―ギラギラと輝く太陽が、道端に生い茂る草木に溢れんばかりの祝福を与えている。
季節は、夏である。
「―今までお世話になりました、ありがとうございました。」
深く礼をして部屋を出る。
荷物の入ったトランクを持ち、日傘をさして駅へ向かおうと歩き出すと、自然と笑みが溢れた。
『私』と出会ってから明日でちょうど1ヶ月が経つ。
私は、人間を辞める。
住ませてもらっていたアパートを解約して、大家に挨拶をしてきた。
これからは、各地を旅していきたいからだ。
それに、妖怪がアパートに住むなんてシュールな事にはなりたくない。
当然、大学も辞めてきた。
退学届を提出したとき、事務室が阿鼻叫喚の大騒ぎになったのは少し面白かった。
教授には何度も引き止められたが、私の心は固まっていた。
蓮子には、外国の研究所にスカウトされたと言っておいた。嘘をつくのは心苦しいが、真実など言える筈がない。
蓮子は泣きながら応援してくれたのがまた、心が痛い。
等々、様々な用意を整えて、明日を迎えるつもりだ。
これから新しい生活が始まるのだ。
年甲斐も無くニコニコとしてしまう。
あの時に感じた何かしらの力が行使出来るようになるかもしれないのだ。
相手の脳内に侵入する力。
心を読む力。
一瞬しか見えなかったが、あいつが消えるときに空間に亀裂が入っていた。
恐ろしい力の数々。
あれを操れるのだとしたら、どれだけ楽しいのだろうか。
邪な妄想をしながら、
スキップでも始めそうな足取りの軽さで、駅へ向かって行く。
目指すは、以前に旅行したとき、偶然見つけた地図にも載っていない神社だ。あそこなら、人目にもつかないだろう。
半日あれば到着する距離だ、ゆっくり行こう。
そうして、有香里は期待に胸を膨らませながら、一歩、また一歩と歩いていた。
この先起こる悲劇に導かれるように――
◆
宇佐見蓮子は落胆していた。
親友を失ってしまったのだ。
外国の研究所に誘われたらしい。
少しだけ嬉しそうに語っていたのが記憶に残っている。
有香里は、離れていてもずっと友達だと言ってくれたが、
私としては、親友の明るい未来に喜ばしいと感じる反面、あの時に「私が守る」と誓った事が無駄になってしまうので、少なからずショックを受けた。
「あーあ、友達居なくなっちゃったな〜」
などと呟きながら歩いていると、突然誰かがぶつかってきた。
「うわっ!」
完全な不意打ちだったので、思わず倒れる。
「あっ、ごめんなさい!お怪我はありませんか?」
「うん、大丈夫だよ。こちらこそ避けられなくてごめんね。」
スカートに付いた埃を払いながら一応こちらも謝る。
「本当にすみません。以後気をつけるので・・・」
「あはは、そんなに畏まらなくても怒ってないよ、それより、なんか急いでたんじゃないの?」
「あっ、そうだった!それでは・・・」
朝から運が悪いと心の中で文句を言いながらも歩みを再開しようとしたら、先程ぶつかってきた子の学生証らしきものが落ちていた。
後で届けてあげなくては。あまり個人情報を見るのは好ましくないが、名前くらい知っておいても損はないだろう。
容姿を見た限りでは日本人ではなかったが、日本語はほぼ完璧だった。ハーフかなにかかな?と名前の欄を見る。
「マエリベリー・ハーン・・・」
こうして出会った少女達は、科学に支配された世界の裏側に眠る秘密を暴くため、あるオカルトサークルを立ちあげるのだが、それはまた別のお話。
秘封倶楽部の話は書かないと思います。
次回からが本番さ!