スズ・クラネルという少女の物語   作:へたペン
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武器の使い方を説明するお話。


Chapter05『武器の使い方』

 ある程度死骸を集め終えたリリは護衛はもう大丈夫だとせっせと魔石やドロップアイテムの回収作業に取り掛かり始めた。

 あまりの死骸の量にベルとスズは手伝おうとしたのだが相変わらず「リリの仕事をとらないでください。
 なによりも休むのもベル様とスズ様のお仕事です」と断られてしまった。
 11階層に人が入り始めてこの霧のない入口のフロアで狩りをする冒険者達が増えて来たので魔石回収中のリリが怪物(モンスター)に襲われることもなく、生れ落ちた怪物(モンスター)は他のパーティーが処理してくれているので確かに休むなら今が一番だろう。

「りっちゃん、ベルがその回収作業が終わったらお昼にしようって」
「またアレじゃないですよね?」
「ベルのはシルさんが作ってくれて、私達のはリューさんが用意してくれたんだよ。リューさんの方はもう大丈夫だと思うんだけど……」
「はぁ……。リリはスズ様の美味しい手料理が恋しいです」
「人の為に作った料理を粗末にしたくないから……。そうだ、りっちゃんとヴェルフさんの分は私が作ろうか?」
「それ、全部スズ様が作った方が手間が掛からず味も保証されるのでは?」

 スズと話しながらも魔石の回収効率が一切落ちないリリは本当に手馴れている。
 安全は確保されているとはいえまだ少し心配なのか、それともリリと話し続けたいだけなのかそのままスズは雑談を続けている。

「なあベル。スズの使ってるあの剣は『レスクヴァの里』から持ってきたものなのか?」
「え? あ、うん。家宝なんだけど……。えっと、どうかしたの?」
 ベルは『無駄な家庭セット』がスズの家宝ということしか知らない。

 今までは『レスクヴァの里』の話になるとスズが答えてくれていたが今は離れたところでリリと話し込んでしまっている。
 いっそのことヴェルフには義妹だということを話した方がいいだろうか。

「いや、【付着魔法(エンチャント)】が掛かる前からあの剣で斬り込む一瞬だけ光ってたんだ。純粋な精霊の武器なんて初めて見たがありゃどんな業物なんだ?」

 確かスズは鞘は物干し竿に使えば洗濯物がすぐ乾き、盾は漬物石に使っていたと言っていた。いつも着込んでいる白いコート『純白の究極(アルティメット・アンド・)無限前掛け(インフィニティー・ホワイト)』と同じで自動修復の清潔さから鍋やフライパン代わりにもできると言っていた気もするが、剣自体の効果については一切言っていなかった気がする。
 せいぜい斬ることよりも叩き潰すことに特化した作りであるということを最初に聞いたくらいだ。

 それに今まで一緒に戦ってきたが【ヴィング・ソルガ】以外で剣が光ったところなんてベルは見たことがなかった。
 【テンペスタス・ソルガ】と同じく新しい術式でも試したのだろうか。

 ヴェルフにどこからどこまでなら話したらいいのだろうか。
 どう回答したらいいのか思い悩んでいる時それは現れた。




『オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!』




 耳に突き刺さる様な激しい雄叫びと共に四足の小竜インファント・ドラゴンが他のフロアに繋がる通路から霧を突き破り姿を現したのだ。
 その突然の乱入者にベルとヴェルフだけではなく入口のフロアにいた冒険者達全員が驚愕する。

 体高150C以上、体長は5Mは超す。
 翼はないものの硬質な鱗に包まれ強靭な体を持ち地響きを立てながら四脚で大地を踏みしめ咆哮を上げるインファント・ドラゴンを誰がトカゲだとバカにできよう。

 数いる怪物(モンスター)の中でも頂点とされる竜種が小竜とはいえ突如姿を現したことでその場にいる冒険者達はインファント・ドラゴンを見たまま固まってしまっていた。

 インファント・ドラゴンが近くにいるエルフの男に血走った瞳を向ける。
 そのエルフの男も、パーティーメンバーも唖然として動けないでいた。
 竜という圧倒的な存在に恐怖して体を震わすことしかできずにいた。

 誰かが助けなければ間違いなくあのエルフの男は殺される。
 その次はそのエルフの男のパーティーが殺される。
 その次に近いのは――――――――――




「スズ様だめえええええええええええええええええええええええええええっ!!」




 リリの叫び声を合図にしたかのようにインファント・ドラゴンは呆然と立ち尽くすエルフの男に尻尾を振るった。そこに割り込むように金色の光を身にまとったスズが立ちふさがる。
 【アスピダ・ソルガ】の障壁が尻尾を受け止め、【ミョルニル・ソルガ】で反撃するも直撃したカ所の鱗が飛び散り血が噴き出すだけで致命傷にはならず、そのダメージに怯むことなくインファント・ドラゴンはスズに前足を振り降ろした。

 既にベルは駆け出しヴェルフも遅れながらもついて来てくれているが間に合わない。
 大きく地を蹴り一気に飛び込んだまま【ファイアボルト】をインファント・ドラゴンの頭目掛けて乱射するが、炎耐性があるのかやはりダメージを与えられているものの致命傷には全くなっていない。

 それでも炎雷の爆発でインファント・ドラゴンの攻撃を止められなかったものの目をくらますことはできた。
 スズは振り降ろされる爪をかわすと同時に金色に輝く剣を切り上げインファント・ドラゴンの指を一本切り落とす。

 続けて放たれた矢のように突撃したベルがヘスティア・ナイフを逆手に持ち首元から横腹まで切り裂くが切れ味があっても刀身が短いせいで厚い鱗を易々と切り裂けても肉には僅かしか届かなかった。
 大型の怪物(モンスター)と【英雄願望(アルゴノゥト)】なしでやりあうには圧倒的にリーチが足りないことを改めて思い知る。

 インファント・ドラゴンは血を流しながらもベルの着地の瞬間を狙って尻尾を振るうがスズはそれも【アスピダ・ソルガ】の障壁で防ぎ、暴れるインファント・ドラゴンの腕、肩、首を足場に頭まで飛び移りその目に剣を突き立てた。

 インファント・ドラゴンが激痛に吠え暴れる中、スズは振り落とされないようにしっかりと剣を握りしめ、前足で振り払われる前に腕を噛み千々られてもお構いなしと言わんばかりに左手をインファント・ドラゴンの巨大な口に突っ込み【ソルガ】を連射し続ける。

 それでもインファント・ドラゴンは止まらない。
 腕を噛み千々ろうと口を閉じるインファント・ドラゴンに対して【アスピダ・ソルガ】を口の中に出現させてそれを支え棒にスズは左手を引き、振り払われる手から逃れる為に剣も抜いてインファント・ドラゴンの上まで飛び上がる。

 そしておもむろに空中で鞘のベルトを外して左手に持ち剣の柄部分を鞘の口に合わせると剣と鞘の輝きが増した。
 激しい光に包まれた剣と鞘はまるで熱された飴細工のようにどろりと溶け合い槍の形にその姿を変えている。


「『偽蛇殺しの雷槍(ミスティルテイン)』構築。【ソルガ】装填完了。【雷よ。敵を貫け。解き放て雷。第二の唄ソルガ】」


 追加詠唱と共に槍がインファント・ドラゴンに向けて放たれた。
 合体した槍を核としたソルガをまとった金色に輝く雷槍の長さは10Mを超え、インファント・ドラゴンの背中を貫き地面奥深くまで突き刺さる。

 雷槍に蓄積されていた金色の光は弾け飛び周囲の地面を衝撃で抉り取りながらインファント・ドラゴンの身を焦がした。

 何が起こったのか理解はできなかった。
 いや、頭を働かせる前にベルは次の行動に移っていた。

 体に大きな穴が開き全身を焦がしてもなおインファント・ドラゴンはその活動を止めてはいなかった。
 血を吐き出しながらも咆哮を上げ【ヴィング・ソルガ】の冷却時間(クールタイム)で魔法も使えず剣も手放したスズは一切抵抗できない状態で自由落下するしかできない。

 そんなスズにインファント・ドラゴンは瀕死の重傷を負いながらも食らいつこうと首を大きく引いているのだ。
 怪物(モンスター)の頂点である竜種の生命力はまさに化け物である。

 ベルはインファント・ドラゴンの尻尾から頭まで一気に駆け上がりヘスティア・ナイフを脳天に突き立てるが頭蓋を貫いても脳まで刃が届かない。

「【ファイアボルト】【ファイアボルト】【ファイアボルト】!」

 そのまま内部に【ファイア・ボルト】を連射するが苦しそうにもがくだけで未だその頭部は健在だ。
 脳にダメージを受けたインファント・ドラゴンはもはやまともな思考はできず、ただもがき苦しみ暴れるだけの存在になりスズは無事地面に着地できたが、ベルは竜種の生命力の高さに恐怖を抱いてくる。

「ベル! こいつを使えっ!!」

 ベルの速度に置いて行かれていたヴェルフがようやく追いつき愛用の大刀をベルに向かって放り投げた。

 暴れまわるインファント・ドラゴンの尻尾がベルに向かって投げられたヴェルフの大刀を弾いてしまうが、ヴェルフの声で頭がクリアになったベルは弾かれた大刀に『ワイヤーフック』を撃ち込み、飛び上がりながら大刀を手元に引き寄せて体を捻って遠心力を加えた大刀による一撃でインファント・ドラゴンの首に叩き込んだ。

 その一撃により首が切断されたインファント・ドラゴンはわずかな時間痙攣した後ようやくその活動を止めるのだった。

 しばらくの静寂の後に冒険者から歓声が上がる。
 スズを心配して駆け寄る冒険者やお礼を言いに来る冒険者、何事もなかったように狩りを続ける図太い冒険者と反応は様々だが、ほんの一瞬のできごとだったがベルとスズはこの場にいた冒険者達にとって確かに英雄だった。

 集まる冒険者をかき分けてスズの手に慌てて高等回復薬(ハイ・ポーション)を掛けるリリを除いては、だが。

 スズが着けていた筈の耐熱グローブは手のひらに部分に大きな穴が開き穴の周囲は焼け焦げスズの手のひらは焼けただれていた。
 高等回復薬(ハイ・ポーション)と周りの回復要員(ヒーラー)のおかげで火傷は無事に治ったがリリの機嫌は治らない。



「スズ様のバカ! 何でそんな無茶ばかりするんですか!? 何でいつもみたいにベル様と一緒に戦おうとしなかったんですか!? そんなに急いでランクアップする必要なんてないじゃないですか!! 安全の為にランクアップしてから中層に挑む筈なのに、スズ様自身がランクアップの為に安全を無視したら本末転倒じゃないですか!? 人助けをするのは構いません! いざという時に無茶をするのも叱りますが目を瞑ります! ですが『【経験値(エクセリア)】稼いでくるね』なんてバカなことを言って、ワザとあんな危険な戦い方なんてしないでください! いつものスズ様ならあんな戦い方をしなくても時間を稼いでベル様と二人で安全に処理できた筈です! もっと自分の身も大切にしてください! 心配するリリの身にもなってください! スズ様のバカ! バカッ!」



 余程心配したのだろう。
 リリが泣きながらスズを押し倒してその胸をぽかぽかと叩いていた。
 リリが叫んだのはスズがエルフの男を助けに走った為ではなく、インファント・ドラゴン相手に無茶な【経験値(エクセリア)】稼ぎをしに駆け出して行ってしまったからのようだ。

 泣き縋るリリにスズは申し訳なさそうに「ごめんね」と謝ることしかできずにいたのでそれが事実なのだろう。

 何がそんなにスズを急がせてしまったのだろうか。
 上層では【経験値(エクセリア)】の効率が悪くてヴェルフに気を使ったのだろうか。
 それともベルが先にランクアップして慌てて追いかけようと必死になってしまったのだろうか。
 スズの剣は何で槍に変化したのだろうか。
 結局ベルはスズのことを『優しくて寂しがり屋で人懐っこい女の子』ということ以外は何も知らないことを思い知らされた。

「ヴェルフさん、パーティー初日から不快な思いをさせてすみません」
「いや、気にすんな。インファント・ドラゴンなんて完全に異常事態(イレギュラー)なもんだろ。リリスケの心配する気持ちもあんな戦い方見せられたら嫌でもわかるしな。直接話したのは昨日が初めての俺だって心配するんだ。ベルやリリスケなんて心臓が口から飛び出す程心配するのは当たり前だろ?」

 スズの謝罪にヴェルフは「心配掛けないよう気をつけろよ」とスズを安心させるように微笑してみせた。

「リリ、スズも反省してるしそろそろ許してあげて。僕もすごく心配したし、耐熱グローブを燃やしちゃうほどの無茶はしてほしくないけど、誰かが死ぬところなんて誰だって見たくないし、今回は焦っちゃったみたいだけど誰かの為に強くなりたいって気持ち自体に間違いはないと思うから。スズが無茶をしても僕が絶対に守るから。ね?」

「別にリリはスズ様をいじめて言ってる訳じゃありません!」
「いや、それはわかってるけど……」
「スズ様はベル様が思っている以上に無茶をする子なんです。そんな無茶をし続けてベル様みたいに痛みで快感を覚えるようになったらどうするんですか!」
 リリがスズの体を抱きしめてジト目でベルを睨んでくる。

「だから僕にそんな趣味ないからっ!」
「ほら夫婦漫才はそれくらいにしとけよ」
「ヴェ、ヴェルフさん!? そそそそそ、それも誤解ですから! 僕とリリはそう言うんじゃなくて大切な人だけどそういうんじゃなくてですね、あの」
「ベル様、リリとは遊びだったのですね!」
「リリも悪乗りしないでよ!」

 ヴェルフとリリがベルを楽しそうにからかっていると、ようやく気落ちしていたスズがくすくすと嬉しそうに笑ってくれた。
 二人なりに心配を掛けたことを気に病み過ぎてしまったスズを気遣ってくれたのだろう。

「スズもこんだけ心配されてるんだ。リリスケに言わないといけないことあんだろ?」
 ヴェルフがスズにそう笑いかけるとスズは「ありがとうございます、ヴェルフさん」とお礼を言ってからリリの手から抜け出して真っ直ぐとリリと向き合った。
「心配させて本当にごめんね、りっちゃん。それとありがとう」
「友達ですから当然です。無茶なことをしたらその度にリリがしっかりとお叱りしますからご安心くださいスズ様」
「あははは、怒られないように頑張るよ」
「ええ、ぜひとも頑張ってもらわなければ困ります。火傷と発熱以外にあの馬鹿げた槍投げの後遺症はありませんか?」


『『私』の知識から『偽蛇殺しの雷槍(ミスティルテイン)』を起動させたのは予想外だったけれど、それ以上に【ヴィング・ソルガ】の能力向上に『スズ・クラネル』の体が悲鳴を上げているわ。他の【基本アビリティ】を置いて魔力が高くなりすぎるのも考えものね。痛む程度で戦闘に支障は出ない範囲だけれど、できることなら『スズ・クラネル』を休ませてあげたいところよ』


 スズの代わりにスクハが小声でそう答えた。
 つまるところスズは大丈夫だと嘘をつこうとしていたということだろう。
 リリもそう感じたのか頭を抱えて大きく溜息をついた。

 小声で話した為周りで見守っていたり解散して自分達の狩場に戻って行った冒険者の耳にはスクハの声は届かなかったが近くにいたヴェルフが少し眉を顰める。


『自己紹介は一度戻ってからにしましょうか。あの剣のことを含めて鍛冶師として『スズ・クラネル』に何をしてあげたらいいか思うところがあるのでしょう? 『私』も『スズ・クラネル』も使い手のことを考えて作品を作っている鍛冶師(スミス)としての貴方のことを頼りにしているわ。客の要望に応える為にも客のことを知るのも大切なことでしょう?』


「ああ。あんなもん見せられた後だと突然人が変わっても驚かないぜ。他人に聞かれたくない話なんだろ? そいつを会ったばかりの俺に話してくれるほど信じてくれてるんだから文句なんてあるわけないだろ。とりあえずファン3号ってことでいいのか?」

『ええ。無茶ぶりばかりをする迷惑な客だけどよろしくしてくれるとありがたいわ』

 無茶をするスズを当然スクハもよく思っていないのだろう。
 パーティーを組むにあたって気軽にスズと変われるようにスクハはヴェルフにある程度事情を話す気のようだ。

 軽いあいさつ程度で本題は帰ってからする気なようでそこでスクハはスズに戻り、スズはリリと話しをしていた筈なのにヴェルフと向き合っている状況に一瞬だけ戸惑いを見せた。

「……あれ、すーちゃん出てた?」
「はい。ご丁寧にスズ様の状態をご説明してくださりましたよ、ええ。なんでもスズ様は体が痛いのを我慢しているそうじゃないですか?」
「えっと、その、痛いけど大丈夫だよ、これくらい! 少し筋肉が傷んでる程度だから!」
「無茶をするタイミングでないのでここで退却です! まったく痛いなら痛いとすぐにお伝えしてくださらないと困ります。スクハ様もヴェルフ様と自己紹介をしたいようですので戦利品を回収し終えたら帰りますよ。いいですね?」
「そっか。すーちゃんヴェルフさんにもう話しかけてくれたんだ」
「そこで喜ばないでください! リリの目の黒い内はスズ様に無駄な無茶は絶対にさせませんからね。いいですね!」

 むくれるリリに慌てて謝るスズだが、帰り道は説教を挟みながらも普通に楽しく会話もしながら歩いているのだから本当に仲がいい二人だった。


§


『さて、改めまして鍛冶師(スミス)さん。スクハと呼ばれる人格、なのかしら? まあ【スキル】が作り出した第二の人格でも『スズ・クラネル』の精霊部分でも好きなように解釈して頂戴』
【ヘスティア・ファミリア】の狭いテーブルを四人で囲いながら簡単な自己紹介から始まった。

「精霊部分? 精霊レスクヴァ本人が入ってる訳じゃないだろうな」
『お母様本人だったらもっと大暴れしているわよ。『私』は『巫女』にすぎないのだからお母様の代わりになれてもレスクヴァではないわ。もっとも今の私がどのような状態なのか『私』自身上手く把握しきれていないのだから、緊急時に『スズ・クラネル』を守る人格程度に思ってくれるとありがたいのだけれど』
「人柄と癖さえわかれば作品作るのに問題ないぜ。お前が俺のファン3号ってわかれば十分だ。で、本題だがあの職人泣かせの剣は一体何なんだ?」
「スズ様の無茶をスクハ様がお止にならなかった理由もお聞きしたいところですね」
 ヴェルフとリリがテーブルから身を乗り出したのに対してスクハは軽くため息をついた。

『目立てなくて不機嫌だったお母様のご機嫌取りに送られた無駄機能の塊よ。切れ味は魔力依存。自己修復と形状変化する生きた武具。お母様は目を輝かせてしばらくの間…『古代』が終わって里に引きこもってからも大体300年くらいかしら。そのくらいは遊んでいたのだけれど、300年経ってようやく後衛の自分には三大冒険者依頼(クエスト)で使うことがないことに気付いて完全な家事道具と化した家宝ね』

「おい、職人に謝れ」

『『古代』でも『無駄な家庭セット』と呼ばれるほど無駄な方面に特化していた物だから仕方ないじゃない。ごっこ遊び以外は包丁として使われていたし。ただそのごっこ遊びも300年以上馬鹿げた魔力で振るわれ続ければ生きている武具も学習してね。お母様の【魔法】を蓄力(チャージ)できるほどお母様の魔力に馴染んだのよ。お母様の【魔法】を帯びた一撃はまさに必殺技だった。だけどその頃にはお母様は遠距離主体になっていてね。何よりも致命的だったのはごっこ遊びに飽きてきてしまったことかしら。むしろよくもまあ300年以上も必殺技名を叫びながら遊んでいたものだと呆れてしまうのだけれど。ごっこ遊びが必殺技に変わったと思ったら家事道具に転落するのだからその変貌ぷりは凄まじいものよね』

「だから職人に謝れ!」

『最近まで自動修復以外の部分が休眠状態。いわゆるふて寝をしていたのだけれど、度重なる【ヴィング・ソルガ】での【付着魔法(エンチャント)】で目を覚ましたのでしょうね。魔法剣士として戦っている『スズ・クラネル』にとって使いこなせればこれほど使いやすい武器はないと思うのだけれど、あいにく家庭セットの手袋は紛失していて魔力を帯びた形状変化の熱量を押さえる手段がないの。膨大な熱量に耐えきれる耐熱グローブをその内作ってもらいたいのだけれどダメかしら? 武器として使わなくなって長いけれど、それでもこれはお母様が使い続けた家宝なの。『スズ・クラネル』はそれをお守りとして武具として使いたいとダンジョンに持っていった。活動停止していた子達が『スズ・クラネル』を使い手として認めてくれたの。『私』は『スズ・クラネル』にこの子達をこのまま使わせてあげたい。『私』からのオーダーメイド受けてもらえると嬉しいのだけれど……』
 スクハはほんの少しだけ眉を顰めながらヴェルフにそうお願いをした。

「使い方はどうあれ『古代』から今まで1000年大切に使われ続けたってんなら作った奴も本望だろ。生きてるらしい武器がまた使われたがっていて、スズもお前もそいつを使ってやりたいってんなら答えは一つだ。なるべくリクエストに応えるって約束してるしな。職人に二言はない。他に必要なもんはあるか?」
『今のところはないわね。引き受けてくれてありがとう』
「俺が謝れなんて勢いで言っちまったせいで不安にさせて悪かったな。それでその剣は自由に形を変えられるのか? 持つ物によってはグローブの形も工夫する必要が出て来るんだが」

『そうね。お母様とこの子達が編み出した設定をいじるつもりはないから変化は五種類よ。剣と鞘を合わせた『偽蛇殺しの雷槍(ミスティルテイン)』、剣と鞘を個別に使う双剣『偽獣殺しの雷剣(グレイプニル)』。これは剣と言っても刃のついた絡め武器だと思ってちょうだい。剣と盾を合わせた大剣『偽竜殺しの雷剣(グラム)』、鞘と盾を合わせた大盾『偽絶対防御雷壁(スヴェル)』、全てを合わせた『偽粉砕の雷戦鎚(ミョルニル)』。一応槍の別バージョンとして『偽巨人殺しの雷槍(グングニル)』があるけれど装填する術式が違うだけで槍は槍よ。基本の剣形態もそうだけれど【魔法】や精神力(マインド)を注ぎ込むことで【付着魔法(エンチャント)】効果がつく武器と考えるのが一番しっくりくるかしら』

「なるほど。剣それ自体は柄みたいなもんなんだな。精神力(マインド)を注ぎ込んで初めて刀身が現れ、魔力を吸収して加熱することで鞘や盾と熔け合い登録された形に変化。自己修復機能ってのは結合前の形に戻る為の機能といったところか。知らなければただの切れ味の悪い剣。知ってても魔力が必要な以上前衛向きでないし、生きている武器を育てなければ形を変えるだけってか? 本当に『無駄にすごい』な、おい」

『ちなみに貰った当初は包丁、鍋、物干し竿の形をしていたらしいわ』
「最初から家事させる気だっただろ、それ。謝れとか言って本当に悪かった」

『多分だけど、無茶やらかされるよりも遊びと家事に精を出してもらいたかったんじゃないかしら。それでも神様ごっこしながら怪物(モンスター)に飛び込むお母様を真似したくて今の形の模造品が量産されたみたいだけれど、成長機能がついていなかったのか、それともあそこまで成長させられたのが遊びつくしたお母様だけだったのか。どうしてお母様が育てるものはこうも馬鹿げたものに鍛え上げられてしまうのかしらね。必死にお母様が満足する玩具を作った当時の鍛冶師(スミス)と精霊達もここまで使い込んで育てるなんて夢にも思わなかったのじゃないかしら』
 スクハは少し頬を緩ませて床に置いてある剣の鞘を優しく撫でた。

『それでリリルカに対する回答だったわね。初めは割と日常光景な特訓方法だったから手を出さなかったわ。能力差はあるものの堅実に戦えば危ない相手ではいと『私』は判断したの。ただ『スズ・クラネル』が教えてもいないのに『偽蛇殺しの雷槍(ミスティルテイン)』を使ったのは想定外だし、手を焼かれて手元が狂ったのかワザと外したのかはわからないけれど、インファント・ドラゴンを倒しきれなかったのも予想外ね。ベルが間に合わないようだったら変わって生き延びることを最優先にしていたから安心しなさい。絶対に『スズ・クラネル』を死なせたりなんかさせないわ。『スズ・クラネル』のことを心配してくれてありがとう、リリルカ』

「スクハ様も自己犠牲精神が強すぎて心配でなりませんよ。リリはスクハ様のことも大切なんですから前みたいに弱り切る様なことはしないでくださいね?」
『……善処しとくわ』
「目をそらさないでください」

『リリルカ、今晩泊まりに行ってもいいかしら。『スズ・クラネル』とはお泊りしておいて私とはお泊りしないだなんてそんな差別を貴女がするとは思いたくないのだけれど』
「それは構いませんが話をごまかさないでください!」
「え? え? え?」
「スズ様に変わって逃げないでくださいスクハ様!」

『そんな怖い顔をしていると可愛い顔が台無しじゃない。怒るなら頬を膨らませて可愛く怒ってくれると嬉しいのだけれど』
「茶化さないでください!」
 リリ相手でもスクハはからかっているようだがベルをからかっている時とはまた違った感じがするのはリリが女の子だからだろうか。
 むぅと頬を膨らませるリリにスクハはどこか満足そうだった。




ようやく起きた剣の説明回でした。
ミノタウロス戦の傷を知っているリリは、このままスズが無茶をし続けるといつか取り返しのつかないことになると感じてしまったようです。
それはスクハも感じているようでいつでもスズと変われるよう今後長い付き合いになるであろうヴェルフに顔出しをしております。

ヘファイストス様の言葉通り化ける武器だったようです。
溶解時の熱から体を保護する為にコート、リボン、グローブがセットで作られたようですがグローブが手元にないようです。
鍛冶師(スミス)と精霊が作りレスクヴァが育てた結果ごっこ遊びの域を超えてしまった一品。
ヘスティア・ナイフと同じく使用者を選ぶ仕上がりで邪道ではあるものの、使用者の魔力で能力が上下し状況に応じて形状まで変化させられる為、『『白猫限定』でいうならば、あの生きた得物よりも使いやすい得物はうちには置いていない』とヘファイストス様は武器作成を断りました。
レスクヴァと『巫女』専用の武装として家事のお供に役立ってきたようです。

 追記2015/10/10
ルビを『偽蛇殺しの雷槍(レーヴァテイン)』から『偽蛇殺しの雷槍(ミスティルテイン)』に変更いたしました。
ルビミスと当て字ミスに続きぽこぽこと名称を変更してしまい混乱を招いてしまったことを深くお詫び申し上げます。
いつもながら誤字脱字王である私ですがこれからも追って下さると幸いです。