お前退くまで私消えるまで、共に忘れ得る日まで。   作:赤茄子

15 / 23
第十五話:外の事情と内の実情をまだ知らない…

 依頼受諾から数日後、保護者の契約書内の雇用条件の項目に何かあるらしく、寝坊の為に遅刻して、電車の乗り換えの真っ最中と言う麻衣が来る数十分前に事務所の応接間で所長の説明を受け、無能な私は後発部隊の自動車に乗って、最低三時間はかかる道程を、吐き気を催しつつ耐え忍んだ。先発部隊は玄人調査員上司と素人調査員麻衣と、馴染みの霊能者破戒僧で構成され、破戒僧の運転する自動車に乗って三時間、小高い丘の上に建つ混凝土製の建物が、今度の調査現場である。舒緩な坂道を登り、針葉樹の繁茂した林に囲まれ、一つ前の調査現場では青春に精励する運動部員達が校庭を縦横無尽に駆け回っていたが、今度の調査現場の校庭に、時間帯の所為か知らないが、着いた当初は人影の無い事が不思議だったと麻衣は言った。又体育館裏の駐車場に停車位置を口煩く言う教職員が居て、その人物の案内で校長室へ行くと、避暑地の幽霊屋敷の家人や某高等学校の校長で見覚えた依頼人の態度とは思われぬ傲岸不遜な依頼人が、安楽椅子に深く腰掛けて、騒動を鎮静する様に五月蠅く言った。

 口煩い教職員に嚮導され、特別教室や物置扱いの東棟端一階にある会議室へ連れられ、其処で生徒代表者が調査員の到着を待ち受け、授業中に教室を離れ胡散臭い霊能者集団の溜り場、会議室に居るから教職員の反感を買った。堪えた様子も無い生徒代表事安原修さんは、上司の指示を受け、被害者生徒を数十分置きに会議室へ、異常事態に遭遇し見聞きした事を話す様に集めた。幾度も依頼人側の妨害に歯噛みし、数人の相談者から、数十個の怪談話を聞いて、調査員と霊能者は呆れた様だ。新聞記事に載る程の事故事件が頻発する中、何故箝口令か、と麻衣は地団駄を踏み、陰謀家の嫌いがある安原修さんの機転で前述の通り、相談者を数人呼び込む事が出来た。新聞記事にあった、異臭騒動の起きた教室、黒犬の出た教室等を見回り、全校生徒の間で狐狗狸さんが流行している事を知った。破戒僧曰く、権現様も花子さんも、全て狐狗狸さんの別称で、降霊術に変わりは無い。悪気無しに幽霊を玩具にした生徒達を叱り、用紙は没収したそうだ。

 後発部隊の自動車は高楼の有料駐車場に置き、霊能者松崎綾子さんの昼間の用事が終わる迄、東京は渋谷道玄坂の事務所の応接間で待機し、連絡が無い事を承知で携帯電話の充電、受信の確認を行う。羅馬字のメールも、通話履歴に見慣れぬ名前も無い。資料室で機材の最終調整を行い、機械類を自動車に積み直し、事務所の応接間で紅茶を啜り乍ら、資料整理が無い助手に霊視能力と読心術の事を聞き、講釈の中途で松崎綾子さんが到着して、階下の有料駐車場にある事務所の自動車に乗り、最低三時間もの間車体に揺られ乍ら喘いだ。最初高速道路を使い、矢鱈渋滞が続くので普通道路に降り、信号機や道路の横断者の所為で逐一停車し、その都度車体が動揺して頭部の直立不動の位置をずらす。昼御飯は階下の喫茶店で簡単に済まし、事務所に常備する茶菓子を摘み、晩御飯迄の繋ぎに誤魔化したが、自動車の動揺は菓子類を繋ぎとして認める事無く消化を促進して、胃袋の中で攪拌された菓子類は食道への逆流を企て、車内の約三時間、飛行機で酔った覚えは皆無だが、私は酷い車酔いに遭い運転席の真後ろの後部座席に寝転がった。何度車を停め、私の回復を待って頂いたか。申し訳なくて顔も上げられない。

 自動車で約三時間、素寒貧の私は乗物酔いの際も薬に頼る事は、銭勘定に煩い麻衣の御蔭で縋った経験が無く、急遽近場の薬局で酔い止めを購入し、気休め程度を承知で服薬するが、矢張り気休めの薬を信じる気の無い者に効果は現れない。人間三人が横並びに腰掛ける余裕のある後部座席に、人間一人が寝転び、丸で夏場の卓袱台の下や冷暖房装置の真下で腹を出す愛猫達の様に無防備な醜態を曝し、時折波の様に喉元へ迫り上がる嘔吐感を堪え、何故自動車は動揺するのかを延々と考えた。綿の硬い座席越しに舗装道路を行く筈の自動車の震動を感じ、窓外の遠景を眺望する事が乗物酔いに効く、と頭で解っていても窓外の無愛想な景色を眺める気力が湧かず、運転免許を取得する気が無い私は、抑も運転免許取得の為に乗物への肉体的耐久性が無い事を理由に、将来免許取得を促された時、断ろうと決心した。何処を自動車が通るのか、舗装道路か普請中の道路か、動揺が激しくなり、どんな畦道を疾駆するかと内心憤り、胃袋が裏返る様な吐き気に生命力を奪われ、表の空が暮れる事を知らなかった。

 氷輪澄高として漆黒の空を背景に輝き、背景と言う表現は語弊があるが、星空の星影を圧倒して燦爛と輝く月は、真冬の清澄な夜空に相応しい。綺羅星が輝く程、街並は電飾が控え目な訳でなく、現代の実家近辺の様に、無闇に電飾を光らせ星空の星影の存在感を奪い、余程田舎の山腹で、写真の様な、漫画の様な流星群を見た記憶がある。真っ暗闇の鬱林の葉越しに星空を仰ぎ見た。当時の感動は忘却の彼方へ去り、一寸感動的星空を描写する事は出来ないが、中途半端な田舎の街の、小高い丘位の海抜では空気は澱むし、電飾は目先が煩いし、弱々しい綺羅星を肉眼で捉える事は困難である。自動車は緩い坂道を登って、星を拝む事も難しい丘の上の無愛想な混凝土校舎と、無愛想どころか連中の人間関係の破綻具合を解き明かしたい程面倒臭い、人間不信を疑う様な教職員の職場に着いた。車体の動揺が止み、松崎綾子さんの「到着よ」と言う言葉が有難い。有難いが、しかし動く事が出来ない。肩をお借りして、やっと会議室へ顔を出した。

 会議室は精密機械を設置する前に軽く掃除の必要がある薄汚れた部屋で、電灯の白が一層侘しく見せ、会議用の長机を御愛想の様に数個置いて北棟最端の部屋に放棄した様だ。清掃員は昼休憩の後の生徒達が世間様の基本で、普段利用の少ない場所を綺麗にする事は、一種の現実逃避に役立つが、清掃の気概も真面にない事を踏まえると、余程大雑把な者達と思われた。其処に事務所所長と所員、破戒僧の先発部隊が不機嫌面で居て、愛想笑いに隙の無い生徒代表事安原修さんも居て、到着早々、態度の横柄な教職員達に憤慨する松崎綾子さんは、早く寝床に潜って明日の除霊活動に備えたいのだろう。不愉快な学校の外に用意された宿泊施設の話を持ち出し、驚いた事に、宿泊場所は学校建設から時を経て、増改築を繰り返した公立学校の最古の棟、二部屋ある宿直室に、調査期間の間寝起きする事を強要された。加えて、冷暖房装置は午後六時以降の使用は不可、電気使用も必要最低限に抑える事、と言う注文まで入った。

 依頼人の立場を考慮して調査する事も調査員や霊能者達には必要不可欠な技術だが、調査を頼む立場で、経費削減を厳命しては、精密機械を大量に使う事務所の調査方針を捻じ曲げる必要がある。電気料金が家電量販店に陳列される家庭用電器具より値段が張り、電気も食う事は貧乏人でも精密機械の群を見れば、容易に想像出来る。上層部への報告が億劫だから、経費削減を念頭に置いて調査活動に勤しんでくれ、と言うのだから溜息を禁じ得ない。夜、昼間の仕事を終え、明日の授業の準備に勤しむ教職員の、業務を邪魔され腹が立つ気持は同情するが、職員室脇の賓客用玄関を覗く機会があって、三和土の四隅に白く堆積した塵芥を見て教職員も掃除を怠るか、と心底呆れた。後で聞いた話、麻衣達が校内の夜警等も担当する用務員の男性から、掃除に熱心な位なら勉強に熱心になれ、と教職員に言われるそうだ。塵埃が建物の隅に積もろうが、紙屑等が一切落ちていない所を見ると、生徒達の心底は生真面目だと思われる。

 乗物酔いの影響下を脱せぬ私を横目に、上司は素人調査員達を会議室に残し、情報中継と整理の役を与え、序でに麻衣は第六感に抵触する事があれば報告、調査員と霊能者間で情報を共有すると言う。安原修さんが至極平凡に見える麻衣の第六感の異常性を驚嘆し、鼻高々と頭を掻く麻衣は、他者目線でも大変嬉しそうだ。霊能者側の嫌味も機材設置を促す上司の叱責に埋もれ、在籍中の安原修さん迄寝袋持参の上、廊下で寝る事も厭わず、事件調査に尽力する姿勢で機材の設置場所を上司に尋ねる。融通無碍な安原修さん、異常事態の真っ只中に飛び込み、素人調査員達を先輩とか親分とか、半日で随分調査員の中に溶け込んだ様に思われた。

 一度体育館裏の駐車場へ戻り、自動車の機材安置場所を漁って、必要最低限の機材を担ぎ、私は破戒僧と一緒に異臭騒動の三年一組と黒犬騒動の二年四組の教室に機材を置き、又体育館の見当へ戻り更衣室に機材を設置するが、戸棚が堵列した殺風景な更衣室内は人の使用した痕跡が殆ど無く、書抜きを見た後の所為で怪談の模様が脳裏に焼き付き、荒れた印象を最後まで拭えなかった。手慣れた三脚の伸縮も、思う様に出来ず、酷い動揺振りに破戒僧が、人間味があって安心した、と手元に機材設置に使う道具が輻輳し慌てる人様を見遣って感懐を述べた。正直、何故糞爺の千年計画の途中経過を見守って来た自身が殺風景な更衣室内で作業する程度に惑乱し、常の動作を失敗し続けるのか、全く解らない。

 更衣室の作業を終え、一度体育館裏の駐車場の隅にある焼却炉に機材設置を指示された麻衣達の姿があるか確認し、創意工夫を凝らした斬新な機材設置法を見て感心し、蜻蛉返りして会議室へ駆け戻り、妙に薄暗い寒灯が照らす会議室内で設置した機材を通じて怪談現場の観察を行う上司が、カメラの角度が悪いと角度調整を命じる。途端臆病者─糞爺達の許を離れた事が原因と思われる─の素人調査員は、会議室を出る事を躊躇し、一瞬の逡巡の末、駄賃を貰う身空を顧みて、一人真っ暗闇の廊下を出て、殺風景な場所に残した機材の角度を調整して足早に会議室へ戻る。以上を幾度繰り返したか記憶を掘り返す事も悍しい。真夜中に真冬の渡り廊下を伝い、表の春塵を巻き上げる寒風に着物の裾を翻らせ、愚痴を零し乍ら体育館内外を何往復もして、会議室の薄明りが漏れる廊下と渡り廊下の風景を見慣れて、心霊現象とは無関係に不気味な針葉樹の樹影を尻目に見て、足音荒く渡り廊下の簀子を蹴った。

 寂寞たる暗闇に体育館の床板を這う色線を見て、二階欄干越しに通気兼採光窓から注ぐ月影が数条、何十畳もある体育館内を照らし、神聖な雰囲気すら覚える光景に自然歩調は速まり、更衣室の扉を潜って機材の角度を調整して素早く場を離れる。金属製の蝶番の軋る音が異様に大きく響き、舞台脇の暗幕の陰に、設置場所は津々浦々不変の定位置なのか、真っ黒い巨体を横たえたグランドピアノの偉容が濃紺の影となって膨張する様だった。二階金網を張った欄干の通路を挟んだ通気兼採光窓の硝子の傷が輝き、真夜中の異国の大地で、頭上に輝く綺羅星の様に存在を主張し、早く体育館を通り抜けて、薄暗くとも調査員と霊能者で混雑する会議室に戻りたい。荒寥たる一室の繊翳を引き千切る気持で踏み出し、余勢を駆って体育館を縦断して重い観音開きの扉を開け、数段の階段を降りる手間を省いて跳躍すると、当然虚空に体を躍らせ、渡り廊下の簀子に着地する。爆発の様な騒音が真夜中の学校の静寂を引き裂き、駆け足で会議室に戻ると上司から怒鳴られた。

 麻衣達も遅い機材設置を終えて会議室に戻り、上司の容赦無い指示が飛び、機材の角度調整に走って戻って又走って、破戒僧は上司納得の機材設置完了の頷きが出る迄、根気よく角度調整に付き合い、何度目の調整後か、会議室に戻ると松崎綾子さんの姿がなくて、睡魔と疲労感と妙な焦燥感で胸先が気持悪い私は会議室に残る上司達に尋ねる事は控えた。午後三時過ぎに角度調整が終わり、重い体を引き摺り、麻衣の案内で東棟一階北端の宿直室に寝た。その時、私達の奮闘は見守る価値も無い事は重々承知しているが、機材運搬の重労働のみで本日の仕事を終えた風の、先に寝ていた松崎綾子さんの潜る煎餅蒲団の縁を踏み、除霊活動で疲労困憊すれば良い、と意地悪な事を考えた。

 翌朝昧爽七時数分前、日の出の太陽光線が薄地の窓掛を貫き、六畳間に三人分の敷蒲団を延べた一時的蝸牛の庵に、午前三時頃に寝た許りの私達の安眠を脅かす騒音が、宿直室の外側で起こり、一番手前に寝ていた麻衣が扉の隙間から廊下を覗くと、気の早い生徒数人が調査結果を聞きに来た。原因不明の異常事態の調査が一朝一夕で終わるなら、疲労困憊する必要も無いし、四肢の重い事も、体の奥に残る倦怠感も引き摺る事も無く、爽快な朝を満喫出来るに違いない。だが、非常に残念な事に異常事態の調査は数日間、数週間かけて行う事が常識─規格外の霊能者の場合は知らない─で、長期間覚悟の調査に、予備調査を加えてまだ一日目だ。事態の把握も儘ならない。不安な気持は諒察するが、愚痴を並べる位なら情報提供に協力的であって欲しい。と言う胸奥を、宿直室前の生徒達が遠ざかる気配を感じ乍ら、寝床で肘を突いて様子を窺う寝惚け眼の松崎綾子さんに吐露した。人間味があるわね、と寝惚け眼の松崎綾子さん迄破戒僧の様な事を言って、硬い枕に頭部を預け、又寝を敢行するが、寝入り端に宿直室の扉の前で他の生徒達が騒ぐので、到頭二度寝する事も叶わず、意地で二度寝する松崎綾子さんを置いて普段着に着替えて会議室へ向かった。

 寝惚け頭で上履き越しに廊下の感触を確かめ、何処の学校も似通った雰囲気と高を括っていたが、会議室の扉を開けると見慣れぬ、否生面の男性教員が抗議の真っ最中で、面識有りと言う横顔の麻衣の蟀谷が痙攣する。見知らぬ男性教員は、折角設置した機材を撤収する様に言うらしく、上司が慇懃無礼に機材の重要性を説くが、聞く耳持たぬより聞耳を潰す風の男性教員の抗議は一層激しくなり、会議用の長机を叩き、生徒への悪影響云々と執拗に繰り返す。話は其処から進展しない。女部屋より調査活動の開始時間が早いらしい男部屋に寝起きする破戒僧も、会議室の壁際で呆れた顔を両手で隠し、傍に寄って私達が状況を問うと、問う迄もないのだけれど、男性教員事松山秀晴が今朝出勤すると不審物が敷地内の其処彼処に放置されており、こんな事をする馬鹿者は霊能者以外にいない。会議室に突進して、機材撤収、最終的には調査中止を要請し、と聞いて、この人は更年期の女性の様だと、整髪料の利いた後頭部を見詰めて思った。

 頑固一徹、調査活動に害毒を齎す典型的、否極端な霊能者否定派の松山秀晴の抗議を鬱陶しがる上司は、説明を七面倒臭がって、生徒の登校前に機材回収、下校後に機材設置を調査期間中は延々と繰り返す事を約束してしまった。勝ち誇った顔の松山秀晴は鼻を鳴らして、一人増えた学生然とした風貌の私を一瞥し、嘲笑を湛えて会議室を出て行った。

 私は破戒僧と一緒に教室と更衣室に置いた機材を回収し、教室に設置した機械を取り囲む生徒達の期待の眼差しに気力体力を削がれ乍ら、雑多な機械類を担いで教職員と生徒の闊歩する廊下を駆けて、会議室に機材を放り込み、別の場所の機材を回収しに走った。教室の機材回収時、一見自分達と同齢の私が機械を担いで教室を出て行くので、機械を携え重労働に喘いでいる隙を見定め、肘を鷲掴みにして異常事態の調査の進捗具合を尋ねて来た。御蔭で三、四度機械を落としかけ、今度は私が機材の賠償の為に無償で重労働に勤しむ所だった。見兼ねた破戒僧の急場凌ぎの説明に、不満げな生徒達も、大人の霊能者の意見だから、素直に従い教室へ入った。矢張り年嵩の人間の方が、心霊関係は信頼性が高いのだろう。尤も、私自身は非霊能者なので、異常事態の調査結果を問われても、生徒達に安心感を与える様な説明は出来ない。人生経験は前世も含めれば破戒僧と良い勝負だが、対人関係は破戒僧の圧勝だ。

 機材回収後は、会議室の机の前で松山秀晴の詳細を聞き、この場に糞爺が居たら校舎毎焼き殺し兼ねないと思った。受験戦争の最前線に立つ筈の安原修さんが会議室に顔を出し、怪談話の摘録の整理整頓を始めた私達を手伝い、模範生の生徒会長が成績優秀な生徒会長に変わる瞬間を見たと、この時の私は思ったが、関わる内に成績優秀な生徒会長が通常運転だと解った。後発部隊の私が到着する迄に集まった怪談話は、異常事態の被害者全員から聞いた話でなく、極僅かな生徒達から聞き出した話らしく、枯れ尾花も含めると、一体後何十個の怪談話が持ち込まれるのだろう。

 午後三時、私達が寝床に潜った時間から半日後、最終部隊のブラウンさんと原真砂子さんが到着した。そうして、校内の様子を尋ねると、爆弾が投下された。

「よく、解りません。気配は感じます」

 彼女は自殺者の幽霊が居る事を言い当て、それが九月に印象的な遺書を残して自殺した一年生の坂内君と解った。麻衣に遺書の内容を聞く。此処で安原修さんでないのは、私の消極的な人間関係の所為だ。

「……『僕は犬ではない』だって」

「あの先生を見た後だと、凄くよく解る」

 破戒僧が言った。

「歩、モンゴメリさんは来られんのかい?」

「本職の方が忙しい様です。海外にいますよ」

「本職?」

「言って良いのか知ら。……まあ、これ位なら。ミイネさん、元軍人なんです。その関係? で、お仕事が」

「軍人さんか……そりゃ、お忙しそうな……」

 安原修さんが麻衣にミイネさんの事を尋ねる。簡単に説明して、私の保護者と言った。全く間違いではないが、私の異世界の保護者は、一応ラキストさんである。

 その後、授業中故に除霊作業に繰り出す事も出来ず、仕舞いには松山秀晴が、今度は校長の指示で調査活動の監視に遣って来た。事務所で働き出してから初めて見た寛大な上司も、堪忍袋の緒が引き千切れて解雇を申し出る程憤慨し、結局監視役の松山秀晴を無視する事で対応した。作業中、携帯電話で生活支援者兼保護者に、現状の酷さを吐き出したくなった。




チラシの裏は後回しに、こっちの更新します。
勿論書き溜め分です。最近、本を読んでいない上、文章だって書いていません。
そんな暇があるなら蒲団に潜っていたい…。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。