閑話は出来次第投稿します。
旅は道連れ旧地獄まで
そういえば登るのは久しぶりだったなと博麗神社へと続く階段を歩いていると唐突にそう思った。そもそもあまり神社には行かないからな。普段は竹林の近くか人里、それから紅魔館辺りにばっか行っている。一つおかしい場所じゃないかと思わなくもないが、それは別に気にしないでもいいだろう。前回の宴会は飛んでいったし、ここを登ったのはあの夜以来のことだろう。気付けば半年くらい経っている。
「霊夢が引き受けてくれるとは思わないけどね」
「ダメで元々だからな。それに萃香が居ればそっちに頼んでみてもいいし」
妹紅の悲観的でなおかつ現実的な予想に楽観的な答えを返す。俺達がなんで滅多に足を運ばない博麗神社に来ているのかと言うと、地底に行くにつれて、誰か詳しい奴に案内をしてほしいからだ。紫がまだ起きてないだろうかと希望を掛けて呼び出してみたのだが、代わりにやってきた藍が紫がもう冬眠の季節に入ってしまったことを教えてくれた。そして妖怪の巣窟に二人だけで足を踏み入れるつもりには流石になれないので、誰か旅の道連れを探しているのである。地底に行ったことがあるのは霊夢、魔理沙と伊吹萃香くらいのものらしい。三分の二は妖怪じゃないが異変解決のためだったようなのでおかしいところは何も無い。
で、その中で先ずは博麗の巫女さんにお願いしに来たわけだ。理由は単純、一番暇そうだったから。というのは流石に冗談で、何処に居るのか目星が付けやすかったからだ。魔理沙は自宅を張ろうにも魔法の森はただの人間には辛いものがある。萃香は神社にいることが多いのだが、能力のせいもあって一番見つけにくい。そうすると、常に神社でお茶でも飲んでそうな霊夢がトップバッターになるのは自然の流れというやつだろう。歩いてるのはただの趣味だ。
「さあて、到着っと」
相変わらず無駄に長い石段を登り終えてどでかい赤鳥居をくぐり抜ける。本当は一礼してから入るのが礼儀のようだが、巫女が守ってないので大丈夫だろう。霊夢は竹箒で参拝道を掃いていたが、こちらに気付くなり「素敵なお賽銭箱はあっちよ」と持ち前の賽銭欲を見せてくれる。別に食うに困ってるわけでもないし本人もそう使うわけじやないのにどうして賽銭ばかりは欲しがるのか。賽銭さえ手に入れれば巫女の仕事が果たせると思っているのかもしれない。そうしたら霊夢は巫女失格だが。
それでも俺の方も頼みごとがあるので賽銭はあげておくべきだろう。物凄く打算的だが願掛けなんてどうせそんなもんだ。適当にばらりと賽銭箱に投げ入れてやると高速移動で確認しに行くがめつい巫女。これで笑顔でも見せてくれれば年頃の女の子らしくて愛嬌があるのだが(賽銭の時点でおかしい気もするが)振り向いた霊夢は怪訝そうな顔だ。
「何か、企んでない?」
流石、博麗の巫女といったところか。霊夢の勘が良いだけかもしれないが、どっちにしろ打算的な感情は見破られてしまったらしい。別にそれで困るって話でもないから構わないけど。俺は肩をすくめてそれに返す。
「ちょっと頼みたいことがあってな」
「何? 賽銭入れてくれたし話くらいなら聞いてあげるけど」
やはり賽銭効果は凄まじいな。これだけで相談料にはなるのか。でも全て直感でどうにかしてしまう巫女に相談って無意味な気がする。と、それは置いといて、話を聞いてくれるというのだから素直に話してみよう。
「ちょっと、地底に行く用事があってな」
「用事? 何をどうやったら地底に用事ができるのよ。あんたの事だからどうせ紫絡みでしょうけど」
「間違ってなくもないがそんなに関係無いな」
「どっちでもいいわそんなの」
聞かれたから答えたのに、酷い扱いだ。と言っても霊夢にとってはどうでもいいことなのだろう。実際どっちでもいいしな。紫が絡んでいたところで話の胡散臭さが増すだけだ。あれ、結構致命的だ。
「地底に行ったことがあるっていうから、案内を頼みたいのよ」
「嫌よ面倒くさい」
即答だった。取り付く島も無いとはこの事か。
「そう言わずになんとか頼めないか」
「嫌だって言ってるじゃない。そもそも私だって地底のこと良く知らないわよ。異変の時に地霊殿とかいう屋敷まで飛んでっただけだし。萃香に頼めば? あいつ今は中で飲んだくれてるわよ」
「ああ、萃香が来てるのか」
それはそれで好都合だ。ここは一旦引いて萃香に頼んでみるべきだろう。二回目の交渉の時も萃香に断られたからと言い訳がつく。ちなみにどうしても駄目だったら紫が目覚める春まで待つ。心が逸っているだけで、急ぎではないのだ。
霊夢に許可を得て、萃香が飲んでいるという部屋まで向かう。まだ離れているというのに酒の匂いが漂ってくるところからすると能力は使ってないようだ。つまり、まだ居るってことだな。
「萃香ー、邪魔するぞー」
「邪魔するなら帰ってー」
「はいよー、ってそんな古典的なギャグやりにきた訳じゃないっての」
妹紅に変な目で見られたじゃないか。こういうお約束ってついノッてしまう時あるよな。別に関西生まれでもないけど。ってか萃香はなんでこんなネタ知ってるんだか。紫か、紫なのか。
「あっはは。珍しいね、私に何か用かい?」
愉快そうな萃香の声で、紫が大阪のオバチャンみたいな喋り方しているのを想像していた俺は我に返った。萃香の方は何だかんだで俺達が頼みごとをしに来たことに気付いているようだ。もしかしたら霧になってこっそり聞き耳立てていたのかもしれない。
「地底の案内を頼みたいんだよ。野暮用があって地霊殿ってとこに行きたいんだ」
「地霊殿? そりゃまた珍しい所に行きたがるものだね。さとりに会った所で何かあるとも思えないけど」
「そのさとり妖怪に聞きたいことがあるんだよ」
「へえ、詳しい話を聞かせてもらっても?」
一瞬言葉に詰まる。別段隠す必要も無いが、話すのもなんとなく憚られる。私事以外の何者でもないからな。でも、頼み事をする以上黙りってのも悪いな。
「それはちょっと言えないんだけど・・・・・・」
「いや、妹紅」
俺が話したくないのだと感じ取ってくれた妹紅がはぐらかそうとするのを止める。その気配りは本当に嬉しいけど、今は言わなきゃいけない時だろう。そう腹を決めて口を開く。
「俺の体質に関して、さとり妖怪が何か知ってるらしいんだ」
「ふうん、教えたのは紫かな?」
「御名答」
俺が聞いたのは妹紅からだけどな。紫はどこから仕入れてきたのか。それは知らない。あれの情報網なんて俺に到底理解出来るとも思わないし、本人が俺に言わないってのは俺に知らせたくないってことなんだろうよ。皆俺のことを気にかけてくれていて涙が出る。それを全部無視してしまってるのが俺だが。
「成程ねえ。でも危険を冒してまで知りたいことなのかい?」
「喧嘩しなくても生きていけるけど、目の前に強そうな相手が居たら喧嘩ふっかけるだろ」
「それもそうだ」
鬼にとってなら非常に分かりやすいだろう例えを持ち出してみれば、予想通り理解してもらえたようだ。これで分かるとか本当に鬼って種族は恐ろしいな。
「ま、暇だし付き合ってあげてもいいけどね。地底の連中とも久々に呑みたいし。でも、ただ働きってのは頂けないねえ」
萃香の言葉にそれもそうだと気付く。霊夢だったら賽銭で靡かせようと思っていたが、鬼が相手だと何が喜ばれるだろうか。安直に考えるなら酒だろうが、鬼が満足するような酒なんて俺は知らない。そこらの安酒では対価にならないだろうしな。だからといって高い酒は手が届かないし、外の酒は持ち込んでいない。
「どうすりゃいいんだ?」
「特に思いつかなかったんだね。困った時は素直に聞く、そうやって誠意ある対応するの嫌いじゃないよ」
萃香はまたぐびぐびと酒を呷りながら大きく息を吐く。酒気を散らしているのか酒臭いとは感じない。本人も素面ではないにしろ、悪酔いしている様子は見られないし、それ程の無理難題では無いだろう。
「っても私もあんたにしてもらいたいことって別に無いんだよね。喧嘩が強いわけでもないし」
「じゃあ残念ながらってことか?」
「うんにゃ。別にあんたにしてもらいことは無いけど、頼みごとしてるのはあんただけじゃないだろう」
そう言って萃香は妹紅を見る。そういえば、萃香はやけに妹紅に興味を持っていたな。以前の宴会の時に遠目からでもはっきり分かるくらいご執心だった。異変の解決者だからだろうか。
「私は藤原妹紅と決闘を所望するよ。それが地底を案内する条件だ」
妹紅が困った方にこっちを見てきた。どうすればいい、なんて表情だ。これは困ったな。俺は出来る限りのことをやるつもりでいたが、付き合ってくれてる妹紅にまで迷惑をかけるのは嫌だな。
「嫌なら断っていい。俺のわがままに付き合う必要なんか無いからな」
どうすればいい、って悩むのは嫌だからだ。だったらそれを無理強いするつもりは無い、というか出来ない。妹紅はしばらく考えるように瞑目した後、一つ頷いて口を開いた。
「分かった。その決闘、受けるよ。でもやるのは案内が終わってからね」
「私はそれで構わないよ」
良いのか、なんて言い掛けた口は萃香の満足そうな声に押し止められた。俺が口を挟もうとこの二人の間で成立してしまったらしい。それなら俺がとやかく言うのはお門違いだろう。
「それじゃあ詳しい予定が決まったら教えとくれ。しばらくは
「・・・・・・ああ、分かった」
どことなく納得がいかないものの、素直に頷いて俺と妹紅は博麗神社を後にした。
*
「良かったのか?」
帰り道、俺と妹紅の他に誰も居ないことを確認してから妹紅に話し掛ける。まだ日は暮れていないが、今日はもう家に帰ろうと二人で決めて、参拝道を歩いている最中だ。博麗神社だし他の誰かが歩いているとも思えないが、念のためなのか声が小さくなってしまった。
「何が?」
「萃香との決闘を受けたこと」
好きでオーケーした訳じゃないことは分かっている。妹紅は輝夜という例外を除けば基本的に争いは好まないから、決闘なんて言われても嬉々として受けることはない。俺のせいで嫌々選んだならそれはとてもじゃないが案内人が決まったと喜べない。そういう意味で言ったのだが、何故か変な顔をされた。
「八房、私に喧嘩売ってるの?」
「なんでだよ」
「そうじゃないなら、馬鹿じゃないの。いや馬鹿にお人好しなのは知ってるけど」
「おい待て、結構酷いこと言ってるぞそれ」
俺そんな怒られるような事言ったっけか。自分としてはそんなつもりは欠片も無いのだが。むしろ妹紅のことを心配していたと言うのに。
そんな俺に対して妹紅はがっくりと肩を落として非難する。態度で示されても分からないものは分からない。紫とかみたいに頭の回転が早いわけでもジョークへの理解が深いわけでもないんだ。
「あのね、最初にさ。一緒に行くって言ったでしょ。だから私だって地底に行くのが目的だし、八房にむりやり引き連れられてるわけでもないんだから」
「そりゃ、そうなのかもしれないが」
「それに、こんな時に助けるために私が居るんでしょ」
ハッとした顔になる俺を尻目にしてやったり、みたいな感じの妹紅の顔は俺より幼いようで。でも頭の上がらない年上のようにも見えて。どっちにしたって深く感謝したくなるような恋人の笑顔だった。
「本当、お前と一緒に居られて良かったと思うよ」
「また真顔で恥ずかしいこと言うなあ」
そんな言葉を漏らすと妹紅が唇を尖らせる。確かにちょっと気取った台詞だったかもしれない。
「俺はもう告白ん時に吹っ切れたからな」
まあ当然嘘で、言ってから悶えそうになってるんだけど。歯の浮くような台詞ってのはふと口をついて出てくるくせにその後に大ダメージを与えてくるから厄介なものだ。
「確かにあれより恥ずかしい事もないだろうけどさ」
「さて、地底に行くまでにちゃんと準備しなきゃな」
「あ、露骨に話逸らした」
あれは今でも黒歴史なんだよ、放っといてくれ。妹紅も思い出したのか顔が赤くなってるしこれ以上は危険だ。地底の話題にすげ替えると、妹紅もなんだかんだすぐに乗ってきた。地霊殿には動物が沢山いるらしいとか、地底のアイドルとやらが居るらしいとか、妹紅は子供のように目を輝かせて話をしてくれる。そんな他愛も無い話をしていると、時間はあっという間に過ぎていってしまうもので、気が付けば家の目の前までたどり着いていた。ここもまたしばらく空けるのかと思うとやや感慨深いものがある。けして住み心地のいい家じゃないけどな。
地底はどんな場所なのだろうか。話していて思ったよりも興味を持っている自分もなかなか子供っぽいのだなと気付いて思わず笑ってしまった。そんな一日だった。
おに の すいかが なかまに くわわった!
というわけで萃香さんも地底旅行にいらっしゃい。
最初は二人旅の予定だったのですがたどり着ける気がしなかったので案内役として序盤から出ておきながら影の薄い萃香さんを追加しました。