スズ・クラネルという少女の物語   作:へたペン
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エイナの講座とよくばりするお話。


Chapter06『よくばりなのは悪いこと?』

 魔石を換金した後、エイナに早朝のダンジョンに行ったことを報告をしたら「そんな朝早くからダンジョンなんて……。借り金は増えないしダンジョンも逃げないんだから急がなくてもいいのよ。ちゃんとご飯は食べた?」とダンジョンのことではなく私生活の方を心配されてしまった。

「お腹すいてたら頑張れなくなっちゃうかなって、ポーションではなく昨日は食材を買っちゃいました。その、ごめんなさい……」
「うんん。スズちゃんが正しいわ。私の方こそついつい冒険者へのアドバイスになってごめんね。まずは生活基盤を整えるのを一番に考えて。借り金を返すのはそれからで大丈夫だから、ね」
 なんだかものすごく貧乏に見られてた。

 間違ってはいないのだが、エイナが必死に諭すように優しくスズに語り掛けているのを見ていると、習慣で朝五時に目が覚めたからダンジョンに潜っただけなのをベルは申し訳なく感じてしまう。

「無理な荒稼ぎはしてないので大丈夫ですよ。エイナさん、心配してくれてありがとうございます」
「そう。ならいいんだけど……それで今日の戦闘はどんな感じだったの?」
「戦闘になれてきた…というのもありますが、エイナさんの教えやベルのおかげで怪物(モンスター)が三匹相手でも一対一の状態を作れるようになりました。帰り道は【魔法】なしでも安定して怪物(モンスター)を倒せたので一階層はもう問題ないと思います」

「飲み込みが早くて関心関心。でもゴブリンやコボルトは『恩恵』を受けた冒険者なら誰にでも倒せる怪物(モンスター)なの。それを安定して倒せるようになったのは、ようやく冒険者としての立ち回りを覚えてスタートラインに立っただけなんだから調子に乗ったりしたらダメよ?」
 優しくて面倒見がいいけど判定はやはり厳しいものだった。

「えっと、やっぱり今の僕だと二階層に降りるのは早いですかね?」
「ソロという訳ではないし、二階層なら適正だと思うけど……そうね……」
 エイナは少し考えてから「やっぱりこれが一番かな」とベルを真っ直ぐ見つめ返す。

「このまま無理をせず一階層を探索して、ダンジョンを歩きなれた頃に二階層に向かうのが一番いいかな。ダンジョンは何が起きるかわからない。ダンジョンから生まれる怪物(モンスター)は層によって決まっているけど、たまに層を移動してくる怪物(モンスター)もいるの。大きく見積もってもせいぜい移動範囲は上下二階層程度だけど、何かの間違いで逃げ回る冒険者を追ってきた六階層から出る強敵『ウォーシャドウ』が三階層や二階層に紛れ込んでしまうこともない訳ではないわ。そういった『勝てない相手』と遭遇してしまった時、どのルートをどう移動すれば『無事に逃げられる』かをとっさに判断できる力は必要よ。だから『闇雲に逃げ回って袋小路に追い込まれないよう』安全なところで道や地形を覚える力を身につけておくのがいいんじゃないかな」

 ギルドが管理している『古代』から続く冒険者たちの冒険記録からダンジョンの階層ごとの適正能力値はある程度割り出されている。
 六階層から生まれる『ウォーシャドウ』はゴブリンやコボルトはもちろんのこと、二階層から出てくる『ダンジョン・リザード』どころか五階層からガラリと怪物(モンスター)の種類が変わり、怪物(モンスター)の能力が一気に上昇する中でも『ウォーシャドウ』はその素早い動きとナイフのように鋭い指を持つ六階層からの難問。
 囲まれでもしたら六階層適正能力値を持ったパーティーでも全滅してしまうことがある難敵らしい。

 さらに七階層からは剣を弾くほどの外殻と鉄も切り裂くほどの攻撃力を持つ『新米殺し』と冒険者から恐れられている『キラーアント』が出現し、この『キラーアント』は何とフェロモンで仲間を呼んでくる恐ろしい怪物(モンスター)なのだ。
 一体そんなのとどうやって戦えばいいのか今のベルには見当もつかない。
 無知のまま階層を降りて行くと強力な怪物(モンスター)と出会ってなすすべなく冒険者はやられてしまう。
 勇気と無謀は違うということと、冒険者には『逃げる勇気』も必要だということを教えてくれた。

 恐怖に腰を抜かしてしまうのは問題外。
 パニックを起こして冷静に物事を判断できなくなるのも問題外。
 変なプライドで『勝てない敵』相手に挑むのも問題外。
 欲にくらむなんてもってのほか。常に余裕を持つように心がけ『何が何でも生き残る』ことを『選択する勇気』がダンジョン攻略には必要なのだ。

 もしも『自分より強い敵』と戦う時は『自分の長所』を活かし、『地形』『弱点の把握』『道具』『不意打ち』『仲間との連携』などを駆使して『相手を倒せる状況』を計画的に作る必要があるらしく、『冒険者は冒険しちゃいけない』んだと口を酸っぱくしてエイナは言った。
 スズには一度しか言わないのにベルに何度も何度も念を押すように言っている。

「えっと、エイナさん……なんで僕ばかりに念を押すんですか?」
「それはベル君が一番私の言うこと聞いてくれそうにないからよ。なんというかこう、冒険に憧れを抱いてるって感じがしてすっっごく危なっかしく感じる。ねー、スズちゃん?」
「そんなことないですよ。ベルはその……ま、真面目ですしッ」
「今一瞬目が泳いだよね!? フォローする言葉も迷ったよね!?」 
「ごごご、ごめんねベルッ! 悪気があったわけじゃないんだよ!? でもベルが冒険に憧れてるの知ってるし、英雄譚好きなの知ってるし……嘘つくのはよくないかなって迷って……。その……ごめんなさいッ!」
 珍しくスズが慌てふためいていた。

 こんなに取り乱しているところを見るのは初日に裸を見てしまった時と、取り乱したという意味だけなら昨日恐怖に体を震わせて動けなくなっていた時くらいだ。
 今までだったら悪いことをしたと思ったら申し訳なさそうに「ごめんね」と素直に誤ってその後すぐ笑顔に戻ってくれるはずなのに、今は『何か』に必死になって慌てふためいている。
 自分のせいで取り乱してしまっているのは分かってあげられるのに、何でそんなに取り乱してしまっているのかが分からなくてベルは頭を混乱させてしまう。



『女が怒った時は先に謝れ』



 そんな中祖父の言葉が頭に浮かび、自分の言った言葉でスズが傷ついてしまったんだと思い、慌てて謝らないとと口を開こうとする。
「こら、妹をいじめちゃダメだぞ。女の子は男の子が思っている以上にデリケートなんだから急に怒鳴ったりしたらダメなの! スズちゃんごめんね、私が無茶ぶりしちゃったせいで嫌な思いさせちゃって。そうだよね、スズちゃんはお兄ちゃんのこと大好きだもんね」
 先にエイナがスズに近づいて行き、かがんで視線を合わせてから壊れ物を扱うに丁重に、優しく頭を撫でてあげる。

「スズごめん! 僕が何か言っちゃって、気づかずにスズのこと傷つけちゃったんだよね? 本当にごめん!!」
「ベルもエイナさんも悪くないッ。悪いのは私で……その、嫌いになってない?」
 不安そうにスズがそんなことを聞いてきた。
 何でそんなことを聞いてきたのかベルには全く分からなかったが答えは決まっている。

「嫌いになるわけないじゃない。何があっても僕はスズのこと嫌いになんてならないよ。ごめんねスズ。なんだか不安がらせちゃったみたいで。僕って馬鹿だから、そういうの言ってくれないとわからないんだ」
 安心させるように笑顔でそう言ってあげると「よかった」と落ち着きを取り戻してくれた。

 その様子を見守って呉れたエイナは安堵の息をついた後ベルとスズを交互に見る。
「スズちゃん聡くていい子だから、今まで兄妹なのに喧嘩どころか激しい口論すらしたことないでしょ? だから頑張ってフォローしてあげたお兄ちゃんがいきなり大きな声を出してビックリしちゃったんだよね」
「恥ずかしながら……その、その通りです……。あ、エイナさん私の勘違いを笑わないでくださいッ」
 クスクスと笑うエイナにスズは顔を真っ赤にさせて「もう」と頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。

 まだ四日目だから当たり前だが、まだ知らないスズの新しい顔が見れて、また少しスズのことが分かってあげられてベルは嬉しかった。
「あう、ベルまで。あぁもぅ恥ずかしいよッ」 
 ついにスズは両手で顔を覆って机の上に頭をうずくめてしまう。
 聡いけどやっぱりまだまだ子供で、優しくて寂しがり屋な少女。
 下手に聡かった分、自分の見当違いの勘違いが余計に恥ずかしく思えてしまったのだろう。
 そんな年相応な反応をして悶えている姿がとても愛おしく思えてしまう。

 ペアの司令塔であるスズが恥ずかしさのあまりまともに講義を聞ける状態ではなく、現在の時刻は昼の十二時とちょうどいい時間だったので今日のエイナの講義はここまでになった。

 二階層までの攻略ならスズがしっかり理解してくれているはずだけど、また相談ごとや三階層に挑もうと思った時は気軽に声を掛けてね、とエイナに笑顔で軽く手を振られながら見送られのが気恥ずかしくて頬を染めながらもベルも軽く手を振り返し、そこでスズもまだ恥ずかしいのか顔を上気させたままだが、真っ直ぐエイナを見つめる。

「今日はお恥ずかしいところを見せてしまいすみません。その、また来ますね」
「うん。いつでもおいで。ちゃんと冒険のこと以外も相談に乗ってあげるから。無理して節約せずにちゃんとご食べないとダメよ?」
「はい。人間体が資本ですからご飯は大切ですッ。いつも心配してくれてありがとうエイナさん」
 挨拶を終えるころにはスズはもう平常心を取り戻しており笑顔でお礼を言い元気よく手を振ってエイナに別れを告げた。


§


 行先は昨日と同じく北のメインストリートにある商店街。
 ダンジョンに夢中になりすぎてお弁当を作らず冒険に出てしまった……のではなく、スズがオラリオの食べ物に興味を持っていたので今日はここで食事をとることになっていた。

 ダンジョンへの行き帰りに通る北西にある冒険者達が利用する武具や道具、酒場などの施設が集まる賑やかでありながらもどっしりとした店構えをした『冒険者通り』とは打って変わって、商店街の飲食店はこじゃれた店からこじんまりとした店まで様々な店や、ジャガ丸くんの屋台と同様に食べ物や家庭用品を取り扱っている屋台が並んでいるより取り見取りな光景。
 それは冒険者にも負けない活気づいた生活感あふれた賑やかさがあった。

「おお、スズ君にベル君!! 今お昼かい?」
 繁盛しているジャガ丸くんの露店からヘスティアが大きな声を上げて手を振ったことで商店街の人達がヘスティアの目線の先に居るベルとスズの方に目を向ける。「ああ、この子達がヘスティアちゃんが言ってた子達か」「まあまあ、二人とも可愛いわね」「ヘスティアちゃんどこからこんな可愛い子達をさらってきたんだい?」と一気に注目の的になったベルは当然のようにあたふたと緊張に頬を赤らませ、スズは昨日と同じように元気よく挨拶して頭を撫でてもらったりしている。

「よおスズちゃん。今日も元気そうだな!」
「あ、八百屋のおじさん。昨日はおまけしてくれてありがとうございます!」
「はっはっは、あまりもんだったんだから気にすんな気にすんな」
 八百屋のおじさんもスズの頭を撫でた後、今度はジャガ丸くんの屋台に向かっていく。

「ヘスティアちゃんジャガ丸くん五つ頼むよ」
「いいけどもうおっちゃんには撫でさせてあげないよっ」
 手を伸ばす八百屋の手をぺちんとヘスティアはむすっとした顔で叩き落とす。

「そんなせっしょうな! 最近女房も娘も冷たくてヘスティアちゃんなでるのが唯一の癒しなんだぞ?」
「おっちゃんスズ君達にあのことバラしただろう!! だからもう撫でさせてあげない! 後ボクの可愛いスズちゃんも撫でたらダメだからね!!」
 いーっと見た目通りな幼い威嚇をするヘスティアを商店街のみんなが微笑ましく見守っている。
 それぞれの生活があるから眷族にはなってくれはしなかったが商店街のみんなはヘスティアのことを本当に好いているのだろう。
 実の娘や近所の子供を見守るような目で見られているのは神としてどうかと思うところはあるが、みんなに好かれるヘスティアとスズはやっぱりすごいなとベルは思う。

 この後ヘスティアは八百屋のおじさんにジャガ丸くんを十個購入を請求して、その内六個を押収し、自分とベルとスズで二個ずつ頂戴することで八百屋のおじさんを許した。
 ジャガ丸くんの屋台のおばさんからヘスティアは休憩を貰って、三人で一緒に食べた熱々の揚げたてジャガ丸くんは八百屋のおじさんには悪いと思ってしまったがとても温かかった。

 ヘスティアの休憩時間も終わり別れた後、ジャガ丸くんだけだと栄養バランスが悪いとスズは別の露店で肉と野菜のパイ包みを買い、それを二人でかじりながら再びダンジョンのあるバベルへと足を運んだ。


§


 エイナに言われた通りダンジョンの探索はまだ一層のみに止め、怪物(モンスター)を倒しながら脇道にそれて一層を歩き回り『探索』という行為になれようとしてみた。

 実際に『怪物(モンスター)を倒す』のではなく『探索』に重点を置くと勝手が変わってきた。『怪物(モンスター)を倒す』目的だけなら不意打ちされそうな岩陰が多い場所や狭い通路など戦いにくい場所を避けて、自分が戦いやすい場所を徘徊して怪物(モンスター)を探すだけでいい。
 しかし『探索』の場合は『目的の場所』や『まだ見ぬ場所』を目指そうとするとそういった『危険かもしれない場所』を通らなければいけないことだって出てくる。

 一階層だから全体的に通路も広いし道もそれほど多くはない。
 怪物(モンスター)も弱く不意打ちを受けても立て直しがまだ可能だが、下の階層に降りて行けば行くほど狭い通路も増えていくし道も複雑になり怪物(モンスター)だって強くなる。
 何よりも怪物(モンスター)が生まれる間隔も早まり倒したすぐ側から壁から怪物(モンスター)が生れ落ちて連続戦闘を強いられてしまうことだってある。


 スズもベルも注意しながら歩いていたし、「どれだけいるかどうかちょっと分からないけど、最低でも三匹かな。この広間物陰多いから気をつけないとね」とスズに言われていたのに、スズの後をついて広間に出た瞬間、まさかの壁の出っ張りに張り付いていたゴブリンによる上からの奇襲に後頭部を殴られ、悶絶させられるはめになってしまったのだ。


 ダンジョンは何が起きるかわからないとは言われていたが、戦略もへったくれもないゴブリンに上から奇襲されたのは予想外すぎる。
 そのゴブリンはスズの【ソルガ】で核である魔石ごと体を貫通したが、ベルの方を振り向くのを待っていたかのように物陰からゴブリン二体が飛び出してスズに襲い掛かってきたのだ。

 それにもスズは反応して一匹目の攻撃は盾で防いだが、慌てて行った無理な防御のせいもあって体制は崩され、突撃してきた二匹目の拳がスズのみぞおちに叩き込まれた。


「あぐっ……ぁ」


 聞いたことのない音がした。
 悶絶していたベルが頭を上げて目にしたのは、手から力が抜けたのか剣がカランと地面に落とし、ゴブリンの体重を足の踏ん張りで支えられずにそのまま後ろに倒れこんでしまい、ゴブリンに馬乗りにされたスズの姿だった。

「スズ!」
 痛みに悶絶している暇なんてあるわけがない。
 『神の恩恵』のおかげでベルは致命傷でもなければ血すら出ていない。
 ただ痛みを感じただけ。
 ベルも最初の奇襲で武器である短刀を地面に落としてしまっていたが、それすら構わずに無我夢中でスズに向かって拳を振り上げるゴブリンに体当たりをして突き飛ばす。

 そこからのスズの行動は迅速だった。
 ベルが地面に落下するよりも早くに横に転がり一匹目の追撃をかわし、ベルが地面についたころには起き上がり、盾でゴブリンの横顔を横殴りしながらその遠心力を利用してそのまま回し蹴りをゴブリンの脊髄に叩き込んでいた。

 無事動けているスズの姿にベルは安堵の息をついている間にスズは盾を取り外し、ベルに突き飛ばされた二匹目のゴブリンに向かって投擲。
 立ち上がってベルを襲おうとしていたゴブリンの額に勢いよく投擲した盾が食い込む。

「ケホッ……ぁ……ぐ……」
 そこでようやくスズは苦しそうに息を吐き出して、目線を横に流した。
 その目線の先を追うとベルの落とした短刀が転がっている。
 音は出せずにいるがスズの口が四度動いた。
 その伝えたい言葉が「おねがい」だと悟ったベルは短剣の元に駆け出して拾い、額に盾が突き刺さっているがまだ息のあるゴブリンにトドメを刺し、念のために全く動かないスズに蹴られたゴブリンにも短刀を振り下ろす。

 初めて攻撃を食らってしまった。
 それも二人同時に。
 これが一層だったからよかったものの、もっと奥で今の状況に陥っていたなら最初の不意打ちでなすすべなく殺されていた。

 スズがいなかったらゴブリンに時間を掛けられて嬲り殺されていた。
 探索面はスズに任せきりだったせいで、気を付けてと言われたのにいきなり不意打ちを受けてダウンしていたせいで、スズがしゃがみこんで苦しそうに呼吸をしている。

 気を付けているつもりでいた。
 そう、いただけなんだとベルは思い知らされてしまった。

「スズ大丈夫!?」
 スズに駆け寄ると大丈夫だよと訴えるかのようにしゃがみこんだままやせ我慢した笑顔を作って見せた。
 それがゴブリンに強打された後頭部よりもずっと痛かった。
 胸が締め付けられる痛みだった。
 祖父の死の知らせを受けた時と同じような激しい胸の痛みを感じてしまう。

「……ご……ぇ……ね……。ケホッ。場所と、数、ちょっと読み違えちゃったよ……」
 スズは呼吸を整えてまず言った言葉がそれだった。

「あそこまで的確に……人体急所を……それも……ゴブリンに攻撃されると、ちょっとショックだよね。防具や『恩恵』のおかげで中は内臓自体は大丈夫かな。うん、大丈夫そう。ごめんね、心配掛けさせちゃって」
 なんで自分が悪いみたいに言うんだよ、と言ってあげたかった。

 悪いのは不意打ちを受けた僕じゃないかと言いたかった。
 助けられてばかりの僕じゃないか。
 そうベルは言いたかった。

 でも、スズはきっとその言葉を受け入れてくれない。
 望んでもいない。
 スズが望んでいることはきっと『楽しい家族生活』なのだ。
 自暴自棄になった姿なんて見せたら逆に悲しませてしまう。
 だからベルはぎりっと歯を食いしばり、自分への怒りを抑え込む。

「僕の方こそ注意不足でごめんね、スズ。それと助けてくれてありがとう。今のはすごく危なかったからまたエイナさんに叱られちゃうかな」
「怒られちゃうけど緊急時の対策も聞きたいから報告しないとダメだよ? 私も一緒に怒られるから、ね?」
 強くなろうとベルは本気で思った。

「それに私もベルに助けてもらったからお互い様だよ。助けてくれてありがとう。すごく嬉しかったし、カッコよかったよ」
 本心からこんなことを思って口にしてくれている優しい妹を失いたくないから、『お互い様』と、なんでも一緒に共有したがる寂しがり屋の妹を失いたくないから、一人でも戦えるように、スズを一人でも守れるように強くなりたかった。


 今までだって何度も強くなりたいと思って来た。
 いつだって英雄に憧れていた。
 強い自分に憧れていた。
 でもそれは、ただ憧れるだけで満足していただけだったんだとベルは気付いたのだ。


 だから今は情けなくてもいいから、いつか必ずスズを守れるくらい強くなりたい。
 いつか出会うであろう『運命の人』も含めて、大切なものすべてを守れるくらいに、よくばりだと言われるくらいになりたい。


 前にスズが勘違いしていた『ハーレム』の意味である『大切なものを守る誓い』が、ベルの心の奥底で、鐘の音のような大きく響き渡る音ではなく、鈴の音のような心地のよい音色として時には強く時には弱く、リンリンと鳴り響き続け始めた。




ベル君はまだ【スキル】が目覚めないものの若干心境変化が出てきたもよう。
実のところ二人の時だけではなく一人の時でも冒険する理由付け回だったりします。