不死人と蓬莱人【完結】   作:溶けた氷砂糖

19 / 53
あんまり日常していない気がする今日この頃。ほのぼのタグ外した方がいいかもですね。


人間?達の小噺

 二度目の授業も疲れることには変わらないと愚痴をこぼして前回と同じようにちゃぶ台に倒れ込む。同じように慧音がお茶を入れてくれるのが本当に有難い。正直な話家に居るよりこちらの方が居心地がいい。単純に座ってても尻が痛くならないという理由なのだけれど。

 とはいえ、長居してしまうわけにもいかないし、偶には人里を一人で散策するかと思い立って、しかし疲れゆえになかなか動き出せないで居たのだが、いつまでも世話になっているとあらぬ噂が立ちそうだ。ただでさえ俺の人里での扱いは「安全だけど関わりたくない人」くらいなのだから、もっと人里全体と仲良くなっておきたいので、一念発起して慧音の家を出る。

「さて、出たところでどうするか」

 前と違って懐は別に寒くない。多少娯楽に走っても許されるだろうが、悲しいかな娯楽と呼べるものが何も無い。団子でも食べようかと道端をのろのろ歩いていると、人がやけに集まっているところに出くわした。老若男女問わずだが、強いて言うなら子供が多い。寺子屋に来ていて見覚えのある子も何人か見受けられるが、いったい何があったのだろうか。様子から見て楽しいことでこそあれ、悪いことではなさそうだが。

「あ、ヤッフー先生だ!」

 子供の一人が歩いている俺に気付いて声を上げた。ヤッフーという新しく甚だ不名誉なあだ名だが、子供というのは得てしてそういうものを付けたがるものだ。先生が付いているだけ尊敬されていると思っておこう。しばらくしたら飽きるだろうし。

「何やってんだ?」

「お人形!」

 人形? 聞き返そうとも思ったが、するまでもなかった。近寄ってみると、人だかりの奥でアリスが人形劇をやっているのが見えたからだ。話には聞いていたがこうやって見るのは初めてだ。ちょうどやっている最中で、盛況のようだしどんなものかと遠目に眺めることにした。

 アリスの指が細やかに動き、それに伴って台の上に乗った人形達が命を吹き込まれたかのように躍動している。話の内容は聞いたこともないものだったが、勧善懲悪の筈なのに、何処となく悲劇の様相を漂わせる、物語に引き込まれるくらいにレベルの高いものだった。劇が終わると共に歓声を上げる子供達とお捻りを投げる大人達の声が響く。俺も五銭程投げて、気分の良いままに去ろうとすると、アリスと目が合ったので軽い会釈だけしてその場を離れた。

 団子はやめて饅頭にしようと思い直して右に曲がるつもりだった道を左に曲がる。霧雨道具店の隣にひっそりと佇む店の暖簾を潜ると、人の良さそうなおっちゃんがいらっしゃいと優しく声をかけてくれる。時間帯もあって客は一人も来ていないが、子供が寺子屋に通っているのもあって店主とは顔見知りだからここに来た。奥さんを早くに亡くして男手一つで子供を育てているので遊んでやる時間が取れないと嘆いているのをよく聞いたりもする。

「おっちゃん、こし餡三つ」

「あいよ。二つは持ち帰りでいいかい?」

「おう」

 ここで食べるのに一つ。家に帰って妹紅と食べるので二つ。前にも同じ注文したのを覚えていてくれたらしい。この辺りは細かい気配りの出来る店が多くて凄いと思う。団子屋は流石に向かいが向かい、福の神来る蕎麦屋だから店主もピリピリしているところはあるが、それでも対応が悪くなるなんてこともない。それでも人が多ければ気が落ち着かないし、知っている人の少ない隠れた名店的な場所の方が好きだから、ついつい通りの外れに来てしまう。ここは一応大通りだけど、隣がでかすぎて影が薄い。普通なら道具屋隣の甘味処なんて繁盛しそうなもんだが、提携して霧雨道具店でもこの饅頭を売っているからこっちまで来る客は少ないのだ。安定した収入にもなっているからどちらがいいのかは決められない。

「あら?」

 饅頭が来るまでの間、出してもらったお茶を呑気に啜っていると、聞いた覚えのある若い女性の疑問声が聞こえる。ついさっき人形劇をやっているところに遭遇したアリスだ。あの後、もう一つ劇をやるのかと思ったが、あれで打ち止めだったらしい。大荷物を軽々抱えている。

「おおアリスちゃん。いつものでいいかい?」

「ええ、よろしく」

 どうやら彼女もここの常連のようだ。相席を許可した覚えはないのだが、勝手に向かいの席に座る。

「ここに私以外の客が居るなんて珍しいわね」

「店まで饅頭食べに来る人もなかなか居ないからな」

 俺も他によくここにいる客は、店主のお子さんの悪ガキ仲間くらいしか知らない。偶に一見さんが来たりもするけど、よせばいいのに道具店でも売ってることをおやっさんが明かしてしまうからリピーターにはならないのだ。

「確か、八房だったかしら」

「ん、そうだけど」

「貴方、人間なのよね」

「そうだけど、どうかしたのか?」

 面白いとか変とかは最近言われ続けているが、アリスにも同じことを言われるのだろうか。そうもなると、本当に俺の人間性について議論しなくてはいけなくなるな。そんな俺の期待とも不安とも取れない感情には全く気付かず、アリスは何でもないと言葉を濁した。止められると気になってくるんだが、本人が言いたくないのなら無理強いしてはいけない。

 おやっさんが持ってきてくれたこちらでお召し上がりの饅頭を齧って、アリスとの無言タイムを乗り切ろうと試みる。俺は話し上手というよりは聞き上手だから、相手から話しかけてもらわないと上手く反応できない。コミュニケーション障害とも言う。

「アリスはよくこの店に来るのか?」

「そうね、先代の時からの常連よ。彼は早くに亡くなってしまったけど、血族かしらね」

「遺伝なのかもな」

 俺の聞いた話じゃ今のおやっさんも婿養子だ。血が繋がってたのは奥さんの方で、息子も早死にしちまうのか、なんてしんみり言っていたことを覚えている。

「貴方は親と別れの挨拶くらいはしてきたのかしら」

「ん、こっちに来る時にってことか?」

「ええ」

「してないな」

「どうして?」

「死人に挨拶するほど暇じゃねえよ」

 ぶっきらぼうな言い方になってしまったのは何故だろう。今更になって行っとけばよかったと後悔しているのだろうか。流石に地方にある墓にまで行く余裕はなかった。まあわざわざ行くつもりもなかったけれど。

「それは、ごめんなさい」

 俺が怒ったと勘違いしたのか、アリスは申し訳なさそうにしている。饅頭は既に食べ終えていたが、どうやら席を立てる様子じゃなさそうだ。

「謝らなくていいさ。親のことなんてもう殆ど覚えてないし」

「そんなに早くに?」

「俺が五つくらいの時かな」

 聞いた話じゃ放火だったらしい。犯人は捕まらなかったし、俺は遠くの親戚に引き取られたのもあって詳しい話は知らないのだが、寝込みを狙ってガソリン撒いて火を付けて、怨恨じゃないかと言われていたが結局真相は闇の中。俺が生きた状態で発見されたのも当時は奇跡だなんだと騒がれていたらしいが、それを知ったのはもっと大人になってからだった。

「アリスには親は居るのか?」

「・・・・・・そうね、居ると言えば居るわ」

 生きているという意味で聞いたのだが、アリスもよく考えれば百年単位で生きている魔法使いだ。両親も同じ魔法使いで、長く生きているのか。

「若造が言えたことじゃないかもしれないけど、親は大切にした方がいいぜ」

「ろくな親じゃないわ」

「居なくなってからじゃ遅いってことだよ」

 返事はなかったけど、アリスは店を出ていってしまったので、気にしないことにしてぬるくなったお茶に口をつけた。

 

 

「貴方が噂の人間ですね!」

「何の噂だよ」

 反射的に突っ込んでしまった俺は悪くない。アリスと無駄話をした後、ぶらついて帰ろうかとしたら変な女の子に捕まった。緑色の髪、霊夢に似た腋出し巫女服、カエルと蛇の髪飾り。話に聞いていた守矢神社の巫女で相違ないようだ。宴会の時にも早早と酔い潰れていたのを記憶している。彼女も人里に居て何の問題もない相手だろうし、別に噂だって外来人云々は立っているだろうからおかしな事は無いはずだが、こうも自信満々に言われるといったいどんな風評被害を受けているのかと心配になってしまう。変な噂が流れてたら文を問い詰めて無かったことにしてもらおう。そういうことも出来ると言っていたはずだ。

「ふっふっふっ、とぼけなくともいいのですよ。貴方がこの間来たという外来人でしょう」

「そうだけどさ」

「さあ貴方の目的は何なのか、じっくり教えてもらいましょう!」

「おい待てどうしてそうなった」

 文の新聞が切っ掛けであることはなんとなく理解できる。噂というのも霊夢とかレミリアとかあの辺と世間話でもすれば聞くこともあるだろう。だが何をどういう考え方をしたらそんな結論に行き着くんだ。公式を教えてくれ。そんな俺の心の悲鳴を完全に無視して腋巫女二号はさらにドヤ顔でつらつら述べる。

「妹紅さんを利用して暗躍しているのは分かっています! 他の陣営とも関係を結んでいることも私達にはバレバレですよ!」

「そりゃ隠してないからな!」

 たぶん聞いた話がこいつの頭の中で俺を悪人にするように変換されてんだな。入れ知恵とかそんなんじゃないなこれ、本人が馬鹿だ。そうでも思わないと裏に誰かいると勘繰ってしまうわ。

 いきなり往来で叫び始めるもんだから何事かと人が寄ってくるが、守矢の巫女の姿を見て納得して引き返していく。これで平常運転だと里の方々も理解しているらしい。誰か助けてくれよと思うが、妖怪に近しい人間に出来れば近付きたくないのだろう。慧音みたいな完全人里サイドと違って確か守矢神社は妖怪の山の上で天狗からの信仰も得ているという。

「先程もアリスさんと密会しているのも見ていますよ」

「ただの世間話だそれは!」

「なんと、あくまでも自分の悪行を隠そうというのですね!」

「マジでなんなんだこの子・・・・・・」

 今まで会った中で一番面倒臭い部類だ。話が通じないんだけどどうしたらいい。

「さあ、大人しく私に退治されるのです悪しき妖怪・・・・・・」

 口上を上げていた少女がピタリと止まる。そして後ろから慧音がどしどしと俺の横を通り過ぎていく。がしりと少女の頭を両手で掴んで、

「面倒を起こすなと言っているだろうが!」

 頭突き一突き、痛そうな音が辺り一面に響き渡る。道行く人々も何事もなかったかのように歩き去っていく様から、これも人里の日常風景なんだなと半ば現実逃避的にそんなことを思った。

 慧音はしばらく電波巫女(名前は早苗と言う)に人里で叫び散らすなだとか、一般人に喧嘩を売るなだとか至極真っ当な説教をして無理矢理に帰らせた後、こっちに戻ってきた。

「八房、怪我はないか?」

「俺は大丈夫だけど、この子の頭大丈夫か?」

「大丈夫だ、加減した」

 微妙に意味がずれている。いっそ容赦なくやって直してやればいいのに、なんて言ったら俺も頭突かれてしまいそうなので言わないことにする。しかし、彼女のよく分からんテンションから考えると偶然慧音が通りかかってくれなければ一回くらいは殺されていたかもしれんな。そしたらまた妹紅に怒られちまう。

 慧音は俺が本当に何の怪我も負ってないと分かると、本人も気疲れしたのか思い切り大きな溜息を吐いた。

「アリスが呼んでくれなければ危なかったな」

「アリスが呼んでくれたのか?」

「ああ、早苗と会ったときに空回っていたから危ないのではないかと言われてな」

 薄々予想はしていたが、アリスにも絡んでたのか。おそらくは付き合いの長い彼女なら簡単に矛先を逸らしたんだろうが俺が相手では荷が重いと理解してくれたのか。慧音に忠告してくれた七色の人形使いに感謝しなければならない。

「いつまた来るか分からんし、妹紅の家まで送っていこうか?」

「いや、そこまでしてもらっちゃ悪い。子供じゃないんだから一人で帰れるさ」

「そうか、気をつけろよ?」

 日はそろそろ傾き始めている。慧音に別れを告げて、人里の入口にあるマイ自転車に跨った。落ちていく夕日と並ぶようにパンクしそうな獣道を騙し騙し乗り越えていく。霖之助の店から拝借した自転車は飛べない俺の移動手段として申し分無い。ありがたやと唐変木の伊達店主を拝みながら、家路を急ぐ。またあの話の通じない巫女に遭遇したらたまったもんじゃないからな。近い内に守矢神社に行こうとは妹紅とも話していたが、行く気力が一気になくなってしまった。あのテンションで襲ってくる彼女と関わりたくないのがその理由だ。あんなのとまともに話してたら命が幾つあっても足りない。

 まあ、家に帰ってきて妹紅に今日の顛末を話した時に「あれ、そんな奴だったっけ」と首を傾げながら言われてしばらく悩み続けたのだが、それはどうでもいい話だろう。

 




早苗さんはいつも通り
元人間説があるだけのアリスは別にしても、現人神の早苗さんや不死人の八房は人間と呼べるんでしょうかね?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。