スズ・クラネルという少女の物語   作:へたペン
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後衛への転機を相談するお話。


Chapter08『後衛への移り方』

 ヘスティアに【ステイタス】を更新してもらった後、ベルはスズの為に今日一日くらい休もうと思っていたのだが、そのスズが少し新しい術式を考えたいと言い出した。
 ベルはヘスティアに意見を求めようと目線を送ると「しっかり引き際を考えて、絶対に無理なんかしたらダメだぞ、いいね?」と念を押すが反対はしない。
 なので今日もいつも通りダンジョンへ赴くことになったのだ。

 ダンジョンに行く途中、『豊饒の女主人』に立ち寄って昨日店を騒がせてしまったことを謝りに行く。
 スズが昨日の内に謝ってくれたようだが、突然飛び出してしまったのは自分だから自分の口で謝らないと意味がないとベルは思ったのだ。

 時刻は正午前で店はまだ開いていないが門をくぐり、キャットピープルとエルフの女性からまだ店は開いていないと注意されてしまうが、昨日迷惑を掛けてしまって謝りに来たことを伝えてシルと女将のミアを呼んできてもらう。

「シルさん、ミアさん。昨日はお騒がせして本当にすみませんでした!」
「そんなベルさん。頭を上げてください! ベルさんは別に暴れた訳でもありませんし、お金だってしっかり払っていただいてるのですから!」
「そうだよ。わざわざそんなこと謝りにくるなんて感心じゃないか。もしも暴れでもしてたら叩き出してやってたけどね!」
 ミアはそう豪快に笑ってバンバンと力強くベルの肩を叩いた。

「シルさんご心配をおかけしました」
「いいのよスズちゃん。また暇な時にお手伝いに来てね。可愛いスズちゃんの給仕服姿をまた見たいし。いいですよね、ミア母さん?」
「ああ。この子なら大歓迎さ。ただしシル。あんまりおいたするんじゃないよ! この子は従業員でなくてウチの客なんだ。またいつでも食べにおいで!」
 ミアに注意されながらもシルは優しくスズの頭を撫で続けている。

 子供が好きなのだろうか、その表情と手つきはまるで愛しの娘に向けるような優しさに満ちたもので、撫で終わると満足したのかどこかほっこりとしていた。

「後、坊主。冒険者なんてカッコつけるだけ無駄な職業さ。最初の内は生きることだけに必死になってれればいい。背伸びしてみたって碌なことは起きないんだからね。最後まで二本足で立った奴が一番なのさ。みじめだろうが何だろうがね。そうすりゃ、帰って来たソイツにアタシが盛大に酒を振る舞ってやる。ほら、勝ち組だろ? まずは運だろうが人頼みだろうが妹と生きて帰ることだけ考えな。余計な後悔なんて坊主にはまだ早いよ!」
 そしてミアが真っ直ぐとベルを見つめてそう激励をしてくれた。

 伊達に冒険者の女将をやっている訳ではない。色々な冒険者と向き合ってきた分、ベルが何に対して口惜しさを感じていたのかはっきりと感じとっていたのだろう。

「アタシにここまで言わせたんだ。くたばったら許さないからねえ」
「大丈夫です。何が何でもスズと二人で帰って来ますから!」
 優しい人ばかりに囲まれて、この街に来て本当によかったと何度目かもう数えきれないほど同じこと思う日々に、ベルは色々な人との出会いに感謝した。

 スズもきっとそう感じているのだろう。
 愛おしそうにバスケットを抱いている。

「ん、スズ。そのバスケットどうしたの?」
「シルさんがお昼にどうぞって賄いをお弁当にしてくれたんだよ。ベルに食べてもらいたいって」
「すみませんシルさん……またご飯いただいちゃって」
「気にしないでください。私がそうしてあげたかっただけですから。少ないかもしれませんが妹さんと二人で食べてもらえると、私が嬉しいんです」
 相変わらず卑怯な言い方の笑顔で受け取るしかないので、その好意を素直に受け取る。
 スズもきっとこんな感じに丸め込まれたのだろう。

 スズと一緒にお礼を言い「行ってきます」笑顔で別れを告げた。
 「行ってきます」と「ただいま」が言える今の時間を大切に、この幸せを続けるために強くなりたい。
 そうベルの想いは膨らみ続ける。


§


 いつも通りエイナに今後のことを相談しにバベルに赴くと、昼間だというのにみんな忙しそうにしていた。
 本当に見た目通りギルド本部全体が忙しいならエイナを呼ぶのは悪いと思い、受付をしているギルド職員に話を聞いてみると、なんでももうすぐ怪物祭(モンスターフィリア)という祭りで怪物(モンスター)をダンジョンから地上に連れ出す為、安全確認や注意事項、広告パンフレットなどなど事務仕事が大量にあるようだ。

 それでもギルドの受付の女性は「白猫ちゃん、今エイナ呼んでくるね」と言ってきたので、さすがに忙しい中呼ぶのは悪いと慌てて二人でそれを止める。
 次エイナに相談するのは祭りが終わって落ち着いてからにした方がいいだろう。

 なので教えてくれた受付の職員と別れのあいさつを交わして、二人で雑談しながら真っ直ぐバベルを目指す。


怪物祭(モンスターフィリア)なんてお祭りがあるんだね。怪物(モンスター)を調教できるなんてビックリだよ。狼さんなら餌付けして懐かれたことあるけど、怪物(モンスター)はちょっと想像できないかな」
「スズは狼を飼ってたの?」
「飼ってはいないかな。狩の手伝いをしようかなって森に出かけたんだけど…そこで大きな狼さんがケガしてて、つい手当てしてご飯あげてたら懐かれちゃって。里についてこなかったし、どちらかというと森にいる友達かな。よくご飯あげに行ったり、お話しに行ったりしてたし、『えっちゃん』や『ぶっくん』に『いーちゃん』みんなが忙しくて、里のお手伝いもすることもない時は、よく一人で遊びにいってたんだ」

 スズの口から初めて聞く名前がいっぱい出てきてベルは少し困惑してしまうが、きっと仲の良い友達なんだろうなと話の流れから感じることは出来た。

「でも一人で森なんて危なくなかったの? その狼さんは友達だけど、野生動物や、その……野生の怪物(モンスター)だっていただろうし」
 今ではゴブリンを簡単に倒せるが、子供のころはぼこぼこにされて怖かったなとベルは思わず苦い思い出に苦笑してしまう。

「外の怪物(モンスター)はダンジョンの怪物(モンスター)よりも弱いし、『えっちゃん』が作ってくれたブロードソードがあったから大丈夫だったよ。それに狼さんも私のこと守ってくれるし」
 【神の恩恵(ファルナ)】も授かっていないのに怪物(モンスター)と戦う気満々で森に入っていく、ブロードソードを片手にした今よりも小さいスズの姿を思い浮かべてベルは唖然としてしまう。

 なんというか逞しすぎる里だ。
 一人で森へ行くのを大人が止めない辺り付近の野生動物や野生の怪物(モンスター)を全く問題に思っていないのだろう。
 前に里全体が【ファミリア】みたいなものと言っていたが、【神の恩恵(ファルナ)】をしっかり授かった本物の【ファミリア】なのではないかと疑ってしまう。

 何も神が作る【ファミリア】があるのはオラリオだけではない。
 幼い子供すら戦う術を学んで【神の恩恵(ファルナ)】なしで怪物(モンスター)と戦うなんて、『古代』からやってきたのではあるまいしと思う反面、スズの戦闘技術を知っている分、【神の恩恵(ファルナ)】なしでも平気で外の弱体化している低級怪物(モンスター)くらいなら倒せるんじゃないかと思ってしまうところもある。

 幼い子供でそれなら大人は一体どれだけ強いのだろうか。
 もしかしてLV.1冒険者に匹敵する力でも持っているのだろうか。
 だけど、それこそ『古代』でなければそんなことありえないだろうとベルは自分の中の考えを否定した。

 外は神々のおかげでダンジョンに施された蓋が安定し、野生の怪物(モンスター)は生息しているものの『古代』と比べてしまうと安全そのものだ。
 強くなりたければ【ファミリア】のある都市に行くか、世界の中心であるここオラリオに来て【ファミリア】に入れてもらえば手軽に『古代』の戦士のような超人になれる。
 そこまで苦労して『古代』のように生身で戦えるほど強くなる必要なんてない。


「ベルは昨日六階層まで降りたんだよね。さすがに七階層には下りてないんだよね?」
「あ、うん。潜ったのは六階層だよ。見事にボロボロにされちゃったけど」
「しかたないよ。エイナさんが教えてくれた到達基準だと、五階層から七階層はGからFの【基本アビリティ】が必要だし。最低三人パーティーがダンジョン探索の基本なんだから」
 雑談をしながら考え事をしていたらいつの間にかバベルの螺旋階段まで来ていた。

「ベルの【基本アビリティ】なら五階層に言っても大丈夫だと思うけど、私がまだちょっと辛いから……まだ三階層の攻略でいいかな?」
「神様がしばらく留守で【ステイタス】の更新は出来ないし、病み上がりなんだからいつも通りで大丈夫だよ。いつも通り僕はスズのペースに合わせるから、僕の【ステイタス】が伸びがいいからって僕を基準に考えなくていいんだよ?」

「ありがとうベル。でも、私がゴブリンやコボルト相手だと伸びなくなって来ちゃったのは困りものだよね。後一人団員が増えてくれると思い切って五階層の探索に踏み切れるんだけど…特に回復役(ヒーラー)が欲しいところだよね」
「そうだね。僕達が入ってからまだ誰も【ファミリア】に入ってくれないし……なんでだろ」
「お金も人も家にはないからね。新人さんも出来ることなら最初から安定したパーティーと物資でダンジョンに挑みたいだろうし、仕方ないと言えば仕方ないかな。だからLV.2になって目立ち始めないと新しい団員はちょっと厳しいかもしれないね。次の団員が来るまで何年か掛かっちゃうかもだけど……頑張ろうね、ベル」
「そうだね。神様の為にも僕達が頑張らないと!」
 いつも通り二人で頑張ろうと言って螺旋階段を下りてダンジョンの入口を通る。

 目的地を目指して遭遇をする怪物(モンスター)を倒して魔石の欠片を回収しながら進んでいる。
 流石にゴブリンやコボルト相手だともう武器なんかいらないんじゃないかなと思うくらいあっけなく怪物(モンスター)を倒せた。

 実際に邪魔だなと思って放った蹴りだけでゴブリンの首が折れてしまう。
 【基本アビリティ】とは偉大である。
 スズの方も待ちなんてせずに速攻でゴブリンやコボルトを切り伏せているのだから、自分達も最初と比べればずいぶん成長したなと実感できた。

 そんな調子でバブリースライムやダンジョンリザードを倒し、目的の三階層を探索している途中でふとスズの足が止まった。
 それに合わせて一歩も遅れることなくピタリと止まれる。
 以前は数歩前に出てしまったが、今ではこれも慣れたものだ。

「スズ、どうかしたの?」
「ちょっと次の戦闘、ベル一人でやってもらって大丈夫かな。確かめたいこともあるし、危なそうだったらすぐに助けるから」
「いいけど……確かめたいことって?」
「新しい術式の練習もあるんだけど、ベルの動きを後ろから見てみたいなって。ダメ、かな?」
「全然大丈夫だよ。僕なんかの動きがスズの参考になるかはちょっと自信ないけど……」
 ちょうどよく通路の先の広間に怪物(モンスター)の姿が見えたので、スズはその入口で止まり、止まったのが合図だと感じたベルは一気にスズの横を駆け抜けて目標へと向かう。

 目視出来ているのはゴブリン三匹にコボルト二匹。
 手前のコブリンの首をすれ違いざまに短刀で切り裂き、並んでいたコボルトとゴブリンに対しては、コボルトの心臓を突き刺しそれを引き抜くと同時に後ろ回し蹴りでゴブリンの頭を吹き飛ばす。

 上に気配を感じた気がしたので慌てて後ろに跳び退いて上を見上げると、天井に張り付いていたダンジョンリザードがちょうど奇襲を仕掛けてきていた。
 遠距離攻撃手段を持たないベルにとってダンジョンリザードが天井から地面に降りたってくれたのは好都合である。
 短刀を逆手に持ち替えて不意打ちに失敗して地面についた直後のダンジョンリザードを走りながらナイフを振り上げるように走らせて縦真っ二つにした。

 その隙をつくようにゴブリンが拳を繰り出し、その後ろにはコボルトが控えている。
 ベルはゴブリンの腕を左手で掴んで、そのゴブリンを鈍器代わりに振り降ろし、後ろに控えているコボルトに向かって勢いよく叩きつけた。


 たったそれだけで戦闘が終わってしまう。今のでスズの参考になっただろうか。
「……IとGでもこんなに違うんだ。LV.2でCとSだったらもっと差が出ちゃうんだろうな。ランクアップ時の潜在値はどれだけ数字に効果を及ぼすのかな。十分の一だとしたら900あれば90……【基本アビリティ】1ランク分だけど、潜在ってことは、LV3へのランクアップでも基礎として加算されそうだから、次は180……ほぼ2ランク分……。やっぱり私が後衛しかないかな」

「えっと……どういうこと?」
「ベルがこのまま成長期が続けば私の【基本アビリティ】不足が目立って、ベルが前衛で私が後衛に変わった方がいいかなって話だよ。本当はエイナさんにそれとなく相談したかったんだけど、これは早い内から転向した方がいいかなって」
「そうかな。スズもすごいと思うんだけど。特に僕なんてスズと違って技術なんてないし、ただがむしゃらに攻撃してるだけだよ?」
「その技術も【ステイタス】差の前では意味ないってわかっちゃったから。二人でやるよりもずっと早くに怪物(モンスター)を倒しちゃうし、今回は力任せだったけど、ベルは私の受け流し技術をしっかり見て覚えてる感じがしたから。後で色々教えてあげるね。ベルならきっと、私よりも上手に出来ると思うから」
 スズは嬉しそうにそう言っていた。

 どう教えてあげるのが一番いいかなと楽しそうに考えている。
 ただ事実を述べただけなのか、その表情に強がりや悲しみの色は一切見えない。

「そんなに差があるの?」
「うん。私も多分駆け出しなのに平均Hあるから人のこと言えないんだけど、ベルはもっとすごいから。ダンジョンに潜る前にも言ったけど、五階層から七階層はGからFが到達基準なの。そうなる前からベルは六階層まで一人で潜って五階層まで戻ってこれた。だから【ステイタス】だけでなく戦闘センスもあると思うんだ。だからね、私は長所である魔法で頑張ろうかなって。魔法でベルを助けて、ベルに守ってもらうのも悪くないかなって思ったの。なんだか騎士に守られているお姫様みたいだし」

 えへへ、と少し照れながら笑うスズの言葉に、ベルまで恥ずかしくなって頬を赤くしてしまう。

 女の子に守ってもらうのではなく女の子を守るポジション。
 憧れていたポジションだけど、座ろうとしていた席を強引に割り込んでしまったみたいで悪い気がしてならない。

「でも、いきなりポジションを変えるといざって時に安定しないかな。だから今は練習で、エイナさんに五階層の許可を貰っても、そこでは私も前衛よりの方がいいかな。圧倒的な差が出ちゃうのは多分八階層くらいだし。ポジションに慣れるまでは今まで通り前衛で攻略していくね」
 それでもスズの言っていることはいつだって正しいと信じているし、スズ自身がそれを望んでいるから否定する方が失礼だ。

「すっかりこの戦い方になれちゃったもんね。また慣れられるように頑張るよ」
「うん。ただ前衛壁役だけでなくて、今の攻伐特化(スコアラー)ポジションも忘れたらダメだよ? 接近戦だと一番動き回るポジションだから、メンバーが増えたら間違いなくベルはこのポジションに落ち着くと思うし」
「え゛」
「エイナさんみたいに上手く教えてあげられるかわからないけど、私も頑張るからベルも頑張ろうね」
 いつも通りの笑顔だけど、初めてほんの少しだけだがその笑顔が嬉しくないとベルは思ってしまった。

 間違いなくエイナのスパルタ講義を基準にスズは『教える』という行為を考えてしまっている。
 エイナは意識的にスパルタをしているが、スズの場合はきっと無意識なスパルタメニューだ。
 どちらが辛いかと言えばどちらも辛いと言うしかないが、きっと、多分、無意識なスパルタの方がハードな気がした。
 ただでさえ頭がパンク寸前だったのに、スパルタ講義が二つになったと考えると地獄にしか思えない。

 それでも一生懸命考えてくれているスズの為にも、自分自身の為にも頑張らないとなぁ、とベルは深くため息をつきながらも覚悟するのであった。




後衛に移る準備をするお話。
これからもベルの成長速度や自分の伸びの悪さ、新たな仲間の登場、憧れや挫折などなどで戦闘ポジションが定まらず、『スズ・クラネル』は色々なことで悩んでしまうことでしょう。
そういった悩みも『少女の物語』でやりたいことの一つだったりしますので、『少女』を暖かく見守ってあげてください。