夢幾夜   作:時雨オオカミ

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十夜目『ラジオ体操』

 こんな夢を見た。

 めちゃくちゃ落ち込んでいるとき、まばたきをした瞬間、私は仕事場にいたはずなのに真っ白な部屋に立っている。部屋にはモニターがひとつ。

 

 なにかと思っていたら、モニターがついてイイ笑顔のマッスルなお兄さんが映し出された。張り付いたような、お手本のように白い歯を見せる満面の笑みでこちらを見つめている。カメラ越しだというのに本当に見られているように感じて、なんだか不気味に思うのも仕方のないことだろう。

 

 目を白黒させながら、あるいは顔面にハテナを散らすようにしてそのモニターを見ていると、ひとしきりマッスルポーズをとって満足したのか、お兄さんは腰に手を当てて直立不動になった。

 

 その瞬間、学生の頃嫌になるほど聞いた音楽が流れてきたのだ。

 

「ラジオ体操第一〜っ!!」

 

 えっ、と思っていたら、映像の中のお兄さんはますます磨きのかかった笑み……真っ白な歯を出してキランッと暑苦しい笑みを浮かべた。おまけに親指を立てたサムズアップ付きである。

 

 うっそだろと思いながらも、推定・怪奇現象に対して反抗するのも危険な気がして真面目にラジオ体操を遂行していく。学生時代にしかやっていなかったことだが不思議と体は覚えているもので、最初は渋々で小さな動きだったものが、次第にしっかりと体を動かして体操を終えることができた。

 

 すると今度は「次はスクワット50回からいってみよう!」

 

 もうゴールしてもいいかなと思いかけたが、やはり怪異っぽいアレに対して反抗したらなにが起こるのか分からず、怖くてそのまま筋トレを続ける。

 

「大丈夫! 君ならできる!さあ、五分間君の後ろにあるミネラルウォーターで休憩だ!」

 

 めげそうになりながら水分を求めれば、いつのまにか背後にミネラルウォーターのペットボトルが鎮座している。

 

 休憩時間とやらが終わればまた地獄のような筋トレが待っているのは明らかなので、推定怪異と思われるものから出された飲み物は安全なのか、と考えるよりも先に手を伸ばし、私はゴキュゴキュと一気に喉を潤す。運動している最中の水はなるほど、ただのミネラルウォーターなはずなのに、ものすごく美味しかった。

 

 地獄のようなトレーニングをひいひい言いながらついて行き、最後のほうはもはやなにも考えられなくなっていた。言われるがままに運動し、休憩し、水を飲む。

 

「マッスルメニューはこれで終わりだ! お疲れ様でした!」

 

その言葉を聞いた瞬間、私は床に倒れ込む。まるで体育会系のような大きな声で「ありがとうございました!」なんて言いながら。

 

「うんうん、運動はやっぱり気持ちいいね! これからも君も、暗い気持ちになったときは筋肉をうならせるといいぜ☆」

 

 やっぱりお兄さんは白い歯をキラリと剥き出して笑っていた。

 

 そしてそのまま辺りが白んでいき……夢から目が覚めたら普通に部屋だった。別に筋トレをしていたような疲労感もない。落ち込んでいた気持ちはまだ若干引きずっている。

 

 でも、「私怪異と筋トレしてたんだよな……」って思うとちょっと、いやかなり笑えてきて、じわじわと明るい気持ちになっていくのだった。

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