私個人色々ありまして、なかなか時間をとることができませんでした。
デレステとかプラスタとか。
というのは冗談です。
リハビリもかねての投稿になります。
色々ひどいところもありますが、何かございましたら仰ってくださいませ。
「まさか…こんなにも早く行動に出るとはね…。」
「プ、プロデューサー…このパッションプロって榊さんの所ですよね?」
「ああ。一体何を考えているんだ、あの人は…。」
765プロの事務所で愛原はうんうんとうなっている、原因はもちろん榊だ。
愛原は事態をよく把握していない為、詳しくはわからないが…わかることもある。
これが無謀だということが。
「だ、大丈夫ですかね…。確かパッションプロにはアイドルがいないんじゃ…まさかっ!」
「ああ、おそらくな…。」
「榊さんがアイドルに!?」
「のわっ!?そ、それは違うと思うぞ雪歩…。」
あまりにも突飛な考えに椅子から転げ落ちそうになる愛原。榊の見た目、言動からしてアイドルというのはあまりにもかけ離れているため、とても雪歩のいう考えに至るはずがなかったからだ。
「オホン!…まぁおそらく目星をつけている子がいるんだろう。だがあまりに無謀すぎやしないか…?」
「た、確かに…後1カ月ですもんね。そんな短期間で一体どうするつもりなんでしょうか…。」
「分からない…分からないがこのままいけば間違いなく、彼は負ける。」
愛原の言うことは正しい。単に実力どうのとかそういう次元ではなく、あまりにも無理があるのだ。
アイドルに成り立ての子…つまりは人前に出ることになれていない人間がいきなりライブを行う、ということなど土台無理な話で、緊張で歌を歌うどころではないだろうから。
「榊さん…大丈夫、かなぁ…。」
雪歩もこの勝負が難しいかということが、よくわかっている。現に彼女もライブ中はいまでも緊張するし、体が震えてくる…。
それをよくわかっているのだ、だからこそ彼女は榊を心底心配している。
「無事に終わるといいが…。」
「ねぇ…やっぱこれ止めたがよくない?どう考えても無理ゲーでしょ?だってまだ大牙んとこにアイドルの子が入ったっていう情報なんて無いよ?」
「あぁ確かにな…アイドルがいなければ話にならんからな。」
「あ!何か考えがあるのか…な。うん、ないよね多分。大牙だし。」
「そこはかとなく馬鹿にしているように聞こえるが。あれでも少しは考えてるんだぞ。…多分。」
喫茶店の店内で同じく頭を悩ませているのが、剣崎と菱上である。
合同ライブの打ち合わせで二人は会っていたのだが、もはやそれどころではないようだ。
「蓮三だって…。と、とにかく!大牙に言ってやめさせようよ!今ならまだ取り消しできるかもしれない!」
「そうしたいのはわかるが、難しいだろうな。」
「なんで?右も左もわからなかったので、って口添えしてあげればいいじゃん!」
「もちろんそうするさ、まぁ協会の方はなんとかなるかもしれないが恐らく大牙がそれを断るだろう。君もよくわかってるだろうあいつの性格を。言い出して人の言う事なんて聞いた試しがない。」
「うっ…確かに。でもいくらなんでも無謀すぎるよ。何を考えてるんだろう…大牙。」
「さぁ…な。十中八九負け戦だが、果たしてどうでる…?大牙…。」
この仕事を榊よりも長く続けている彼らもやはり無謀だと判断する。
当然だろう入社後1ヶ月でミニライブとかではなくライブバトルなんて聞いたこともないし、もっての他だった。
それに、パッションプロにはアイドルがいないことも承知している。
それゆえに彼らは動かざるを得ないのだろう。
これが如何に無謀かをわかっていない榊に教えに行く為に。なによりもこんなところで友人に躓いてほしくないのだろう。
「とりあえず、今度連絡とってみて一応説得してみる。」
「なら、私は今すぐパッションプロに行こう。幸いこれからしばらく打合せの予定だったからな。全く…飛んだとばっちりだ。」
「あっ僕も行くよ!ホントだね…今度なにかご馳走してもらおう。んじゃさっそくいこ!」
足早に喫茶店を後にする剣崎と菱上の二人。
一刻も早く榊に伝えなければならない、そのことで頭がいっぱいだった。
どうやら当初の目的がすっかりすげ変わってしまったようだった。
「ホントに彼は次から次へと…やってくれるね!」
そう息を巻いているのは、次のライブに向けてのリハーサル中だった玲音だ。
「面白いねぇ…でもその無謀さはどうだろうね。アタシが評価したのはキミの無謀さではないよ、そういうとこはアタシは寧ろイヤ…かな。」
玲音は榊の事を買っている。何が彼女の琴線に引っ掛かったのかはわからない。
しかし、彼女が買っているのはこんな無謀な事をするからではない。むしろこういったアイドルとしての行いを軽んじられているんじゃないか、と思ってしまう愚行に苛立ちを覚えていたのだ。
「キミがどういう考えや信念を持っているのか…これで見極めさせてもらうよ…。さてっ!続きをしようか!」
そういって彼女は静かに携帯を置いた。
彼女には見定める必要があるのだ。榊大牙が自分と同じフィールドで凌ぎあっていけるのかどうか、自分のライバルになりうる人物なのかどうかを。
「ど、ど、どうすんのコレェ!?」
「あははぁ…参ったなぁ…。」
パッションプロダクション内で悲鳴をあげる千川と深いため息をついている社長。
同じ会社に所属しているはずなのだが、まさに今回の件は寝耳に水だったようだ。
「ま、まぁ…練習だと思えば…。」
「そういう問題じゃないですよ!?柚ちゃんたった一人なんですよ!?そんな大変な思いさせられませんよ!」
「う、うむぅ。しかし、彼は一体どういう考えなんだろう…。彼が喜多見君を軽んじたり、蔑ろにするようには見えないのだが。」
「そりゃ、そうです…けど。でも!これはあまりにも急すぎますし、柚ちゃんがかわいそうですよ!」
「まぁ少し彼に話を聞いてみなきゃいけないね。」
「全く、こんな時に一体どこをほっつき歩いているのかしらあの人は!」
「おや?」
事務所の呼び鈴が鳴る音が聞こえた。
「あ!帰ってきましたかね!もう!!!どこいってt…」
「ど、どうも。」
「お、お邪魔でしたかね?」
見当は外れて榊ではなく、剣崎と菱上であった。
とんだとばっちりを受けてしまったようだ。
「す、す、すいません!私てっきり!」
「いえいえっ!えっと、彼はいない…ですか。」
「そうなんだよ、我々も彼の帰りを待っていてね。」
「そうでしたか。うむぅ…どうしようか。」
「もしや、例のライヴバトルの件だったり…?」
「ピンポン、正解ですよちひろさん。それを説得しようかと。」
「よければここで待っていてはどうかね?もうすぐ帰ってくるだろう。」
「どうする?そうさせてもらう?」
「では、待たせていただきます。そんなに長くはおれませんが。」
「構わんよ。」
剣崎と菱上は応接間に案内してもらいそこでしばらく榊の帰りを待つことにした。
「粗茶ですが、どうぞ。」
「ありがとう♪ちひろさん。」
「ありがとうございます。」
「やはりお二人も、例のライヴバトルは反対ですよね?」
「えぇ、他社の私たちが口出しすることでもないのですが、その様子を見ると止めにきたのもあながち間違いではなかったかと。」
「だね、僕もさすがに時期尚早すぎるかなって。もっと彼には色々知ってからそういうのにチャレンジしてもらいたいと思いますし。」
一般的に考えて、他社の人間が口を出すことでないのは二人も承知していたが、今回の件が榊の独断で決められたことなのは大方予想していた。
「お優しいんですね、お二人とも。」
「いえいえ、まぁ問題は彼が我々の言う事を聞いてくれるかどうか…。」
「そこだよね…ほんと難しいからなぁ~!」
「やはりお二人も苦労されたようで…。」
「はい。」
「ええ、すごく。」
「はぁ…。」
三人がシンクロするように溜息をこぼす。どうやら、彼にはみんな手を焼いているようだ。
これぞ、トラブルメイカー。本領発揮である。
時間は過ぎるが一向に榊は現れない。
「うーん、遅いなぁ。プロデューサーさん。もうすぐ柚ちゃん来ちゃいますよ…。」
「っ!」
「千川さん、今の名前は?」
「えっ、あぁ昨日ですかね?所属することになったうちのアイドルの子ですよ!とっても可愛いんです!」
「はは…もうスカウト成功してるんだ…。」
「そこでまずプロデューサーは壁にぶち当たるはずなんだがな。」
「あっでも自分で探したんじゃなくて柚ちゃんの方から声をかけたみたいなんですけどねー。」
「「でしょうねー!」」
嫌な方の予感が当たってしまった。これだからあのたらしは、と心底思う二人であった。
「なら、尚更今回の件はその柚さんの事を大事に思うならば、止めなければいけませんね。」
「うん、こんなとこで躓かせちゃいけないよ。」
榊を待ちわびている二人だが、なかなかその姿を現さない。
「おはよーございまーす♪」
先に到着したのは喜多見の方だった。
「あっ柚ちゃん、おはよう。ごめんね、プロデューサーさんまだなのよ。それとこちらキュートプロダクションとクールプロダクションのプロデューサーさんです。」
「わぉ!あの有名な!こんにちは!」
「こんにちは~!初めまして剣崎って言います。よろしくね!」
「どうも、菱上と言います。よろしくお願いします。」
「お二人ともプロデューサーさんのお友達さんなのよ。」
「へぇ!うちのプロデューサーがいつもお世話になっております!」
「いやいや~!あはは!(マジでお世話してますよ!)」
「いえいえ、そんな。ふふふ!(ほんっとうにお世話しています!)」
思わず口に出そうになるがギリギリのところで止めることに成功した、剣崎と菱上。
社会人は建前大事です、本音はほどほどに。
「喜多見さんは、今回の件は…?」
「いえ、まだだと思います。」
「そっか…。口が重くなっちゃうね…。」
1ヶ月後にライヴがあるなんて今まで何の経験もない素人に伝えるにはあまりにも重大である。
これを喜多見にいう事それは、つまり責任を背負わせることと同じであった。
「…よせ。私たちがいうことじゃない。」
「いいですよ、いつかは知ることですし。」
「そうだね。それにまだ決まったことではないからね。喜多見君にはとりあえずでもいいから知っておいてもらおう。」
「ええ、そうですよね…。」
「どうしたんですかー?」
「えっとね、柚ちゃん。落ち着いて聞いて欲しいんだけど…。」
「うん、わかった!なになに~?」
「実は…」
本当は千川も伝えるのは嫌だった。こんな可愛らしい子が右も左もわからないままの状態でライヴになんて望んでほしくはない。万全の状態で臨んで欲しい。そう一重にそう思っている。
ここで伝えても榊を説得できれば…そう思い伝えようと思ったのだ。
そう、彼女も喜多見のことを心底心配していいるし大事に思っている。
これから一緒に夢に向かう仲間なのだから。
「う、うん…。」
神妙な顔で必死に聞こうとする喜多見。
千川の表情で普通の事ではないということは安易に想像できた。
周りの緊張感が彼女自身の体をこわばらせる。
あたりに緊張が走り、妙な静けさがより一層際立たせていた。
その時だった。
「捕っれないボールがあ~るものか~♪か~まえったミットでう~けとっめる~♪戻ったじょんそん~!」
ここまで空気を壊すともはや狙ってるとしか思えない最悪のタイミングで、トラブルメイカーの帰還である。
「あ、榊さん!おはよー!見事に空気壊したね!」
「ワイルドだろぉ?え?何の話?」
「はぁ…ホント大牙ってこういうとこダメだよね…。」
「全くだ…。」
さっきまでの緊張感は一気に脱力感に変わり、剣崎と菱上も肩を落とす。
これが榊のすごい所である!(本人談)
「ぬ?刀二と蓮三じゃないの。なに、人生ゲームでもやってたの?」
「…んな訳ないでしょぉ!!!どこ行ってたんですか!!!」
「あ、モノポリーか!」
「ち が い ま す!!」
「まさか…。」
「ジェンガでもないですからね!」
「こいつ…!オレの頭の中に…!どこってー。やだなー、営業とスカウト行ってくるってオレ言うたやんー。」
「そうですけど…。違う違う!そんなことより!」
「そうや!そんなことより柚!」
「そうです!…え?」
「なに~?」
「なんと!1ヶ月後にライブしますよ~!」
「ふぇ?」
「そう、それそれ!…そんなあっさり!?軽くないですか!?」
「さっきまでのあのタメは結局フリだったのかな?」
「そういうことは向こう側の人が考えることだ。黙ってなさい。」
かなり重大な発表をしているのだが、なぜかこの空気だとしれっと聞けてしまう。
喜多見には一応伝わったみたい、だが。
「以上だよん~。一緒にがんばろうぜぃ!んで、なに?ちっひー。」
「え?えぇっと…そう、その事ですよ!どういうことなんですか!いきなりライブなんて!」
「どういうってそりゃ…あれ?もしや刀二と蓮三もその件で?」
「そうだよ!今からでも遅くない、止めにきたんだ!あまりにも無謀すぎるよ!」
「同感だ。大牙、まだ今はその時じゃない。」
「そうか…。お前らそんなにオレのことを…。オレ…うれしくて…ラリアットしちゃいそうだよ…。」
「なんでラリアット!?いや、大牙は別にどうでもいいよ!喜多見ちゃんがかわいそうだよ!」
「おい。」
「そうだ、大牙のことなど一ミリも考えていない。問題は喜多見さんなんだ。」
「おい、コラ。」
「もうこの際、プロデューサーさんはいいですから柚ちゃんの事を考えてください!」
「被せるねぇ!キミぃ!心配いらないってばさき~。」
「どうしてですか!?」
「そうだよ、キミ。そのことを心配して二人のお友達も来ているのだよ?」
「せめて、どうしてこういうことになったのか。とかさ!」
「確かに…そうだな。どういう経緯なのかは聞いておきたい、別にやらなくてもいいなら無理にしなくてもいいんだ。とりあえず、訳を話してくれないか?」
「そうっすねぇ…。理由…訳…か。」
ここで明確な何かを示さなければ恐らく剣崎と菱上そして千川と社長も納得しないだろう。
もちろん、榊自身もこのライブが如何に突然で無謀なことだと思われているのかは気づいている。
しかし、榊には彼らを納得させる理由など持ちえなかった。
なぜなら、誰かを納得させるためにこうしたかったのではないからだ。
だから、彼らに話すのは納得する理由ではなく自分がどうしたいか、である。
「理由っていう理由はないな。うん。」
「答えになってないですよ!」
「まぁ最後まで聞いちょくれ。このライブをなんでしたかったんか。っていうのには理由はあるで。」
「なぜなんだね?」
「めっちゃ簡単な理由やけど、ええんかね…。おーい、柚~。ライブのことどう思う?」
何かに理由を求める時、人というのは難しい理由を求めがちである。
なにか複雑な理由がなければならない、暗黙のルールでもあるのかと思ってしまうくらいに。
用は複雑さや難解さがあれば”それっぽく”見えるのだ。
理由が欲しいのではなく、理由っぽいものがあればいいのだ。
しかし、理由というのは複雑さと難解さというもつれた糸さえほどいてしまえば、実に単純である。
それを、人は忘れがちだ。
それ故に、複雑さと難解さのなかに埋もれたシンプルな答えにたどり着ける人間は少ないのかもしれない。
複雑な理由で納得してしまっているのだから。
榊はどういった答えを出すのだろうか。
「うん!すごく…楽しみだよ!ありがと、榊さん!なんかこう~、ライブに向けて頑張ろうって気になるね!」
「これが答え。ただ柚の喜ぶ顔が見たかっただけ。」
「なっ…。」
「そんな単純な理由で…?」
「そうやでー。何かおかしいかぁ?担当アイドルが喜んでる姿見たいやろ?」
どうやら彼はシンプルな答えしか持っていないようだった。
「そこまで柚ちゃんの為に…。」
「あーちゃうちゃう。そんなカッコエエもんちゃうで。言葉は悪いけど、柚の為っていうのは語弊ががあるわいな。自分の為やで。喜んでる柚の顔をオレが見たかった、ていうだけやで。」
「えー!そこはさぁー、アタシの為にみたいな感じにしようよー!」
「悪かったな、かっこ悪いおっさんでよ。」
「ううん、ありがと!何か、嬉しいから許す!」
彼は、なぜこうしたのかなんでこうなったのかに対しては全く答えになっていない。
しかし、榊が答えたのは自分がどうしたかったのか。
これが榊大牙、全ての行動の源であり彼のなかの最も簡潔なアンサーだったのだ。
喜多見柚の笑顔を見たかった。
これに勝る答えなど、彼の中に存在しない。
「おう。てなわけで、まぁ納得はでけへんやろうけど、柚ちゃんの可愛いスマイルに免じて勘弁してけろんぱ。」
「まぁ途中から何かラブコメ見せられて胸やけしそうになったけどね…。」
「全くだ…。なら、後悔は無いんだな?」
「ないないー。悪かったなー。刀二、蓮三。心配させてもて。」
「ホントだよ…。あーあ!なんか疲れちゃった!今度焼肉でもおごってね!」
「叙〇苑だな。特上で。」
「なんでやねん!オレンジ看板の牛さんなら奢ってやるわいなー。」
「吉〇じゃん、それー!さてと!なんか気にしてたの馬鹿らしくなっちゃったし。そろそろおいとましよっかな。」
「そうだな、そろそろ次のスケジュールの時間も迫っている。長い間お邪魔いたしました。社長、千川さん。」
「ちょっちょっ!ちょっと待ってください!いいんですか!?」
「なにがです?」
「そのライブを止めなくても、ってことです!」
千川は剣崎と菱上に食い下がる。
やはり、彼女はまだ納得していないのだろう。説得できる唯一の可能性の二人が諦めてしまう。
つまり、ライブは決行されるということになるからだ。
「そうですね、私自身そのことに納得したわけではありませんよ。もちろん、刀二もね。」
「ですです。でも、分かっちゃったんですよ。もうこりゃ、いう事聞かねぇなって。それにあんな嬉しそうな喜多見ちゃんの顔みたら、止める気起きなくて。」
「っ!」
「あんなに嬉しそうな喜多見さんに、水を差せますか?私にはできそうにありません。」
喜多見の方を千川が見やると嬉しそうに、榊と喋っている。
確かに、あの姿見せられたら諦めるしかないだろう。
彼女はそっと俯き、何かを納得したのかはっと顔を上げた。
「分かりました。ありがとうございます。」
「いやいや~。結局僕たちなにもしてませんし!あはは…。」
「確かにな…。さて、そろそろいこう刀二。」
時間を気にする菱上。どうやら本当に時間が無いようだった。
「うん!長い間ごめんなさい!じゃあね、大牙!」
「お~う!またな!刀二、蓮三!」
「ああ、またな。」
「あっ入り口までお送りします!」
「気を付けて帰るのだよ!」
「お邪魔しました!」
挨拶もほどほどに、千川は手際よくドアを開け玄関まで送って行く。
「ありがとうございます、千川さん!ここで、大丈夫ですよ!」
「そうですか、お二人ともありがとうございました。またいらしてくださいね。」
「あっ千川さん…。ちょっと。」
不意に菱上が千川の近くに寄る。
「はい?」
「彼のこと…大牙のこと無茶で無鉄砲な奴だと思ってますよね?」
「…えぇ。正直どこまで行ってしまうのか…少し不安です。はい…。」
本当に不安なのだろう、千川の顔が明らかに曇る。
「分からなくもないですよ。実際、そういう面もありますし基本的に無茶なことをあいつはやります。でも、ひとつ思い出しました。」
「はい?」
「あいつ、意外と勝負は堅実なんですよ。確実に勝てることしかしないんですよ。無茶な挑戦でもそれを勝ちに持っていくことができるんですよ。そこまで道筋がある程度見えてるんでしょうね。」
遠くをみて昔を思いだしながら、語る菱上。
「あの、仰ってる趣旨がよく…。」
「はは…ですね…。要はですね、今回の挑戦はっきり言って私の目から見ても絶望的なのは確実ですし、勝てるとも正直思えません。」
「はい…。」
「普通であればね…。」
「え?」
確信を持った顔で菱上は力強く、千川を見つめる。
「案外、今回のライヴバトル…。無謀な挑戦ではないのかもしれませんよ。大牙の中ではね。」
「えっ!勝てる確信があるんですか!?」
「いいえ、それはありません。ですが。ああいった挑戦をしたときの大牙は負けたことないですから。これは予測ではなく、経験則です。」
「ですけど…!」
「まぁ、私も下手な事を言えませんけどね。もう少し彼を見守ってやって欲しいんです。彼を信じるか否かの選択が時に、一度でいいので彼を信じてあげてください。」
「…。」
「そうすれば、面白い結末が見れるかもしれませんね…。すいません、足止めしてしまって。これで失礼します。」
そういうと、菱上は足早に去って行った。
「そ、それってどういう…。いっちゃった…。プロデューサーさんを信じる…。そりゃ、信じたいですよ…。でも…。」
千川の心の中は、もやもやした気持ちが残った。
この無謀に見える勝負が、無謀ではない?正直信じられなかった。
それはつまり、榊を信じていないことになるのではないか。
信じていたい、信じられない。この二つの気持ちのなかで彼女はどういった判断をするのだろうか。
その選択が迫られる日は、もうすぐそこまで迫っていた。