シンデレラと野獣   作:BKCT

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過去の文章の手直しと並行してやってました。

まだまだリハビリ中ですが、読んでいただければ幸いです。


ゆびきりげんまん

「ただいまもどりました…。」

 

 事務所に戻った千川はいわれのない、疲労感に襲われていた。

特段何かをしたわけではないのだが、それでも精神的な疲労からだろうか。

これから先どうなっていくのか、そういった不安もあったのかもしれない。

 

「おつかれさーん、ちひろたん!ありがとなー。」

 

「いえ…。あれ、柚ちゃんは?」

 

「今レッスンの着替えしてるよん。覗かないってば。」

 

「そう…ですか。」

 

 誰のせいでこんなに疲れてるのか、わからなくなるくらい榊は明るかった。

普段はこういったことも、明るく返せる千川だが今はそういったことができない状態であった。

 

「なんや、元気ないやん!どないしてん?」

 

「プロデューサーさん、少しお話…いいでしょうか。」

 

「どうした、改まって。好きな人でもできたんか?」

 

「少しでいいので…。」

 

「私もいいかね?少しキミに聞きたいことがあるんだ。」

 

「あれま、こいつぁシリアスですな。いいですよ。」

 

「そうか、まぁ座ってくれ。」

 

 社長と千川は真剣な表情で、榊に詰め寄る。

彼も思い当たる節が…いや、思い当たる節しかない。

彼は促されるまま、応接間のソファに近寄る。

彼の対面には千川と社長が並んで、腰を掛けた。

まるで、取り調べだなと内心思いつつ深く腰を下ろした。

 

「んで、何でしょうか。」

 

「はい、では私から。」

 

「おうす。」

 

「単刀直入に聞きますね、プロデューサーさん。あなたはどこまで、真剣に柚ちゃんのことを考えていますか。」

 

「おっと、棘があるねぇ。」

 

 榊がそういった様に、千川は少し怒りを込めて疑問を投げかけている。

彼女にとって、彼の行動は軽率で喜多見のことなど考えてないように映っているのだ。

 

「そりゃ、聞きたくもなりますよ。一度もライブをしたことのない柚ちゃんにいきなりライブ…しかも姉川花とのライブバトルなんて!正直、柚ちゃんが可愛そうです!」

 

「そうだね…。キミがいくらこの業界に入って間もないとはいえ、あまりにも急ぎすぎではないかな。まずは、喜多見君の実力をしっかりと身に着けてからでも遅くはなかろう。我々の期待の最初のアイドル喜多見君にはゆっくりと、トップアイドルへの道を上がって行ってほしい。これが私の本音だ。」

 

「そっか…。そうっすよね。…ふふ。」

 

「何がおかしいんですか!」

 

「千川君、やめたまえ。」

 

 千川は立ち上がり憤慨していた、それをみた社長が慌てて制止する。

この人は、真剣に喜多見のことを考えていない、彼女にはそう思えたからだ。

 

 

「ふふ…。いや、おかしくて笑ったんちゃうで。何か、良かったなと思って嬉しくなってね。」

 

「え?」

 

「どういう事かね?」

 

 二人は全く想定外の返事が返ってきたことに、すぐには頭の整理がおいつかなかった。

いや、追いついたとしても榊の言っている意味は分からないだろうが。

 

「いやね、他人の為にそこまで怒れる人ってなかなかおらんよ。そういう人と一緒に働けて良かったなーってさ。それに、自分についてきてくれた柚を大事に思ってくれて安心してもうてさ。」

 

「…。」

 

「ありがとう、二人とも。柚を大事に思ってくれて。」

 

「…っ!」

 

 はっきりわかったことがある。

榊は柚を軽んじているわけでも、蔑ろにしてるわけでもない。

”たいせつなアイドル”だった。

 

「っと、これでオレが考えてること話せる…かね。」

 

「む…我々は信用されてなかったのか。」

 

 少しムっとした表情で社長が尋ねる。

 

「ちゃいます、ちゃいます。ほら、オレあんまアイドル業界詳しくないじゃないですか。だから、柚が二人に受け入れてもらえるかちょっと心配やったんです。柚は可愛いし、自信はあったけど確信はなかったんでね。」

 

「そういう事ですか…。それは安心してください、柚ちゃんはとっても可愛いアイドルになれると思いますよ。」

 

「うむ、それは間違いない。私が保証しよう。それに、アイドルを選ぶ基準は全てキミに任せる。そういったはずだよ?だから、キミは自信を持って喜多見君を育ててほしい。これからも君の判断に任せるよ。」

 

「いや~よかった!ありがとうございます!」

 

 榊はほっとした表情をしていた。

彼もこの業界に関することには明るくない、そこに一抹の不安は抱いていたのだろう。

やはり、こういったものは数日間で補えるものではない。

 

「それで…プロデューサーさんが考えていることとは一体…。」

 

「おう、それな。まぁまずは順を追って話すわ。」

 

「聞かせてくれたまえ。」

 

「ふう…。えっと…」

 

 深く息をつき榊は話をする準備を整える。

そして、頭の中を整理を終え話し始めた。

 

「まず、今後の会合をキャンセルした理由ね。これは正直どっかのプロダクションに頭にきたっていうのもあるし、ほら刀二と蓮三もいるからさあいつらからも必要なこと聞けるし、いいかなって。それにトッププロになればまた参加できるんやし、まぁいいでしょ?」

 

「う、うむ…。そうだね…。」

 

 社長は複雑な表情を浮かべてうなっている。

榊は簡単に言うがトッププロになれるのは、ほんの一握りで非常に険しい道のりである。

 

「んで、次ーっと。姉川花のライブについて。」

 

 榊はそれを知ってか知らずか、構わず続ける。

 

「はい、お願いします。」

 

 千川は待ってました、と言わんばかりに前のめりになっている。

これが一番聞きたかったことであった。

 

「これはさっきも言ったように、柚がライブしたいー。って言ってたのが最大の理由な訳。」

 

「ですが、それは早計すぎではないですか?ライブなどはゆっくり準備した方が。」

 

「そうだね、何度も言うが喜多見君はゆっくりじっくり育てていってほしいのだよ。もし、ライブに負けるようなことがあれば悲観してしまわないか心配でね。」

 

「そこは完全にオレと意見がちゃいますね。」

 

 榊はきっぱりと言いきる。

 

「うむ…。どういう考えなのかね?」

 

「聞かせてください、プロデューサーさん。」

 

「ええけど、少し厳しい言い方になるけど…。大丈夫か?」

 

 社長と千川の気分を害さないように、あらかじめ榊は注意を促しておく。

つまり、これから話す内容は二人にとってあまり、聞き心地がいい話ではないという事だった。

 

「構わないよ…続けてくれ。」

 

「うす。んじゃ、逆にお聞きしますぞ。そのライブってもしやるとしたらいつ頃になりそうですか。」

 

「え?えーっと…半年?くらい…でしょうか。」

 

「そこ。要はそこなんよ。具体的じゃない曖昧な目標ほどモチベーション下げるのないで。簡単に言うと次の日の宿題と夏休みの宿題や。絶対、後者ってだれるやろ?」

 

「うっ…たしかに。」

 

「”1か月後のライブに向けて頑張る”のと”いつかライブする為に頑張る”のとでは、モチベーションの維持の仕方の難易度が全然違うのよね。」

 

「曖昧な目標ほどモチベーションが下がる、ということだね。」

 

「そうっす。」

 

「でもでも!柚ちゃんがその”いつか”に向けてひたむきにやってくれるんじゃないでしょうか!」

 

「喜多見君なら、そうだね。」

 

「それこそ柚に頼りすぎと思いません?」

 

「うっ…。」

 

「確かに柚はいい子やと思うし、やってくれる”かも”しれませんよ。けど、それこそ曖昧やし。厳しい言い方やけど、このプロダクションに柚のモチベーションを維持できる程のポテンシャル、今は全くない。そう、思うんすよね。」

 

「…そうだね。我がパッションプロに入ってくれただけでも…。それなのに、それを維持しようなんて思うのはムシがいいのかもしれないね…。」

 

「そ、それは…。なら!2か月後に我が社でライブを開催すればどうでしょうか!わざわざシスプロとの溝を深めなくても…。」

 

「そんな余裕ある?うちのプロ…。」

 

「うぐっ…。そこは柚ちゃんの頑張りで…。」

 

 言わずもがな、パッションプロにはそんな財政的な予算はないし、余裕もない。

あくまで喜多見が活躍すれば、という希望的観測をするほかなかった。

 

「ほらまた柚に頼るー。柚はいい意味でも悪い意味でも未知数なんやで?そんな不確定要素を柚に押し付けられへんよ、オレ。せやから、オレわざと姉川のお姉ちゃんのほう挑発してライブバトルをけしかけるようにしたんやでー。そしたら、ライブの費用もかからへんしライブ自体も経験できるしな。」

 

「な、なるほど…。」

 

「まぁ、実際さ。無茶なんも分かってるし、勝とうなんて思ってへんよ。けどさ、このライブに賭けてみてもええんちゃうかな。はっきり言うてこのライブの舞台に立てないようじゃ、この先どう頑張っても無理やと、オレはそう思うんやわ。」

 

「そ、そんな。」

 

「それはあまりにも…酷ではないかね。」

 

「でもまぁ気楽にやってもらえれば、柚の魅力が出せるんちゃうかなって。意外にもこのライブはうちにとってデメリット少ないんすよ。」

 

「どうしてですか?」

 

「だって下がるランク無いんだもの。せいぜい姉川に威張られるくらい、かね。」

 

 そう、パッションプロはE3ランク。

そのなかでも最下位に位置するといってもいいランクだ。

ライヴバトルはアイドル協会公式の対戦で、プロダクションランクつまりは評価にももちろん関わってくる。

つまり、パッションプロに対するアイドル協会の評価は言わずもがな最低だ。

ところが、シスタープロはB3ランク、上位プロダクションかつ優良プロダクションだ、評価の上がり下がりにも非常に敏感である。

 要はリスクを背負って戦わなければならない。

その点パッションプロにはそういったリスクなど存在しないのだ。

 

 

「は、はっきり言うね…。俯瞰してみると、確かにそうなのかもしれないね。」

 

「で、でも!柚ちゃん一人にって思うとやっぱり…。」

 

「いや、柚一人で戦わせるつもりはない。」

 

「え、それはつまり?」

 

「あと少なくとも2人アイドルになってもらう子を見つける。でも、ここからは不確定要素やから今はなせることじゃないね。」

 

「そ、そうなんですか!?目星をつけている子はいるんですか!?」

 

「まぁ一人は…かな。それもまだわからへん。あと一人はいるっちゃいるけど、個人的な理由で誘いにくいっていう感じ。」

 

「個人的な理由?親族の方とかなのかね?」

 

「いや、ちゃいますよ。まぁそれは…気にせんといてください。」

 

 珍しく言葉を濁す、榊。

 

「は、はぁ…。何か珍しく歯切れが悪いですね。」

 

「まぁなー。言いたくないことも乙女にはあるのよ。オホホ。」

 

「そ、そうなんですか。乙女…。」

 

「ともかく!」

 

 大きな声で、仕切りなおす榊。

これ以上この話題を避けたい理由があるようだ。

 

「ここはひとつさ、一緒に頑張ってみませんかね。オレと柚と。柚一人じゃない、社長もちひろも!みんなで一緒にライブバトル…いや、この際勝ち負けどうでもええ。大成功させましょうぜ。」

 

 榊の腹の中はとうに決まっていたが、二人の覚悟も必要だった。

このライブバトルを成功させようという覚悟が。

 

「うむ。元よりアイドル達のことはキミに任せると決めていたしね。元より、我がパッションプロ…失うものなどないではないか。そうだね、千川くん。」

 

「そうですね…。半分死んでいるようなプロダクションですものね!」

 

「おい…千川くん…?」

 

「一つ、約束してください。プロデューサーさん。」

 

「オレとの子供が欲しいだって!そんな…急に言われても…。」

 

「ちち違います!!」

 

「ちぇっ…。なにさ、ちひろ。」

 

「えっと…その…」

 

 千川は胸に秘めていた思いを榊にぶつけることにした。

俯きがちにその胸中を明かす。

 

「これから先色々なアイドルの子たちがもし入ってきたとして、です。この先、どんなことがあってもその子達…と一緒に歩んで行ってもらえますか?アイドルを信じて一緒に進んでもらえますか…?そして…アイドルの子達の笑顔を…うっ…守っていってくださいますかぁ…。」

 

 それは榊に本当の意味での覚悟を促す言葉だった。

言葉を詰まらせる千川。

不安・焦燥…様々な思いが彼女の中にあり、それが瞳から零れ落ちていくように涙を流していた。

 

「千川くん…。」

 

「…。一つちゃうやんけ…。」

 

「ごめんなさい…。」

 

「悪いけど、それはでけへんな。」

 

「え…。」

 

 そう告げられた瞬間、千川の涙は止まりその顔は哀しみに満ち溢れていた。

 

「オレが一緒に歩いていくんはな?ちひろ、んで社長二人共や。」

 

「あ…。」

 

 立ち上がり、千川の頭に手を置く榊。

そう先ほどの約束に社長と千川がいなかった。

そんな約束…できるはずがない。

 

「オレは特別にいい人間って訳でもない…まぁどちらかといえば黒いほうかな。んで、自己中で欲張りなんよ。やから、誰かの為にっていうのはちゃうかな。オレはちひろ…お前にも笑っててほしい。さっきの約束、社長もちひろも入ってへんやん。そんなん、あかん!やから…。」

 

「オレはこのパッションプロのみんなの笑顔を守りたいんや。これはオレからの約束な?この先何があっても社長とちひろ…柚、みんなを守らせてくれ。約束や。せやから、そないな顔せんといてくれ。」

 

 右手の小指を差し出す、榊。

 

「はい…。約束…です!」

 

「よっしゃ!」

 

 千川の小指と結ぶ。

ゆびきりげんまん、これほどか細い約束というのは他に存在しない。

故に守らなければならない。

そんな気持ちにさせる不思議な儀式だった。

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