【習作】キヨシ投獄回避ルート   作:PBR

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 今回、キヨシの台詞の一部にルビが振られていますが、それは男子たちにはそう聞こえるという副音声的な演出です。
 キヨシが実際に口に出している言葉は台詞の通りですし、女子たちにもキヨシの言葉は台詞通りにしか聞こえてませんので、あくまで男子たちにはそう聞こえているという演出だと思ってください。


第2話 謝罪の王様

 

「さぁ、さっさと残りの一人の居場所を吐け!」

「ギャアッ!!」

 

 眼鏡をかけた凛々しい顔つきの女子、裏生徒会副会長の白木芽衣子が振るった差し棒がガクトの太腿を打つ。

 バシンッ、と肉を打つ強烈な音と共に叫び声が中庭に響くが、実行部隊が情報を吐かせようと制裁混じりの攻撃を加えても、誰一人してキヨシの居場所を吐かず、覗きは自分たちだけと言い張った。

 だが、男子四人が覗きをしていながら、残りの一人だけしてないなどあり得ない。変な仲間意識で庇うというのなら、根を上げて吐くまで痛め続ければ良いだけのこと。

 

「副会長、残りの一人の所在を吐くまで続けなさい」

「はっ! 会長が言われたとおりだ。そんなに言いたくないのなら、言いたくなるまで続けてやろう!」

 

 副会長の後方で腕を組んで様子を眺めていた裏生徒会長の万里が言えば、副会長は命令通り再び尋問のための差し棒を振るおうとする。

 敬愛する会長からの命令で張りきったのか、今日一番の威力が乗った攻撃がシンゴの股間を打とうとしたそのとき、

 

「――――俺ならここにいます!」

 

 集まった女子たちの後ろ、校舎の方からキヨシが現れた。

 真剣な表情のまま一歩一歩近付いて来るキヨシに、女子たちは自然と道を開けて彼を通す。

 制止が間に合わず副会長に股間をぶたれたシンゴは声なき叫びを上げ、他の男子らはやってきてしまったキヨシを見て涙を流しているが、彼らの前にいたこの学園を統べる裏生徒会の者たちはアイコンタクトを取って、空手IHベスト4の実力を持つ、裏生徒会書記の緑川花を差し向けた。

 前髪ぱっつん女子の花はゆっくり進むと途中で立ち止まり、一切の怯えを見せずにやってきたキヨシと対峙する。

 六メートルほどの距離を開けて向い合うと顔がよく見えるが、キヨシの表情を見た花は彼に対する警戒を一段階引き上げた。

 これだけ大勢の女子に囲まれていながら、相手は欠片も怯んでいない。開き直りやハッタリかとも思ったが、キヨシから感じる気配はインターハイの猛者達と同じ強者のオーラ。

 彼は構えも見せず自然体で立っているだけだが、迂闊に飛び込めばやられる可能性もある。花が警戒レベルを引き上げたことで、会長たちもキヨシが只者ではないと感じ取ったらしく、その場に緊張が走った。

 そして、両者動かぬまま一分が過ぎたとき、花をジッと見つめていたキヨシが口を開いた。

 

「どなたか存じませんが、やめた方がいいですよ。やりあえばただじゃ済まない(俺が死ぬ)

「はぁ? アンタみたいなのに負ける訳ないじゃん」

「俺たちは言葉を交わすことが出来る。なら、暴力は必要ありません」

 

 相手が口を開いてきた事で花が構えを取れば、キヨシはフッと笑って首を横に振る。

 モテたくて受験勉強と並行で筋トレをして細マッチョボディを密かに手に入れていた彼は、相手の実力を知らないため、ゆるふわな雰囲気の女子に多少殴られても無事に済む自信はあった。

 けれど、痛いのは嫌だ。可愛い女子とのコミュニケーションは嬉しいが、自分はアンドレのようなマゾヒストではない、と暴力での解決を断固として拒否した。

 故に、相手の虚を突いて駆け出し一気に距離を詰めたキヨシは、

 

「なにより――」

「くっ!?」

 

 反応して振るわれた少女の拳をギリギリで受け止め、

 

「――貴女にはこちらの方が似合います」

 

 逆の手に持っていた三色のガーベラが包まれた花束を彼女の前に差し出した。

 

「あ、ありがとう……」

 

 受け止められた拳が解放された花は、予想外の事態に困惑しながら素直に花束を受け取ってしまう。

 キヨシの突然の行動には誰もが驚いただろう。普段から花束を持っている男などおらず、持っていたとしても、敵として向き合った者を口説くために利用するとは思わない。

 しかし、腹痛から解放されてハイになっているキヨシは、恐れるものは何もないという決め顔のまま、殴られたくない一心で接敵しプレゼントによる奇襲作戦を成功させた。

 学園内でも有数の実力者である花を、そんな暴力に頼らぬ手段により無効化するなど、まるで底が知れない。

 女子の方が圧倒的に数で勝るというのに、現在この場を支配しているのは、間違ないなく花との対決が終了してゆっくりと近付いて来るキヨシだった。

 

「くっ……そこで止まりなさい!」

 

 このまま呑まれてたまるか、と他の者よりも復活の早かった会長が制止の声をかける。

 傍に副会長を控えさせながら男子らの前に立ち、近付いて来るキヨシと五メートルの距離で正面から対峙した。

 顔がはっきり見えた事で、会長もこの男が一切の恐れを抱いていないと確信する。

 相手は他の男子と同じように汚らわしい覗き魔であるはず。にも関わらず、恐れていないだけでなく、自信に溢れた表情のまま自然体で立っている。相手の実力が不明である事も手伝い、会長はこの男にどう立ち向かえばいいのか分からなかった。

 しかし、自分はこの学園の秩序を守る裏生徒会の会長である。そう律する事で冷静さを取り戻した彼女は、真っ直ぐキヨシを見つめて言葉を発した。

 

「逃げなかった事は褒めてあげます。ですが、アナタもこの男たちと同罪、相応の罰を受けて貰います」

「フ、フフフ、フハハハハッ!」

「キサマ、何がおかしい!?」

 

 会長の言葉を聞いて突然高笑いを始めたキヨシに顔を顰め、副会長は相手の胸倉を掴むと笑った理由を問い質す。

 長身である上にヒールのブーツを履いた彼女に胸倉を掴まれれば、身長差の関係でキヨシの身体は浮く。

 会長に対して無礼な態度を取られ、憤っている彼女を前にビビらずにいれる者は少ないが、一頻り笑ったキヨシは真っ直ぐ相手の目を見ながら手を払うと、しっかりと着地して答えた。

 

「やはり、貴女達は勘違いしているようだ。俺は覗きなんてしていません。夕食の後、腹痛でそのまま保健室に行って休んでいたんです。途中にトイレに行きましたが十分ほどで戻っています。保健室と風呂場までの距離を考えれば走らないと戻るのは不可能。ですが、保健医の先生は俺が普通に戻った事を知っています。走っていればあり得ないことだ。先生に確認して貰ってもいいですよ」

 

 信じられない言葉を聞いた会長たちは目を見開く。だが、相手の言っている事が本当ならば、いくら彼らの仲間であったとしても裁く事は出来ない。

 一人だけ別行動などあり得ないとキヨシを疑う気持ちはあるが、これだけの人間に囲まれながら不敵に笑っている様子を見れば、彼の言っている事が本当のように思えた。

 男子をまとめて処分したいと考えている会長は、緊張から汗を滲ませつつも親衛隊の女子を一人保健室に走らせ、保健医から彼のアリバイについて訊いて来るよう命じる。

 命じられた女子は駆け足で保健室に向かい。キヨシと会長たちが向き合ったまま長く感じる五分を過ごしたとき、ようやく戻ってきた女子が会長たちに聞いてきた事実を述べた。

 

「この男の言っている事は、本当でした……」

「つまり、こちらの四人だけが覗き魔ということですか……分かりました。アナタは寮に帰っていなさい」

「お断りします。俺はこいつらに話があって来たんです」

 

 キヨシが無関係と知った会長は苦虫を噛み潰した表情を浮かべるも、すぐに冷静さを取り戻して彼に寮へ帰る様にいう。

 だが、誤解が解けたなら勝手にさせて貰うとばかりに、キヨシは彼女らの横を通り抜けて、男子を縛っているロープを解き始めた。

 中々の固さだが解けないほどではない。ガクトのロープが解ければ、次にシンゴのロープに移ろうとしたとき、副会長が駆け寄ってきてキヨシの腕を掴んで止めた。

 

「何を勝手な事をしているっ」

「これだけ囲まれていれば降ろしたって逃げられませんよ。それに最終的に下ろすのなら、今か後かの違いでしょ」

 

 どうせ後で解くのなら手間が減るのだから構わないだろう。力の宿った強い瞳を向けながら返し、会長も好きにさせろと首を横に振ったことで、副会長は男子らが逃げ出さぬよう傍に控えておくことにした。

 邪魔がなければ作業は簡単。本当は馬鹿力で掴まれたところが痛かったが、キヨシはそれを表情に出さずに全員のロープを解くと彼らを地面に下ろした。

 

「オマエら、大丈夫か?」

「う、うう、キヨシ殿ぉ」

「わりぃ、キヨシ。オレら……」

 

 地面に下りた男子らは助けてもらった事に感謝し、さらに申し訳ないと涙を浮かべて謝ってくる。

 冤罪で一緒に捕まっていたらキレていたかもしれないが、自分の無罪は確定している。そのため、キヨシは笑顔を向けたまま彼らに手を貸すと、ゆっくり立たせてやった。

 そう、彼のターンはまだ終わっていない。

 

「オマエら、歯ぁ食いしばれ!!」

『うごっ、ぐえっ……がはっ』

 

 まさに一瞬の出来事だった。構えたと思えば、次の瞬間には目にも止まらぬ速さでキヨシが連続の拳と蹴りを放つ。

 鳩尾にくらい身体を畳みかけたところでアッパーを喰らうガクト、執拗に脇腹を殴られ倒れるシンゴ、逃げようとしかけたところで肩に蹴りを喰らって吹き飛ぶジョー、膝を刈る様に蹴られバランスを崩したところに肘で顎を殴られたアンドレ。これら全てが五秒にも満たないうちに行われ、キヨシが全員をノックアウトしていた。

 その技はジークンドー。モテるために細マッチョを目指すのなら、格闘技くらい出来た方がいいんじゃねと週刊誌の裏表紙の裏に書かれた広告の通信講座で身に付けたのである。入門・初級・上級・実践編でテキストとDVDが分かれており、お値段なんと合計で四万七千円。

 いつもDVDを見て部屋で練習していた素人の見よう見真似だったが、怒りでリミッターが外れた彼の技は冴えまくっていた。

 

「ゲホッ……き、キヨシ、急に何を……?」

 

 しかし、優しくされて油断していたところを攻撃された者たちは、女子にやられた攻撃よりも痛いし、女子の攻撃と違って殴られても嬉しくないと本気の涙を流しながら、何故こんな事をするんだと問うた。

 

「見損なったよ、オマエら。なんで、なんで、こんな事になる前に一言俺に相談しなかった(誘わなかったんだよ)!?」

 

 仲間たちの問いに答えるキヨシは拳を震わし泣いていた。女子たちには仲間のしでかしたことを情けないと思って泣いているように見えているが、実際は自分も覗きがしたかったという悔し涙だ。

 

「俺たちは仲間じゃねぇのかよっ!? 相談していれば、もっと他に、こんな、傷付く人しかいない事(残念な結果)にはならなかったかもしれないのにっ」

「ご、ゴメンね、キヨシくん……」

「すまぬでゴザル……」

 

 キヨシの涙を見た仲間たちは彼の心情を察した。確かに自分だけ除け者にされれば寂しいし、それが桃源郷を目指す冒険ともなれば悔しくも感じる。

 人数が一人増えれば、見張りを立てるなど、もっと見つからない方法を考える事も出来たかもしれない。

 キヨシの流した涙を見るまでその事を忘れていた男子らは、今回の件は欲望に囚われ仲間を蔑ろにした罰が当たったのだと理解した。

 

「……一つ聞かせてくれ。オマエら、女子の裸は見たのか?」

「いや、覗きを決行する前にそこの人らが来たからみてねえ」

「ごほっ……ああ、それだけは本当だ」

 

 静かなキヨシの言葉にシンゴとジョーが真剣に返す。

 ここで少しでも嘘偽りを述べれば、この学校で出会って芽生えた友情に入ってしまった亀裂が修復不可能なものになる。結果的にキヨシをハブってしまった手前、シンゴたちにそんな事は出来なかった。

 

「そうか。良かった、本当に被害に遭った子はいないんだな。それならオマエらを見限らず(嫉妬で殺さず)に済みそうだ」

 

 彼らの本物の言葉を聞いたキヨシは制服の袖で涙を拭い。顔を上げるとどこか吹っ切れたような表情で笑みを浮かべる。

 先ほど放たれた攻撃の痛みとイメージが残っている仲間たちは、裸を見ていたら本当に殺されていたかもしれないと背筋が寒くなった。

 けれど、彼らが何も見てないと分かったキヨシは、ここにいる者たちはまだ仲間だと確信が持てた。仲間ならば助けるのが当然である。

 

「それじゃあ、こっからは俺の仕事だ、オマエらは何もするな。黙って見ておけ」

 

 そう言った彼は仲間に背を向けて会長の方へ真っ直ぐ進んでいく。

 睨むようにギラギラとした瞳を向けてくるため、先ほど男子らをやったように会長も攻撃するつもりかもしれない。

 そう考えた副会長と花が会長を庇うようにキヨシの前に出ると、相手は数メートルの距離を開けて立ち止まり、制服が汚れることも構わず突然その場で綺麗な正座をしてみせた。

 まさか、と彼が正座したのを見た会長たちは次の行動を予想する。そして、“そのまさかよ!”とばかりにキヨシは地面に手を突き、勢いよく頭を下げた。

 

「本当に――――申し訳ございませんでしたっ!!」

「なっ、急に、何をっ」

 

 予想していたというのに、実際に目にした会長は戸惑ってしまう。

 それは本当に見事な土下座だった。正しい姿勢から繰り出される土下座は、こんなにも美しいのかと思ってしまうほど、キヨシの土下座は情けなさなど一切ない見事な謝罪の意を示していた。

 

「こいつらが最低な事をしたって分かっています。ですが、どうか、どうかもう一度、こいつらにやり直すチャンスをください!!」

 

 急に土下座を始めた彼を見て呑まれていた者たちは、上げられたキヨシの顔を見た瞬間に驚愕する。

 女子との戦闘を回避して無傷で現れたはずなのに、今のキヨシは額から血を流して顔だけでなく制服まで赤く染めていた。

 どうして血を流しているかなど考えなくても分かる。彼は土下座で額を地面にぶつけていたのだ。

 

「キヨシ殿、額から血がっ」

「やめろって、キヨシ。オマエがオレらのためにそんなことする必要ねえよ!」

「五月蝿い、黙ってろ! 仲間のために頭を下げるのが“そんなこと”だなんて俺は思わねぇっ」

 

 無関係であるはずのキヨシが自分たちのために頭を下げている。それも額を地面にぶつけるほど本気の謝罪だ。

 それを見たシンゴ達は、仲間にこんな事をさせてしまった己を情けなく思い。それと同時に、自分たちのためにプライドを捨てて身体を張ってくれるキヨシの気持ちを嬉しく思った。

 

「未遂とは言え覗きは犯罪です。女性の人権を無視した、本当に最低な行為だってことも分かっています。ですが、図々しい事は承知でお願いします。謹慎でも、社会奉仕活動でも、罰を受けさせますから、こいつらにこの学園で更生するチャンスを下さい! お願いします!!」

 

 彼の言葉は裏生徒会だけに言っているのではない。この場にいる女子全員に向けられていた。

 いくら裏生徒会が退学より罰を軽くしようと、被害者になりかけた女子らが認めないのでは意味がない。

 だからこそ、キヨシは自分に出来る精一杯の形でお願いしていた。どうか今回は彼らを許してやって欲しいと。

 そうして、キヨシが地面に手を突き頭を下げ、黙って見ていろと言われた四人が仲間への申し訳なさに涙を流して肩を震わせていたとき、集まっていた女子の中から小さな拍手が聞こえてきた。

 

「これはっ!?」

 

 予想外の事態に驚いたのは裏生徒会の方だった。

 キヨシの見せた土下座が形だけのものではない事は伝わった。自分のプライドを捨ててまで仲間を助けようとする姿には、むしろ誇り高さすら感じられた。

 けれど、規則は規則。外でやれば犯罪になるところを、退学で済ませてやるのだから甘いくらいだろう。

 そう思っていたのに、キヨシの想いが女子たちに届き、それらはどんどんと広がって中庭は拍手の音で溢れていた。

 被害者が許すというのなら罪は多少軽くなる。元女子校で覗きをしようとしたのだから、完全に無罪にすることは出来ないが、それでも退学まで持っていく事は実質不可能になった。

 行動の読めない男と、その男に感化された女子たちが疎ましい。心の中でそんな風に思いながら、会長は手を上げて女子たちに拍手をやめさせると腕を組みなおして静かに口を開いた。

 

「四人の処分は明日正式に伝えます。今日は寮に戻っていなさい。それから、アナタは保健室に行って治療して貰うように、以上」

 

 顔を上げたキヨシにハンカチを渡すと、会長は裏生徒会の人間を連れて去って行った。

 その後ろ姿を見送ったキヨシたちは、解散して女子がいなくなると、四人の命が首の皮一枚繋がったことを泣きながら抱きあって喜んだ。

 

 

 

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