誰もいない辺境の地。
青々とした草木が陽の光が届かないくらいに鬱蒼と覆い茂った、現代では失われた自然の溢れるその山奥。
そのさらに奥地に、明らかに場違いであろう華やかな格好をした世にも不思議な少女が居た。
肌は滑らかで、まるで夏の空に泳いでいる雲のような白色。
金に輝くその長い髪は、まるで天女の如き美しさ。
たわわに実ったその胸の二つの果実は、その少女をより一層艶かしく感じさせる。
紫色を基調とした、フリルのついた胸元が大きく開いているドレスを身に付け、目を閉じて大木にもたれ掛かって座っていた。
こんな山奥へ来てしまったものの、迷子になり生きる事を諦めたのか、
それともただ眠っているだけなのか、
それとも・・・
◇
「うーん・・・」
もう何日こうして居るのだろうか。
目が覚めたら見知らぬ場所にいた私は、あれこれ動く前にとにかく、受け取った力の分析をしようとしていた。
今まで感じたことのないエネルギーだ。
無いとは思いたいが、何かの拍子で暴発してしまう可能性もある。
動き回るのは力をある程度行使できるようになってからでも遅くないだろう。
幸い、腹は減らないらしい。
そんなことを考え、死角である背後を近くにあった大木に預け、目を閉じて自分の内側へと意識を集中させていた。
悍ましい、とでも形容出来そうな。
それ程に邪悪な紫色のエネルギー。
これが妖気と呼ばれるものなのか。
自分に扱いきれるだろうか。
そんな不安も頭をよぎる。
大体理解出来た。ものは試しだ。
使ってみよう。ここならば、恐らく周りに大した影響も出ないだろう。
丁度、相手もいる。
目を開き、ゆっくりと立ち上がる。
「さあ、出て来なさい。」
気付かないとでも思っていたのか。
さっさと出て来い。
すると、がさり、と音がしたかと思うと、薮の中から狼と思しき獣が這い出てきた。
自分を取り囲む様に潜んでいたらしい。その数十数頭。
注意深く自分を見据えている。
こいつらから見れば、私は恰好の餌なのだろう。
確かに普通の少女ならば、恐怖で動く事もできずに喰われてしまうだろう。
だが、本来ならば絶望的とも呼べる状況下で、この少女はあろうことかうっすらと笑みさえ浮かべている。
ある程度の体術なら人間の時に会得済みである。
喰われたらそこまでだったという事だ。
互いに隙の無い睨み合いが続く。
が、あちらは動く気配も無い。
なるほど、こちらが消耗しきって集中力が切れるまで待つ気か。
いいだろう。誘い込んでやる。
不意に、少女が空を仰ぐ。
そうした途端、ここぞとばかりに獣達が襲い掛かった。。
ある一頭の獣が少女の肩へ牙を突き立てようと大きく飛翔する。
だが、次の瞬間、「ぐちゃ」という凄惨な音を立ててその獣の頭部は胴体と切り離されていた。
血をまき散らしながら跳ね上げられた獣の頭部を見て、驚いたのは少女の方だった。
なんのことは無い。ただの蹴りだ。
だが、そのただの蹴りは自分が想像したよりも遥かに高い威力を纏っており、それだけで今の私の桁違いさが見て取れる。
嬉しい誤算だ。
この身体は強い。
自分もただでは済まないと考えていたが、無傷で勝てるかも知れない。
仲間の死をも恐れずに飛びかかってきた二頭に回し蹴りを繰り出す。直撃を受けた片方は、その箇所を陥没させ、もう一頭を巻き込んで吹き飛んで行く。
流石にまずいと思ったのか、獣達が私から距離を取るが、時すでに遅し。たった一歩で距離を詰められ、成す術なく順番に死という、相手を見誤った罰を受けていった。
結局、少女は返り血さえ浴びずに無傷。
獣達は全員が絶命する。という結果に終わった。
「うん。」
何かを理解したかの様に少女が頷く。
「なんか違う。」
違うらしい。
その後暫くの間、ブツブツと独り言を垂れ流しながら考え込んでいた少女だったが、満足したのか、考えることを諦めたのか、先程と同じ様に、大木に背中を預け、瞳を閉じた。
「ここって、何処なんだろう・・・」
その声色は、年相応の少女のように淋しそうであった。
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