シンデレラと野獣   作:BKCT

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どうも。
台風がぁ・・・
投下します。


天真爛漫2

 榊が去った後、会合を行っていた会場はいまだどよめきが起きていた。

特に終了という合図もなかった為、皆散り散りになっていた。 

そんな中、騒動を起こした張本人たちがなにやら会話をしていた。

 

「おい、姉川!ちょっと来い…。」

 

「な、何よ?」

 

 姉川と呼ばれた女性。

シスタープロダクションのプロデューサー、姉川舞である。

20代半ばで眼鏡をかけ、パンツスーツに身を包む彼女の名である。

 

「あのクソガキ、なにもんだ?」

 

「し、知らない。今日初めて会ったんだもの。」

 

「チッ使えねぇ…おい、お前らのほうでも奴らを調べておけ。」

 

「いやよ、そんな暇なんて…」

 

「お前が俺に口答えすんじゃねぇよ、お前が独立するときに手伝ってやった恩を忘れんな。」

 

 こう毒を吐く彼の名が、松井弘明。

ブラザープロダクションのプロデューサーである。

やや色黒の、口の悪い中年だ。

 どうやら、シスター・ブラザーには浅からぬ因縁があるらしく、たびたびこの二人が会話なされているのを見かける。

 

「…わかってるわよ。」

 

「あのガキ…徹底的に潰してやる。この業界はそんな生易しいもんじゃねぇってことわからせてやらないとな。お前もきっちり自分の仕事を全うしろ、じゃないとこれから先キツくなるぜ?」

 

「…ええ、了解よ。」

 

 やや不服そうにうなずく姉川舞。

 

「ははっ、いい子だ。お前もムカつくだろ?あんな夢物語を聞かされちゃぁな。」

 

「ええそうね。本当に、そう。」

 

「まっ、テレビ局とかには俺から圧力かけておくから、お前はアイツのアイドルをいびるなり、実力で叩き潰すなり好きにすりゃいい。つか、アイドルが集まる前にあいつ潰れちまうかもな?ははっ!」

 

 下品な笑いをこぼす、弘明。

周囲の目線もはばからず、彼は嘲笑していた。

 

「そうさせてもらうわ、局にあなたみたいな悪いイメージをあの子に持たれたくないもの。」

 

「ひでぇなー、つうかアイドルなんて金を運んでくるだけの馬みたいなもんだろうがよ?」

 

「なっ!あなた自分の弟でしょ!?」

 

「んなもん知るかよ、俺は金がありゃ何でもいい。いいか?今やこの業界ってのはな?アイドル業界っつうのは国内最大規模のマーケットになってんだ、そうでもなけりゃあんな気持ち悪い連中見てられるかっての。」

 

「あなたは…!」

 

 そう怒気を込め、弘明に詰め寄る舞。

 

「文句、ないよな?」

 

「ぐっ!」

 

「じゃ、しっかりな?プロデューサーさん?おい!行くぞ。」

 

「ま、待ってよ!兄さん!じゃ、じゃあね!舞さん!」

 

「ええ。」

 

 弟を引き連れ弘明は会場を後にする。

その別れ際、舞に軽く会釈をした青年は弘明の弟、松井俊樹。

20代前半小柄で細身の俊樹は、とことこと慌てて弘明についていった。

 

 それと入れ替わりに舞の妹がやってきた。

 

「お姉ちゃん、大丈夫?」

 

「ええ、もちろん大丈夫よ。」

 

 舞を心配する、彼女は姉川花。

舞の妹だ。

歳は10代半ば、背丈は舞とそれほど変わらないがサイドテールが特徴的な幼さの残る風貌だ。

 

「またアイツ、何か言ってきたの?」

 

「ううん、なんでもないわ。さっ、貴方は他のプロさんにでも顔を売ってきなさい。」

 

「うん、わかった!」

 

 そういうと、花は走り去っていった。

 

「これじゃ、前と何も変わらないじゃない。」

 

 ブラザープロとシスタープロは元々同じプロだった。

というより、ブラザープロという大きな企業の傘下の企業という位置に、シスタープロはいる。

舞は弘明とそりが合わなくなり、独立した。

というと聞こえはいいが、要はブラザープロのアイドル部門がもう一つ別に移っただけに過ぎない。

 しかし、今のこのB3ランクという地位にいるのも間違いなく弘明からの後押しの部分がかなり大きい。

逆にそれなりの対価、つまりブラプロの引き立て役にさせられるということだ。

更に、弘明の仕事の半分以上を舞がこなし、俊樹のマネージャーのようなことまでさせられている。

 だが、どんな事でも舞は耐えてきた。

花がアイドルとして成功するのなら、と。

だからこそ榊の存在が癪に障った。

人の夢の為に立ち上がった榊は舞にとって、身を焦がすほど眩しかった。

疎ましかった、憎らしかった…なにより、羨ましかった。

 この業界の厳しさは痛いほど舞は分かっている。

だからこそ、榊の言ったことを夢物語だと、認識している。

分かっているのだ、そんなものじゃ夢なんて叶えられないと。

 

「鬱陶しいのよ…本当。」

 

 

 

 

「ぶえっくしょい!!あれ?風邪ひいたか?」

 

「大丈夫?榊さん。」

 

「おう、無駄に元気元気。さてさて、着きましたよ柚。」

 

「へぇ、ここが…。」

 

「おう、ここがパッションプロや。」

 

 榊達はパッションプロの事務所に到着していた。

 

「何というか、地味だね。」

 

「コラ、言葉を濁せ。これでも一応、レッスン場とかボイトレするとこあるんやからな?あとトイレも。」

 

「いや、あってよ!トイレくらい…。」

 

 榊達はエレベーターを使い、上へと昇る。

パッションプロダクションは1Fがロビー2Fがレッスン場3Fが事務所そしてRFがある。

 喜多見は地味と言ったが、それなりの建物である。

 

「さてここが、事務所の階ね?んであとトイレがあっちの突当りな。あっ、ちなみに1Fのトイレの場所は…」

 

「何でトイレの場所ばっか教えるの!?アタシそんなに近そうに見える!?」

 

「ばっかだなぁ、備えあれば憂いなしや。緊急時に役立つぞ?ほら、あるやろ?やばい時…。」

 

「ま、まぁ…あるっちゃあるけど。って何言わせるの!?」

 

「さぁ、行くでー。」

 

「無視しないでよ!?」

 

 榊は事務所のドアを開ける、榊の後に続き喜多見も中へと入っていく。

 

「ただいまー。」

 

「し、失礼しまーす。」

 

「おーい、ちひろたん?おーい。ん?お、いたいた…って、え?」

 

 榊の目に千川…だったものが机の上で呆けていた。

体が白くなり、果てているようだ。

 

「ダメだ!物言わぬ化石のようになっている…!」

 

「ぷろでゅーさー…さん。」

 

「なんだ、生きてたのか。どったの?」

 

 見る見るうちに千川の顔に生気が戻り始めた、怒りで。

 

「どうしたもこうしたも何もないですよ!?何してくれてんですか!?」

 

「やっべ、やっぱ昼飯食いすぎ?」

 

「ちげーよ!んなこたぁいいんだよ!プロデューサーさん言ってましたよね?オリエンテーションってとこかぁみたいなことを!」

 

「おう、言ったな。実際そんな感じやったぞ?」

 

「ですよね!?ね?それがどうして…」

 

「ん?」

 

「ブラプロとシスプロに喧嘩を売ることになるんですか!?ずっと謝りっぱなしの電話なりっぱなしですよ!?どうしてこんなことになったんです!?しかもしかも、トッププロ会合から離脱するって聞きましたよ!?一体全体どうしてこうなったんですか!?」

 

 怒涛の勢いで、千川は榊をまくしたてる。

無理もない、先ほどまでほぼクレームの電話が鳴りっぱなしだったのだろうから。

 

「むしゃくしゃしてやった、後悔はしていない。」

 

「容疑者か!ったく!入社1日目で一体どういう…ってあら?」

 

「あはは…どうもー。」

 

 榊の陰になって見えなかったのか、はたまた怒りで千川は周りが見えなくなっていたのかは定かではない。

ようやく千川の目に喜多見の姿をとらえることができた。

 

「プロデューサーさん、その子は?」

 

「えっへん!うちのアイドル第一号じゃー。パチパチ!ほら、柚ー自己紹介をこの緑色の人に。」

 

「うん!喜多見柚です!これからよろしくお願いします!」

 

「あら、柚ちゃんっていうのね?可愛らしいわね!さすが、プロデューサーさんですね!」

 

「せやろ?どんなもんだい!っという訳で、柚。後はこの緑色がくーわしく色々教えてくれるからな?オレはちょっと用事が…ってことで!」

 

 そういって誤魔化すと榊は、逃走の構えに入る。

 

「逃がすか!!事・情・を!説明してくださいね!!」

 

「うわーん、柚ー。緑色がいぢめるよぉ。」

 

 しかし、そうは上手くいかなかった。

 

「可愛そうに、榊さん。アタシが慰めてあげる。」

 

「ありがとう、柚。」

 

「榊さん…。」

 

「柚…。」

 

「スタァァァァップ!!!おかしいでしょ!?」

 

 すさまじい勢いで、榊と喜多見の寸劇を止める千川。

 

「「えー。」」

 

「仲良いね!?早く事情を説明してください!!」

 

「しゃーないなぁ。では簡潔に。」

 

「どうぞ!!」

 

「あいつらの言葉使いが気に入らなかった、顔がムカついた。だから言い返してやった。以上!」

 

「はい、アウトー!!なんですか、それ!!どんだけ気が短いんですか!?」

 

「なぁ、柚ー。オレ何か悪いことしちまったかなぁ…。」

 

「大丈夫だよ、榊さん。アタシが側にいてあげる…。」

 

「柚…。」

 

「榊さん…。」

 

「もういいよ、それ!!!はぁはぁ…もう、何だか疲れてきました…。」

 

 二度目の寸劇もすかさず止めに入る千川。

しかし、無駄に体力を使いすぎたのか、その顔には疲れが見え始めていた。

 

「全く駄目だなぁ、緑色は。そんなんで根を上げちゃ。」

 

「そうだよ?緑の人?」

 

「千川です!!千川ちひろ!!!私の名前ですからそれが!!!…ってほらまた電話が。」

 

 事務所内に電話のコール音が響き渡る。

まだ仕事もないのにかかってくるとしたら、それは苦情の電話。

 

「いやだなぁ…出たくないなぁ。」

 

「ったくしょーがないなぁ、千川みどりは。オレが電話対応の神髄を見せてやるから、よぉく見とけ!」

 

「ちひろです!!本当ですかぁ??」

 

「よっさすが榊さん♪いっちょやったげて!」

 

 そういうと電話の受話器を取る、榊。

果たしてうまくいくのだろうか。

 

「任せろ!もしもし、パッションプロでございます。はい、ブラプロ様ですか、お世話になっております。」

 

「おっ、結構いけるんでしょうか?」

 

 意外にも出だし好調な榊に、素直に驚く千川。

無論、出だしは。

 

「はい、あっですから…いえっそt…。申し訳ありm…。はぁ…うっさい黙れ!二度と電話してくんな!!」

 

 ガシャンと勢いよく榊は受話器を置く。

 

「いやぁ、危なかった。オレオレ詐欺だったぜ。安心しろ撃退してやったぜ?」

 

 グッっと親指を突き立てる榊。

 

「わぁ!さすが、榊さん!これで安心だね♪」

 

「あぁ!」

 

「ちょいちょいちょいちょい!!!何て事してやがるんだい!?」

 

「「えっ?」」

 

「えっ?じゃないですよ!?オレオレ詐欺な訳ないでしょ!!!今の電話はブラプロさんからでしょ!?」

 

「なっ!何て事だ…!オレオレ詐欺が偽装…だと?本物だったっていうのか?」

 

「当たり前だろぉが!!どうすんですか、コレ!!」

 

「榊さん!しっかり!」

 

「あ、あぁ…すまない、柚。もう大丈夫だ。ん?」

 

 またしても事務所の電話が鳴り響く。

 

「あぁ、いいです!私が出ますかr・・・」

 

「ぬぶちぃ!!!」

 

 榊は電話線を抜いた。

これにて一件落着。

 

「んなわけないでしょ!!!」

 

「いやぁ、最近迷惑電話増えたなー。」

 

「え、いやマジにどうすんのコレ。」

 

「どうした、緑川ちひろ。浮かない顔してるな?」

 

「千川です、はい。…どうすんの、コレ。」

 

「もう心配性やな、ちひろは。大丈夫、大丈夫。こんくらい。」

 

「ど・こ・が・で・す・か?」

 

「ん?いやオレはオレなりにあいつらみたいな電話でなくていいと思ったから切ったんやで。」

 

「だからどうして!?」

 

 特に悪びれる様子もなく、榊は千川に向き直る。

 

「いやさ、苦情の電話ってのやったらやで?んでこっちに非があるんやったらしっかり対応するべきやろうと思うで、どりゃ。でも、今の電話はホンマオレオレ詐欺とかそういう嫌がらせとか迷惑電話やぞ?そんなんいちいち対応せなあかん訳ないやろ。」

 

「でも実際喧嘩を煽るような口ぶりで、と言われましたし。」

 

「クレームとか苦情ってのは何か自分に不利益な事が起こった場合のみ、や。要は向こうがオレの態度が気に入らんかっただけやろ?オレの主張と変わらんやん、そんなもん。その証拠にブラプロとシスプロ以外から苦情電話あったか?迷惑かかった、とか。」

 

「…いいえ。それはなかったです…けど。」

 

「せやろ?ちひろは真面目やからそう取るんかもしれんけど、簡単に言うたらあんなん因縁ふっかけてわぁわぁさわいでるクソガキと一緒やぞ?そんなんにうちの事務員を対応させる訳にいきませんわけで。あんなん放って置いてええよ、電話代節約で感謝されてもええくらいやわ。そんなアホほっといて…柚の方がよっぽど大事やろ、うちにとって。ちゃうか?」

 

「う、うーん…。そうですけど。むむ、何か上手く言いくるめられた気が…。」

 

 うんうんと唸っている千川。

もちろん榊の言っていることは、出鱈目で論理も根拠もない。

だが、榊にとって喜多見の方が大事なのは嘘でも何でもなかった。

 

「はっはっはっ!そんな訳ないだろう?(誤魔化せ・・・!)」

 

「ま、まぁいい…でしょう。とりあえず、ですからね!…そうですね、柚ちゃん!これからよろしくね?」

 

「うん、よろしく♪ちひろさん!…ねぇ、榊さん?」

 

「ん?どした?」

 

「アイドルってまず何をすればいいのかな?」

 

「あっそっか。何すればええんや、ちひろ?」

 

 質問をそっくりそのまま、千川に投げ返す榊。

榊自身、入社一日目であるのでそこは仕方がなかった。

 

「知らんのかい!」

 

「そりゃそうだよ、素人だもの。まだうちにアイドルがいた…いや、モバプロの頃はどないしてたんや?」

 

「そ、そうですね。まぁ基本的にはプロデューサーさんの方針によりますけど、まずテレビに出たいのであればオーディションを受けてもらったりとか。ラジオや雑誌のお仕事でしたら、営業に行かれるとか。お仕事の話だとざっとこんな所ですかね?まぁ、ライヴバトルやフェスなんかも慣れてくれば参加していく、とかですね。」

 

「ふーん。あ、オーディションとかフェスなんかで使う曲なんかはどないしたらええんや?」

 

「うち宛に届けられている音源は全て使っていただいて結構ですよ。これくらいですかねぇ、モバプロから引き継いだ遺産と呼べるものは。ですから、音楽や音源といったものは社長の方にお任せで大丈夫だと思いますよ!そのあたりは、多少ですけどコネクションを社長はお持ちですので。」

 

 少し、胸をなでおろす榊。

さすがに音楽まで、自分自身で当たるということになるとなるといささか厳しいものがあった。

 

「ねぇ、衣装はどうしてるの?」

 

 榊ではなく、喜多見が千川に質問する。

そこはやはり年頃の少女、可愛らしい服を着たいに決まっている。

 

「衣装もうちに何着かあるから、それを使っていいわよ。後は別途購入という形になりますね。」

 

「へぇ、けっこう色々あるんやな。」

 

「そーですよ?だから、頑張ってもらわないとプロデューサーさんには!ちなみにプロデューサーさんはどういったアイドルにしたいとかどういった活動していくといった思案はありますか?」

 

「うーん…たとえば?」

 

「そうですね、歌が上手いアイドルにするとか。はたまたダンス・表現力なのか。グループなのかシングルなのか、人気をとるか実力をとるか。ざっとこんな感じでしょうか。いかがです?」

 

「せやなぁ…」

 

 頭の中に思い描いていた、アイドル像を榊は整理していく。

自分が育てるアイドルにどういう風になってほしいか、どういう輝きを放てるか。

アイドルは、輝く星になりたいと夢を見る人々。

ファンはそんなアイドルに夢を見る人々。

 アイドルは光を与える仕事、いわば太陽みたいなものだろうか。

ならば少しでも欠ければ、光が届かない人もいる。

榊の考えは固まった。

 

「全部。」

 

「え、全部ですか!?」

 

「おうよ、実力があれば人気も少なからず比例するもんちゃうかなぁ。何かに特化した、というのはその突出した部分は確かに魅力的で人を惹きつけるやろうけど、人ってのは悲しいかな欠点の方に目が行きやすい。やからオレが考えるのは長所を伸ばす事も大事やけど、極力弱点を減らすことに重点を置きたいんやわ。まぁ器用貧乏に聞こえるやろうけどそれを極めればある意味、完全無欠な訳やから。」

 

「なるほどねー。うぅ、ちょっと不安になってきた。」

 

 少し榊の言ったことに、戸惑いを感じる喜多見。

確かに、急にハードルが上がったようなもの、戸惑いは必然だ。

 

「何、焦る必要なんてないない。ゆっくりでええよ、柚。オレも何も分かってへん素人同士、一緒に成長してけばええんや。」

 

「うん、分かった!」

 

 喜多見の不安そうな顔を見て、榊はすかさずフォローを入れる。

ある意味榊も喜多見も、右も左もわからない新人同士。

足並みをそろえて、共に頑張っていくことはそれほど難しい事ではない。

 

「では、プロデューサーさんは柚ちゃん一人での活動を考えているんですね?」

 

「うーん、それは何ともね…今の所、柚しかおらへんからそういう事にしか頭回らんけどな。でも、柚にとっちゃ仲間はおった方が心強いかもしれんし。」

 

「うん、確かに…。そうかもしれないね。励ましあうっていうのもいいって思うしね!」

 

 喜多見は榊にそう告げる。

これから先、共に頑張っていく仲間がいることは非常に心強いに違いない。

 

「では…これからもスカウトは続けていくというのはどうですか?まだまだ世の中には榊さんと出会う運命の子がいるかもしれませんからね。」

 

「何と不運な子か、その子。それもそうやな、まだ具体的なことを決めるんは早計な気がするわ。とりあえず、ぼちぼちやっていこで、柚。」

 

「了解だよ、榊さん!」

 

「あの、いい雰囲気の所言いにくいんですが…。」

 

 どうも居心地悪そうな表情で、切り出す千川。

なにやら、厄介な事情がありそうだった。

 

「どした、ちひろ?」

 

「あの、普通ならレッスンにはトレーナーさん、ライブ衣装などはデザイナーさんなどを雇うんですけどね、実は…。」

 

「おお、なんや?」

 

「予算の都合上、ボイトレ以外はプロデューサーさんにお願いしたいと思いまして…。」

 

「あーなんだ、そんなことかぁ!…は?」

 

「すいません、ボイトレさんにも予算ギリギリで…。」

 

「おい、待て!?筋トレならともかくダンスとか無理ぞ!?衣装とかも無理でしょ!?そうでしょ!?」

 

「頑張ってくださいね!」

 

「榊さん、頑張ろうね!」

 

 女性二人から、熱い?エールが榊に送られる。

悪い気分では無いが、なんともいえない気持ちだった。

 

「ぐぬぬ…はぁ。とりあえず、当面はレッスンに時間費やすぞ、柚。何もかも手探りですまんがな。さて、とりあえず今日のとこはこんなもんやろ?」

 

「そうですね、柚ちゃんに関しては親御さんにも言っておいてもらわなくちゃなりませんからね。」

 

「あっそっか!じゃあ、学校終わればここに来ればいいのかな?」

 

「そんな感じでいいんとちゃうか?ちひろ、ちょっくら柚送ってくるわ。」

 

「分かりました、その後はもう帰宅していただいていいですよ?今日はまだ1日目ですし、取り立てて急ぎの用もないですから。」

 

「へいよ、じゃ準備するから。柚、下で待っててくれ。」

 

「うん、ありがとね榊さん!じゃ、待ってるよ♪これからよろしくね!ちひろさん!」

 

 喜多見は足取り軽く、事務所の扉を開けて出ていった。

全く、元気な子である。

 

「それにしても会合の件はともかく、アイドルをもう見つけてくるなんて見事というしかありませんね。」

 

 千川はこれに関しては素直に、感心していた。

剣崎や菱上も言っていたが、まずアイドルの卵を見つけること、これが難しいのだと。

 

「まぁ、たまたまや。それにまだまだこれからなんやろ?それまで褒めるんは置いといて。」

 

「ふふ、それを抜きにしても流石ですよ。柚ちゃんがいなかったら、スタートにすら立ててないんですからね?どうやって声をかけたんです?」

 

「ん?あぁ、実はオレが探し出して声かけてスカウトって訳じゃないんよね、柚は。偶然にも向こうからやってきてくれたから、今回はタナボタやけどね。自分で見つけるとなるとそう簡単じゃないやろな。」

 

「なるほどぉ、ふふ。それも榊さんのお力のおかげかもしれませんね。」

 

「んなことはないで?さて、先で悪いが、上がらしてもらうわ。またね、ちひろ。」

 

「お疲れ様でした、プロデューサーさん。」

 

 榊は雑に鞄を拾うと、入り口に扉を開けこちらに一礼して扉を閉めた。

意外と律儀な所もあるものだ、いささか失礼な事を千川は思ってしまった。

 

「うむ、わざわざすまないね。でわ…。」

 

 榊と喜多見がいなくなったことにより、事務所内の声が小さくてもよく聞こえてきた。

社長室の方で、社長はさきほどから個人の電話にでていた。

 

「ふぅ。おや?さきほどまで彼がいたのではなかったのかね?」

 

「社長…ようやく電話終わりましたか。全然クレームの対応してくれないんですもん。で、先ほど榊さんは帰りましたよ。」

 

「そうかい…。彼はその件について、何か言っていたかい?」

 

「むしゃくしゃしてやった、とか言ってましたけど…まぁ冗談でしょうけど。」

 

 千川は結局、具体的な理由を聞けてないことに今更ながら気づいた。

 

「やはりね…。実はね私の元に3件も着信があってね。」

 

「どなたからです?」

 

「愛原君・剣崎君・菱上君から、ね。”恐らく反響があるとは思うが、彼を責めないでやってほしい”、とどれもこのことだ。」

 

 どうやら、3名は榊をフォローする旨の電話を社長に入れてくれていたらしい。

 

「どういう事ですか?事情をご存じなのですか?」

 

「あぁ、私が言ったことは彼には伏せておいてほしいんだが、どうやら我々二人の為に彼は激怒したらしいのだよ。」

 

「え?」

 

「以前、参加した際にもブラプロ・シスプロやその他のプロにも色々言われたことがあるとは思うが、同じようなことを彼に言ったらしいのだよ。弱いプロが夢なんて持つなとね。」

 

 社長や千川にも、同じような苦い思い出があった。

それを常に耐え続けていたのだ。

 

「彼…こういったそうだ、”社長とちひろの夢を笑って踏みつぶす様な奴はオレがぶっ潰す”、とね。」

 

「えっ。」

 

「確かに彼がしたことは正しいとは思わないよ、ああいう場では特にね。ただ、胸が熱くなってしまってね。歳のせいかね。」

 

「いえっ私も、ですから。プロデューサーさん…。」

 

「全く大した度胸だよ、あんな場所で完全アウェイの中でこんな大立ち回りをしたんだからね。彼にはこれからも驚かされそうだよ、ハハハ!」

 

「全くですよ、もう。ふふ…社長、なかなかの曲者を雇っちゃいましたね。」

 

「ああ、そうだね。だが、後悔など一切ないよ。」

 

「確かに口は悪いし、すぐふざけるし、人を笑いながらイジるのが好きなドSさんですけど。それでも…」

 

「プロデューサーさんが同じ夢を追いかける仲間なのは、とても…心強い気がします。」

 

 

 

 

 榊は柚を自宅へと送るべく、愛車のアレクサンダーにて柚に道案内を頼んでいた。

 

「ねぇねぇ、あれくさんだーってなに、榊さん。」

 

「ん?こいつの名前さ、こいつは中々のじゃじゃ馬でさ。」

 

「あっそ。」

 

「おい、聞いといて何だそれは。車内でいちゃいちゃしてやろうか。」

 

「な、なにいってんの!もう///」

 

「冗談や。なぁ、柚ー。お前、まずアイドルになって何がしたいー?」

 

「んー、そうだなぁ。テレビとか雑誌とかも出たいけど…やっぱりライヴがしたい、かな!」

 

「ライブか、確かにおもろそうやもんな。」

 

 喜多見と榊のアイドル像は少し似ている認識があった。

それはアイドルとえば、ライヴ。

これに関して、二人は共通認識として持っていたようだ。

 

「うん!きっと楽しいよ、絶対!だから、アタシ頑張るね!」

 

「おう。ただし、無理・無茶だけするな、ええか?」

 

「うんっ、わかった!あっここでいいよ!」

 

「あいよー。んじゃまた来週からよろしく頼むでアイドルさん。」

 

「えへへ…うん、これからもよろしくね、榊さん!じゃあね!」

 

「んじゃな!」

 

 喜多見は車からひょいと身軽に降りると手を振りながら、自宅であろうマンションに駆け込んでいった。

 それを見届けると榊はタバコに火をつける。

さすがに喜多見にタバコの匂いを移すわけにもいかない。

 

「すぅ…。さてさて、これからどうなるのかね。」

 

 榊は頭の中にいくつか考えを巡らせていた。

柚の事、これからのアイドルについて、自分の行動について。

そして、あの2つのプロダクションについて。

 

「少し、調べるか。」

 

 そういうと榊はブレーキを離し、アクセルを踏み込む。

考えをまとめ、踏み出した。

 

 翌週のパッションプロダクション。

 

「おはようございます、プロデューサーさん。」

 

「うーっす、ちひろ。」

 

 朝の挨拶も漫ろに榊はちひろに切り出す。

 

「あんさ、ちょっと今から出てきてええか?」

 

「構いませんが、どちらに?あっ、もしかしてまたスカウトに出かけるんですか?」

 

「それもある。ちょっと何件か営業しに行ってこよか、とね。柚が来るまでには戻ってくる。」

 

「分かりました、動きが早いですねぇ!気をつけて…!」

 

「さんきゅ、んじゃ行くわ!」

 

 そういうと、榊はそそくさと事務所を後にする。

 

「えっと確か、昼からやな。それまでは営業行くか、確かめたいこともあるし。」

 

 そういうと、榊は足早にパッションプロの事務所を後にする。

 

 

 

 

「いえいえ、こちらこそ突然すいません。…やっぱ、ダメか。」

 

 事務所を出てから3時間弱、回った個所は8件。

なぜ、こんな数を回れたのかそれは単に門前払いが多いからだ。

パッションプロという名前を出すや否や、お断りといった感じだ。

しかし、ある意味それを榊は確かめに来たのだから。

 

(思った以上に動きが早いな、影響力もそこそこにあるということか。流石大手プロといったところやの。だが…。)

 

 榊は疑念を確信に変えるための確証を得る為に来ていた。

それはブラプロ・シスプロの影響力をだ。

喜多見を送って行った後、彼らが出演する番組やラジオをチェックし、多く出てる局を4つ回った。

 やはり、手はすでに回してきていた、大方パッションプロの悪評でも流したのだろう。

 では、残り4つ。

それこそ、榊が抱いた疑念を確証に変えるカギだ。

 

(奴らを嫌っている者も確実におる、ということや。)

 

 話を聞いてるうちに判明してきたが、彼らはやはり自分より下と思っている相手に対しては横柄な態度を取る。

ああいう手合いはそうだろうな、と半ば自笑気味に榊は苦笑する。

そして、ブラプロ・シスプロとの関係性がブラプロ>シスプロということも榊は知った。

なら狙いも自ずと決められてくる。

 

「よっと。」

 

 榊は大きな施設の近くの柵に腰を落ち着かせ、考えをまとめる。

 

(狙うべきはまずシスプロ。奴らの悪態という弱点を突くしかない、そこを利用させてもらいますか。)

 

 そこまで考えると、いったん思考を停止させる榊。

 

「あーあ!こういうことだけは何ですぐ思いつくんやろな。やっぱ性格悪いのぅ、オレ。」

 

「けど…やるで。」

 

 あんな奴らの下らない圧力・権力で屈するわけにはいかなかった。

社長と千川の夢を踏みつける汚い足などに、踏みつぶさせるわけにもいかない。

 そして、こんなくだらない事を生まれたてのアイドルの柚に背負わせたくなかった。

別に奴らを貶めるつもりはない、プロデューサーの榊大牙がしなくてはならないものとは。

 

「余計なモンを払い除けて、アイドルに綺麗な階段を登らせてやること…。」

 

「そう、なぜならアイドル達はみな綺麗なしんでr…ぐがぁ!!!」

 

 急に榊の頭に衝撃と激痛が走る。

 

「いってぇえええ!!!今、カッコ良く決めるとこちゃうんかいな!!?いっててて…誰やねん…ん?」

 

 すると榊の足元には野球ボールが転がっていた。

 

「なんでこないなとこに?」

 

 頭をさすりながら、不明瞭な頭で精一杯榊はそれを認識しようとする。

 

「あん?ここ、野球場か?」

 

 そこはどこかの学校のグラウンドという訳ではなく、球場だった。

季節は春まっさかり、つまり。

 

「そっか、高校野球か。いいね、青春!ちょっと覗いたろ!」

 

 榊はさきほどの痛みなど忘れ、軽い足取りで球場へと足を運ぶ。

先ほどの憎きボールを握りしめて。

 

 季節はうららかな春、もうすぐさくら舞い散る美しい季節。

青い春、まだ芽吹かない蕾が一つ…それを榊は見つけるのだ、この場所で。

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