不死人と蓬莱人【完結】   作:溶けた氷砂糖

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茨の道を歩む

 床に並べたボールを見渡して指さして数える。一、二、三、四、五。これで七分の五、つまり大半が集まったことになる。異変解決もそろそろ大詰めか、霊夢は七つ集めれば何か起こるだろうと言っていた。あの巫女に限って外すことは無いだろう。

「ということは後二つだな!」

「なんでアンタはまだここに居るのよ」

 私の隣で心得たとばかりに鼻息荒く胸を張る無表情の妖怪。火男のお面を被った桃色の少女。秦こころだったか。鈴仙はボールを渡してすぐに帰ったのに、命蓮寺からやってきたという彼女は一向に帰ろうとしない。落ちていたボールを持ってきてくれたのは有難いのだが基本的に私は一人の方が気楽なのだ。勿論例外も居るけれど、少なくともろくに顔も合わせたことの無い相手と二人でいて気を抜ける程私は大雑把に出来ていない。だから出来れば早く帰ってほしいのだけど。

「せっかくだからついていく!」

「なんでよ」

「私の知らない感情を知ってそうだから」

 あっけらかんとした言葉に頭を抱えたくなる。彼女はお面の付喪神、面霊気なんて呼ばれる存在であることは知っている。そういえば宗教戦争の折も彼女が原因だったんだっけ。感情を操る程度の能力を持つ彼女は他人の感情に対してひどく敏感だ。それは空気が読めるとかではなく、無邪気で無慈悲な好奇心という奴なんだが。つまり私は今痛くないこともない腹を探られているのだ。それを分かってて送り込んでいるんだから白蓮も相当に質が悪い。理想だけで集団を作ることは出来ないのだから、腹芸みたいなことも多少はできるのだろう。人畜無害な顔してえげつない。

 その狙いは分かっている。私に嫌でも気持ちを固めさせたいのだろう。聖職者がそれでいいのか。なんて思うけれど私を救うことなんでどうせ出来ないのだから好きに生きさせようと考えているのかもしれない。大きなお世話だ。

「なんでそんなに嫌そうな顔をしている?」

 私が悪いのか、なんて聞いてくるこころ。無表情のままではあるが、能面が姥になっていることから多少落ち込んでいるのだろう。お前のせいだ。とも言いたいがこうも沈まれるとそれもはばかられる。成程命蓮寺からも聖徳太子からも可愛がられる訳だ。何よりも純粋な妖怪。無意識を操るあの悟り妖怪にも似ているが、あっちと違って壊れたのではなくまだ出来ていないだけなのだろう。宗教戦争の時私が見たあの妖怪はもっともっと異常だった。

「別にアンタが居てもそんなに変わらないんだけどね」

「なんと、でも私だって戦えるぞ」

「それは知ってる」

 曲がりなりにも異変を起こした妖怪だ。それなりの力は持っていて然るべきだろう。

「初めてなのに知っているとは、うむ?」

「ああもういいから黙ってて」

「分かった!」

 返事だけは元気よく、しかし本当に分かっているのかどうか不安になるような調子だ。こいつに付き合ってるとそれだけで日が暮れてしまいそう。私は全くの無視を決めて残り二つの在り処を考える。

 一つは桃色の仙人が持っていると見て間違いないだろう。魔理沙を倒すほどの相手だ。そう簡単に他の相手に取られるとも思い難い。霊夢とかなら有り得るかもしれないがだったら放っといてもこっちに来るだろう。私がまだボールを持っているってことはしっている筈だから。問題は残り一つだ。これは誰が持っているのか想像がつかない。少なくともボールを私にくれた永遠亭、命蓮寺には無いだろう。既に探った妖怪の山という線も薄い。紅魔館には行く気にならないから論外として、残るは聖徳太子の陣営と守矢神社、白玉楼の庭師。こんなところか。仙人サマが二つ持っていてくれれば気が楽なのだが。

「ところで妹紅」

「なんだよ」

 返してしまってからしまったと思う。無視しようと考えていたのに。

「ボール、持っていかれているぞ」

「それを早く言え!」

 ひどいっ、と叫ぶこころを無視してボールの数を確認、一つ足りないと慌てて周りを見渡すと、包帯で出来た腕がボールを持っていこうとしているのが見えた。しかもよりにも寄って黄泉比良坂だ。返事した私グッジョブ。危うくボールをただで取られるところだった。

「待てっ!」

 火球で包帯を燃やす。堪らないと言った様子で手はボールを離すが、振り払われて火はすぐに消えてしまう。燃えない包帯とは珍しい。っと今は関係ないか。私はすぐにボールを回収して、全部持ったまま手の飛んできた方向に走る。こころがついてこれてないがほっとけば来るだろう。

 手癖の悪い仙人はそれほど遠くから操っていた訳では無いようだった。すぐに道教の特徴的な服装とシニョンが見える。逃げる素振りも無かったのは不自然だが、まあ私を倒せると踏んでいるのだろう。それなら霊夢みたいに不意打ちでもした方がまだ可能性があったぞ。あの具合では当たったかもしれん。

「仙人サマが人の物を盗っていいのか?」

「馬鹿言わないで。私は貴女に危険が及ぶのを防ごうとしたのよ」

「それを泥棒って言うんだろ」

「そーだぞドロボー」

 後ろから遅れてやってきたこころも非難の声を上げる。アンタ何もやってないでしょうが。いやボール持ってきてはくれたか。ピンク仙人はあからさまに残念そうな溜息を吐いて包帯じゃない方の手の人差し指をピンと伸ばす。

「いいかしら、それは巷で騒がれているような願いを叶えるなんて代物じゃない。七つ集めた者を外の世界へ飛ばしてしまうという危険な代物です。貴女みたいな人間が持ってていいものじゃないのよ」

「へえ、そうかい。だからといって私が諦める理由にはならないけどね」

「分からず屋ね」

「卑怯者がよく言うよ」

「卑怯者ですって・・・・・・!?」

 単なる挑発だったのだが、随分と痛いところを突いてしまったようだ。全身をわなわなと震わせて怒りを表現する仙人サマ。こんなタイプの仙人には初めて会った。まるで人間か妖怪じゃないか。

「いいでしょう。説得するつもりならそこまで強情なら力づくで言うことを聞かせるしかありませんね。大丈夫、死ぬよりマシでしょう」

「死ぬよりマシ? はっ、何戯けたこと言ってんのさ。殺せるもんなら殺してみな!」

 ボールはこころに任せておけば大丈夫だろう。全力で地を踏みしめて相手の懐に一瞬で入る。相手の意識の死角、大口叩く割には隙だらけで攻撃を当てるのは全く難しくない。

「っらあ!」

 跳んだ勢いそのままに腹部に蹴りを叩き込む。完璧に入った、一撃で倒せなくともそれなりのダメージにはなるだろう。その考えが甘かったことをすぐに痛感させられる。

 脳が揺れる。一瞬何が起こったのか分からなかった。頭を掴んで叩き付けられたのだと理解したのは追撃を恐れてその場から飛び退いてからだった。頭がグラグラする。対する仙人サマは欠片もダメージを負ってない。何を馬鹿な、と思いたくなるが事実なのだから仕方が無い。隙だらけなのは自分の硬さに大層な自信があるからか。

「今ので倒せたと思ってたんですけどね」

「アンタ、なにもんだよ」

「茨華仙。しがない仙人ですよ」

 真っ直ぐに、注意を惹こうとか罠を張るとか全く考えずにそのまま突進してくる。踏みしめられた地面が抉れるほどの脚力だ。包帯の方の腕で殴り飛ばすつもりなのだろう。搦手も反撃も一切考えない戦い方はまるで仙人らしくない。それならば私は蓬莱人らしく戦おう。

 避けるつもりはない。腰を落として半身になり、迎え撃つために拳を構える。相手の拳が届こうかといった間際。私は自分の拳を繰り出した。包帯の手が当たって目の横から真一文字に擦り切れる。痛みを感じわけじゃないが輝夜と殺しあってる時に比べれば無傷のようなものだ。そして私の突きがカウンターの要領で相手の顔にぶち当たる。自分のスピードをそのまま喰らえ。持久戦に持ち込むつもりは無い。一刻も早く倒してしまうべきだ。私の直感がそう言っている。長引けば不老不死である私の方が有利であるだろうにも関わらず。殴った勢いが強く、今度は茨歌仙の身体を遠くに吹き飛ばす。自分の体が再生するいつ感じても気味の悪い感触を我慢しながら相手の様子を観察する。これで倒せる相手なのか。そんな筈はない。私は起き上がろうとした仙人に火球を大量に投げる。手を抜いて勝てる相手じゃない。全力でも勝てるかどうか分からない。輝夜以外でこんな相手は久し振りだ。

 ちらりと視界の端にこころが映る。まだ退避してなかったのか。彼女の実力がどれほどのものか知らないがここに居るのは危険だ。不死身でなけりゃやってられない相手。倒れるイメージが出来ない相手。

「こころ、下がってろ!」

「えっ、妹紅!?」

 しまった。一瞬でも気を離したのがまずかった。鳩尾にぶつけられた肘は鉄よりも重く、周りの景色と共に意識が遠のく。同時に腹の底から何かが込み上げてくる。それが吐き気だと気付いたのは胃の中身を全てぶちまけてからだった。膝が震える。目は眩み、立つことも覚束無い。もしかしたら臓腑が傷ついているかも。自分の吐瀉物を見て胃液以外のものがあることに驚き、今朝も握り飯を食べたのだと朦朧とした頭で思う。違う、今は意識を飛ばしていい時じゃない。根性だけで顔を上げ、向かってきている仙人に向かって苦し紛れの火球を撃ち出す。当たればただでは済まない高熱。これで足が止まってくれれば。

「嘘だろ!?」

 腕の一振りで火球全てが風に吹かれた灯火の如く呆気なく消える。何か力を使った様子もない。いったいどれだけの速さで振ればそんな芸当が出来るのか。

────やばい!

 足は動かない。もう一度あれを喰らえば三日はもう起き上がれないだろう。そうすれば私の異変はそこで終わりだ。

 だけど、別にそれでもいいのではないか、と誰かが囁きかける。自分が解決する必要などないのだろう。この仙人が強いのならそちらに任せてしまえばいいだけの話ではないか。そっちの方が解決される可能性は高い。別にヤツフサが元に戻れば、私が出る幕など最初からないのだから。そう意識を手放しかけたとき、私の前に別の影が立ちはだかった。

「こころ!?」

「む、私に任せきゃあ!」

 呆気なく吹き飛ばされるこころ。力をうまく受け流したおかげで大怪我には至ってなさそうだがそれでも無謀が過ぎる。どうしてそんな危険なことをしたのだ。だけど、そのおかけで私は間一髪構わず突っ込んでくるそれを避けることが出来た。ようやく身体も治ってきて、唯一痛みの惹かない頭を抱えながら立ち上がる。

「何無茶やってんだよ」

「私は妹紅の味方するって決めたから!」

 馬鹿か、と叫びたくなって気付く。少なくともここに一人、私が勝つことを願っている相手が居るのだと。いや、彼女だけではない。命蓮寺も、腹が立つが永遠亭の奴らも私にボールを持ってきてくれた。霊夢に渡したって構わないのに。色々手伝ってもらっているのだ。諦めるのはまだ早い。

「アンタ、ボールは今何個持ってるんだ」

「ここに七つ全部あるわ」

「なるほど、じゃあアンタを倒せばそれで全部ってわけだな」

「まだ諦めてないの? 人間の中では強い方なのは認めるけど。勝ち目があるとでも?」

「さあねえ」

 ここまで絶望的に倒せないと思えた相手はこれで二人目だ。だけど、あの時とは違う。あの時よりも私には力がある。あの時だってどうにかなったのだ。

 炎を作る。今度は丸ではなく、細く細く、霊夢の使う針のように。大きな塊を小さく圧縮していく。もちろん相手が完成を待ってくれるはずもない。むしろ作っている今を好機と見て攻めてくる。一撃一撃が必殺のような重さ。当たるわけにはいかない。掠っただけでも大怪我だ。体は治っても受けたダメージは消えない。もう一度でも喰らえば終わりだと分かっているいる。だがそれがどうした。一発当たれば終わりだなんて弾幕ごっこと同じじゃないか。怖がることなんて何も無い。

「先ずは一本」

 完成した炎の鎗とでも言うべきそれを掴む。掌が焼けて、蓬莱人の特性と相殺される。大ぶりに振り回された拳を避けて心臓目掛けて振り抜く。どうせこんな化け物が死ぬはずは無いのだ。やりすぎな位が丁度いい。事実、苦悶の表情を浮かべるだけで倒れそうにはない。

 ならば、倒れるまで突き刺してやるだけだ。すかさず私はもう一本の作成に入る。足払いを跳んで避け、視界を広く取るために距離を取る。今度は目を離さないままで、こころに呼びかける。

「こころ、下がってろ」

「でもっ」

「ちょっと巻き込んじゃいそうだから」

 しばらくして分かったと小さな声が聞こえた。これで憂いはない。これから試す技は周りにどれだけ被害が出るか分からない。私にコントロール出来るかどうかも曖昧だ。

「さあ鬼さんこちら、手のなる方へ!」

「き、さまぁ!」

 わざとらしく、相手を煽るように動いてみせる。こころから意識を離すため、私に注意を集めなければならない。炎の鎗二本目投擲するが、これは流石に避けられる。当たってくれれば有難かったのだがそう上手くは行かない。

 段々と乱雑になってくる攻撃を必死に避けながらこころが下がるだけの時間を稼ぐ。相手が疲れたというよりも面倒、苛立ってきているだけだ。相手はまだ崩れそうにない。

「三本目ぇ!」

 これは命中、肩口を切り裂いて地面に突き刺さって消える。だが、止まらない彼女の包帯が私の体を縛り付けた。そのまま振り下ろそうと引き上げられる。ここでやられては全てが水の泡。これで負けるわけには行かない。私は即座に炎で刀を作り出して包帯を切り刻む。

「隙ありぃ!」

 着地した瞬間、待っていた茨華仙の攻撃が私の体の芯を捉えた。完全に膝が動かない。だけど、まだだ、私はその腕を掴む。鬼のような怪力で振り回された拳に必死で食らいつき、胸元を掴んで引き寄せる。

「捕まえた!」

「なっ」

 そして私たちの周りを爆炎が包み込んだ。

 




だいぶ深秘録編も大詰めになってきました。
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