暮秋に変な新聞記事を見掛け、忘れた頃、暦上の季節は初冬、体感の季節は紅葉時季の秋一色、土曜日の午後に東京郊外の高等学校に在籍する女生徒達が依頼を持ち込み、事務所最高責任者は興味を示す事無く断ったそうだ。翌日日曜日、破戒僧が本職の恰好で事務所を訪れ、当時私は金髪の麗人の要望で家電量販店へ同行していた為、破戒僧の戒律なぞ何処吹く風と言う恰好を目撃出来ず、隣人の御馳走になって晩御飯を認める時、麻衣の噴飯物の破戒僧の服装を聞いて、御飯を噴き出しそうになった。事務所を訪ねる人は、大概依頼を持ち込む依頼人で、自力で除霊出来る破戒僧には風馬牛な場所と思われ、何故本職の恰好の儘、渋谷道玄坂の高楼二階の事務所を訪れたのか、訳を尋ねると仕事の誘いらしい。土曜日に女生徒達が齎した仕事を、図らずも事務所とは無縁に等しい破戒僧が再度持ち込んだ。同日、事情の説明を終えた直後、某高等学校の校長が依頼を携え事務所の扉越しに挨拶したそうだ。そうして本日月曜日、予備調査の為に某高等学校へ遣って来た私達は、上司と素人調査員麻衣と破戒僧の三人が校内の聞き込み、私と助手が近隣住民への聞き込み調査を担当する事になった。麻衣の気の毒そうな顔に腹が立った。
季節は暮秋が残暑の蒸し暑さを際立たせ、暦上の冬に突入する頃、周囲の模様も秋めいて熱気が落ち着き出し、長袖の活躍する季節を皮膚の毛穴の収斂、鳥肌が身近に感じさせる。銀杏並樹の公道を自動車で行き、東京郊外の電車通学が一般的な地域の隅に建つ混凝土校舎を窓外に認め、校舎裏と言うか体育館裏と言うか、教職員や部活動の持つ小型の乗合自動車が停車する駐車場に事務所の車を停めて、校長室で挨拶した後、青褪めた顔の教員の嚮導で、調査活動の中心となる部屋、小会議室へ向かう。予備調査用の機材設置も、生徒への聞き込みも終わっていないのに、道案内の教員がその儘相談事があると言い出した。相談内容は単純明快、窓を叩く音が気に掛かる、異様に気に掛かって教員は顔色が蒼白になる程心身共に鬱気味で、仕事も私生活も困る。結局破戒僧の手製の護符を貰って、様子を見る事になった。到着早々、一目で絶不調と解る人の相談を受け、思案顔の上司は、上記の通り私と助手に校外での聞き込み調査を命じた。事務所最高責任者にして最大権力者の下知を否と返す訳にもいかず、麻衣と離れて仕事を始めた。
到着時は秋晴れの青空に黄色い太陽光線が降り注ぎ、特徴の無い混凝土校舎の鼠色を薄めて、教員の相談に傾聴する間、高い青空は低くなり、薄雲が棚引いて陰影を濃くし出す。週始めの授業中と言う事を気遣い、裏口から学校の敷地外の住宅街へ繰り出した。裏門を潜り、暗渠の蓋を踏み締め乍ら、閑静な住宅街の混凝土屏が家並を区切る道路の端を歩き、一軒一軒、呼鈴を鳴らして、時に直接顔を合わして学校事情を聞いて、時に機械越しに生徒事情を聞いて、解った事は電車通学が多い為に生徒間の噂話は中々出回らない。近隣住民の某高等学校の生徒に対する総評は、行儀良い子達。丸で報道番組の報道記者の気持で聴取を行い、通り一遍の評価内容に感心した。清康な心身を、他者の目線で、他者の理想夢想を強要される某高等学校の生徒達に同情し、黒い瓦屋根の隙間に斜陽の橙色が射し込む頃、一度小会議室へ戻る事になり、助手一人で片付く仕事に同道した自身の役割を真剣に考えた。
幾ら尋思し様が本質を見定める事の困難な、上司達の事情を、無関係な私が悩んだ所で意味は無い。赤味の強い橙色の落日が、簡素な倉の軒端の枯葉一枚無い裸の梅の枝の向う側に、地平線の一本線を長く引いて、蕭颯たる枝の撓る音が住宅街の静寂を劈き、何気無く枝の音の響く方を見遣ると、数条の落日の光線が地平線下に吸い込まれて行った。暫時蓋の角の欠けた暗渠の上で残照の橙色が夜陰の薄紫に蚕食され、墨汁の夜の気配が頭上に到達して、先頭を歩く助手が頓馬な素人調査員の出勤の遅刻の原因を見て呆れ、態々引き返して腕を取る。その催促に応え、漸く真面に助手の不興顔を見上げ、一足二足と歩き出す。予備調査の一環の近隣への聞き込み調査は、大体助手が行う。以前の仕事、避暑地の幽霊屋敷の老爺の素行調査も助手が行った。一人でやれば早く終わる仕事を、素人調査員は世話が掛かるから、常の聞き込み調査の所要時間を大幅に超え、日没後に上司の構える所へ戻る、と言う失態を演ずる羽目になる。今度の仕事の被害者は、助手も同じである。
暗渠の蓋の、踏むと音の五月蠅い箇所があり、意識を半ば飛ばして油断していると突然騒音が足下に起こるので吃驚する。業務連絡の場合も言葉数の少ない彼と、普段から寡黙な私が隣り合って歩けば、無言の不審者二人が住宅街を闊歩すると言う変態行為を曝す。年齢幅もある不審者同士、幼稚園児や集団登下校をする児童の父兄は、さぞ心配であろう。案ずる事は無い。不審者同士、少なくとも一方の不審者は自身の不審振りを理解し、又警察の職務質問の餌食となる事を案じている。不審者の行動も楽ではない。行動も楽ではないが、無言の儘小会議室への道程を踏破するのも楽ではない。私は人間関係に消極的だが、積極性を取り入れる事は一応検討している。積極的人間関係の構築の捷径は、一に会話、二に会話、相互理解の為に会話が必須である事は常識と解る。理解を得られず消極的人間関係を構築する事は、即ち世界の狭さを意味し、最も適当な人物は糞爺で、勿論私自身も同じだが、退嬰的思想や人間関係が齎す未来は碌なものでない、それは想像に難くない。
積極性を取り入れる前段階として、話題作りを考えた。しかし、話題を振っても接ぎ穂が無い。彼と盛り上がる話題は一個考え付いたが、私の理解度が追い付くか自信が無かった。無いが振らなければいつ迄も私達は無言の儘である。
「常々思っていましたが」と私は今思い付いた事を言った。
「リンさんは、陰陽師? 兎に角、術師、シャーマンでしょうか」
「私は霊媒ではありません」とリンさんは突慳貪に言った。
「術師ですか?」
「それが?」とリンさんは鰾膠もしゃしゃりも無い。
「シャーマンファイト、星の王様を決める大会を御存知ですか?」
リンさんは一寸目を見開いた。「貴女の口からシャーマンファイトを聞く日が来るとは思いませんでした」
「リンさんは参加されなかったのですね」
「前に言った通り、貴女の言う大会に参加出来る実力がありません。参加資格が必要と聞きますが、資格が何なのかすら解りません」
「幽霊を見る事と、霊媒は違いますか」
「違います。霊視と霊媒は違います。言葉通りの意味です」
「可笑しいな。私の知る人達、霊能者は幽霊を見て、幽霊とか精霊とかと憑依合体します」
リンさんは又目を見開いた。「憑依合体まで御存知で」
「見た事はありますが、生憎幽霊が見えませんから、何が起こっているのか丸で解らない」
「そう言うものでしょう。オーバーソウルは御存知ですか?」
「死に掛けた時に、一度だけ見ました」
「どう言う現象か、解りますか?」
「物に霊を入れるのでしょう? 巫力で霊の霊力を具現化するんでしたっけ? 私は霊能者の修行を間近で見ても、何が何だか解りません。当然、詳しい説明もされません。気になって、聞く事はあります。そうすれば、答えて呉れましたけれど」
「それだけ御存知ならば、貴女の見聞きしたものは本物なのでしょう。正直、疑っていました」
「そりゃ、そうだ」
「申し訳ありません」
「いえ、別に、謝る事ではないでしょう。ラキストさんは神父らしいけれど、大会参加者っぽくありませんもの」
「ラキストさん、モンゴメリさんが参加者である事は、勘ですが、何となく察してはいました。私の式にも、気付いておられましたから」
「式って、オーバーソウルでは?」
「詳しい説明は難しい。ですが、オーバーソウル未満、ですね」
「そう言う術もあるんだ」
「いえ、オーバーソウルを形にしようとして、結局出来なかったんです」
「よく解らない。霊能者は、宗教の問題もあるのか、価値観が霊能者でない人間より複雑なのか知ら」
「大して変わりません。絶対数が少ないですから。大勢なら戦争が起きますが、少人数なので、喧嘩と言う規模にしかなりません」
「結局、この星に居る人数次第なのですね」
「そう言うものです」
混凝土校舎の見え出した所で、霊能者と非霊能者の会話は途絶えた。裏口を通って校舎に入り、小会議室へ入ると、もう皆帰り支度を整えて、私達の調査結果を聞くと明日に本格的調査を持ち越し、事務所の自動車に乗って一度渋谷道玄坂の建物の前に戻った。
部屋に帰り、翌日午後、皆揃って小会議室へ向かう。又助手と話す機会があって、それは当日の後半の話だ。
火曜日の午後は憎き晴天に薄雲一つ無く、肌寒い秋風が吹いて薄い皮膚の張る箇所に粟を生じ、長袖の裾を引っ張って調節した。無愛想を極めた様な混凝土製の建物は、無愛想故に特徴が無くて、薄ら寒い季節も相俟って身震いが止まらない。上司先導の下、余り馴染みの無い小会議室の扉を潜り、霊能者達は校内の巡邏旁、聞き込み調査で発覚した被害者乃至異常事態に怯える者達からの事情聴取の任を与えられ、素人調査員達は馴染みの深い学校と言う施設の不慣れな会議室で待機となった。上司と助手も調査を続行し、小会議室を退室する際、連絡用の機械を長机に置いて、漫画等で見た事があるレシーバーと言う機械が珍しい私は、顔を寄せて黒い胴体に見入った。機械操作は操作の仕方を詳細に記した資料を熟読した私の方が得手だが、調査の度に新規導入した機械に興味津々、興奮気味に弄るのは私で、無関心なのは麻衣の方だ。連絡用の黒い箱型機械を凝視する私の意識を、昨日書き取った摘録を整理整頓の為に現実へ引き戻し、塵も積もれば山となるを体現した紙屑の山を笑顔で指差した。
薄い紙屑が一枚、机上に堆積して大山を築き、麓に崩落する山の一部を丁寧に山巓へ積み上げ、見果ても無い整理整頓の苦行に没頭し、小会議室の校庭側の窓際に連なる情報収集用の機械を見て、手作業より事前に機械に入力するのは、と愚痴を零した。麻衣も荒んだ黒目を会議室の防音壁に向け、黒穴を数える様に目を細め、その仕草が睡魔と闘う目付きなので、一人紙屑の整理と言う難事を前に放置される事に危機感を覚えた私は、華胥の国の祝福を受けんとする麻衣の後頭部を引っ叩いた。頭蓋骨と指骨の衝突音が戞然と響き、心地好い音と、不愉快な疼痛に指を撫ぜ、華胥の国から帰還した麻衣と整理整頓を再開する。飄逸な睡魔は重要性は知らないが、細かい作業中の私達に容赦無く襲い掛かり、互いに瞼が下がり出し、その都度互いの頭部を叩き合って覚醒を促し、余計に馬鹿になる事を思い付いて止めた。可哀想な頭の自覚はある。
紙屑の標高が地平線と近くなる頃、破戒僧に依頼を持ち込んだと言う女生徒、高橋さんが小会議室を訪れ、整理整頓の大半が済んだ為、小憩していた私達は室内の雰囲気の豹変を喜んだ。空気の変動を交歓しても、既述の通り人間関係の構築に消極的な私は、積極性を取り入れ様にも積極的会話を試みる勇気が欠如していて、結局麻衣と高橋さんの歓談を間近で盗み聞きするに終わった。雇用迄の経緯の説明や素人調査員の事件の考察、談笑を窓際の機械弄りや校庭側の秋模様の観察に費やし、背後の会話を盗み聞きする意識を、次第に表の景色を眺める方へ傾け、突然麻衣の会話を中断、否、気に掛かる単語の子細を聞き出す為、高橋さんの言葉に割り込み、超能力云々と悲鳴染みた声を上げた。咄嗟の場面に一瞬身動きを止め、素早く連絡用の機械を取って、常々操作したいと熱望した機械を弄り、助手と調査を続行中の上司へ取り次いだ。機械の雑音と玲瓏たる声音が混淆する中、上司の諒解の言葉が途絶え、間も無く調査に出掛けていた二人が戻った。
さて、描写も説明も七面倒臭い。要するに某高等学校の三年生に笠井と沢口と言う生徒が居て、特に笠井と言う生徒、スプーン曲げと言う世間一般の超能力の話題では比較的凡庸─超能力の時点で凡庸ではないが視認可能な現象では特別新鮮味が無い─な奇跡を見せ、紆余曲折を経て、全校集会の壇上で吊るし上げと言う憂き目に会った。壇上では沢口が教員の自動車の鍵を、その場で、念じて屈曲させ、教職員の集中砲火を浴びて、登校拒否の状態へ追い詰められた。只、同じく壇上に居た笠井は、保健室登校ならぬ生物室登校をしているそうだ。
何か琴線に触れた事務所所長、私に助手を命じるが、私は暑中休暇の間、金髪の麗人を親友に紹介した翌日、親友から恋愛相談を受けた。曰く、旧校舎の事件以来、避暑地の幽霊屋敷でも上司の登場する夢を見る、容姿端麗だが天上天下唯我独尊、傲岸不遜を絵に描いた様な奴に惚れた、如何しよう。そんな相談をされて、私が如何しよう。親友が誰かに懸想する日が来た事実を喜び、又恋愛と無縁の私が恋愛相談の相手に不相応な事を諒解している筈の彼女が、無愛想で寡黙で恋愛より賃仕事、人間関係より嫌でも孤独を選ぶ私に持ち掛けた事に意識の混乱を見て取って、小会議室内で助手に任命された私は非常に困った。苦慮の末、睡魔に作業を邪魔され涙したと、麻衣を指差して言った。私の窮余の一策が効を奏し、上司が眠気と闘う麻衣に助手を命じ直した。
小会議室に残るは起動音の五月蠅い機械と静かな機械、機械と格闘する助手に紙屑の整理がすっかり済んだ私、高橋さんは授業中も自習と言って破戒僧の帰還を待ったが、小憩時間を挟んで又授業の予鈴が鳴り、今度は移動教室と愚痴を零して小会議室を出て行った。なので寡黙な者達と言葉を持たぬ機械達が室内に残り、資料を捲る音、機械の操作音が反響する中、便々と時が過ぎるのを待った。
閑寂な小会議室の会議用の長机の前で、私は黒線の模様を読過し、異国の大地では退屈を謳歌して空の模様を見上げる事を満喫したが、都会の片隅に隠遁してからは、退屈を苦痛に思い出した。時折暇潰しに空を眺め、曇天の日は雲の濃淡を堪能し、晴天の日は暇で暇で、長時間続く退屈の過ごし方に困却した。私は異世界で、真の孤独に襲われた経験が殆ど無い。精々山田さんの死後と糞爺の戴冠式─冠の有無は知らない─の際に孤島で皆の無事を祈り、帰還を待ち望んで居た時位だ。小会議室では勿論、助手が機械を弄る背中を、振り返れば自身の直ぐ後ろに居るので首を回すだけで確認する事が出来る。無言にしろ、孤独ではない。矢張り私は、孤独とは縁遠いのかも知れない。
「大海原さん」
私は突然の指名に仰天して、椅子から飛び退いた。
「何でしょう」と私は警戒態勢で臨んだ。
「いえ、昨日、死に掛けたと仰いましたが、何かあったのでしょうか。その出来事があって、XーLAWSは貴女の安全確保に慎重なのでしょうか」
「嗚呼。それは、詳しい事は言えません。只、火事で死に掛けました。その時、霊能者のオーバーソウルを見たのです。ラキストさんは解りませんが、XーLAWSの事情は、ミイネさんの方が詳しいと思います。良くも悪くも、ラキストさんは私に甘いそうですから」
「成る程。時に、モンゴメリさんは霊視能力を持ちますか?」
「その霊視、心を読む、と言う意味ではありませんよね」
「心を読む能力は、日本語では読心術、精神感応も近いかと。ですが、私の言う霊視は、霊を視る能力です」
「……出来ます。でなければ、大会に参加出来ません」
「そうでした。モンゴメリさんは、貴女に危険がなければご協力頂けないのでしょうか」
「そう言う訳ではないかと。それは、ミイネさん個人の問題です」
リンさんは機械の操作を中断し、何か思案する。
私はふと思い付いた事を言った。
「リンさんの式は、リンさんの持ち霊と言う事でしょうか?」
「持ち霊……」リンさんは微苦笑を浮かべて続ける。「久しく聞かない言い回しだ。大概は皆、使役、と言いますから。ですが、確かに、持ち霊とも言います」
「リンさんは霊を支配してこそシャーマン、と思いますか?」
「昨日言いました様に、私は霊媒ではありません。只、世間一般に言う霊媒は、霊を降ろす事が出来る程度です。支配、と言うのは、それこそ、シャーマンファイトに参加、或いは目指す者の台詞ですね」
「……支配は、……霊の気持を…………いえ、使役は霊を支配するのでしょうか?」
「そうですね。従わせる、従える、と言う事です。支配に近いですが、一方的な関係では成り立ちません。従えれば強制力はありますが、使役の方から術師を見限る事もあります」
「では、持ち霊が尊敬する、従いたいと思える人格でなければならない?」
「使役にする霊、妖にも性格があります。主との相性も大切です」
「難しいですね。術師は複雑だ。霊能者と術師は違いますか?」
「極端な例ですが、原さんは術師、と言う訳ではありません。飽く迄霊媒師です」
「成る程、術師は術を使う人。でも、口寄せも術では?」
「口寄せは憑依現象の一つです。ある意味、現象でしょうか」
「吃驚です。でも、そうでないと、皆が術師ですね。霊能者と術師は違う、成る程、少し解りました」
リンさんは微苦笑を浮かべた儘、機械に向き直った。
その後、又高橋さんが授業の合間を縫って顔を見せ、事務所から持参の紅茶を出して接待し、甲論乙駁する霊能者達と、遅れて調査員達が小会議室に帰って来た。曰く、原真砂子さんの霊視の結果、何処にも幽霊は居ない。
ややこしい事になった。大凡の作業風景の抄録はこれで終わり、何度原真砂子さんが霊視しても、矢張り幽霊は居ない。議論の末、開かずの倉庫、美術準備室、陸上部部室に予備調査分の機材を設置して様子を見ようとなった。皆が超能力少女の復讐を疑う中、もう一つ、幾ら教育者の立場とは言え、一介の生徒を全校集会の壇上に引き摺り上げる蛮行は異常である。学校教員側のヒステリック振りが不気味だと意見が挙がり、これは誰の反論も無く、其処が突破口と見たが、重ねて事情聴取─尋問とも言える─した結果、教員側が困惑する事態となった。
「原さんの霊視が頼みの綱なんだが」と上司は言った。
「霊は居ません」と原真砂子さんは顔を背けてすげなく言った。
溜息混じりに上司は笑う。「と言う訳で、早くも行き詰まってしまったな」
仕事が決まらない
多分その内滅茶苦茶に愚痴る