その少女、賢者につき。   作:親切設計

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誕生
0話・プロローグ~その少女、天才につき~


・・・退屈だ。

 

講義を受けながらその少女、神ノ本有香里はその頭脳という部屋の中で思考に耽っていた。

 

講義の内容はとっくの昔に全て理解した。

今は単位を取るためだけに退屈な講義に出ている。

 

別段、この講義がつまらない訳でもない。この世界そのものに退屈しているのだ。

 

人間と機械と汚い空気に覆われた世界。

薄汚れた悪意と偽物の善意に覆われた世界。

才能に溢れたものは潰され、何の能力もない屑が威張り散らす間違った世界。

聖人はもう存在していない。いや、存在できないのか。

 

ならば、私だけの国でも作ろうか。

機械のない、澄んだ空気に覆われた弱肉強食の世界を。

 

ノートに教授の話すことを適当にメモしながら、有香里はそんなことを考えた。

 

有香里は、世間一般で言う「天才児」である。

IQは実に300、十五歳にして国内最難関の大学に首席で入学。現在は十七歳ながら12ヶ国語を操り、最早その道の学者すら凌駕するであろう数学の実力を持っている。

 

運動能力もずば抜けて高く、腰まで届く長く真っ直ぐな黒髪、傷一つ無い透き通るような白い肌、知性に溢れるその眼は全てを見透かしているかのような黒。その整った顔立ちは正に絶世の美女。

 

完璧超人と言っても過言ではなかった。

 

それ故に異性からは高嶺の花と避けられ、同性からは嫉妬から嫌がらせを受ける事もしばしばあった。

 

 

「ふふっ」

自分が国を作るなどと少し現実離れした考えに思わず笑いが溢れてしまった。

 

「ん?どしたの?」

 

やっぱりばれた。ほんの少しの変化だった筈だが、この友人は鋭い。

 

「なんでもなーい」

 

「ふーん。ねぇ有香里ぃ、今日はどこ行く?」

 

「うーん・・・たまには図書館でも行く?」

大体の本は去年読み終わってしまったが、また新しい本でも入荷しているらしいので読んでおきたい。

 

「図書館かぁ・・いいかも!」

 

「じゃ、決定かしら?」

私の唯一の友人、宇佐見蓮子。白のリボンが巻かれた黒い中折れ帽子をトレードマークとして何時もかぶっている。

真っ白なブラウスに黒のスカート、髪は濃いめのブラウンで、ボブカットにしていて可愛らしいが、淡白な色の服と、いつも着けているネクタイのせいか、ボーイッシュな印象を受ける。

 

彼女とは大学に入学してからの仲だ。

 

蓮子の頭脳はかなりのもので、思考のレベルも近かったことで、すぐに親しくなれた。

 

他に話の合う相手もいないので毎日一緒に行動していた。

 

 

実は、私が入学した年は首席が二人いた。

一人は私。そしてもう一人はこの蓮子だ。当時は飛び級で首席の私だけが注目されたが、彼女は私を特に妬むでもなく、ごく普通に接してくれた。その時は珍しい人もいたものだなと感心した記憶がある。

 

そんなやり取りを交わし、講義が終わるまで適当に聞き流してから、早めの昼食をとり、早速二人で図書館へ向かった。

 

うちの大学の図書館の規模はなかなかのものだ。本を読むのは割と退屈ではないので、初めて訪れたときは胸が高鳴った。まあ、2年でほぼ読み尽くしてしまったのだが。

図書館に到着し、新刊のコーナーへ行くと、少し落胆した。興味をそそる本が少ないのだ。あまり文句は言えないが、もう少しまともな本のセレクトをして欲しいと思う。

 

「今回はハズレね。」

 

「そだねー、ミステリーが全然無いよ。」

 

「このまま帰るのも癪だし、掘り出し物でも探す?」

 

「うん、でも、殆ど読んじゃったからなぁ。」

 

「えっ?」

 

「え?有香里もでしょ?」

 

「あ、まぁ、うん。」

これにはかなり驚いた。私以外には此処の本を読み切る人はいないと思っていたからだ。

 

いい友人と出会ったものだ。蓮子となら、一生付き合っていけるかもしれない。

 

お喋りもそこそこに、私達はまだ読んでいない本を探しに

古書コーナーへ入った。

 

鼻腔をくすぐる古い紙の香りに、思わず顔が綻ぶ。

 

ダメ元だが、もし面白いものがあれば読みたい。隅々まで見落としの無いように探し始めると、

 

“それ”はあった。

 

背表紙に何も書かれていない、紫色の本。

 

数ある本の中でも、それだけが異様な雰囲気を漂わせながら、私が手に取るのを待っている。

 

気付くと、私はそれに手を伸ばしていた。

 

何だこれは。こんな物は今まで見たことがない。やめておくか?明らかに『危ない』だろう。

 

何も書いていないのにも関わらず、何故『危ない』と感じるのかは分からない。だが、私の心のどこからか大音量の警鐘が聞こえてくるのだ。

 

しかし、もう遅い。

 

見つけてしまったのだ。

こんなにも『面白そう』なものを。

 

これならば、私の退屈を“癒して”くれる確信があった。

 

私はそれを開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

退屈が“壊れた”。

 

 

 

 

 

 

 

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