宇佐見菫子――!
本当、見れば見るほどに、蓮子に似ている。
全てが同じではないけれど、雰囲気、顔のパーツ、自信ありげな顔つきは、まさに――。
「ん? あなた達は……」
宇佐見菫子は私たちを見て、妙な顔をした。
「宇佐見菫子……何故お前がここに……!」
「いやぁ、あなたを見つけるのには苦労したわ。トンネル師よ、私の為にトンネルを掘ってくれないかしら?」
「誰が人間なんぞのトンネルなど……!」
「だろうね。貴女は井上過激教の信者だし。だからこそ!」
瞬間、女性が吹き飛び、壁に激突した。
「力づくで従わせる!」
「うぅぅ……!」
女性は壁に張り付いたまま、顔を強張らせた。
まるで、何か強い重力のようなものを受けているかのように。
私は何が起きているのかさっぱりで、ただその光景を見ているしかなかった。
「さぁ、私の為にトンネルを掘ると誓いなさい!」
「ぐ……うぅ……! 誰が……! お前なんぞに……!」
「往生際が悪いな……。なら……!」
宇佐見菫子は力を籠めるように、顔を強張らせた。
「――!」
壁にめり込むのではないかと言うほどに、女性の体は潰れてゆく。
しかし、それがだんだんと緩んできたのか、女性の顔は平生を取り戻して行き、やがて壁から地面へと体を落とした。
「あちゃー……ここでemptyか……。これは……やばいかも……」
「くっ……おのれ宇佐見菫子……!」
「やば……。そこの二人! 逃げるわよ!」
そう言うと、宇佐見菫子は自分が空けた穴へと入っていった。
「メリー!」
蓮子も私の手を引っ張り、穴へと走った。
「待ちなさい!」
後ろで女性の声がして、私が振り向こうとした時、目の前が真っ白になった。
それと同時に、体を叩く轟音がした。
北綾瀬駅。
真っ白な景色に目が慣れて、初めて見た文字がそれだった。
「ここは……」
「メリー、大丈夫? どうやら助かったようだよ」
「そのようね」
夕日が駅を照らしている。
私たちの知っている北綾瀬駅ではない。
ここはまだ平成時代のようだ。
まあ、そうよね……。
「ねぇ」
蓮子の方を見る。
だが、声を発したのは蓮子ではないようで、蓮子は声の先を見ていた。
「あなた達、人間でしょ? 私以外に真怪郷に行ける人間がいるなんて、何者?」
「えーっと、何から説明したらいいんだろう……」
「とりあえず、貴女が宇佐見菫子……でいいのよね?」
「さっき言ったじゃない。っていうか、なんで私の名前知っていたの?」
「あー……説明しないといけない事がありすぎる……。とりあえず、これは言っておこうか」
蓮子が私を見る。
「え……やっぱりやるの……?」
平成へ来る前、あの列車の中で話した事。
宇佐見菫子に会ったら、こう言おうと。
「おほん……えー……私たちは……」
「遥か遠い未来から来ました……」
「「未来人です!」」
「……とりあえず、しょうぶ沼公園に行こう?」
しょうぶ沼公園は、枯れイド公園とはまるで違っていた。
銅像もないし、普通の広い公園って感じ。
「よいしょ」
枯れた噴水の縁に座る。
「それで? 未来人さんは何をしにこの平成へ来たの?」
半分呆れた声で、宇佐見菫子は私たちに尋ねた。
「信じてもらえないかもしれないけれど……経緯からちゃんと話すね」
蓮子は、私たちが幻想郷に迷い込んだことから、今に至るまでを細かく話した。
幻想郷という単語が出た辺りから、宇佐見菫子の表情も変わり、一字一句逃さないよう、真剣に耳を傾けていた。
「――という訳。つまり、簡単にいうと、菫子ちゃんを止めに来たのよ。これ以上、幻想郷に穴を空けられたら困るんだってさ」
「なるほどね。じゃあ、私も簡単にいうけれど、これを止める気はないわ。オカルトボールを7つ集めるまではね」
「ねぇ、どうしてオカルトボールとやらを集めるのよ? 願い事が叶うって、誰かに言われたのを信じているの?」
「あなた達、オカルトボールがどういうものか知らないの? 確かに、ある意味では願いを叶える力と言えるかもしれない。でも、ちょっと違う。オカルトボールには……世界を創造する力があるの」
「「世界を創造する力ぁ!?」」
「そ。貴女たちの言うように、オカルトボールには結界を破壊する力があると言っても間違ってはいないわ。でも、ちょっと違うのは、オカルトボールには運命を変える力があるという事なの」
「運命……」
「これは仮説だけれど、この世界には運命というものが存在していて、その一本のストーリーがビデオのように再生されているだけなんじゃないかと思うの」
「それは……またナンセンスな……」
蓮子が呆れた顔をした。
列車でも同じ説が出た。
それを蒸し返すように、菫子ちゃんは続けた。
「まあ聞いてよ。貴女たちが言う「矛盾」。それはつまり、世界の運命に逆らってしまったものでしょ? パラドックス。その存在は消されてしまう? なんてナンセンスな事だろう。でも、それが事実であるのならば、オカルトボールによってもたらされる矛盾は? 何故私は無事なのか? 確かに私は幻想郷を通じてタイムトラベルをしている。そして、オーパーツを生み出し、私自身の矛盾を解決している……っていうのが、あなた達の言う事。なら、最初はどうなる? オーパーツなんてものを生み出した時点で、世界の運命に逆らっていることになる。すなわち、矛盾。私が過去に存在出来たのは、私自身の身に着けていたものが、その時代にオーパーツとして存在していたから。そのための矛盾。矛盾を解決するために、生み出した矛盾」
つまり、菫子ちゃんが矛盾せず過去に居れたのは、菫子ちゃんの身に着けていたものが、その時代に合っていたから。
そして、その時代に合っているという証明物を生み出したのも菫子ちゃんで、それがオーパーツである……。
「――つまり、菫子ちゃんはこう言いたいわけでしょ?」
蓮子が怖い顔をしながら、静かに尋ねた。
「その矛盾を解決する矛盾を生み出すことが出来るのがオカルトボールであって、世界が運命によって進んでいるだけという事が正しいならば「ストーリーに鑑賞できる力がある」というのが正しい……」
「その通り」
「ありえない……!」
「未来でも、そんな事は分かっていないのね。まあ、そんなものでしょう。誰も、この世界の構造を理解できない。オカルトボールを持たない限りね」
蓮子は列車で見せたような、同じ顔をしていた。
怒っているようにも見える。
そりゃそうよね。
菫子ちゃんのいう事が正しいならば、人類が今までやってきたことは無駄だっただろうし、なんだか窮屈よね。
「これ」
菫子ちゃんは、何やら紫色の球体を取り出した。
「オカルトボールよ。実家の神社に奉納されていたの。私はこれに触れて、全てを理解したわ。あなた達にも、見せてあげる」
そう言うと、董子ちゃんは私たち二人の手を取って、自分の手と重ねると、オカルトボールに触れた。
瞬間――!
真っ暗な空間に、私は浮かんでいる。
自分の体ははっきりと確認できる。
「ここは……」
後ろを見てみると、そこには7つの紫色の玉が円を描いて浮いていた。
「オカルトボール……?」
やがて、オカルトボールは光を発し、円の中心に火の玉が現れた。
その火の玉が破裂すると、そこから一気に空間が広がり始めた。
私は理解した。
宇宙が形成されている。
ビックバン?
インフレーション?
とにかく、一瞬にして宇宙空間が出来上がり、7つのオカルトボールはそのまま宇宙空間を漂い始めた。
まるで早送りのように、宇宙の形成から、銀河の形成、太陽系の形成を見た。
そして、地球が出来た頃、7つのオカルトボールは生物の誕生を待つかのように、地球の周りを漂い始めた。
猿人が誕生する頃、オカルトボールは猿人の頭の上に漂い、脳を操作し始めた。
イドを刺激し、あらゆる手段を思考させ、他の生物から生き残る術を与えた。
武器を持つこと。
集団で生活すること。
すなわち、イドとエゴを与えたのだ。
そうして、ホモ・サピエンスが生まれる頃、オカルトボールは地球上のあらゆる場所へ散らばっていった。
役目を終えたかのように。
それでも、オカルトボールは砕けたりしない。
まるで、再び7つ集まる事を待つように。
「はっ!?」
目の前に菫子ちゃんの顔。
「大丈夫?」
「え、えぇ……」
「見えたでしょ?」
「……信じられないわ。こんなの……」
「貴女の相棒も同じみたいよ」
菫子ちゃんの指す方向を見ると、蓮子がベンチで首を垂れていた。
「蓮子……」
駆け寄ると、蓮子は悲しそうな顔をしていた。
「メリー……」
「大丈夫?」
「うん……ちょっと、ショック受けただけだから……」
そりゃそうだ。
あんなもの見せられたら……。
「まるで2001年宇宙の旅だよ……」
「貴女たちの言う事は信じるわ。私を止めに来た未来人さん。でも、分かったでしょう? オカルトボールにはそういう力があるの。私は、オカルトボールを7つ集める。だから、結界を破る事はやめないわ」
「ちょっと待って」
「何? それでも邪魔するというの?」
「そうじゃないわ。オカルトボールは、この時代でも探せるはずでしょう? 何故わざわざタイムトラベルをしているのよ?」
「そこがオカルトボールの面白いところなのよ。オカルトボールには、他のオカルトボールがどこにあるか分かるの。こんな感じで」
そう言うと、オカルトボールを掲げた。
すると、紫色の細いレーザー光線が、菫子ちゃんの体に当たった。
「このレーザーが示す場所に、オカルトボールがある。見てわかる通り、この時代にはないわ。だけれど、幻想郷に行くと、他に光を示すの。その場所へ行くと、他の時代への結界がある。つまり、その時代に存在するという事」
「じゃあ、オカルトボールはその時代にしか存在しないものというわけ?」
「そのようだね」
それも変な話だ。
しかし、もう何が正しいのか分からない。
「あのさ……」
蓮子が弱弱しく立ち上がり、オカルトボールを指した。
「今、その光が菫子ちゃんに当たっているのは何故?」
「分からない。でも、この光がオカルトボールを指すものであるならば、おそらく、私の中にオカルトボールが存在しているか……もしくは、私がオカルトボールなのか……ね」
そう言い終わると、菫子ちゃんは何か気が付いた顔をした。
「――そうか! ねぇ、さっきあなた達が説明してくれたことの中で、私は矛盾に触れて生まれ変わった存在だって言ってたじゃない? その時、オカルトボールと一緒だったのよね? なら、そのオカルトボールはどこに行ったのよ?」
「え? さぁ……」
「――あっ!」
蓮子と菫子ちゃんが顔を合わせる。
「分かった?」
「じゃあ……菫子ちゃんも早苗さんも、オカルトボールが姿を変えた存在ってわけ……?」
「そう言うことだと思う。オカルトボールにはドッペルゲンガーを創り出す力がある……と言うのは間違いで、正確には、オカルトボール自身がその姿になるという事だと思うわ」
「「…………」」
私たちは何が何だかわからずにいた。
全てを信じてもいいし、否定してもいい。
でも、否定する根拠が無くても、信じる根拠はいくつかあった。
今の私たちの中にある心。
それは、間違っていてほしいという事だろう。
「私自身がオカルトボールだったという訳か。なら、もう一人の……早苗さん……だっけ? 彼女もオカルトボールな訳だから、7つ集めるには、彼女にも会わなきゃね」
「あはは……もう……訳わかんないよ……」
蓮子が完全に折れたようだ。
「蓮子……」
「そういう訳だから、やめられないのよね。紫とやらに伝えといて」
もうどうにか出来る存在ではない。
菫子ちゃんは公園を出ようとしていた。
「待って!」
「なに?」
「世界を創造する力を手に入れて……貴女はどうしたいのよ?」
「…………」
菫子ちゃんの顔が一瞬、悲しそうなものになった。
「私は……」
その顔を私は知っている。
薄々感じていた。
宇佐見菫子。
宇佐見蓮子。
格好が似ていて、同じ名字で――そして、その表情。
過去と今。
平成時代と――時代。
貴女たち二人は――そして、その表情の意味は――。
「一人は……寂しいわよね」
「え……?」
「ねぇ、私たちも協力できないかしら? オカルトボール集め」
「メリー!? 何言ってるの!?」
「何言っているの……貴女……」
「結界を壊さなくたって、各時代に行くことが出来るわ。私たちがそうしてきたように。紫は結界を壊さなければそれでいいと考えている。なら、オカルトボールを集めるのは悪いことじゃないわ」
「だとして……なんであなた達まで……」
「その方が貴女にとって良いと思うし。私は貴女と友達になりたいと思っているから」
蓮子は茫然と見ていたが、私の言う意味が分かったようで、話に入っていった。
「そうだよ! 結界を壊していたら、きっと紫が何か仕掛けてきて、殺されちゃうかもしれないよ? だったら、私たちと安全に行こうよ!」
菫子ちゃんは複雑そうな顔をした。
「一人より二人。二人より三人よ。それに、紫に会うには私たちが必要なはずだし、説得するにも私たちが必要なはずよ」
「…………」
合理性とか以前に、菫子ちゃんは何かと戦っているようだった。
「……確かに、貴女たちの時代には……オカルトボールである人間もいるし……ね……」
自分を納得させようとしているように見えた。
「うん……。分かった……。その話に乗るわ」
「決まりね。私はマエリベリー・ハーン。メリーでいいわ」
「私は蓮子。宇佐見蓮子。同じ名字ね」
「……よろしく。……蓮子、メリー」
その表情は、まだ複雑なものではあったけれど、彼女にとっても私たちにとっても、大きく進んだ第一歩なのだろう。
空はもう藍色に染まっていた。
水銀灯が徐々に光を強めている。
「じゃあ、早速紫と連絡を取ってみるわ」
慣れない手つきでスマホを操作し、紫にダイヤルした。
古臭い呼び出し音が鳴る。
『もしもし?』
「紫?」
『えぇ、そうよ。でも、紫? って聞かない方がいいわ。その時代だと、オレオレ詐欺が流行ってるから』
「オレオレ詐欺?」
『あー……母さん助けて詐欺の事ですわ』
「何よそれ?」
『……まあいいわ。それで、どうしたのかしら?』
「宇佐見菫子と接触したわ。それで、相談なんだけれど……」
紫に一通り説明する。
『それは……あまりいい返事は出来ないわ』
「どうして? 結界を破壊しないし、いい方法じゃない?」
『そもそも、結界を破壊するしない以前に、幻想郷に来ることをやめてもらいたいのです。幻想郷は全てを受け入れてしまう。それはそれは残酷な話ですわ』
「つまり、そうでない限り受け入れることを承認できないという訳ね」
『えぇ。私の立場も分かってちょうだい』
「でも……」
「ちょっと貸して」
菫子ちゃんにスマホを渡す。
菫子ちゃんが慣れた手つきで画面をなぞると、紫の声が耳にあてなくても聞こえるほど大きくなった。
「貴女が紫とかいう奴?」
『あら、じゃあ貴女が菫子? ごきげんよう菫子』
「ごきげんよう紫。ねぇ、貴女が承認しないなら、私はもっと結界壊しちゃうよ!」
『仮にも幻想郷を統制する大妖怪である私に脅しをかけるなんて、中々の度胸をお持ちですわ』
これには私も蓮子も小さく笑ってしまった。
「文句あるならかかってきなさいよ。どうせ、蓮子とメリーを使わないといけない理由でもあんでしょう? 籠の中のお姫様」
『フフフ、負けましたわ。いいでしょう。その代わり、こちらもちゃんと安全を考慮した条件を提示させていただきます。それが決まったら、また連絡するわ。そうね。そっちの時間で二日ほどくれればいいわ』
二日。
幻想郷には時間軸がないのだから、二日って言うのはおかしい。
『メリーに代わってちょうだい。スピーカーモードを切ってね』
「切らないかもよ?」
『メリーがそうはさせないわ』
「分かったよ」
菫子ちゃんはまたちょちょいと操作すると、私にスマホを渡した。
「もしもし?」
『スピーカーモードは切れている?』
紫の声は、耳を当てないと聞こえないほど小さくなっていた。
大きくするのがスピーカーモードとやらなのか。
「えぇ」
『貴女の考えている通り、二日と言うのは、貴女たちに時間を与える為のものです』
「やっぱりそうなのね」
『この二日間で、宇佐見菫子という人物がどういう人間なのかを知りなさい。それから決めるのでも遅くはないわ』
「疑っているのね」
『それもまた、条件の一つという事ですわ』
「分かったわ」
『じゃあ、二日後にまた……』
そういうと、通話が切れた。
「そう言うことだから。二日間、待つことになるわ」
「二日間か……。なら、東京観光でもしようかな。平成の」
「そうね。ねぇ、菫子ちゃん。貴女に頼めないかしら?」
「?」
「東京案内よ」
「嫌よ……面倒くさい……。それに……」
そう言うと、菫子ちゃんは目線を伏せた。
私には、その意味がよく分かっていた。
だからこそ、あえてそれは言わないでおこう。
「二日間の間に、貴女の事も良く知っておきたいの。これからオカルトボールを一緒に探していくんだし、ね?」
「そうだよ。お願い、菫子ちゃん! 紫さんからお金貰ってるから、たくさん奢れるしさ!」
後で紫に怒られそうだ。
「…………」
やはり菫子ちゃんは何かと葛藤した後に「分かった」とだけ返答した。
菫子ちゃんとは連絡先を交換してから分かれた。
私たちはと言うと、スマホと悪戦苦闘した後に、綾瀬駅にあるビジネスホテルの予約へとこぎつけた。
「とは言え、一部屋だけだけれど」
「狭いけれど、なんだかワクワクしちゃうわ。ほら、見てみて蓮子。このベッド、良く弾むわ。まるでトランポリンのようね」
「そりゃ、メリーが重くなった証拠だよ」
「酷いわ!」
小腹が空いたので、近くのコンビニでお菓子などを買って、ホテルへと向かっていた。
「うふふ。沢山買っちゃったわ。この時代のお菓子って、どれも美味しそう。天然ものを使ったものもあるし」
「さっきからはしゃいでるね、メリー。そんなに楽しい?」
「えぇ。なんだか、旅行って感じがしない? 蓮子は楽しくないの?」
「楽しいよ。メリーが楽しそうだから」
「なによそれ?」
綾瀬駅はこの時間でも、多くの車が走っていて、あわただしそうに見えた。
空も、私たちの時代よりはるかに明るくて、晴れているはずなのに、星一つ見えなかった。
「今日は大変だったね。菫子ちゃんが来てくれなかったら、今頃どうなっていたやら」
「…………」
あの時、トンネル師は言った。
『貴女には、私よりも愛さなければいけないものがあるのね』と。
蓮子はあの言葉をどう思ったのだろうか。
「メリー?」
「蓮子、ありがとう。あの時、自分を犠牲に、私を助けようとしてくれて……」
「別に感謝されることじゃないよ。友達を助けようとするのは当然でしょう? メリーだって、トンネル師の前に立ってくれたじゃん」
「でも、私は何も出来なかったわ……」
「私は嬉しかったよ。まるで、望まない結婚式に乱入して来た恋人みたいだった」
そう言うと、蓮子はニカッと笑った。
私を安心させるためだろう。
「蓮子……」
「それにさ、メリーの結婚相手は私だからさ、あんなのに取られたくなかったんだよね~」
「もう、なに言ってるのよ」
「えへへ」
ホテルでしばらくはしゃいだ後、明日に備えて寝る事にした。
「電気消すね」
「調光器ついてるわよ。ちょっとだけ明るくしていましょうよ」
「ちょっとだけね」
部屋をぼんやりとした光が照らした。
「明日、10時に綾瀬駅で集合だっけ?」
「えぇ。菫子ちゃん、何処を案内してくれるのかしらね?」
「私は秋葉原に行ってみたいな。電気街でこの時代の家電やらを見てみたいんだ」
「きっと骨董品がたくさんあるんだわ」
「買って、私たちの時代で売ったら、高く売れるかな?」
「矛盾しなければいいんじゃない? まあ、紫に相談ね」
「冗談だよ」
「もう、いいから早く寝ましょう? 寝坊するわよ?」
「今回はメリーが起こしてくれるじゃん」
「置いてくわ」
「なら、早く寝ないとね。おやすみー」
「おやすみ」
「…………」
「…………」
「メリー、寝た?」
「そんな早く寝れないわ」
「だよね」
「…………」
「…………」
「メリー、寝た?」
「寝たわ」
「起きてるじゃん」
「いいから寝なさいよ。本当に寝坊するわよ」
「えへへ」
「もう……」
「メリー」
「…………」
「メリー?」
「…………」
「ありゃ、本当に寝ちゃった?」
「…………」
「メリー」
「…………」
「ありがとうね。私、あの時、本当に嬉しかったよ。変な意味じゃないけれど、トンネル師の言うように、私にはメリーがいるもんね。メリーも同じ気持ちだと、嬉しいな」
「……気持ち悪いわ」
「あ、やっぱり起きてた!」
「蓮子」
「なに?」
「変な意味じゃないけれど、私だって同じよ」
「……気持ち悪っ!」
そう言うと、蓮子は毛布を被った。
お互い、変な意味じゃないのに、なんだか恥ずかしかった。
でも、私たちはより仲が深まった気がした。
言葉以上に信頼出来て、言葉よりもはっきりしないもの。
それを感じることが出来た。
「おやすみ、蓮子」
「おやすみ、メリー」
きっと、この気持ちが――。