出したいのに・・・。
ごめんなさい、投下します。
「いらっしゃい、剣崎さん」
「おはようございまーす、愛原さん! 」
来訪者の名は剣崎刀二。
キュートプロダクションを代表するプロデューサーである。
容姿は今時の若者らしくとてもスマートで、派手ではないがとても身なりに気を付けている、いわゆるおしゃれ番長さんだ。
キュートプロは在籍するアイドルも多く、何名かプロデューサーが在籍している。
その中で突出しているのが剣崎だ。
担当するアイドルは超一流であり、もちろん剣崎の手腕も抜群。
「いやいや、相変わらずおしゃれさんですねー」
「あはは! 年頃の女の子ばかりですからねー、特に身だしなみはきちんとしないと怒られちゃうもんだから」
「そうですか! 剣崎さんはアイドルの子達ととても仲が良さそうで見てて頬が緩んでしまいますよ」
「そうですかねー?? まあある意味プロデューサーというよりも、友達みたいな? 感じですねえ。だから、僕あまりアイドル叱れないんですよねぇ」
そう、これこそが剣崎の強み。
愛原はアイドルとの間に円を描くように関係を構築し、信頼関係を循環できる人間。
対して剣崎は並列、つまりアイドルと同じ目線に立てる人間なのだ。
共感、共鳴。
これは信頼関係を築くうえでとても大きなストロングポイントだ、ましてや思春期の女の子達ならばなおさらだ。
「あはは、叱るようなことがないんじゃないんですか? 剣崎さんのところのアイドルはみなさん良い子たちですもんね」
「いえいえ、そんなことないですよー? こらー! とか言えなくて……」
「た、確かにあまり迫力はないですね……」
「ですよねー……話はこれくらいにしてライブの話詰めていきましょうか! 」
「はい」
765プロとキュートプロによる、合同ライブの打合せが始まった。
設備やコスト、時間など細かい話が詰められていく。
「ねえ、愛原さん? 」
ふと剣崎が尋ねる。
「ここだと狭いか、うーん……あっ、はい? 」
「この、合同ライブをクールプロにも打診してみません? 」
「え!? 今からですか! 間に合いますか!? 」
「大丈夫ですって! 彼が参加してくれたら、彼に8割くらい考えさせるんで! 」
「そ、そんな丸投げでいいんですか? 」
「いいですいいです! 彼こういうの好きだしー、むしろ喜ぶんじゃないかな? その代わり衣装とかは僕が決めちゃいますよー! 」
「うーん……でも先方がオッケーくれるかどうか」
「たぶんオッケー出るんじゃないかなー? 彼、こういう儲かる話好きだし? 」
「そ、そうですか……そういえば剣崎さんとクールプロのプロデューサーさんって友人同士なんですよね? 」
「ええ、そうなんですよ! 大学の同級生でしてね? 超仲良いっすから! もう一人仲の良い年上の人がいましてね? サークル作っちゃったりなんかして! 学園祭盛り上げたり! ああ楽しかったなぁ……」
「へぇ、今でも連絡とってるんですか? 」
「もう一人の人とは音信不通の消息不明なんですよねぇ……100%生きてるんでしょうけど。クールプロのプロデューサーとはけっこう連絡取り合ってますよ? 」
「そうなんですか! では、クールプロさんにはそちらから連絡入れていただけますか? 」
「了解でーす! 」
どうやら合同ライブはさらに大きくなるらしい。
場所や予算など細かいところはクールプロダクションが決めるようだ。
「お茶よろしかったら、どうぞぉ」
とそこに萩原雪歩が客人にお茶をもてなす為にやってきた。
「ありがと、雪歩ちゃん」
「ありがとうな、雪歩」
「いえいえ、ごゆっくりしていってください」
と彼女はトテトテと事務所の奥に引っ込んでいった。
「……いやぁ、驚いた。だいぶ雪歩ちゃんも男の人に慣れたみたいですね? 」
「ええ、徐々にですが、頑張ってくれています」
「いやー最初は僕を見るなり逃げちゃったから、少しショックでしたよー」
「す、すみません」
「いえいえ気にしないでくださいです。それにしても雪歩ちゃんがねー」
剣崎の目線の先のガールズトークをする萩原は大きく成長を遂げていた。
やはりこの人はすごいな、と改めて感じてしまう。
すると、萩原達の会話が不意に耳に入ってくる。
「ねえねえ、雪歩! 何か昨日から雪歩元気になったよね? 」
「そ、そうかなぁー? 」
「そうだよ! 心配してたんだから! 」
「そ、そっか。ごめんね、春香ちゃん」
「ううん、いいよ。プロデューサーと何かいいことでもあったのぉ? 」
「ふぇ!? ど、どうしてプロデューサーが出てくるのぉ!? 」
「えへへ、そりゃあまぁね! で! どうなの!? やっぱりそれで元気になったの!? 」
「ち、違うよぉ! 」
「えー。じゃあどうして? 」
「え、えっと、頭を撫でてもらって……」
「やっぱり、プロデューサーさんじゃん! 」
「ち、違うのぉ……べ、別の男の人に……」
顔を真っ赤にしながら萩原は答える。
これではかっこうの的である。
「えええ!? 雪歩、彼氏いたの!? 」
「ちちちちち違うよぉ!! そ、そういうんじゃないってばぁ!! 」
「えー、そうなの? ねぇねぇどんな人? 」
「う、うーんと、見た目はうちのお弟子さn……コホン! 見た目は、えっと……うん、映画とかで出てくるギャングのボス……みたいな人かなぁ? 」
「ええ、恐いよ!? 」
「だ、だって目はものすごく鋭くて恐いし、髭も生えてて恐いし、髪の毛も金髪のロングで縛ってて恐いし、耳にはピアス3個もついててて恐いんだもん! でも本人は不良じゃないって言ってたしぃ……」
あえて言おう、このなりでよく不良・ヤンキーじゃないと言えたものか。
その後も春香・雪歩両名はガールズトークを繰り広げていた。
忘れているようだが、一応来客中である。
「……す、すみません」
「あははは!! いえいえ~、逆にこれくらいアットホームな方が気楽で僕も助かりますよ !気を使われちゃうと僕も疲れちゃうんで! 」
「うう、そういって下さると助かります……」
「それにしても、恐らく事故だったんだろうけど、あの雪歩ちゃんが愛原さん以外に触れられて大丈夫だったとはね……」
「事故じゃないんです」
「え? 」
「雪歩は、その男性に意図的に頭を撫でてもらったそうです……」
「なん……だと」
愛原は昨日起こった出来事を剣崎に説明する。
765プロでプロデューサーとしてスカウトしたいということまで伝えた。
これでは内部情報もあったものではない。
「へえ、そんなことがね。スカウトうまくいくといいですね! 」
剣崎は心のどこかに何か引っ掛かっていた。
そう、思い出さなくてはならない何か・・・。
「はい! ありがとうございます! 」
「おっともうこんな時間かー。そろそろ……」
「あっはい。長々とすみません。ではまた今週末のトッププロダクション会合の後にでもクールプロさんも交えてお話しましょうか? 」
「いえいえ、楽しかったですよ! りょーかいです! ではではお邪魔しましたー」
「ありがとうございましたぁ! 」
「あっ玄関までお送りしますよ! 」
「すいませんです。じゃあね、雪歩ちゃんライブでまた会おうね」
「はいぃ! よろしくお願いします! 」
765プロダクションの事務所から出て階段を下りていく中、剣崎は思いめぐらせていた。
自分の中でずっと何かが引っ掛かったままだからだ。
のどに魚の骨が引っ掛かっているような・・・。
「雪歩ちゃん・・・か・・・。」
剣崎が知る萩原は男性に対して絶対防御、堅牢な要塞のようなものと感じていた。
それをいともたやすく潜り抜け、触れ合うことができた男。
そんな人間がいるのか?とも思う。
なにせあの765Pですら触れ合うことができたのはごくごく最近と聞く。
親戚か何かではないのか、とつい現実とは違う妄想すらしてしまう。
そうでなければ割に合わない・・・と。
「確かに、嫉妬しちゃいますねぇ」
「え? 」
「いや、なんでも! 」
「先ほど言ってましたけど大学かぁ……そういったところで学祭ライブ! みたいなのもありなのかも? 」
「それは、いいですねー! 」
剣崎にとって大学時代は忘れられない大切な思い出になっている。
辛くて楽しくて悩み悔やんで嫉妬して。
3人で馬鹿なことをやっていたなと思い返す。
ふともう一人の男の姿を思い浮かべる。
「っ! 」
「どうしました? 」
そして、さきほど萩原の言っていた男の容姿と照らし合わせる。
「まさかね……」
似ているのだ。
いや確かに似ているが、大学を卒業してからもう3年も経つ。
何の仕事をするにしても今も昔の姿のはずがない。
剣崎は思い出す。
”彼”が自分とは正反対で、身なりに無頓着なことを。
だが、まだ確信には行かなかった。
剣崎は確信を得るため、愛原に尋ねる。
「ねえ、愛原さん? 」
「なんですか? 」
「さっき言ってたスカウトしようとしている男の人なんですけど、しゃべり方…特徴なかったですか? 主に関西系の」
「えぇ! 確かに関西の方のしゃべり方でしたね。でもどうしてわかったんですか? 」
もはや疑いようがない。
剣崎は”彼”を知っている。
「えっと確か名前は……」
榊大牙。
聞かなくても分かった。
剣崎は開いた口がふさがらなかった。
これはどういうめぐりあわせだろうか。
剣崎の親友であり、背中を追っていた榊が765プロにスカウトされる?
剣崎は純粋に嬉しかった、この町に榊がいることそして自分の目標としていた人物が愛原に認められているということが。
しかし、そうばかりも思っていられない。
もし仮に、765プロに入ってしまえばまた遠くに榊が行ってしまうような、もう追いつけないところにいってしまうような気がした。
歓喜・戸惑い・嫉妬さまざまな思いが剣崎の中を乱す。
どうすればいいか。
「愛原さん、榊さんというのがさっき言っていた大学の親友だと言ったら、どうします? 」
「え……? 」
「大牙は僕の、ずっと憧れの人でしたよ。偏屈だけど優しくて、堅物のくせにふざけるし、すぐに人をコケにするくせに誰よりも近くにいる、そんな彼がね」
「……」
「すいません、愛原さん。僕も大牙をスカウトしたく……いや、しなくちゃいけなくなっちゃいました! あはは! 」
剣崎の答えは、決まった。
「そうですか……。こりゃ大事になってしまったかな……」
「誰の影響だと思ってるんですかー。でも、正にその通りですよ。まぁ大牙本人はどこ吹く風でしょうけどね」
「はは、そうでしょうね! 」
「ではまた今週末に……良い結果をお伝えしたいものです」
「お互いに……ですね。」
剣崎は踵を返し、765プロを後にした。
あまりの出来事に、肝心の合同ライブの事を忘れてしまいそうになるが、ライブの件を伝える為にクールプロに連絡を取らなければならない。
一刻も、早く。