不死人と蓬莱人【完結】   作:溶けた氷砂糖

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異変は終わりましたがこの章はもうちょっとだけ続きます。


夢の中でも今は今

「痛たたた・・・・・・」

 目が覚めると同時に背中に痛みが襲ってくる。今まで紅魔館でのふかふかベッドに慣れてしまっていたから、久々の床は体に悪かったらしい。そういえば初めて来た時からずっと布団を手に入れようと画策していたのに結局買わずじまいだったな。やっぱり今度買いに行かなければ。

「えっへへー、珍しく私の方が早起きだな」

 どうにかスペースを取って作った台所では妹紅が炊き上がったご飯をよそっている所だった。時間はだいたい朝の五時半。こいつらしからぬ早起きだ。それに食べることに無頓着だったこいつが自分から料理を作るなんて、変わったものだ。俺も、あいつも何か切欠があったってことなんだろう。

 三日。異変解決から既にそれだけの日にちが経っていた。茨華仙とこころに見られてあることに気付いた妹紅に突き飛ばされて気絶したり、紅魔館に改めてお暇することを告げに行って、そのまま晩餐で酔い潰れたり。傍らにはいつも妹紅が居て、ようやく俺にとっての日常が戻ってきたと言える。ただ変わったことと言えば、俺と妹紅が恋人同士になったことだろう。

 この家に戻ってきた夜。俺の方から改めて妹紅に告白した。どんな言葉だったのかは思い出せるけれど余りしたくない。恥ずかしさで顔が熱くなってしまうから。同じ理由で妹紅の反応も、忘れることは無いけれど、思い出すことも滅多にしないだろう。一々顔に出てしまうのもつつかれてしまって心臓に悪い。自分達の心の中に仕舞っておくのが懸命だろう。関係自体は別に構わないのだから、当の出来事を紫が知っているのかどうか後で探りを入れなければ。あと文の方にも。

「筍ご飯か」

「この辺りはやっぱりたくさん筍取れるからね」

 毎食は流石に御免だけどね、と妹紅が笑う。こんな何気無いことで妹紅が笑うのを見るのは久し振りだった。ずっと思い詰めたような顔をしていたから。いや、それは俺も同じか。元から笑うのは少ない方だと自覚しているが、紅魔館に居る間は特に笑ってない。いつも心の片隅に妹紅に心配をかけさせてしまったって考えていたからだろう。

「頂きます」

 以前になんとか買い揃えた卓袱台に面を合わせるように腰を下ろして、両手のひらを合わせる。うん、朝に恋人に飯を作ってもらうのも良いものだ。特に自分で作る必要が無いというのも大きいが、まあそれはさておいても嬉しいものだろう。妹紅作の料理なんて食べたことなかったからちょっと一口目は警戒しながらだったが、普通に美味しかった。面倒臭がってるだけで料理出来ないわけじゃ無かったんだな。筍ご飯は滅多に食べない、ってのもあって珍しくお代わりまでしてしまった。

「今日はどうするの?」

 食べ終わってから妹紅が聞いてくる。今日は夜に異変解決の宴会を博麗神社でやるらしい。立役者である妹紅が呼ばれないはずもなく、ってかむしろ主賓としてお呼ばれしているのだから行かない選択肢はない。ノーの選択肢があったところで、宴会大好きな幻想郷の住民が選ぶはずもないけどな。

「ま、夜まで適当に時間を潰すか」

 妹紅もそれは分かっているので、どう答えようか悩む俺の返事を待たないで一人で勝手に決めてしまった。

「そうだな」

 そしてもちろん俺も特に反対することもない。時間を潰すなんて提案に反対も何も無いのだが、この場合は目処が立ってないという意味だと取ってもらおう。

「人里にでも顔出すかね」

 気軽に訪ねられて、なおかつ時間を潰すのに最適なのは慧音のところか。或いは紅魔館だけど、こないだお暇させていただいたのにすぐ遊びに顔を出すのもなんだかなあ、なんて考えていたら、乱暴にドアがノックされた。誰だろう、こんなノックをする相手には覚えが無い。慧音ならもっとゆっくりだし、文ならもっと丁寧だ。乱暴ではあるけれど焦っている様子もない。っていうかそれなら普通に入ってくるだろあいつらなら。全く思いあたりが無いが、無視するわけにもいかないので俺がドアを開ける。そこには見知らぬ少女が無駄に自信満々な様子で立っていた。

「おお! 知らない男の人が!」

「ええと、どちら様?」

「え、その声は」

 初っ端から文並みのハイテンションではしゃぐ少女と、覚えがあるのかあっと声を上げて二の句が告げない様子の妹紅。ふむ、知り合いか。見た目だけ見れば外の世界の制服みたいな服装に何故かマントと黒い帽子。歳は女子高生くらいか。外の世界、見覚えなく妹紅と知り合い。そして妹紅がこいつの来訪に驚いている。まさかとは思うが、こいつが異変の首謀者だったりするんだろうか。

「菫子! なんでこっちに!?」

「なんか知らないけど寝たら来れるようになったのよ。それより、この人がかのヤツフサさん?」

「俺がどうした。でお前は誰だ」

「ああ、八房。こいつは今回の異変の黒幕の」

「宇佐見菫子! 東深見高校の一年生です!」

 おうおうテンション高いな。ちょっと気圧されている。そしてやっぱり異変の黒幕か。外来人なのに御苦労なこった。俺だったら間違っても喧嘩売ろうなんて思わない。手を出しちゃいけない相手だって知ってるからかもしれないが。

「東深見っていうと、神奈川だっけか」

「お、知ってるんです?」

「まあ一般常識くらいには」

 といっても地名で推測しただけで、神奈川のどの辺りにあるのかも知らないけどな。行ったことない場所なんて分かるはずもない。

「とりあえず、立ち話もなんだ。この家は落ち着いて話せるような場所でもないし、観光も兼ねて人里にでも行くか」

「人が住んでる場所なら行ってみたい!」

「でも、ここからだと歩きで結構かからない?」

「え、歩くの?」

「そこで質問をしないでくれ」

 一般人は飛べないんだ。というかこの子は飛べるのか羨ましいなおい。俺も修行の結果飛べるようにはなったけど、それでもまだ苦手なんだぞ。

「一応飛べるようにはなったから飛んで行こう。俺が遅れたら置いてっていいから」

「飛べるようになったんだ」

「多大な犠牲を払ってな」

 およそ数十人の俺というな。

 結局飛んで行くことに決まった。時間も短縮できるし、俺も飛ぶのには慣れとかないと絶対に辛いからな。個人的には、歩きが好きなんだけどなあ。

 何処に行くかについてだが、朝飯食った直後だから腹は空いてないんだが落ち着いて話せるところとなるとやはり食べ物系になるか。かといって定食屋みたいなガッツリ系は合わないだろうし、甘味処以外の選択肢は無さそうだ。蕎麦屋の前の団子屋か、羊羹の店か。それともやっぱりおやっさんの所にお世話になろうか。決めきれないので行ってからまた考えようとそこで思考を打ち切った。

 

 

「ってことは八房さんは不死身なの?」

「まあな」

 目をキラキラさせながら、机を乗り上げて聞いてくる菫子にちょっとだけ仰け反る。ここまで食い付きが良いとは思わなかった。不死身という言葉に万能感でも感じているのだろうか、そんな都合の良いものではないのに。それに、そもそも俺の隣でお茶を飲んでいる妹紅だって蓬莱人なんだから立派な不老不死だ。しかも能力的には俺の完全上位互換。ま、現代人の能力だからってことの方が大きいのだろう。

 結局悩みに悩んだ末におやっさんの所へまた来ることになった。他の人が本当に来ないからな。おやっさんには悪いが、わりと都合が良い。そんなの気にしない人だし。ただ寛太を紅魔館へ遊びに行かせているのは気にしなさすぎるんじゃないだろうか。紅魔館の奴らは皆いい奴だし大丈夫だとは思うが、万が一ということもあるのではないか。と、そんなことは今は関係無く、俺は自分の体質について話すのを早々に切り上げて、菫子の能力に話を移す。

「しかし、超能力か。あれだろ? サイコキネシスだとかテレキネシスだとかだろ?」

「そうそう。だいたいのことは出来ますよ」

 不死身なんかよりある種そっちの方が羨ましいな。応用が色々と効きそうだし、見た目にド派手でかっこいい。ほら、ライトノベルとかでも現代異能力バトルって面白いからな。あとそんなイメージとは別に、頑張らなくても空を飛べるのも大きい。美鈴曰く、気を鍛えても飛べるのはおそらく幻想郷の中だけらしいが、超能力ならそんな問題は無い。空だろうと自由に飛べる。と、それはどちらかというと河童のガラクタだろうか。会ったことがないから実際どんなものか知らないが、文のカメラを作るだけの知識はあるんだろうし作れそうだ。

「使えるとかそんなもんじゃないですよ」

「そうなのか?」

「周りに話せるようなもんじゃないですし」

 饅頭を頬張りながらだというのに、やけに悲壮感を感じさせる口調だった。その感覚は俺にも理解出来る。人と違うってのはそれだけで酷く悲しいものだ。しかも俺と違って菫子は能力を自在に扱えたのだろう。他人からの目も相当に厳しかったはずだ。俺からはわりと素直に思えるが、きっと外の世界ではひねくれていて、そして孤独だったに違いない。そうでなければ異変なんて起こさない。こっちに来ようなんて思わない。俺もずっと孤独だったからな。起こせるだけの力と幻想郷に関する知識があったならば俺だって異変を起こしていたかもしれない。

 ええい、この話はやめよう。空気が重くなり過ぎる。それに俺も聞いてて気持ちの良いものじゃない。何か話題を変えるのに都合の良い話は無いだろうか。

「そうだ、お前は宴会には来るのか?」

「宴会?」

「異変が終わったら首謀者交えて宴会するのが通例なんだと。参加は自由だし、水に流す意味合いもあるんだろ」

 俺も実際に異変後の宴会に参加するのは初めてだが。首謀者無しの宴会になるかとも思ったが、今回はしっかり来てるからな。誘わないわけにもいかない。

「私未成年なんですけど、それでも良いんですか?」

「未成年って八房もなんか言ってたなそれ。なんだそれ」

 ああ、そうか。外の世界はまだ未成年は酒飲んじゃいけないんだったか。幻想郷に居るとそこら辺の知識を忘れてしまう。現代人として由々しき事態かもしれないが俺もうこっちの人間だし。

「子供が酒飲んだら危ないからな。数え年で二十一になるまで酒を飲むのは禁止されてるんだよ」

「へえ、誰がそんなこと決めたのよ」

 興味深そうに聞いている妹紅に唇を尖らせて菫子が答える。

「どっかのお偉いさんよ」

「ま、こっちで言うなら紫とかその辺りだな」

 だいたいこっちで例えた方が分かりやすく、妹紅も納得してくれたようだった。で、こっちで未成年が酒飲んでいいのか。凄い難しい問題だな。夢なんだし日本じゃないんだから構わないとも思うが、これで酒飲みになられても困るからな。影響が出るかもしれないし。とはいえ、俺がどうこう言うものでもない。来たら嫌でも飲まされるだろうからな。止めるのは無理だし無粋という奴だろう。となると、まあ飲むだろうな。

「お前が良ければ良いんじゃねえの?」

「じゃあ行くわ! 一度お酒って飲んでみたかったのよね」

「そうか」

「あ、でも待って。そろそろ起こされそうだから一旦帰ります。宴会って何時からなんですか?」

「まあだいたい九時ぐらいからだろうな」

「その数え方が良く分からないんだけど」

「戌の刻から亥の刻ってところだよ」

「なるほど」

 この呼び方って幻想郷でもそんなに使わないんだけどな。妹紅が人と関わろうとしなかったから馴染みがないのだろうな。そのくせに人の顔だけは良く覚えてるんだから何なのか。俺もそういった面はあるけれど、やはり人恋しいのだろうか。

 どれくらいかは分からないが、不老不死である以上、永遠亭の奴らを除いて誰も妹紅と一緒に生きることは出来ない。菫子なんてのはその筆頭で、もちろん俺も妹紅を置いて先に死ぬ。いや、蓬莱の薬を飲めば一緒に居られるかもしれないか。でも妹紅はそれを望まないだろうし、俺も人間を辞めたいとは思わない。

「あれ、菫子は?」

「もう消えたよ。目の前だったじゃん」

 そんなことを言われても気が付いたら消えていたのだから仕方が無い。別れの挨拶の一つも無いとは薄情な奴だ。まあ叩き起こされたのかもしれないけれど。今日は平日らしかったからそろそろ遅くともそろそろ起きないと遅刻だろう。時刻はもう七時近くだろうからな。我ながら正確な体内時計で大助かりだ。

 視線を下ろすとまだ手付かずの自分の分の饅頭が残っていた。流石におかしいと感じられたのか妹紅がまた心配そうな顔をする。まだあの時の記憶が良く残っているのだろう。

「なんか考え事でもしてたの?」

「ま、そんなとこ。結論は出たけど」

 寿命を無くして人間は生きていられない。それは妹紅のことを否定しているのかもしれない。だけど、俺は死ぬ人間でありたい。

 妹紅に向かってそんなことは口が裂けても言えないから、適当にお茶を濁すだけで逃げた。まだ出さなきゃいけない答えはたくさんあるようだ。

 いつものようにおやっさんに代金を払って店を出る。七時なのに親は店開くし子は遊びに行くし、本当に変な家族だ。だから俺とかアリスみたいなのが惹かれるんだろうけど。それよりもこれから宴会までの時間をどうやって過ごすか。他のどんな重たい問題よりも今はそれが一番の悩みだった。

 

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