不死人と蓬莱人【完結】   作:溶けた氷砂糖

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冥界いいとこ一度はおいで

 紫からのクイズ形式の招待状は二度目である。前回の答えは博麗神社だったのだが、今回は違っていた。誘われたのならある程度は何処にでも顔を出すが、まさか行くために死ぬ羽目になるとは思わなかった。呼ばれた先は空の上、妹紅が全力で飛ばすものだから酸欠とか気圧とかそこら辺の理由により死んでしまったのだ。行き先を考えるとまあ妥当と言えなくもないが。

「寒い」

「冥界なら仕方ないさ」

 心霊が冷たいのは当たり前で、まあ妹紅もお邪魔することはないだろうから心配することでもないだろう。並木道の周りには白玉みたいな形をした幽霊がふよふよ漂っている。ここに居るのは悪霊ではないから問題ないと紫は言っていたが、やはり怪奇現象を間近で見るというのは気分がいいものではない。既に妖怪やら何やらに会ってるだろうという突っ込みは置いといて。今日のホストは西行寺幽々子、前にも一度顔を合わせたことはあるが、わざわざ招待される程仲良くもなっていなかった筈だが、俺の首を落としてくれた庭師。魂魄妖夢だったけか、その子は幽々子の部下であるらしく、謝罪の意味も込めて招かれたのである。死なない二人が冥界のお世話になるというのもおかしな話だ。

「それにしても、斬られたんだったらちゃんと言ってよ」

「ぶっちゃけそんなに気にしてなかったからなあ。酒の席だったのもあるが」

「いや余計に怒りなよ」

 そんなことを言われたって。苦言の一つでも言おうかと考えなくなくもなかったが、霊夢に引っ張られていった挙句に俺の方から怒るのも酷だろう。減るもんではないんだからいいじゃないか。

「この間と言ってること逆じゃない」

 ジト目で睨むつけてくる妹紅に言われてから気付いた。自分で口にしても違和感はあったのだが、それが何かと思えば、遊園地に行った時の話だ。なんというか、あの宴会の夜にも思い出したが何故こんなにも後の会話に出てくるのだろうか。しかも、確かに反対のことを言っている。まるで俺が人間ではなくなってきてしまっているみたいだ。

 勘違いするな。俺は妖怪でも蓬莱人でもない。不死身なだけが取り柄の、何の変哲もない一般人だ。身の程を弁えろ。心中でそう言い聞かせる。妹紅もただならぬ雰囲気だと感じ取ってくれたのか、心配そうな顔をしながらも何も言わないでいてくれた。心を落ち着かせて、またあの会話から言葉を返す。

「殺され慣れちまったんだろ」

「・・・・・・そっか」

 会話はそれで終わり。気まずい雰囲気の中目的地に着くまで歩を進めると、稗田邸にも負けない大きな屋敷が見えてくる。扉は閉じられていて、幻想郷だから当たり前だがインターホンも見当たらない。とりあえずノックをすると、無言のまま扉が開かれた。開けてくれたのは、沈痛な面持ちの白髪の少女。この子が俺の首を撥ねた魂魄妖夢だろう。

「えっと、すいませんでした」

 第一声から謝られた。先程の妹紅との問答は別にしても、怒っているわけじゃないのだが、謝るくらいなら最初から斬らないで欲しい。タダより高いものはないのだ。妹紅に怒られるのも勘弁だし。

「それはいいから、案内してくれないか? 流石に歩き詰めで辛い」

「飛んで来なかったんですか?」

「飛べないんだよ。君達みたいな強い子と一緒にしないでくれ」

 ちょっと強く言うとまた真面目そうな少女はシュンとなって肩を落とす。少し面白いが、やり過ぎてまた斬られるわけにはいかないのでここまでにしておこう。

 もはや幻想入り恒例となった案内をされていると、通された宴会場にはまた信じられないくらいの食べ物がどっさりと乗っていて、さらにもの凄い勢いで数を減らしている。一度見た光景でも末恐ろしさに冷や汗が背筋を流れる。そしてちゃっかりその隣で酒を呷っている大妖怪様には溜め息が出る。

「来るなら連れて行ってくれれば良かったのに」

「二人の時間を邪魔しちゃいけないと思って」

「そのせいで残機一つ減ったんですが」

「えっ」

 えっ、てなんだよ。たいそう驚いた顔をしているが、演技派の彼女の場合嘘か本当か分からない。

「別にわざわざ死ななくても来れるわよ?」

「お前ならな」

「違うわよ。別に結界も直してないし、霊夢も魔理沙も普通に来てるのよ」

「んん?」

 言われてみれば昔に西行のお姫様が起こした異変のときに、博麗の巫女も普通の魔法使いも、ついでに紅魔館のメイドも解決にここまで出向いているのだ。幾ら彼女達が人間やめてるレベルの力を持っているからって、種族人間である以上何らかの手段で空気の壁を越えている筈だ。ただしどの時代の逸話を聞いても頭おかしいとしか思えない巫女は除く。

「何か裏技でもあったのか?」

「変な飛び方しなきゃ死なないわよ」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

 目を逸らすな。嫌がらせじゃなかったとバレるぞ。そっちの方なら俺が悪かったと納得出来るけど、やっちまった系だと叱りたくなる。宴会の雰囲気を壊したくはないのでじっと我慢はするけども。

 そんな漫才やってる間に用意されていた料理が既になくなりかけているのだが、これは急ぎで食うべきかと聞いたら、妖夢が別皿に取ってきてくれるから大丈夫だと返ってきた。事実、案内してくれた後席には座らず姿を消した妖夢が皿に料理を盛り付けて持ってきてくれる。何処から持ってきたのか分からないが鯛の活けづくりとか豪華だな。紫が外から持ってきたんだろうか。それなら今度カップラーメンの追加でも頼んでみよう。

「それじゃあ私が音頭を取ろうかしら」

「もう食べ始めてるのにか?」

「こういうのは気分なのよ」

「それもそうか」

 目の前に置かれた盃になみなみと酒が注がれる。紫に方を叩かれた暴食姫も箸を止め、下がろうとしたのに捕まった妖夢も含めて全員が酒いっぱいの盃を持ち上げる。

「乾杯っ!」

 号令に乗ってから一気に飲み干す。外では全く手の届かない値段なのだろう酒は、こんなに乱雑にしていいのかと疑問に思うくらい、有り得ない速さでなくなっていく。いや、酒は嗜むものだろうに。などと思いながら小皿に分けられた刺身を醤油に付けて口に入れる。

「あ、美味い」

「そうですか? 良かったです」

 安堵したと妖夢が微笑む。この子に斬られたってのが未だに半信半疑なのだが、本人も俺に対して居心地悪そうにしているし本当なんだろうな。理由を聞きたいが、酒の席で話すことでもないだろう。そう思うことにして今度はサラダを頂く。

「それにしても、聞いても見ても面白い子ね」

「ん、なんでだ?」

 進んでいた箸を止める。この人と真面目に話したことはないから、どんな言葉が出てくるのか。

「人間離れしてるってことよ」

「おいおい、俺はただの人間だぜ?」

「妖夢に首を撥ねられた人間がここに居るわけないじゃない」

「それは居てもおかしくないだろ」

 冥界は死んだ人間の行くところじゃないか。そう言ったら、幽々子はおかしいことよ、と口いっぱいに食べ物を頬張った状態で言った。ここに居る人間に自我はない。あくまでも次の命を得るまでの魂であり、個人としての人格は保てないのだとか。紫が翻訳してくれた台詞を簡潔にするとそういうことらしい。

 まあ、それはそうなのだろうが、話が逸れて本題をまた聞けていない。まさか不死身である、なんてそれだけの理由ではないだろう。紫の友人ということは、彼女の意味深長な喋り方についてこれるということだ。そして、同じように煙に巻いた語りが出来る相手というわけだ。面白い、なんていうのが単純な理由な筈がない。幽々子がようやく自分の分を食べ終えて、そして口を開いた。

「貴方、自分の命をなんだと思ってるの?」

「何って・・・・・・そりゃ大切なもんだろ」

「本当に?」

「どういう意味だよ」

 どうにも口じゃ勝てない相手が多い。にやにやと悪い顔をしているから、単にからかっているだけなのだとは思うが、何をからかっているのか。命は尊ぶべきものに決まっているだろうに。

────人間のくせに

 そう言ったのはレミリアだったか。何故今そんな言葉を思い出したのか。いや、当然だ。妹紅ともこの話はしたばかりじゃないか。なんですぐに理解出来なかったんだ。

 追い打つように幽々子が口を開く。

「だったら、どうして貴方はそんなに死にたがっているのかしら」

「・・・・・・死にたがってはいねえよ」

「そう。じゃあ言い換えようかしら。どうしてそんなに死に無頓着なのかしら?」

「そうでも・・・・・・」

 どうにか反論しようとするが、言葉が見つからない。感情的に違う、と言ってしまうのは簡単だ。俺はそんなことこれっぽっちも考えていないんだから。だけど弱い犬ほどよく吠えるなんて言葉がある。理屈で話すには何も無い。だから黙るしかない。

「そこで怒らないところが面白いのよ」

「遊んでたのかよ」

「思ったことよ? だから人間離れしてると言ったんじゃない。随分理性的で、とてもお人好し。自分は不死身だから別にいいと、どんなことでも許してしまう。妖夢のことだって全然気にしてないんでしょう?」

「気にはしてる」

「なんで斬られたか分からないって?」

「・・・・・・そうやって若者いじめて楽しいかよ」

 逃げるように酒を飲む。こんな気持ちで飲む酒が美味いわけもないが、言い返せないのに言い詰められるのは心が痛い。助け舟を出してくれたのは今までずっと見ていた妹紅だった。彼女も同じことを考えているだろうに、俺の味方をしてくれた。

「ヤツフサは別に命を粗末にしてないわ。それに怒るときは怒るし」

「フォローするとこそこかよ」

 なんだかピントのずれた反論に、頭が痛くなりながらも少し嬉しくもなっていると、今度は幽々子に好き放題言わせていた紫が喋り出す。

「あら、妹紅はそっちの味方をするのね。意外だわ」

「うるさいよ紫。アンタもヤツフサで遊ぶつもりなんだろ」

「そんなに噛み付かないでよ。私も幽々子の考え方はちょっと間違ってると思うわ」

「そうなの?」

 てっきり紫も幽々子と同じことを考えていると俺も妹紅も思っていたのだが、それは幽々子も同じだったようだ。声のトーンは変えないままでも疑問の声をあげた。

「八房が度を超えてお人好しなのは、不死身だからが理由じゃないと思うわ。元から変人なのよ」

「酷い援誤射撃を見た」

「悪くない腕でしょ?」

「ああ。戦場なら絶対に出会いたくないね」

「お墨付きね。外で用心棒やっても生きていけそうだわ」

 言葉のニュアンスは理解してるんだから少しは悪びれろよ。子供みたいに笑うのがやけに似合う妖怪様を見ていると、ぐだぐだ考えていたのが馬鹿らしくなって、さっきよりも楽しんで酒を飲めた。もしかしてこれが狙いだったのか、たぶんそうなんだろうな。適当に見えて、本当に空気の読めるお方だ。重くなった場の雰囲気も俺と紫の漫才めいた掛け合いで緩んで、ことの初めである幽々子はまた新しい皿を重ねている。妹紅も毒気を抜かれて食事に戻ったし、一人だけよく理解出来ていなかった妖夢だけが納得がいかないと不服そうな顔をしていた。

「妖夢は食べなくていいのか?」

「いえ、私も作る手伝いをしなければならないので」

「そうか。俺も手伝えることがあるなら手伝うぞ」

 善意で言ったのだが、とんでもないと首をぶんぶん振られてしまった。

「客人にそんなことさせるわけにいきません。それに幽霊が多くて、連携が取れないと逆に邪魔になってしまうので」

「じゃあ仕方ないか。悪いな」

「いえ、八房さんは宴会を楽しんでいてください」

 そそくさと妖夢が部屋を出ていく。他に姿を見ないけど、幽霊さんも何人か居るんだよな。詳しいことは知らないが、頭のいい人は人格を保ったままここに来れるらしい。ということは、さっきはさらっと馬鹿にされてたんだな。そこまで考えていたのか分からんなあ。

「別に馬鹿にはしてと思うわよ」

「心を読むな心を」

 このスキマ妖怪は本当に油断ならん。

「悟り妖怪じゃあるまいし、心なんて読めませんわ。貴方が顔に書いていただけ」

「顔がでかいってか」

「小顔じゃないわね」

「アンタ達、さっきから変な会話してんじゃないわよ」

 怒られてしまった。ちょっとした言葉遊びで、深い意味なんてないんだけどな。紫は舌を出して、イライラしている妹紅をさらに煽っている。やめてくれ、後で被害に合うのは俺なんだから。

「意味はあるのだから考えてみなさいな」

 その一言で、矛先を逸らされて思考の海に入って行ってしまう妹紅の純粋さに心配を抱きながら、丸々一本になる酒の最後の一口を飲み干した。

 

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