夢幾夜   作:時雨オオカミ

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 温度差をお楽しみください。


七夜目『アラーム』『かくれんぼ』

 

 

『アラーム』

 

 いつもの朝。

 いつもの単純な音で私は目を覚ました。

 

 しばし伸びをして、けたたましく鳴る音源を手で探る。

 寝ぼけ眼でスマホを立ち上げ、素早いパスワードの入力。

 その次の瞬間、私は強制的に頭を覚醒させられることとなった。

 

 陽気なクリスマスソングが大音量で鳴り響く。

 アラームは既に終了しているので、自動的に鳴っていることとなる。まるで設定されたBGMのように!

 さらによく見ると中に入っているアプリ達がブルブルと震え、勝手気儘にお散歩に行っているではないか!

 なんとか設定を変えてしまおうと、設定をタップしようとするが…… 「設定」 は指の間をスルリと抜け次のページへと移ってしまう。

 追いかけても追いかけても、まるで逃げるように移動してしまう。

 

 なんだこれは、なんだこれは!?

 なんて悪夢だ! いったい私のスマホになにが起こっている!?

 

 朝の支度も忘れ、必死にスマホをタップする私はやがて気づいた。

 薄っすらとだが…… スマホにたんだんと文字が浮かび上がっていることに。

 

「は?」

 

 薄っすらと、しかし自己主張が強く。

 私は、それを目に焼き付けられた。

 

 

 

 

 

 

 発狂しながら目が覚めた。

 もちろん、安心するまでスマホをいじり続けたのは言うまでもないことだ。

 

 

 

 

 

『かくれんぼ』

 

 私たちは観光地の宿泊所へとやって来ていたはずだった。

 はず、だったんだ……

 

 古ぼけたコテージ。

 そこにA、B、C、私で訪れていた。

 私たちは友人同士で湖の畔にコテージを借りていたんだ。

 

 全ての始まりはコテージの床で、Aが転んだこと。

 その拍子に床板が外れ、その下に階段のようなものが見えたのも、それに興味を惹かれる者が出ることも、必然だったと思う。

 それに恐怖を覚えて、コテージを変えるかホテルの予約をこれから取り直すかのどちらかにしようと言う者も当然いた。

 けれど、残念ながら前者であるCはスクールカーストの上位なのだった。

 強引な彼女に、押しに弱い私たちが勝てようがなかったのだ。

 

 薄暗い地下に降り、そして私たちは〝 襲われた 〟

 そこには湖の下だというのに地下水道のようになっていて…… それでいて地下鉄のような雰囲気の場所だった。

 

 そこで、嬉々として先頭を歩いていた彼女は大声で笑った。そして彼女は…… Cは、地下水道から這い出た10メートルはありそうな真っ白なワニに足を掬われ、暗い水の中へと引き込まれて行った。

 痛いくらいに反響する絶叫を残して。

 

「あっ」

 

 声をあげかけたAの口を塞ぐ。

 私は見たのだ。あのワニの、目があるべき位置は皮で覆われていた。

 地下で生きて来た巨大ワニには色素も、はては光を取り入れる目玉も必要なくなってしまったのだ。

 

 声をあげてはならない。

 

 それはあのワニに「どうぞエサにしてください」と身を差し出すことと同じ行為だ。そんな愚かなことはしてはいけない。

 幸い、Cの断末魔によって音が反響し、足音を隠しやすくなっていた。逃げるなら、今のうちだ。

 

「ね、ねえ……」

 

 小声でBが指差した方向には、なにもなかった。

 そう、来たはずの階段さえ。

 いや、正確には〝 階段の残骸 〟がそこに積み重なっていた。

 まるで大きな力で粉砕されたかのように崩れ、無事なところまで手は届かない。

 たとえ三人で肩車をしても、地上へ繋がる階段のところまで手が届かないだろう。手をかけられたとしても、ボロボロに崩れた下の瓦礫に新たな木片が積み重なるだけとなるだろう。

 

「大丈夫。ここが地下水道なら、きっと他にも地上に繋がった場所があるはずだよ」

 

 そう二人を励まして、水辺からなるべく離れた位置を歩いていく。

 

「あっ! きゃあっ!?」

 

 そのとき、Aが廃材に躓いて転んだ。

 またか、と思った。そして同時に、まずいと思った。

 

「立って!」

 

 無理矢理手を引っ張ってAを起こし、その拍子に彼女と自分の位置を入れ替える。

 そしてたたらを踏む間も無く、その場から飛び退った。

 

 どうしてこんなにも素早く動けたのか、私にも分からない。

 けれど、そこへやってきた巨大な口からは逃れることができた。

 

「走って!」

 

 彼女たちとはワニを挟んで反対側に来てしまった私はそのまま走った。

 音を頼りにやってくるワニは、二人分の足音よりも捕まえ損ねたこちらを優先して来たようだった。

 走って、走って、途中で拾った石や廃材、漂流物をなんとか遠くへ投げ飛ばす。そして、それが落ちた瞬間に足を止めた。

 

 賭けだった。

 

 結果、ワニは投げた物の方へ水辺を走り抜けて行ってくれたから良かったものの、心臓が未だに強く打っているのが分かった。

 それが走ったからという理由だけでないことなど、誰にでも分かる。

 怖かった。死ぬかと思った。でも…… 上手くいった。

 

 私はそっと足音を立てないようにそこから離れ、元来た道を戻り出す。

 しかし、歩いても歩いても友人たちは見つからない。

 いつしか、地下水道だと思っていたそこは地下鉄のような様相に変わっていった。

 水の中をよく見れば線路が沈んでおり、そこが一般的な駅と同じくらいの深さの段差であることも伺えた。

 電灯はチラチラと灯り、ときおり漏電しているのかバチバチと音を立てている。

 

 ゴポリ、大きなものが移動するように水面が揺らめいたので私はゆっくりと歩いたまま近くにあったトイレに隠れることにした。

 水面が赤く尾を引きながら揺れていることに気づかないフリをしながら、トイレに入る。

 扉はいかにも古そうで、閉めれば音を立ててしまうことが分かっていた。だからあえてなにもせず、その場で体を抱きしめる。

 震えを抑えることなどできなかった。

 

「…… っ」

 

 息遣いが荒くなっていく。

 泣きそうだった。泣きたかった。

 ひとりぼっちで汚いトイレに身を屈めながら、時が過ぎるのを待っていた。

 あれに食われてしまうくらいなら、いっそここで飢えて死んだ方がマシだとさえ思った。

 

 「ペットの放流が問題視されている」 などと書かれた張り紙や、割れた水槽らしき物を憎々しく眺めながらどれだけ時間が過ぎただろう。

 

 ここが、寝床かよ……

 

 私は巨大な気配をすぐ近くに感じながら、一歩も動くこともできず意識を手放した。

 

 朝、起床したときにべっとりと汗をかいていたのは仕方のないことだと思う。

 

 そして夢の中では思い出せなかったが、それが 「地下水道に捨てられた白変色したペットのワニがいるらしい」 という都市伝説だと気づいて狂喜乱舞した。

 

 リアルで体験するのはごめん被るが、生憎とこれは夢の出来事だ。

 都市伝説を体験するのは、夢だからこそ良い。

 

 この夢が胡蝶の夢ではないと、言い切れはしないが。

 

 





 『かくれんぼ』の方はそのうちクトゥルフのシナリオにするかもしれませんね。もしくは、「ニャル様のいうとおり」で出すかも…… ?
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