シンデレラと野獣   作:BKCT

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こんばんは。
ご覧いただきありがとうございます。

最近スク水ランドセル若林さんのカードを手に入れました。
色々危ない。


それでは、どうぞ。




百花繚乱2

 

「おはよっす! 」

 

「おはようございます。プロデューサーさん」

 

 翌日のパッションプロダクション。

変わらぬ千川の笑顔が、榊の寝ぼけ眼に活力を今日も与えてくれる。

 

「うっし、今日も出てくるかねー」

 

 そういうと、榊は出掛け支度を始める。

理由はもちろん、野球の試合だ。

 

「あっ、少しいいですか」

 

「ほいほい」

 

「ちょっと、ライブの資料とかを作ってみたんですけど見ていただけますか? 」

 

「えっマジで? そんなん作ってくれたん? 」

 

「え、えぇ……ざっとですけど」

 

 ちらっとパソコンを見るとライブの一連の流れが表示されており、榊にも見やすく理解しやすい内容になっていた。

 

「うわぁ……ありがとう! ちひろ! 」

 

「いえいえ、そんな! うふふ。そんなに喜ばれるとは思ってませんでしたよ」

 

「いやいや、ありがたい話やで。ふむふむ……」

 

 曲の構成やMCを入れるタイミング等々、実に事細かに記載されている資料を榊は入念にチェックする。

さらに概算であるが、おおよそかかる費用に至るまで千川は作ってくれていたようだ。

 

「曲の構成なんかは全然変えて頂いてけっこうですので、これはあくまで例えばの資料になっちゃうんですけどね」

 

「いや、助かる。おおまかな流れだけでも知っときたいからさ。んでここわからへんのやけど……」

 

「はい、えっとモバプロの時はですね? 」

 

 千川はパッションフプロダクションに入社するまでは、モバプロの事務員として働いていた。

そのときのノウハウを生かし、こういった資料をわかりやすく榊に提供できるのだ。

 

 榊は千川からモバプロのライブがどうだったか、どんな盛り上げ方をしてたのか等を聞いた。

答える千川の様子はとても熱心かつ情熱的に榊に伝えている。

千川のアイドルのライブに対する期待や楽しみにしてるのだという事は、その様子を見るだけで容易に榊は想像できた。

あれだけ懸念を抱いていた千川だったが、本来ライブというものを楽しみにしているのだ、と。

 

 こういった会話を続けていると、あっという間に時間は過ぎ……時刻は正午に近い時間になっていた。

 

「そっかそっか……何にしてもまずはアイドル自身がライブを行えるところまで持ってかないとね」

 

「ですね……個人差はあると思いますけどやはり、ライブって緊張しますからね」

 

「そりゃそうだわな、まぁその辺は大丈夫ちゃうかな? 割とオレちゃんと見てるし」

 

「それは、どういう……ってもうこんな時間なんですか。そういえば、プロデューサーさんご予定があったんじゃなかったでした? 」

 

「ん? ……はっ! しもた!! えらいこっちゃ!! 」

 

 野球の試合が始まるのは、午前10時。

試合が始まる前に、榊の若林を元気づける作戦は脆くも崩れ去った。

 

「ご、ごめんなさい! 私が引き止めちゃったから……」

 

「いや、こっちも大事や。やけど、一応行ってくるっ! 」

 

「えっと、どちらに? 」

 

「え? そりゃもう……」

 

 ここで高校野球の観戦何て言おうものなら何を言われるかわからないと思った榊は一瞬思考が止まる。

 

「そりゃもう? 」

 

「……青・春だっ! ではなっ! ちひろ! 」

 

 親指を立て、千川にさわやかなウィンクをプレゼントし、榊は事務所を風のように去っていった。

 

「……は? 」

 

 一人残された千川はよくわからない気持ちで満たされていた。

 

 事務所を出た榊は携帯で、球場の場所を確認する。

ここから球場までは、交通機関は特になく徒歩で行けば30分近くかかってしまう。

 

「あかんっ……完全に出遅れた! でも……まだ……! 」

 

 榊は間に合うかどうか、あまつさえ到着しても何かできることなど無いことは百も承知。

しかし、榊は走るしかない。

できることを成す為にではなく、したいことを成す為に。

 

 

********************

 

 

「が、がんばって……! 」

 

 高校野球が行われる球場、時刻は午前11時30分。

若林の姿がそこにはあった。

しかし、以前のまばゆいばかりの輝きは息を潜め、心なしか不安げな表情を浮かべている。

 

「と、智香……」

 

 チアリーディング部の仲間も心配そうに若林を見つめる。

それもそのはず、スコアは2対14。

若林の高校が負けている状況、しかも8回表で今なお攻め続けられている状態だ。

このままいけば、8回裏に2点以上入れなければコールド負けにすらなってしまうとても危うい状況である。

 

「……で、でもっまだ試合が終わったわけじゃないよ……!」

 

 若林はチームメイトのやる気を促進させるためなのか、それとも自身を鼓舞するためなのかわからなくっていた。

 

 幸い、点数はその後入れられることもなくチェンジを迎えた。

 

「よしっ……! ここから……ここからだよ! 」

 

 そう熱を帯び、再び立ち上がる若林。

しかし、現実は非常に残酷だ。

迎えた最初のバッターはセカンドゴロに倒れ、続くバッターは四球を選ぶものの次のバッターは三振に倒れ、あっという間に2アウトとなってしまった。

 

「はぁーあ……」

 

「ま、まだですっ! がんばれー!! 」

 

「ちっ……うっせぇな……」

 

 三振に倒れたバッターが若林をみてそう毒づく。

ベンチの中は、まるでお葬式状態だ。

誰も勝とうなんて思いもしない、さらには早く終わりたいと願う者すらいるだろう。

そんな雰囲気を若林も感じ取っていた。

 

「うぅ……どうして……? 」

 

「と、智香? もういいよ、そんなに頑張らなくても大丈夫だよ? 応援ってさ……きっとこんなもんなんだよ」

 

 そう若林を介抱するチームメイト。

しかし、本質は違う。

若林は応援についての本質について迷っているわけではない。

自身が何をすべきなのかわからなくなっていた。

 

 どれだけ必死に応援しても伝わらない……。

 応援なんてそんなもの……。

 

 そんな思いが若林の中でまるで螺旋のように渦巻き、今までの輝きがみるみるうちにその渦に飲み込まれてしまっていた。

 

「そう……なんだね。やっぱり……迷惑だよね……応援なんて……」

 

(もう、私の応援じゃ誰かを笑顔にするなんて事……できないよ、ね……。)

 

 ついに若林は立ち上がる事ができなくなり、何かを諦めたかのようにスタンドに座ってしまった。

もう、この足を奮い立たせる勇気も気力もなくなってしまったのだ。

 

「……馬鹿みたいだよね、アタシ……はは……。」

 

 俯きがちに自身を自傷する若林。

立ち上がり上を向くことで抑えられていたものが、とめどなく床にシミを付ける。

涙。

悲しい訳ではない、悔しい訳でもなかった。

虚しさ。

ただそれだけ。

 自分が信じてやってきたことがあまりにも儚いものだったことに対する脱力感。

それが若林の抑えてきた涙の栓を抜いてしまった。

 

(榊さん……ごめんなさい……応援してもらったのに、アタシこんなになっちゃった……)

 

 若林は自分をただ一人応援し、支えてくれた名を思い出す。

榊の声援は若林にとってとても温かかった。

応援してくれる自分を応援してくれる人なんて、いなかった。

嬉しかった。

だが、ここに榊はいない。

 そんな希望などなく、孤独なのはわかっていた。

しかし抱かずにはいられなかった、期待。

もう一度だけその温もりを……という淡い期待。

もう一度……だけ。

 

「ね、ねぇ……智香っ! あの人誰? 」

 

「……え? 」

 

 チームメイトが驚いた表情で若林へと問いかける。

そして今まで、周囲の声など聞こえて無かったが若林の耳に、心に聞こえてくる。

 

「……レー!! ……もかー!! 」 

 

「……っ! 」

 

 お世辞にも綺麗な声とはいえない、声が聞こえてきた。

野太い声に、少し枯れたようなそんな声が。

だが、淡い期待を応えるには十分だった。

 

 若林は振り返る。

 

 十数段離れたスタンドの上に、周囲の奇怪な視線を一身に集める男が立っていた。

 

 榊大牙がそこにいた。

離れていても今度ははっきりと声が聞こえてきた。

 

「ガンバレー!! ともかー!! おう、昨日ぶり!! まだ試合終わってへんぞー!! なにしてんのー!! 」

 

「さ、榊さん!? ど、どうして……!? 」

 

「ああん!? んなもんお前の応援に決まってるやろー!! 諦めたら試合終了ってどっかの偉い監督も言っとったぞー!! それに、野球は2アウトからって相場は決まってんねん!! 」

 

「で、でも……」

 

「自分にできる事やない……自分がしたい事しろ!! それでええんや!! 周りなんか知るか!! 何があっても立ち上がる、若林智香をオレは好きなんや!! いけっ!! 若林智香の百花繚乱、見せたれぇ!! オラァ!! うわ、これむっちゃ恥ずかしいぃー!! 」

 

「…はいっ…! よーし……! 」

 

 スーツのジャケットを振り回し、恥などかなぐり捨てて榊は若林に叫ぶ。

決してそこにロマンティックなど存在しない。

しかし、若林にとって少し……ほんの少しのドラマティックがあってもいい。 

 

 若林は既に立ち上がっていた。

再び、立ち上がった。

自分にできる事ではなく、自分がしたい事を成す為に。

 

「いきますよー!! フレーフレー!! 」

 

 そこに虚しさを抱えた若林の姿は微塵も見えず、ただただ輝いていた。

もう迷いなどなかった。

たとえ、負けてしまっても自分がしたい事をするだけだ、と。

そして、若林の声を受けて立ち上がる者たちがいた。

 

「よし、智香に続くよっ! フレーフレー!! 」

 

「ガンバレー!! 」

 

「み、みんな……! 」

 

 チームメイト達が若林の声に呼応し、一緒に立ち上がり声援を送る。

更には、スタンドにいた人も含め皆が一様に盛り上がり、大きな声援を送る。

 

「な、なんかスタンドからすげぇ応援が……」

 

「おい、お前らこんな声援受けて半端なプレーしたら……恥ずかしいぞ? 」

 

「そう……そうっすよね」

 

 今まで沈黙していた、若林の高校の野球部監督が部員達に忠告を入れる。

部員たちは昨日の夜の出来事を思い出す。

応援してもらっているだけでありがたい、本当にそれに尽きる。

これほど身に染みてわかることは少ない。

 

「あーあ! どうせ、負けでもともとだしな! いっちょ、やってみようぜ! 」

 

「おー! 」

 

 声援に影響されてか、されずかベンチ内も活気を取り戻した。

全く、お尻に火が付かないと気が付かないとはこのことである。

こうして、万全の態勢で2アウトからの野球へと臨んでいく。

 

「ぜぇぜぇ……できるんなら、最初からやれっつーの。あ”-、ノド痛い……。ま……これぞ青春ぞ、若者よ」

 

 榊はノドの痛みを訴えながら、役目を終えたかのようにスタンドへ座る。

ふと若林の方へ、視線を向ける。

仲間達と共に、一心不乱に応援を続けている。

やはり、若林にはこういった姿が良く似合う。

そして……。

 

「……たくっ。ええ仲間おるやんか、若林さん。そんな場所を、オレが奪う訳には……いかんな」

 

 どこか寂し気にそうこぼしながら、ゆっくりと立ち上がる榊。

若林とチームメイトの様子を見て、榊は確信したのだ。

ここが若林の居場所なのだ、と。

それを自分が奪い取ってしまうわけには、いかなかった。

 

 スタンドの階段をゆっくりと上りながら、もう一度若林の方へと視線を向ける。

最後にもう一度、彼女の輝きを目に焼き付けておくために。

 

「……じゃーの。若林さん」

 

「おんや? 青年もう帰るんかのぅ? 」

 

「ん? あぁ、用事はもう済んだからな」

 

 ふと老人の男性が、榊に声をかけた。

 

「そうかそうか……ところで、青年。名前は何というんじゃ? 」

 

「榊大牙、やで。じいさん。聞いてどないすんねん」

 

「いやいや若いってのはええの……と思うてな。久しぶりに元気が出たわい」

 

「じいさん……女子高生の生足見てる元気あるんやから、大丈夫やろ? 」

 

「ほっほっ! それにしても、ぐっじょぶじゃ! 青年」

 

「ははっ、あんがとな。ほなな」

 

「ほいほい。”またの”榊君」

 

「おう、またな! 」

 

 そう反射的に答えてしまった榊だったが、”また”というのがどういう意味か等この時の榊は考えてなかった。

 

 

********************

 

 

 球場を出た後、榊は近くの町に繰り出してスカウトを続けていた。

しかし、めぼしい効果は得られず日は傾きかけていた。

 

「やっべぇ……全然捕まらねぇ……むしろ逃げられるんですけど」

 

 およそ9割が榊が声をかけた途端、逃げるように走り去っていったしまった。

まぁだいたい予想はつくが、この風貌では無理もない。

 

「あー、声だけでもかけとくべきやったかなぁ……」

 

 榊は若林の事をふと思い返す。

過ぎてしまったことをとやかくいうともりはなかったが、少し悔やまれる。

 

「まずったなぁ……明日までにあと2人ってちと厳しいかねぇ……」

 

「……さーん! ……いがさーん! 」

 

 どこからか、少女の声が聞こえてきた。

どうやら、人を探しているらしいがはっきりとは榊には聞こえなかった。

徐々にそれが近づいてくるについて、はっきりと聞こえるようになってきた。

どうやら、聞き逃してはならないことだった。

 

「榊さーん! アタシを置いてどこ行ったんですかぁー!? 榊大牙さーん! 」

 

「ちょいちょいちょいちょい!? 若林さん!? 」

 

 本来であれば若林との嬉しい再会ではあるが、なにせ制服姿の少女が自分を置いてなどと叫びながら自分の名前をフルネームで呼ばれたら、さすがに榊も焦るものがある。

 

「榊さー……んぐっ! 」

 

「ちょいちょい!? あはは、違うんですよー? 」

 

 榊は急いで若林を後ろから抱きしめる格好で、手で若林の口を覆った。

しかし、この行為によって怪訝な周囲の目を更に加速させてしまう。

 その様子を鑑みて榊は塞いだ手をほどき、若林を解放する。

 

「……はぁっ! さ、榊さん? こういう人目のある所で、ちょっと……」

 

「へいへーい、色々逆効果! ちょ、ちょっとこっちに来てくれるかね? 若林君」

 

 顔を紅潮させ、照れながらつぶやく若林。

若林にとってみれば、いきなり榊に抱き着かれた形になってしまったのだから。

榊は少し人の雑踏を避け、駅から少し離れた広場に若林を急遽連れていくことにした。

 

 

********************

 

 

「いやぁ、やっと見つかりましたよ! 探したんですからね! 」

 

「うん、感動の再会だわ。色んな意味で。で、どったの? 」

 

「いえ、そのっ! 先ほどのお礼を言おうと思いましてですね! 」

 

「いやー。どちらかと言うと迷惑でしょ、あれ」

 

「そんな事ありません! とても、嬉しかった……です! それに、これ! 」

 

 弾けんばかりの笑顔を榊に向ける、若林。

さしずめ柚が可憐な花ならば、若林は太陽のように明るいヒマワリのような笑顔だ。

見ているだけで、こちらが元気になるようなそんな素敵な笑顔だった。

 

 若林が鞄から取り出したのは1枚のハンカチ。

以前、榊が若林に手渡したものだ。

 

「あ、あぁ……わざわざ悪いな。ありがと」

 

「いえ、こちらこそ! あの、それと……」

 

「……。」

 

 榊はふと考える。

若林にアイドルへの道を進めるべきか、否か。

若林智香は恐らく、榊からみてアイドルたるに相応しい素質は十二分にある。

容姿や精神力をとっても恐らく、アイドルには向いている。

だが、チアは若林の居場所。

 そこを奪ってまで進めていいものだろうかと榊は思い悩ませ、今一歩踏み出せない。

 

「あの、さ……」

 

 榊は若林との一連の出来事を思い出す。

太陽のように明るく回りを照らす彼女。

そして、挫けずにどんな状況であろうとも諦めない強い心を持った、元気な少女だ。

そんな彼女に対して何が自分にできるだろうか

 

 いや

 

(違う、自分がどうしたいかや……!)

 

 決意は決まった。

 

「若林さん、良かったらアイドルに……」

 

「ごめんなさい、やっぱり駄目ですよね」

 

「え!? 早くね!? 」

 

「えっ、何がですか? 」

 

 思いっきりカウンターパンチを食らった榊だったが、若林はきょとんとした表情をしている。

どうやら榊が葛藤している間に、若林は何かを榊に伝えていたようだが、それを聞き逃してしまっていたようだ。

 

「あ、あぁすまん。聞いてなかった……」

 

「えー! もうっ……何回も言うの少し恥ずかしいんですからね? えっと……榊さんアイドルのプロデューサーさんなんですよね? 」

 

「まぁ一応そうやけど」

 

「うんと……もしよかったら、アタシを榊さんのアイドルにしてもらえませんでしょうか!? 」

 

「……へ? 」

 

 あまりにも突飛なお願いに、言葉が出なかった榊。

まさか自分の望んでいた、答えを先に若林に言われるとは思ってもみなかったのだ。

 

「アタシそんなに可愛くないし、自分がアイドルに向いている……なんて思ってないんですけど。でも! 榊さんが応援してくれたら……アタシ一杯頑張れる気がするんですっ! 」

 

「っ! ……そっか。でも、チアはええの? 」

 

「それは……」

 

 やはり、若林自身もいまだ迷いがあるようだった。

しかし、榊の為に一歩を若林が踏み出してくれた。

その一歩を大事に、手を差し伸べてやるのは、自分しかいない。

 

「んじゃ、オレからも……。若林さんの応援してる姿ってさ、すごい素敵やと思うんや。カッコいいし、可愛いし。やから、オレからもアイドルになってほしいって言おうと思ってたん。」

 

「……はい」

 

「うん。でもさ、チアは若林さんの居場所やと思うし、たぶん好きでやってることやからちょっと気が引けてたんやけど…決めた。オレの我がまま言おう。智香、オレは智香をそばで応援してたい。」

 

 これはあくまで榊の我がままだ。

若林のそばで、支えていたい。

それだけだった。

これが榊のしたい事、つまり願望なのだ。

 

 応援している彼女をそばで応援したい。

 

 榊の伝えたかったことは、それだけだ。

 

「今日みたいにどんだけ辛い目にあっても、どれだけ酷い事を言われても……オレが全部かき消してやる。声だけはデカいからさ。綺麗とは言えない声やけど、それでも智香に誰よりも大きく精一杯声援送れる自信はあるんや。やから……アイドルとしてこれから一緒に頑張っていかへんか、智香。オレは、お前を側で応援してたい……見守っていきたい……! 願わくば、ずっと…… 」

 

 言いたかったことは全て伝えた榊。

後は若林の返答次第だった。

視線を落としていた、榊が若林の方へと視線を上げる。

 

 そこには少し顔が赤みを帯びているものの、先ほどと変わらないとても温かな笑顔があった。

 

「……はいっ……はい! よろしくお願いします、榊さん! 」

 

「よっしゃ! ありがと、智香! 」

 

 若林は自身の事を、アイドルに向いているとは思っていない。

しかし、たくさんの人に元気になってもらう。

これに最も近いアンサーが、アイドルではないだろうか。

そう考えたのだ。

それと。

 

「アタシたくさんの人に元気になってもらえる様なアイドルになりたいです……いいえ、なります! もちろん、榊さんも……えへへ」

 

 榊にもエールを届けたかったのだ。

これは打ち明けられない少女の秘密だ。

 

「あはは。オレは智香見てるだけで元気になるさね。なら、オレはこれから先何があってもオレは智香の味方や。絶対に……! 必ずオレの声を智香に届けてみせる。これから、ずっとや! 」

 

「はい! さぁ、事務所まで行っちゃいましょー! 」

 

「おうよ。……場所、知ってるん? 」

 

「え!? えーと……ついていきます! ささっ! はやくはやく! 」

 

「たくもう……! はは、いこうか! 」

 

 目的地の知らない若林にややせかされながら、榊はパッションプロダクションへと向かう。

若林智香、これから先どういったアイドルになるのかは誰もわからない。

しかし、榊にとって前を歩きながらポニーテールをなびかせ、時折振り向きつつ笑うこの少女は紛れもなくアイドルなのだ。

 

 こうして二人は夕暮れになる、街並みの中へと消えていった。

榊と若林の数奇な出会いは終わり、物語はまた前へと進みだす。

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