まあ、他の方と比べるとアホみたいに短いんですけどね?
4万字とか絶対書けないです(笑)
夕焼けに染まる空が、蝉達の合唱を一層騒がしくさせる。
「ふぅ、到着っと・・・」
手頃な大きさの石に腰を掛け、ここに来る途中で買っておいた焼きおにぎりを一口頬張る。
「うん、美味しい。」
ほどよく焼かれた味噌の香ばしさが口の中に広がる。
太陽の光を受けて茜色に塗られた森を眺めながら食べるご飯はこんなにも美味しいのか。
住み慣れた街を後にしておよそ半日。
多少の寄り道を楽しみながら、一人の少女は目的地へと到着していた。
小高い山の頂上にある名前も分からない神社。
人が住んでいる地域からはそう遠くない筈なのだが、少なくとも数年は人が来た形跡が無い。
当然、境内は大荒れだ。
こんな状態では、此処に祀ってある神様が可哀想だ。
おもむろに立ち上がり、神社の横にある納戸らしき建物に向かう。
流石に古くなっているだろうが、無いはずはないだろう。
ガタガタと建て付けが悪くなった戸を開け放ち、すっかり埃だらけになった中を見回す。
やはりあった。
立て掛けてある竹箒を手に取り、状態を確認する。
大丈夫そうだ。十分使える。
日付が変わるまでにはまだ3時間程ある。
掃除でもして、暇を潰すとしよう。
私の人間としての最後の仕事だ。
◇
「・・・こんな感じかな?」
額に浮かんだ汗を拭きながら、僅か3時間ですっかり綺麗になった境内を見回す。
これならば、神様も喜んでくれるだろう。
我ながらいい仕事をした。
そろそろ時間も来るし、この辺で切り上げるとしよう。
「そうね、及第点ってところかしらね?」
突然背後から掛けられた聞き覚えのある声に、全身に寒気が走る。
身の毛もよだつとはこのことか。
あまり嬉しくない体験だ。
身構えながらゆっくりと振り向くと、やはり『私』が居た。
全く気づかなかった。
だが、『私』を見た瞬間、ある疑惑は確信に変わった。
前に見た時と何も変わっていない姿。
髪の長さも。服も。何も変わっていなかった。
私は、『私』と出会ってからある仮定を立てていた。
こいつは、あの本の中に居た『妖怪』なのではないか?
それも、とびきり強力な。
妖怪ならば、本を開いただけで相手の脳内に侵入するなどといった通常考えられない芸当も可能かも知れない。
強力な妖怪ならば、人間として最高峰の頭脳を持つ私を遥かに超える頭脳を持っていてもおかしくないかもしれない。
とびきり強力な妖怪ならば・・「そうね。大体正解よ。」
今のように、心を読む力を持っていても納得できる。
いや、納得せざるを得ない。妖怪とは、常に人間の理解の範疇を超えるものだから。
「さて、分かっていると思うけど、貴女をここへ呼んだのは、あの日の返事を聞くためです。」
「何言ってるの。私は自分の意志で此処に来たの・・・」
その直後、少女はハッとしたように固まってしまった。
言葉にしてから気づいた。脳内に侵入出来るような力の持ち主である。意識の操作など容易い事だろう。
あの日から1ヶ月の間、『私』の掌の上だったという訳か。
「理解出来たところで続けるわね。もし答えがNOならば、貴女には記憶を消してひと月前まで戻させて貰います。
もし答えがYESなら、この場で契りを結び、貴女は晴れて妖怪へと昇華します。さて、ここまで質問は?」
「無いわ。」
「よろしい。では・・・」
『私』が両手を前にかざすと、片方には淡い光と共に何かの陣らしきものが出現した。
「YESなら、この陣の中心に貴女の血を一滴落として下さい。
NOなら、何もない方の手を掴んで下さい。
さあ、未来を選びましょう。」
私は、一連の動きを見ながら、ただ漠然と「素晴らしい」と感じ、その口元には笑みが浮かんでいた。
常人ならば、「恐ろしい」と思えるような怪奇現象をである。
片方を選べば平穏が、片方を選べば恐らくだが波乱万丈な事が待っているだろう。
平穏はもう十分だ。
悩む余地など存在しない。
護身用にと身につけていたナイフで人差し指に小さな切り込みを入れる。
その透き通るような白い肌から流れる少女の赤い赤い命の源泉を、淡く光る円の中心へと一滴落とす。
「これで・・・いいの?」
あまりに簡単なので、思わず『私』に問い掛ける。
すると『私』は、ニッコリと微笑んで、何かの呪文らしき言葉を呟いてから手の上の陣を私の胸のあたりへとかざし、押し込んだ。
「いいえ、まだ。これから貴女の身体を作り替えます。」
「え・・?がぁぁぁっ!?」
その瞬間、私の身体が光りだしたかと思うと、突然強烈な痛みと熱が全身を襲った。
思わず座り込む。
不意にあの時がフラッシュバックするが、気絶するほどではない。
十分程苦悶の表情で耐えていると、熱が収まってきた。
さらに1分もすると、痛みも消えた。
「はぁっ・・はぁっ・・これで・・・!」
「ええ。おしまい。」.
自分の両手を見てみると、ナイフで入れた傷が消えていた。
「外見が気になるの?はいこれ。」
どこから出したのか、渡された手鏡を覗くと絶句した。
髪の色が黒から輝くような金色に変わっていたのだ。
目の色もすべてを見透かすような黒から、
すべてを見通すような金色に変化していた。
嬉しいことに、心なしか胸も大きくなっている気がする。
「・・・ねぇ、知ってる?」
「何が?」
「全く同じ生命体ってね、同じ空間にいてはいけないの。」
全く同じ生命体?私と『私』がか?
「何が・・言いたいの?」
あまりに軽い調子で話すので、内容が入ってこない。
ただ、良い話では無さそうだ。
立ち上がり、身構える。
「貴女に、この時間軸上から出ていって貰うってこと!」
「なっ・・・!」
「与えるものは与えたし、後は自分で、ね?」
「そんな無茶苦茶な事が許さ・・・れ・・・・」
『私』が私を指差すように手を出し、横に一振りした。
たったそれだけ。それだけで私の意識は刈り取られ、深い闇へと沈んでいった。
ここに、後に賢者と呼ばれる大妖怪が誕生した――
次回からは新しい章へと進みます。
早いね。(白目)