊大牙や。よろしゅうな、天海さん。」
「はい、よろしくお願いします!ところで榊さん!」
「ん、どした?」
「雪歩を籠絡したって本当ですか!?」
「「ぶふぉっ!!」」
榊と愛原は盛大にコーヒーをむせてしまった。
何て事をいうのだ、この子はと。
「おい、愛原ァ…。おのれ、アイドルになんてこと吹き込んでんじゃ、コラ!」
「言ってませんよ!?おおお落ち着いて!」
「んだとコラ!花のアイドルがなしてこないなこと言うんや!?貴様ぁ、優しそうに見えて実はオレを犯罪者に…。」
「ちちがいますよ!こら、春香!なんてこと言うんだ!」
「あわわ!ごめんなさい!雪歩の反応見てたらそうなのかって。」
「ったく、どいつもこいつも…。」
「すいません…。」
「それにしても、榊さんってプロデューサーさんがプロデューサーとしてスカウトしようとしてた人ですよね?」
「そうだよ、残念ながら叶わなかったけどね。」
「そうですよね!ふぅん、へぇ…。」
天海は榊の方をまじまじと見ている。
(何だこの視姦プレイ、緊張する。)
「んだよ、じろじろ見て。」
「いえいえ!そっか、なるほどぉ…。」
「ん?まぁえっか。そういや愛原さんや。」
「はい、なんでしょう?」
「アイドルの子をスカウトする、基準とかって何かある?ちょっと参考までに聞かせてくんない?」
実はこれを榊は非常に聞きたかった。
榊に免疫をもつ女の子というのをクリアできたとして、そこからアイドルとして輝けるかどうかは別の問題だったからだ。
「いえ、うちはスカウト社長自らがやってるんですよ。何でもティンときた子をスカウトしてるみたいで。」
「なにそのアイドルプロの社長の特殊スキル…。」
「あははは、すいません。お役に立てなくて。」
「気にせんでくれぃ。」
「すいませんね…おっと、電話だ。ちょっと失礼します。」
そういうと、電話応答しながら愛原は離席する。
榊は聞きたかった事を十分に聞けたわけではなかったが、致し方ない。。
「ねぇねぇ、榊さん。」
「なんや?」
「榊さんはどんなアイドルの子を育てたいですか?」
「うーん、せやなぁ…。オレを恐がらない人!」
「無理だと思います。」
「はえーよ!?でも、そやなぁ。その辺がまだわからんのよね。基準?つうの?そういうのが特に無いし、容姿っても最近の女の子みんなおしゃれで可愛いしさ。性格なんて見てわからんやろ?結局、どうしようって訳よ。」
「うーん、そうですよねぇ。でも、榊さんは素敵なアイドルに出会えますよ!そんな気がします!」
天海の何の根拠もない声援だったが、榊はどこか気持ちが軽くなったような気がしていた。
「なんだいそりゃ。さて、ちょっと散歩でもしてくるかね。」
「あれ?もういっちゃうんですか?」
「ん?あぁ、オレ生憎愛煙家なもんでね。それに、邪魔しちゃ悪いっすからね。」
「そんなことないですよ、もうすぐプロデューサーさんも戻ってきますし!」
「お気遣いありがとよ、でも天海さんお忙しい身でしょ。せっかくプロデューサーさんと二人なんや、ゆっくりしていけ。んじゃな。」
「えへへ、やっぱり。」
「んだよ?」
「いえっ、やっぱり榊さんって優しいですね!」
10代の女の子にまじまじと褒められるのはどうも榊はむずがゆく、落ち着かないらしい。
まぁ簡単に言うと恥ずかしいのだ。
「あー、あー!知らん知らん!あっお金ここ置いとくから。ふっ…釣りはいらないぜ?じゃあな…。」
「はい、ではまた会場でー!」
そういうと、榊は立ち去った。
天海に何か生意気なことを言われた腹いせにちょっとした悪戯を榊は愛原に仕掛けておいた。
「悪いな…ってあれ?榊さんは?」
「あっ、ついさきほど行かれましたよ?ここにお金おいとくからって、お釣りはいらないそうですよ!」
「全く彼と言う男は…ん?」
「え?」
榊が置いていった金は…100円玉1枚。
もちろん。
「「足りてないじゃん!!」」
外の玄関付近で榊は一服していた。
会合が始まるまでまだしばらく時間があるが、少しアイドルのことを考えていた。
「天海さん、ねぇ。」
天海春香。
765プロの看板アイドル、アイドルになるべくしてなったような子だ。
歌うことが大好きで、ファンとの交流を強く望む。
容姿も可愛らしく、リボンが印象的な少女だ。
ちょっとドジな所が玉に瑕…ともならず、むしろ余計にファンの心をくすぐらせる。
言わずもがな、天海はトップアイドルの一人である。
だが、天海のような女の子を榊がプロデュースする、となると少し違和感があった。
「せやんなぁ、でもアイドルってああいう天海さんみたいな子なんやろうし…。あかん、考える材料が少なすぎるし…おっと!」
少し呆けていた為、榊はすれ違う男性と肩がぶつかってしまった。
「あ、すんません!」
「いえ、こちらこそ…。ん?」
「あ?」
「「え?」」
「ああああ!!」
「ええええ!?大牙!?どどどどうして君がこんなところに!?」
肩がぶつかった相手、それは菱上だった。
もちろん、菱上も今日の会合に参加することになっていた。
「おお、蓮三か。びっくりした…。」
「いやいや!質問に答えてくれよ!!まさかとは思うが…」
「あぁ、うん。プロデューサーになりました、テヘ☆」
「なん、だと。どこのプロだ!?765か!?キュートか!?それとも!」
菱上はまくしたてるように、榊を問い詰める。
やはり、気になるのであろう。
「まぁまぁ落ち着け、オレはパッションプロのプロデューサーや。」
「パッション、プロ…。そうか…そうか。」
「これから、よろしく頼むわ先輩。」
「よしてくれ。」
「プロデューサー、この人は…?」
「…あん?」
「ひ!?」
榊は不意に声が聞こえた為、ついドスの聞いた声と共に少女を睨んでしまった。
制服姿の少女は菱上の後ろにそそくさと隠れてしまった。
「ふふ…さすがの渋谷も大牙が恐いか。」
「べ、別にそういう訳じゃ…。ちょっと、驚いただけで。」
「あ、悪い。ごめんな?オレこの蓮三のダチなんやわ。んでパッションプロのプロデューサー、榊っていうもんや。悪かったな、驚かせて。」
「いえ、大丈夫です。」
「ほう…渋谷が敬語とは。ほら、挨拶しなさい。」
「うん…。凛です、渋谷凛。クールプロ所属のアイドルです。宜しく。」
「・・・。」
「・・・あれ?プ、プロデューサー・・・私何か間違った?」
「いや・・・。」
「うおぉ!?マジでかマジでマジですか!?凛ちゃんだよ、りーんちゃん!かっわいいなぁ♪ごめんねーさっきは驚かせちゃって!いやぁ、クールビューティやね!?本物やんね?モノホンやよね!?」
少年の様な笑みで渋谷を見つめる榊。
「は、はぁ…まぁ。」
怒涛のようにまくしたてられた渋谷は少し照れくさそうに言う。
「はっ!?ふっ、取り乱してしまったようだぜ…。」
今更ながら榊は平静を取り戻した。
「そっかぁ、渋谷さんも蓮三の担当だったかぁー!やるな、このこの!」
榊は菱上の脇腹を肘で突っつく。
気持ち、強めで。
「痛い痛い・・・やめないか。」
そう言いつつも、菱上は自慢げな表情をしている。
「ふっまぁ、悪くはない、な。」
「かぁー!愛されてんな、渋谷さん!あ、ちなみにこいつツンデレだから!意外と押しに弱いから頑張れ!」
「ふふ。うん、覚えとく。」
「な!?誰がツンデレだ!?君は変な情報を…!」
「まぁまぁ。んでさ、蓮三。ちょっと聞いてもええか?」
「何だ?」
「お前ってさ、スカウトする時って何か基準?みたいなんて何かある?やっぱお前むっつりやから…身体的特徴で。」
「誰が!むっつりだ!」
「じゃあ、がっつり?」
「どっちも違う!!」
菱上はいつもの冷静さを忘れ、あたふたとしている。
余談だが、大学時代はこういったやりとりが日常茶飯事だったりする。
「へぇ、プロデューサーってそんな目で私を見てたんだ…。」
渋谷が菱上に冷ややかな目を向ける。
「なっ、ちが・・・!」
「へい、渋谷譲。ちなみに菱上氏は脚フェチでございやす。」
ここですかさず追い打ちを掛けるべく、渋谷に榊は耳打ちをする。
「うむ、そうか。下がってよいぞ。私の足も、か?」
「そりゃあもう…!舐め回すように毎日見ているに違いありやせんぜ、お嬢。」
「そっか。…最低。」
「わぁ、さいてー。」
「やめろー!?なに仲良くなってるんだ!?渋谷!キャラはどうした!?断じて見ていない!!」
「お嬢…蓮三の野郎お嬢の足に何て全く興味ない、なーんて言ってやすぜ。」
「そっか…プロデューサーは私に興味ないんだ。ぐすん。」
「あーあー!泣-かしたー泣-かした!」
「やめてくれ!もう頼むから!」
なぜこんなにも菱上が追い詰められているのかは、榊の逆恨みであろう。
渋谷というアイドルを間近で見られることに対する、いわば完全な妬みである
「なぁいい加減早く答えてくれへん?オレもう待ちくたびれたー。」
「そうだよ、プロデューサー。榊さん待たしちゃ悪いよ?」
「何なんだーー!!!」
菱上はキャラも何もかなぐり捨てて、叫ぶ。
「オホン!スカウトの基準と言ったか?それはもちろん調査だ。今の世の中で流行っているものと照らし合わせ、マーケティングを常にチェックし、客との間にニーズのギャップをうまないよ…」
「あーもういいわ、訳わからん。」
「君が聞いたんじゃないか…。」
「それはお前やからできることであって、オレにんなことできるか!めんどい!」
「ふっ…違いない。」
「にしてもまぁ、これからよろしくな!割とマジで頼りにしてんぜ、先輩♪」
「おいおい、これからは君と自分はライバル、いわば敵のようなもの…」
「はぁ?何でオレがお前と争わなきゃならん訳?競い合うんならともかく、敵やのうて仕事仲間やないか。」
「なっ!だって君はあの時!」
菱上が言っているのは、先日別れ際で聞いたセリフによるものだ。
「え?なに勘違いしてんのよ。競争相手と敵は全然ちゃうで?もちろんオレが言ったんは前者の方ね?一緒にがんばってけばええやんー!オレとお前が敵?いややわーそんなん。ダチじゃないか!それだけはゆずれんな!なはは!!」
「ふっ…全く。」
菱上はどこか、安堵した。
菱上もどこかで思っていたのだろう、榊とは敵などではないと。
友人だと。
「だが、自分は厳しいからな?自分が競争相手だったことを光栄に思うことだな。」
「へぇ…。」
このときの菱上ドヤ顔が、無性に腹立たしく思った。
こんな時榊は一体どうするのか。
そう、”お仕置き”だ。
「そういや、お前あの後どうなったの?」
「ん?」
「渋谷さんも知ってるかな?高垣楓って人。」
「うん、楓さんね。知ってるよ?」
「いやさ、この間夜遅くにクールプロにいったらね?高垣さんって人と蓮三がソファで仲睦まじくしてたからさー?夜も遅いしー?あの後どうなっちゃたんだろうなーって?」
「ななななな!」
「…へぇ。」
榊は執行人を渋谷に任せた。
彼女は黒いオーラを身にまとい、CoPににじり寄っていく。
「ちちちちがうんだ、彼のいった事は全部でたらめ…」
「何なら高垣さんに聞いてみてもいいよー?この間夜遅くにプロデューサーといたかどうか。」
「だって言ってるけど?」
「たた確かに、高垣と一緒にいたが…ヒィ!?」
「ねぇ、どういうこと?プロデューサー…?変な目で楓さんも見てたの?」
「だっ!ちが!」
「ちょっとこっちきて、変態プロデューサー…!」
「しし渋谷!?これには訳がぁああああああああああーーー・・・」
渋谷は菱上の耳を引っ張って、どこかへずるずると行ってしまった。
御愁傷様である。
「お大事にー!ぷぷぷ!ふぅ、すっきりしたぁ!さてさて、そろそろいい時間に…ってまだだいぶあるやないか…。」
とはいえ、どこかに行くのも面倒なので榊ホテル内でうろつくことにした。
ホテルの中を見渡してみると、今日が会合の為かアイドルと思しき女性をよく見かける。
ホテルという場所もあってか、皆一様に豪華な服装をしている。
テレビで恐らく見たことがあるであろう有名な子たちばかりだ。
先ほどの菱上担当のアイドルの渋谷ももちろんその中に入る。
渋谷凛、クールプロダクションのアイドル。
端正な顔立ちに10代とは思えない立ち振る舞いに、凛々しい出で立ち。
歌唱力も優れており、おおよそのスペックが高い。
また、時折10代の少女らしい可愛らしい所もあり、ギャップによる受けもいい。
3代目シンデレラガールに選ばれ、その実力は言わずもがな。
「さすが、CoPといったところか。よく似てる。」
先ほども言った通り榊は菱上のような真似はできないだろう。
渋谷も恐らく、菱上の努力によるところが大きいに違いない。
他人の自分が見ててもわかるくらいの信頼関係を築けているのだから。
かといって、榊が渋谷のようなアイドルを担当するというのはあまり想像できない。
という具合に考えていると
「あかん、疲れてきた…おっ!」
すると榊の目の前にあまり人気のない場所にいい感じのソファがあった。
「ちょっと横にならしてもらいましょ♪」
高級ホテルのソファで榊は横になってみた。
どうしてなかなか、悪くない。
幸い、開場までまだ余裕はある。
「・・・すぅ・・・。」
榊はうつぶせになり、寝た。
何とも緊張感の無い男である。
しばらくすると榊のそばを1組の男女が通り過ぎた。
「えっと、寝て…らっしゃるんですかね?」
「うん。そう、みたいだね…。」
「あはは・・・疲れてたんですかね?」
それは、剣崎と彼の担当アイドルだった。
当然剣崎もまた今日の会合に参加するためにこちらのホテルに来ていた。
そこで、なかなかの衝撃映像に驚かされていたとこだった。
「はは…でも、まさかこんな高級ホテルのソファで惰眠をむさぼる人はそういないと思うよ?空港じゃないんだから。」
「う、うーん…すぅ。」
ごろっと榊は寝返りを打つ、よく落下しないものだ。
惰眠どころではなく、熟睡しているようだった。
「すごいね?ぐっすりと眠って…ん?」
「どうしたんですか?」
「いや、この顔どこかで・・・。ってうわ!?えええ!!!!」
「っどどうしたんですか!?」
「何で!!?何で大牙がここに!?」
「う、あぁ。ふぁ…うっさい。」
榊はむくりと体を起こし、騒音の元凶を寝ぼけ眼で確認すると。
「…刀二、うっさい。周りに迷惑やろ?おやすみ…。」
そういうとまた榊は不貞寝した。
「あ、ごめんなさい。…っていやいやいやいや!おかしいでしょ!?ちょっと、起きてよ!?」
「んだよ、うるっさいなぁ…ふぁーあ。で、なに?」
「いや、なにじゃなくてさ!どうしてここにいるの!?」
「…。」
どうして、ここにいるか?ただそれだけのことで、榊の安眠は妨害されたのだ。
そのことに榊は憤慨する。
まぁ寝てる方がどうかしてると思うが。
「言いたいことはそれだけか?」
「え?」
「ひっ!」
「ふんっ!!!。」
「ええええ!?なんでぇ!?ぎゃっ!!?」
拳骨一閃。
榊の拳が剣崎の頭に突き刺さる。
「うぅ、痛い…。」
「だ、大丈夫ですか?プロデューサーさん。」
「う、うん…。」
「全く!人の寝顔見るなんて最低よ、最低!フンだ!」
「何も拳骨しなくても…。」
剣崎は涙目になりながら、答える。
「ん?ちょっとした冗談じゃないか。誰だって寝起きは機嫌が悪いものだよ?」
「そういうレベルじゃなかったからね!?割とマジに殺気出してたから!顔恐いんだから、恐いんだから!」
「失礼な。こんなに、ちゃーみんぐフェイスだというのに。ま、それは置いといて。何か用?」
「いや、だから!大牙はどうしてここにいるの!?」
「あぁ、それな!えっとな、オレ、プロデューサー、オーケー?」
「え!?プロデューサーになったの?…まさか!」
毎度おなじみの展開なので、榊もいい加減辟易としていた。
「ここから先は想定内だ!オレはパッションプロの雇われー。」
「パッションプロ…?」
「んで今日が初仕事って訳。」
「そっかぁー、それが君の選択なんだね?」
「おう。」
「うん、深くは聞かないよ。」
「おう、聞いてくれるな。恥ずかしいから。ま、よろしく頼むわ、刀二。」
「うん、よろしくね。」
「あ、あの…」
「ん?刀二、そちらは?」
「ああ、紹介がまだだったね!ほら、卯月ちゃん!」
「はい!初めまして、榊さん!島村卯月、17歳です。よろしくお願いしますっ!」
「なに!?卯月ちゃん、だと?…はっ!?」
榊はまたもや危うく、トリップするところだった。
榊は二の足を踏むところだったのを、すんでの所で踏みとどまった。
できる男は二度と同じ過ちは繰り返さないのだ。
「ふっ…初めまして、島村さん可愛いね。オレはパッションプロのプロデューサー…しまむー可愛い。榊大牙ってものです、しまむーまじかわ。よろしくな!しまむーマジ天使。」
見事に失敗を繰り返す。
「いえっそんな…!」
「あ!しまったぁ…またやってもうたぁー!」
「はは、相変わらず面白いね!」
「…む。」
榊は何か剣崎に馬鹿にされたような気がした。
笑いとは、人を笑顔にする素晴らしいことだ。
自らを道具とし、様々な方法…話術・身振り手振り・リアクション・突っ込み等で人々の笑いのツボを探り当て、こじ開けていく。
実に奥が深い。
しかし、笑わせるのとは違い笑われるとういうのは全く違う。
そこを一緒にされては困るのだ、剣崎の面白いというのは曖昧だ。
何をもって面白いとするのか、わからないからだ。
榊の行った行為に対する評価なのか、榊が面白いのか。
剣崎が言っていたのは、後者の方だ。
よく一緒にされることが多いが、全くもって別物でありこれはお笑いに対する冒涜である…!
つまり何が言いたいかというと榊は腹が立ったのだ。
「ところで、刀二。唐突やけどアイドルを選ぶポイントとはズバリ?」
「ほんっと急だね…。えっと、そうだね!やっぱり、アイドルは可愛さだと思うんだよね!もちろん、容姿もそうだけど例えば趣味とか!おしゃれとか!流行の服をちゃんと押さえて着こなしてるかとか?あとはコスメも気になるところだよね!えっと後は後は…」
「あぁ、もういいやめてくれ。頭痛がする・・・。」
「そう?」
剣崎はハイカラな洒落乙さんだ。
流行や流行りものなどには目敏い、だからというわけではないが女性と話をうまく合わせることができるのだろう。
その点、榊は流行に疎い…本当に疎い。
というのも榊自身が気に入ったもの以外を知ろうとしない為、それが流行りならばいいが、そうではない場合がほとんどで、榊自身が好きなものは頑なに保持したりする、要は頑固なのだ。
選ぶポイントは色々ある、ということなのだろうが剣崎の言う選ぶポイントにはほとんど共感できない為、やはりあてにはできない。
「趣味って、お前みたいな匂いフェチ的な変態趣味だったらどないするんや?」
「でもさ、可愛い女の子の趣味が意外と…みたいなのって興奮しない?」
「しない、引く。ってか否定しないんやな…。」
「っは!?しまった!?」
今更気づいたらしい。
剣崎は慌てて島村の方にゆっくり視線を送ると先ほどより島村との距離を感じる。
「う、ううう卯月ちゃん?だ、大丈夫だよ?僕はそんな…」
「ねぇねぇ、聞いた?卯月ちゃん。剣崎さんって、かなり危ない人らしいわよ?」
「えー、そんな風に見えなかったわぁ。」
「でしょでしょ?私もね?最初はいい人かなって思ったんだけど…隣の奥さんが言うにはかなりの変態らしくてー。」
「ちょ、おまっ!」
「え、嘘!?」
「ホントよ、ホント!卯月ちゃんも覚えがないかしら?練習終わりに必ず現れるとか、ライブ後に衣裳を着替えさせず、シャワーも浴びさせてもらえない、みたいなこと。」
「やだぁ!私あるわよ!」
「何で卯月ちゃんノリノリなの!?おかしいでしょ!?なんで、見てきたみたいに言うのさ!違う、違うんだよ!」
「あれで匂いを嗅いでるらしいわよ?怖いわぁ。」
「やだぁ、怖いわよねー。」
「ねー。」
「まま待って!違う、違う!これにはね?時間の都合とかそういう関係で…」
「剣崎さぁん♪メールですよぉー?」
っと不意に剣崎の携帯が鳴った。
一体どうしたらあんな着信音にするのだと心の中で榊は思う。
「あれこの声…というか僕この音にした覚えがないんだけど…メール?…ひ!?」
剣崎がなぜかぶるっと、身震いして携帯を落とした。
仕方ないので、拾って手渡そうと思い携帯を手に取りふと画面に目が行く。
そこには…
「剣崎さぁん?先ほど男の方が仰ってた事は本当ですかぁ?うふふ♪そんなにしたいんならぁ、まゆに言ってくれればいいのにぃ、まゆはいつでも剣崎さんの側にいますからね?い・つ・で・も♪」
なぜだろう、こんな可愛いらしい文面なのに、体が。心が。戦慄を覚えてしまう。
「この子ってさ?ここに、いるの?刀二」
「い、いやまゆちゃんは今日は朝から別の仕事のはず…。」
御分かりいただけただろうか。
メールの主はここにいないにも拘らず、さっきの会話を一体どうして…。
「…何か、大変そうやなお前も。」
「あはは…ははは。」
「元気出してください、プロデューサーさん!」
しばし、剣崎は休息に入った。
しばらくすると、顔色が戻った剣崎が言葉を発する。
こういったことが多いのか、ある程度の免疫がついているのかもしれない。
「にしても、大牙がプロデューサーか…。何か緊張しちゃうなぁー。」
「は?何で?」
「だってきっと大牙は凄いプロデューサーになると思うんだ?それを思うとさ。」
「何そんなifの話してんねん、ていうかお前も手伝えよ?」
「え、手伝う?」
「当ったり前やないか!キュートプロの立派なプロデューサーさんなんやろ?自信持てよー!いやぁー蓮三と言い、こんな心強いことは無いな!」
「でも…。」
「何や友達甲斐がないやっちゃな、お前も島村さんとか安部さんとかのアイドルをもっともっと輝かせたいんやろ?なら、オレと一緒やんけ。オレが、そういうアイドルたちと出会って、行き詰ったら助けてくれやな!こう見えてオレ、そういうの疎いから!」
どうみてもそういったことに明るくは見えない榊が言う。
「僕が大牙を、助ける…。」
「そうやで!あ、ちなみにお前もオレにできることあったら、言えよ?任しとけ!金と女性にモテる方法以外やったら何とかしたるからな!」
「っ!」
「ん?どした?」
「ううん、何でもない♪」
刀二は思う、追いかける追いかけられるだけでなくこういった関係も悪くないと。
こういう友人関係でいられることも悪くない、と。
「何やねん、にやにやしやがって。気持ち悪い…。」
「ひどっ!さて、そろそろ行こうよPaP。」
「ん?まだやろ?」
「いやいや、会ったことの無いプロさんにも会ってうちの可愛い卯月ちゃんを紹介しないと!」
「えへへ。」
「…。」
剣崎はは島村の頭を撫でながら答える。
榊は何とも居心地が悪かった。
というより、嫉妬だった。
どうやって、剣崎にしっぺ返ししようかと模索していると。
「ん?…スンスン…あれ、卯月ちゃんシャンプー変えた?」
「はいっ、よくわかりましたね!そうなんですよ、この匂いが気に入って…え?」
剣崎は勝手に自爆した。
「あっ、いや、これは…そうそう!プロデューサーたるもの、アイドルの日用品もチェックしないとね!うん、いい香りだよ!卯月ちゃん!」
「そ、そうですよね!さすが、プロデューサーさんですね!」
「うんうん!あっ、でも卯月ちゃんはレッスン後の汗の匂いとシャンプーの匂いが混ざったのがまた何とも。…あ。」
「え。」
自分でさらに追い打ちをかける剣崎。
攻めるは、いまだ。
「あー!刀二がー島村さんとー!いちゃいちゃしてるー!!あー、あんなことやこんなことがぁー!」
榊は聞こえるように、大きめの声で騒ぐ。
誰にか。
それは決まっている、どこかで聞いているあの御方にである。
「きゃーやめてー。」
「ななななな!な、何を言っ…て…」
「剣崎さぁん♪”お電話”ですよぉー♪早く出てくださいねぇ?でないと…うふふ♪」
「ひぃ!!??う、うわぁーーーーーーーー…」
「ちょっと、プロデューサーさん!すいません、榊さん!失礼します!待ってくださいー!」
スクリームしながらフェイドアウトする剣崎を追いかけるべく、島村は一礼して去って行った。
剣崎は…犠牲になったのだ。
「刀二…お前の犠牲は決して…!無駄にする。律儀なこってあの子。…島村、卯月か。」
島村卯月、キュートプロに所属するアイドル。
先ほどの渋谷とは違い、歳相応の元気いっぱいで明るい女の子。
律儀で謙虚な島村もまたトップアイドルと呼ぶにふさわしい実力を持つ。
にもかかわらず奢ることなく、ひたむきに前を向いて進む姿はとても健気で、可愛らしい。
また、少し抜けている所もまた彼女の可愛さを邪魔せず助長する。
あの天海春香を彷彿とさせる、オーラを放つ。
島村もまた剣崎が育て上げた立派なアイドルだ。
がしかし、菱上同様榊は剣崎のように女の子との共感能力に長けているわけではない。
自分は何が長けているのか…そこまで考えて榊は思考を停止させる。
「…長所短所って就活かっての。タバコ吸って、気分転換でもしよか…。」
そういうと、再び榊はホテルの玄関に足を運ぶ。
開場まではもうしばらくだ。
それまで、榊は肺に煙を貯めておくことにした。
会場付近にはすでに多くのプロデューサーやアイドルが集まってきていた。
そこには肩を落とし、息を荒げている2人のプロデューサーがいた。
「「ひどい目に遭った…。」」
「ん?なんだ、刀二か…。」
「あ、あぁ蓮三…。その様子だと君も大牙にしてやられたみたいだね…。」
「あぁ、散々な目に遭ったぞ。」
「同じく…ったく酷いなぁ。」
「全くだ。まぁ、今に始まったことではないがな。」
「まぁね。」
「待った?プロデューサー。」
どこからか、戻ってきたのか渋谷が菱上に近づいていく。
「いや、大丈夫だ。」
「そっか、良かった。あっ剣崎さん、おはよう。」
「おはよう、凛ちゃん♪元気そうだね!」
「あっいたいた!プロデューサーさん!置いてかないで下さいよー!」
剣崎のもとに駆けつけてきたのは、島村だった。
「ごめんごめん、卯月ちゃん!」
「もう!あっ菱上さん、凛ちゃん!お久しぶりです!」
「あぁ、島村君も元気そうで。」
「卯月…昨日、電話したじゃん…。」
「えへへ…でも、会うのは久しぶりでしょ?」
島村と渋谷はプライベートでも仲が良く、電話でのやり取りなどをしている。
プロダクションの垣根を超えているのも、実際は剣崎と菱上の仲だからかもしれない。
「まっそうかもね。そういえば、プロデューサー。あの人いないね?」
「あの人?あぁ、大牙か。うぅ、先ほどのトラウマが…。」
「…うっ。」
「…どうしたんだろうね?」
「さぁ?」
(お前も加担しただろうが!!)
と二人のプロデューサーの胸中は穏やかではなかった。
「どこかでタバコでも吸ってるんじゃないかなぁ?」
「そうだろうな、きっとギリギリまでこないぞ?」
「でも、プロデューサー。普通こういうのって前乗りしておく物じゃないの?緊張するだろうしさ。」
「大牙に緊張感何てモノがあると思うか?さっき会ったばかりだと思うが。」
「あはは、確かにすぐそこのソファでぐっすりお休みになられてましたしね…。」
「全くもう…大牙は本当、はぁ…。」
初仕事という事を除いてもなかなか、煌びやかなホテルに置かれているソファで睡眠をとる変わり者は恐らく榊だけであろう。
「個性的?っていうのかな?榊さんという方は。あれ?個性ってなんですか?」
「やめなさい、卯月ちゃん。」
「渋谷は、大牙をどう見る?」
「急に言われてもね…。」
菱上はそう渋谷に尋ねる。
以前から榊のことを知っている菱上にとってみれば、榊の第一印象を聞くのはいつでも新鮮だった。
「具体的でなくても構わん、どういう印象を持った?」
「そうだね…さっきも言ったけど変わってる、かな?でも私もさ、外見というか見た目とか印象で結構損するタイプだけど、あの人もそんな感じなのかなって。こんな不愛想な私でも割と接しやすかったし。」
率直に意見を述べる渋谷。
渋谷も外見上で、不愛想と判断されてしまうことがあった。
榊とは違うが、何となく理解はできたようだ。
「そうか。」
「ねぇねぇ、卯月ちゃんはどうかな?」
今度は剣崎が島村に尋ねる、けれも榊の第一印象を聞くのは新鮮で、興味深々だった。
「私ですか?うーん、私も接しやすかったです、確かに!それに、あの人…何というんでしょう、距離感をこう…ぐっと縮めるのが上手かなって。すいません!上手く表現できませんー!」
「うんうん、大丈夫だよ。」
島村はうんうんとうなりながら、自分なりの乾燥を述べた。
島村は渋谷と違い、見た目で判断されることは少ない。
だが、やはり年頃の少女というのは男性相手に警戒心を抱いても不思議ではなかった。
その警戒心を解くのに榊は適している、と島村は言いたいようだった。
「やはり軽視できない、か。」
「ダメだよ、プロデューサー。敵じゃないんでしょ?」
渋谷はそう言いつつ、菱上に微笑みかける。
先ほどの榊との会話を菱上は思い出す。
「ふっ、そうだったな。」
「そうですよね、さっきもプロデューサーさんを助けてくれるなんて言ってくれてましたしね!あんな事言ってくれる人なかなかいないんですから!いいお友達をお持ちで羨ましいです!」
「ふふふっ、島村君の言うとおりだな。」
「だね!」
一緒に競い合う、一緒に助け合う。
これを叶えるのに、榊という存在はとても心強いと剣崎と菱上は感じていた。
良き友を持ったと。
「ふっ、自分を高めていく相手に大牙は十分すぎるな。」
「あはは、蓮三。言ったら、大牙助けてくれるよ?」
「助けがいるのは彼の方じゃないか?」
「どうしてですか?」
島村は剣崎に尋ねる。
こういった他のプロダクションの状況については他のアイドルも同様だが、あまり詳しくないのだろう。
「パッションプロにはね?今、アイドル一人もいないんだ。」
「そう、なんだ…大変だね。」
助けてあげるとは言うものの、榊の勤めるパッションプロは危機的状況にあるのは自明の理であった。
「まぁね、でもそこは心配いらないんじゃないかな?」
「なぜだ?あぁ…なるほどな。」
「ん?何かコネでもあるの?」
「ううん、そういうんじゃなくてね?」
「じゃあ何で心配いらないんですか?」
「それはだな・・・。」
「大牙はね?」
「「死ぬほど、モテるから。」」
様々な思いを込めて剣崎と菱上の声が重なる。
俗にいう妬みである。
「確かに刀二も女性には人気があるが。」
「そんな事ないからね!蓮三こそ!ファンけっこう多いんだよ?でも、大牙とは質が違うというかなんというか。」
「そうなの?」
「そそ。何て言うかな…好かれるというよりも惚れさせるのが上手いのよ、大牙。腹立つけどね!」
「そうそう。暇があれば女性に好かれていやがるからな、あの野郎。」
剣崎は女性とのコミュニケーションをとるのが非常に上手く、女性に好かれやすい。
一方の、菱上も仕事ができるクールな男である。
女性からの羨望も集めることも多くある。
しかし榊の場合、良くも悪くも物事を本音ではっきりと申し立てる。
故に敵を作りやすいのだが、一方で好かれることも男女問わず非常に多かった。
こういった俗っぽい言い方をすれば、男らしさといった類の性質では榊の右に出るものはいなかった。
「そうなんですか?」
「そうだよ!普段口が悪い癖に、あいつ!」
「ともかく!その心配はいらないな、アイドルの方から寄って来るかもな。」
「うわぁーそれ、ありそう!くそっ、僕はあれだけ走り回って、やっとなのに…!」
途中から単なる僻み…愚痴である。
「で、でもそんなすぐには…。」
「そうだよ、いくらなんでも。」
「いや、わからないぞ?」
「今こうしている間にも大牙に何かしら女性とのイベント…がぁ!?」
「ん、どうした?なにぃ!?」
「あれ!?何であの人が?」
「あ!あの人は!」
剣崎・島村・菱上・渋谷の4人の視線の先には2人の人物。
一人は、こちらに向かってくる榊。
そして、もう一人は榊に肩を借りるように寄り添う、圧倒的なオーラを放つ女性。
近づきがたいオーラを遥かに凌ぐ近寄ることを許さない絶対的なオーラを身にまとう、左右の瞳の色が違う美しい女性。
しかし、そのオーラですら榊を阻むことができなかったようだ。
「「れ、玲音!?」」
「っと、到着っと。」
「いや、すまないなキミ。アタシとしたことが、ヒールの靴底を折るなんて失態を…。」
「そんなん事故や事故、しゃーないやん。んなことより怪我ないんか?」
「あぁ、少し痛むが大丈夫だ。ありがとう…見た目に違わず、キミは優しいな。」
「な!?初めて正しい評価をされたぞ!嬉しい!…マジで?」
恐い恐いとしか言われなかった榊が生まれて初めて、外見を褒められたような気がした。
しかし、すぐには信じられず榊は思わず疑ってしまう。
「はは!それにユニークだね!あぁ、優しいさ。アタシに好き好んで近づいてくる人なんていないからね。」
「は?何で?」
「うーん、自分で言うのも何だがどうも近寄りがたいオーラが出ているらしくてね?」
「ふぅん、こんな美人助けるチャンスやのにな。」
「なっ、え!?」
「そりゃそうやろ!好かれたいやん、美人に!オレやったら我先に行くぞ?今みたいに。寧ろ、感謝したいのはこちらやで、ほんま。」
「な、なにをいきなり…」
「ありがとな、玲音。オレにお前みたいな美人を手助けさせていただいて。」
「美人、美人って… キ、キミは中々狡いな///。」
先ほどの剣崎・菱上の嫉妬を物の見事に目の前で披露する榊。
「…本当だったんだ。」
「わぁ、玲音さんだぁ!」
「ちょいちょいちょい!どうなってんのさ!」
「おい、大牙!どういうことだ、これは!」
「やぁ!君たちはキュートプロとクールプロの人たちだね!久しぶりだね!」
「どうも、玲音さん。」
「わぁ、お久しぶりです!」
島村と渋谷は玲音に挨拶をする、彼女たちの中でも玲音という存在はやはり格別なのだろう、羨望の眼差しを向ける。
「ん?おお、お前らか。どないしたん?」
「何が?じゃないよ!な・ん・で!トップオブトップアイドルの玲音ちゃんと大牙が一緒なんだよ!」
榊は知らなかったが玲音はれっきとしたアイドルである。
玲音、961プロ所属のアイドル。
圧倒的なオーラを放つ、生ける伝説的アイドル。
ビジュアル・歌唱力・ダンスどれをとってもトップクラスだ。
その活躍は国内のみならず、海外でも人気がある。
いわば、スーパーアイドルなのだ。
「ああ、玄関でタバコ吸ってるとこ困ってはったから連れてきたんや。つか、玲音てアイドルやったんや。歌手・女優ポジション的な人やと思ってた。」
「は!?知らなかったのか?」
「だって、普通のアイドルバラエティとかに出てなくね?」
「そりゃ出るまでもなく、有名だからだよ!」
「それにしても玲音君、今日は君一人での参加なのか?」
「そうさ、社長は用事があってこれないらしくてね!たまには顔でも売ってこい、だってさ。」
国内での活動も疎かにしてはいけない、961プロ社長の方針だったのだろう。
そういったことに、こういう会合はある意味うってつけだった。
「玲音がアイドルかぁ。なんや、トッププロ会合には女優さんも来るんかいな?とか思ってたわ。」
「そういえば、大牙?キミは、アイドルなのかい?」
「んなわけあるか、確かに女性にはよくキャーキャー言われるよ?主に悲鳴的な意味で。プロデューサーや、パッションプロの。」
「パッションプロ?うーん…あぁ!あのパッションプロなのか?」
玲音も知っている、Eランクのプロダクションは恐らくパッションプロだけだろう。
それが必ずしも、良い意味で…とは限らないが。
「あのっていうんがどれかわからんけど、恐らく思っていることで正解や。所属アイドルゼロのね。てか、こうして知り合ったんやから何かあったらよろよろー!」
「いきなり、他力本願かい!?」
「あほ!一人で何でもできるなんて自惚れもってへん!ということで、連絡先教えなさい!」
「え!?あ、あぁ…」
半ば強引に玲音の連絡先を手に入れた。
余談だが玲音の連絡先を知る人物は、ごくごく一握りである。
「よし!困ったら連絡するから、助けなさい!いいね!?」
「あはは…他のプロのアイドルに助けろなんて、珍しい人もいるもんだ。」
「何言うてんねん、お前も困ったら連絡してこいよ?トップアイドルとかのプライドとかあるんやろうけど、そんなん知らん!黙って助けられろ!いいね!?」
「あぁ、そうさせてもらうよ。ふふ…。」
「ちょっと!なにトップアイドルのアドレスゲットしちゃってんのさ!」
「そうだぞ!玲音といえば業界でも…」
「ん?つーことはこの連絡先を売れば、ボロ儲け?…グヘヘ。」
「いやいや、やめてくれ!?」
「ははは!冗談、冗談に決まってるやろ!…たぶん。」
「おいおい!?」
「何本気にしてんのよ、可愛いなぁもう!」
むくれっ面をする玲音の頬を軽く榊はつつく。
玲音にこんなことができるのは恐らく榊くらいだろう。
玲音の人となりを知る人間が見れば驚愕するに違いない。
「や、やめてくれ…恥ずかしい/// パッション、プロか…!ふふっこれは面白くなりそうだ!」
「おいおい・・・しょっぱなからネタ扱いとはヒドイな。」
「そういう意味ではないよ。これは久々に出向いてきたかいがあったかな。」
「ん?それより、お前らまだ行かんの?」
「結構いい時間だよ、プロデューサー。」
色々あったが、会合が始まるまでもうしばらくまで時間は迫ってきていた。
「本当だ!急がないと!プロデューサーさん!」
「いや待て!まだ聞きたいことが…」
「ほらほら、しぶりんとしまむーがそう言ってんだから急ぎなさい。話なら終わってからでもええやろ?玲音、行けるか?」
「あぁ、大丈夫だ。」
「仕方ない、行くか。渋谷。」
「うん、わかった。」
「んじゃ、行きますか!卯月ちゃん!」
「はい!」
「さぁ行こうぜオレ!くそっオレも絶対アイドル見つけてやるぅ!」
話しかけるアイドルのいない榊は、自分を鼓舞するしかなかった。
「文句を言ってないで行くよ、PaP!」
「へいへい・・・。」
こうして数奇な6人は会場へと向かう。
そこには受付があり、すんなりと5人を入れてくれた。
ああ、一人足りない。
「いや、だぁかぁらぁ!オレも関係者なの!名刺とかまだないけど!」
「申し訳ございませんが、関係者以外はお断りを…」
「大丈夫だ、彼はパッションプロのプロデューサーさ!アタシが保証しよう!」
「れ、玲音さん!?わ、わかりました…どうぞ、お通り下さい。」
玲音がほぼ顔パスだった事に対し、榊の顔はNGだったらしい。
玲音がすかさず仲介に入り、榊を通してもらった。
「玲音ちゃーん!助かったよぉ…!」
「わっわっ!いきなり抱き着くなっ///」
「だってぇ、また不審者扱いされたんだもんー!」
「そ、それは不憫だな。まぁ、今度アタシが困ったら助けてくれるんだろう?ふふ…楽しみにしているよ?」
「おう、任せておけ!牛丼で手を打とうじゃないか!」
「ご飯をせびったわけではないよ!?」
ひと悶着あったが、何とか会場に到着したPaP。
ホテル内の結婚披露宴等で使用されるであろう広い多目的スペースに、テーブルとイスが並べられている。
奥には壇があり、そこに巨大なスクリーンがあり、その横には進行役の男性がマイクテストをしている。
席は決められているらしく、ランクが高い順に奥から席が決められ、他の5人は奥の方へと進んでいった。
それぞれの席にはマイクが設置されており、何か発言する場合に使用するのだろう。
ちなみに榊は入り口からもっとも近い、壇上からはもっとも遠いところの席である。
アイドル業界の身分制度の縮図のようなものか。
「くっだらね…。」
そう不満を口にしながら席につき、開催まで待つ。
しばらくすると、進行役の男性からのアナウンスが入る。
「あー、あー。これより、トッププロ会合を始めたいと思います。」
「えー、まずは最初の議題ですが。」
そう言うのと皮切りに様々な議論が交わされていく。
榊に関係のありそうな内容は2点。
まず、ライヴバトル・フェスについて。
ライヴバトルはどちらかのプロが開催を協会に報告し、相手とのポイントを競うイベント。
それぞれ平行にステージが設けられており、同時にライブを行う。
ポイントは会場の観客手元の2つのスイッチあり、上限を100としてポイントを追加していく。
つまり観客一人当たりの手持ちポイントの100を奪い合うのだ。
これは常にスクリーンに映し出されるが、終了15分前には伏せられる。
ライブ時間は協議によって決められている。
アイドルの参加人数は7人が上限。
フェスは基本的にはLiveバトルと変わらないが、違う点もある。
まず開催するのはプロではなく、どこかの企業である点。
開催される日程は決められており、そこにエントリーする。
その為、当日にならなければ対戦相手はわからない。
またポイントはライヴバトル同様の方式だがこちらは一切表示されない。
また審査員もおり、1票をどちらかのアイドルに投票し、その1票はポイントとなるがそれは催されたイベントにより異なる為、確定してはいない。
アイドルの参加人数は5人まで。
メンバー交代自由であり、最大のポイントはメンバーが誰か把握できない事。
また、イベントの特性上トーナメントや一風変わった趣を導入することも少なくない。
なので、連続でライブをすることになる場合もある。
2点目はランクについて。
千川からも軽く説明があったが、プロダクションにはランクがある。
アイドルたちのランクや収益、活躍などを評価され毎月ランクが発表される。
つまり、ランクというのは暫定的なもので恒久的なものではない、ということだ。
もちろんアイドルにもランクはあるが、これはランクアップフェスに参加して勝利すれば恒久的なランク得ることができる。
ちなみにプロデューサーにもランクがあるらしく、プロダクションランクと共に送られてくるらしい。
簡単にいうと、通知簿だ。
ざっとおそらくこの2点であろう。
あとは今年のイベントの日程だとか、このようなイベントいかがか的なものであった。
剣崎や菱上、玲音や愛原なども発言していたが、身分の低い榊に発言権はないらしく、聞かれることもなく淡々と会合は進んでいく。
しかし、あまりに単調。
「ふぁー…眠い。」
やはり、榊は眠気に襲われる。
自分に関係のある話以外はほとんど聞いていなかった為、今何の話をしているのかさえわからない。
(なんや、これ。つまらんぞ。つか、眠い。なになに?なにかイベントの提案?そんなん、プロダクション対抗餅つき大会くらいしか思いつかんわ…。)
そう榊は思案して、テーブルの上にぐでーっと伸びて過ごすことおよそ2時間。
ようやく、会合が終わろうとしている頃に榊は目を覚ました。
「あぁ…終わりか?」
「では、皆様あとは何かございますでしょう?なければ、今回は以上とさせていただきますがよろしいでしょうか?」
(うなずけ…うなずけ…!!)
榊の渾身の願いが通じたのか、皆一様にコクコクとうなずいている。
「では。」
(よっしゃぁ!!!腹減った!!メシ!ご飯!)
「締めの挨拶を今日は…あぁ、今日はパッションプロの方の番ですかね、お願いします。」
「え!?はいぃ??」
締めの挨拶があることなど、社長からも千川からも全く榊は聞かされていなかった。
今回が、パッションプロの順番であることを知っていたら事前に教えていたであろうが。
「おや?今日は社長ではなく新しい方ですか?では、自己紹介も含めていかがでしょう?」
「なん、だと。」
早く昼食にしたかった榊にしてみれば全く想定外だった。
榊はとりあえず、なにかしゃべらなければと思い、重い口を開ける。
「あぁ、はい…えっと本日はお日柄もよく…。」
「別に良いのではないですか?」
突然、女性の声が榊の声を遮った。
「だって、パッションプロ(笑)なんていつ消えるかわからないところ、自己紹介なんて時間の無駄でしょう。」
「…ふふ。」
先ほどの女性の隣にいる少女が悪戯っぽく笑う。
「まぁ、確かにな。俺たちは暇じゃないんだ、こんな雑魚プロなんかに時間なんてつかえねぇな。」
「兄さん、それは言い過ぎだよ…!」
続けざまに若い男性が罵倒する、それを制止する少年。
「ちょ、ちょっと!シスタープロさん、ブラザープロさん!控えてください!」
「なんでよ?だいたい、こんなプロがここにいること自体が場違いな訳ですよね?この人、参加するのは初めてなんでしょう?だったら、彼の立場くらいわからせてあげなきゃ可愛そうでしょ?」
「そうそう、親切で言ってやってんだぜ。パッションプロの人?あんたんとこの社長や千川とかいう女にも毎回言ってんだけど、頭悪いのか全然理解してくれないんだぜ?勘弁してほしいよなぁ。」
シスタープロとブラザープロと呼ばれるプロダクションの2人が蔑む。
「毎度毎度、酷いな。春香…彼をよく見ていろ。」
「ああいう人もいるんですね…って、はい、え!?」
愛原と天海が視線を榊に移す。
「やってしまったな、彼ら。」
「あーあ、僕知ーらない。」
「どうしたの、プロデューサー?」
「何がですか?」
「渋谷、大牙という男を知るいい機会だ、よく見ておけ。」
「卯月ちゃんも、よくみててね?」
「うん。」
「は、はい。」
同様に剣崎と菱上、島村と渋谷も榊に視線を向ける。
「いい目だね、大牙…!」
玲音は榊の異変にすでに気づいたようだった。
先ほどまでの気だるい雰囲気とはまるで違う、榊の姿がそこにあった。
「おい。」
真っ直ぐとシスター・ブラザープロのプロデューサーの方を真っ直ぐに見据え、睨む。
榊は拳を強く強く、握りしめる。
「お前ら、いい加減黙れ。」
ただただ榊は腹がった。
社長や千川は自分たちの夢や希望を常にこの会場で踏みにじられてきたのか、それでもなお立ち上がりこの場に赴き、必死に情報を集めていたのか。
夢を叶えるために。
そんな社長と千川の思いや願いを罵倒する彼らなどに踏みにじられたことに苛立ちを隠せなかった。
「オレらがどういった思いや夢をもってこの場に立ってようが、お前らには関係ないやろが。やから、その減らず口を今すぐ閉じろ、耳触りじゃ。」
「はぁ?何を言ってるの?夢?笑わせるわ!そんなの持つ資格ないわ!」
「そういうのはな?持つ資格のある奴が言っていい事なんだぜ?お前らのとこみたいな底辺が言っていいことじゃ…」
「取り消せ!!!!」
「「っ!?」」
ダンっ!
テーブルを叩いて榊は立ち上がる。
榊は怒りかまけて立ち上がったのではない。
社長や千川の夢の為に、榊は立ち上がる。
「オレがどんだけ言われようが、んなことはどうでもええわ!けどな!!社長とちひろは関係ないやろが!!!」
「な、何を。」
「それこそお前らみたいな奴に踏みにじる資格なんて、ありはしない!んなもん誰にもないんじゃ、ボケが!!!」
「ちひろはな!?こんなオレに助けてくれって言ったんやぞ!社長はな!?こんなオレに夢を叶えるの手伝ってくれって…!!こんな素人のオレにすがるくらいな、必死やったんじゃ!!どれだけの思いやと思ってんねん!!!お前らみたいな、人の思いを笑いながら踏み潰す奴は、社長とちひろの夢を踏み潰すクソッタレはな!?オレがぶっ潰す!!」
榊は怒りを爆発させた。
許せなかった、自分を頼りにしてくれた人を馬鹿にされ、笑われるのが耐えられなかった。
この行為が如何に愚かな行為であるかは榊も承知の上だ。
だが社長や千川の夢を踏みにじられて、声をあげられない口なんて、いらない。
悔しさで拳を握りしめることができない手なら、いらない。
二人の為に立ち上がれない足なら、いらない。
榊に必要なのは二人の思いを受け、立ち上がるという意思。
罵倒する彼らに食らいつき、貪る。これが榊の本能だ。
これこそが榊大牙が榊大牙である由縁だ。
これを捨ててしまえば、もはやそれは榊ではない。
会場は静まり返り、まるで誰もいない廃墟の様に。
息つく音さえ、鼓動の音でさえ響き渡りそうなほどの静寂。
「凄まじいな…。」
「す、凄い迫力ですね…。」
愛原と天海は驚嘆していた。
「だから、言わんこっちゃない。」
「あーあ、久しぶりに見たよ。」
剣崎と菱上は呆れていた。
それは榊にではなく、愚かな行為をしたシスター・ブラザーの両プロに対してだ。
「やはり、キミは面白いな。大牙…。」
榊の事を知らない人物たちは、わなわなとしている。
すると、進行役の男性が恐る恐る口を開く。
「え、えっと…。」
「ああん!?」
「ひぃ!?」
今の榊はむき出しの神経のようにピリピリとしている。
しかし、榊は進行役の男性の顔を見ているとだんだんと頭が冷静になってきたのか、当初の目的を思い出した。
「ああ、自己紹介ね。パッションプロのプロデューサー、榊大牙!!以後お見知りおきを!!以上!!」
自分でも怒っているのか、真面目にやっているのか榊はわからなくなってしまた。
この事が幸いしたのか、徐々に頭が明瞭になっていく。
「あ、あぁ、えっと…ごめんちゃい☆」
「「ぷっ!」」
いきなりだったもので、多くの人が噴き出した。
「な・・・なによ、いきなり!夢がどうだっていうの!?」
「お、お前らが思っている夢はそんな甘くない・・・そんなものは”幻想”だ!」
さっきまで気おされていた、シスター・ブラザーの2二人が再び榊に噛みつく。
「何やと!?幻想やと!?ん?幻想…はっ!!」
榊は何かをひらめいた。
それは自分が言いたいセリフを思い出したのだ。
そんなものは殺さなければならない。
「そうか…。いいぜ、高ランクプロだからって何でも思い通りにできるってんなら…」
「まずは…その幻想をぶち殺す!!!」
右手を前に突き出し、言った。
きっとみんな自分の言った名言に感銘を受けて、震え上がっているに違いない。
と榊”だけ”思っていた。
「「え?」」
「あれ?」
皆、揃いも揃ってポカンとした表情を浮かべていた。
(あれっ!?なんで!?あれ元ネタ知らない!?嘘やろ!?)
榊の幻想は殺された。
榊の右手には何の能力もない。
あるとすれば右手にではなく全身、榊自体に宿っているだろう。
”平穏殺し”ピースブレイカー、とでも命名しよう。
榊の行くところに必ずといっていいほどひと悶着あるのだから。
とりあえず、頭の中を落ち着かせ、榊は提案する。
「オホン!今のは置いといて!オレがここにいるのが気に入らへんなら、もう来ないでええやろ。そもそもトッププロちゃうんやし。」
「つか、トッププロになったらまた来ればええんやろが?そん時はそこのアホ2つのプロ引きずり降ろしてでも這い上がってきたらええんやろ。」
「なにぃ!?」
「はぁ、もう帰ってええ?必要なこと聞いたし。ほな、さいなら。」
榊は踵を返し、会場を後にしようとする。
「ま、待ちなさい!言うだけ言って、それで済むと思っているの?」
「あん?何が言いたいねん、お前らも好き放題言うとったろうが。」
「貴様!覚えていろ、絶対に吼え面かかせてやる!」
「は?お前誰?いちいち覚えてられるか、モブキャラ。」
「戯言ばかり言って!絶対に潰してやるわ…!」
「底が知れるな、雑魚。だいたい、名も知れてへんプロを潰すもクソもないやろ。てか、お前ら何か勘違いしてへんか?」
「何がだ!」
「潰すんは”オレ”。お前らちゃうわ、履き違えんなクソッタレ。ほなの…。」
榊は扉を開け放ち、出ていった。
宣戦布告ともとれる、言葉を残して。
「何なの、アイツ!」
「お姉ちゃん、大丈夫?」
「絶対許さねぇ…!」
「兄さん…。」
シスター・ブラザープロデューサー双方が、アイドルになだめられていた。
榊がもたらした、混乱によりざわついていた。
「ははは!大牙、キミは本当に興味深い!アタシの想像以上に面白いね!」
「玲音、彼を知っているのか?」
愛原が玲音を見つけ、榊の事を前から知っていたのかを尋ねる。
「やぁ!キミは765のプロデューサーと天海春香だね。いや、つい先ほど会ったばかりなんだ。実に面白いな、彼は!」
「な、中々に強烈だけどね…。」
「何というか、凄いひとですよね!榊さんって。」
天海の言うすごいというのが、どういう意味かはわかりかねるが、少なくとも嫌悪感は持っておらず、むしろ言いたい事を言える榊がすごいと思えたのかもしれない。
「キミ達もな!」
「そんなことはないさ、玲音はもう彼に夢中みたいだな。」
「そ、その言い方はよくないな/// 確かにキミ達も面白いと思う。でもね?」
「ああ。」
「キミ達ははもはや完成された人物だ、魅力もある。本当さ。でもね?大牙にはキミに無い魅力があるね。そんな彼が育てるアイドルに凄く興味がある。これは事実だよ。」
「そう、ですかね?えっへへ。でも、榊さん…どうするんだろう。」
「そうか。まぁ、俺も人の事は言えないな。榊さんの事は何かと注目してしまうな、どうしても。」
どよめく会場の中、菱上と渋谷もそれぞれ言葉を交わしていた。
「本当に、行っちゃった。なんだか、無茶苦茶な人だね。」
「そうだな。だが、注目を集めたのは事実だ。」
「どういう事?」
「渋谷…お前はCDEランクで知っているプロはあるか?」
「…ごめん、すぐには出てこない。パッションプロくらい、かな?」
「つまり、そういうことだ。良くも悪くも大牙は注目を集めさせたんだよ。自分に、パッションプロに。狙ってはいないだろうがな。」
「なるほど。でも悪い噂も立っちゃうんじゃないの?」
「あぁ、そこをどう処理するか…だな。どう出る?大牙。」
剣崎と島村は先ほどの雰囲気に疲れてしまったのか、少し表情が堅くなっている。
しかし、交わす会話の内容はやはり榊について。
「いやぁ、嵐のようだったねぇ。」
「何だか、すごく怒ってましたね…。」
「うん、大牙は自分の周りの人たちが悪く言われるのは大嫌いだからね。」
「そうなんです、か。そうですよね、榊さんならそうかもしれませんね。うーん、でも相手が悪いような気がしますけど…。」
「確かにね。でもそれを言うなら大牙を嗾けた彼らも、かな。」
「それはどういう…?」
「いやいや!大丈夫だよ、大牙ならね。ん?ちょっとごめんね、卯月ちゃん。」
剣崎は菱上のアイコンタクトを受け、そちらに向かった。
「どうしたの?」
「どうする?いくらなんでもこの状況は分が悪い気がする。」
「そうだよね、でも本当にヤバかったらちゃんと大牙も僕たちに言ってくれるんじゃないかな?」
「だといいがな。それにしても、今日”あの人”見たか?」
「ううん、今日は来てないんじゃないかな。彼、あんまり来ないでしょ。御三家そろい踏みにはならなかったね。」
「だな。彼は大牙をどう見ただろうな。」
「うーん、どうかな。ごめんね、僕も彼の事自体は詳しくないから。」
「余計な詮索は無用か。大牙、こんなところでつまづいてくれるなよな。」
「そうだね、大丈夫♪彼ならなんとかするよ、大牙はそんなにヤワにできてないよ。」
剣崎と菱上が誰の事を指して”あの人”と言ったのかはわからない。
ただ、会合に参加した全員が榊という人物について考えていたことは間違いない。
会場近くの公園のベンチに榊の姿はあった。
なにか思い悩んでいる様子である。
「うーん、どないしよ。やっぱやりすぎ、か?でもなぁ…。」
ひどく榊は思い悩んでいた。
それもそうだそのはずだ。
なぜなら
「いくら好きやからって唐揚げ5セットとお弁当3つはやりすぎたなぁ…。」
榊はお昼ご飯について思い悩んでいた。
榊はあの騒動の後、わき目も振らずコンビニにより、ランチを物色した。
こんな天気のいい日は外でのランチに限る、と榊は持論を展開し今に至る。
とても、先ほどと同じ人物とは思えない・・・。
「うっんーーーー!はぁーアイドル、かぁ。」
榊は伸びをしながらアイドルについて考える。
今日だけで様々なアイドルに会った。
しかし、結局どう基準にスカウトするかを決めかねていたのだ。
「ま、成功するとは限らんし、とりあえず当たって砕けないとな。さて、食うかね!あー…」
考えをひとまず棚上げし、榊が食事をしようとした時。
ドサっ!
「ん…あれ?あ、あぁあああ!!!?」
何かがランチのお弁当1つにぶつかり、地面に落下。
お弁当の蓋が開き、中身が地面に無残にもぶちまけられていた。
「だ、誰が…!こんな卑劣なことを!」
「あー、すいませーん!」
「ん!?あいつか…!」
こちらに走ってやってくるのは、見知らぬ少女。
榊からすれば、恐らくお弁当の仇である。
だが、彼らは知らない。
この出会いが、もたらす意味を。
一人のプロデューサーとアイドルたちとの物語が今まさに、始まるということを。