不死人と蓬莱人【完結】   作:溶けた氷砂糖

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祝して粛々と

「それでは異変の収束を祝して、かんぱーい!」

 腰に手を当てて杯を持つ霊夢に合わせて、各々が自分の持っていた酒を掲げる。幻想郷の住民達は相も変わらず宴会好きで、今回そんなに関わってないらしい白玉楼の面々や守矢神社の神様までやってきてどんちゃん騒ぎやっている。俺も紅魔館から頂いたワインを傾けて心地よい気分で楽しむことにしていた。本来異変解決するはずの霊夢は今回早々にリタイアしてしまったらしいが、本人は「私が負けたのなら私の出番じゃなかったのよ」と気にしてないのか負け惜しみなのか曖昧な返しで他の奴らの煽りを受け流している。俺から見た限りでは本当に気にしてなさそうだ。気にしてたら全員一発入ってる。

 さて、妹紅と一緒にゆったりと嗜もうと画策していたのどが、今回の立役者たる妹紅はいろんな奴らに引っ張られ、逆に力の無い俺はその波に呑まれて端へ端へと追いやられてしまった。ぎゅうぎゅう詰めで俺みたいな普通の人間じゃ入ろうとするだけで死にそうだ。誰も俺の事は考えてくれないらしい、ってほとんどの奴らにはまだ話してないから当たり前か。もちろんいい気持ちはしないが、妹紅とならまた後でも呑めるだろうと切り替えて、同じように波に突き飛ばされたか、或いは元から入る気の無い相手でも居ないだろうかとぼうっとしながら眺めていると、見つけたのは余り一緒にいる風景を見ないお二人さん。なかなか楽しそうにしているのは種族が同じ魔法使いだからだろうか。それだと宴のど真ん中に居る魔理沙はどうなるんだと考えたら、そもそもアイツは人間だからちょいと違うか。七色と七曜で仲睦まじいので、八として俺もお邪魔してみよう。

「よう、お前らは中心行かなくていいのか?」

「分かってるでしょうに聞かないでちょうだい」

「私達はああいう雰囲気苦手だから」

「まあ確かにそう見えるわな」

 どうやら二人で魔法談義をしていたらしく、文字通り邪魔してしまったらしい。パチュリーはちょっとむすっとした顔で、アリスは対応に困った顔で出迎えてくれた。魔法についてはいまいちよく分からないものの、興味が無いかと言えば嘘になる。

「魔法ってのも便利そうだよな」

「あら、魔法に興味があるの?」

 まるで心底驚いたと言わんばかりに大仰な様子のパチュリー。わざとらしさが過ぎるのだが、紅魔館に居た頃からこういう小馬鹿にしたような態度には慣れている。どうも人間だからというより俺個人として嫌われているらしい。何かしでかしただろうかと頭を捻ったが答えが出ないので諦めることにしていた。

 よってパチュリーがそんな反応をするのは予想通りとも言えたが、意外だったのはアリスも同じような態度を取ったことだった。こちらは本当に驚いたようで、若干ながら目を見開かせている。

「魔法とかには興味が無いものだと思ってたわ」

「研究とかはよく分からないけどな。ほら、前にアリスが宴会の準備を人形を使ってやっていただろ? ああいうことが出来るのは便利だと思ったんだよ」

 あと人里で見せてもらった人形劇の印象も強く残っている。自分の思い通りに動かせるならさぞ気持ち良いだろう。

「それならやってみればいいじゃない」

 そう言ったのはパチュリーだった。てっきり怒られると思っていたのに、案外軽い口調で言われてしまった。彼女は俺が思っているほど高尚な考えを魔法に対して持っていないのかもしれない。というか幾らなんでもやってみれば、ってのは投げやり過ぎるだろう。魔法って才能とか必要なものじゃないのか。まあでも魔法を習ってみたいという気持ちはある。せっかくの宴だし、やってみるだけやってみるのもいいだろう。

 ちらりと妹紅の方を見るとまだまだもみくちゃにされているようだった。いつもああなのかとアリスに聞いたら別にそんなことはないとのお返事。どれだけ霊夢以外の異変解決者が珍しいものであるかがよく分かる。とにかくあっちはまだ続きそうだし、師事してみるのも乙なものだろう。

「それなら教えてくれるのか?」

「私は嫌だけど」

「なんだよそれ」

 あやとりとかするんだからアリスに教えてもらえばいいのよ、なんてやっぱり投げやりだ。アリスは話を振られてしばらく考え込んだ後、やってみるかと俺に聞いてきた。こっちはちゃんと教えてくれるらしい。

「魔法使いにはなりたいの?」

「いや、人間として出来ることを増やしておきたいだけだ」

「じゃあ糸の魔法だけ少し教えてあげるわ。貴方には少し借りが有るからね」

「借り、ってそんなものあったか?」

「気にしないでいいわ」

 何の話だか少し気になるところはあるが、教えてくれるというのなら願ったり叶ったりだ。少しでもいろんなことを覚えて、妹紅の役に立てるようになりたい。あいつにはなんだかんだで迷惑ばかりかけているからな。

 宴はまだ始まったばかりだった。

 

 

 まったく、あいつらは加減ってものを知らないのか。今日は八房とゆっくり飲もうって話をしていたのに取り囲まれて引き剥がされて何度も異変の話を聞かされた。同じように捕まって引きずられてきた菫子は早くもお酒に酔っ払って外の世界での武勇伝なんかを自信たっぷりに喋っている。まだまだ元気に飲んでいる辺りすぐ潰れるようなやわな臓腑じゃなかったようだ。私の方は語る話も無いし早々にここから離れたいのに。萃香なんかは茨華仙と張り合った話を聞いて私とも喧嘩しようなんて言い出してくるのだ。それは流石に断ったものの、やれ弾幕ごっこだの、やれ飲み比べだのかれこれ二、三時間は拘束されている。

「なあなあ、外の世界ってどんな感じなんだ!?」

「そんなの私より菫子や八房に聞きなよ。私に聞かれたってそんなに答えられないって」

 目を輝かせる魔理沙を手で押しのけながら、どうにかおしくら饅頭になっているこの集団から抜け出そうと試みるも失敗。全部焼き払ってやろうかとも思ったがそうしたら手加減無しの紅白巫女に退治されてお終いだろう。私だってせっかくの宴会を壊したくはない。

「あの二人からはもう聞いたんだよ。お前だって外の世界に行ったんだろ?」

「行ったけど、その二人とたいして変わらないわよ」

「そう言わずに、さぁ!」

「嫌だってば」

 ああもう面倒くさい。どうにかして飛んで逃げようか、さっき以上に真剣に考え始めたあたりで、地面が消えた。

 紫のスキマだ、と気付いた時には完全に落下していて、他の奴らを置き去りにして私だけ他の場所に連れていかれる。放り出された場所は博麗神社から少し離れた草むら。妖怪だろうとめったに寄り付かない場所だ。こんなところに連れてくるってことは何か話したいことがあるってことなんだろう。それも他の奴には聞かれたくない話。

「むりやり引っ張ってきてごめんなさいね」

「アンタが謝るなんて気色悪いな」

「あら酷い。私、礼節は弁えるようにしていますのに」

 いつも通り、いやいつもの何倍も胡散臭い喋り方。なんだか紫らしくない。

「何の用なの?」

「ちょっと貴女と真面目な話がしたいのですわ」

「真面目な話?」

「若丘八房について、ですわ」

 八房、その言葉を使われたら私が帰ることが出来ない。それを分かっているのか、分かっているんだろうな。でも、それを出しにした、というわけでも無さそうだ。

「彼の正体について私の方からも一応調べたのよ」

「そしたら分かったの?」

「ええ、まあ」

「何よ、煮えきらないわね」

 普段なら、ここで「ええとっても面白い答えでしたわ」くらいのことは言いそうなのに。それだけ茶化すことのできない話ってことのようだ。私はそこらへんの大きな石に腰掛ける。立ったままより座っていた方が話しやすい。紫も自分が作ったスキマに腰を下ろした。

「結論から言わせてもらうと、私から彼の正体について何も語らない。貴女にも彼自身にも」

「どうしてよ」

「私がそうするべきだと思ったから。ではいけない?」

 こいつがそんなこと言うなんて、八房にはどんな秘密が隠されているのか。いまさらになって少しだけ怖くなった。教えてくれないってことは知らない方がいいってことだ。少なくともここに八房を連れてこない時点であいつ自身には絶対に教えられない答え。

「だけど、答えを知っている相手を教えることは出来る。妹紅、貴女にだけ教えるわ。その意味が分かるわね?」

「・・・・・・あいつに教えるべきかどうか私が決めろってか」

「そうよ。正直なところ、私でも教える方がいいのか分からないの。もしかしたら思い違いかもしれないし」

「思い違い?」

「それは、私の方の問題ですわ。彼の正体には関係無い」

「随分変な言い方ね」

「貴女なら本当は気付いているのではなくて?」

 その声は鋭かった。私がわかるんだから貴女に分からないとは思えない。紫はそう言っているようにも聞こえた。実際のところ、思い当たる節がない訳では無い。まったくの想像だけれど、もし考えてることが全て正しければ、八房に教えるのはやめた方がいいかもしれないと私でも思えるからだ。でも八房はきっと知りたがる。私は、それを応援したいとも思っていた。

「教えて」

 だから聞く。そしてきっと八房に話す。後悔するかもしれないけどそうしなきゃいけない気がするから。ただ、いつ教えられるかは分からないけど。

「・・・・・・地底のさとり妖怪を訪ねなさい。書簡くらいなら送っておいてあげるわ」

「さとり? どうして地霊殿の主が出てくるのよ」

「行けば分かりますわ」

 紫はそれ以上は何も語るつもりはないようだった。だけどここから逃げる様子もない。分からない、何度考えてもこいつらしくない。そう、八房一人にここまで固執しているのがおかしいのだ。わざわざ本人に気を使うほどに、自分勝手な妖怪らしくないくらいに。

「どうしてそんなに八房が気になるのよ」

 紫はしばらく黙ってうつむいていたが、急に私の目をじっと見据えた。紫が驚いている以外で目を見開いているのを初めて見た。

「似ていると思わない?」

「え?」

 誰に、と聞こうとしたけれど、その前に頭の中にある顔が浮かんだ。ああなるほど確かに、こいつが気にかけるのがそういうわけなら何となく納得できる。でも────

「似てないよ」

 私は断言した。紫は思ったより驚いていないようだった。本人も本当は分かっていたのかもしれない。彼女は何も言わずにスキマを使って消えた。突然には見えなかった。言葉にしない中で会話が出来ていたと思ったから。

 とにかく神社に戻ろうと草むらから参拝道に戻ると、さっきまで静かだった耳に急に喧騒が入り込んでくる。まだまだ宴は終わらないのだろう。こっそり戻って八房を驚かせてやろう。私は石段を一段飛ばしで登る。飛んだらバレてしまう。弾幕ごっこをしているようで頭上がチカチカと光るのを感じながら赤鳥居をくぐり抜けると、神社の上で弾幕ごっこをしているのは菫子と霊夢だと分かった。道理で片方がまだ拙いわけだ。やったことないのに霊夢の弾幕を避けていることだけ凄いことだろう。

「お、どこ行ってたんだ?」

「あっ、八房」

 一人でワイングラスを傾けている八房に声をかけられてそっちの方に向かう。幸い他は弾幕ごっこに夢中で気が付いていないようだ。

「一人で飲んでたの?」

「いや、最初はアリスとパチュリーと一緒に居たんだが、魔理沙に連れていかれてな。お前探したけど居なかったし」

 ほら、アリスから魔法を教えてもらったんだぜ。八房はそういってグラスを持っていない方の手を振る。そうしたら糸がたらりと掌から垂れてきた。アリスの糸魔法同じようなものだろう。あの短時間で習得したのだろうか。

「教えてもらって、出すのは簡単なんだ。まだ全然動かせないけどな」

「八房は魔法使いになるの?」

 言ってしまってからしまったと思った。聞くつもりなんて無かったのに。八房はきょとんとした顔をした。何を言ってるのか分からないって顔だ。

「ならないけど。なんでそんなこと聞くんだ?」

「そうなんだ。いや、何でもないよ」

「なんだよそれ」

 それ以上何か聞くことは出来なかった。私も気付いてやってきた咲夜からワインをもらって、八房と一緒に木に背中を預けて弾幕ごっこを観戦する。やっぱり霊夢の勝利で終わったけれど、ぎりぎりまで逃げ続けた菫子にも賞賛の拍手が上がる。今度は魔理沙が菫子と対戦しようとして声を上げ、菫子の方も満更ではないようで再び空に上っていく。八房に話をするのには絶好のチャンスだったのに。私はとうとう紫から聞いた話を言うことが出来なかった。

 

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