少年がホムンクルスとして生まれ変わる前、つまり前世においても髪の毛の色は白く瞳の色は赤みがかっていた。
瞳に関しては正確に言うと赤茶色だったので今とは違う色なのだが。
いわゆるアルビノと呼ばれる遺伝子疾患だったのだろう。
そんな見た目が、迷信深い田舎では特別視され持て囃され、そして終いには……
そんな白い髪か嫌だったかと言うと、イエスでもありノーでもあった。
故に生まれ変わってもそんな髪色が引き継がれた事に本人としては複雑な気分にもなった。
引き継がれたのは髪の色や魂と記憶等々、色々とあるが一つ引き継がれなかったモノがあるとしたら、それは名前だ。
髪の色が同じでも名前だけは違う。
ライルスフィールという名が与えられているが、別に前世の名を名乗ろうと思えば名乗る事は出来る。
しかし、敢えてそうしないのは大した事ではないが理由がある。
今、この世界に生きている自分と前世の自分をちゃんと切り分けたかったからだ。
あの頃の自分は文字通り、もう死んだ。
無理矢理与えられたとは言え、今の自分は力がある。
前世の名を名乗ると、力のない弱い自分に戻ってしまうのではないだろうか? とか、そんな事さえ考えてしまう自分がいる。
だから、少なくてもこの戦いが全て終わるまでは名乗るまいと思っていた。
しかし、現実はそんな誓いをいとも容易く破らせてくる。
むしろ、そんな誓いを立てた所為で、魂の奥にまで己が名前を刻みつけてしまったから、こういう目にあったのか。
まあ実際は、よくよく考えてみると、そんな大した出来事でもないのだけれど。
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「なるほど遠坂凛からマカライトを貰いそれを使ってラニ=Ⅷにそのヴォーパルの剣を作って貰ったと……」
そのラニ何某からレシピさえ貰っていればライルならばマカライトなどなくても錬金する事は出来た。
まぁ使用回数は一度限りで壊れてしまう物にはなるだろうが、ジャバウォック一体を狩るのにはそれでも十分だっただろう。
「ちょっと剣を見せて貰ってもいいかな?」
岸波さんから剣を少し借りる。
「なるほど、こんな感じか」
一通り眺め終わるとライルは剣を素直に返し……
「じゃこれ一応予備として使うと良いよ」
そして、ライル自身もヴォーパルの剣を錬金術で即席で作りあげ、それを岸波白野に渡す。
困惑気味に岸波さんはそれを受け取ると、困ったような顔で感謝の言葉を告げてきた。
事実、予備など特に必要ないのだ。
ライルの作ったそれも性能としては使い捨てである事以外全く同じ物ではあるが、模倣品に過ぎない。
そもそも剣の模倣であるならば、彼女のサーヴァントはそれのプロフェッショナルだ。
仮に予備が必要だったとして、岸波さんは自力で用意する事が出来ただろう。
ライルとて、それは分かっていた。
しかしながら、あのいけ好かない錬金術師に出来て自分には出来ないと思われるのが嫌だったのだ。
つまり単なる負けず嫌いである。
「あ!お姉ちゃんみつけた〜」
とそこで白と黒の少女達が目の前に現れた。
「見て見てありすウサギさんも一緒に居るわ」
少女が岸波さんに向かって親しげに話し掛けただけであれば微笑ましい光景だったのだが。
興味の矛先が自分にも向いた事でライルは嫌な予感がした。
「本当だねアリスじゃあみんなで一緒に遊びましょ!」
「そうねありす、それが良いわ!」
「ねっお姉ちゃん達、秘密の抜け穴をみつけたの」
「ここから遊び場に出入りできるの!」
そう言って少女達は廊下の壁に手を当てる。
岸波さんはそこが何なのか知っている様子で焦っていた。
「まっ待て! 俺関係なくないか!」
「ううん。ウサギさんも、アリスたちと一緒に遊びましょう!」
そう言い終えるとその場にいる全員が壁の中に引きずり込まれる。
「いてて……」
「ふむ、どうやらマスターも君も相当あの子どもに気に入られてるようだな」
岸波さんのサーヴァントであるアーチャーの声が聞こえ、周りを見てみると、そこはアリーナの中だった。
しかも自分の攻略していた所とはまた違った構造になっている。
「俺はまともに喋った事も無い筈なんだけどなぁ」
「お姉ちゃんは、この子と遊んで!」
「ウサギさんはこっちで遊びましょう!」
ズドンと大きな地鳴りが聞こえ怪物が現れる。
おそらく、アレがジャバウォックなのだろう。
そしてライルが案内されたのは茶と菓子が並ぶテーブルだった。
どうやら自分はアレと戦わないで済むみたいだ。
対戦相手じゃない人に戦闘をけしかけるなどという事はしないらしい。
茶と菓子を嗜むだけで済むのならまぁ別に良いかとライルは促されたままに椅子に座る。
座ってしまう。
「ねぇねぇウサギさん。あなたはちゃんと覚えているかしら?」
「え?」
「ウサギさん、あなたのお名前はなあに?」
そういえば少女達に名前を名乗っていなかった事を思い出す。
「あぁ、俺はね……俺は……」
ふと自分の名前が何だったのか思い出そうとする。
いや、そもそも何故、名前ごときで思い出すなんて必要が……
「ご、ご主人様お身体が!」
声を聞いて自分の手を見てみると、半透明になり透けていた。
流石に今まで黙って見ていたキャスターも実体化した。
(なるほど、だから岸波さんは自分の手に名前を書いていたのか)
反対側の手にフランシスコ・ザビエルと書かれていたので、流石に危機感が薄いのではとも思った。
同時に今度ザビエルさんと呼んでやろうとも思った。
しかし、これは厄介な攻撃だ。
物理的に害を与えてくる訳ではないので、『是、十二の試練』でも防ぐ事が出来ていない。
新たな弱点をたった今知れた事は僥倖だろう。
あくまで少年は落ち着いていて状況把握をしていた。
何故、半透明になっているのに焦らないかと言うと名前をすぐに思い出せたからだ。
「じゃあ自己紹介しようか」
「あれ? ウサギさんにはあまり効いていないみたいよアリス」
「本当ねありす、でもお名前知らないから聞いちゃいましょう!」
「俺はライ……ヤ」
「ご主人様、その名は!?」
アレ?
と、違和感を感じながらも少年は続きを答える。
「逆月雷也、よろし……っぐ」
「ご主人様!」
名乗った瞬間、身体中に違和感を感じ……頭の中を叩くような痛みと眩暈に、その場に膝をつく。
「あぁ! ありす、ジャバウォック(あの子)が!」
「まぁ! 大変よアリス!」
そんな声が最後に聞こえて白髪の少年は気を失った。
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「ご主人様!」
「キャスター……」
目が覚めたその場所は見覚えのある部屋だった。
「保健室か、一体俺は……」
「ご主人様、ご自身のお名前を言えますか?」
「名前……そうか」
気を失う前の事を思い出す。
「大丈夫だキャスター、俺はライルスフィール・フォン・アインツベルン、キミのマスターだ」
名乗った瞬間、身体が軽くなった気がした。
しかし、どこか違和感が拭えない。
「ご主人様こちらを……」
「あ、ありがとう」
キャスターから手渡されたのは宝具である鏡だった。
すごい大切な物だろうが、他人に貸しても大丈夫なのだろうか?
まぁ普段から敵に叩きつけたりと扱いは雑だから、そんな気にする事でもないのだろう。
「これは……」
鏡に映った自分の顔は何処か違和感があった。
髪の色も顔の形も今まで通りなのだが……
「目の色が……」
正確には瞳の色、ホムンクルスとして生まれた時に授かった赤い瞳から、前世と同じ赤茶色に変わっていたのだ。
「おそらく、あの童たちの仕業かと」
「一ついいかね」
とそこで保健室の入り口に立っていた人物がいた事に気付く。
岸波さんとアーチャーだ。
「私の認識ではキミはアインツベルンのホムンクルスなのだが、逆月と名乗ったように聞こえたが」
「気の所為じゃないかな?」
「生憎と弓兵は眼だけではなく耳も良くなくては務まらない役割でね、人よりは耳がいい」
「気の所為でございます。文字通り私も人よりは耳が良いので」
キャスターは己の耳を指差してそう言った。
別に知られると不味いと言う訳ではないが、あまり人に話そうと思う話ではない。
その気持ちを汲んでくれたのか、キャスターはフォローしてくれた。
「そうか、逆月と言う名は聞き逃せないモノがあるのだが……」
と、そこで岸波さんからもアーチャーにストップがかかった。
「ふむ、そうだなすまない。マスター君の言う通りだ。謝罪しようアインツベルンのマスターよ」
「まぁ分かってくれたなら構わないよ」
そうして、岸波さんは巻き込んでしまった事に謝罪を入れて保健室を先に出ようとする。
「あれは君の所為ではなく君の対戦相手の所為だから気にしてないよ、ザビエルさん……いやザビ子さん」
そう言った途端に岸波さんは保健室の入り口に躓いた。
そしてパンツが見えた、僥倖だ。
今ので本当にチャラにしてあげよう。
ホムンクルスとは言えライルも男なので単純だった。
直ぐに思い返しキャスターに白い目で見られるのではと、キャスターの様子を見てみると、キャスターも岸波さんのパンツをガン見しながら何処と無く嬉しそうな顔をしていたので、何とも言えない気持ちになった。
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さて、岸波さんの対戦相手であるアリス?の攻撃の影響は瞳の色が変わるだけではなかった。
錬金術で武器を作る事が出来なくなっていたのだ。
『是、十二の試練』は消えていないようだったが、それでも攻撃手段が減ったのは痛手だ。
キャスターによると、身体が消えかけていた際に今の名では無く、別の名を名乗ってしまったので体の復元の際に、その名前に引っ張られて瞳の色が変色してしまったり一部の能力が変質してしまったらしい。
まぁ能力が変質というよりかは、失われたって状態なのだけど。
おそらく、アリスが敗北して消えれば元に戻るとの事だ。
何としても岸波さんには勝ってほしいものだ。
ライルが名乗った、名が何なのかキャスターは質問してくる気配はなかった。
と言うより、その名が何なのか理解しているのではないだろうか?
ライルがキャスターの過去を夢に見るように、キャスターもライルの過去を夢に見ているのでは?
ライルが前世でプレイしたゲームでもそんなシーンがあったのを覚えている。
そうなると、あまり見て欲しくないモノまで見られてしまっているのではないだろうか?
自分が見た記憶も多分キャスターにとっては、そういった記憶なのだろう。
(いや今はそんな事よりも)
錬金術で武器が作れないとなると取れる戦いの手段が少なくなってしまい作戦に困る。
元々決戦では、ライル自身が前に出てキャスターに後方支援をしてもらう予定でいたのだ。
狡いと思われるだろうが『是、十二の試練』があればアサシンの攻撃は令呪さえ使われなければ全て防げる。
アサシンの宝具はあくまで絶対に躱す事が出来ない剣技であって、絶対に防ぐ事のできない剣技ではない。
ならば、その攻撃すら全て弾いてしまえる。
そしてライル自身が武器を持ってアサシンと戦い足止めしキャスターが後ろから攻撃する。
それで完封てきると思ったのだが、武器が用意出来ないとなると話が変わる。
(今更、岸波さんに渡したヴォーパルの剣返してって言えないしな)
流石にあんな風にあげたものを返してって言うのは恥ずかしい。
しかし、そんなライルの悩みは杞憂で終わる。
それも最悪な形で
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次の日にアリーナを探索すると暗号鍵は簡単に見つかった。
時間帯が悪かったのか一成とは合う事もなく、アリーナ探索を終える。
夕食の時に学食で一成と話すとどうやら一成も暗号鍵を見つけたらしく、今の所アリーナに行く予定はないようだ。
かく言うライルも暗号鍵を手に入れる以外の目的はアリーナにないので、今回はアリーナに行く事はもうないだろう。
決戦までの残った時間は暇なのだが、暇つぶしで学校散策をしている時にまた岸波さんの対戦相手のあの子どもにちょっかいを出されても面倒だ。
そう思ってライルは、決戦までの時間を図書室からいくつかの本を借りてマイルームで読み過ごした。
読んだ本は主に一回戦で戦ったライダーにまつわる本。
そして二回戦で戦ったランサーについても、ノートゥングと言う宝具の名前から探して本を読んだ。
自分が見た記憶と書かれていた物語とでは違っている部分も多かったが、戦いが終わった今となってから対戦相手の真名を知ったのも奇妙な感じではあった。
その点で行くと今回は初めから対戦相手の真名を知っている状態なのだから二回戦とは真逆とも言える。
ついでに佐々木小次郎に関する本も読んだが、宮本武蔵が狡いヤツなんだなぁと言う印象を持っただけだった。
そもそもその物語に出てくる佐々木小次郎とアサシンは別人なのだから、あまり参考にはならないと割り切っていた。
そんなこんなで時間は過ぎていき決戦当日となる。
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「ついにこの日が来たなライルスフィール」
「そうだな一成」
決戦場の入り口ではなく、そこに向かう廊下で一成と出くわす。
今日この日、一成を倒し、命を奪う。
そして、それを糧にライルは最後まで勝ち上がり、七天の聖杯を手に入れる。
全ての戦いに勝利する。
そうマリーに誓ったのだ。
「思い返せば色々な事があったな」
「確かに」
「戦いが始まってから、或いは終わってからでは言えぬからなライルスフィール、先に言っておく」
「なんだよ改まって」
「俺はお前に感謝している」
「いきなり小っ恥ずかしい事言うな会長殿」
「小っ恥ずかしいか……確かに、だが事実だ」
歩みは止めず、お互い廊下を歩きながら話を続ける。
「与えられた役割を繰り返し行うだけだった俺が何の不具合か知らんが、マスターとしてこの場に立っている」
「正確には立っているっていうか歩いてるだけどな」
不具合だの何だのの表現はよく分からないが、戦う前から感謝だの何だのの話をされライルは照れ隠しに茶化し始める。
一成はそれを無視して続ける。
新手の精神攻撃だろうか。
「少なくてもセラフの言いなりだった俺……む!?」
しかし話は最後まで続かなかった。
「何だこれは?」
「不味いこの場所は!」
そこは数日前に、あの子どもの手によって強制的にアリーナへと引きずり込まれた場所だった。
だが今回引き摺り込まれたのはライルと一成の二人だけで、近くにアリスの姿はない。
状況確認の為に辺りを見回そうとした瞬間。
何かがライルの『是、十二の試練』の壁にヒビを入れた。
「キャスター霊体化したままでいろ!」
見えない何かがいる。
しかもかなりの攻撃力を有している何かだ。
「呵呵! 厄介な壁だ」
「アサシンお前の攻撃でも通さぬのならホムンクルスは無視しろ、状況から判断すると自分の身しか守れん」
その声は聞き覚えのない声だった。
「放課後の殺人鬼……アサシン警戒しろ!」
「承知した」
一成はそうアサシンに指示を出すが悪手だった。
「っぐぉ……」
見えない何かはアサシンを一瞬で地に伏せた。
「バカな!」
その様子をライルは黙って見過ごす訳にはいかなかった。
「降霊再現……ちっ! これもダメか!」
ライルは銃型の礼装を使い一成に当たらぬよう、一成の周りに乱射した。
「ここから出るぞ!」
そしてライルは一成の近くまで距離を詰めようとする。
「もう遅い」
その声が聞こえたのと同時に、ぐしゃりと音が聞こえた。
またそれと同時に一成の腕を掴みリターンクリスタルを使用する。
そして校舎の中に戻ってくる事には成功した。
ただし、戻って来れたのはライルと一成の……上半身のみ
「うぐ……」
そしてアサシンの魂が自分の中に回収されるような感覚がし、アサシンが敗退した事に気がつく。
「一成!」
「くっ……気にするなライルスフィール、人に忠告しておきながら自分の警戒を怠った俺の失態だ」
一成には既にサーヴァントがいない。
それはライルだけではなく、おそらく本人も気が付いているだろう。
そもそもアサシンが生きていたとしても一成自身の体が既に……
「なに、悲しむ必要はないさ、元々あり得なかった事だったんだ」
「何を言って……」
「ここで死んだとしても、また元のロールに戻されるだけ」
「だから何を」
一成に触れているが一切の記憶も流れてくることはなかった。
「本来のあるべき所に戻る……だ、け……」
少しずつ一成の体が消え始める。
「あぁ……だが」
もう首より下は完全に消えていた。
「決着はつけたかった……」
そして完全に消えた一成のいた所には一本の脇差……刀型の礼装が落ちていた。
「ご主人様……」
ライルは無言でそれを拾うと一人で決戦場へと向かった。
そして、数時間が経ち決戦場から戻ってきたライルの目は赤くなっていた。
岸波白野が勝利し術者であるアリスがいなくなった事によって赤茶色の瞳が元の赤色に戻ったのだろう。
だが、赤くなっていたのは瞳だけではなく、その周りも赤く、腫れていた。
二人の決勝戦は不戦勝で終わる。
3回戦はこれにて終了です。
今までの半分以下の内容ですね。
本当に書くことが思いつかなくて2年が経ったのでヤケクソ気味かもしれませんが、4回戦は最悪もっと短い可能性もあります
そしてネタバレすると4回戦でCCCへの分岐がありますが、取り敢えずは無印を進める予定なので