――人が空想できる全ての出来事は、起こりうる現実である。
昔の偉人が遺した言葉は真理をついている。
実際に、考えてもなかったことが起こったからである。
いや、考えた事はあるかもしれない。
目の前に、「私」がいた――――
◇
目が覚めたら、私は何処かにいた。
気絶した時には図書館にいた筈だが、少なくとも図書館ではない何処かだ。
なぜ言いきれるのか?
周りに何も無いからだ。360度見回してもあるのは白い空間だけ。
いや、あった。正確には『居た』だが。
「・・・はじめまして。」
取り敢えずそれに話しかけてみる。
「はじめまして。」
身体の真ん中を冷たいものが突き抜けたような感覚に襲われた。
全く同じ声。
全く同じ姿。
信じられないが、紛れもない『私』がいた。
「貴女は誰なの?」
お前は一体誰なんだ。こちらの望む答えなど返ってくる可能性などほぼ皆無だが、思わず聞いてしまう。
「私は・・・貴女よ。いえ、正確には“こちら側”の貴女ね。」
「・・・意味が分からないわね。」
こちら側?・・・意味が分からない。こいつは何を言っているんだ。
「分からないかしら?ちょーっと考えればわかると思うんだけど。」
「・・・・」
取り敢えずはっきりとわかったのは、こいつは私じゃない。
一つ一つの言葉が胡散臭い。ついでに腹が立つ。
私は、こんな奴ではない。
「貴女は、こんな奴よ。」
そいつは、胡散臭い笑みを浮かべて私に言った。
「・・・え?」
一瞬、凍りついた。
表情は変えていないはずだ。
心を読んだのか?
何故そんなことが可能なんだ?
「さあ?どうやったのかしらね?」
「貴女は何なの!答えなさい!」
恐怖からか、、焦りからか、かなり強い口調になったが、気にしている場合ではない。
そいつは少し笑ったかと思うと、急に流暢に喋り始めた。
「貴女は、試練に合格しました。
よって、貴女には人間を捨て、強力な妖怪へと昇華する権利が与えられます。」
妖怪?あれは空想の者だろう?存在しているなんて有り得ない。
第一、妖怪とは人間の理解を超える異常な現象の総称みたいな物だろう。
現代科学の進歩によってその現象も解き明かされ、今は妖怪など信じていよう物ならいい笑いものになるに違いない。
「別にこのまま人間として退屈と戦いながら生きて行ってもいいですし、どちらでも構いません。
貴女が決めてください。回答は来月の今日です。では、御機嫌よう。」
「ちょ・・まっ・・・」
早口にいい終わったそいつは、私に喋らせることなく、白い世界に消えて行ってしまった。
試練?何のことだ?私は試練なんて受けた覚えが・・・
「あった・・・」
恐らくあの時に流れ込んできた数式だろう。
どんな内容なのかは知らないが、とにかく合格だったらしい。
この結論にたどり着いた所で、またも意識が薄れてきた。
今度は元に戻るのだろう。
受けるかどうかはあまり悩まなかった。
この退屈から脱出出来るなら、何にでもなってやろう。
私は選ばれたのだ。
普通の人間としては有り得ない考えだが、有香里の心はもう決まっていた。
人間としての生に未練はない。蓮子の事は気掛かりだが。
そこまで考え、もう一度私は意識を手放した。
◆
どの位の時間そうしていただろうか。病院の一室で、蓮子はベッドに寝かされた有香里の手を握り締めていた。
「・・・ここは・・」
「有香里!」
病室で大声は非常識なのだが、蓮子にそういった配慮は今はない。
「・・蓮子?」
「目が覚めたのね!良かったぁー!」
「蓮子、ずっといてくれたの?」
「うん、これしか出来ることが無いから・・」
本当に何も出来なかった。自分がここまで無能だとは思わなかった。
「そっか、ありがとう。」
「いいよ、お礼なんて」
礼を言われるほどの事はしていない。小学生でも出来る事をしただけだ。
ほら、そんなことを言うからまた、悔しさが戻って来たじゃないか。
今回は我慢しなくていいだろう。有香里のせいなんだから。
そうして、安堵と後悔に包まれながら、蓮子は泣いた。