ハイスクール&パンツァー   作:鈴木大佐

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登場人物プロフィール
鈴木(すずき)正弘(まさひろ)
身長:170cm,体重:54㎏,血液型:B型
誕生日:2月25日
出身:大阪府大阪市
クラス:普通科Ⅱ類2年2組
好きなもの・事:妹
苦手なもの・事:苦い食べ物
好きな戦車:T-90S

鈴木(すずき)優子(ゆうこ)
身長:161cm,体重:56㎏,血液型:O型
BWH:85/58/84、髪型:長めのサイドテール
誕生日:2月27日
出身:熊本県熊本市
クラス:普通科Ⅱ類2年6組
好きなもの・事:まさ兄
苦手なもの・事:まさ兄以外の男の人。特に大人。
好きな戦車:PT-91 トゥワルディ

中村(なかむら)(ひで)
身長:178cm,体重:66㎏,血液型:O型
誕生日:4月20日
出身:茨城県鹿嶋市
クラス:工業科2年17組(自動車部)
好きな戦車:ルクレール

上杉(うえすぎ)綾子(あやこ)
身長:159cm,体重:53㎏,血液型:A型
BWH:70/56/79、髪型:ロング(運動するときはポニーテール)
誕生日:5月2日
出身:北海道千歳市
クラス:普通科Ⅱ類2年2組
好きな戦車:チャレンジャー2

水原(みずはら)(まな)
身長:152cm,体重:49㎏,血液型:A型
BWH:74/57/78、髪型:ツーサイドアップ
誕生日:6月8日
出身:北海道札幌市
クラス:普通科Ⅱ類2年6組
好きな戦車:Ⅳ号突撃砲



いきなり実戦です!‐前編‐

 洗車の後、戦車道履修者の自己紹介や諸連絡、連絡先の交換、戦車道連盟への会員登録申請書類の記入などをしていたら最終下校ぎりぎりまで残ってしまった。中村達自動車部は明日までに戦車を動かせるようにするため作業している。おそらく徹夜になるだろう。

「じゃあ優子、俺は買い物してから帰るから」

「えー、わたしも行くよ」

「何のために当番決めたんだよ」

 昨日、家事の分担を決めておいたのだ。今日俺は買い物&夕飯担当だ。

「じゃあ、鞄持って帰ってあげる」

「おう、すまん」

 中から財布とスマホとペットボトルのお茶を取り出し、鞄を優子に渡す

「じゃあ、行ってくるわ」

 校門で優子や笹原、みほ達と別れる。スーパーは学校を出て学園艦の艦首側、家は艦尾側にあるのだ。さらに学園の寮のほとんどは艦尾側にあるので気付けば俺の周りには佐倉と上杉しか残っていなかった。

「あれ? 佐倉さんって艦首側に住んでるの?」

 スーパーに向け歩きながら俺は佐倉さんに話しかける。

「うん。艦首側って、ひとつしか寮がないんだけど、そこに住んでるの」

 佐倉は同じ2組のクラスメイト。1年の時も同じクラスだった。割と誰とでも気兼ねなく話せる性格で、入学してすぐ仲良くなった。彼女は南本と仲が良くてよく一緒にいる。

「ねえ、鈴木くん。ちょっと気になったんだけど・・・・」

「ん、何?」

「6組の鈴木さんと付き合ってるの?」

 思いがけない質問に、俺は飲み始めていたお茶を吹いてしまった。

「悪い、びっくりした。でもどうして?」

「だって鈴木さんのこと名前で呼んでたし、鞄を預けるなんてまるで同棲してるみたいじゃない」

 疲れててつい忘れてしまっていた。俺はみんなに優子との関係を隠すつもりでいるんだった。何という大失態。今頃優子の方も武部達から追及を受けている頃だろう。変なこと言ってないと良いが。

 ここは変に嘘をつくより、正直に言った方が良さそうだ。

「いや、付き合ってないよ」

「え、じゃあどういう関係?」

 俺はスマホから家族写真を表示し佐倉に見せる。

「・・・・兄妹だ」

「・・・・・・・・!」

 佐倉がぽかんと口を開けている。まあ、いきなりこんな事言われたら無理もない。

「・・・・え、えっと・・・・双子?」

「いや、義理だ」

「えぇっ! そうなの!? 上杉さんは知ってた?」

 佐倉は俺たちの後ろにいた上杉の方を振り返りながら聞く。上杉はちょっとむすっとした様子だ。何かあったのだろうか。

「知ってるわよ。中学一緒だったし。・・・・というか同棲ってどういう事よ!」

 上杉が鋭い目つきで俺に迫る。

「・・・・兄妹なんやから、同棲じゃないやろ」

「で、でも一緒に暮らしてるんでしょ? 優子ちゃんに変なことしてないでしょうね!」

「し、してねぇよ」

 するというより向こうからしてくるのだが。勿論そんなこと言えるはずがない。

「・・・・怪しい」

 またジト目。俺ってそんなに信用なさそうに見えるだろうか。もうやだ、逃げたい。ここは佐倉さんへ避難しよう。

「・・・・ね、ねえ佐倉さん・・・・」

「ご、ごめんね。わたしこっちだから・・・・」

「・・・・え?」

「じ、じゃあまた明日ね・・・!」

 そういって佐倉さんは丁度差し掛かった角を曲がって行ってしまった。

 え、もしかして逃げられたのか。確かに佐倉さんの行った方向には学生寮があるが。

「えっと、上杉さんのお宅は・・・・」

「私は艦尾方向のマンションよ」

「じゃあ、何でこちらに?」

「私もスーパーへ夕飯買いに行くのよ」

「さいですか」

 なんだか微妙な空気の中、俺達はスーパーに向け再び歩き出す。並んで歩いてはいるのだが、上杉との間には人2人分程の間が開いている。中学の頃は家が隣同士だったこともありよく一緒に帰ったりしていたのだが、その頃はこんなにに距離を開けられていなかった。

「あの・・・・上杉さん」

「・・・・何よ」

「この微妙な距離感は何でしょう?」

「別に良いでしょ。というか何でそんなによそよそしいのよ・・・・・・馬鹿」

 理由は分からんがどうやらご機嫌斜めなようだ。ここはあまり変なことは言わない方が良いだろう。

 そのまま俺達は微妙な空気のままスーパーに着く。

「それじゃあ、また後でね」

 ああ、帰りも一緒なんですね。

 

 

 明日は土曜日。午前中に土曜授業が行われるのだが、新年度が始まってすぐなのでない。が、戦車道の特別授業が丸一日行われるので俺達戦車道履修者は明日登校しなければならない。他授業の5倍の単位なので授業時間が増えるのは多少予想していたが、いきなり一日授業をぶっ込んでくるか。俺はともかく、他の素人達にはかなりしんどいだろう。戦車道は他の選択科目に比べて、準備や後片付けやらにかなり時間がかかるのだ。十分な練習時間を確保するには授業時間を増やすしかないのは仕方のないことだが。

 なので明日は多分ヘトヘトで買い物なんて行けないだろうから(明日の当番は優子だが)、明日の夕飯分の食材も買っておいた。

 両手に袋を下げてスーパーを出ると、入り口の側で上杉が立っていた。

「おまたせ」

 帰り道では、上杉は俺の真横についた。買い物をして少しは機嫌を直してくれたか。

「結構買ったのね」

「今日明日の分だ。そっちはかなり少ないな」

 上杉の持っている袋の中身はかなり少なそうだ。何が入っているのか良く覗いてみる。

「・・・・・・・・」

 そこに入っていたのはいわゆる『コンビニ弁当』。浅い容器にご飯や鮭とかが入っているやつだ。

「・・・・自炊はしないのか?」

「私の料理の腕、知ってるでしょ」

「ん・・・・まあ」

 上杉は勉強も運動も平均以上にこなすのだが、料理の腕前に関しては壊滅的だ。たしかそれを知ったのは中2の冬頃だったかな。

「中2のバレンタインのアレは凄かったな」

「も、もう! あれはもう忘れてって言ったでしょ、馬鹿!」

 中2のバレンタインデー。上杉は手作りチョコをくれた。いつもツンツンしている上杉から初めてチョコを、しかも手作りを貰ったこともあり当時の俺はかなり喜んだのだが、そのチョコの味があまりにも酷かったのだ。

 上杉のいない場所で食べていたらあとでおいしかったよなどと言うこともできただろうが、あの時は嬉しさのあまりその場で食べてしまった。男なら不味くても隠すところであるが、食べたときの俺の顔が酷かったのか上杉にはすぐばれてしまった。

「最初は新手の嫌がらせかと思ったよ」

「そ、そんな事するわけ無いでしょ!」

 いけない、ちょっとからかったつもりだったが怒らせてしまったようだ。帰りぐらいは仲良く帰りたいところだったが余計なことを言ってしまった。

「冗談だって」

「冗談でも言って良いことと悪いことがあるのよ」

 そっぽを向かれてしまった。そしてまた俺との間に距離ができる。まずい、ここは何か言って機嫌を取らないといけないのだが。

・・・・

・・・・・・

・・・・・・・・

 何も思いつかぬまま、家の前まで着いてしまった。

「あれ? 上杉は(うち)どこだ?」

 機嫌取りの方法を考えていたので普通に俺の家までのルートを通ってしまっていた。

「どこも何も、私もここよ」

 え? 今なんと・・・・

「ホンマに?」

「ほんとは春休み中に引っ越すつもりだったんだけど、前の人が出て行くのが遅れて今日になってしまったのよ」

 あれ、この話どこかで聞いたような。もしかして・・・・

 俺は階段を上がりつつ、一昨日の河内先輩との会話を思い出す。

「ここよ」

 2階段傍の玄関前で上杉が立ち止まる。

 やっぱり。そこは河内先輩が依然住んでいた部屋であった。

「鈴木君はどこなの?」

「・・・・俺は、隣」

 俺はそう言いながら隣の部屋の玄関を指さす。

「そ、そう。じゃあまた明日ね」

 そう言って上杉はさっさと自分の部屋に入ってしまった。が、すぐまたドアが開いて、「言っとくけど、別にアンタの隣だからって、この部屋にしたんじゃないんだからね!」と言ってバタンとドアを閉める。やれやれ。相変わらずのツンツン台詞だ。にしても隣に上杉が引っ越ししてくるとは予想外だ。明日から『面倒な事』にならなければいいが。

 

「ただいま」

「まさ兄おかえりー」

 玄関で優子が出迎えてくれた。さっき買ったものを優子に渡す。

「これ冷蔵庫に頼む。明日の分も買っといたから」

「ほんとに? じゃあ明日は頑張って作らないとねっ!」

 優子は張り切っているようだが、明日は多分ヘトヘトになるだろうから大したものは作れないだろう。

「ご飯はもう炊き始めといたよ」

「サンキュー」

 制服のブレザーを脱ぎ手洗いをし、俺は晩飯の準備始める。

「もう面倒くさいから簡単なのでいいか?」

「まさ兄の作るものなら何だっていいよっ!」

 まったく嬉しいことを言ってくれる。これが彼女が言ってくれたらなあ。彼女いないけど。

 さて夕飯を作るわけだが、俺は料理には割と自信がある。少なくとも上杉より上手いのは確かだ。去年は最初は適当にコンビニ弁当や近くのパン屋で買った総菜パンばかりだったのだが、夏頃からはちゃんと自炊するようになった。理由は『料理ができる男はモテる』という情報を入手したからだ。

 まあ、去年は家庭科の授業で調理実習はなかったし、家に呼べる彼女も女友達もいなかったけどね!

 俺が作る料理のほとんどはインターネットで調べたレシピを基に作っている。さすがにまだオリジナルとか大幅なアレンジを加える自信はない。これから作る二ラ丼もインターネットで知ったものだ。餃子の中身と同じものをご飯の上にのせて食べるというものだ。ニラや白菜、挽肉を炒めご飯にのせる。元々餃子は好きだったし、簡単だったこともあってすぐにはまった。忙しかった日の時はいつもこれを作っている。

「ほら、出来たぞ」

「わぁ! 美味しそう!」

 小さな折りたたみ式テーブルに向かい合うように座り、夕食が始まる。

「そう言えばまさ兄」

「ん、何?」

「武部さん達、わたし達が一緒に住んでるの知ってるみたいだね」

 ああ、やっぱりばれていたか。校門を出るときの様子を見てたら大体そう思うよなあ。

「変な事言ってないだろうな?」

「うん、まさ兄と一緒の布団で寝てることは言わないでおいたよ!」

「そりゃ言っちゃいかんやろ!」

そんな事が学校中に知れてみろ。俺はこれから『変態シスコン野郎』として白い目で見られながら学園生活を送らなければならなくなる。

「武部さんは興奮してたけど、他のみんなは普通の反応だったよ」

 そうか、昔からの知り合いのみほや清水、それに笹原も既に俺達が兄妹だって知っている。

「武部は何に興奮してたんだよ」

「なんか『憧れの同棲生活』とか『禁断の愛』とか色々言ってたよ」

 あいつほんとそういう妄想好きだな!

「でもまさ兄ぃ」

「なんだよ」

「これで外でイチャイチャしても問題ないよねっ!」

「ぶほっ!」

 な、何言ってるんだこいつは!

「な、なんでやねん!」

「だって、みんな知ってたら隠す意味無いでしょ」

 いや、そうじゃなくてですね。

「だからと言ってイチャイチャして良いわけじゃないだろ」

「えー、違うの?」

「ちげーよ」

「・・・・・・」

 そんなにしょんぼりされても困るのだが。

「あ、そうだ」

 優子が突然何かを思い出したように手をぱんと叩く。そしてテーブルの下から何かを取り出す。

「もうこれは必要ないよねっ」

 そ、それはっ!!

 優子が取り出したのはコミックとゲームのパッケージ。タイトルはコミックが『最○、妹のようすがちょっとおかしいんだが』でゲームが『あ○ね色に染まる坂』だ。前者は義妹とドキドキする話、後者はエロゲー(※全年齢版)で攻略対象に妹も含まれる。ちなみにゲームの方は妹ルートのみ攻略済み。とと、そうじゃなくてだな。

「そ、それを何処で?」

「えへへ、押し入れに荷物しまってたら見つけちゃったっ!」

 畜生! 優子に見つからないよう、昨日優子が風呂入ってる間に本棚から押し入れに移したのだが裏目に出たか!

「た、頼む。ポイするのは勘弁・・・・」

 優子はふふっと微笑むと、今度は大きな束を取り出す。

「・・・・マジかよ」

 隠しておいたはずのギャルゲーやコミック全巻接収済みかよぉ。しかも具合の悪いことにほとんどが妹ものだ。釈明の余地はない。妹に妹萌えがバレるとか最悪この上ない。

「これは全部処分しとくねっ!」

「や、やめて下さいっ! お願いします!」

 俺は咄嗟に土下座をする。揃えるのに結構金がかかったんだ。そう簡単に捨てられる訳にはいかない。

「じゃあ、わたしの言う事何でも聞く?」

 ニコニコ笑顔から漂う意地悪臭。もしかしたらとんでもない要求を突き付けてくるかもしれない。

しかし、背に腹は代えられない。ここはおとなしく言う事を聞く事にしよう。

「わかったよ、聞くよぉ」

「じゃーあー、毎日おはようとおやすみのチューを・・・・」

「却下だ」

 頼むから出来るのにしてくれ。そこまで行くとまずいような気がする。

「何でも聞くって言ったのに」

「いや、できることとできないことがあるだろ」

「うーん」

 優子はしばし考えるポーズをしたのち、再び口を開く。

「じゃあ、毎日お昼一緒に食べるのと、一緒に登下校する」

「まあ、それなら・・・・」

 現実的な要求になりホッとする。俺の大事な資産を守れるならそれくらいやってもいいだろう。

「じゃあ、来週から実行ね!」

「分かったよ」

 一番の要求は却下されたものの、さっきの意地悪オーラは消え、すっかり上機嫌モードだ。ちょろいというか素直というか。まあ、優子のそういうところは良い所でもあるし俺も好きではある。

「じゃあ、これは元の場所に戻しておくね」

「ああ、それは俺がやっとくよ」

 かくして俺は財産を守ることに成功したわけだが、妹に妹萌えがバレるという大失態を犯してしまったのであった。

 

 

 

 翌日、俺たちは戦車道の授業のため平日と同じように家を出る。優子は昨日から変わらずの上機嫌だ。兄貴が妹萌えの変態とか知ったら普通は引いて態度変わるだろうに。やっぱり優子はよく分からない。

 俺たちが家を出るのと同時に上杉も出てきたので3人で学校へ向かう。上機嫌の優子に反して上杉は終始むすっとしていた。何かあったのかと聞けば「知らない、バカ」と言われる有様。優子といい上杉といい、女子の考えることはよく分からんなあ。

 土曜日というのは金曜授業が終わった後の解放感のせいでだらけがちで遅刻者が出るかと思ったのだが、時間までに全員が集合した。河嶋先輩に小言を言われるのが嫌だったのだろう。ちなみに一番遅かったのはみほだった。理由は聞かなかったがみほは真面目な一方で結構おっちょこちょいなところがあるのでたぶん寝坊でもしたのだろう。

「・・・・にしても教官遅いね」

 整列して5分が経ったが教官が姿を現さない。武部が「ここまで焦らすなんて大人のテクだよね~」とか言っているが、戦車道の教官に限って時間通りに来ないなんてありえない。

 戦車道の教官は戦車道連盟に指導教官として加盟し資格を得ることで指導を行うことができる。戦車道を実施している学校には資格を持った教員が2、3人いるのだが、大洗学園は長らく戦車道を行っていないので資格を持った教員がいない。そのため協会から教官を派遣してもらうのだ。ちなみに派遣される教官の多くが戦車道という競技の特性上、現役の陸上自衛官もしくはOBだったりする。だから時間には厳しいはずなのだが。

「はやくはじめよー」と誰かが言った。しかし教官抜きで戦車道を行うことはできない。安全のために戦車道は教員の監督の下、しなければいけないからだ。戦車道の関しては他のスポーツや競技と違って厳しいルールが多い。たとえばいかなる理由があろうと戦車道をやるためには連盟への会員登録が必要なのだ。他のスポーツなら公式大会出場資格を得るために会員登録をすることはあろうが、ただ趣味でやっていたりする場合は登録の必要はない。だが戦車道はその場合でも登録が必要になるのだ。

 周りが騒がしくなったところに河嶋先輩の一喝が飛ぶ。その時だった。

 ごぉぉぉーーーーん

 響く低い轟音。はじめは高空を飛行する旅客機だと思ったが音から低空を飛行してると分かった。こっちへ向かってきている。

 大洗学園には小型機が離発着可能な短い滑走路とヘリポートしかなかったはずなのだが。

 その音の正体はすぐに姿を現した。

 艦尾方向から現れた機体は高翼配置でT字尾翼、明るい灰色のカラーリングが施された大型の双発ジェット機だった。こいつは。

「航空自衛隊の大型輸送機ですか? まさかC-2改!?」

 秋山さんが飛来する機体を指しながら機体の形式を叫ぶ。

 C-2改、航空自衛隊で使用されている輸送機である。現在自衛隊で主力輸送機として配備が進んでいるC-2輸送機の拡大版であり、戦車の搭載を可能としている。

 C-2改は俺たちの頭上を通過する直前、開いていた後部の貨物扉から何かを投下した。

 パラシュートを展開して落ちてくる板の上に乗っかるのは、戦車!?

「《10式戦車》!?」

 みほが戦車の形式を言う。10式は陸自の新しい主力戦車だ。

 空中投下された《10式戦車》は職員用駐車場を滑るように着地し、赤いスポーツカーを吹っ飛ばして停止した。

「あれは・・・・もしかして学園長の車!?」

 小山副会長の顔が青ざめている。一方の角谷会長は「あー、やっちったねー」とかのんびり言っているけれども。

 《10式戦車》はその場で旋回し台座(パレット)から降りようとする。さっき吹っ飛ばされたスポーツカーが今度はポテチのようにひしゃげてぺちゃんこになる。

「い、一応本番、訓練を問わず、戦車道での周囲の損害は補填されますが」

 いつも冷静そうな河嶋先輩も呆気にとられながらも呻く。これも訓練のうちに入るのだろうか。あまりにも衝撃的すぎてみんなあんぐりと口を開けて呆然としている。

 そんな中《10式戦車》が俺達の目の前で停車して砲塔上のハッチが開き誰かが出てくる。

「こんにちは!」

 ヘルメットを外し爽やかに挨拶をしてきたのは・・・・女の人!?

彼女は軽々と慣れた感じで戦車から降り立った。

「戦車教導隊、蝶野亜美一尉です! 初めまして、大洗学園のみなさん!」

 

 

「よろしくお願いします。戦車道は初めての人が多いと聞いていますが、一緒に頑張っていきましょうね!」

 ・・・・・・

 先ほどのサプライズイベントから早3分。蝶野教官が俺達の前に立ち挨拶をしている。まださっきの衝撃が抜けず、呆然と話を聞いているやつもちらほらいる。武部ががっくり肩を落としているが、あれは多分教官が『イケメン』ではなかったからだろう。まあ、会長は『カッコイイ』教官とは言っていたけど男とは言ってなかったからな。ただの武部の勘違いだ。

 しかし俺も教官には男の人が来るだろうと勝手に思っていたからびっくりだ。確かに会長の言ったことは間違ってはいない。蝶野教官は綺麗で、とてもかっこよく見える。

 教官は挨拶をしながら俺たちを見回していたが、「あら?」と言いながら俺の方・・・・いやみほの方へ歩み寄る。

「もしかして西住師範のお嬢様じゃありません?」

『師範』という言葉を聞いて周囲がざわめく。

「お姉さまも元気?」

「・・・・は、はい」

 どうやら教官はみほが大洗(ここ)にいる理由を知らないらしい。みほは戸惑った様子で元気なく返事をする。

「・・・・師範って?」

「西住さんってすごいの?」

 みんなみほがただものじゃないと知って興味津々のようだ。俯いてしまったみほの代わりに教官が誇らしげに答える。

「西住流は、戦車道の中でも最も由緒ある名門なのよ」

 おおお、とさらにまわりがざわめく。『最も由緒ある名門』と言われるあたり、みほの家って本当にすごいんだなあと思う。

 しかし当の本人は元気なさそうに俯いている。まあ当然だろう。みほは実家から、戦車道から逃げるために大洗に来たのだから。みほの横顔を見てるとかわいそうで見てられない。

「は、はいはーい! 教官!」

 みほの後ろに立っていた武部が突然手を挙げた。

「えーと、教官はやっぱりモテるんですか?」

 ざわめきは消え、俺たちは何言ってんだこいつという視線で武部を見る。教官も虚を突かれてぽかんとしている。

「うーん、モテるというより・・・・そうね、狙った的は外したことないわ」

 教官も真面目に答えるのか。そこはさすが自衛官といったところか。

「撃破率は120パーセントよ!」

 なんとまあ、100パーセント越えですか。

 とそうじゃなかった。教官は恋愛指導に来たのではなく戦車道の指導に来たんだ。みほの話題からも離れたし、さっさと戦車に乗りたい。俺はここぞとばかりに手を挙げる。

「教官! 今日はどんなことをするのですか?」

「そうね、今日は本格戦闘の練習試合。早速やってみましょ」

「「え!?」」

 びっくりしたのは俺だけじゃないようだ。小山先輩が「い、いきなりですか?」とおろおろしている。

「大丈夫よ、何事も実戦実戦! 戦車なんてバーッと走って、ダーッと操作して、ドーンと撃てばいいんだから!」

 さっきのカッコいい雰囲気はどこへ行ったのやら、擬音語を使った大雑把な説明にみんなぽかんとなる。

「それじゃ、みんな決められたスタート地点に向かってね」

 そういって教官は各チームの先頭にいる人に地図を配り始めた。なんだこりゃ。何かの冗談か? なにもレクチャーなしでいきなり練習試合なんて。

「よし、それじゃ気をつけっ!」

 教官は突然ピシッと姿勢を正した。俺たちも反射的に列を正す。

「戦車道は礼に始まり、礼に終わるの。一同、礼!」

「「よろしくお願いします!!」」

 

 

 蝶野教官は10式戦車に乗り込み学園艦の艦橋へ行ってしまった。残された俺たちはとりあえず以前決めたチームごとに分かれて各々の戦車に乗り込む。

《M10パンター》は全チームの中で最も車体が大きい。車体も高さがあるので乗り込むのが大変だ。洗車の時は脚立を使って上っていたが、実戦時は脚立なしで乗り降りしなければならない。多くの戦車にはタラップが付いているはずなのだが、なぜかこの戦車には付いてなかった。俺は慣れた手つきで側面から履帯を脚立の踏桟(とうざん)のように使って上る。優子たちはまだ初めてなのでとりあえず中村以外は先に上った俺が引っ張り上げてやる。

 みんなを俺が昨日考えておいた配置通りに座らせて、俺も車長席に収まった。

「うわー、暗い」

「今のうちに目を慣らしておけよ。実戦中は揺れてもっと大変だからな」

 戦車では防御力を高めるために弱点となる窓はとても小さい。基本的に運転手は前しか見えないし、砲手も照準器を除いた先の狭い風景しか見られない。装填手に至っては外の視界なんてほぼゼロだ。

 そのため俺の座る車長席にいる人間は外の状況を収集し、それぞれに指示を出す重要なポジションとなっている。

『さあ始めるわよ! 戦車前進(パンツァー・フォー)!』

通信機から蝶野教官の声が聞こえてくる。それを聞いて俺は中村に車長としての最初の指示を出した。

「中村、エンジン始動!」

「はいよ!」

 中村がイグニッションボタンを押し込むと、700馬力のエンジンが轟音をあげて始動する。実際の戦車は、エンジンが温まるまで暖機運転をしなければならないが、戦車道の戦車では暖機運転の時間はとても短く、すぐに行動することができる。

「よし、スタート地点まで移動するぞ」

《M10パンター》はゆっくりと動き始め、スタート地点に向かう。俺は頭上のハッチから頭を出し、周囲を見回す。みんな四苦八苦しながらも頑張って動かしているようだ。生徒会チームの《38(t)》が俺たちより先に車庫から出ていく。《M10パンター》もこれに続いた。そのままグラウンドの端を進み、裏山に入る。

学園の隣にはそこそこ広い山林がある。かつて戦車道が行われていた時代には練習場として使われていたらしいが、廃止されてからはほとんど放置された状態らしい。地図を見たところ橋があるみたいだが崩れたりしないか心配だ。

「よし、ここら辺だな。中村、ストップ」

 俺は中村に停止するよう命じる。《M10パンター》は周囲を雑木林に囲まれた小さな草原の真ん中に停止した。ここが俺達のスタート地点のようだ。

 各チームのスタート地点はそれぞれの戦車の能力に応じて決められているようだ。全車両の中で最も能力の高い《M10パンター》は開けて目立つ場所、攻守共に能力の低い《八九式中戦車》は木の生い茂っていて地形的にも待ち伏せるのにちょうど良い場所に配置されている。

『みんな位置に着いたわね。今回は殲滅戦ルールで行くわよ。要は見える相手を全部倒したらおしまいってわけ。では、戦闘開始!』

 上空に信号弾が打ち上げられ弾けた。試合開始の合図だ。

「どうするの?」

「とりあえず移動しよう。ここにいたら目立つし」

 装填手席に座る上杉の質問に対し俺は地図を見ながら答える。今いる場所は周りより低く窪地のようになっており、開けていて目立つし狙い撃ちされやすい。とりあえず林に移動して身を隠した方が良いだろう。

「左の林に入ろう。中村、前進」

 俺が指示を出すと《M10パンター》はぎこちなく旋回し進み始めた。

「一番近いのは八九式と三突か・・・・」

《八九式中戦車》はバレー部、《Ⅲ号突撃砲》は歴女が乗っていたはずだ。車両能力的には《Ⅲ号突撃砲》の方が上だし、確かドイツ軍服っぽい恰好をしたやつがいたから三突の戦い方も知っているはず。先に歴女チームを倒した方が良さそうだ。

 と、その前にみんなにそれぞれの役割についてレクチャーしておいた方が良いだろう。戦闘が始まってから説明したのでは遅いからな。

「上杉、徹甲弾をマニュアル通りに装填してみて」

「わ、わかった」

 上杉が砲弾ラックから赤い線の目印がついた徹甲弾を取り出し装填する。マニュアルを見ながらのぎこちないものであったが、なんとか装填した。

「優子は敵戦車が出てきてから教えるとして、水原さん」

「は、はいっ!」

 水原が座っているのは中村の右隣の通信手席だ。

「今回は前の方の見張りをお願い。障害物とかあったら中村に教えてあげて」

 本来通信士は味方との通信や戦場の状況把握をやるのだが、今回は単独行動だし、戦場把握なんていきなり素人には無理だろうから今回は見張りに専念してもらおう。

「うん、頑張る!」

 水原は元気よく返事をする。次は中村だな。自動車部だからその辺りの心得もあるから基本は大丈夫だろうし、さっきもここまでちゃんと《M10パンター》を運転した。ただ、戦車は車と違って視界が狭いし重い。また戦闘時には複雑な起動をする。誤って崖にでも転落されたら一巻の終わりだ

「中村は大丈夫?」

 一応聞いておく。

「ああ、大丈夫だ!」

 頼もしい返事が返ってきた。

「よし、このまま前進。しばらくしたら道に出るから右に転回。まずは歴女チームを倒すぞ!」

 やるからには本気でやらしてもらおう。みほがどう出てくるか心配だが、車輌の性能差で多分何とかなるはず・・・・だ。

《M10パンター》は雑木林を抜け細い道に出た。俺はハッチから頭を出し周囲の警戒を行う。周囲に敵影なし。このまま歴女チームがいると予想した地点へ向かう。《M10パンター》はゆっくりと道を進む。

「次の分かれ道を右に・・・・!?」

 どぉーん!

 突然鳴り響いた轟音に俺は慌てて頭を引っ込める。砲撃音、距離は遠くない。おそらく近くで戦闘が始まったようだ。俺は再び頭を出して周囲の状況を確認する。

 砲撃音は前方から複数。歴女やバレー部、そしてみほ達がいる方向だ。

「どうしたの?」

 上杉が不安そうに聞いてくる。無理もない。装填手席からは外の様子を確認することが出来ないからだ。

「もうどこかで戦闘が始まったみたい」

 辺りは木々に囲まれているので戦闘による土煙などは確認できない。

「どうする、このまま進むか?」

 このまま進んで下手に乱入すると流れ弾を食らうかもしれない。迂回して戦闘の様子を肉眼で確認してから参戦した方が良いだろう。

「中村、やっぱ速度上げて左に曲がって! 水原さんは右側の見張りをお願い。優子はいつでも撃てるように、上杉は次の弾持っといて!」

 俺はみんなにぱぱっと指示を出す。1年間以上戦車道から離れていたとはいえ体はちゃんと覚えている。次の瞬間には双眼鏡を手に取り、周囲を見回していた。

 さっきの砲撃音を聞いてから体中の血が騒いでいる。みほや素人の皆さんには悪いがここは全力で勝たしてもらう。

 俺は1年以上ぶりとなる台詞を口にした。

「よし、行くぞ! 戦闘開始(パンツァー・フォー)!!」

 




ようやく戦車が動きました。次回からやっと戦闘シーンがはいります。
次回の登場人物紹介はトゥラン搭乗チームです。また活動報告に大洗学園についての解説(学科についてとか)を載せておこうかなと思います。
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