お前退くまで私消えるまで、共に忘れ得る日まで。   作:赤茄子

9 / 23
第九話:何が相容れぬかと言えば残る意思…

一、

 昧爽四時半、救急車で近場の病院へ搬送された森下典子さんと付き添いの松崎綾子さんが乗合自動車を乗り継ぎ、タクシーで帰館した。足関節脱臼と靭帯部分断裂をテーピング固定で処置して、松葉杖を突き乍ら、屋敷の玄関広間に立って帰宅を告げた。足関節の脱臼は、幸い骨折を伴う事無く靭帯の一部を損傷しただけで済み、厚紙や金属板や手術で内部固定等と言う大事に至らず、正直簡単過ぎる処置の気もするけれど、お医者様の的確な治療を疑う訳にはいかない。黄色い朝暾が地平線を這い出て、中天目指して赤く燃え盛る頃、客間の階の角部屋を二重に封じ、獲物扱いの姪を保護して監視用の機材を設置して、不寝番に松崎綾子さんが控えて厳重な警戒態勢で日の出を待った。書斎の鉄製の棚の前で、一晩中立ち仕事に勤しみ、下腿の浮腫みに足運びが酷く重く感じて、不寝番の松崎綾子さんとブラウンさんの交替時間に一緒に仮眠を取ろうと思って睡魔を噛み締める。

 機械の調整や機械に集積した情報を整理する簡単な仕事を宛てがわれ、睡魔と格闘し乍ら夜半の破戒僧の講釈を思い返し、私の関わった霊能者達の万能なる能力を驚嘆した。事は麻衣が、霊能者が幽霊を常時目視出来ない事を不審に思い、破戒僧の講釈で、霊視能力と除霊の能力は別物、霊視能力者と拝み屋は別業種で稀に兼業者があっても得手不得手がある、奇跡の大盤振る舞いは神様と詐欺師のみの専売特許である。そう言う話を聞いて、幽霊を目視し、除霊浄霊の能力も有する霊能者達の修行風景や日常生活を振り返り、得手不得手の分別は困難だけれど、別業種をほぼ同等の実力で熟した霊能者を知っている私は規格外の霊能力を今更理解した。その最たる者は糞爺だ。糞爺は人間と神様の頃、両方の経験があり、又人間の頃も死闘の最中でも無敵を誇った。素晴らしい様で只管恐ろしい。世間一般の霊能者の実情を目の当たりにして、私は霊能者の社会からも理解を得られぬ糞爺の境遇を、少し憐れに思った。

 朝の時間は糞爺の不憫な境遇を尋繹する為に割きたいが、生命の危機に瀕した人間が屋敷の角部屋で震えて寝るので、研究は又次の機会が巡る迄取り置き、交替時間に不寝番の松崎綾子さんが書斎を出た直後の話に戻る。書斎の扉を潜って仮眠室へ向かう途中、玄関広間へ出た所で書斎に引き返し、白い壁の足場の無い位置に赤褐色の太い線で幽霊達の伝言が躍る様を指差して、調査員一同も飛び出すと、語る事を禁じた事柄を曝露した姪に対する伝言と解釈した上司が、麻衣に森下礼美ちゃんの傍を離れぬ様にと厳命した。懸腕直筆、穂先の揃った筆で書く事で形の整った字が完成するが、壁一面を使って書かれた字は、お世辞でも下手糞以外、言い様の無い運筆だった。

 急遽掃除用具を持ち出し、昼頃、麻衣と森下典子さんが姪を表の花壇と花園沿いの露台へ連れて、玄関広間の伝言の情報を与えない事にした。私は書斎に残る霊能者達と調査員達に紛れ、長躯の助手が背伸びして、漸く赤褐色の線から滴った、伝言とは関係無い箇所に届くと言う、随分高い位置に躍る文字を消す為、雑巾を絞って脚立に跨って、背筋を伸ばして重労働に従事した。脚立を跨ぐ人員は私とブラウンさんだ。脚立の数が掃除の人員数に足りず、身軽且つ体重の軽い者達で、高所の掃除をする羽目になった。スカートを穿く松崎綾子さんは最初から脚立を跨ぐ事は拒否して、脚立を支え、人が均衡を崩し落下した際も受け止める膂力を持つ破戒僧と助手が足下で目を光らせ、清掃員の重労働を体験しつつ足腰と腕肩の疲労を感じる私とブラウンさんは玄関広間の熱気に喘いだ。薄地の雑巾が吸った汚水が、時折乱暴に擦る所為で松崎綾子さんの額を直撃する。汚い、よりも化粧が落ちる、と言って顔を顰める松崎綾子さんは、手で顎の下を扇ぎ乍ら距離を取った。

 執拗に雑巾で壁面を擦る事数十分、雑巾が捲れて薄い皮膚を削る醜態を演じ、壁に私の鮮血が付着する惨事が起きた。私の跨る脚立を支える助手が見兼ねて交替し、膂力の差を考慮した上司が脚立を支える役を買って出た。出血量は滲む程度だが、着物に血で模様を描き、又見兼ねた松崎綾子さんの治療で止血された。借着より洗い着、慈善団体に支援を申請する際、賃仕事に明け暮れて無聊を慰め、孤独を紛らわす事を考えたが、保護者の意見が優先されて賃仕事自体が禁止された。麻衣と出会い、誰の援助も無く、逞しい姿を憧憬した。私も彼女の様な一人暮らしを慈善団体に提案して、無論議論の余地も無いと棄却され、棄却の事由を解っても似た境遇の彼女が間近に居て、人様を頼る自身が情けなくて、逆に心細く思われた。劣等感と言うが、事実劣等感なのだろうが、矢張り似通った環境で懸命に生きる彼女を前に、生活支援と保護者の存在に安堵する自身が馬鹿馬鹿しい。

 内心愚痴を零した時、裏手の溜池の見当で悲鳴が上がり、弾かれた様に脚立から跳躍して裏手へ最も近い廊下を駆ける助手、その凄まじい瞬発力に追随する上司の敏捷な動作、二人は霊能者達を置いて裏手の溜池へ驀進し、後を追う霊能者達と私は濡れ鼠の麻衣達を見て仰天した。松葉杖を突く事も忘れ、這い蹲る様に蹣跚として花園から裏手に駆け付けた森下典子さんは、老爺曾根さんが救助した姪を抱き締めて、寧日の無い日々に慟哭した。未だ口の重い老爺曾根さんを書斎に招じて、松崎綾子さんとブラウンさんが噎び泣く家人に付き添い、破戒僧と調査員一同は書斎の長椅子に腰を掛ける老爺を見詰めた。

 上司の容赦無い尋問の末、重い口を開いた老爺の語る屋敷の経緯は惨憺たる内容で、子供を喰う家、と言う表現に私達は慄然とした。八歳前後の子供が危ない。姪は八歳、最も危険な年齢である。必死の説得の後、老爺の協力を得て上司が屋敷を出て情報収集に向かう。残った破戒僧が秘書尾上さんを呼び、冷静さを取り戻した森下典子さんと一緒に応接間で事情を説明した。自分達に抵抗の術が無い事を諒解している二人は、森下礼美ちゃんの生を霊能者達に託した。

 夕暮れ時、又松崎綾子さんが一時失踪して、丁度上司の帰還直前に戻り、極短い仮眠の後、書斎で上司の収集した情報を聞いた。内容は余りに凄惨で、兎に角距離を稼いで逃げ切れる相手ではない事が解った。姪を救う方法は、大元の除霊しかない。

 夜の帳が下りる時間を待ち、機材を設置して祭壇を設けた子供部屋で破戒僧の除霊が始まり、直ぐに気温の低下が見られ、露台と屋内を隔てる窓と、表の景色を遮る窓掛に薄霜の様な薄膜が張って暗い画面が一層暗くなる。陰陽師の糞爺の傍で数年間を過ごしたが、陰陽術と言う術を見た事は無い。巫術と陰陽術は厳密には異なるだろうし、糞爺が神様の力を具現する人達の中でも頂点に君臨する実力者である事は、最早論ずる必要も無いが、術と言う術を目撃したのは、精々羊のママの霊格を上げる時位だ。事務所の時間制の賃仕事に従事して、出張先で除霊とか浄霊とか、世間様に膾炙する霊能力を見たのが、解り易い霊能力を目撃した最初の体験だった。解り易い霊能力の代表者たる破戒僧の除霊風景を見守り、私の知る霊能者より霊能者らしい後ろ姿を睨む様に見詰める。

 窓掛の薄霜が厚みを増し、自重と重力に因って襞を剥がれ、祭壇の角に降り積もる。突然、私の隣で画面を観察する筈の麻衣が居間の異常を訴え、目線を遣ると、居間は急激な温度の低下の為に靄が籠め、曠々たる居間の隅々を席巻して渦を巻く。その薄靄が子供の頭部大に凝固して、顔を顰める様に、激甚な腹痛や頭痛に体を捩る様に、壁や天井の衝突して家具の角を撫ぜて、喘ぎ喘ぎ苦痛を訴える。しかし何の拍子か、苦悶の顔付きが和らぎ、穏和な顔で室内を揺蕩う。何事かと豹変振りに機械に顔を寄せると、別室で霊能者の庇護下に在る筈の森下礼美ちゃんが現れ、薄靄に言葉を掛ける。少女を保護する霊能者達の待機部屋の画面を見遣り、意識の有無の確認が先決な、力無く項垂れる霊能者二人を認めて、矢も楯も堪まらず駆け出す麻衣の顰みに倣い、棚を突き飛ばして勢いよく書斎を出た。と思ったら、肩肘の関節の悲鳴が骨を伝って脳髄を貫き、余勢を殺す程足腰の鍛錬を重視しなかった私は、糞爺に抱く殺意の再来を噛み締め乍ら、腕を引っ張る慮外者を振り返る。

 上司の掣肘を受けて出足が鈍り、人様の横を我が物顔で駛走する上司の背中を追い、壁や柱と衝突し乍ら居間の扉の前で上着で手を保護して扉を開ける二人に追い付いた。靄が立ち籠める程の厳寒の居間に夏物の寝巻姿で居る少女に呼び掛け、破戒僧の到着で無事保護が叶ったが、結局何事だったの、と除霊を指示されただけの破戒僧を振り返った。

 姪を再度保護して部屋へ行き、手荒い術で漸く意識が覚醒した霊能者達は、破戒僧に大喝されて意気消沈の体で反省した。後、居間で大元の除霊を行う為、幽霊達の獲物の姪を幽霊屋敷から離す算段をして、早朝に屋敷内部に結界を巡らし、姪達にお祓いと護符を持たせ夜逃げの様に屋敷から出した。私達は子供部屋に集中する機材を居間へ設置し直し、塵芥の舞う居間を満遍無く掃除して、破戒僧の荷物の祭壇を組み立てる。随分な略式と言うが、素人目線では充分大層な道具で、設ける際に道具の遺失紛失の無い事を不思議に思った。異常現象は物の紛失から始まり、家具の移動等、段々規模が大きくなる様だったが、最も小規模な物の紛失が起こらない。破戒僧曰く、法具故に手出し出来ぬだろう。確か松崎綾子さんの除霊の準備段階では物の紛失が頻発し、松崎綾子さんは憤慨していたそうだ。何が違うのか解らない。

 書斎で事務所所員一同が控え、屋敷に居る霊能者は破戒僧一人だ。残る二人は姪達に同道し、除霊成功を祈る許りだ。鉄製の棚の機械の角度を変え、資料や書取りの手帳と筆記用具を用意して、別に必須な訳でないが気分の問題で、身辺が煩い方が除霊中の緊張感が薄らぐのである。祭壇を設ける前の掃除中、麻衣が拝み屋の除霊法は僧侶の修行に含まれるかと問うた。破戒僧は除霊自体を我流と言って、宗教的儀式も除霊効果は望めるが、除霊浄霊に最適な法は独自に編み出すもの、経験則、兎に角現場慣れして、効果的除霊法を生み出すのだと言う。私の記憶の中の霊能者は、技巧派は殆どなく、大半が力業だった気がする。糞爺は除霊浄霊より人類滅亡に重きを置いて、熟練霊能者の霊能力を見せる事は無かった。あっても調理や照明用の火影、死後数日の動物の霊魂の霊格を上げる、と言った術─発火を術に含めるかは知らない─しか見た覚えがない。祭壇を設けて法具を用いて、やっと除霊を始める霊能者を見て、私は霊能者の世界の格差を痛感した。

 機械の設置、記録準備も整った頃、破戒僧の除霊が始まり、開始直ぐに気温が低下し、機械が異音を検知した。靄が立ち籠めて硝子窓が結露して曇り、真夜中の除霊同様、靄が子供の頭部大に凝固して身を捩り出す。頭部のみの幽霊達は祭壇の前で真言を唱える破戒僧の背中や肩に纏い付き、詠唱を止める可く、又自分達を繋縛する言葉を掻き消そうと、悲鳴染みた奇声を発する。一度幽霊が乱離骨灰になって、靄の晴れ間に床板の亀裂を見た。機械が破砕音を検知し、同時に画面の向うの亀裂は広がり、居間のシャンデリアの飾りが雨の様に降り注ぎ、祭壇前に御輿を据える破戒僧の露出箇所を切り裂く。私達で悲鳴を呑み込み、画面を凝視していると、祭壇の向う側に薄墨の靄が籠めて、気温低下に伴う白い靄とは違うと一目で解った。麻衣が何度も後ろ、後ろ、とマイクに向って叫ぶも、どうやら破戒僧の目に薄墨色の靄は映らないのか、左顧右眄して祭壇前を離れない。

 咄嗟に上司が書斎を出て、麻衣も後を追って、機械を凝視する私も一瞬遅れて書斎の扉を蹴り開けたが、先程の様に肩肘が軋む程力任せに制止され、憤懣を撒き散らす覚悟で振り返ると、身震いする程真剣な顔付きの助手が追跡を許さない。扉や長椅子の榻背を鷲掴みにして踏ん張るが、歴然たる膂力の差の為に、鉄製の棚の機械の前に連れ戻された。

「何故ですか」と私は震え乍ら怒鳴った。

「ラキスト氏から、貴女の命は絶対優先と言われました」

「なら、最初から連れて来なければ良い」

「貴女を雇うと決めたのはナルです。ナルは貴女のバックを知りたい。安全確保には充分配慮しています、だから連れて来た」

「他者の御威光の御蔭で、こうして働ける訳ですね。解りました。ナルやリンさんのお立場もある、解雇を頼むより、従う方が利口なのでしょう」

「そう思われるなら、此処を動かないで下さい」

 機械の向う側を見ると、頭部大の靄が破戒僧や麻衣達の胴体を擦り抜け、廊下を伝って屋敷の外へ飛び出す所だった。結界は破られたらしい。

 玄関広間の電話が鳴り響いて、扉の開け放たれた書斎内にも響き渡る。真紅の絨毯が騒音を吸収し、しかし反響させる物が多いから、精密機械の硬質な面に反響して書斎内が賑々しい。助手の拘束が緩んだ隙を見て、今度は制止の声も無いので、玄関広間の電話の反響を頼りに歩き回り、受話器を取る人がいて、人声を聞いて血の気が引く瞬間を自覚した。電話の主はブラウンさんだった。幽霊が大挙して来襲し、姪を掬い、丁度間に割り込んで庇ったブラウンさん諸共、強化硝子の窓に叩き付けられたそうだ。

 

二、

 事情の報告旁、帰館した霊能者達を伴い、居間の床板の亀裂を覗き込む。黒色の靄が立ち籠めた場所は、酷く脆い構造に思われ、松崎綾子さんの一撃を食らい亀裂が広がった。裂け目から冷気が昇り、顔を近付けると塵埃舞う居間の黴臭さが増した様な臭いがして、破損箇所を刺激しない程度に、腐った床板の断面を突いた。指頭に重い冷気が纏い付いて、金氷になった先端を着物の裾で暖めて、感情の起伏の判然しない顔を亀裂の見当に向ける事務所所長を顧みた。指示を待つ体勢の私は、亀裂から遠い位置に居る麻衣に懐中電灯を所望する上司の指示を只管待ち、居間を駆け出し書斎の雑品置場に懐中電灯を取りに行く麻衣を見送った。温度計の紛失が遭って予備を自動車まで取りに行く事があったが、物の遺失紛失は、最近頻度が減った様に思われる。誰も言及しないので、私の気の所為かも知れない。

 懐中電灯の到着前に亀裂拡大の作業を行い、蓬け起った断面に注意し乍ら、損壊一歩手前まで亀裂を広げ、書斎で懐中電灯を手に、蜻蛉返りした麻衣が細身の懐中電灯を手渡す。感謝の言葉も等閑に、上司は真っ黒の亀裂を覗き込み、墓石の様な長方形の黒い石を数枚発見した。痩躯の腕を差し込んでも狭い範囲を照らすのがやっとで、急遽家人に連絡して、床板を剥がす許可を取った。そうして木材の腐敗臭の漂う板を剥がし、狭隘な石畳を認めて、其処で貪婪な知識欲や無用な好奇心を発揮して石畳を取り除く作業を思い付く。雑用係が運搬を担当し、雑品置場から工事等に使う道具を持ち出す。バール、レンチを男衆に手渡すが、事務所の最大権力者に重労働を強いるのは、賃仕事に従事する最底辺の私達が許して良い事だろうか。雑品置場を漁る途中、麻衣と合議した結界、私と麻衣が交替でやる可きと判断し、上司に進言したが、時間の無駄と一蹴された。

 幽霊屋敷の幽霊に獲物とされた森下礼美ちゃんの現在を鑑みると、確かに時間を浪費する訳にいかない、調査の初期段階の機材運搬とは訳が違う、力仕事は私達より細身の疑惑のある事務所所長がやる可きだ。性差故の膂力の差、しかし贅肉塗れの体を見遣った時、私達は自分達の方が頑健ではないか。迅速な運搬を達成した私達だ、力も彼よりあるに違いない。

 素人調査員達の煩悶を余所に肉体労働の似合わぬ上司迄が腕捲りして、石畳に降りて作業を始め、物の数十分で作業が終わる。石畳の一段上、居間の床に這い蹲る私達は、作業員の体が邪魔で見え難いが、更に一段下の丸い縦穴を認めた。絹糸の様な金髪に塵埃をまぶしたブラウンさんが井戸の可能性を指摘し、松崎綾子さんの催促で破戒僧が縦穴の底へ降りる。砂と竹筒の残骸を見付けたと言う。知識の豊富、人生経験の豊富な霊能者達が納得した様子で頷き合い、井戸の完成迄を説明するが、要するに本来の手順で埋め立てられた井戸と判明した。除霊時の黒色の靄が井戸の上に発生した理由は、未だ不明だが、井戸は関係無いのだろうか。

 すると上司が言った。「立花家じゃない。立花家は結果だ。問題は土地にある」

 結句結局、一流霊媒師の原真砂子さんを招請する事になった。

 幾ら焦眉の難事件でも物理的距離を気合い一発で踏破する事は出来ない、距離を一瞬で縮める神業は糞爺一人で充分だが、真夏の夕間暮れ、玄関の鈴が鳴る最初の余韻が消える前に書斎を飛び出した私達は玄関の扉を開けて原真砂子さんを出迎えた。藍色の薄地の和服を着込み、身嗜みが完璧な彼女は、一足屋敷内に踏み入るなり、麻衣に縋り付いて険悪な幽霊屋敷だと顔面蒼白になって呟いた。歩行も困難な原真砂子さんを書斎へ通すと、上司へ蹌踉と駆け寄って、撓垂れ掛かると幽霊屋敷の実況を語った。墓場の様な幽霊達の巣、と原真砂子さんは解説して、黒い穴が見えると言い出した。

 麻衣が原真砂子さんを居間へ引き摺り、件の井戸を見せると、霊媒師は地の底まで続く様だと結論した。

 丁度その時、又玄関の鈴が鳴り、老爺曾根さんが屋敷の情報を携えて遣って来た。別の和服姿の霊能者を横目に、書斎の長椅子に腰を掛け、屋敷に住む人達、屋敷の建つ土地の話を始めた。因縁話に耳を傾けると、機械と格闘する助手に呼ばれ、因縁話を静聴する霊能者達と調査員達を背にして機械で収集した情報整理を手伝う様に言われた。今朝の生活支援者兼保護者の雇用に関する希望等を聞き、幽霊屋敷の因縁話を聞く事が不都合に当たると考えたのか、私を現場から離す様な行動に出た。糞爺への復讐を誓い、私と嬰児を誘拐して、最後は糞爺の業火で豪快に焼かれた復讐者達の会話を聞いた事がある。情報整理の最中、つい手元が疎かになって、復讐者達の会話を聞く気持で耳を澄ました。幾度も幾度も助手の悪鬼羅刹も裸足で逃げ出す視線に貫かれ、悲鳴を堪えて手を動かし、屋敷の因縁話は断片的に聞く事しか出来ず、土地の経緯は全く解らない。解らないが、頭脳労働を担当する上司が把握しているので、何も問題無い。

 整理整頓の最中、背後で松崎綾子さんが祟る子供の話をする。万事解決、と言う爽快な語調は、矢張り実力不詳の霊能者の発言だからか、不安を伴う。背後の霊能者達と調査員達の顔付きは不明だが、余り賛同する声はなく、思案顔の上司に至っては、緊急事態も何のその、老爺曾根さんを引っ張って屋敷を出て行った。最後の霊能者、霊媒師の原真砂子さんを召喚する電話を掛けた時間が午前十時頃、多忙の原真砂子さんが着の身着の儘家を出て、電車か乗合自動車か、移動手段は兎も角、自動車で約二時間の道程を夕方に到着した所を考慮して、別件で忙しかったのでは、と不審がる。容姿端麗な一流霊媒師は世界の心霊現象研究機関でも有名で、本物の霊媒師と賛美される程の実力がある。世間様への露出も多く、依頼内容の選り好みが激しい上司の仕事振りを見ると、原真砂子さんは間違いなく忙しい人だ。

 落暉が地平線に胴体の太い箇所まで埋め、鬱林の下陰を色濃くする夕曛も墨汁の星空に呑まれる頃、無数の綺羅星は薄曇りの空の高い位置で爛然と輝き、薄雲の下では星影の威光も恩恵も何も無く、不気味な幽霊屋敷の薄闇に身を寄せ合う私達は上司不在を罵詈する松崎綾子さんの横顔を眺めた。事態の進捗しない口論を聞き乍ら、窈窕たる霊媒師は和服の袖で口元を隠し、緊急事態に座を離れる上司の態度に憤慨する松崎綾子さんを鼻で笑った。そうして恒例の激論が交わされ、居丈高な原真砂子さんと私的関係にある様な事を言い、皆が仕事現場が同じ事は私的関係に当たらないと論駁するも、映画やコンサートは仕事と無関係云々と言って女衆を嘲笑した。無論女衆には私も含まれ、事情は丸で知らないが、上司と一流霊媒師は私的関係にあるらしい。ラキストさんを真似るが、本当にどうでも良い。

 皆が言葉を無くす中、ふと私は可愛い末っ子の事を思い出す。末っ子は灼熱地獄の大地に育ち、過酷な自然、残酷な人間の趨勢を見守って来たが、文明の利器や都会の娯楽施設等に疎い人達の間で霊能者特有の修行に明け暮れ、映画等の暇潰し以外に価値の無いものを体験した事は無いに等しい。私の異世界の地元駅から十数分の大型店舗にある、児童や悪餓鬼共の魔窟たる遊技場で、騒音や電飾に顔を顰める乍らプリクラを撮った位が末っ子の娯楽経験だろうと思われる。異国の大地の荒野に芋掘りを満喫する様を思い描き、又体験させる事を楽しみにしていた日々を振り返り、女親と男親、両方の役割を頼んだ糞爺が末っ子の養育に心血を注ぐ事を祈る。

 生活支援者兼保護者の言では、末っ子の養育の為に東奔西走しているそうで、地上での生き甲斐と存在意義を得たらしい糞爺の、末っ子が巣立った後の事を思索する。人類滅亡を画策した糞爺の事だ、其処いらの霊能者と結婚する事は無いと思われ、生涯独身は、弟さん夫婦の御蔭で不孝者と言う重圧も薄れると思われ、しかし生き甲斐や存在意義を求めて巣立った末っ子を追うのは頂けない。糞爺も落ち着く頃を見極める可きだ。女親男親を演ずる事が苦痛なら、女親を探す事を奨める。役割が一つ減る事で、多少呼吸が安楽になると私は思う。呼吸困難も厭わぬと豪語するなら、是非末っ子を映画や遊技場や、色々の娯楽を体験さしてやる事を、体験さしてやれなかった姉貴分の世話係は痛切に願う。

 緊急事態も何のその、調査事務所所長は業務を曠廃する無頼漢でない事を信じる助手の言もあり、屋敷内での進退を決し倦ねた霊能者達は再度除霊の試行を提案し、松崎綾子さんが儀式で以て除霊を試すと名乗り出た。破戒僧達は姪の籠城する宿屋へ行き、原真砂子さんも一度面会を願い出て、同行が決まった。黒幕の正体も不明瞭な幽霊屋敷に居残る調査員達と松崎綾子さん、書斎を出て手早く着替えた彼女は巫女装束を纏って道具を抱え、資料整理と前庭側の窓から表の様子を窺う麻衣に言葉を掛け、除霊の間、傍で待機して貰えないかと、臆病振りを発揮した。対処出来兼ねる、と言う主張があって、彼女は自ら幽霊屋敷に残ったが、その心底は物怖じし易い非霊能者のそれに近いらしい。祭壇の道具を携えて、紙束の資料を抱える麻衣を誘い、不承不承除霊中に同室する事を領諾した麻衣の頷きに顔を輝かせた。

 松崎綾子さんは機械の前に陣取る助手も誘うが、助手は突慳貪な態度を崩さず、一瞬私に来るかと身構えたが、一切勧誘の素振りを見せずに書斎の扉の前で項垂れた。勿論霊能者達と関係が良好とは言い難い事は承知している。しかし、こうあからさまに勧誘が無い事は、他者の機微に疎く、自身の感情の振幅の把握も億劫がる私でも、何だか辛いと感じる。糞爺の事を悪く言えない。自業自得を自覚しても直すのは容易でない。勧誘無しの現実に落胆気味の私の、哀愁漂う背中を見兼ねた麻衣が勧誘して、項垂れた儘の松崎綾子さんの肩も揺れる。意気衝天の勢いで姿勢を直し、半身に構えて私の返事を待つ。私も是と答えるつもりで口を開きかけ、機械の前に陣取り盤踞する助手が振り向く動作を省略して、私を情報整理の助手に任命した。急な指名に駭魄した私達は暫く助手の背中を見詰めて、そして居間へ同行する事を諦めて、麻衣と松崎綾子さんを送り出した。

「ラキストさんの事があるからでしょうか」

「はい」

「私の独断専行が原因で、私が死んでも私の所為です。ラキストさんも皆さんも、其処まで狭量ではありません」

「そうでしょうか」

「我が儘な事は解っています。けれど、霊能者達と関わる事、心霊現象の発生に立ち合う事、これは私の経験を豊かにして、知識を豊富にします。良い事ではありませんか」

「貴女は霊能者とそうでない人達の、どうしようもない価値観の違いに悩んでいる様ですね」

「異文化交流は、得てして難しい、相互の理解を得る事の難しさを実感させます。でも、逃げる訳には行きません」

「聞けば、今が逃亡の最中だとか」

「それは個人の煩悶です。価値観の相違を理解し合う為の試行錯誤の内ではありません」

「詭弁ですね」

「世の中、詭弁と欺瞞と疑心暗鬼と、一握りの信頼で成り立つものでしょう」

「そうですか」

「そうですとも。人生って、こんなものです」

 鉄製の棚の前に立って、整理の必要も無い情報の山を横に退け、結露の名残が硝子を曇らせ、薄暗い居間を映す画面の端に麻衣達が現れた。床板の亀裂を覗き縦穴の砂の見える位置に体を乗り出し、荒漠たる灼熱地獄を髣髴させる砂が、竹筒の残骸の輪郭が模糊として見え難い距離から確認出来た。懐中電灯の橙色の明かりに照らされ、其処に黒幕が居るかも怪しい砂地を見詰めた。体重も重心も気にせず、余程前のめりになっていたのだろう、危うい姿勢の私の襟首を鷲掴みにした助手が亀裂の隙間から遠ざけた。丁度同じ場所に祭壇を設け、手前の綺麗な床板に御輿を据えた霊能者と調査員の背中が映る画面、特段違和感は無いけれど、祝詞が数行分、唱え終えたと同時に薄靄が立ち籠めて除霊風景の観察を邪魔する。松崎綾子さんの悲鳴が聞こえ、背中を押した、と訴える。麻衣の叱咤激励も効果無く、意気阻喪の体で祭壇前を離れる松崎綾子さんは撤退を宣言した。画面の中が急に暗くなり、気温が下がって窓やカメラの硝子が曇り出す。書斎で尻を暖める助手に大丈夫だろうかと問うが、その腰が心持浮いている。

 突然棚に並ぶ機械の薄暗い画面の色が変わり、読解不能な英数字やERRORと言う文字が出て、目まぐるしく色が反転する。軈て居間を映す機械の故障か、心霊現象に遭遇した証拠か、映像が停止して向う側の様子が解らない。心臓が早鐘を打って耳鳴りがして、青褪めた顔で機械を操作する助手を顧みると、平生怒鳴る事も敏捷な動きも滅多に見せぬ助手が椅子を蹴倒し、無能な私に書斎での待機を命ずると頑丈な扉を蹴り開けて玄関広間を疾走した。騒々しい足音を聞き乍ら、停止画面を見詰めて、心霊現象に遭遇した機材の記録映像等に起き易い砂嵐が棚に並ぶ画面を襲い、ざああああ、と言う耳鳴りな雑音が書斎の静寂を脅かす。鉄製の棚に収まる機械が全て砂嵐に包まれ、横に退けた資料の山の山巓の数枚が、風も無いのに、恐らく助手が書斎を飛び出す際に起こした風が時間を置いて紙束を揺さぶり、身動きの取れない私の足許に落ちて来た。

 砂嵐の雑音に居ても立っても居られず、運動音痴な体を酷使して、最速で向きを変えて書斎を飛び出した。人影の無い、幽霊の交通も無い玄関広間を駆け抜け、居間に続く廊下を駆け乍ら砂嵐の向うで奮闘する麻衣達の無事を祈った。その時、カメラの手入れに没入する山田さんの草臥れた様な背中が脳裏を過った。

 

三、

 居間に駆け付け砂嵐の所為で確認出来なかった部屋の模様を見回し、井戸の覆いの破れた亀裂の縁に蹲る巫女装束と、平生見慣れぬ狼狽振りを披露した助手の横顔を認めて、慌てて亀裂の縁に駆け寄って落ちたらしい親友麻衣の安否を確かめた。黒幕の巌棲する井戸の薄闇に焦げ茶色の頭髪を見付け、着物を汚す砂塵を叩く仕草を見て、関節運動の円滑さに安堵する。竹筒の残骸等で擦過傷や創傷を作っていない事を確認し、御輿を上げて臀部の砂を叩く姿は健康その物である。新米調査員の無傷に安堵した風の助手は足場になる物を探しに居間を出て、除霊を中断した御蔭か、薄靄も結露も直り、晴れた窓の外は薄日が差していた。夏の太陽の威勢が衰え、昼時を過ぎたと解った。屋敷の頭上に昇る太陽は、真上を越えて西側に傾き、もう少しで夕暮れと言う時、まだ暮色の気配の無い陽光が射し込む居間は薄暗い儘、私の視界を悪くする。

「麻衣、無事かい」

「大丈夫、特別痛い所は無い」

「一寸痛い所はあるのか」

「そりゃあ、砂地とは言え、落ちたもの」

「骨折脱臼なんか、そんな痛みではない」

「骨折脱臼の経験が無いから解らない。痛くないよ」

「じくじく、しくしく、ずきずき、がんがん、つきんつきん、何か形容出来る痛みかい」

「大丈夫だってば。痛くない。歩も落ちて見れば解る」

「冗談じゃないわ、止めて頂戴」と松崎綾子さんが親友同士の冗談に本気で腹を立てた。

 助手が足場の椅子を持参し、助手の降下着地を見計らい、椅子を手渡すと直に麻衣が亀裂の縁に攀じ登って生還した。無傷な事を、全身を触って確かめ、膝小僧に擦過傷を見付けて悲鳴を上げた。無傷を信じていたが負傷を免れる事は叶わず、赤黒い傷を作って居間の床上に現れ、這い登った助手と臆病な霊能者に引き摺られ、書斎の長椅子に腰を掛ける。雑品置場を漁って救急箱を取り出し、医療の心得のある松崎綾子さんに渡して、飲料水で傷口を洗い、皮膚を洗い砂を落として消毒液で消毒し、大判の絆創膏を貼り乍ら、霊能者と調査員達は麻衣目線の落下時の模様に耳を澄ました。足首は森下典子さんも被害に遭い、念の為に足関節を触診する松崎綾子さんは、頑丈な足だと言って無傷の太鼓判を押す。そうして落下直後の夢の話に及び、人攫いがあって、娘を奪われ悲嘆に暮れる母親が井戸に身投げしたのでは、と言った。信憑性の有無は兎も角、意味深長な夢の内容を不気味に思った私は、麻衣に幽霊が付き纏わないか心配した。助手は大丈夫と言ったが、感情の起伏を読み取れぬ顔で言うので、安心は出来ない。

 黄金の落日が地平線に蒙塵して、地上に綺羅星の偉容が認められる頃、午後十一時、除霊失敗の現場で被った災難の余波が消えない麻衣に仮眠を促し、失敬と堅苦しい物言いをして、長椅子に横たわる様を見守る。書斎の雑品置場に投げた薄地の掛蒲団を掛け、松崎綾子さんの除霊時の情報を整理中、書斎に熟睡する麻衣が掛蒲団を蹴飛ばし、長椅子の座面の面積は人間一人が仰臥すれば満員の、装飾と革が贅沢な物だ。寝返りを繰り返せば落ちる。普段着に着替えた松崎綾子さんが長椅子一杯に寝転ぶ麻衣の寝姿に呆れ、又寝返りの度に小さな悲鳴を上げた。悲鳴を聞く度に私も振り返り、何度長椅子の縁で四肢を折り畳んで寝る姿を見たか、何度凄まじい寝姿に肝を潰したか、潰す肝が尽きて寝返りを制限する術を考えた。掛蒲団を蹴飛ばし、踵が岩乗な肘掛を蹴って、吃驚する程痛々しい音がした。助手も振り返って様子を窺うも、書斎に残る人様の心配を余所に、仮眠を超えて惰眠を貪る麻衣は日付が変わる迄寝入った。

 機械の調整を終え、砂嵐が止んで薄暗い画面に直り、資料整理も無くなって手持ち無沙汰な私は、何気無く見遣った前庭側の窓が気に掛かる。紙の資料を堆積した紙屑と区別した、資料の山の山巓に載せ、真紅の絨毯を踏み締め窓際に立ち、遮光用の薄地の窓掛と分厚い窓掛を纏めて引いて、いつぞや同様、窓掛の裾を被って前庭を眺め遣る。太陽光線を遮る鬱閉した枝葉は疎らになり、青葉の間隙に綺羅星が見えて、昨日の薄曇りとは趣の異なる前庭の模様に感銘した。真昼の青葉の光沢が眩しい鬱林を窓越しに見た事はあるが、夜半の美しい鬱林を見た事は無い。薄汚い月影は綺羅星の威勢に呑まれ、存在感は薄くて墨汁の空に鎮座する月の存在意義に疑問を覚えた。瞬きの鋭い星に月も嫉妬しているに違いない。避暑地は都会の喧騒も電飾の明かりも届かぬ場所で、脅威の無い此処いらの空に揺蕩う自然光は、自然光同士で輝きを競い、月が星に負けている。大変遺憾な光景に私は目を瞬がせ、黒い樹冠の上に赤色を見る気持で、明るい星を凝視した。

 前庭を観察し乍ら、時折背後で惰眠を貪る同僚の踵が贅沢な装飾の肘掛を蹴る音を聞き、窓掛を捲って傷の有無を尋ね、骨も皮膚も健康な事を聞いて、頑健な肉体を羨ましく思った。月は中天の手前を彷徨い、高い位置で輝くに連れ、光沢を増して星影を圧して行く。麻衣は世間様か贅沢な長椅子に不満があると見え、憤懣を撒き散らす様に肘掛を蹴飛ばし、仏蘭西土産の焼き菓子を奪い合った懐かしい死闘を夢見ている様で、頻りに酷い、酷い、リゼルグ見て、歩が酷い、と告げ口して、獣の唸る様な寝言を零して魘されている。焼き菓子争奪戦の事だが、実際は麻衣が蜜蝋を用いた焼き菓子─名称は失念した─を横取りして、報復旁、兼ねてから美味そうと思っていた別の焼き菓子を奪取し齧った。夢を改竄して私を悪者扱いして、実に怪しからん。今度の仏蘭西土産の菓子は一個目から争奪戦を始め、どちらが何をどれだけ食べたか、判然しない様にするのも面白い。

 澄明な墨汁の空に輝く月影が傾き、日付が変わって上司が帰館し、数十分後に破戒僧達も帰館して、長椅子で仏蘭西土産の争奪戦の夢を見る麻衣の剣幕に顔を見合わせる。資料を捲り、屋敷の歴史の概要を説明したい上司の冷厳な指示の下、惰眠の中で争奪戦末期を迎える麻衣を起こし、寝惚け頭で書斎内を見遣り、帰館した上司に不審な事を尋ねた麻衣は頭髪を掻き毟った。薄地の掛蒲団は冷房が利いている書斎でも、精密機械の熱気で僅かに暖かく感じ、掛蒲団の内側は熱れがして、きっと寝苦しかったのだろう。蒲団を畳み乍ら、私は上司の横顔を見詰める麻衣を見詰め、畳んだ蒲団を長椅子の端に寄せる。雑品置場はいつ漁るか知らないので、成る丈物で覆わない様にする。

 上司の黒幕の説明の開始早々、悲惨な話を聞かされ、麻衣の夢の内容と合致する話もあって、私は麻衣に眠る才能開花の瞬間に立ち合った気持になった。真偽の程は最早確認の仕様が無いが、黒幕の正体は人攫いに遭い子供を亡くした母親と言う事で決まりらしい。

 子供を想う母親の愛。この情念を除く事は容易でない。除霊は、結局誰が担当するのか、よく解らない内に屋敷の内側へ結界を張る事が決まり、辞書で調べても判然しない鬼門の講釈を聞き逃した。身命を賭して除霊に臨む霊能者達は、相手の力が強大であろうと、獲物として狙われる森下礼美ちゃんを捨て置けず、本気で命を擲つ覚悟で今度の、最後の除霊に挑む事になった。

「この人が身を擲って守ったのだから生涯花嫁になった気分で……」

「手を合わせて、顔を上げたら、さっさと忘れて新しい人生を満喫するよう言っとくわ」

 破戒僧と松崎綾子さんの遣り取りを見て、涙顔の麻衣は胸を撫で下ろした。

 午前四時、鬼門は破戒僧と松崎綾子さんが控え、居間で行う除霊はブラウンさんが担当し、書斎で機械の調整、情報収集は常の如く助手が請け負い、その書斎で待機を命ぜられたのは私達と霊媒師の原真砂子さんだ。無論除霊浄霊退魔法も知らぬ私達が除霊現場に居合わす事は、素人の頭でも得策ではない。しかし頑固な霊媒師が除霊に立ち合うと譲らず、こちらも頑固一徹な上司が到頭折れて、但し其処に私達も、原真砂子さんを制する役割を負わされ同座する事を強制された。生活支援者兼保護者と所属先の人達の雇用契約の条項に、私の命が危うい現場は厳禁等とあるそうで、契約書を矯めつ眇めつした、心霊現象の調査に引っ張って来た張本人が保護者達の怒りを買う様な行動に出た。驚き顔の助手を目顔で制し、その制する所を目撃したのは私だけだから、誰にも不思議な顔をされる事無く、除霊開始直前の居間の扉付近に三人で固まって座り込んだ。

 本物の悪魔祓い師による除霊が始まって直ぐ、地響きを伴う家鳴りが聞こえ、頭上の照明器具も震盪して、酷く物騒な気配がした。室内の気温低下の証拠に、羅の様な薄靄が身辺を取り巻き、子供の頭部大の靄の塊等、苦悶の顔で居間から撤退する幽霊達を見送り、子供達を追っ払った後、井戸の底に巌棲する黒幕の女が蠢く気配がした。薄墨の靄の籠める井戸周辺を見詰め、数珠を握り締めた原真砂子さんは、素人調査員達の一方の手を握り乍ら胴震いした。陰を作る程長い睫毛を伏せ、漆黒の双眸を正面に据えた儘、口だけを動かした。

「除霊には二つ方法があります。除霊と浄霊、この二つは文字通り丸で違う。浄霊は霊に語り掛けて、拘りを解いてやるのですわ。橋の向うに行けない原因を除いてあげますの。でも、これは、霊媒にしか出来ない」

 末っ子や糞爺は霊能者だけれど、種類はシャーマンと言う霊媒師だから、皆浄化が可能なのだと今更思う。

 原真砂子さんの言葉に耳を澄ます。

「霊とコミュニケートする能力が必要ですわ。ナルにはその力が無い。霊媒じゃないのですもの、除霊するつもりなのですわ」

 糞爺らは霊媒であり、除霊能力を有する拝み屋、糞爺は陰陽師と言うから万能に近い。奇跡等の大盤振舞いは神様と詐欺師の専売特許、霊視能力者と拝み屋は別業種、と言った破戒僧の呆れ顔を思い出す。霊視も拝み屋も、均等な実力を持つ糞爺は、神様の前は只の人間だったけれど、成る程規格外の強者な訳だ。星の王様の玉座を賭けた死闘に参戦した人達は、世間一般の霊能者達から見れば皆規格外の実力者で、実力者の目線でも糞爺は奇跡的な実力者なのだ。私の関わった人達は、世間一般の霊能者ではない。今、此処で理解する。

「除霊って?」と麻衣が小首を傾げて問うた。

「力尽くで霊を吹き飛ばす様な感じですかしら。犯罪者が居たとして、説得して自主させるのが浄霊、有無を言わせず処刑して仕舞うのが除霊ですわ」

 処刑と聞くと某慈善団体の総帥を想起するが、実際に持ち霊や能力を見た事は無い。私は霊能者でない。

 原真砂子さんは続ける。

「除霊はして欲しくありません。少なくとも、あたくしの前では」

 数珠を持つ手が震え、その手が私の手を握るから、小刻みな震動が伝わり全身を震わせ慟哭した末っ子を思い出す。羊のママの死んだ時だ。普段一緒に寝るのに、当夜は幕屋の中で共寝する事無く、柵の内側に居る仲間の許で寝入り、空腹の猛獣に喉笛を噛み千切られた。獣臭い鮮血の海に溺れ、跪いて泣き崩れた事は、昨日の出来事の様に思われる。でも、ママの死は数年前の話だ。

「ナルや滝川さん達にとっては、霊と言うのは飽く迄『残存した意思』に過ぎないのですわ。少なくとも、ナル達はそんな風に捉えている」と言って原真砂子さんは首を竦める。

「でも、あたくしにはそうは思えませんの。だって女も子供も、こんなにも生々しい人の感情を残していますもの」

 薄靄に暗い感情を露にした子供達の顔が浮かび、頭上を席巻して、身を捩る様に泣き叫ぶ。

 幽霊屋敷で死に、真面に幽霊屋敷の外へ出る事も叶わず、恋しい母親も居らず、神様か周囲の生者に懇望しても彼岸へ渡る事も出来ず、孤独感は増す一方で、悲愴感は積み重なり、望む物は流水の様に掴めない。悲鳴も慟哭も、誰の耳にも届かず、誰も自分達を顧みない。此処で身悶える自分達に救済の手を差し延べる者もない。喉が渇く様に孤独感を覚え、物を得ても渇望する満足感は遠退き、渇きが増す。薄靄の子供達の悶絶する様を見て、羊のママに縋り付いた頃、羊のママの亡骸に縋り付いた頃を思い、又皆の指摘するママの居場所を顧みても、其処に影を認める事の出来ない非霊能者の自身を恨み、同時に胸中に鬱積して解放の機会も無い孤独感に涙した頃の感覚が蘇る。

 不意に冷気が背中に吹き付け、井戸の縁を揺蕩う薄墨の靄が凝固し、和服を着込み、黒髪を結った妙齢の女が現れ、呻く様に人名と思しき言葉を呟いた。咄嗟に原真砂子さんは身を乗り出し説得を試み、しかし聞く耳を持たぬ黒幕の女は、天を仰ぐ仕草を見せ、喘ぐ様に喉を掻き毟る。

 一歩、居間の扉の前に居た上司が踏み出し、それを除霊の合図と思った原真砂子さんが制止の悲鳴を上げた。猶予を、と叫ぶ原真砂子さんを無視して、上司は変な形の木片を翳した。

「お前の子供はここに居る。屋敷の子供達諸共、連れて行くがいい」

 上司が木片を投げる。一瞬、屋敷全体が沈黙した様に森閑として、木片を中心に薄墨の靄を払う様な炫燿たる閃光が放たれ、薄靄の子供達諸共、忽ち鎮静した。

 避暑地の東側の地平線上に朝暉が厳粛な光線を放ち乍ら中天へ昇り出し、除霊、否浄霊の最中だった居間の曇った硝子窓を透かして、夜気と黒靄を一掃する。部屋の四隅に凝る気配も、朝の気配に掃討されて腐った床板の亀裂の縁に残る冷気も、時間の経過と共に陽光が温めて消してしまう。冷気の残る時間帯、浄霊を終えた私達は家人達を呼び寄せ、説明は最大権力者の義務で、撤収準備に追われる中、鬼門で踏ん張った霊能者達が木片を使って除霊を行った上司を頻りに褒めた。木片を偶人と言い云々、陰陽師の云々、私は糞爺が偶人なんぞを用いる所を見た記憶が無いが、持ち霊の居る彼には不要なのだろう。垣根の横に停車し、車内が真夏の熱気に蒸され、精密機械を仕舞うのに少々の時間を要する車内温度に辟易して、冷房装置を全開にした助手に、こっそり本当に上司が木片を作ったかを尋ねた。木片製作秘話は企業秘密らしい。助手の濁し方で助手手製の偶人と解った。

 松崎綾子さんが、一寸恰好良いわよ、と言って女子高生の様にはしゃいでいた。

 

 * * *

 

 と言う事で、ナルは陰陽師と勘違いされるに至った訳です。しかしこの方が行動し易い。事務所所員の他、協力者達を動かすに都合が良い。陰陽師か否か、真実は黙すに限ります。清灑な内装が東京都内を闊歩する都民の見栄を表す様な喫茶店の上階、一つ上は陰陽師疑惑のある上司が事務所を構える階で、最上階から一つ階下に飲食店の看板が犇く区画があり、事後報告を兼ねて喫茶店に踏み入ろうとした時、携帯電話越しに声を聞いた人達が肩を叩いて来た。突然の登場に一驚を喫した私の北山時雨の胃袋が我慢の限界を迎え、盛大に鳴り、急遽最上階の下の階の飲食店が連なる階へ上がった。某慈善団体の本部が御輿を据える仏蘭西から来日した一人が、満腹感を味わう為、量の多い料理が良いと意見した。泣き喚く腹部を押さえ、食生活を案じる風の某慈善団体女性団員の憂い顔を横目に、お好み焼屋の看板を指差して、魔法使いの帽子を被った儘の保護者の腕を引っ張った。金髪二人、大男一人、日本人一人、多種族の来客に店員の目が丸くなる様を見た。橙色の電球が薄暗い店内を照らし、明るい窓際に着席して、献立表を見遣り乍ら、店員の目線を観察し乍ら、冒頭の様に小声で報告する。

 毛の太い金髪の某慈善団体団員、天使隊隊員のデンバットさんが海鮮物に挑戦すると言って、二つ選んだ。同団体団員、同隊隊員のモンゴメリさん事ミイネさんが焼き蕎麦を選び、団体に出戻りの保護者も焼き蕎麦に挑戦、私は遠慮無く野菜と肉の均等なお好み焼を選んだ。店員が注文を聞きに来て、薄い機械に入力後、一人黄色人種な私を一瞥して奥へ戻り、他者の視線も隠遁生活一年目で慣れた私は御冷を飲んで澄ました。

 店員の他、客の目線も多種族が同席する窓際の席に集中し、廉潔な民族の精神の廃止、時代の趨勢に則って廃れる一方の高潔な精神を惜しんだ。私も高潔な精神を廃止した一人で、異国人同士が同じ席に着座すれば、少しく気に掛かる。振り向く人達の気持を理解出来ぬ訳でもないので、又数年間の内に視線が稠密する場所を向く事も億劫になった。暫く経ち、料理が運ばれ、鉄板の上にお好み焼と皿に載った焼き蕎麦が並び、食事直前の挨拶をして、敬虔なミイネさんはお祈りの後、漸く箸を取って食べ始めた。

「嗚呼、ハオ様に知られた日には、どれ程お怒りになるか」と保護者は私の事後報告を聞いて頭を抱える。幽霊と遭遇した事より、麻衣が井戸へ落下と言う所で、お前でなくて良かった、と呟くので負傷者が私でない事実に安堵すると共に、負傷者が私の場合に被る被害を想像して身震いされた。

「あんまり危ない事は止して、大人しく余生を送れよ」と海鮮お好み焼の海老を齧るデンバットさんが言った。

「貴女には悪いけれど、ハオへの切り札だから」と器用に箸を操って焼き蕎麦を認めるミイネさんが言った。

 糞爺に私の所在を曝露した場合、怒り狂った糞爺が襲い来るに違いない。焼死は二度と御免である。重ねて内密に、と頭を下げて懇請するも、保護者は頷かない。天使隊隊員達は鷹揚に頷いた。

「そう言や、この間、ゴールデンウイーク? だったか。あいつ、本部に迄来たぜ。ラキストからスピリットオブファイアを受け取って、直ぐ帰らずに監視していた見たいだ」

「諦めが悪いわよねえ」

「俺達がお前を保護している事は見当ついている見たいだな、居場所は解ってねえ様だが」

「解っても、簡単に会わせる訳が無いけれど」

「ハオに会うのが怖い。何を言われるか。オパチョの事で怒鳴られたら、私は絶望して、もう死ぬしかありません」と私は言った。

「呪禁在思があるから無意味ね」

「無駄に痛い思いをする位なら、潔く逃げろ」

「私達に言って頂戴。ハオに会わない様に総力を挙げて彼を邪魔してあげる」

「と、もう一つ。実はお前のバイトの件で。心霊現象の調査なんて危なっかしい仕事だから、俺達天使隊の隊員が日本に常駐する事になった」

「候補は私。まだ正式に決まった訳ではないけれど、歩は女の子だし、ほぼ私で決定ね」

「ミイネさんですか」

「そう。住む部屋は歩のアパートよ。引っ越し後に落ち着いたら、事務所に挨拶に行くわ。リンって人にも、念の為に会っておかなくちゃ」

 保護者が魔法使いの帽子を引っ掛けた榻背に紙袋を下げ、思い出した様に仏蘭西土産を下さり、麻衣と夢の中で争奪戦を繰り広げた焼き菓子らしく、白い箱が見えた。有難く頂戴し、昼御飯を終えて店を出る。勘定は黒服を着込む保護者が行い、店の前の陳列棚に見本料理を見乍ら、日本常駐候補者に毎日会える喜びを伝え、持ち重りのする仏蘭西土産の紙袋を携えて、階下の事務所へ向かう。健康増進、維持の為に階段を使い、人気の無い事を確認して、心霊現象の調査の際に糞爺と遭遇する確率を尋ねた。矢張り保護者達も思案して、デンバットさんが、麻倉家の請け負う仕事は妖怪退治が殆どだから、心霊現象の調査現場で鉢合わせする事は無いだろう、と言うので安心した。確かに陰陽師の家系の麻倉家が心霊現象調査事務所で請け負う様な事件に首を突っ込む事は、皆無と断言するのは、遭遇した時に恥ずかしいので避けるが、まず無いと思われる。天使隊隊員の豪語に安堵して、紙袋を振り回して事務所のある階に降り立った。

 保護者達と別れ、広場の袖廊下を伝い、最奥の喫茶店を髣髴させる扉を開けて、既に闖入者の大勢居る事を人声で確信して、仏蘭西土産を護る様に胸に抱いて衝立の陰から顔を覗かした。件の幽霊屋敷の装飾が贅沢な革張りの長椅子より質素で、しかし革の光沢が美しい、事務用長椅子に腰掛ける、先日の調査で事務所所長から重労働を強いられた霊能者達が脚の短い卓子に紅茶や茶菓子を伸べて、榻背越しに私を見遣った。茶髪長髪塵世に浸った服装の破戒僧が笑い、厚化粧が清潔感と神職の清廉潔白を誤魔化す松崎綾子さんが手招きして、金髪碧眼関西弁が不審者の印象を増長させるブラウンさんが一揖し、寒色の和服を纏って舞妓を思い出す恰好の原真砂子さんが目礼して出迎えた。事務所で雑用係に勤しむ親友麻衣は、事前に遅刻を連絡しておいたので、誰に咎められる事の無い私の出勤姿を見て、目敏く仏蘭西土産を見付けて欣喜雀躍した。

 衝立の陰を出て霊能者一同に挨拶し、一度奥の所長室や資料室を覗いて、出勤の旨を伝え、機械で収集した情報整理が終わらぬ助手は、某慈善団体団員の来日の報を聞いている為、愚痴を聞く覚悟で女性団員の日本常駐、挨拶の旨を報告すると、嫌そうに顔を顰めた。紙袋を漁ると事務所用の仏蘭西土産があり、機械を設置した机の、機械から大分離れた場所に置いて、一揖して資料室を出た。上司は旅行中らしい、所長室の扉を叩くと打てば響く様に入室許可、或いは上司自ら顔を出すのに、今日は応接間の物音に無関心な事を訝り、無許可で扉の陰から室内を盗み見る。応接間にある様な質素な卓子と、卓子を囲む革張りの長椅子が据え置かれた所長室内に、黒髪黒服の無感動そうな上司の影はなく、助手に出勤を伝えたから良い事にする。衝立で喫茶店の様な扉とを隔てた応接間に戻り、荷物を棚へ遣り、紙袋を手近な椅子に置いて給湯室へ腰掛けを取りに行く。

 一人掛けの据置き椅子に麻衣が座り、移動自由な凭れの無い、診療所等の待合室に置く様な簡素な椅子を給湯室から持って来て私が座り、豪華な仏蘭西の焼き菓子詰めを卓上に広げ、夢の再来、争奪戦を繰り広げる構えで銘々コップを持った。破戒僧の音頭で乾杯し、経験豊富で百戦錬磨な霊能者達すら苦戦した依頼の後の、お疲れ様会が催され、濃い紅茶を一息で飲み、卓上の茶菓子を摘む。某慈善団体の総帥御用達の高級菓子店の焼き菓子なのだろう。摘むと松崎綾子さんが絶賛し、原真砂子さんも恍惚とした溜息を吐き、業突く張りな破戒僧が三個摘んで、順番に頬張った。その食べ姿を見て、末っ子に申し訳ないが、鰹節と醤油で味付けたお結びを頬張る様に似ていて、破戒僧の実年齢を疑った。

 普段バイトの二人が簡単な仕事を熟し、暇な時間は間が伸びて退屈で、退屈な時間に吃驚する程の何事も無い応接間で見慣れぬ間食風景を眺めて、いつぞや宿泊施設で一家団欒を夢見た事を思い出す。現代の実家に帰る事は未だ叶わぬし、一家団欒を見た末っ子や山田さん、序でに糞爺を含め、二度と再び顔を合わさぬ虚無感、感傷に嘆息する。茶菓子を破戒僧と奪い合う麻衣を見て、互いの部屋で一家団欒を真似て晩御飯を作り、偶然連絡も無しに来日した保護者が寄って、麻衣手製のカレーを食べて行った時を懐かしむ。孤島を去る最終日、昼頃に目覚めて、鰹節と醤油で味付けしたお結びを強請られ作ったが、家族と食べる事に意味があると今なら思う。異世界に来て、真の孤独を痛感する日は無かった。常に末っ子やママ、山田さん、序でに糞爺が居たから寂しいと泣く必要は無く、又感じる瞬間も余り無い。

 焼き菓子を一個齧って、家族のない殺風景な部屋を思い出した。




 XーLAWSは慈善事業ですが、ハオ関連は矢っ張り復讐心が残る。
 と言う事で、厭がらせの一環として主人公(歩)の居場所は教えない。
 ラキストは仲間感覚(?)で心配していますが、他のXーLAWSの人員とは、実は殺伐とした関係。身寄りの無い子を心配していますが、ハオが関係すれば、その子すら利用します。ハオもどっちもどっちと言っていましたし。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。