ハイスクール&パンツァー   作:鈴木大佐

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戦車道、やります!

 重い。左半身に異常な重みを感じ、目を覚ますと、体中が汗でびっしょりだった。左腕が痺れる。ピリピリ、チクチクとした嫌いな感覚だ。

 原因はすぐに分かった。左に目をやると、優子が俺の左腕をしっかりと抱きながら寝ていたのだ。痺れで触覚がおかしくなりながらも、左腕にしっかりと押し付けられたふくらみの感触を感じ、眠気は一瞬で吹き飛んだ。

 優子を起こさないよう、そっと腕を引き抜き起き上がる。

 午前4時、普段の起床時刻が7時なのであまりにも早い。もうしばらくは寝れる。と、その前に、汗でぬれた服を着替えなければならない。本当はシャワーも浴びたいと思ったが、面倒くさいのと、優子を起こすのは悪いと思いやめておいた。といっても、着替える原因を作ったのは優子なのだが。

 しかし、失敗だった。友達や家族が泊りに来た用だとかなんとか理由をつけて、もう1人分そろえしておくべきだった。うちには布団は一人分しかないのだ。

 そのことに気付いたのは昨晩の寝る直前だった。家の1DKの1部屋は6畳の和室だったので、俺は畳の上で寝ると言ったのだが、

『なら、わたしも畳の上で寝る』

『それじゃあ、布団譲った意味ないだろ』

『じゃあ、一緒に寝よ?』

 俺が優子を放って1人で布団で寝ることはないと見抜かれているようであった。一緒の布団で寝たことは昔何度かあったが、やはりこの年になると抵抗があった。

着替えを終え、今度は優子に背を向けるようにして横になる。これだと右肩に負担がかかるが、1、2時間程度ではたいしたことはないだろう。

俺が再び眠りにつこうとしたとき、背後でごそごそと音がした。優子が寝返りでも打ったのだろうか。

すると背後から2本の腕が伸びてきて、俺の胸の前で交差する。背中に幸せなふくらみの感触を受け、俺は抱きつかれたと理解した。

「・・・・優子」

 あまりにも不自然なので、声を掛けてみる。

「・・・・・・スー」

 こいつ絶対起きてる。寝息がわざとらしいぞ。

「優子、起きてるだろ」

「・・・・スー、スー、スー」

 そうか、寝たふりを決め込むか。そっちがそうなら、

「今すぐ話さないと、今日から口きかない」

 この一言はかなり効いたらしく。俺の前からするすると腕が離れていく。ん、今鼻をすする音が聞こえたような。

「まったくどうしたんだよ」

 俺は少しばかり優子に説教しようと、優子の方へ体を回転させる。すると、目の前に半泣きになりながら、俺をじっと見つめる優子がいた。

 いかん、初弾にしては言い過ぎたか。

「悪い、言い過ぎた! 汗びっしょりで、腕痺れてイライラしてただけなんや!」

 あわてて取り繕う。

「ごめん、まさか泣くとは思わなかったから・・・・」

「ううん、まさ兄にそんなこと言われたの初めてだから・・・・びっくりして・・・・」

 そう言って顔を背けてしまう。あー、まずいなこれ。

「そ、そうっやっけ?」

 俺は、過去の優子への接し方を振り返ってみる。確かに、兄貴たちの優子への当たりは強かったから、俺は優子に対してかなり優しく接していたが。

 と、そんなことより今の優子を何とかしなければ。あまり良い手段ではないが、何かで釣るか。そういえば、確か昨日、一緒に出掛けてくれないとかで文句言っていたな。

「お詫びとしては何なんやけど、今度どっか一緒に出掛けようか?」

「ほ、本当・・・・?」

 よし、うまくいった。優子の顔が再び俺の方へ向く。

「じゃあ、今度入港したときに、アウトレット行きたい・・・・」

「わかった、行こう」

「本当に?」

 さっきの悲しそうな顔はどこへ行ったのか。表情は明るくはないが、目は明らかに嬉しそうだ。

「ああ、約束する!」

「じゃあ、指切り・・・・」

 俺たちは指切りをし、約束を誓う。

 案外簡単に機嫌戻してくれたな。なんかちょろすぎてちょっと心配だが。

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」

 しかし、どうしたものか。

「完全に目、覚めちゃったね」

「ああ、もう寝れんわ」

 

 

 

 4時間後、学校に行く時間になり、俺たちは家を出た。本当は、優子との同居がばれないように時間差で家を出ようと思っていたのだが、今朝の一件があったのでさすがにそんなことはできず、普通に2人で出た。

 階段を降り、マンションから出るとすぐに優子が腕に抱きついてきた。こいつ、今なら何をしても許されると思っているな。俺はそんな彼女の額を人差し指で小突く。

「外ではそんなにくっつくな」

「えー、なんで?」

 なんでって、そりゃあ、

「恥ずかしいからだろうが」

 優子の過度なスキンシップは今朝のでお腹いっぱいだ。これ以上されると俺の理性が崩壊しかねない。

 優子がむーっとふくれてこっちを見てきたので顔をそらす。今日はあまり強く抵抗できないからなぁ。また釣るか。

「代わりにいくらでもどっか連れてってやっから」

「ほんとに? やったぁ!」

 ちょろい。本当にちょろいわこいつ。まあ、いいや。扱いやすいことに越したことはない。

「ねえ・・・・」

 今度は優子が袖をつかんできた。今度は何だよ。

「ん?」

「あれって・・・・」

 俺は優子が指差したほうを見る。あれは、

「・・・・みほ?」

 俺たちの前を歩いているのは、みほだ。だが何か様子がおかしい。なぜかふらふらしていて危なっかしい。まるで魂が抜けてしまったようだ。

「おーい、みほー」

「ふぇっ!?」

 俺が後ろから声を掛けると、みほは体をびくんとはねつかせた。相当驚いたようだ。

「おはよう」

「おはよう、正弘くん。・・・・あれ? 優子ちゃん?」

「みほちゃん久しぶり~」

 優子とみほが互いの事を覚えていたのは少しびっくりだ。確か、小学校3、4年の間しか一緒にいなかったはずだ。

「みほちゃん大洗に来てたんだ。知らなかったよー」

「う、うん。正弘くんと同じクラスなの」

 それを聞くなり優子が俺の方へ迫ってくる。

「なんで、まさ兄教えてくれなかったの?」

「いや、そのだな・・・・」

 言う必要が無かっただとか、その発想はなかったなんて言えば怒られるだろうし、良い言い訳が思いつかない。

「えっと、どうしたんだ? そんなふらふらして」

 優子の追及は流すこととする。

「あのね、昨日ちょっといろいろあって・・・・」

 昨日、確かみほは武部たちと一緒に帰ったはずだ。俺は笹原と帰ったから放課後の何をしてたかは全く知らない。基本誰ともフレンドリーに接する武部や五十鈴が意地悪するとも思えない。

「武部さんたちと学校出る前に生徒会の人に声を掛けられて、必修選択科目に戦車道取るように言われて・・・・」

 なるほど。必修選択科目に戦車道が復活するのは、昨日笹原から聞いている。生徒会が勧誘するのも謎だが、経験者はなるべく選択して欲しいのだろう。しかし、みほはもう戦車道をしたくないといっていた。

 みほの様子から見て、かなり強引な勧誘をされたのだろう。うちの生徒会はかなり強引なことで有名だからなあ。みほの方も、曖昧な返事しかできなかっただろう。

「たしか、必修選択の希望調査って今日だよな?」

「うん、だからどうしようか迷ってて・・・・」

 あくまで噂ではあるが、生徒会に逆らった人はいろいろと大変な目に遭うとか。正直のところ厄介事はごめんだが、かといってみほを放っておくわけにもいかない。

「経験者いるんだったら俺だけでもいいだろうし、みほは好きなの選べよ」

「正弘くん・・・・」

「もし生徒会に何か言われたら、俺が意見してやっから」

 できるかどうか分からないけど。

「・・・・ありがとう」

 みほがほっとした表情を見せる。素の笑顔に少しどきっとしてしまう。

「ほら、早く行こうぜ。もたもたしてると遅れちまう」

 

 

 1、2限終了後、休み時間もそこそこに俺たちは体育館へ集められた。クラス別、二列縦隊、名簿順。

「何が始まるんやろ?」

 前方に座る清水が関西弁で聞いてきた。

「さあ。てか、おまえ学校では関西弁控えとるんとちゃうんか?」

「べ、別にええやんか。自分かて関西弁でとるくせに……」

 大阪人である清水であるが、学校では関西弁を控えている。周囲が標準語で話しているから、浮いていると思っているのかもしれない。

 俺の場合、大阪出身ではあるが、大阪で過ごした期間が短い上、バリバリの大阪人である両親と兄貴達は、仕事や学校の寮生活でいないことが多く、関西弁に触れることが少なかったため、関西弁が出ることは少ない。

 清水はそれっきり前を向いてしまったので、俺は後ろに座っている武部のほうへ向く。

「なに?」

「みほは大丈夫か?」

 みほは俺たちよりずいぶん前の方に座っているので、顔をうかがうことができない。

生徒会の件を武部達に話したら、ちょうど勧誘の現場に居合わせていたらしく、昨日もふらふらなみほのフォローに必死だったとか。

「なんとか大丈夫そう。『生徒会なんか気にするな!』って言っておいたし」

『静かに!』

 突然、鋭い声が体育館のスピーカーから流れた。体育館は一瞬にして静まり返る。

 俺が前を向き顔を上げると、ステージ上に3人の女子が立っていた。朝会った生徒会の3人だ。

 河嶋先輩がマイクを持っている。さっきの鋭い声は河嶋先輩だったようだ。

『これより、必修選択科目のオリエンテーションを行う。しっかりと聞くように』

 河嶋先輩はそう言うと、ステージから降りて行った。会長の角谷先輩と副会長の小山先輩も後に続く。

 3人の姿が見えなくなると、体育館の照明が落とされた。するとステージ上につるされたスクリーンが明るくなる。

 映し出されたのは――――――戦車だ。

 

『―――戦車道ー。それは文化であり、伝統的な武道でもあります!』

 

『戦車道~!それは伝統的な文化であり、古来より世界中で、男女問わず人々の嗜みとして受け継がれてきました』

 薄暗くなった体育館の中、軽快な音楽と共に、スクリーンに戦車の映像が映し出される。

『礼節のある、たくましくて教養のある人材の育成を目指す、武芸なのです!』

「ほあ・・・・か、かっこいい・・・・」

 後ろからそんな声が聞こえた。武部か?

 確かにスクリーンに映る軍服を着た男女は、凛々しくかっこよく見える。彼らが側にある戦車に乗り込むと、戦車―――《Ⅲ号戦車J型》はエンジン音を震わせて走り出した。

『戦車道を学ぶことは、人としての道を極めることでもあります―――』

 大げさだな、おい。

『―――鉄のように熱く強く、無限軌道のようにどんな道でも乗り越え、それでもってかたかたと愛らしい。そして大砲のように情熱的で必殺命中!』

 ズドン!《Ⅲ号戦車》が戦車砲を撃つ。その音に驚いたのか、一瞬体育館内がざわめいた。

『それが戦車道をたしなむと、自然と身につくのです!』

 数十両の戦車が隊列を組み、行進をする。《Ⅲ号戦車》、《Ⅳ号戦車》、《シャーマン中戦車》に《クロムウェル巡航戦車》。第二次世界大戦中に世界中で戦った戦車達だ。戦車から身を乗り出している戦車道選手やその戦車の威容に周囲のみんなは圧倒されているようだ。

『さぁ!皆さんもぜひ!戦車道を学び、心身ともに健やかで、美しくたくましい人になりましょう!』

 

・・・・

 

「私、やる!」

 教室への帰り道、武部が急に言った。

「私、戦車道やるよ!だってモテるんでしょ?」

「しらねぇよ、そんなこと」

「わたくしも戦車道やってみたいです。何かアクロバティックなことをやりたいと思っていたものですから」

 五十鈴もか。てか、お前実家が華道の家元だったよな?それに戦車道はそれほどアクロバティックなものでもないぞ。それを言うならアクティブだろ。

「みほもやろうよ!戦車道!」

「ふぇ?」

 ・・・・・・

「やろーよ。それにみほ、家元なんでしょ?いろいろ教えてよー」

「そうですね。みほさんがいると助かります」

 おい、お前ら・・・・

 2人とも事情は知っているはずなのだが。

「え、えと・・・・わたし・・・・」

 うーん。これは、断りにくいよな。

「・・・・おい」

俺はみほにばれないように2人にコンタクトを取る。頼むから意味を理解しろよ。

「「・・・・あっ」」

ふう、ようやく気付いたか。

「や、やっぱり教室戻ってからゆっくり決めよっかぁ!」

「そ、そうですね。ほかにもたくさん科目はありますし!」

慌てて取り繕ってる感丸分かりだな、おい。

 

 教室に戻った後の希望調査で、みほは必修選択科目を香道にして提出した。武部も五十鈴も彼女の事情を思い出したのかわからないが「だって、一緒の方がいいじゃん」などと言って、みほと同じ香道を選択した。

 俺はもちろん戦車道。笹原も同じだ。

 驚いたのは、清水が戦車道を選択したことであった。理由を聞いても「別にええやん」の一点張りで、理由は教えてくれなかったが。

 さて、最大の懸念要素は、みほが戦車道を選択しなかったことについて生徒会がどのような反応をするかだ。わざわざ本人のところまで行って、戦車道を取るように言ったのだ。それに応じなかったのであればそれなりの対応はするであろう。

 ま、経験者の俺が選択してるんだ。見逃してくれるのを期待するが……

 

 

 

 

 ・・・・・・

「これは、どういうことだ?」

 ・・・・・・

 昼休み、俺は生徒会室にいた。

「なんで、せんたくしないかな~」

 角谷会長がふてくされた様子で言う。

 生徒会は見逃してくれなかった。4時限終了後、俺とみほは放送で生徒会から呼び出しをくらった。武部と五十鈴が心配してついてきてくれた。

 河嶋先輩が香道に丸印がつけられているみほの科目選択用紙を俺たちにつきつけ、角谷会長の方を振り返って言う。

「我が校、鈴木・西住両名を除いて戦車道経験者は皆無です」

「終わりです。我が校は終了です!」

「勝手なこと言わないでよ!」

 真っ先に反論したのは武部だ。

「そうです。どうしてやりたくないと言っているのに、無理やりやらせようとするのですか?」

 続いて五十鈴も言う。

「生徒会に逆らった場合、どうなるか分かっているのか?」

「そんなの知らないわよ!」

「あんたたち、学校にいられなくしちゃうよ~」

 さっきから頬杖をついてふてくされて様子の会長が言った。

「脅すなんて卑怯です!」

「脅しじゃない、会長はいつだって本気だ」

「そんなの横暴です!」

「横暴は生徒会に与えられた――――」

 河嶋先輩と武部・五十鈴の言い合いになっていて、俺の立ち入る隙がない。みほはずっと俯き黙ったままだ。

「あんたたちが何言おうと、みほは絶対戦車道やらないから!」

「西住さんのことはあきらめてください」

「何度も言うが、生徒会の命令は絶対だ。逆らった場合――――」 

 このままでは解決しない・・・・どうすれば……

「あ、あのっ!」

「!?」

 さっきまで俯いていたみほが、突然ばっと顔を上げて、

「あの!わたし―――」

 生徒会室にいた全員の視線がみほに集まる。

「―――わたし・・・・戦車道、やります!!」

 なっ!?

「「「えええええええぇぇぇ!?」」」

 

 

 




3話に到達してなお戦車(実車)登場せず・・・・。ようやくアニメ第1話95%相当消化。
次回はようやく戦車(実車)が登場します。お楽しみにです。
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