不死人と蓬莱人【完結】   作:溶けた氷砂糖

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タイトルから解る通り紅魔館組の話です。
なぜ、もこたんに出番が来ないのか。


悪魔の妹、人里に行く

「おや、これは確か」

 いつものようにフランに会いに紅魔館を訪れたのだが、今日は門をくぐる前に声を掛けられた。はて、一体誰だろうかと首を動かすと、見慣れた置物、もとい門番がこちらに手を振ってきた。

「若丘八房だ。まともに話すのは初めてな気がするな」

「奇遇ですね、私もです」

 紅美鈴は意識してるのかどうかやけに楽しそうに言った。事実、会話を交わしたのは初めてだろう。これまでも何度か紅魔館には訪れていたし、動かない大図書館殿とも挨拶くらいはした。その全ての回において門番である彼女はぐうすかと寝ていたのだ。怒った咲夜がナイフを刺しに行っていたのも一度や二度ではない。その度に帰り際額に刃物の突き刺さった緑色の置物を眺めて帰っていたのだが果たして彼女はそれに気付いているだろうか。幾ら相手が妖怪で、しかも吸血鬼の配下だからといって若い女が無防備に寝姿を晒しているのは如何なものかと思う。赤い髪に艶かしいチャイナドレス、存在感たっぷりのあれがどれだけの凶器か本人は気付いていないようだ。

「今日も妹様の遊び相手ですか?」

「友達と言え友達と。使い捨てられる相手にはなりたくない」

「ふふ、そうでしたね。貴方が来てから妹様も一層元気になられました」

「門番なのにフランと会ってるのか?」

「流石に日長一日ここに立ち尽くしているわけでは有りませんよ」

 門番が立ち寝してないのを今日まで見たことがないんだけどな。吸血鬼の本領発揮は夜で彼女の仕事はおそらく昼間だろうし、案外妖怪の時間になる夜は気楽なのかもしれない。どちらにせよ、珍しくも目を覚ましていた彼女と出会い、こうして話している。しかし、早く行かないとフランがまた膨れてしまうかもしれない。そうなった場合破裂するのは彼女じゃなくて俺だ。妹紅にもまた怒られてしまうし、フランの壊したがりも治したい。だから早々に切り上げて地下室へと行きたいのだが。

「大丈夫ですよ。妹様もこちらに向かってますから」

「こっちに向かってる?」

 何か打ち合わせでもしてあったのかと勘繰ったところで丁度紅魔館の扉が開く。可愛らしい青の日傘をさしたフランが手を振ってきて、恐ろしいスピードで突っ込んできた。

「ぐべらっ」

 本人としては壊さないよう精一杯手加減したのだろう。吸血鬼本来の速さでタックルされたら胴体が真っ二つにされてしまう。そうなってないということは単なるじゃれ合いだ。その事は分かっているのだが、こちらからすれば豪速球を腹のど真ん中に食らったようなものだ。何処か世紀末臭い声が出て、次いで咳き込む。吐かなかったのは偉いと褒められても構わないレベルだ。乗ってきた自転車を脇に置いといて良かった。ぶつかったら更に痛い。

「ヤツフサ! お姉様がいいって言ったの!」

 しかし、フランは興奮したまま俺の襟元をつかんで嬉しそうに揺さぶってくる。待ってやばいマジで吐きそう。

「妹様、八房さんが苦しそうにしてますよ」

 美鈴が間に入ってくれて引き離してくれなかったら意識がどこか遠い場所まで飛んでいってしまったことだろう。流石門番頼りになる。もう少し遅ければ吐いていた。

「ぐっ、げほ、ごほっ。何がいいって?」

「外に遊びに出てもいいって!」

「外に?」

 495年間一度も地下室から出たことのなかったフランが、俺が来るよりも前の紅霧異変とやらで屋敷内を歩くようになり、そして今日外に出る許可を得た。それは俺がわりと前からレミリアに相談していたことだ。フランに生きている人間を見せてやりたい。咲夜のような身近な人間ではなく、霊夢や魔理沙みたいな規格外ではなく、俺みたいな例外ではなく、人里で一生懸命生きている普通の人々を見せてやりたいと思っていた。

 もちろんレミリアも最初は渋った。フランは世間を知らない。加減だって上手くはない。そんな状態で人里に出せばいったい何が起こるか。それは能力を持たない俺でも容易に想像出来る。だから強く主張することはせず、あくまでも一意見としてのスタンスは崩さないようにしていたのだが、ようやく身を結んでくれたようだった。美鈴はそれを事前に知っていたからさっきみたいなことを言ったのだろう。

「ヤツフサ、美鈴、一緒に行こう」

「ええ、分かりました妹様」

「おう、人里観光しようか」

 ってあれ? なんか一人増えているような。増えたお方に視線を向けると、照れくさそうに笑いながら「お嬢様の指示です」と弁解した。確かにフラン一人、俺がついていても(レミリア)としては心配だろう。しかし、てっきり咲夜がついてくるかと思っていたのだが、美鈴は案外レミリアに信頼されているらしい。信頼がなければ門番なんて任せられないから当たり前のことではあるけれど。

「ねえ、早く行こう?」

 フランが上目遣いで袖を引いてきたので、頭を撫でてやりながら美鈴にも行くかと声を掛ける。紅魔館から人里への道は行く人皆が飛んでいるせいで整備されていない。二人とも俺に合わせて歩いてくれているから、外に出たのも初めてのフランは凄い歩きにくそうにしている。外はずっとこうなのかと聞かれたから、人里に近くなればもう少し歩きやすくなると答えてやるとじゃあそこまで飛ぼうとフランが体を浮かせた。やっぱり飛べるって羨ましいな。外の世界で言えば車を持っていないようなものだ。今度誰かしらから習ってみようか。妖力は無いから魔理沙みたいに魔力で飛ぶか人間は気力とかで飛ぶのが一般的らしい。どちらも俺は持ってない。

 強力な妖怪の気配のせいか、妖怪達の姿は見えない。俺の持つ霊夢特製の御札のおかげで襲ってくることはまずないのだがいつもならちらちらとこちらの隙を伺っているのが見てわかるのだが、今回は影もない。フランはまたしきりに何か聞いてくるが、それに答えるのは俺ではなく美鈴で、俺はきゃっきゃと騒ぐ見た目相応に可愛らしいフランを眺めながら、また別のことに思考を向けていた。

 妖怪が人里に来れば警戒されるのが当然だ。特に今まで見たことのない大妖怪なんて来たら、普通はまず村の代表者や実力者が出てくる。運良く慧音や阿求だったら上手く誤魔化すことも出来るだろう。何より俺が信用されている。しかし、それ以外、特に退治屋なんかが現れたら話が面倒になる。紅魔館に幽閉されていた狂気の妹。人里では不殺傷であることは理解しているだろうが、あまりいい空気にはならないに決まっている。フランに妖力を抑えられるか聞いてみると多少はできるとのこと。だけど彼女は力を隠すより使う方に長けている。力のある人間には見破られてしまうのではないだろうか。そうなれば相手の心象はさらに悪化する。それはよろしくない。子供というのはその手の空気に一番敏感だ。そして繊細である。ちょっとしたことでも彼女は大きな傷になってしまうだろう。せっかくの人里観光をそんな負の遺産にするわけにはいかない。

 二人はそれに気付いていないのか、会話を弾ませている。親子みたいに見えるのは、美鈴が長身だからだろう。俺と同じくらいの身長だからな。一応俺の方が高いけれども。

「ねえねえ美鈴、人里ってどんなところ?」

「申し訳ありません妹様。私も余り行ったことがないもので、八房さんの方が詳しいのではないでしょうか」

「そうなの? ヤツフサー、どんなところ?」

 どうしようもない問題に考えをぐるぐると巡らせていたところに、フランに話しかけられたことで我に帰る。フランがこちらに向けてくるキラキラした目が眩しい。人里をテーマパークか何かだと思っているのだろうか。いや、そう教えたのは俺か。だったらそこには責任が生じると言えなくもないな。

「人が生活しているだけだよ。ただ、色んな人が住んでるから色んな店がある」

「お店? お店なんて行くの初めて!」

「店がどんな場所か知ってるのか?」

 店という単語に物凄い食い付きを見せたフランに店を知っているのか聞いてみると「面白いものがある場所!」と元気な声が返ってきた。分かっているような分かっていないような、日用品よりも工芸品の店を見せた方が喜ばれるだろうな。

「というか、美鈴は人里に来たことないのか?」

「無いわけではありませんが、やっぱり買い出しなんかは咲夜さんの仕事ですからね。仕事中は門から離れられませんし」

「ま、それもそうか」

 門番に雑用なんかさせる家も無いだろう。そもそも門番が居る家自体そんなに多くは無いし。俺の知ってる限りだと紅魔館と稗田邸くらいのものだ。

 その後はまたフランの疑問は全部美鈴が答えてくれて、俺は思索にふけることが出来たのだが、結局たいした解決法は見つからないまま人里への多少は整備された道に足元が変わってしまった。ふわふわ浮いていたフランも地に足を着け、日傘をくるくる回しながら美鈴にべったりくっついて楽しそうに笑っていた。こんなに懐いていたのか、と正直少し驚いた。フランを普通に扱ってくれる相手は流石に紅魔館でも数少ないと思っていたのだが、それは間違いだったらしい。

 そして辿り着いた人里の入口。俺の一番の懸念材料だが、どうやらその心配は杞憂に終わりそうだ。

「誰だ? む、八房か。そちらは?」

 ぴりぴり警戒した慧音が入口で待っていて、俺の姿を見て敵意を収めた。こっちは別に隠せとも言っていなかったのでフランの妖気は丸分かりだ。敵意は消えても警戒心はむきだしたままの慧音に俺の方から説明する。全てを聞いた後、慧音が額にしわを寄せて腕を組む。彼女が判断に悩んでいる時のくせだと付き合いのある俺は知っている。これでも反応はいい方で、他の人間だったら門の内側から入るな帰れと言い続けるだけだろう。

「紅魔館の主の妹、か」

「そう。問題は起こさせないから入ってもいいだろ?」

「出来ないことは無いが、うーむ・・・・・・」

 この様子では二つ返事で通れるというわけにはいかなさそうだ。まあ前評判からすれば当たり前だ。危険な妖怪、しかもどう動くか分からないものを里に入れたくはないのだろう。しかも野良の妖怪ではなく紅魔館というビッグネーム付きだ。紅魔館は人里の人間もだいたいは知っている。咲夜がよく買い物に来るからだ。しかし、咲夜自体の評判は芳しいものではない。吸血鬼の従者というだけで、彼女が里から好かれることはほとんど無い。それには彼女自身の無愛想さもあるだろう。本人は公私の区別だなんて言っていたが、彼女は人見知りな部分があり、知人以外にはかなり無愛想になる。前に里の八百屋で見かけた時なんかは悪魔の手先かと思った、とそれは正解か。

 思考が逸れた。閑話休題。

 不安そうな顔で美鈴の後ろに隠れているフランを見て、慧音はまた困ったように唸る。お人好しだし、慧音としては入れてやりたいのだろう。だが、入れてしまった場合の懸念は拭いされない。彼女らと多く触れ合っていると忘れてしまいそうになるが、人里の人間に妖怪は相容れないものであると考えなきゃならない。例外はアリスと命蓮寺くらいのものだ。文? あれは別の意味で煙たがれる。

 いろいろ可能性を考えていたのだろうが、結局は親切心が勝ったのだろう、慧音が多少の条件と一緒に入門を許可してくれた。

「吸血鬼ということは隠してもらうぞ」

「言いふらすつもりは無いが、隠せるかね」

「私が歴史を食う」

 歴史を食う。慧音の能力の一つであるそれは、俺にはいまいちどういう能力だか分からない。なんとなく理解出来たのは、ようするに教科書のある箇所を黒ペンで塗りつぶしてしまうようなものらしい。知っている人には違いはないが、知らない人には分からない。そんな能力だというのだがいやはや。

 慧音が目を瞑ってちょっとの間色々呟いていたが、再び目を開けるともう入っていいと言った。いやマジで何やったんだ。フランのことを知っている俺には分からないと理解しているのに、対処法が身をもって実感できないと不安は解消されない。

「もう入っていいぞ」

「やった!」

 一転して大喜びするフランとは対照的に俺は今更になって心配事が肩に圧力をかけ始めた。それを見透かしたかのように美鈴が俺の肩を叩く。妖怪にやられるとちょっと痛いんだけど。

「では、行きましょうか」

 美鈴に促されて、詳しく聞けないまま俺達は門をくぐる。少し、どころではなく心配な部分はあるのだが、それも杞憂に終わってくれるといいのだが。フランに何かあったりしたら、レミリアに合わせる顔がない。

 




紅魔館が絡むと続き物になるというジンクス。これはもっと出たいとレミリアが運命を操っているのでしょうか。

ちなみに次回は幕間を挟みます。
妹についていけないおぜう様の話になると思います。
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