【習作】キヨシ投獄回避ルート 作:PBR
キヨシと再会した花はその場を後にすると裏生徒会室へやってきていた。他の二人は既に集まっていたようで、ようやく復帰した花を快く迎えると、テーブルの上にはお茶が用意されお菓子が並べられる。
それらを摘まみながら会長の万里からこれまでの経緯と今後の予定について聞かされ、作戦名“DTO”こと“男子退学オペレーション”の実行が急務だという事は花にも理解できた。
しかし、目的については分かったが、万里の語ったDTOにはまだ具体的な内容が存在していない。いくら男子が危険な存在だと認知されようと、切っ掛けとなる問題を起こさなければ裁かれたりはしない。
さらに言えば、囚人たちは危険人物と見なされていようと、ただ一人投獄を回避しているキヨシは一部の生徒から一定の評価を得ており、その中には裏生徒会と対立関係にある表生徒会もいる。
いくら裏生徒会が絶大な支持を得ていても全生徒に好かれている訳ではなく、中には彼女たちの人気に嫉妬して嫌っている者や表生徒会を支持している者もいた。
それであまりに強行策を取れば反発は必至。表生徒会やキヨシ支持派の生徒が立ち上がり、裏生徒会失脚のため調査に乗り出すことも考えられる。
万里も当然それは理解しているだろうが、慎重に事を進めねばならないと改めて意識したところで、紅茶のカップを置いた万里が口を開いた。
「囚人たちの調査は副会長に頼みます。刑期延長で苛ついているときこそ弱みも知りやすいでしょうから、DTOの具体案を詰めるため細かな情報も見落とさないように」
「はっ! それにつきましては、現在、クソメガネの孤立という形で仲違いしており、一部の囚人には荒れた様子も見られます。この分ですと数日中に情報は集められると思います」
「そうですか。では、くれぐれもクズ共にDTOの件がバレないようお願いしますね」
こういったものはネタの鮮度が大事だった。脱獄した直後に再び問題を起こせば悪印象は強まり、学校と生徒の両方から男子退学の要望が届くに違いない。
男子らの仲違いを助長させるのも同じで、刑期延長を憎んでいる者がいれば、それを利用するなら感情がはっきりと残る早めの方が良いのである。
囚人らを毎日見ている副会長は、シンゴやジョーが苛ついてイジメを行っている事にも気付いており、反対にガクトがキヨシへの義理とシンゴたちへの負い目で耐えていることも分かっていた。
直接的な暴力こそないものの、逆に男の腐ったようなやつだなと思わなくない陰湿さに呆れてしまったが、今はその陰湿な手口のおかげで事態が長期化しそうな事を喜ぶべきだろう。調べるにせよ、細工をするにせよ、バレないようにしつつ人を動かすには時間が必要なのだから。
副会長がそうやって万里と今後の動きについて確認を取れば、話が一段落したところで復帰したばかりの花が自分はどうしようかと笑顔で尋ねた。
「会長、私は何をしたらいいですかぁ?」
「……あなたにはキヨシの担当を頼みます」
「え、キ、キヨシの担当、ですか?」
予想外の返事に花も少々動揺する。確かにDTOの対象は囚人だけでなく、外でプラプラしているキヨシも入っているけれど、まさか具体的な内容を詰める前から既にマンツーマンが決まっているとは花も思わなかったのだ。
とはいえ、花自身も彼とは色々と決着を付けなければならない事がある。それを思えば二人だけで別行動を取るのはむしろ歓迎なのだが、万里がどのような意図を持ってキヨシ専属担当に己を指名したのか知りたかった花が訊けば、租借していたクッキーを飲み込んでから万里が答えた。
「普段は副会長と一緒に囚人の方を手伝って貰うつもりですが、そちらの仕事に就いていないときにはキヨシをマークしてもらいたいの。アレは単独で動ける分、先日の相撲観戦のようにこちらの予想外の動きを見せてきます。そうなるとこちらも徹底マークで対処するしかありません」
現在、キヨシは完全にフリーになっていて行動も制限されていない。以前まではたまに花が傍にいて監視していたが、花がとある事情でリタイアしてからは監視に割く人員がいなかったこともあり彼に自由を許していた。
だが、先日の相撲観戦のときのように、同性である理事長や裏生徒会と敵対している表生徒会を味方に付け、己の行動を正当化するためだけに正規の書類を新しく作られてはかなわない。
それを阻止するには常日頃から彼をマークし、悪知恵を働かせても行動に移す前に潰すのが上策である。自分の時間を監視のために割くのは面倒だろうが、そこは分かって欲しいと万里が言えば、理由は理解できるが自分が担当として選ばれる意味がいまいち理解できないと花は返した。
「い、いや、でも、会長が首輪をつける感じで連れ歩いたりすれば大丈夫なんじゃ」
「話によればキヨシと一緒に昼食を取ったりしているのでしょう? 私がこれから接触するよりも、これまでの積み重ねのあるあなたの方が警戒されづらいし、キヨシの行動パターンも分かっていると思うの。確かに危険な任務を押しつける形になって申し訳ないけど、どうか頼めないかしら?」
理由はそれか。聞いて思わず花は頭を抱えたい衝動に駆られた。
別に仲が良いから一緒に昼食を取っていた訳ではなく、万里から注意しておいて欲しいと言われたから、相手が逃げないようにという牽制も籠めて一緒にいたのだ。
自分が頼んだことをまさか忘れているのかと一瞬疑いそうになるも、よく考えればリタイア前に取ってた行動が放課後まで延長されるくらいの違いしか無い。それなら電話で呼べばキヨシも来ると思われるので大丈夫かなと花も話を受けることにした。
「わ、分かりました。けど、どういうことを狙っていけばいいんですか?」
「簡単に言えばハニートラップよ。もしあれが勘違いから変な行動を起こしてくれば、叩きのめしてから現行犯で監獄送りが望ましいわ」
「あー……それはじゃあ、二人で放課後や休日に遊びに行ったり的な?」
「そうね。不愉快でしょうけど行動を引き出すためにはそういった事も必要になると思うわ。勿論、私たちはそれが作戦だと知っているから、連絡さえくれれば門限に遅れることも目を瞑ります」
ハニートラップとは、相手を誘惑することで油断した相手を始末したり情報を引き出したりする諜報活動の一つで、その系統から、勘違いをこじらせたキヨシが花に襲いかかる可能性は十分あった。
もしもくれば下劣漢など土に還してくれると思っている花は対処するだろうが、あれでキヨシも油断ならない技を持った者である。不意を突かれて襲われてしまう危険性もあれば、それとは別にある問題点があることに気付いた副会長がその点を指摘した。
「会長、一つよろしいでしょうか?」
「何かしら?」
「私たちは作戦のために動いていても、一般の生徒や表生徒会のやつらから見れば、花とキヨシが遊んでいれば普通にデートしていると思われるのでは?」
副会長が懸念したこと、それは嘘が誠として認知されてしまうことだ。
他の生徒にすればキヨシは現時点では無害。学園内での監視は“男子”に怯えている生徒を安心させるための精神衛生上の理由であったり、男子に学園内を自由に闊歩されると鬱陶しいからという理由だった。
けれど、一歩学園の外に出ればそこは外界でのルールが適用されるようになり、いくら監視名目だろうと男女の仲を邪推する輩が現われるのは必然と言える。ただでさえ女子はそういった下世話な話が大好きなのだ。その話題の中心が絶大な人気を誇る裏生徒会役員と、男子で唯一“イイ感じ”という評価を受けつつあるキヨシとなればゴシップ的に申し分ない。
キヨシにとっては美少女と呼べる先輩との仲を噂されれば満更でもないだろうが、花の方は下衆との仲を噂され余計な尾ひれがついて不名誉な事まで言われてしまえば経歴に傷がつくことになる。今後大学への推薦も含めた進路に響くことも考えれば、肉体的、社会的の両方で危険なことを頼む以上事前にある程度の根回しは必要と思われた。
副会長の話を聞いていた万里は組んでいた腕の片方で顎の辺りに触れると、しばらく考える素振りを見せる。女子たちにただ話を広めてはキヨシに作戦を気付かれる恐れがあり、かとって全く根回しをしていなければ花に危険が及ぶのだ。バレたときのリスクを考えれば実に難しい作戦だけに万里が長考すれば、花と副会長が紅茶のおかわりをしたところで考えが纏まったらしく万里は顔を上げた。
「……一理あるわね。ただ、監視目的で学内では共に行動している事は既に知られているはずです。学外でも同じようにしていると親衛隊の方たちには伝えておきましょう」
バレることを考えればあまり話を広める事は出来ず、しかし、花のために根回しをしない訳にはいかない。
そこで考えた末に万里が出した結論が、親衛隊の者にのみ話を通しておくというもの。
裏生徒会自体のファンは多数いるが、その中で親衛隊に加入している者は一部だ。上から加入を打診されたり、自ら志願して入隊する者もいるけれど、どちらにせよ親衛隊は全学年全クラスにほぼ満遍なく存在するため、どこかで噂が立っても火元となった生徒の把握と火消しは容易と思われた。
ベストとは言い切れないだろうが、現状考え得る仲ではベターな選択肢。これでどうだと万里が二人に尋ねれば、副会長も花も頷いて返したことで今後の方針は決まった。
「それでは、キヨシとどのように過ごすかは一任します。証拠も残せるようなら残してちょうだい」
「はい、了解しました」
作戦について聞かされた花はしっかりと頷いて返す。万里が彼女をキヨシ担当にしただけでなく、その行動まで自由に任せたのは理由があった。
その昔、二人がまだ一年生の頃、当時の裏生徒会長の命令で頻発するナンパ男を狩るように言われたことがあり。二人は私服で駅前に立っていたのだが声を掛けられなかった。
目の前で何人ものクズが女性らに声を掛けているのは見ていたが、どうして自分たちのもとへは来ないのだろうと疑問に思っていたとき、花の発案で万里は別の服に着替えることとなった。
万里としては品がないというかあまりセンスが良いとは思えない服だったのだが、男はそういうのが好きという花の言葉の通り、着替えてからは次々とクズが現われては泣きながら帰って行った。
以降、万里は花が男心を知っているものと認識しており、ハニートラップをしかけるなら己や副会長よりも適任だとも思っていたのだ。
もっとも、声を掛けられなかったのは男心以前に万里の私服センスが個性的だったからなのだが、キヨシ担当になったもう一つの理由を知らない花は、他の二人から復帰を祝われ楽しいお茶の時間を過ごしていった。
八月に監獄学園作者の平本アキラ氏の画集『眼福 Gampuku』の発売が決定!
監獄学園のカラーイラストやイラストのカラー化など多数掲載らいいですよ。