不死人と蓬莱人【完結】   作:溶けた氷砂糖

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久々の戦闘回。ちなみに弾幕ごっこでのもこたんの強さはわりと上位です。毎日のように姫様とやってるからね。


蓬莱人、異変に参加する

 鳥のさえずりで目を覚ます。いつもなら必要の無いご飯を作って待っていてくれる人も今は居ない。それでもお腹が空いてしまうのはそれにすっかり慣れてしまっていたからだろうか。でも食べるものはないから鳴る腹を我慢して身を起こす。普段は朝に弱いのだが、今日に限ってはやけに目が冴えている。顔を洗わないと怒られるな、なんてする必要も無い心配をしながら近くを流れる川へ向かう。慣れきったいつもの一日だったのに。どうして物足りないのか。理由は考えるまでもなく分かっている。ヤツフサが居ないからだ。今まで過ごしてきた千年よりもあいつと過ごしたこの数ヶ月の方が私の中では大きいから。だから大切なものを失ってしまったように思えるんだ。でも今は会うことは出来ない。ヤツフサのことは美鈴達、紅魔館に任せることにした。原因を彼女達が克服させてくれるのだそうだ。そこに私の出る幕は無い。

 無論、会いに行こうと思えば行けないわけではなかった。そもそも離れる理由すらありはしない。私が顔を合わせたくないと、そう思っているだけで、ヤツフサはきっと何も言わないだろう。自分が倒れたことも忘れたかのように振舞って、私を安心させてくれるだろう。簡単に騙されてしまうくらいに自分が馬鹿であれば良かったのに、と心から思う。もしそうであるならばヤツフサへの感情にこんなに悩むこともなかったし、健気に振る舞う姿を想像して心を痛めることも無いだろうに。いっそ死んでしまいたい。普段から考えないことではない。永く生きているのはそれだけで苦痛だ。だけど今回に限っては理由がいつもとは異なっていた。何よりも彼に迷惑をかけたくなかった。本人の前でそんなことを言ったら怒られてしまうだろうか。ヤツフサが本気で怒ったところを私は見たことがない。少し苛立っているとか、叱っているとかなら見たことがあるけれど、なりふり構わなくなっているような彼は想像しづらい。だけど、私が死にたいと口にしたなら本気で怒ってくれるかもしれないな。

 目が覚めてしまっているからか、何かを考えることもなくついているような川までもたどり着いていなかった。終わりがある道なのに、どうしてこんなに長く感じられるのか。私が普段どれだけ時間を無駄にしていたのか考えさせられる。物を考える必要すらなかったのだ。私はヤツフサに依存していた。あの夜から、思い悩むのはヤツフサの役目だと押し付けていたような気がする。何が難題を見つけただ。あいつの荷物の端っこの端っこを引っ張って得意になっていただけじゃないか。

「・・・・・・ん?」

 自己嫌悪に陥りながら歩いていると、ようやくいつもの川に着く。そこで顔を洗って、目が覚めたらすぐに戻ってくる、そんな当たり前の行動だけをしていたら気付かなかったかもしれないが、無駄な考えことで頭を覚醒させていた私は偶然それを目に留めた。

 ボールだろうか。川の対岸に転がっている。忘れ物かと思ったが、子供が入り込んでくるような場所ではない。何より、結構な妖気を放っている。

「しかしなんだこれは?」

 拾ってみるが、いったい何なのか調べてみようとすると益々わけがわからなくなる。誰かの所有物というわけでもなさそうだし。もしかして、美鈴の言っていた異変に関わっているのだろうか。その可能性は高そうだ。もしそれならば、ヤツフサのために異変解決に洒落込むというのも悪くない。今まで世話になりっぱなしだったし、恩返しもいいだろう。

 異変に乗り出すことは決まったが、何をするにも当てはないので取り敢えずは家に持ち帰ろうと身を翻す。何気なく上を見上げると、青い空にはよく映える紅白衣装が見えた。同時に飛んでくるありがたい御札。不意打ちのつもりだったのだろうが、察知しているなら軽々と避けられる。

「避けないでよ」

「無茶言うな」

 降り立ったお目出度い巫女は先の一発で倒せなかったのが不満らしく、理不尽な要求をしてくる。その手には私が今持っているのとよく似たボールが抱えられている。疑惑確定。このボールが現在進行形の異変と関わっているのは間違いなさそうだ。

「じゃあ避けなくていいからそのボールをこっちに寄越しなさい」

「このボールが欲しいのか? なんなんだこれは」

「アンタが知る必要は無いわ」

 臨戦態勢に入る博麗の巫女。寄越せなどと言いながら倒して奪い取る気満々じゃないか。まあこっちも渡す気は無いから正しい反応なんだけど。ボールを邪魔にならないように茂みに置き、炎で障壁を作る。かなりの熱さで外からは触れられないし、中は熱のこもらない安心設計。こういった使い方は余りした事が無いが、一度見たことがあったからか、予想よりうまく出来たみたいだった。向かいの霊夢が呆れ顔で首を振る。

「そう、力づくで手に入れるしかないのね」

「ま、そういうことね。欲しければ奪ってみな」

 私の生み出した炎と霊夢の投げた針が衝突する。それが弾幕ごっこ開始の合図だった。御札と針が視界を埋め尽くすように投げ込まれる。地面に立ったままでは避け切れない程の量に、身体を浮かせて空に逃げることで対処する。この間に霊夢がボールを狙いに行ったらどうしようかと不安になったが、お得意の直感で炎の壁を突破することが不可能だと理解したのか大人しく浮かんできた。牽制代わりにこちらも弾幕をばら撒くが、流石はベテラン。少し身を捻る程度の動きで全て避けきってみせた。再び、今度は追尾する御札(ホーミングアミュレット)を一面にばらまかれ、四方八方から霊力の込められた御札が飛んでくる。反撃をする余裕は無かったので出来る限り避けることに注意しながらそれでも当たりそうなものは焼き尽くして事なきを得る。ちょっとだけグレイズはしたけど。

「なんだ、案外弾幕ごっこにも慣れてるのね」

「これでもそれなりに数はこなしてるからね」

「へえ、元気なものね」

「あいにく体は弱いんだがな」

「不老不死の癖に体が弱いとかちゃんちゃらおかしいわね」

「そう言うなって」

 お返しにさっきよりも多くの火の玉を撃ち出す。細かい操作をするのも面倒だから量を多くするのが一番楽に難易度を上げられる。さっきの倍、三倍、十倍にまで数を増やす。しかし相手は博麗の巫女。こんなもので倒せるとは思っていない。もう一つ、予想外の攻撃を仕掛ける必要がある。普通の弾幕とは異なったスペル。元々封印するつもりだった奥の手(インペリシャブルシューティング)は使いたくない、となると残されたのはこの前新しく作ったスペルしか無いだろう。

「『不滅の発火人形』」

 スペルカードを頭上に掲げて宣言する。途端に自分の体が燃え上がり、火の玉も大量に出現する。霊夢に向かって火球を飛ばすと同時に私も体を燃やしたまま霊夢に向かって突進する。非殺傷にはしているがそれでも高威力の直接攻撃。すました顔の霊夢が珍しく驚いて口をあんぐりと開けていたが、元が魔理沙のブレイジングスターから来ているから、すぐに冷静さを取り戻した霊夢によって慣れた動きで距離を広げられる。そこへ更に増やした火球で襲う。

「ええい、面倒くさいスペル使うんじゃないわよ!」

 燃えたままの私に札や針なんかは効かない。霊夢が苛立ちをぶつけるように叫び、スペルカードを高だかと掲げた。

「『封魔陣』!」

 光の柱が私を取り囲むように発生する。私を閉じ込めてとどめを刺すつもりだろう。パッと見逃げ場の無い弾幕ごっこの反則技にも見えるスペルだが、縦に逃げれば避けられないことは無い。押し潰される前に端までたどり着くのは困難だが、以前やられた時もそうやって避けた。霊夢もそれを忘れているはずはないので、私を叩き落とすよりも邪魔な弾幕を蹴散らすのが主目的だろう。だけど、それは私の想定の範囲内だ。

 縦に逃げることはしない。もしかしたら避けて上ってきた所を狙い撃ちにしてくるかもしれないから。今の状態なら撃ち落とされることもないから、私はその場に立ち尽くす。また新たな火球を生み出しては霊夢の方へ投げ飛ばした。

「嘘でしょ!?」

 光の向こうから霊夢の今度は本気で驚き、焦っているような声がする。おそらく火球の対応に追われているのだろう。まさしく私の計算通り、自分の身を焦がす炎を更に大きくして飛ぶ。光の壁を突き破って一目散に霊夢の声がした場所へと突撃する。不意打ちのつもりだったが、すんでの所でグレイズされてしまった。それでも体勢が崩れた今が好機。火の玉をさらにさらに多くする。今まで残っていた、途中で追加した火球、最初(・・)に撃ち出した火球と合わせればかなりの密度になる。

 不滅とスペルカードに書いてあるようにこの炎は如何なる手段を用いろうと消えない。全てを溶かしてしまうほどの高熱で作られているからだ。その熱さたるや鉄すらも瞬く間に溶かしてしまうくらいだろう。自分でもここまで出力を上げることはめったにない。たとえこのスペルカードを使ったとしても、相手が博麗の巫女でなけれぼこれほどのエネルギーは使わないだろう。つまり博麗の巫女、いや博麗霊夢はそこまでしないと勝てないような相手だということだ。彼女を人間だと侮ることはしない。大妖怪だと考えないと、あの時と同じくらいの相手だと思わないとやられるのは私だ。

 追尾する火の玉と隙を狙った私の突進。さしもの博麗の巫女も回避で手一杯のようだ。だが、まだ落とすには足りない。他のスペルが通用する気もしないし、このスペルで終わらせないと奥の手を使わざるを得なくなる。だからここでケリを付けたいのだが、決定打が無い。このままではジリ貧だ。そうならないために、もう一つ仕掛けを施しておいた。

 全ての火球から四方に柱が伸びる。魔理沙のノンディレクショナルレーザーを参考にしたレーザーもどき。魔理沙のように細かな動かし方はできないが、代わりに量を増やすことで密度を維持する。魔理沙の弾幕は細かく向きを変化させることで動けるスペースを削っていく。だから私は様々な向きのレーザーを大量に生み出す。もちろんこれも封魔陣では壊せない。

「ふざけんじゃ、ないわよ!」

 私相手には役に立たないスペルを破棄して次のスペルを唱えようとカードを取り出す。そこが完全無欠に見える彼女の数少ない弱点。その隙を突かないわけはなかった。

 自身の速度をさらに上げる。初めて見るスペル、ずっと加減していたスピード、そして彼女らしからぬ隙。さしもの博麗の巫女でも避けることは出来ない。直接ぶつかって吹き飛ばす。スペルカードがひらひらと空中を舞うのが見えた。

 墜落していく彼女を空中で引っ捕まえる。まだ聞かなければならないことがあるからだ。それは勿論あのボールと異変との関係性である。霊夢は負けたからか珍しくシュンとしていた、ように見えたのは私だけかもしれない。少なくとも普段の態度と大きく変わったところはなかったから。

「このボールは黄泉比良坂、でこっちはなんだ? 三角形の建物?」

 巫女から奪い取ったボールと自分が拾ったボールを比べると微妙な差異があることがわかる。これを集めることで願いが叶えられるなんて霊夢は言っていたが、そんな大層なものだろうか。だけど黄泉比良坂、最初に考えたのは死ぬことが出来るかもしれないということだった。少し想像して、自分が過去と比べて死を望んでいないことに気付く。永遠の命なんていらない。だけれど今ヤツフサと離れるのはもっともっと悲しい。私にとっては彼はそれだけ大きな存在だった。ただ、願いが叶えられるというのならヤツフサの苦しみを取り除いてあげられるかもしれない。私にとって参加しない理由は完全になくなった。

「アンタも参加するの? 今回の異変に?」

 まだ諦めていなかったのか、近距離から不意打ちを喰らわそうとしてきた霊夢を適当に放り投げると、空中で綺麗にバランスをとって着地する。さながら猫みたいだ。

「ああ、ちょっと事情があるからな」

「まあいいけど。どうせ魔理沙からもぎ取るし。でもそれってあの八房とか言う人間のため?」

 猫のように思えるのは何も身のこなしの軽さだけではない。人を信用しないようでいてその実ほとんど疑わない。なんとなく、で生きている彼女にとって空気を読むなんて行動は最初から持ち合わせていなかった。だからこんな質問をしてくるのだろう。何だかヤツフサが悪く言われたような気がして眦が吊り上がる。

「だったらどうした」

「悪いことは言わないからやめておきなさい。どうせ面倒なことになるから」

 負け惜しみか、それとも博麗の巫女の直感か。おそらくは後者なのだろう。ヤツフサの異常性は充分ではないにしろ理解程度はしているつもりだ。人らしからぬ、ということも分かっている。だからと言ってそんなちっぽけな理由で私が歩みを止めることにはならなかった。

「言うことは聞けないね」

「あっそ、まあ私は別にいいけど」

 霊夢が私に背を向ける。飛んで帰ればいいのに何故か歩きで竹林から離れていくのは不可思議だった。

「そうそう」

 途中で霊夢が歩を止める。何事かと身構えた私に霊夢は振り返らないまま言った。

それ(オカルトボール)、妖怪の山にも落ちてたらしいわよ」

 どうしてそれを私に教えるのか、その答えはとうとう聞けずじまいだった。

 




オカルトボールゲットだぜ(白目)
今回は八房と妹紅の視点をできるだけ交互にやっていこうと思います。まあ八房の視点になったって死んでるか殺されてるかくらいしか見所無いですけど。
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