シンデレラと野獣   作:BKCT

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どうも。
投下します。


邂逅2

「…久しぶりやな、刀二…。」

 

まったくもって想定外だった。

安部菜々のプロデューサーが剣崎だったとは、榊は驚きを隠せなかった。

大学時代、榊にとって剣崎は親友と呼べる者であった。

人懐っこく常にべたべたくっついてきていた剣崎は、彼にとって煩わしく思うことも少なくなかったが、放っておくことはできなかった。

榊はどうしても憎めない剣崎の事を手のかかる弟のようだったのだ。

卒業してから3年剣崎とは会っていない、自ら剣崎と離れたのだ。

榊にも事情はあったのだが、そんな彼の事をきっと剣崎は恨んでいるに違いない。

それだけのことをしてしまった自覚はあった、責められても仕方ない、と。

そう覚悟していた彼だが。

 

「なっ…ちょっとぉ!大牙、どういうことなの!?」

 

「そうやな…。悪いとは思ってるで?…オレには何も言う資格なんて…」

 

「なんで…。菜々ちゃんと!イチャイチャしてんのさ!?」

 

「…へ?」

 

 予想外の一言だった。

 

「ちょっとぉ、菜々ちゃん!?なにしてんのさ!?」

 

「えっ…?あっ…!こ、これはその…そ、ういうんじゃなくてですね!!…///」

 

 榊はすっかり、失念していたが安部と両手を取り合って向かい合い見つめあっていた。

確かに誤解する。

 

「な、ちょっおまっ!!開口一番それはないんじゃないですか!?もっとこう…感動の再会的な!」

 

「そんなこと、大牙に期待してないよ!」

 

「がびーん!」

 

「効果音が古いよ!?」

 

「プロデューサー!ご、誤解なんですって!」

 

「ほ、ほんとにぃ??」

 

 そう、これは完全に誤解だ。

拉致してるように見えなかっただけましか、と思いつつ榊は剣崎に託すため役目を終えた両手をそっと離した。

 

「あっ…。」

 

「おい。」

 

 名残惜しそうな顔するんじゃない、くらっときちゃうだろうがっと榊は思ってしまう。

それにどうせこういうパターンは…。

 

「あああ!!!ほらほら、今!!菜々ちゃんの顔が乙女モード全開だったじゃん!!」

 

「ああ・・・やっぱり。ったく、これはな・・・。」

 

 榊はこうなった経緯を彼らの目的地に向かう道中、剣崎に説明する。

こういう時、説明しよう!みたいに解説してくれる人がいれば楽だなと榊はくだらない事を考えていた。

 

「なぁんだ、そうだったのか♪それならそうとはやく・・・」

 

「説明しとる暇なんかどこにあったんじゃ、コラ!」

 

「いや、本当に助かりました!」

 

「いや…。」

 

 と目的地である、ラジオ局に到着した。

こんな時間に未成年の少女を働かしていいものなのか、榊は剣崎に尋ねたがそれはとっぷしーくれっとらしく、答えてはくれなかったが、大丈夫らしい。

 

「さてっと…菜々ちゃん!ラジオ収録、がんばってね!」

 

「あれ?プロデューサー来てくれないんですか?」

 

「あ、ごめんね。少ししたら行くから先に収録してて。」

 

「そうですか、わかりました!不肖、安部菜々お仕事がんばってきますね!」

 

「うん!頼んだよ!」

 

「はい!あ、榊さん!」

 

「あん?」

 

「今日は本当にありがとうございました!またお会いしたら、お礼させて下さいね!」

 

「いらんわ、そんなん。はよ、いけぇー。」

 

「絶対ですよー!」

 

 そう言い、安部菜々はラジオ局の中に駆け込んでいった。

 

「さて。改めて、久しぶりだね。」

 

「せやな…。」

 

「いやぁ、元気そうでよかったよ!心配してたんだからぁー!」

 

「あーもう!くっつくな、うぜぇ!」

 

「つれないなぁー♪」

 

 屈託のない笑顔を見せる剣崎。

その笑顔は榊には眩しかった。

 

「つうかさ、お前なんかないの…?」

 

「なにがー?」

 

「オレに言いたいことや…。恨み言の一つでもあるやろが。」

 

「うーん…。…無い!!」

 

「…。」

 

「いや、本当だよ?いやぁ本当によかったよ元気そうで!」

 

「そっか…変わらんの、お前。ありがとな、おかげさまでな…無事ですよ。」

 

 榊はタバコに火をつけ、思い出す。

剣崎はこういう人柄だったと。

底抜けに優しい、そんなうざったらしくて放っておけない…優しい奴。

恨み言の一つでも、言われる覚悟を決めていたので拍子抜けした榊だったが、そんな剣崎の優しさで救われているのは明白だった。

だが、それと同時にその優しさが榊にとって苦しいものであることも明白だった。

 

「ううん、あっでも!一つだけ、言いたいことがあるんだ!」

 

「あんのかい!?…で?なんやねん。」

 

「あの…さ。」

 

「どないした?はよ言いなはれ。」

 

「うん。あのさ…一緒に働かない!?」

 

「ぬ?」

 

 思いもよらぬ発言に、みょうな言葉が出てしまう榊。

この言葉は昨日聞いたばかりだが、3年ぶりに会う友人にまで同じことを言われるのは、全くの想定外である。

 

「突然なのは、わかってるけど!ぜひ!…どうかな?」

 

「いや、割とマジで何言ってるんすか?働くってお前みたいにプロデューサーとしてか?」

 

「もちろん、そうだよ!」

 

「よし、もう一度言おう。何という既視感…というかでじゃぶー。」

 

「??」

 

「いや、昨日な。765プロって知っとるやろ?あっこのプロデューサーにも同じ事言われたばっかやからなぁ。」

 

「あぁ、その事か!うん、それはもう知ってるんだ。」

 

「あらま、そなの?世間って狭いね。」

 

「まぁ僕も今日ね、愛原さんに会ったからね。そこで聞いたんだ。」

 

「ほう。」

 

「でね?君を探そうとしてなかで…出会っちゃったわけ。ねぇ、運命感じない…?」

 

「そうだね、剣崎くん…。…っていやいやいや、きもいきもい!感じるか、どあほ!」

 

「えー。」

 

「確かに奇跡的な確率やと思うぞ?圧倒的に不幸な方で。」

 

「なんでさ!?」

 

「あったりまえじゃ!お前みたいなめんどくさい奴そうおらんからな!?」

 

 さっきまでの剣崎が優しい云々というくだりは撤回して、やはりめんどくさいというのがどうやら榊の中で勝ってしまったようだった。

 

「…蓮三より?」

 

「…。そこは微妙だな。あいつもあいつでめんどくさいからなぁ…。」

 

 どうやら榊の周りの交友関係はめんどくさい人間の集まりだった。

つまり…榊も相応にめんどくさい人間なのだ。

類は友を呼ぶ、まさにその通りである。

 

「でしょ??そんなことより…どうかな?」

 

「はぁ…愛原さんとやらの話聞いたんなら、わかるやろ?」

 

「断ったんでしょ、とりあえず。」

 

「なんや、そのとりあえずて。」

 

「面倒そうだから、とりあえず断ったんでしょ?」

 

「ふっ・・・。まぁな。」

 

 榊は図星をつかれてしまった。

しかし、実際には当たらずとも遠からず、といったところであろうか。

 

「いや、かっこよくないよ?今なにしてるの?」

 

「しゅーかつ中でぇす。」

 

「…そのなりで??」

 

「・・・うるさい。とりま、オレやらへんからな!んじゃなー。」

 

「待ってよ!…本当の理由はなに?」

 

「・・・あ?」

 

 剣崎も本当の理由は別にある、と勘付いていたようだった。

伊達に榊の友人をやっているわけではないようだ。

 

「だってさ、大牙けっこう…いやかなり向いてると思うんだよ、僕。なのになんでかなって。」

 

「いや、それ勘違いだから。そんな才能ないわ。」

 

「そんなことないよ!」

 

「買いかぶりすぎ。オレのスペックなんてしょぼいぞー?口下手やし人から避けられるでしょ?それに・・・」

 

「・・・めてよ。」

 

「口悪いしさ。刀二みたいに女の子と上手くしゃべれへんし、蓮三みたく頭よくないしさー。言い出したらキリが…」

 

「やめてよ!!」

 

「…。どした急に?」

 

「僕さ、大牙のことずっと目標にしてたんだよ!僕の勝手だってわかってるし、迷惑なのもわかってる!でも…それでも!僕は君の背中を追いかけていたんだ…ずっと…!だから!僕の憧れである君を!大牙を!大牙自身がそんな風に悪く言わないでよ!」

 

「…。」

 

 剣崎は叫ぶ、榊に向って

それはまるで、懇願しているようにさえ見えた。

剣崎のこんな姿を見たことなかった、こんなに怒りを露わにするのを。

 

 

(こいつはオレよりずっと前を見て、真っ直ぐ進んでいたんやな。

奇しくも榊大牙という名の幻影を追いかけて。)

 

 なら、榊は伝えねばならない。

剣崎はは真っ直ぐに自分に向かってぶつかってきた。

なら…現実を突きつけるほか、なかった。

とても残酷な現実を。

 

「お前…何の話してんねん?」

 

「…え?」

 

「お前がずっと、憧れてた榊大牙って…誰や。」

 

「っ!」

 

「ええか?その榊大牙って奴、オレは知らん。最初っからそんなもんおらん。おったとしてもそいつは”死んだ”んや。」

 

「そんなこと…。」

 

 榊は冷たく言い放つ、現実を。

そんなものは最初から存在していない、幻なんだと。

だから榊は伝えねばならない。

真実を。

 

「何でお前がオレの背中なんて追いかけてんねん。すぐ隣におったやろが。」

 

「どういうこと?」

 

「お前の前に立って進んでやるつもりなんてない、そないなこと期待されても知らんがな。隣に並んでたらええやんけ、昔みたいに。オレはお前の前になんておらん、隣におったんやで?…ずっと前からな。一緒にアホみたいに笑って、騒いでさ。ちゃうか?」

 

 優しい真実を。

そう、榊にとって剣崎は肩を並べる友人として接してきた。

だから榊は隣に立つことができる。

 

「友達としてオレにそう望むんなら!目標だろうが敵だろうがなんだってやったるわ!勝手に人を突き放しとんちゃうぞ、おい!…頼むからそない寂しい事言うてくれんな…このドあほ。」

 

 これが榊の伝えたかった真実であり、気持ちだった。

自分は剣崎の前に行きたい訳でも、追いかけてきてほしいわけでもない。

隣にいたかったのだ、ということを。

 

「…。…はは…ははははっ!」

 

「おい、何うけとんねん!割とガチオコプンプン丸やからな!?」

 

 腰を曲げて笑い出す、剣崎。

口ではそう言っているが、榊に怒気はこもっていなかった。

 

「あはははは…!いや、ごめんごめん!急になんか力抜けちゃってね!」

 

「なんやねん、それ。」

 

「ごめんごめん!…うん、そうだね。」

 

「ったく、自分で言っててきもくなってきたな…。ムカつくから殴らせろ。」

 

「ええ!?やだよ!?」

 

「ええい、黙れ!」

 

「うわぁーーー!!…ってそうじゃなくて!!で、どうなの??やってくれるの、プロデューサー!?」

 

「チっ…クサイ話でうまく誤魔化せると思ったのに…。」

 

「どう??」

 

「あーうっさい。保留だ、保留そんなもん。んじゃ、オレ夜道怖いからそろそろ帰るわ。」

 

「えーーー!ちょ、ちょっと待ってよ!!連絡先くらい教えてよー!」

 

「あーはいはい…っと。これでええやろ?んじゃな。」

 

 榊は携帯の連絡先を剣崎に教えた。

そして、榊は踵を返し立ち去ろうとする。

 

「えーもう少しいいじゃんー!」

 

「アイドルを!待たせとんねやろうが!このアホ!」

 

 榊は剣崎の頭に拳骨を落とす。

どうやら、榊がこうもはやく立ち去りたいのは剣崎の仕事の邪魔をするわけにいかなかったから、安部を待たせる訳にはいかなかったからである。

 

「あいたっ!!もう、わかったよ…。あっ!蓮三にも会ってあげてね!彼寂しがってるから!」

 

「あいつが?マジで?キモっ…。」

 

「ひどっ!頼むよー。」

 

「へいへい。そのうちなー。」

 

 榊は再び踵を返すが。

 

「あっ最後に一ついいかな?」

 

「なんやねん、しつこいなー。」

 

「なんで、すぐに返事できないの?君は優柔不断じゃないと思うけど…。」

 

「はぁ…。さっきも言ったけど、お前の隣で仲間として働くことをお前が望むならオレもやぶさかでもない。」

 

「じゃあ、なんで?」

 

「だーかーらー、お前が"望むなら"の話や。」

 

「だから、それを望んで…」

 

「嘘つけー。お前が”望む”ことでオレにできることは何でもやったるわ。たとえそれが…」

 

 榊は振り向かずに答える。

剣崎に”背中”を見せつけるように。

 

「…。」

 

 剣崎はじっと彼を見つめる。

榊は振り返ることなく、こちらに顔だけこちらに向けて。

鋭さが増した眼光をその瞳に宿しながら見つめ、言う。

 

「お前と競い合うことになっても、な…。んじゃな。」

 

 榊は立ち去った。

剣先はその場に立ち尽くしていた。

その目には、榊という大きな背中を写していた。

 

「何が”死んだ”だよ…。」

 

 そう、その背中は剣崎が追い続けていたもの、そのものだった。

 

「生き生きしてるじゃん…。」

 

 そう呟いた刹那。

剣崎の携帯が鳴った。

 

「ん?…はは。すごい、タイミング。…もしもし?」

 

「菱上だ。どうだ?大牙の情報は何かわかったか?」

 

「はは、情報も何もついさっきまでここにいたよ。」

 

「なんだと!?今、どこにいる?私もすぐそこに向かう!」

 

「あぁ、もう行っちゃったから無理だよ?」

 

「むむ、そうか。で、どうだったんだ?」

 

「先に言っておくよ、蓮三。ごめんね。」

 

「なにぃ!?まさか、大牙…キュートプロに!?」

 

「あぁ、違う違う。それは失敗失敗!」

 

「なんだ…。ではなぜ謝罪した?」

 

「うん、あのね。」

 

「ああ。」

 

「どうやら、眠れる獅子起こしちゃったっぽい…。」

 

 剣崎は気づいた。

自分が憧れた榊大牙は”死んだ”のではなく・・・

眠っていただけ。

 

 榊の中の何かが、再び目を覚ましたのだ。

まだ、榊自身も気づかない微々たるものだが、確実に鼓動を刻み始めていた。

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