ハイスクール&パンツァー   作:鈴木大佐

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いもうと、襲来 その2

「ごめんね(はな)、寄り道に付き合ってもらっちゃって」

「いえいえ、わたくしも買いたいものありましたし」

 戦車道の練習が終わったあと、武部沙織(わたし)は華に付き合ってもらってコンビニで買い物をした。買ったのは、残り少なくなっていた生理用品と買いだめ用のお菓子と、あとは今日発売の結婚情報誌(ゼ○シィ)も買っておいたよ。

「とうとう明日ですね」

「そうだよ。ゼッタイ負けられないよね!」

 明日は聖グロとの練習試合。ゼッタイに負けられないよ! だって、

「負けたら、アンコウ踊りですものね」

「イヤだよあんなの! 絶対お嫁に行けなくなっちゃう!!」

 あのちっちゃい会長さんは、試合に負けたら隊長のみぽりんに罰ゲームとして、アンコウ踊りをさせるよう決めたの。みぽりんはあの恐ろしさを知らないみたいだけど、みぽりんだけにあんな辱めを受けさせるわけにはいかないよ。だって友達だもんね!

 で、私達も一緒に罰ゲーム受けることにしたんだけど。

「でも、勝てるのかな~、私達」

秋山優花里(ゆかりん)が言うには、聖グロリアーナ学院は全国大会で準優勝をしたこともある強豪校らしい。

「みほさんと鈴木さんが作戦を考えてくれているみたいですけれど」

 今日は鈴木が早く帰っちゃったけど、昨日までみぽりんと鈴木は遅くまで作戦会議をしていたみたいなんだけど、あまり良い案は出てないみたい。経験の差があるから正面から撃ち合ったら絶対負けるって言ってたし。

大洗(うち)のチームって、経験者がみぽりんと鈴木しかいないのよね。

 でも私達だって足引っ張らないよう頑張るよ! 今日帰ったらゆかりんから借りた通信手のガイドブック読むもんね!

 私達はいつもの帰宅コースの学園艦の左舷の展望エリアを歩く。ここにはいくつか張り出しがあって、眺めを楽しむことができる。学園艦の中では一番のデートスポット! 私もいつかカレと一緒に水平線に沈みゆく夕日を眺めながら・・・きゃー!

「あの、沙織さん?」

 妄想中の私の肩を華が小突く。

「ん、どうしたの?」

「いえ、あそこなんですけど」

 華の指差す方向には、展望デッキにあるベンチで一人佇む女の子。制服は、大洗のじゃないよね。

「見かけない制服だね。どこの子だろう?」

「そういえば、明日オープンスクールじゃありませんでしたっけ?」

 あ、そうそう。明日は中等部や他校の中学生が来るから土曜授業がないのよね。工業科とか他の学科はあるみたいだけど。それに部活動体験もやるみたい。私たちは午前中戦車道の練習がある。

「あんなところで何しているんでしょう?」

 華が首をほんの少し傾げる。確かに女の子の様子は明らかに楽しそうには見えない。ベンチの端に座り、がっくりと頭を垂れている。何か悩み事か嫌なことでもあったのかな。

 私って、ああいうの見てるとほっとけないのよね。気づいたら私たちは彼女の目の前まで来てしまっていた。

「ねえ、どうしたの?」

 私が話しかけると、その女の子はびくっと小さく震えた後、驚いた顔をして私たちを見た。あー、これは結構警戒されちゃってるかな~。でも仕方ないよね。いきなり高校生に話しかけられたら。

「大丈夫、大丈夫。カツアゲしようとかじゃないから。ごめんね、驚かせちゃって」

「えっと・・・・は、はい」

「オープンスクールに来たんだよね? 道にでも迷った?」

 たしか、外から来た子は、学園の合宿施設に泊るんだよね。もうすぐ暗くなるし、そろそろ行かないと。

「いえ、今晩はここの高等部にいる兄の所へ泊めて貰うはずだったんですが、ちょっとケンカしちゃって」

「えっ、で追い出されたの!?」

「いいえ、私が途中で逃げちゃったんです」

 逃げちゃうって事は、相当酷いこと言われたんだよね。なんてけしからんお兄さんだよ! こんな可愛い妹を放って!

「ちょっとお兄さんの名前教えて。 私が懲らしめるから」

「ちょっと、沙織さん」

 華が止めようとするけど構わない。女の子を泣かす―――泣いてたかどうかは分からないけど―――男は許せないよ!

「えっと、そこまでしなくても・・・・」

「いいの、いいの。もしかしたら知ってるやつかもしれないし」

「えっと、それじゃあ・・・・。2年の鈴木って言うんですけど」

 え、鈴木!? 2年で鈴木って、鈴木(あいつ)と優子ちゃんしかいないよね。

「もしかして、お姉さんもいる?」

「はい、いますけど」

 あ、やっぱりそうだ! でもなにアイツ、優子ちゃん以外にこんなに可愛い妹がいるの?

「じやあ、知ってるよ! あいつとは2年連続で同じクラスなんだよね~。戦車道でも一緒だし」

「戦車道・・・・」

『戦車道』っていう言葉を聞いた途端、彼女の表情が陰る。

「やっぱり、戦車道やってるんですね」

 女の子の声がちょっと震えている。わわ、どうしたんだろう。もしかしてケンカしたのって戦車道が原因っていう。

「もしよければ、話を聞かせて下さいませんか?」

 華が彼女の前にかがみ込む。

「話せば、楽になるかもしれませんよ」

 

 

 私達は鈴木の妹、有理沙ちゃんから色々話を聞いたよ。彼女が戦車道を嫌いなこととか、何故嫌いになったか、そして鈴木が何故大洗に進学したか。

 鈴木は中学でも戦車道をやっていて、中3の大事な試合の時にケガをした。しかも頭に。頭から大量に血を流してて有理沙ちゃんはかなりショックだったみたい。有理沙ちゃんは鈴木に戦車道をやめるよう頼んだんだけど、次の試合が大会の決勝戦だったから断って出たんだって。それからはそっけない態度しかとれなくなっちゃったみたい。で、鈴木も悪いと思ったのか、戦車道をやってない大洗学園に進学した。

 これって鈴木が悪いよね。だって有理沙ちゃんがこんなに怒っているって事は、鈴木はちゃんと有理沙ちゃんを説得しなかったわけだし。何よりアイツ、今回戦車道が復活して迷わず戦車道選んでたよね!? まあ、でも生徒会に無理矢理入れられてたかもしれないけど。

「私も悪いとは思ってるんです。お兄ちゃんは本当に戦車道が好きだったから。私のわがままのせいで戦車道ができなくなって」

「そんなこと無いよ! だって怪我したんでしょ。そりゃ不安になるよ!」

 私だってカレが危ない事をして怪我をしたら、もうやって欲しくないと思うもん!

 有理沙ちゃんはスクールバッグから何かを取り出した。帽子?

「本当は、お兄ちゃんが戦車道また始められて良かったって思ってるんです」

 差し出された紺色の帽子は、ゆかりんから借りた戦車道の雑誌で見たことがあるよ。えっと確かキカクボウとかいうんだっけ。前には大洗の校章が縫いつけてあるよ。

「これ、自分で縫ったんですか? ものすごく丁寧ですね」

 華がまじまじと帽子を見つめる。うん、私も裁縫はちょっとするけど、これはかなり上手だよ。

「でも、いざ会ってみると、何て言って良いか分からなくて・・・・」

 有理沙ちゃんはさっきからずっと下を向いている。顔は見えないけど今にも泣き出しそうな声だよ。あー、こういうときは何て言ってあげたらいいのかな。

「有理沙さんは、鈴木さんのことをとても大事に思われているのですね」

 華が帽子をを有理沙ちゃんの手にそっと添える。

「今のことを、鈴木さんに言ってみてはいかがですか?」

「でも・・・・」

「大丈夫です。鈴木さんも有理沙さんのことは大切におもわれていると思いますよ」

 有理沙ちゃんを慰める華は、なんかもの凄く格好いいよ! 私は茫然とその様子を眺めている。けど、向こうから走っている音が聞こえてハッと我に返った。

「お前ら、何やって・・・・」

 私たちの前まで走ってきたのは、この問題を引き起こした張本人、鈴木だよ!

「あーっ! 妹をいじめる悪い兄!」

 びしっと指差された鈴木はぐぬぬと後ずさる。

「いじめとらんわ! てか、お前ら何しとんねん?」

 鈴木が関西弁になっている。

「何って、このコの相談に乗ってあげてんのよっ」

「それはちゃんと俺がやるから。有理沙、行くぞ」

 有理沙ちゃんは無言のまま、ベンチから立ち上がる。良いのかな?

 鈴木は有理沙ちゃんが立つや否や、手を握って無理矢理引っ張っていった。ちょ、ちょっと! けど、止めようとした私を、華が黙って止める。

「ちょっと、お兄ちゃん! 手!」

「家着くまで離さねえぞ。良いから来い」

 2人はぎゃあぎゃあ言いながら、展望デッキより一段上の市街地エリアへのスロープを上っていってしまた。

「ねえ、良いの華。またケンカになったりしないかな?」

「大丈夫ですよ」

 華のその自信はどこから沸いてくるのだろう。

「ケンカする人は、手なんか握りませんもの」

 あ、なるほどぉ。でも、ちょっと心配だよ。明日鈴木に会ったら一番に確認しないとね。

「さ、私たちも行こっか」

 

 

 

 まさか、武部達が絡んでいるとは思わなかった。市街地甲板(デッキ)まで上がったところで俺は早歩きをやめた。

 有理沙はさっきから無言のままだ。俺は握っていた手を離し、正面に向き合う。今度こそちゃんと話さなければ。

「なあ、有理沙・・・・」

「嘘つき」

「ちょっと待て。俺は何も言ってへんぞ」

「・・・手、離した」

 そう言えば、家に帰るまで離さないと言ったっけか。

「悪い」

「ふんだ」

 有理沙はむくれてそっぽを向いてしまう。いきなり出鼻をくじかれた形だが、ここでやめるわけにはいかない。俺は有理沙の両肩を掴み、ぐいっと自分の方へ向ける。

「有理沙、俺は・・・・」

「わかったから!」

 有理沙は俺の両腕を引き剥がす。ちょっと待て、俺は何も言ってないぞ!

「どうせ、マンガかアニメから引っ張ってきたクサイ台詞でも言おうとしたんでしょ」

「いや、それは・・・」

「どうせ、戦車道やめないんでしょ。もういいよ」

 待て待て。さっきまであんなに怒っていたのに。戦車道嫌いだったのに、それで良いのか? さっきは顔面に鞄飛ばしてきたくせに。一体武部達に何を言われたんだ?

「でも約束して」

 有理沙は乱暴にさっきから持っていた帽子を俺の胸に押し当てる。これは、規格帽?

「絶対に、中学の時みたいにならないで」

 それは重々承知している。俺はあの時の――――俺が頭部に怪我をしたときの――――有理沙の顔は絶対一度も忘れたことはない。

「・・・・わかった」

 俺はいい加減に答えたと思われないよう、しっかりと声に重みを乗せて答えた。

「それじゃあ、はい」

 有理沙が手を差し出す。

「・・・・お手?」

「違う」

「おかわり?」

「違うってば」

 じゃあ何だ? 金でもよこせってか。

「帰るまで、手離さないんでしょ?」

 あ、そういう。でもなあ。

「いざ、手を握るってなると、恥ずかしいな」

「何言ってるのよ、お兄ちゃんのバカ」

 今のでバカというのはひどいと思う。俺は「わかったよ」と言って有理沙の手を取る。

「優子が心配してたぞ。帰ったらちゃんと説明しとけよ」

「えー、めんどくさい。お兄ちゃんが悪いんだから、お兄ちゃんが説明してよ」

「もう勘弁してくれ。優子の事情聴取は苦手なんだ」

 

家に帰ってからは、有理沙はすっかり変わってしまった。といっても悪い意味ではない。2()()()以上前の状態に戻ったという事だ。

 夕食を食べ終わってからというもの、有理沙は俺の膝の間に座ったっきり動こうとしない。もう1時間ずっとこうだ。中村とかはこの膝の上に美少女が乗る状況を羨ましがると思うが、1時間となればこれはかなりしんどい。

「なあ、有理沙、動きたいんやけど」

「えー、やーだぁ~」

さっきからこのやりとりが数回行われている。優子は何も言ってこないし、微笑ましい様子でこちらを見ているのだが、目だけは笑っていない。

「リサちゃん、お風呂沸いたから入ってきて」

 優子に促され、有理沙が風呂場に行ってしまうと、優子は俺の隣に座るやいなや顔を近づけてきた。

「ん、何?」

 優子は俺の胸元辺りをくんくんと嗅ぎ回る。

「・・・・他の女の臭いがする」

「ちょっと待て、それヤンデレの台詞やろ」

 他の女と言っても、さっきまでくっついていた有理沙以外いないだろう。

「でも、まさ兄。ヤンデレも好きなんでしょ?」

 優子はそう言って押し入れの方を指差す。優子の『検閲』により、ギャルゲーや一部のコミックがあの中の段ボール箱に入っている。でも封印されたわけではなく、いつでも取り出すことはできるのだが。優子はどうやらそれらの内容をちゃんと調査したらしい。

「有理沙ちゃん、マーキングするためにずっとくっついていたんだね」

「なんやそれ。犬かよ」

 俺のツッコミをよそに、優子は「むぎゅー」と抱きついてきた。

「まーでも、すぐわたしので上塗りしてあげるからねっ」

「それ絶対他のやつにいうなよ」

 もうヤンデレというか、ただの変態のような気がするのだが。優子ファンクラブのやつがこれ知ったら、さぞがっかりするだろうな。

「でも、本当に良かった。まさ兄と有理沙ちゃんが仲直りしてくれて」

「別に仲が悪かったわけじゃねえよ。気まずかったんだ」

「まあ、どっちにしてもホッとしたよ。有理沙ちゃん、怒りのあまりまさ兄を殴っちゃうかもしれないって思ったもん」

 殴られたさ。未遂だったけど。

 かしゃんと風呂場のドアが開く音がすると、優子はすぐに離れた。おそらく有理沙に気を使ったのだろう。

 有理沙は戻ってくるなり無言の笑顔でドライヤーを寄越してきた。どうやら髪を乾かせとのことらしい。仕方なく俺はドライヤーのプラグをコンセントにぶっ差して、目の前に座った有理沙の頭をわしゃわしゃしながら、後頭部めがけて温風を噴射する。優子はその様子をチラチラと横目で見ながら、風呂場へ行ってしまった。

「なあ、有理沙。本当に戦車道続けていいのか?」

 さっきからずっと聞きたかった。俺の前から怒って逃げてからしばらくの間で、俺が戦車道を続けることを認めたのだ。有理沙と武部たちが何を話していたのか非常に気になる。

 有理沙が無理して戦車道をやることを許したのなら、それは俺にとっても嫌なことだ。とにかく多少でも()()()が残るのは絶対に避けたかった。

「本当はいやだよ。だって、お兄ちゃんがまたケガでもしたらって思うと怖いもん」

 俺は自分の顔を見ていないのでわからないが、怪我をした時の俺はかなりグロかったらしい。出血で顔の右半分が血まみれだったとか。多分俺が見てもかなりショックを受けただろう。

「でもね、お兄ちゃん戦車道本当に好きだし。私もちょっとわがまま言い過ぎたって思ってるし」

 しかしあの時は、俺はちゃんと有理沙に戦車道を続けたいと主張できなかったのだ。曖昧というか中途半端な返事ばかり続けて、有理沙を余計に心配させてしまったのだ。

「お兄ちゃん優しいもんね。だから大洗行ったんでしょ?」

「うん」と言おうとしたところで、俺は「う」と言ったところで口を噤んだ。別に優しさで大洗に進学した訳ではない。

「でも、さっきも言ったけど。約束は守ってよね」

「ああ、わかってる」

 今度ばかりは有理沙に心配をかけるような事は絶対に避けなければならない。次同じようなことが起これば、なんてことは想像したくない。

 後ろの方は大体乾いたので、前の方へドライヤーの砲口を向ける。

「明後日、応援行くからね」

「おう、それじゃ頑張って勝たないとな」

 その後、優子が風呂からあがってきて、俺は彼女の髪も乾かさなければならなかった。

 

 

 

翌日、俺たちは日曜の練習試合に向けての最終調整のために、朝早くに学校を出た。昨日のことに関して、武部から何か追究があるのかと思うと、少しばかり憂鬱だ。

 案の定、学校に着くなり俺は武部からジト目で迎えられた。のだが、

「す、鈴木・・・それっ」

 武部はすぐに顔色を変え、俺の顔を指さす。まったく、会うなり失礼な奴だ。

「なんだよ、朝っぱらから」

「そ、その・・・・首のやつ!」

 武部は手提げ鞄から手鏡を取り出し、俺の方へ差し出す。俺はそれを受け取り、鏡面に首を映した。

「ん? 何だこれ」

 首に赤い粒が一つ。赤く腫れたような感じ。

「ダニにでも咬まれたのかな。全く気付かなかった」

「いやいや、それキスマークでしょ」

「はあ?」

 キスマークぅ? 何のこっちゃ!? そんな記憶ないぞ。

「なんでや。キスされた記憶なんてねえぞ」

 俺は一応確認ついでに、「容疑者」となる2人の方を見る。優子は首を傾げていたが、有理沙の方は・・・

(てへぺろっ!)

 お前かよ! 全く気付かなかったぞ!!

「俺が誰とキスすんねん! ダニや、ダニ!!」

 まだ疑いの目を向ける武部をスルーして、俺は戦車が駐車されている倉庫の隣にあるペレハブ小屋にバッグを置きに行った。そして有理沙を連れて、外部中学生の宿泊及び集合場所になっている合宿施設へ向かった。そこで合宿施設に泊まっている、同じ札幌中央学園の友達と合流するのだそうだ。

「ねえ、お兄ちゃん。おこってる?」

 俺が早歩きなのを気にしてか、有理沙が顔を覗き込んでくる。

「別に・・・・」

「頬っぺたの方が良かった?」

「そーゆーのじゃねえよ」

 なんかこいつも優子に似てきた気がする。ボケ方がまるっきり同じだ。

「じゃあ、嫌だった? キスされるの」

 その質問は卑怯だと思う。

「いや、そうじゃなくて。えっと、見えないところにして欲しかったというか」

 あー、もう何言ってんだ、俺! この手の質問は本当に苦手だ。

「じゃあ、今晩楽しみにしててね」

「勘弁してくれ、明日は試合なんだ」

 戦車の上であくびなんてしているところを撮られるなんて、絶対にごめんだ。

 合宿施設は、グラウンドを出て体育館のそばを通った先にある。体育館の角を曲がって合宿施設の入り口前に来ると、知っている制服を着た少女が立っていた。

 水色のブラウスに白色のセーター、紺色のスカート。札幌中央学園の制服を着た彼女は、俺たちの方を見るなり、笑顔で駆け寄ってきた。おや、彼女は。

「せんぱーい!」

 彼女は有理沙ではなく俺の方へ突っ込んでタックルを食らわせてきた。と言っても彼女はかなり小柄なので何とか受け止めることができた。

「ちょ、心優ちゃん!?」

 俺に体当たりを仕掛けてきたのは、中学時代の後輩、橋下(はしした)心優(こころ)だ。

「せんぱーい。お久しぶりですぅ」

 心優はそう言って、頭を俺の胸にグリグリと押し付けてきた。まさかこれもマーキングなのか? やばい、そう考えるとドキドキしてきた。昨日優子が余計な事言うから!

 橋下心優は俺の中学時代の戦車道部の後輩だ。小柄で可愛らしい仕草から、俺たちの間では「豆戦車(マメ)ちゃん」と呼ばれてたっけ。なぜか俺によく懐いていた。まさしく今のように。

「心優ちゃん、久しぶり。戦車道はどう?」

「はい、部では今年《BT-7》を買ったのですが、わたしが車長になったんですー」

 心優はぼさぼさになってしまった前髪を直しながら、えへへーといった感じで言う。

「マジで! おめでとう!!」

「あとあと、《T-26S》も2両買ったんですよ! これもせんぱいが2年前に頑張ってくれたおかげですぅ」

 心優はそう言ってスマホでそれらの戦車の写真を見せてくれた。札幌中央学園では、主にソ連系の戦車を使っているのだが、俺の時代には《T-26B》(1933年型)軽戦車と《BT-5》快速戦車、そしてどこからか譲ってもらった《バレンタイン Ⅲ》歩兵戦車を使っていた。俺は《BT-5》の車長を務めていて、その機動力をかなり気に入っていた。他にも俺が3年になった時には、ソ連系戦車を使う強豪校プラウダ高校から、《KV-1》(1939年型)を譲ってもらった事もあった。

 ちなみに、俺が中2から中3までの間が、戦車道の成績が最も良く、中3の時の全国大会準優勝は母校では伝説となっている。

「そういえば先輩。戦車道、また始めたんですよね」

「あー、そうそう。復活したらしいからね」

 俺は横目で有理沙の顔を伺いながら答える。

「明日の試合、ぜーったいっ応援に行きますから・・・・はうっ!?」

 さっきから俺にしがみついていた心優がばっと離れ、そのまま後ろへ下がっていく。

「ほらほら、そろそろ集合時間でしょ。いくよ」

「あ~、有理沙ちゃん、まって~」

 有理沙が心優の襟のを掴んで、引きずっていったのだ。おいおい、首閉まるぞ。

「せんぱーい、応援行きますからね~!」

 俺は、あははと軽く手を振りながらそれに答える。

 2人が建物の中に入って見えなくなると、俺も集合場所に戻るべく踵を返す。どこからか視線を感じたが気のせいか?

倉庫前まで戻ってくると、綾子が入り口前で腕を組んで立っていた。

「どうしたん?」

「さっき、後輩の子抱きしめたでしょ」

「さっきの見てたんかい。てかあれは向こうが抱きついてきただけで、俺は抱きしめてないからな」

 綾子は「ふん」と言って倉庫の中に入って行ってしまった。いったい何が言いたかったのだろう。

 俺も頭を掻きながら彼女に続いて、倉庫の中に入った。

 今日の練習はオープンスクールの関係で、砲撃音で邪魔しないように授業時間中は走行訓練、休憩時間は砲撃訓練を行った。昼休みには、練習場にに見学者が集まって砲撃訓練を見守っていた。ただ、彼らが俺たちの戦車の『オリジナリティあふれる迷彩』についてどんなことを話していたかは、絶対に聞きたくない。

 自動車部が戦車の最終調整をしてくれるので昼過ぎには練習を切り上げた。帰宅途中、地面いや甲板が少しばかり揺れ、頭上を影が覆った。

「うわっ、何?」

 俺たちが上を見上げると、巨大な学園艦が大洗学園艦の右にとまったのだ。聖グロリアーナ学院の学園艦だ。

「でけぇ」

 大洗学園の倍以上はある。俺たちは立ち止まって、呆然とその学園を見上げていた。

 聖グロリアーナ学院。イギリスの文化の影響を受けた学校で、使用する戦車もイギリス系。毎年全国大会でベスト4に入る強豪校だ。よくもまあ生徒会はこんな学校と練習試合を申し込んだものだ。しかも負けたらアンコウ踊りとか。

 個人的にみほたちのアンコウ踊りも見てみたい気もするが、武部はともかくみほにアレはあまりにもかわいそうなので頑張って勝たないといけない。相手は全国大会ベスト4。正攻法では絶対に勝てないので、いわゆるゲリラ戦法などを取り入れて綿密に作戦を練らなければならない。だが、俺たちは戦車道を初めたばかりの素人集団。基本は押さえたつもりでいるが。

 久しぶりの試合での興奮と、あのカラフル戦車と肩を並べる恥ずかしさ、そして強豪校の恐怖感を感じながら、複雑な気持ちで俺は家へと戻った。

 

 

 翌日、俺たちはまだ薄暗いうちに家を出て学校に着いたのだが、《Ⅳ号戦車》だけ姿が見当たらなかった。

「あれ、Ⅳ号はどこ行ったんだ?」

 俺は《M10パンター》でエンジンルームの整備をしている中村に聞いた。

「Ⅳ号なら冷泉さんを迎えに行ったぞ」

「はい?」

 戦車でお迎え? そんなアホな。スクールバスじゃあるまいし。ああでも確か、冷泉は朝がとてつもなく弱くて、起こしに行かなきゃいけないとか武部が言ってたっけ。

 俺も戦車によじ登ると、どこからか砲声がした。もしかしてⅣ号か? 起床ラッパの代わりに戦車砲を使ったんじゃないだろうな。

最終整備が完了し、《M10パンター》以下残りの車輌は学校を出発、車輌用エレベータを使って甲板を降り、ランプを使って大洗の大地に降り立った。そこで《Ⅳ号戦車》と合流、聖グロリアーナとの集合地点に向かった。

今回の試合のフィールドはほとんどが岩場の荒れ地ステージ。さらに大洗の市街地の一部もフィールドになっている。

 俺たちが集合地点で戦車を横に一列に並べてから5分。対戦相手が現れた。俺はその威容にしばし圧倒された。

 聖グロリアーナの戦車隊は一糸乱れぬ一列横隊を組んでやってきて、手前で止まった。戦車は《チャーチル》に《バレンタイン》、《マチルダ》の歩兵戦車だ。車両に種類が違うのによくきれいな横隊を組めるもんだ。

聖グロリアーナの戦車隊は俺たちの目の前で停車し、それぞれの戦車から乗組員が下りてきて、既に整列している俺たちの前に対した。その中で、チャーチルの司令塔から降りてきた女子が前へ進み出る。対してこっちは河嶋先輩が前に出た。

「本日は急な申し込みにこたえて頂き感謝する」

「構いませんことよ。それにしても、個性的な戦車ですわね」

 聖グロの隊長は口元を押さえている。笑ってるよ、絶対笑ってるよあの人。あー、もう今すぐ帰りたい。

「ですが、わたくしたちはどんな相手であろうと全力で尽くしますの。サンダースやプラウダみたいな下品な戦い方はいたしませんわ。お互い騎士道精神で頑張りましょうね」

 そして隊長同士のあいさつの後、審判による礼が行われ、聖グロ、大洗の各選手は各々の戦車に乗り込み、スタート地点に向けて動き出したのだった。

 

 

 

大洗学園 対 聖グロリアーナ学院

試合形式:殲滅戦

両校編成:大洗学園

 隊長車:Ⅳ号戦車D型(Aチーム)

     M10パンター(Bチーム)

     38(t)軽戦車B/C型(Cチーム)

     40Mトゥラン(Dチーム)

     八九式中戦車甲型(Eチーム)

     M3リー中戦車(Fチーム)

     Ⅲ号突撃砲F型(Gチーム)

 

聖グロリアーナ学院

 隊長車:歩兵戦車Mk.ⅣチャーチルMk.Ⅶ

     歩兵戦車Mk.ⅢバレンタインⅧ 2輌

     歩兵戦車Mk.ⅡマチルダⅡ 4輌

 




読んでいただきありがとうございます。今回は沙織視点も入れてみました。ほかのキャラ視点での話もたまに入れていこうと思います。
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