早速、投下します。
榊は夜の街に繰り出していた。
ここから目的地まではそう遠くない、とはいえもう夜も深くなってる時間だ。
「どうしよう、怖いわね…。」
ちなみに榊は身長185㎝体重92㎏のほぼ格闘家同然の体格である。
屈強な体つきに強面の男が何を言っているのか。
このあたりは都会に近くそれなりににぎやかである。
ふと、榊の耳に若い男たちの声が聞こえてくる。
「なになに?俺たちと遊びたいわけぇ?」
そう、にぎやかなところにはこういう輩が必ずと言っていいほどいる。
しかもお決まりの奥まった路地で。
「まったく・・・ナンパもほどほどしとけやなぁ・・・。」
こんな光景は日常茶飯事である。
きっとこのあと、ホテルでよろしくごちそうさまなのだろう、全くけしからん。
そんな不毛な事を想像しつつ、榊は歩みを進めていく。
「い、いえっ!私はただ道を尋ねたたかっただけです、すいません!」
「は?」
幼い少女の声が聞こえ、榊はあまりにも彼女の愚かな行動に驚き歩みを止める。
(この女、アホか…?)
こんな連中に道を尋ねるなど、愚の骨頂である。
こういう輩は女の子に声をかけられる=お持ち帰りオッケー?
こういう愉快な方程式を持論にお持ちの方が多い。
「まっ、うまくにげれりゃいっか。」
わざわざ助けに行くことでもない、今日安全な日本においてそこまで酷い目に合わないだろうと。
それに、実際彼らが何かを犯したわけでもない。
極めて常識的な考えを巡らせ、榊は真っ直ぐに歩みを進める。
「す、すいません!し、失礼します!」
「おおっと!」
「キャっ!な、なにするんですか!?離してください!!」
「ちょっとお話くらいいいじゃん!」
「い、いや!本当にやめてください!」
「そんなこと言わずにちょっとだけ・・・!」
「い、いやぁ・・・助けて・・・!」
「はい、スタァーップ!」
彼らのもとへと…真っ直ぐ。
非常識なのは百も承知だった。
こんな行動に何の意味もない。
ただ…できる限り彼女に降りかかる危険を0%にしたかった。
「はあ?」
「いやぁ、ちょっとごめんなさいね。ちょっとお嬢さん?この500円でそこのコンビニでこれと同じたばこ買ってきてくんない?」
榊は目の前に持っていたタバコを彼女に見せる。
もちろんこれは注意を逸らすためである。
「えっ・・・いや・・・あのぉ。」
「悪いねぇ、ちょいとおいちゃんこのお兄さんたちにお話しがあるからね。お願いできるかな?」
榊はそっと彼女に目くばせをした。
逃げるように、と。
彼女は何も言わず、コクンとうなずき、注意がそがれた腕を振り切り駆け出した。
涙の跡が彼の目に焼き付いた。
手に拳を作りながら彼はつぶやく。
「さてと…。」
「あーあー。逃げられちゃったよぉ、どうしてくれんの、おじさん!」
榊の胸倉をつかみながら、突っかかってくる若い青年。
「なに?お説教でもすんの?」
「警察とか呼んじゃう?でもぉ俺たち何もやってないしねぇー?」
「そそ、じゃあね。鬱陶しいおじさん♪」
そういうと彼らはその場を去ろうとした…。
「ちょい待てや・・・。」
「あん?なに?」
酒気を帯びた息が榊にかかる。
実に不愉快だった。
「マジでお前らそれで済むと思ってんの?」
どれだけ、綺麗事を並べようが榊の思ったことは、こいつらがただただ気に入らなかった。
はっきりいえば、それだけだった。
榊はこの青年たちをただ見過ごすのはできなかった。
「はあ?なに、暴力とかふるっちゃう系?やべ、こわぁーいw」
「おっさん、状況わかってる?こっち3人だからね。見逃してやってるのはこっちだからね?」
「それでも、やっちゃう??」
「…。もうええ、黙らせる…。」
「はぁ?マジで何言ってん・・・おごぉ・・・!!」
榊の右拳が近くにいた男の鳩尾に深くめり込む。
榊にとってみれば彼ら3人は、どうあがいても危険度0である。
「がっ…。」
彼らのうちの一人が力無くその場にうずくまる。
「なにしやがんだテメェ!!!」
「お、おい!!大丈夫か!!」
一人が倒れてる仲間に駆け寄る。
「喋るなよ?舌噛んで死ぬぞ?」
「あ?がぎゃっ・・・!!!」
榊は屈んでいる男の顎めがけて、容赦のない膝を無情にも突き刺した。
「え・・・あがっ・・・。」
大の字に倒れた男は、瞬く間に気を失った。
「お、おい!警察呼ぶぞ!?いいのか!?十分これは暴行罪だぞ!!それでもいいの…」
「何なら・・・」
青年が言い終わる前に彼が言う。
「殺人も追加しとくか?」
「ひ、ひぃ!!」
榊の左掌がガシっと男の顔を覆いこめかみにめり込むように握る。
「が・・・がぁぁぁ!!」
「・・・。」
「い・・・いだぁあい!!!・・・だ・・・だずげでぇ・・・!」
「2人とも気を失っとるだけじゃ…。とっとと2人連れて消えろ…ええな?」
「はいぃ・・・」
「はよ、いけ…!」
「ばいぃ!!!わがりまじだぁ!!!!」
榊は左手を青年の顔からはがす。
彼は逃げるように2人を引きずりながら奥へと去って行った。
「はぁ…なにやってんねん…オレは…。」
自分でも理不尽なのは解っていた。
榊はこういった行動で過去に後悔した経験を持っている。
自分の稚拙な行動に虫唾が走る。
「あの子、ちゃんと逃げれたみたいやな。」
榊は先ほどの少女の顔を思い浮かべる。
一瞬しか見えなかったが、確かに泣いていた。
それを思い出すと、胸がずきずきと痛む。
それは自分の心臓の鼓動に脈動するかのようにひしひしと感じる。
「オレなんかがこんなん思う資格あらへんよな…。」
他人の痛みに心を痛める資格もないくせにと。
「ちっ…。胸糞悪い…。ただ…あいつらの顔がムカついただけや…。」
これは間違いだと、そう自分に言い聞かせ胸の痛みを伴いながら榊は大通りへと出る。
そうやって自分に蓋をしようとしたとき。
「あ、あの!」
「あん?…っ!」
少女がそこにいた。
まずい、と先ほどの行為を見られていたとすると、非常にまずい。
榊は本能的に逃走を図ろうとする。
「チッ…まずった…!」
「あ!待って、待ってください!!」
ぐいと服を引っ張られ、どうやら榊は捕まってしまったようだ。
この少女を無理やり引きはがすことなど容易いが、さすがにそれは無粋だろう。
となれば説き伏せるのみ。
「いやぁ、これはそのですね…?ってあんたさっきの?」
それは先ほどの少女だった。
「だ、だいじょうぶでしたか!!?」
「へ?」
「いや、だって!あんなことになってあの後大丈夫だったのかなって・・・!」
「あ・・・あぁ。」
どうやら目撃はされていないらしい。
なぜならあんな醜い姿をしてた自分を、心配する人間なんて存在しないのだから。
「大丈夫、大丈夫!おいちゃんがばっちりお説教しておいたから!」
「そ、そうですか。よ、よかったぁ・・・。」
彼女はヘナヘナと全身の力が抜けていく。
いやいや自分の心配しろよ、と心の中で突っ込みを入れながらふと疑問に思う事を聞いてみる。
「はて、どうしてのこのこ戻ってきたのかね?」
「あ、そうでした。はい、これ。」
そこには例の”タバコ”が手の中にあった。
「え…。」
「買ってきましたよ♪」
満面の笑みでそう言う彼女。
とても愛くるしい笑顔で。
しかし、榊は思った。
(…アホかぁ!?)
「こりゃぁどうも…ってちゃう!」
「え!?これじゃなかったですか!?」
「もっとちゃうわ!オレちゃんと目配せしたよね!?”逃げてくれ”って!」
「ええ!?あれは”パシリ行って来いや”じゃなかったんですか!?」
「ちゃうわぁ!!あの状況で誰がパシリなんか行かせんねん!!」
「だって、とても恐い目でしたからてっきり・・・。」
「Oh・・・。」
榊は絶句した。
もしやあの涙も自分のせいなのか?と聞きたかったが色々壊れてしまいそうなので、そっとしまっておいた。
「あのね、オレの面はともかくさ。あんな奴らに道を聞いちゃいかんよ?どんな目に遭うかわからんのやから。」
「あ、はい・・・そうですね。ほん・・・とうに恐くて・・・。」
少女はその場にへたり込んでしまう。
「えへへ…思い出したら腰が抜けちゃいました…。私も年かな…。」
迂闊だった。
自分の一言で先ほど感じた恐怖を思い出してしまったのだろう。
「…。」
(アホはオレの方やないか…!)
榊には目の前の少女を慰める資格なんてない。
このまま逃げてしまえば済む話だった。
しかし、なにがそうさせるのかわからないが…。
「ほら、立てるか?」
榊は手を伸ばし、彼女の手を掴んだ。
そして彼女の手を自分の両手で優しく包む。
壊れてしまわないように、そっと。
自分の汚れてしまった手で…。
「大丈夫、もう大丈夫やから。」
「…はい!あ…あれ…?」
彼女の目から涙がこぼれた。
(ったく・・・。最近女の子泣かせてばっかやな。)
「さぁさぁ、そんな浮かない顔してるとせっかくの可愛らしい顔が台無しやで?」
「…うっ…ぐすん。…はい!」
「よっしゃ!ほらもうベッピンさんやわ!」
「えへへ…///ありがとうございます、もう大丈夫です!」
「おっす。さってと、それで?行きたい場所はわかったんかいな?」
「あ、はい!さっき私の知り合いに電話して、近くまで迎えに来てくれるそうなので!」
「そっか。ならそろそろオレは…。」
「あ、あの。」
「ん?」
「その人が来るまでもう少しこのままでも…いいですか?」
「えっ…まぁ別にええけど。」
「よかったぁ!」
恐ろしき潤んだ瞳の上目づかい…。
一瞬くらっときたのは秘密だ。
無理もない…口では大丈夫とは言っているものの、恐怖は完全に抜けていないだろう。
榊は握りしめた手をまだ離すことができなかった。
榊は彼女の顔を見やる。
先ほどまでの涙のせいか、やや顔は紅潮して赤くなっている。
こうしてみると彼女はまるで、アイドルの様なかわいらしさである。
するとここで、榊の思考が停止する。
「ん?あれ?あんたどっかで・・・。・・・って、ああああああ!!!??」
「ひゃい!?」
「ああああなた、アイドルの!?」
「キャハ☆ばれちゃいましたか♪そうです!私はアイドルの」
「安部菜々さんじゅうななさい!」
彼女の名前は、安部菜々17歳(?)。
くしくも、榊の見ていたDVDにも出演していた今を輝くトップアイドルの一人だ。
「言い方!言い方!悪意ありますから、それ!」
「おお、本物や・・・。すげぇー、可愛いー。」
「いやぁ・・・流石に、面と向かって言われると・・・///」
「なぁなぁ、ウサミン星ってどこにあるん!?」
「え!?えぇーっと、電車で1時間の場所ですよ!?」
「…。知り合いの人まだかなー。」
榊は無視してみた。
「ちょっと!?聞いておいて無視しないで下さいよー!?」
可愛かった。
「そのさ、知り合いって友達なん?」
「いえ、私のプロデューサーですよ?」
「…なんだこの既視感。」
榊はなんとなく非常に嫌な予感がした。
なぜだかはわからないが、第六感がそう告げていた。
「おーい、菜々ちゃーん!」
すると、向こうから通りの向こうから大手を振ってこちらに向かってくる男性がいた。
「プロデューサー!」
「…?…今の声って。」
どんどんと近づいてくる若い男性、容姿は今時の若い子らしく、おしゃれ・・・。
そこまで考えたところで榊の思考は途絶えた。
「げげぇ!?マジかよ、刀二!?」
「あああああ!!!!???」
咄嗟に逃げようと思ったが、それはかなわなかった。
なぜなら、榊は両手で安部菜々の手を握っているのだから。
榊と剣崎が遂に邂逅した。
やっとアイドル出せました。
タイトルとななさんは別にかけてません。
・・・本当です。