シンデレラと野獣   作:BKCT

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やっと登場します、パッションのアイドルの子が。
では投下します。


第2章 集う意思、違える信念
天真爛漫1


「こっちに何か飛んできませんでしたか…?」

 

「ん?」

 

 こちらにやってきた人影は、小柄で10代半ばもしくは前半の幼さを残す少女だった。

ショートの茶髪のボブカットにパッツンヘアーが印象的で、今時の女子中学生というのに相応しい外見だった。

 

「うっ!めちゃくちゃ恐い人だよぉ…。どうしよう、アタシ殴られたりするのかなぁ…。(あー、えっとぉ・・・。)」

 

「おいコラ、逆だ逆!本音が出てるから!で、どうしたって?」

 

「わわっ!すいません!えっとぉ…こんにちは?」

 

「やぁ、こんにちは♪…ってちゃう!何か用か!?」

 

 何とも変わった少女だ、と榊は思っていた。

 

「あっ、そっち?えっとですね?こっちに何か飛んでこなかったかなぁ…って。」

 

 榊は自分の足元付近を見てみると、小さなサンダルのような物が転がっていた。

恐らくこれのことだろう。

 

「コレか?」

 

「あっそうそう!それです!あ、もしかして、そのお弁当…」

 

「あぁ…たった今息を引き取った。お前のせいでな…!…もぐもぐ。」

 

 少女に恨みをぶつける榊、その口にお弁当を食しながら。

 

「ご、ごめんなさい!ってお弁当まだあるんじゃん!」

 

「うるさい!1号とは別の味を楽しむために買っておいたの!」

 

「買いすぎだよ!?うわぁ、まだもう一個あるじゃん!しかも、から揚げもこんなに…。」

 

「ほっとけ!腹が減って買いすぎたの!ええやろ、別に!」

 

「まぁ別にいいんだけどさ?あっ、このから揚げおいしいね♪」

 

 なんと、少女は榊の買っていたから揚げに手をつけていたのだった。

 

「やろ?オレ、これ好きなんよ!…は?」

 

「え?」

 

「あー!てめぇ!勝手に人様の弁当食いやがって!」

 

「えー、いいじゃん!こんなに一人で食べられないでしょ?」

 

「ぐぬぬ…。何、腹減ってんの?」

 

「うんっ、まぁね!」

 

「たくっ…ほら、これ一個やるからもう行け、しっしっ!」

 

「ひどいなぁ…はーい。」

 

 榊は優雅なランチに戻るべく、どう考えても厄介そうな少女を遠ざけた。

さてランチの続きを、と意気込む榊だったのだが。

 

「むしゃむしゃ。」

 

「はむはむ…。」

 

 さきほど追い払ったはずの少女がなぜか榊の横に座っていた。

 

「おい。」

 

「ん?」

 

「あれ?どうしたの?みたいな顔してんなよ、おい。オレもう行けって言ったはずよね?」

 

「うん、そうだね♪でも、ベンチここしかないし?」

 

「あっれぇ?キミの選択肢にここから離れて食べるというのはないのかな?」

 

「女の子に買い食いさせるの!?」

 

 正論、正論なのだが、どうもしっくり来ない榊である。

 

「お前の場合、盗み食いやろが!はぁ、もういい。好きにせぇ…。」

 

「うん♪」

 

「お前変なやつやなぁ、こんなおっさんとおっておもろいかぁ?」

 

「うんっすっごく楽しいよ、お兄さん!最初は恐くて、殺されるって思ったけど。」

 

「さっきより話を盛るな、この野郎。して、なぜ靴を飛ばす?」

 

「ん?あぁ、ちょっと…ね。」

 

「そっ・・・まぁええけど。」

 

 榊は少女の顔が曇ったのが気になったが、構わず昼食を食べ続けた。

しばらくすると、昼食を食べ終えた榊はいまだベンチに座っている少女に告げる。

 

「ふぅ、ごっそさん。んじゃ、そろそろ行くかね。」

 

「ねっ、お兄さん?」

 

「なん?」

 

「今、暇でしょ?アタシとイイ事し・な・い?っていてて!痛い痛い!」

 

 変なことを口走る少女のほっぺを榊は軽くつねっておいた。

 

「なにを言うか、この口は。」

 

「うぅ、なぜに…。」

 

「変な事いうからやろ。」

 

「変な事ぉ?ほほぉ…イイ事って何の事だと思ったのかなぁー?」

 

 悪戯っぽく舌を出して、笑って見せる少女。

榊はその天真爛漫な笑顔にどこか惹かれていた。

 

「そらお前、ホテルにいって互いのアレをくt…」

 

「わーー!!!嘘!嘘だから!!」

 

 顔を真っ赤にして、少女が叫ぶ。

 

「んで最後にはぐしょぐsy…」

 

「ごめんなさい!ごめんなさい!もう勘弁して///」

 

「んだよ、自分で聞いたくせに。」

 

 悪戯を本気で返す大人もどうかと思うが、榊は正直に少女に伝えようとした。

意外とこの手の話には、少女自身強くはなかったようだ。

 

「まさか、本当に答えるなんて思わないじゃん、普通!ああいう事言うのに躊躇いとかないの!?」

 

「ああいう事って?」

 

「だ、だからその…もう!変態!…///」

 

 少女は、赤くなったまま頬を膨らませている。

榊は怒っている少女には、申し訳ないがとても可愛らしく、癒された。

しかし、いつまでも少女をイジル訳にもいかないので榊は本題に戻る。

 

「へいへい。んで、何?」

 

「あぁ、そうそう!お兄さん暇でしょ!ちょっとコレやろうよ!」

 

「バドミントン?あのねぇ、こう見えてオレ…」

 

「暇でしょ?だって暇そうな顔してるモン!」

 

「どういう顔じゃ!…まぁえっか、食後の運動がてら。」

 

「さっすが、お兄さん♪」

 

 先ほどから、榊はこのお兄さんという呼び方がどうも引っ掛かっていた。

確かにおじさんよりは好ましいが、なんとなくむずがゆかった。

榊はそれに、お兄さんと呼ばれたい訳ではないのだ。

ないのだ。

 

「その、お兄さんって呼び方やめぃ。変に思われる。」

 

「そぉ?んじゃ…お兄ちゃん?」

 

「Oh…。」

 

(あかん!あかん!あかん!)

 

 一瞬お花畑が見えた気がした榊だったが、なんとか向こう側に行かなくて済んだようだ。

 

「どうしたの、お兄ちゃん?」

 

「もっとおかしいやろ。だいたいな、この面のオレやで?俺の妹がこんなに可愛いわけがないやろ!」

 

「かわいい…かな?へへ!じゃあ、どうしよ?」

 

「榊大牙…。オレの名前や。榊でええわ、普通に。」

 

「榊さん!見た目通りの厳つい名前だね!」

 

「どうも、トキワジムのジムリーダーです。うるせぇ。」

 

「アタシは柚!喜多見柚!よろしくね♪」

 

「喜多見…柚ね。ええ、名前やな。」

 

 喜多見柚。

満面の笑みでそう告げた少女。

その笑顔はとても印象的で、榊の中にいつまでも焼き付いていた。

 

 公園の中でバドミントンなんていつぶりだろうか。

そんな事を思いつつ榊は何となしに羽をラケットで返し、喜多見もそれを返す。

 

「へぇ、榊さん上手だね!」

 

「ん?そうなん?こんなんで上手い下手わかるん?」

 

「わかるよ!だってアタシ、バド部だし?」

 

「ほほう、なるほどね。どうりで打ちやすい所に来るんやね。」

 

「えへへ!んじゃ、これはどうかな…!」

 

 喜多見はそう言うと地面を軽やかに蹴り上げ、軽く飛びあがり勢いよくラケットを振り下ろす。

 羽はきりもみ状に回転しながら、自分の胸元に目がけ、飛んできている。

こういう描写なのは榊がここまでの動きが見えているからだ。

 

「ほい。」

 

 着地点がわかれば、返すのはそれほど難しくない。

ラケットの面を胸元に持っていき、当てればいい。

羽は榊のラケットにあたると、勢いを失いながらふわふわと力ない放物線を描きながら飛んでいく。

 

「えっ!嘘…!」

 

 慌ててラケットを前に喜多見は出すが、間に合わない。

羽は地面にふわりと落下した。

 

「あぁ、びっくりした。急に、びっくりするやろ。」

 

「あははは。すごいね!榊さん…割とマジにやったんだけど、もしかして経験者?」

 

「いや?まぁ何回かやったことはある、くらいかな。」

 

「そっか、そっかぁ…。」

 

 喜多見は羽を拾いに行く歩みを止め、立ち尽くす。

 

「ん、どした?」

 

「ううん。ねぇ、榊さんちょっと聞いてもらっていいかな。」

 

「おう、ええぞ。どないした?」

 

「うん、えっとさ?アタシ部活やってるって…言ったよね?それね?辞めようかなって、思ってるんだ。」

 

「そらまた…どした、バドが嫌にでもなったか?」

 

「ううん!違うの、バド自体はすごく好き!アタシね?楽しいこと、っていうのかな?そういう事すごく好きなんだ!」

 

「バドもね?こう、どうやったらいいかとかこうしようとか考えるのすごく好き!こんな球打ったら相手はどうするのかなってね♪」

 

 喜多見は本心からそう思っているのだろう。

とても、楽しそうにバドミントンの話をしている。

その姿はとても無邪気に、けどちょっと悪戯な笑みを浮かべていて。

 お転婆な少女、天真爛漫。

喜多見柚を表すのにふさわしい言葉だ、そんな彼女の笑顔が榊の頭から離れない。

 

「なるほど、ね。」

 

「でもさ…ウチのバド部、もうすぐ廃部になるんだって。」

 

「あちゃ…辛いな。」

 

「うん、ありがと♪それはさ?大会とかでいい成績残せてなかったからだったんだ。でもね、アタシさ。楽しめたらそれでいいかなって、そう思ってたの。そりゃね、大会で勝ったらうれしいよ?でも、それ以上に…アタシは自分自身が、みんなが楽しく笑顔でできたらいいなって!みんなで笑顔!そんなのがね…理想、夢なんだ、アタシの…。」

 

 先ほどまでの笑顔は消え、暗い表情をする喜多見。

榊は自分の事のように辛く、苦しかった。

 

「そうか…。」

 

「もう廃部決まっちゃてるから、もうどうすることもできないけどさ…。頑張ることもできない、アタシがが考えてること自体否定されてるみたいでさ。けっこうヘコんじゃってさ。さっきサンダル飛ばしちゃったのもさ、不貞腐れてやっちゃったんだ、ごめんね。」

 

「いや、大丈夫や。」

 

「えへへ!ごめんね、榊さん。変な話しちゃってさ!アタシこんなだからね?意外と真面目に聞いてくれる人少ないから、助かったよ!」

 

「そう、なのか?」

 

「そうなんですよー♪困っちゃいますなぁー!やっぱ、ああいうの向いてなかったのかなぁ。」

 

 喜多見はおどけて誤魔化しているが、内心はかなりショックが大きいのだろう。

頑張ると一概に言うが、それを行う上で辛い・悔しいという感情は必ずといっていいほど、付随する。

だが喜多見の場合、それすら叶わない、”何か”を頑張る事の”何か”を奪われてしまったようなものだ。

 そうなってしまっては、頑張るというのは無意味だ、それは目的を成すことに必要なツールであって、それ自体が目的というものに昇華しえない。

喜多見もそれを理解しているのだろう。

先ほどの榊の頭に焼き付いている喜多見の笑顔や雰囲気は、どこかへ行ってしまったようだった。

 

「うーん、せやなぁ。向いてない、やろうな。」

 

「は、はっきり言いますなぁ…。」

 

「事実やからな、実際。人が集まる組織ってのは目的が違えば、いずれ崩壊する。政治の政党・会社・部活・宗教もろもろな?恐らく、喜多見さんの部活の本来の目的は、大会でいい成績を残していくこと、やろうな。それが喜多見さんと周りの人が違う目的で動けばいずれ壊れる、ってな訳。」

 

「…だよねぇ。」

 

「あぁ。でもな?喜多見さんの目的、理想自体は否定したわけじゃないからな?」

 

「え、そうなの?」

 

「そりゃ、そうや。ええか?誰がどんな目的・理想・夢を持とうがその人の自由であって、当然な権利な訳よ。まぁそれが人の迷惑になるっていうんはNGやろうがね。」

 

「うん。」

 

「でも、喜多見さんのそれはちゃうやん?みんなで笑顔、やろ?ええ事やないか。だから、勘違いしたらあかんぞ?あなたの夢はな、否定されてないしそんな権利、誰にも無い。やから、持っててええんやで夢。それは喜多見柚自身しか生み出せないもの、大切なものやで?大事にしぃや!」

 

 それこそが、若い人々の宝物になっていくのだと榊は思う。

自身も若いが、喜多見の歳でそういったものを持たなかった榊にとってみれば羨ましかった。

 

「っ!」

 

「あとはそれを叶えるフィールドとステージってだけですわ。」

 

「…うん、うん!」

 

「かぁ!イイ事いったねぇ、オレ。」

 

「自分で言ったからアウトー!」

 

「えー。にしても勘違いだけで良かったわ。だんだん元気なくなるから何事なんか!?って思うじゃないですか。」

 

「えへへ、ごめんね?でもさ、榊さん。何でそんなに心配してくれたの?」

 

「ん?そんなもん喜多見さんは笑顔の方が可愛いからに決まっとるがな。オレの主観で悪いけどね。」

 

「え?」

 

「いやだって、笑顔が似合う人に笑顔でいてほしいって思って心配するのが、悪いか?いいや、オレの勝手やな!」

 

 ふんぞり返って、威張る榊。

あくまで自分の主張の範囲内ということなのだろう。

そう捉える人間は本当に少ないと思うが。

 

「えっ、それって…え!?」

 

「やからさ、喜多見さんが誰かにそんな顔させられたんかとか思うわけですよ。んでそいつをどう説教してやろうか!とか。まぁ、お節介やろうけど。」

 

「そ、そんな事もない…ような///」

 

「そう?まぁ勘違いやったけどさー。すまんの。オレの勝手な思い込みでね。」

 

「う、ううん!大丈夫だよ!?」

 

「だってさオレ見たくないもん!こんな、可愛らしい子が悲しそうな顔するん嫌やってん。」

 

 榊は喜多見の頭をわしゃわしゃと撫でて、伝える。

 

「・・・ふぇ///」

 

「ん?どした?俯いちゃって・・・んん?」

 

 頭に手を置きながら喜多見の顔を覗き込む。

 

「ななななんでもないいぃよ、へへ・・・/// 」

 

 うぶな少女、喜多見に榊は非情の追い打ちをかける。

さらに榊は追撃の手を緩めない。

 

「やっぱ喜多見さん、笑顔のがええな!めっちゃ可愛いで!」

 

 榊は率直な感想述べているだけのようだが、これはもはや口説いているのと言われてもおかしくはないだろう。

 

「あわわ、ちょちょちょっ!ストーップ/// 無理無理無理無理!もう無理!死んじゃう!」

 

「なんや、どした?」

 

「榊さんのせいでしょっ!」

 

「えー…。」

 

 なぜ自分のせいなのだ、っと榊は思う。

当たり前だ。

 年端もいかない喜多見にあまりにも刺激が強かった。

 

「さてと、そろそろ仕事に戻ろうかね。もう大丈夫かな?」

 

「…うん!ありがとね、榊さん♪」

 

 やはり、喜多見の持つ笑顔はとても印象的だ。

榊の胸に強く印象付けてくる。

今まで、多くはないが色々なタイプのアイドルに榊は出会ってきた。

しかし、ここまで名残惜しさを覚えたのは初めてだった。

深く話ができたこともあるだろうが、榊はそういう事ではないと思っていた。

 

「そういやさ、榊さんの仕事ってなーにー?」

 

「んー?アイドルのプロデューサー。つってもアイドルいないけど。んで、これからスカウト。」

 

「へぇ!そうなんだ!そっかぁ…でも榊さんなら、きっといい子見つけられるよ!」

 

「ほう、その心は?」

 

「うむ!そうだねぇ…榊さん、なんだかんだいい人っぽいし。それに、その…/// やっぱ、なんでもない!」

 

「うっわ、雑いなぁ。」

 

「いいの!大丈夫ったら大丈夫!アタシが保証したげる!」

 

「そりゃ、心強いわ。せやな、いい人ねぇ…。」

 

 ふと榊喜多見の方に目をやる。

素質は十分、容姿も申し分なさそうだが。

なにより、さきほどの笑顔が抜群だ。

 

 榊は玉砕を覚悟した。

 

「あぁ確かに、いい人おるわ。」

 

「ほんと!?」

 

「おう、目の前に。」

 

「え?どこぉ?」

 

「お前やお前。喜多見柚、お前や。」

 

「えっ!?アタシ!?」

 

「おう、どうや?やってみんか?」

 

「ええ、アイドルでしょ!?無理だよ無理!アタシ自分が楽しいことする以外の事、あんまり考えたことないし…確かに楽しそうだけど。でも!アタシなんかじゃ無理だよー!」

 

「そんなことは…」

 

 榊はこの子のために何ができる?楽しめることを提供する?この子の可愛さを生かしたい?

 それとも自分の夢を叶えるのを手伝ってほしいっていえばいいのか、榊はどんな言葉をかけてあげればいいのかわからなかった。

確かにこれらすべて当てはまる。

しかし、自分は何がしたい、どうしたいと思っているのかがはっきりしない。

 

有名になりたい

リッチになりたい

夢を叶えたい

喜多見をトップアイドルにしたい

 

 どれも違うように榊は思えた。

はっきりとした答えが見つからないまま、喜多見は榊に告げる。

 

「いいんだよ…!ありがとね、榊さん♪」

 

 喜多見は榊に先ほどまでの笑顔を浮かべてくれていた。

 

 これではっきりとわかった。

榊がどうしたいのかが。

 

 喜多見柚の笑顔が答えだ…!

 

「喜多見さん、オレさっき喜多見さんは笑顔が一番っていったよな。」

 

「えっ…うん。」

 

「そうや、オレは…」

 

 榊はそっと喜多見を見つめる。

答えを喜多見にぶつけるために。

 

「柚、お前の笑顔が見たい。」

 

「ふぇ!?」

 

「お前の楽しそうに何かする所、しゃべる所、ふざける顔。全部、好きなんやわ。オレ。」

 

「すすすす好きぃ!?」

 

「おう、やからオレはお前が楽しめる場所、楽しめる事を見つけてみせる。」

 

「…。」

 

「なぁ、柚。アイドルやってみいひんか?間違いなくおもろいぞ!オレはな?柚が楽しそうに笑っている所もっと見たい。そうすれば、またさっきみたいな笑顔してくれるやろ?やから、オレはそれをそばで見てたい。勝手なんは分かってる。でも!オレは柚の笑顔が見たいんや。あかんか!?」

 

 喜多見は思う。

自分の夢がこんな形になるなんて、と。

自分が笑顔になれば、この人が笑ってくれる、そばにいてくれる。

それが、ただうれしかった。

みんなが笑顔でいられる、そして榊が笑ってくれる。

それが、”自分の夢”なんだと。

 

「もう…狡いなぁ!榊さんは!」

 

「え?」

 

「うん、決めた!アイドル、やってみたい!」

 

「え、マジで!?」

 

「うん♪やっぱり、楽しそうじゃない?ステージに立って、みんな笑顔で歌って踊って…ファンの人も!」

 

「やろ?やろ!?柚は絶対アイドル向いてると思う!ほな、そろそろ行くか!とりあえず、事務所まで案内するわ!」

 

「うん!これからよろしくね、榊さん!」

 

「こちらこそ頼むで!柚!」

 

「榊さんも笑顔でそばに、か。えへへ///」

 

「ん?どした?」

 

「ううん、なんでもない!いこ、榊さん!」

 

「おうよ!」

 

 この選択が、喜多見柚にとって正しいのか、それとも間違っているのか今の榊にはわからない。

自分が我がままなのも、榊は承知している。

だが、自分は彼女の笑顔の為に死力を尽くす。

たとえ何があろうと彼女の笑顔は守る、そう固く誓う榊。

 

 なぜなら、喜多見は榊の”アイドル”なのだから。

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