不死人と蓬莱人【完結】   作:溶けた氷砂糖

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花妖怪とティータイム

 夏、向日葵の咲く季節。自分の背丈に届くくらいに伸びている花に囲まれているとそれを強く実感する。咲き誇る、という言葉にこれ程似合う風景もそうは無いだろう。太陽の畑と呼ばれているのも肯ける。これで住んでいらっしゃる方も暖かい景色に違わぬ優しい方なら良かったんだけど、そこまで都合良くはないらしい。

 おでこを手で押さえてみる。額が痛むわけではない。既に一度殺されているのだから、痛み自体は持ち越されない。ただ、傘で思い切りド突かれたからな。やっぱりへこんでやしないかと気になるものだ。話くらい聞いてくれてもいいと思うのだが、随分と酷い扱いだ。しかし、これで一つ確信が取れた。どうやら俺は里の人々に騙されてしまったらしい。分かってて騙されたのだが、一縷の希望を掛けていた以上、騙されたのはちょっとショックだったりする。やはり妹紅にも着いてきてもらえば良かったか。いや、あれじゃ喧嘩になるに決まってる。そしたら周りへの被害がとんでもないことになるだろうから、連れてこないのが正解だったな。全く、難儀なものだ。

 俺が太陽の畑に足を運んだのは、ある商人から頼まれたからだった。花を受け取る約束をしているが、忙しいので取りに行く余裕が無い。勝手に持っていって構わないので太陽の畑から花を持ってきて欲しい。うん、この時点で怪しい。しかも周囲からの評判も良くない商人であることは知っていたので十中八九嘘であることは分かっていた。どうせ死なないんだから大丈夫だろう、ってそんな下心が見え見えだった。で、そんな裏が丸見えの依頼を俺が受けたのは、ひとえにこの花畑に来てみたかったからだ。前に妹紅と話したら全力で止められたのだ。ここの主である風見幽香は話の通じない危険な妖怪であると涙ながらに訴えられた。というのは誇張表現としても行くことを禁止されていたし、紫にも行くのはおすすめしないと言われてしまっていた。だから、行くには丁度いい機会だと軽い気持ちで請け負ってしまったのだ。

 その結果が残機-1であった。挨拶くらいしておくべきかと探していたら、逆に見つかってしまったのだ。緑色のウェーブがかった髪に赤のチェック柄と白のブラウスが特徴的な綺麗な妖怪だった。やっぱり妖怪は美人さんばかりだな。人を誑かすからそっちの方が多いのだろうか。なんてことを考えていたら眉間に傘の先端を突きつけられていた。

「何か用かしら?」

 思いの外優しい声音だった。優しかったのは声だけで目は全く笑ってなかったけど。視線だけで人を殺せるよ。というか死にそうだよ。息が詰まりそうだよ。返事を待つ前にぐりぐりと眉間を押される。耐えられるギリギリの絶妙な痛みに襲われながら、とりあえずは偽りなく理由を述べることにした。大丈夫、真面目に話せばきっと分かってくれる。

「里の商人に頼まれて、花を摘みに来ました」

 バァン! 音を立てて頭が吹き飛んだ。フランみたいに能力を使ったわけじゃなかった。弾幕ごっことかとたぶん同じ要領で消し炭にされた。流石に速射は酷くないだろうか。人里を出た人間に生命の保証なんてないけどな。ついでに言うなら完全に地雷を踏んでいたのは分かっていたから仕方ないとも思った。

 で、とりあえずは現在に戻る。もちろん一度砕かれたからといって額がへこんだりはしなかった。良かった良かった、整形で永遠亭を訪れるなんて恥ずかしいことはしたくない。命が無事に戻ってきたことも確認したので、このままこっそり花を摘み取って帰っても構わないのだが、礼儀知らずと呼ばれるのは余りよろしくない。誰が呼ぶってこともないだろうが。

 起き上がって再び直立する花の間を歩く。今度は無条件で殺されるだろうか。せめて話くらいは聞いてもらいたいところだがはてさて、そんなに上手く行くだろうか。

 宛もなく歩き回っていたのだが、今度は俺の方が風見幽香を発見した。ジョウロで花に水をやっているところだった。砂利を踏んだ音が聞こえたのか、俺をひとひねりで潰せる少女がこちらに向き直る。やはり知らない相手からは驚かれるか。さっきまで眠たそうな開き具合だったのに少しだけ開きが大きくなっている。が、そこは大妖怪。直ぐに冷静さを取り戻したようだ。

「貴方、生きてたのね」

「生き返ったんだよ」

「ふうん」

 俺の体質に興味は無いのか。返事はそっけないものだった。或いは俺の言葉を信じていないのか。どちらかというと後者だろうな。なんかめっちゃ殺る気満々だし。俺戦えないんだぞ。妖精よりも弱いんだから勘弁してくれ。あとで妹紅にしこたま怒られちまうじゃねえか。

「貴方、名前は?」

「若丘八房だよ」

「八房?」

 名前を聞いた瞬間、彼女が眉を顰める。逆に俺の方はというと両手を上げていた。いわゆるホールドアップ、お手上げの降参という奴だ。こういう時は変な行動したら即座にぶち抜かれる。敵意が無いことをどうにか証明したい。

「なるほど、ね」

「何かに得心でもいったのか?」

「とりあえず貴方に戦う意思と力がないことは分かったわ」

 それを理解してもらえるのは有り難い。出会う度に撃ち殺されたんじゃ怖くて外を出歩けないからな。風見幽香が花に水をやり終わるのを待ち続ける。逃げたら殺すぞと脅されているような気がした。

「お茶でも飲んでいくかしら?」

「毒でも入ってんじゃないだろうな」

「そんな面倒臭いことしなくてもいつでも殺せるわ」

「ですよねー」

 風見幽香は身を翻して、俺に背を向けたまま歩いていく。付いてこい、ということだろうか。別に断る理由も度胸もなかったのでそのままついていくことにした。

 後ろについて歩いていると、向日葵が一番目立つが、それ以外にも様々な花が咲いていることに気付く。四季のフラワーマスターなんていうくらいだから、どの花も能力の範囲内なのだろう。だが、花に詳しいわけでもないからはっきりとしたことは言えないが、季節外れの花、例えば春の蒲公英とか、秋に咲く金木犀や秋桜は咲いてないように思えた。きっと自然に咲くことが彼女にとって大切なことで、自然のサイクルを壊すのは嫌っているのだろう。自分本位な妖怪ではないようだ。

 たどり着いたのはログハウスと呼ぶのが相応しいような木製の小屋だった。とりあえずウチよりはしっかりした作りだ。丸太を組んでいてそれなりに災害にも強いだろう。何より中に入った時にちゃんとベッドがあるのが格差を圧倒的なものにしている。久々の寝床に飛び込みたくなるくらいだ。そんなことをすれば残機が減るなんてものじゃ済まないので当然自重するが。

 一人暮らしだと思っていたのだが、椅子は何故か二つあった。客人が来たりするのだろうか。紫でも行かない方がいいと忠告してくるような大妖怪の家に来る奴がそんなに多いとも思えないが。まあ勧められた以上はそこに腰を下ろす。ティーポッドからカップに注がれたのはいい匂いのするハーブティーだ。風見幽香が先に口をつける。その様はとても優雅で見蕩れてしまうような、なんてのはおいといて、毒がないことを主張しているのだろう。毒が入っていてもまあ生き返るだろうとたかをくくって、覚悟を決めて俺も口をつける。

「あ、美味い」

「お気に召してもらえて何よりだわ」

 強いて言うなら紅魔館で咲夜が入れてくれる紅茶に近いだろう。だけど、それとも慧音の煎茶とも全く違う味わい。本人の腕もあるのだろう、ハーブの香りと合わさって思わず美味いと口に出してしまった。彼女も満更ではないようで、口元を緩めながら席についた。ツッコミを入れるのは命知らずのすることなので、俺はそれには気付かないことにして、何か話が始まるのを待った。こちらから話しかけるのは流石に怖くて出来なかった。

 そして、風見幽香が口を開いた。

「貴方のことは影狼から聞いているわ」

「は? 影狼から?」

「ええ、力もないのに妖怪とつるみたがる、不思議な人間だって」

 影狼からそう思われているのはまあいいとして、むしろ第一印象からすればかなりの高評価を得ていると言えるだろう。しかし、今泉影狼というからかわれ体質の狼妖怪と目の前の賢者も一目置くような花の大妖怪がどうしても結びつかなかった。言っちゃ悪いかもしれないが、実力な大きな違いがあるのではないだろうか。

「影狼と知り合いなのか?」

「そうよ。ああ、確かに意外に思うかもしれないわね。彼女とは五十年来の親友よ」

「五十年が長いのか俺には分からねえ」

「人間で言えば長いでしょ」

「妖怪基準だと分かんねえな」

「あんまり変わらないわよ。妖怪だって一年の感じ方はそれほど変わらないわ」

「そういうもんなのか」

 妖怪にとっても一年はそれなりには長いものらしい。となれば五十年というのは妖怪の寿命を考えると、一生の友達とはならなくても仲の良い友人くらいにはなるのだろう。そのくらいの友人も出来ることならほしいものだ。

「影狼のことは納得いったかしら」

「納得はしてないけど理解は出来た」

「じゃあ、こっちからも質問させてもらうわね。お代わりいる?」

「お願いします」

 美味しいものは飲み干すのも早い。他の方々には悪いが幻想郷に来てから一番美味いかもしれない。

 もう一度注いでもらって、今度はこちらが質問をされる立場に変わる。言って間違えると殺されそうだ。だからといって保身に走るつもりは毛頭ない、というか走ったのもバレるからする意味が無い。

「で、貴方は結局なんでここに来たの?」

「それは最初に言ったと思うんだが」

「・・・・・・あれ、本当なの?」

 驚かれるのは結構だが、俺はバレない嘘はめったに吐かない。吐くのは直ぐにバレる嘘だけだ。そうじゃないと禍根が残るからな。前に紫にそう答えたら「同じですわね」なんて言われたが誠に遺憾である。あれは存在自体がそもそも胡散臭い。

「ふうん。それで、わざわざ私を探し回ったのは」

「一度挨拶しておかないと失礼だろ」

「貴方、馬鹿でしょ」

「頭おかしいとはよく言われる」

 主に妹紅とかレミリアに。まあ今回は風見幽香に会ってみたかった、てのも多分にあるんだが、そこまで口にするつもりはない。異常者扱いされるのは沢山だ。異常だと理解した上でやろうとしている時点で言い逃れのしようがないのかもしれないが。

「まあいいわ。馬鹿さに免じて今回は許してあげるわ」

「ということは次回は許さないと」

「そういうことになるわね」

 おお怖い怖い。けどまあ、今回は見逃してもらえるようだから、ってもう一回殺されてるから見逃してはもらえてないんだけど。それはたぶん彼女の中では見逃している部分に入るのだろう。

 幽香はバスケットに様々な種類の花を的確に摘んできてくれた。俺じゃこう上手くは摘めないだろう。さらにあの美味しいハーブティーのティーバッグまでおまけに付けてくれた。天使や、有り難や有り難や。

「そうそう」

 完全に聞くのを忘れていたというように風見幽香が声を上げた。

「結局どうやって生き延びたのかしら。確実に殺したと思っていたのに」

「あれ、影狼から聞いてないのか?」

「何を」

 あれ、そう言えば影狼に言ってなかったような気もするな。なんか知られているのが当たり前すぎて、説明するのを忘れがちになっているような気がする。勝手に思い込んで自己紹介を怠るのは余りよろしいこととは言えないな。とにかく、知らないのなら教えなければならない。

「不死身、なんだよ。それだけだけど」

「へえ、人間じゃないじゃない」

 よくそんなことを言われるが、それには反論しなければ。俺は人間で、それ以上でも以下でもないのだから。

「人間だよ。少なくとも妖怪でも神様でもない」

「ま、それもそうね。で、不死身ってことは今殺しても死ぬのかしら」

「やめてくれよ?」

「やらないわよ」

 サンドバッグになんてされたら敵わない。たぶん俺が自由に()させるのはフランくらいのものだろう。あの子は我慢し過ぎると良くなさそうだからな。それ以外にまでとなると、命が幾つあっても足りなくなってしまう。幽香もそれ以上の追求はしてこなかった。かなり怖いのは事実だが、ちゃんと誠実に対応すれば普通にいい人だ。けしてハーブティーで餌付けされたわけではない。

 その後はケーキまで出してもらって充分に太陽の畑を楽しませてもらったと言えることだろう。日は既に落ちて暗く、妖怪の時間に移り変わろうとしている。これ以上長居するのも問題ばかりだろう。礼を言って退散することにする。帰るときに幽香から遊びならまた来てもいいと許可を頂いたのでいつかまたハーブティーを頂きに来ようかね。

 ああそれと、俺を騙してくれた方々に今回限りだと言っておくのも忘れないようにしないとな。

 




更新遅れて申し訳ないです。リアルが忙しかったり別のネタに気を取られてスランプになりかけたりワールドトリガー全巻一気読みしたりしてたらこんなに間が空いてしまいました。

リアルの方がまだ忙しいので次の更新もだいぶ遅くなると思いますが、よろしければ気長にお待ちください。
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