諏訪子様も可愛いですが私は神奈子様が好きです。
お父様とお呼びしたい。
「やあよく来たな。大したもてなしも出来んが寛いでいってくれ」
「・・・・・・お気遣いどうも」
なんと言うか、その、反応に困る。堂々たる光景を前にして俺は素直にそう思った。海の無い幻想郷での刺身盛り合わせとか白玉楼に呼ばれていった時とも引けを取らない豪勢な料理。比べるとしたら、どちらかといえば質より量のあっちよりも豪華なのではないだろうか。一日でこれだけの準備を拵えて、神様に取ってはこれでもまだ足りなかったのか、それともただの謙遜なのか。片立て膝の胡座で待ち受けている、男よりも男らしいカリスマ全開の神様の表情からは伺いしれない。背中についたリングには意味があるのだろうか。
「心配せずとも毒なんかは入ってないよ。そもそも毒盛られたくらいじゃ死なないんだろう?」
「一応死ぬんですけどね」
生き返るだけで。俺が警戒しているのは毒やらじゃないんだが、神様には通じなかったようだ。二人神様が居ると聞いたのだが、緑巫女すら居ない。いらっしゃるのは八坂神奈子様だけだ。特に信仰もしていないのに様付けなんて逆に不敬に当たりそうだがどうせバチが当たるなら敬って受けよう。
宴が始まって少々、遠慮するのも失礼だと口にした料理はどれも美味しい。本人(本神?)が有り難くも注いでくださった焼酎もすぐさま飲み干してしまった。白玉楼にお邪魔したときみたいと違って他に誰かが入ってくる様子はない。
「早苗が居ないね。どうしたの?」
「ああ、早苗か。あいつはなあ・・・・・・」
妹紅が聞きにくかったことを堂々と聞くと、神奈子様は心底困ったとでもいう風に頭を掻いた。その動作になんとなく親しみを覚えたのはたぶん早苗とかいう巫女に対して同じような感情を抱いているからな気がする。どのような感情であるかは一応秘しておくが。
「ちょいと反省させてるよ」
「いったい何を吹き込んだんです?」
「吹き込んだとは人聞きの悪い。とは言っても返す言葉もないか。私は多くの勢力と関係を結んでいる外来人がいるから様子を見てこいと言っただけなんだけどねえ」
どうしてそれが退治の方に向いてしまうのか、と神奈子様は嘆いて手持ちの酒を呷った。神様でも苦労しているんだな。
「普段はあんなに暴走する子じゃないんだよ。ただ時々空回りしてああなるんだ。いや、それも言い訳くさいな」
片膝から胡座をかいて唸る姿は祀られる神様というよりかは娘の心情が分からない父親に見える。幾ら男らしいとはいえ女神なのだから父親と言ったら失礼か。まあその部分を抜きにしても自分のところの巫女を大事に思ってることが伝わってきて、東風谷早苗が少しだけ羨ましいとも思った。
俺も、親が生きていたらこう思われたりしたんだろうか。アリスに聞かれた時にはついぶっきらぼうな言い方をしてしまったが、たとえ挨拶に行ったところで親に話すことなんて何も無い。墓参りだって行っても何の感情も沸かなかった。好きだとか嫌いだとかそんなことを考えるようになる頃にはもう親戚に引き取られていて、自分の親がどんな人だったのかすら知らない。知りたいと思ったこともあるが、誰に聞いても「いい人だった」の一点張りで幼心に酷くがっかりしたのを覚えている。故人の息子に向かって、その人を悪く言うなんてことはしないから皆嘘付きなんだと考えて諦めた。当時の自分の中では両親は怨みを買った大悪党で放火は正当な復讐だった。これは親が嫌いだったというよりも理不尽に納得のいく説明を付けるためだったのだと今になって思う。子供の思考ってのは残酷だ。
「どうした御客人。箸が止まっているようだが」
盃片手に考え込みすぎてたらしい。もう一度注いで頂いた酒に映るのはいつも怒ってると勘違いされる額に皺の寄った無表情。成程こんな時に見ると確かに怒っているようだと今更になって気が付く。
「いえ何でもありません。それよりも、厠を貸して頂けないでしょうか」
トイレに行きたくなったのではなく、ちょっと一人になりたくなっただけ。それか、素直に思ったことを話せる相手が居るならば、そいつと会話したくなっただけだ。幻想郷でも外の世界でもそこまで仲良くなった奴は居ないから後者は実質嘘だけど。
そんな思惑には目をつぶってくれたのか、神奈子様は快く厠の場所を教えてくれた。部屋を出て、外に面した廊下を軋ませながら歩いていると、頂上なのだから当然に妖怪の山が目に入る。春はすっかり終わり、夏に入った夜の月光に照らされて輝く若葉は目を見張る物がある。周りが静かだからどこに居るのかも分からない虫の声もよく聞こえるし、この辺りだけ絵の題材に切り取られているようだ。そんな柄にもない私的な表現に挑戦してしまうくらいには美しい。新緑満ち溢れる風景は一見の価値あり、なんて今朝に文が言っていたっけ。空は飛べなくても絶景は見ることが出来るらしい。守矢神社の神徳だろうか。流石にそれは都合が良すぎるか。
「何を見てるんだい?」
虫の大合唱の隙間を縫って聞こえてきた声はどうやら俺に向けられたものであるらしい。麦わら帽子に目玉の付いたような帽子を被った女の子がこちらに歩いてきている。見た目はフランとかと同じくらいに見えるけど、そういえば萃香もそんなもんだった。見た目は年齢と関係ないと分かっていてもつい関連付けてしまう。フランと似た髪色だし、彼女の幼い性格が印象に残っているからそう考えてしまうのだろうか。
「あれ、聞こえなかったかな? 何を見てるの、って聞いたんだけど」
「ああ、風景を見ていました」
「風景、か。現代人らしい物の見方だよね」
事前に聞いた話を統合すればこの金髪幼女が祟神の方の洩矢諏訪子様だろう。守矢神社は俺よりも少し前に外から幻想入りして来たらしいから、感覚はだいぶ近いものがあるだろうか。それとも人間と神様では物の考え方が違うのか。紫みたいに思考を読んだり、文みたいに人の顔色を伺うのは苦手なせいで、目の前の小さい神様が何を思っているのかはよく分からない。自分のことすらよく分かってないのに周りを理解しようとするのも馬鹿らしくなって、凝り固まってしまいそうな頭をほぐすために大きく息を吐いた。
「お、若人よ何か悩んでいるのかね?」
「悩むことに悩んだってことでお願いします」
「私に取ってはどっちでもいいけどね」
じゃあ聞かないでくれよ。ってのは虫のいい話だろうな。聞こえよがしな溜息だったと自分でも思うから。
「神奈子の宴会はお気に召さなかったかい?」
「幻想郷の有力者って分かりきった質問ばかりですね」
「それは君が煙に巻いたような態度をとっているからじゃない」
「俺は自分らしくしてるだけですよ」
「その自分らしさが分からないから隠してるんでしょ」
言葉に詰まる。当たらずとも遠からずどころかたぶん大正解だろう。それも自分じゃ確信が持てないけれど、周りからは案外分かりやすいのか。それともやはり年の功という奴か。紫辺りにこんな事言ったらスキマに埋められそうだけど。
「会ったばかりでなんでそこまで見抜かれてんですかね」
「そりゃ文がそう言ってたからね」
「俺の感心を返してください」
廊下の手すりに手を組んでその上に顎を乗せる。満月はつい昨日か一昨日に過ぎたので微妙に欠けた月が空に浮かんでいた。諏訪子様は蛙座りで器用に手すりに乗っかっている。お互いに動くつもりは無かった。酒宴も静かだったから、宴会特有のふと感じる寂しさなどはない。むしろ一人で飲んでいる時みたいな落ち着いた雰囲気すらある。
「まだちゃんと自己紹介してなかったね。私は洩矢諏訪子。まあここの本当の神様ってとこかな」
「若尾八房です。貴女は行かないんですか?」
余り表に出てはいけないとか縛りがあるわけでもないと聞いたけれど。答えは予想していたものとそう違わなかった。
「あんまり堅苦しいのは苦手でね。特に人を招くとなると神奈子が張り切っちゃうし。君も似たようなタイプなんじゃない?」
「どんちゃん騒ぎは嫌いじゃないですよ」
「私も大好きだけどね。招かれたなら喜んで行くけど招く側は気が重くてね」
「ホストのくせに客に準備させる人も居ますけどね」
「あれは例外、巫女なのに神様だって顎で使うじゃないのさ」
よく言えば平等、悪く言うと唯我独尊(悪口じゃないかもしれないが)の皆知ってる腋巫女の話題に軽く笑う。神様が相手でも関係無しか。だから皆が集まってくるんだろうけど。
「そういえばこっちの巫女は」
「反省が終わった辺りだね。真面目な子だからからかうと面白くてね」
「もしかして、俺に関してある事無い事吹き込んだのって」
「半分正解。私も何か企んでるかもしれないから気を付けろって言っただけだもん」
なんで幻想郷の有力者共はこうも人をおちょくるのが大好きなのか。レミリアに関してはどちらかと言うとおちょくられる方だが。
「さて、そろそろ戻らないと心配されるよ。早く戻りなさい」
「・・・・・・何でもお見通しって感じですね」
「神様だからね」
可愛らしい声で言っていたが、俺には祟り神の恐ろしさってのがよく分かる怖い笑顔だった。
結構な時間を過ごしていたので、一応本当にトイレで用を足してから戻ると、妹紅が既に酔い潰れていた。おかしい、こいつも酒強い筈なのにこの短時間で酔い潰れるとは思えない。一方でまだまだ呑んべぇさん真っ盛りの神奈子様はお猪口を掲げて「遅かったじゃないか」と全部知ったようににやつくだけだ。
「何か一服持ったんですか?」
「言っただろう、毒なんて盛ってないさ。ただ妹紅が驚きの飲みっぷりを見せつけて潰れただけさ」
よく見ると酒瓶が幾つも転がっている。俺が席を離れている間に二桁を超えるほどの勢いで開けたのか。どう考えても普段のペースじゃない。だから何かがあったのは間違いないのだが、全くもって検討が付かないし神奈子も意味ありげに何かは言うが何も教えてはくれない。俺にいったいどうしろと。
「諏訪子と話してたのかい?」
「分かりますか、やはり」
「あいつがちょっかい掛けない筈が無いからな」
完全に酔いが覚めてしまったから飲み直しにもう一本瓶を開ける。妹紅や人外連中みたいに十何本もは開けられないが、これでも霊夢や魔理沙よりも酒は強い。焼酎の一本くらいじゃ何ともない。初対面の相手というのは、俺の場合知り合いよりも話しやすいものだ。諏訪子様にしても、腹を割ってとまでは行かないが、妹紅よりも話していたのではないだろうか。特に妹紅に対しては大して価値も無い見栄が結構邪魔をしてくるのだ。
「顔が晴れ晴れとしているな」
「厠に行ってすっきりしてきたんですよ」
「そういうことにしておこう。私が踏み込む話題でもないからな」
こちらも負けず劣らず優秀なお方のようだ。俺なんかで話し相手が務まるのか甚だ疑問ではあるが、せっかくの酒宴だ。楽しまないと損だろう。
その後は飲んで、食べて、部屋を二つ借りて俺と妹紅で別々の部屋で寝た。酒臭くてこっちが寝られそうになかったからで他意は無い。けして赤くなった頬とか移動させる時に抱き上げた身体が火照っていたからとかではない。神奈子様に暖かい眼差しで見られたがきっと関係の無いことだろう。俺も随分と酔っ払ってしまったみたいだ。
翌日はまた二日酔いとは無縁の彼女が起き上がってきて、自分が酔っ払った後に俺が宴を楽しんでいたことに不機嫌そうに目を細めていた。俺が宥めても機嫌は直してもらえなかったが、辛うじて許してはもらえたようだ。ぶっちゃけた話、お前が酔い潰れてただけだろうが、とは焼き殺されるので言わない。土産にこれまた酒を貰って守矢神社を後にした。整備されている参拝道を二人で今度は降りていく。
「秋はまた綺麗そうだよな」
「秋の神様が頑張るからね」
「そんな神様も居るのか」
妹紅曰く、紅葉を一枚一枚丁寧に塗っていくのだそうだ。秋を彩ってくれる神様には足を向けて寝られないな。今は横に寝ることも出来ないのだが。姉妹で豊穣の神も居るのだとか、秋になれば人里の祭りにお呼ばれしているらしいからその時に見る機会もあるだろうな。
「さて、帰ったら飲み直すよ」
「まだ飲むのか。そういや宅飲みはやったことなかったな」
「宅飲み? よく分かんないけど肴買って帰ろ?」
笑顔の妹紅に対して異議があろうはずが無い。それで御機嫌になってくれるのなら多少高いつまみでも構わないだろうな。そんなことを考えながら新緑満ち溢れる山道を下った。
最近思うことがあります。
もこたんの出番少なくねえ?
もこたんメインヒロインとして色んな話に出てもらっているのですがなんか影薄い感有りますよね。もっと可愛さを主張したい!
が、書き溜めを見直してみるとこの次ももこたんの出番ないです。悲しい(´;ω;`)