笹原に戦車道の話を持ち出された帰り道、ファミレスに寄ろうと言われて付き合っていたら、すっかり帰宅が遅くなっていた。笹原はやたら俺を家に帰らそうとしなかった。笹原はそれほどお喋りでないが、今日に限っては良く喋っていた。いつもの笹原らしくないと疑問には思っていたのだが、武部と同じクラスになれて嬉し過ぎてテンションがおかしくなっているのだと思い追究はしなかった。
笹原と別れた後、タイミングを見計らったようにスマートフォンが振動した。電話のようだ。画面を見ると母からの着信であった。
「もしもし」
「あ、正弘くん? ちゃんと学校行った?」
「第一声がそれですか・・・。ちゃんと起きたし、学校も行った」
「よかった。次帰ってくるのは夏休みよね。成績、楽しみにしてますよ」
ふっ、といやな笑い声が聞こえた。
「うん、わかった」
特に言うこともないので、適当に返事をする。
「じゃあ、あとは『優子』の事、任せますね。それじゃあおやすみなさい」
「あいつは大丈夫だと思う。おやすみ」
通話時間一分弱、実家からの電話はあっけなく終わった。相変わらず丁寧語なのが慣れない。まあ、まだ母とは『8年』ほどしか一緒に過ごしていないからだ。
俺を産んでくれた実の母は小学校2年生の時に病気で死んだ。病名は長すぎてよくわからなかった。そして、翌年には親父は再婚していた。それが今の母さんだ。最初はすでに物心ついている歳でもあり、かなり抵抗はあった。が、いつも気を使ってくれて、丁寧で、優しく接してくれた。相変わらず心配性で丁寧語なのは慣れないが、最初よりはるかに自然に接している。
親父に止められていることもあってほとんど追究しないでいるが、母さんは前の夫にひどいDVを受けていたらしい、そして逃げるように離婚し、今の親父と再婚したとか。過去の経験から男性恐怖症にでもなるのではないかと思うのだが、その辺りは本人のみぞ知るところだ。それよりも実の母が死んで一年もたたないうちに再婚した親父の当時の心境が知りたい。聞かないではいるが。
そして『
両親の再婚当時、親父側の子供である俺と1歳上の双子の兄貴、そして母側の2人の娘が一緒になって俺たちは5人兄弟になった。当然教育費はかなりかかるし、俺はともかく兄貴たちは当時情緒不安定で両親に反抗的であったこともあり、母は相当苦労しただろう。さらに両親は共働きで家族サービスにも十分時間が割けなかったので、もっぱら妹たちの相手は俺がしていた。そのため妹たちとの関係は良好なのだが、一方兄貴たちと妹たちの関係は依然として溝があるように思える。
優子は俺にくっつくようにして大洗に入ったが、彼女は寮で暮らしており、クラスも違うこともあってほとんど会わないし話すこともない。
任せたとは言われたが、優子はそこそこできるやつなので去年と同じようにしても問題はないだろう。
自宅マンションの前まで来た頃には時刻は午後7時になっていた。なぜか俺の部屋のある2階フロアが騒がしい、小走りに階段を上がっていると、隣の部屋の玄関前に段ボールが積まれていた。
「あ、スズッキーじゃん。おかえりー」
段ボールの間から顔を出したのは。隣に住む
「先輩、お久しぶりです」
「今日って始業式でしょ?遅かったじゃない」
「友達に付き合わされてですね。先輩もしばらく見かけませんでしたが」
河内先輩は俺よりふたつ上、今年卒業したばっかりだ。東京の美容専門学校に通うとかなんとか言っていたのだが、ここ1週間姿を見ていなかったのだ。
「さっき東京から帰ったとこ。ホントは一昨日ここに戻って、荷物とか全部向こうに持っていく予定だったんだけど忙しくて。ホントは昨日新しい人が入る予定だったんだけど、明日まで待ってくれることになったのよ」
「それ、相手の人、大丈夫なんですか?」
「学園の2年生らしいわよ、寮から移るんだって」
同学年か。俺みたいに自由気ままに過ごしたくなったのだろうか。
「女の子よ。あんた、手ぇ出すんじゃないわよ」
なんで先輩にそんなこと言われなければならないのだろうか。
「そんなことしませんよ」
「そうでしょうね、あんたもう彼女いるんだし」
・・・・?
「なんすかそれ」
「わたしが帰ってきたとき、すっごく可愛い娘があんたの部屋入っていったわよ」
まさか・・・・・・!
すぐに誰か見当がついた。というかほぼ間違いない。俺はあわててドアに手をかける。鍵はあいていた。
出るとき消していった明かりがついており、玄関からは死角になっている台所から物音が聞こえる。
「あ、まさ
台所から顔を出したのは、制服エプロン姿の美少女・・・・・・
「・・・・優子」
ああ、さらば俺の一人暮らしライフ。
「優子、どうやって入った?」
予想通りだった。俺の目の前にいるのは鈴木優子。俺の妹だった。
「春休みに一緒に帰ったときに、お母さんからもらったのー」
なるほど母さんも共犯か。今『任せた』の意味が分かった気がする。
「なんでその時に言わんかってん?」
思わず関西弁になる。
「言ったら、嫌って言いそうだったから」
おそらくそうだろう。拒否していたに違いない。
「でもなんで・・・・」
「だって、お母さんが同じ学校行ってるんだからお金がもったいないって」
確かに、別々に住んでいればその分金はかかるけれども。
「でも私はまさ兄と一緒に暮らせるようになってうれしいよ」
よくそんな恥ずかしいことが言えたもんだ、兄妹で。
「恥ずかしいこと言うな」
「だってまさ兄最近冷たいんだもん。学校で見かけても全然話してくれないし、一緒に出かけてもけれないし・・・・」
「ぐ・・・・」
事実ではある。照れくさいというのもあるが、俺達は義理の兄妹だ。このことがばれたら変な噂になることは必至だ。なぜなら義理の兄弟は、法的には『セーフ』だからである。このネット社会でこのことを知っている男子高校生は少なくないだろう。しかも一緒に住んでいるとなれば、思春期真っ直中の男子高校生が見逃してくれるはずがない。
また、俺が言うのもなんだが、優子は学校の中でも有数の美少女だ。優子がモテている事は校内の噂で1年の頃から聞いている。去年の非公式人気投票では、確か1位に入っていた。まあ俺も優子に投票したんだがな。
しかしもうこうなった以上は仕方がない。追い出すわけにもいかないし、校内で広まらないようにすれば問題ない。そう、去年と同じように接すれば。
「明日、笹原君にお礼言っとかなくちゃ」
「はい?」
どういうことだそれは。
「晩御飯できるまで、まさ兄の足止め頼んどいたの~」
なるほど。どうりで笹原の様子がおかしかったわけか。
・・・・て、なんてこった! もう第三者に情報が渡っている!
「てかお前、笹原と面識あったんか?」
「ないよ。でも、この写真見せたら、妹だってすぐ信じてくれたよ」
優子はそう言って、自分のスマートフォンの待ち受け画像を俺に見せてきた。
「ちょっと待て。お前、それを待ち受けにしてるのか?」
「そだよー。入学してからずっとそう」
その待ち受け画像とは、入学式の時に校門の前で撮った写真なのだが、優子が俺の腕に抱きついている画像だったのだ。
「お前、ほかのやつに見せてないよな?」
「見せる機会がないもん。誰にも見せてないよ」
笹原以外はな。
今まで、武部沙織ネタでからかってきたが、笹原も俺を攻撃する材料を手に入れたことになる。まあ、だからどうしたと言うものだが。
「で、ねーねーまさ兄ぃ」
「なんや?」
優子が半ば強引に俺の鞄を奪い取る。
「まず、ご飯にする? お風呂にする? それとも・・・」
「あー、その先は言わんでいい」
「えー、せっかく夜の分までシミュレーションしておいたのにー」
「やめんか!」
もう、新学期初日から波乱の予感しかいない。
こんにちはお久しぶりです。鈴木大佐です。
昨年忙しかったリアルライフが落ち着き始めたので久しぶりの投稿です。
といっても、忙しいことに変わりはないので投稿ペースは極めて遅めです。
今後もよろしくお願いします。