【習作】キヨシ投獄回避ルート 作:PBR
ガクトの脱獄から数日、花がまだ復帰していないこともあって、キヨシは食堂の隅の方で一人食事を取っていた。
夕食には少し早いがお腹が空いたのだからしょうがない。卵とじのカツ丼とミニうどんと漬け物のセットを頼み、キヨシが一人ずるずるとうどんを啜っていれば、少し離れた場所でなにやら女子たちが騒がしくしている。
もっとも、ここはほぼ女子校ということもあって、女子たちが騒がしいのは日常の光景でもある。
誰かに他校の彼氏が出来たとか、そういう女子たちが好きそうな話で盛り上がっているのだろうと思っていれば、騒いでいた集団から千代とマユミが離れて、慌てた様子でキヨシのもとまでやってきた。
「キヨシ君、大変だよ! キヨシ君のお友達が退学しちゃうかもしれないんだって!」
「は? え、友達?」
この学校で友達というと男子四人が当てはまる。クソ漏らしのガクト、チンピラ風のシンゴ、ドMのアンドレ、口内炎が酷いだけなのに何故か咳ばかりしてるジョーの四人だ。
四人の中で退学させられる可能性があるのは誰かと考えたとき、キヨシは覗きをしたんだから全員候補じゃないかと頭を抱える。
しかし、千代の言い方から察するに退学させられるのは一人らしい。ならば、先日脱獄したガクトが第一候補として浮かび上がった。
「えっと、それってもしかしてガクト?」
「あ、ゴメン。名前はまだ覚えてないから分からないんだけど、この前脱獄しちゃった人みたい」
千代は他の男子と挨拶をしていないので、他のクラスである男子らの名前は把握できていない。
キヨシとしては自分の名前さえ覚えて貰えれば十分だが、一応、後で教えてあげようと思いつつ、どうして急に退学という話になったのか経緯を聞いた。
「脱獄一回くらいじゃ退学にならないと思うんだけど、どうして急にそんな話に?」
「私もいま聞いた話だから詳しくは知らないの。でも、学校を囲ってる壁に穴を開けたから、施設を故意に破壊した件と合わさって、脱獄の罪が重くなったんじゃないかって」
本来、監獄からの脱獄は二回までは刑期の延長、三回で退学という事になっている。
初犯のガクトは刑期の延長で済むはずだが、脱獄した際に学園を囲っている壁に穴を開けていたことで、その分も加算されて罪が重くなったようだ。
たかが玩具のために馬鹿だなと思う反面、彼らを犯罪へと駆り立てたのは裏生徒会の布いた規則が原因だろうという怒りも湧く。
理不尽な目に遭わせておきながら、これではあまりに横暴だとキヨシが真剣な表情でうどんを啜っていれば、心配そうな顔をした千代が時間がないと急かしてきた。
「お友達が裏生徒会室に連れて行かれるの見たって人もいたから、今まさに退学させられそうになってるかもしれないの。止めるなら急がないと!」
「分かった。ゴメン、マユミちゃん。これ見といて」
「あ、うん。いってらっしゃい」
帰ってきたら続きを食べる。冷めていても構わない。そうマユミに伝えて、キヨシは千代と共に裏生徒会室へと走った。
◇◇◇
「さあ、これにアナタの名前を記入しなさい」
反省房から連れて来られたガクトの前に万里が一枚の紙を置く。そこには『退学願』と書かれており、つまり彼女はガクトに自主退学を迫っているという事だった。
監獄で退学処分だと聞いていたガクトは、てっきり、学校から除籍処分の退学を言い渡されると思っていたことに加え、未だにフィギュアの件を引き摺っているのか、覇気のない様子で書類から顔をあげて万里に尋ねる。
「小生は……退学させられるのではないのでゴザルか?」
「覗き未遂という罪を犯し、その後更生施設である監獄から学園の塀を壊して脱獄した。アナタの罪を考えれば強制退学処分もありえます。ですが、うちの学園からそのような生徒を出す訳には行きません。なので、アナタには自主的に学園を去って欲しいのです」
まだ学校からの処分は下っていない。仮に下ったとしても規則に則り刑期の延長で済むだろうが、万里たちは囚人が知らないのをいいことに、勝手に退学処分と伝えていたのだ。
そして、どうせ退学になるのなら今後の事も考えた方がいいと諭す。
「キサマがクソを漏らした件は既に学園中に広まっている。刑期を終えてもキサマはクソ漏らしと呼ばれ、女子たちからは冷たい視線を向けられるだろう。仲間である男子からは裏切り者と罵られ、それでもまだ学園に未練があるなら止めはしないがな」
「副会長、そういう言い方はよしなさい。まぁ、学園からの処分が下される前に自ら学園を去った方が、アナタの今後にとってもいいとは私も思いますが」
退学させられたのと、自分から学校を辞めたのでは印象が違う。他の学校を受験し直す際、退学させられたと書かれていれば、前の学校に問い合わせて理由を尋ねる事があるので、学校から処分をくらう前に自主的にやめた方がいいというのは本当だった。
「しょ、小生は……」
学園からの処分がどうなるか知らないガクトは、万里たちの言っている事が正しいと思ってしまい。差し出されたペンを受け取り、手を震わせながら退学願と向き合う。
しかし、自分の犯した罪を理解しながらも、まだ踏ん切りがつかないのかガクトの手は止まっていた。
けれど、それも時間の問題だろうと裏生徒会の二人が眺めていれば、突然部屋の扉が大きな音を立てて開き、二人の人間が飛び込む様な勢いで部屋に入ってきた。
「ガクト!!」
「お姉ちゃん!!」
突然の来訪者に部屋にいた一同は驚き視線を向ける。
中でも驚いた顔をしていたのは、ここに来る理由がないはずなのにやってきたキヨシを見たガクトであった。
「き、キヨシ殿、どうしてここに?」
キヨシはガクトがどのような処分を受けるか学校側から聞いていない。他の男子は先日ガクトの罪状と処分の仮決定を万里が伝えたので知っているだろうが、仲間であっても来る可能性の低い人物が現れた事でガクトだけでなく万里たちも驚いた。
だが、相手の姿を認識すれば先日の屈辱が蘇り、万里は椅子から立ち上がってキヨシを睨みつけ声を荒げた。
「キヨシ、またアナタですかっ。ここは関係者以外入室禁止です。すぐに出ていきなさい! 千代、その男に関わるなと言ったでしょう」
「自分の友達は自分で決めるもん。お姉ちゃんに友達のことで口出されたくないよ! それにキヨシ君は関係者だよ。お友達が退学させられるかもしれないんだから」
そんな一方的な姉の言葉に従う気はない。千代は強い瞳で言葉を返し、キヨシと一緒にガクトの座っていたソファーに腰をかける。
傍で立っていた副会長はどうすべきかと視線で判断を仰ぐが、彼らが来たところでガクトが罪を犯した事は覆られない。
故に、さっさと彼の処分に納得してもらい。ガクトにも自分の罪を認めて退学願を書いてもらう事にする。
立ち上がっていた万里が椅子に座り直し、冷たく感じる切れ長の瞳を向けてきたところで、キヨシは普段よりも真面目な表情で口を開いた。
「お義姉さん、ガクトが退学ってどういう事ですか。脱獄一回じゃ刑期の延長だけって生徒手帳に書いていたのに」
「アナタにお姉さんと呼ばれる筋合いはありません! はぁ……どこでその話を聞いたのか知りませんが、そこの男は脱獄時に学園を囲う塀に穴を開けました。施設の破壊は重大な校則違反です。これまでの罪状と合わせれば退学が妥当でしょう」
ガクトが脱獄に使った穴は既に埋められている。作業は業者がやってくれたので大した手間ではなかったが、それでもガクトのせい無駄に学園の金が使われた事は事実。
さらに、仮に老朽化して崩れやすくなっていたとしても、故意に穴を開けてしまえばそれは立派な破壊行為だ。
学園の風紀を取り締まる立場として、一歩間違えれば不審者が侵入経路に使用した可能性も考慮すれば、ガクトの行いをただの脱走として処理する事は出来ない。
「しかし、その脱獄は裏生徒会が男子から休日を取り上げた事が原因でしょ。刑務所だってもっとマシな待遇ですよ」
けれど、キヨシもそれだけで素直に納得できるほど大人ではない。友人が退学させられるというのなら、原因を作った者がいることを指摘し、いくらか減刑するべきではないかと問う。
「いいえ。休日を貰えるのは模範囚だけです。彼らの作業速度を見れば模範囚とはとても言えません。遅れを取り戻すため、休日にも作業をさせるのは妥当な措置です。なんら規則に違反していません」
それを聞いた万里は表情一つ変えずに淡々と規則に則った処遇だと答える。
実際は父親の汚らわしい趣味の一部を見てしまい。その八つ当たりで彼らに対する処分を厳しくしている部分もあるのだが、とても広い荒れ地の開墾作業はまだまだ残っている。
その事を思えば、彼らの作業が全然進んでいるように見えないという万里の言い分は正しい。
それを伝える相手が、ガーデニング同好会であるキヨシでなければ。
「では、施行日程を見せてください」
「……施行日程?」
言われて万里だけでなく副会長も一緒になって首を傾げる。
単語としては建築用語の一つとして理解しているが、どうして今ここでそれが話に出て来るのか理解出来ない。
「工期日程と言った方が分かり易いですか? どちらでもいいですけど、簡単にいえば作業予定表を見せてくださいと言ってるんです。あんな広い土地に学園菜園を作っているのなら当然あるんでしょう?」
疑問に思って二人の視線がキヨシに集まれば、キヨシは単語の意味が分からないのかと思って言い直しながら、どうしてそれが関係するかを簡潔に伝えた。
「会長はガクトたちの作業が遅れていると言いました。なら、それは当然、工期日程などから判断しているんですよね? 自分のような高校からガーデニングをしている素人でも、大規模な造園作業では工期日程を作成して作業を始める事は知っています。なら、会長が工期日程の存在を知らず、さらにはあんなローテクな道具だけを使っている彼らの作業が遅れていると、素人の判断で言ったりしていませんよね?」
趣味用のガーデニング本には工期日程の事など載っていないが、一歩踏み込んだ造園の本になれば工期日程の事も載っている。
一般人はそんなものを組んで作業しないだろうが、納期のある造園業者ならばまずそれを作ってから作業を始めるのだ。
大抵は、地面に大きな石が埋まっていたり、天候の関係で作業が出来ないなどのトラブルも考慮し、余裕を持った日程で予定を組み立てる。
ガクトたちが開墾作業を始めてまだ数週間だが、木を倒すのに板鋸を使っていたり、耕運機も使わず鍬で地面を耕している姿はキヨシも見ていた。
あんな人力ばかりで休日もなく作業していれば効率が落ちるのも当然で、むしろ、工期日程の方に無理があるのではないかとキヨシは睨んだ。
もっとも、彼としては最初からそんな物は存在していないと思っているが、これで見せられなければ裏生徒会の暴挙だと糾弾出来る。
そう思って万里からの返答を待っていれば、傍で見ていた副会長が怒りの形相でキヨシの胸倉を掴み持ち上げた。
「キサマ、黙って聞いていればさっきから会長に偉そうに!」
「やめて、芽衣子ちゃん。キヨシ君は何もおかしなこと言ってないよ。お姉ちゃん、キヨシ君が言った物があるならちゃんと見せて。それなら男子の皆にお休みをあげないのも納得できるから」
キヨシの身体が浮いたとき、咄嗟に千代はキヨシを掴む副会長の腕を掴んでいた。
万里の妹である千代がいれば副会長は乱暴な事が出来ない。横から抱きつくように腕を掴まれているため、千代を引き剥がそうとすればキヨシを放す必要がある。
これでは文字通り手が出せないため、副会長がキヨシを解放すれば、千代はキヨシと一緒に再び座り直して万里を見た。
「学園運営に関係のない生徒には見せられません。一般生徒では閲覧が許可されない重要書類が存在する事は知っているでしょう? 囚人たちの更生プログラムの一環に含まれる学園菜園作りもその対象です」
「お姉ちゃん、そんな嘘ばっかり言って!」
「待って千代ちゃん。決まりで見せられないなら別に構わないから」
工期日程を見せてくれと言われた万里は、一切の動揺を見せずに規則で見せられないと返す。
実際にそれが存在しようとしまいと、万里が規則だと言ってしまえばキヨシたちは強く出られない。
ただ、この状況でそれをすんなり信じられない千代が姉を責めれば、姉妹にここで仲違いをして欲しくないキヨシがストップをかけ、相手の主張を崩す作戦からガクトに考え直させる作戦へシフトさせる。
「ガクト、規則ではまだお前は退学にならない。自分から退学しようとしたりすんな」
「ははっ、お気持ちはありがたいでゴザルがもういいんでゴザルよ。皆を裏切ってまで脱獄しておきながら、小生は何も為す事が出来なかったんでゴザル。そのような男に温かい言葉をかけて貰う資格はないのでゴザル」
退学願を見つめるガクトは悲しい色の瞳でそう呟く。仲間に協力して貰っておきながら、脱獄がばれるだけでなく、自分は買うフィギュアを間違えてしまった。
クソを漏らした甲斐もなく、目的すら達成出来なかった己など、ただ仲間を裏切ったクソ野郎でしかない。
ずっと前から文字通りのクソ野郎だったガクトが呟けば、彼がグラウンドにフィギュアを忘れて行った事を後悔していると勘違いしたキヨシが、ちゃんと回収して箱のままだが部屋に飾ったぞと現在の部屋を撮った写メを彼に見せる。
「お前が忘れて行ったフィギュアはちゃんと部屋に持って帰ったよ! それに出獄したらお前が欲しがると思って、ウンピョウのフィギュアと皆で食べるヘギソバだって買ったんだ!」
「ああ、それは悪い事をしたでゴザルな。フィギュアはキヨシ殿にあげるでゴザ……ル!?」
ここでシンゴに聞いたとうっかり漏らしたりはしない。それくらいは察しているキヨシは、ちゃんとウンピョウのフィギュアとヘギソバも写メに写っているぞと指でさす。
しかし、それを聞いたガクトは、シンゴの伝達ミスを信じてしまった彼に、こちらのミスで意味のない事をさせてすまないと謝ろうとしかけ、写メに写り込んだある物を見て止まった。
「き、キヨシ殿、これは、これは一体なんでゴザルか?」
震える指で写メのある部分を指す。
ありえない、そんな物があるはずがない。きっと別の何かが光の加減でそう見えるだけだ。
ガクトは自分に必死に言い聞かせながら、自分の買った呂布フィギュアと一緒に棚に並ぶ物の存在を否定する。
「え、ああ、それは」
「これはまさか、小生が脱獄してまで手に入れようとした、四年に一度の三国志フィギュア祭り限定“関羽雲長&赤兎馬”フィギュアではゴザらぬか?!」
だが、キヨシが答える前に我慢できなくなったガクトは、あるはずのない“関羽雲長&赤兎馬”フィギュアにしか見えないそれが、どうして男子寮の部屋に置かれているのかと大きな声で尋ねた。
あまりに大きな声を出したので、驚いた女性陣はビクリと肩を跳ねさせたが、このときキヨシはガクトが欲しがっていた物が“ウンピョウ&ヘギソバ”でないと聞いて驚いていた。
しかし、そこはそれ、彼は変なところで頭が回る男である。本当はみつ子に後で高く売れると聞いて、それなら一つ買っておこうとガクトが嫌う転売目的で買っておいたのだが、キヨシは頭の中でシナリオを練り参ったなと困った表情を即座に作ってみせた。
「ははっ、隠しておけば良かったかな。出獄したときのサプライズのつもりだったのに」
「さ、サプライズ?」
「ああ、ちょっとフィギュア祭りの話を小耳に挟んでさ。それで、もしかしたら三国志好きのガクトが行きたがってたかもって思ったんだ」
「な、ならば、これは小生への出獄祝いに買っておいてくれたのでゴザルか? これが欲しいと伝えた事もなかったというのに」
ウンピョウとヘギソバを買った時点で、シンゴの伝達は完全にミスに終わっていたはず。だというのに、どんな手品を使えば自分がこれを欲しがっていると気付けたのか。
諦めていたはずのフィギュアをキヨシが用意していた事を信じられずにいるガクトが聞けば、
「なんか、お前ならこれが気に入るんじゃないかって思ってさ。友達のことって意外と分かる物なんだぜ?」
シナリオ通りだと心の中で黒い笑みを浮かべるキヨシは照れ臭そうに笑って言った。
この瞬間、周りからは友達想いのいいやつだと認識されただろう。そして、ガクトからは全幅の信頼を寄せられたはずだ。
物と違って人からの良い評価というのは簡単には手に入らない。なら、多少懐を痛めてでも得られるのなら全力で取りにゆく。キヨシは非常に強かな男であった。
誰も不幸になっていないので一応問題はないが、ナチュラルどころか計算され尽くしたクズのターゲットにされたガクトは、クズの想像よりも衝撃が大きかったらしく、感涙に咽び泣きながらソファーを降りてキヨシに土下座を決め込んだ。
「な、なんという彗眼をお持ちの御仁でゴザろうかっ。罪人である小生をこれほど気に掛けてくれていたキヨシ殿への裏切りなど、どうやっても償えないほどの罪でゴザル。キヨシ殿、誠にすまないでゴザル!!」
「顔をあげろよ、ガクト。謝るなら俺じゃなくてシンゴたちにだろ。それから、お前たちの更生プログラムを組んでくれている裏生徒会の皆さんにだ。仲間だけじゃなく更生に協力してくれている人を裏切ったんだからな。そこはちゃんと筋を通すべきだ」
謝罪を受けたキヨシは彼の肩に手を置き顔を上げさせる。行動から発言まで全てがイケメン過ぎて眩しいが、全てが計算だと分かると途端に下衆く見えるのが不思議なところだ。
それに気付いていないガクトは、自分がまだ謝罪していなかったことを思い出し、仕事とはいえ毎日看守として付き合ってくれている副会長や、刑務作業を考えてくれている万里にも迷惑をかけたと深々と頭を下げた。
「会長殿、副会長殿、この度は大変な迷惑をおかけして誠に申し訳なかったでゴザル!! つきましては、反省の第一歩として頭を丸めさせて貰う所存でゴザりまする!!」
反省の代表と言えば頭を丸めることだ。ガクトがわざわざ髪を伸ばして大切にしていた事は副会長も知っている。それを反省のためとはいえ、刈ってしまうなど信じられなかった。
「あ、頭を丸める? キサマが大切にしていたその髪を刈るのか?」
「頭で足りなければ下の毛も刈っていただいて構わぬでゴザっ」
「そんな物は自分でやれっ!!」
「るぅぼっふぁ!?」
頭ならば丸めてやってもいい。だが、何が悲しくて下の毛の処理までしてやらねばならないのか。
副会長の剛腕を喰らったガクトは吹き飛び、心配したキヨシと千代が駆けよれば、大丈夫だと手をあげながらガクトは起き上がった。
「ごほ、げほっ、刑期を終え出獄したあかつきには、キヨシ殿とそちらの
「ああ、こちら会長の妹さんの千代ちゃん」
「栗原千代です。よろしくね。でも別に私は何もしてないからお詫びはいいよ」
キヨシをここへ連れてきたのは彼女で、キヨシと裏生徒会が話を出来る環境を作ってくれたのも彼女である。
本人は何もしていないと思っているかもしれないが、千代がいなければガクトは退学願を書いていたこともあり、ガクトは千代にも恩を感じていた。
ただ、千代はこれで頑固なので、自分が何もしていないと思っているうちはして欲しい事も考えないだろう。
故に、キヨシは落とし所も兼ねて、そういえば千代に男子を紹介する場を設けるんだったと思い出し、晩ごはんでも食べに行こうと提案した。
「あー、じゃあ俺はお好み焼き奢ってくれよ。休みの日にでも食べに行こうぜ」
「あ、そういうのなら私もいいよ。男子の皆とは話してみたかったし。交流会しようよ」
「なんと謙虚な……。あい分かったでゴザル。お二人のために美味しいお好み焼屋をリサーチしておくでゴザルよ。あ、会長殿と副会長殿も来られるでゴザルか?」
お好み焼きなど三枚でも四枚でも奢る。二人の謙虚さにホロリときたガクトは、袖で目を拭ってから店は任せろと胸を叩いた。
そしてさらに、場の空気が明るくなったところで、裏生徒会の人にもお詫びをせねばと万里たちを誘ってみれば、部屋の温度が二度ほど下がる冷たい視線で万里が問い返して来る。
「あなたは私が罪人である男子と食事をすると思っているのですか?」
「い、いえ、全く思わないでゴザル」
「千代も、そんな汚らわしい男子との食事など認めません。お好み焼きが食べたいなら私が連れていきます」
「じゃあ、お店で合流しようね。二つのテーブルに分かれれば座れると思うし」
姉が連れて行ってくれるのなら、男子もその日に合わせれば一緒に食事が出来る。既に男子とお好み焼きを食べに行くつもりの千代の方がここでは一枚上手だった。
万里は姉妹だけあって千代の性格はよく分かっている。ここでこれ以上否定しても話は進まず、逆に副会長に笑顔で楽しみだねと同意を求め始めかねない。
副会長が千代の言葉を否定できるとは思えないので、ガクトが退学願を書かないのなら話は打ち切り、キヨシや千代には部屋を出て行ってもらう事にした。
「ガクト、あなたは退学願にサインする気はないのですね?」
「うむ。キヨシ殿と千代殿と約束したでゴザルからな。それまでは辞める事など出来ないでゴザルよ」
「そう。私はあなたのためを思って言ったのですが、あなたに辞めるつもりがないなら仕方ありません。せいぜい、周りから受ける扱いに悩むといいわ。副会長、囚人の頭を丸めて監獄に放り込んでおいてください。千代とキヨシは用事が済んだなら部屋を出て行くように。部屋を出てからは会話は認めません。以上」
ガクトの退学阻止という目的を達成した以上、キヨシたちもここにいる理由はない。
副会長に連れられ部屋を出るガクトに続き二人も部屋を出て行けば、静かになった裏生徒会室には万里一人だけが残る。
男子が一人消えるせっかくのチャンスを潰された彼女は、窓際まで進んで外の景色を眺めながら、またしてもあの男が障害になったと苦虫を噛み潰した表情をして不満を吐く。
「まったく、またしても忌々しい。やはり、男子退学オペレーションで外にいる彼にも消えて貰いましょう」
健全な学園生活に男子は要らない。自分たちの理想郷を取り戻すための聖戦が男子に学園から去ってもらう男子退学オペレーションだ。
当初の計画では外にいるキヨシまで退学に追い込むことは難しかった。けれど、相手の影響力を考えればプラプラと好きにさせておく事は出来ない。
最悪の場合、自ら犠牲を払ってでも彼を徹底的に潰しに行く必要がある。そう覚悟を決めた万里は、この戦いは裏生徒会とキヨシで互いの存亡をかけた物になると予感していた。
19巻でも花さんのターンは続く!詳細は漫画で!
P.S.更新が不定期ですみません。