ハイスクール&パンツァー   作:鈴木大佐

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登場人物プロフィール(生徒会役員)
宮本(みやもと)凪紗(なぎさ)
身長:148cm,体重:46㎏,血液型:AB型
BWH:81/57/77
誕生日:2月16日
出身:茨城県那珂市
クラス:普通科Ⅱ類3年2組(生徒会会計)

水原(みずはら)美月(みつき)
身長:169cm,体重:58㎏,血液型:AB型
BWH:85/59/80
誕生日:1月2日
出身:茨城県水戸市
クラス:普通科Ⅱ類3年2組(生徒会書記)




なんか戦車がエラいことに!


 日曜日、今日は戦車道の練習は休みだ。まあみんな疲れているだろうしちょうどいい。俺は優子とホームセンターに来ている。優子の分の布団を買うためだ。

「1つの布団で十分なのに・・・・・・」

「寝るときぐらい、ゆっくりさせてくれ」

 家出るときは上機嫌だったのだが、買う物を教えた途端、不機嫌になってしまった。

 ぶつぶつ文句を言う優子の返事を適当にしながら、布団売り場へ直行する。

 3日前に抱きつかれて朝早く起こされて以降、寝ているときにくっついてくることは無くなったが、同じ布団に2人で寝るのは狭い。それに兄妹とはいえ年頃の女の子がいると思うと落ち着かない。それにこれが他の人にバレでもしたら、俺は全校の優子ファンに殺されてしまうだろう。

 大洗学園には優子に想いを寄せている男子が結構いると聞いたことがある。一部にはもう誰の彼女にもならないよう、『親衛隊』なるものがあるらしい。優子に彼氏ができないよう裏で工作しているとか何とか。

 なので今この瞬間も油断できない。その『親衛隊』もしくはそれに通ずる人間に目撃されでもしたら、俺は彼らから攻撃対象(ターゲット)になってしまう。

 そう思うと自然と足早になってしまう。悶々と考え事をしているせいもあって、俺は周りへの注意が不足していた。

「きゃっ・・・・!」

 商品棚の角で死角になっていたせいもあったが、横からやってきた人とぶつかりそうになる。

「あっ、すいません」

 俺は慌てて頭を下げて謝る。今のは俺の不注意のせいだからな。

「あれ? 鈴木じゃん」

 聞き覚えのある声だ。俺は頭を上げる。

「武部、それにみほ?」

 目の前にいたのは、みほや武部ら、《Ⅳ号戦車》のメンバーだ。

「こんなところで何してるんだ?」

「そっちこそ何してるのよ?」

 いや、俺の質問に答えてくれよ。

「あのね、戦車の中に持ち込むものを買いに来たの」

 武部の代わりにみほが答えてくれる。

「へ~」

 戦車の中にか・・・そうだな、飲み物入れるドリンクホルダーとか欲しいよな。中暑いし、それに色々ものを入れる小さな収納とか良いかも。みほ達はどんなものを買うのだろう。俺は秋山さんが押しているカートの中を見る。

「え、クッション?」

 カートの中には、いかにも女の子が買いそうなかわいらしいクッションが5つ入っている。

「だって、戦車の座席って座ってると痛いじゃん?」

 武部がハートの形をしたクッションを「かわいいでしょー」と見せてくる。いやいや、戦車にクッション持ち込むやつなんて見たこと無いぞ。

「まあ、いいんじゃないかな・・・・」

 ルールに違反しないものだったら何持ち込んでもいいし、別にいいだろう。でも、すぐ汚れると思うんだよなあ。

「で、鈴木は何しに来たの? 優子ちゃんもいるけど」

 本当のこと言ったら絶対誤解されるよな。上手くかわさないと。優子も絶対変なこと言うなよな。

「布団買いに来たの」

 ・・・・・・

「おい! 優子!」

 本当のこと言っちゃう!? 何、拗ねてんの? いや、まだこれで誤解が発生した訳じゃない。

「布団って、どういう事?」

 みほが首をかしげる。よし、ここでうまいこと理由を言えれば!

「昨日まで布団1つしかなかったから・・・・」

 またお前が先に言うんかい!

「え、じゃあ2人でどうやって寝てたの?」

 まだだ! ここで「俺は畳の上で寝てた」と言えれば!

「2人で一緒の布団で寝てたよ」

 ・・・・・・・

 もう最悪。なんで本当のこと言うのさ。何? やっぱり怒ってるの? 一緒に寝れない位で?

「えっと、その・・・・2人ってそういう関係なの?」

 しかも武部にばれるとか最悪だよ!

「勘違いするなよ武部! 俺達フツーの兄妹だからな! アヤシイ事なんて一切無いからな!」

「その必死さが逆に怪しい」

 武部の後ろにいた冷泉麻子がぼそっと言う。五十鈴と秋山さんは何を想像しているのか知らないが顔を真っ赤にしている。

「と、とにかくっ! 何もないからなっ! 俺はもう行くぞ!」

 逃げるのは男らしくないが、これは仕方ない。多分どう言い訳をしてもこの場で誤解が解けることはないだろう。

「なあ優子」

 俺はみほ達から離れてから優子に話しかける。

「なんであんな事言ったんだ?」

「だって・・・・」

 優子はまだ拗ねてるようだ。

「前の『約束』には、一緒に寝るなんて無かっただろ」

「でもまさ兄、昔はいつも一緒に寝てくれたじゃない」

「そうだけど、それって小学生の時だろ」

 自衛官である親父はともかく、看護師の母さんも夜勤で夜家にいないことがあったから、その時は優子ともう一人の二つ下の妹と一緒に寝ることはあった。まあ、小学生の時だけど。

「中学の時も一緒に寝たよ」

「それはお前が勝手に潜り込んできただけだろ」

 もうええわ。なんかもう言い返すのが面倒臭くなってきた。このまま無駄に言い争いをするのも気分悪いし、買うもの買ってさっさと帰ろう。

 俺は優子の機嫌を直す方法を考えながら売り場へと急いだ。

 

 

 

 買った布団はホームセンターの人に軽トラで運んで貰った。布団をとりあえず部屋の隅に置き、さらに昼食を終えた俺は、上杉と水原に学校へ集合して欲しいと連絡をした。というのも、さっき中村から「みんながなんか戦車の改造してる」などというメッセージを送ってきたからだ。ほとんどの人が来ているらしいので、俺達も行かないと何か気まずいと思ったのだ。まあ、布団のついでに買ったドリンクホルダーなども置きに行きたかったのでちょうど良かった。

 優子と上杉と学校に向かったのだが、学校に着くなり視界に入った衝撃の光景に、俺は言葉を失ってしまった。

「な、なんじゃこりゃあ!?」

 つい昨日まで地味なカラーリングだった戦車がエラいことになっていた。

《M3リー》は全面ピンク色になり、《Ⅲ号突撃砲》も真っ赤になり、『風林火山』とか『誠』と書かれた幟が立っていた。

「・・・・ぴっかぴか」

 優子がぽつりと言った先には前進金ぴかの《38(t)軽戦車》。太陽の光を反射してもの凄く眩しい。

《八九式中戦車》は普通かと思いきや、大きく『バレー部復活!』と。《Ⅳ号戦車》は、勿論普通だ。

「ひどいな、これは」

 あまりに衝撃的すぎて思わず苦笑いしてしまう。こりゃあ対外試合で相手に笑われるぞ。それに実戦では目立つし不利になる。おそらく彼女らはそんなことなんか考えていない、と思う。

「あ、鈴木くんも来てたんだ~」

《トゥラン》の車長ハッチから南本が手を振っている。どうやら彼女も戦車に何か持ち込むために来たようだ。

「おー、そっちは色塗ったりせんの?」

「いや、あれは恥ずかしくて」

「だよなー」

 そりゃああんな派手な塗装、恥ずかしくてようせんわ。

「鈴木くんはなにするのー?」

「俺は車内にドリンクホルダーとか置くだけ」

 俺はバッグからホルダーを取り出し、見せる。

「あ、いいねー。わたし達も付けようかな」

「南本さん達は何やってるの?」

「テープでメモ貼ったりしてるよ。まだ何が何だか分からないから」

「いいなそれ」

「えへへ、ありがとー」

 俺達も車内に操作補助のためにメモとか貼ろうかな。俺は《M10パンター》にひょいひょいと登る。タラップがないとやっぱり上りにくいな。自動車部に頼んで付けて貰おう。全員がそれぞれの座席についたところで、俺はバッグの中に入れたグッズをみんなに配る。

 配ったのは全員分のドリンクホルダーと同じく引っかけるタイプの小物入れ。これは座席や壁に引っかけて紐やテープで留める。さらに通信手席にはホワイトボードを取り付けた。これはマグネットを使って敵味方の位置の把握をしたり、重要事項を書いておいたりするためのものだ。情報管理役の通信手には役に立つグッズで、よく使われている。

「これ全部鈴木くんが買ってきたの?」

 なぜか上杉が怪訝そうな顔をしている。なんだなんだ、俺の気遣いが気に入らないのか。

「そうだけど」

「今度返すから、値段教えてよ」

 上杉も真面目だな。まあ、代金払ってくれるのなら貰ってやることもないが。でも好きでやったことだし、ここは断っておこう。

「いいよその位」

「でも悪いわ。今度何かの形で返すね」

「おう」

 こりゃあ、忘れるパターンのやつですわ。まあ、いいけど。軽く返事をしながら俺はホルダーと小物入れの設置を終える。

 設置を終えたところで車外に出る。もうすることがない。今日は正式な活動日じゃないから帰ってもいいのだが。

「どうする? もうすること無くなったけど」

 時間は午後4時。帰りにみんなで遊びに行く時間でもないし、飯を食いに行くには早すぎる。

「俺はまだ整備があるから、もう行くわ」

 中村はそう言って倉庫に行ってしまった。

「確かに中途半端な時間よね。どうする?」

 上杉が腕組みをしながら考えている。そこまで真面目に考えなくても良いんだけど。

 ・・・・そうだ。

「じゃあ、(うち)来る?」

「「え?」」

 

 

 

 30分後、俺達4人は俺の部屋でテーブルを囲っていた。

「これが、通信手の仕事まとめたノートね」

「鈴木くんって結構字が上手いんだね」

「でもこっちは汚いわよ」

「まさ兄、お茶入ったよー」

 俺が上杉と水原を家に呼んだのは、戦車道の資料をあげようと思ったからだ。資料といっても、過去の戦車道誌や中学の時に作った自作マニュアルなのだが。ゲームと違って、戦車道はただ撃って走るだけではない。一人で戦車は動かせないし、他車輌との密な連携が必要だ。そういう意味では水原が担当する通信手は重要なポジションといえる。せっっかくやるのだから、ちゃんとルール知っておいた方が楽しめると思うし。

 しかしあまり抵抗なく女子を家に呼べたのは、優子のおかげかも知れない。俺だけだったらさすがに呼べなかっただろうし、というか校則ギリギリでばれたらお叱りを受けることになっていたかも知れないからな。

 上杉と水原はかなり真剣に資料を通してくれている。2人とも真面目だな。

「この辺のノートとかはもう使わないから、持って行って良いよ。戦車の中に置いとくのも良いかも」

「そうだね。わたしまだ通信手って何するかよく分かってないからほんと助かるよ」

 喜んで頂けて何よりです。

「そうね、次は西住さん達に負けたくないから、頑張らないとね」

 上杉もやる気のよう。もともと負けず嫌いな性格だからな。

 気付けば1時間以上も戦車道について話していた。戦車道についてこれほど喋ったのは1年以上ぶりだ。それに上杉と水原が戦車道に積極的に興味を持ってくれている事が嬉しい。

「あ、そろそろ帰らないと」

 水原が傍にあった目覚まし時計を見て言った。ああ、もう6時か。

「えっと、あとこれ持って帰っても良いかな?」

「いいよ。多分俺もう使わないし」

「ありがとう!」

 玄関へ向かう水原をお見送り。こういう時ってどこまで送っていったらいいのだろう。そういう経験ないから分からない。

「途中まで送らなくて大丈夫?」

「まだ明るいし大丈夫。ありがとう」

「んじゃまた明日な」

 とりあえずマンションの入り口で水原と別れる。

 あ、夕飯に水原を誘えば良かったな。でも今更追いかけて呼び止めるのも悪いよな。

 部屋に戻ると、上杉も帰る準備をしていた。

「わたしも夕飯の準備しないといけないから、帰るね」

「準備って、コンビニで弁当か何か買うだけだろ」

「悪かったわね! 料理できなくて」

 いかん、また上杉を怒らせてしまった。

「どうせわたしは料理もできない非家庭的女子ですよーだ!」

「そこまで言ってないだろ」

 ちょっと頑固な上杉を宥める方法は少ない。この状況でするのは火に油を注ぐか心配だが、俺は一つやってみたかったことを口にする。

「せっかくだから、うちで飯食ってけよ」

「え?」

「上杉に食べて欲しい物があるんだ」

 頑固なやつに『不健康な食事をしているお前が心配なんだ』とか言うとかえって逆効果だ。こういうときは『お前にいて欲しい』とかそんな感じの事を言えばいいらしい。

「わ、わたしに?」

「ああ、本当はチーム全員が揃ったときにみんなでしたかったんだけど、今日無理だったし、一度練習した方が良いと思ったからさ」

 俺はそう言ってキッチンの収納の奥から、ホットプレート本体とたくさんの凹みがついたプレートを持ってくる。

「そ、それって・・・・たこ焼き?」

「まさ兄そんなの持ってきてたんだ」

「ああ、一応・・・・な」

 彼女とか友達とか呼んで、たこ焼きパーティするのが夢だったとか言うのは言わないでおこう。

「上杉好きだろ? たこ焼き」

 上杉がたこ焼きを好きなのはしっている。中学時代に一緒にフードコートに行ったときにいつもたこ焼きを食べていたのを覚えていたのだ。

「ええ、でもそんなこと良く覚えていたわね」

「忘れないくらいしょっちゅう食べてただろ」

「うう、なんか恥ずかしいわね」

 ちょっと上杉の機嫌が改善された模様。けど、好きな物で釣るって結構有効なんだな。

「でも、材料って買ってあったっけ?」

「それなら大丈夫。金曜日に買っておいた」

「金曜に買い物が多かったのはそのためだったのね」

「まあね」

「でもまさ兄、たこ焼き作れるの?」

 うう、痛いところを突かれた。ここ数年作ってないからなあ。上手く作れるか分からない。

「大丈夫だ。問題ない」

 ちょっと見栄を張ってしまった。ま、まあ大丈夫だろう。

「それじゃあ、作ろうか」

「じゃあ、わたし材料準備するね」

「あ、わたしもやる!」

 キッチンに向かった優子を上杉が追いかけていく。止めようかと思ったが、怒られそうだったのでやめておいた。それに優子もいるからやばくなったら止めるだろう。

 ・・・・・・

 さて、俺は何をしよう。皿の準備でもするかな。

 上杉が何かやらかさないか不安になりながら、俺はキッチンへと向かった。

 

「これ、もしかして上杉が切ったのか?」

「そうよ、何か悪い?」

「いや、でかすぎではみ出るんだが」

 優子のサポートのおかげか、味に関しては普通に旨かった。中の具はオーソドックスにタコとチーズ。

 吞みにケーションというというわけではないが、みんなで食事をしていると自然と会話が弾んで、中学の頃のおもしろ話とかをいっぱいした。こりゃあ水原も誘えばよかった。今度はちゃんとみんなでしよう。

 気付けば時間は8時を過ぎてしまっていた。1時間半ぐらい喋っていたことになる。

「じゃあそろそろ片付けようか」

「そうね。もう遅いし」

「片付けは俺達でやっとくよ」

 ぱぱっと皿を回収していく上杉を制止する。

「ううん、最後まで手伝わせて」

 なんか上杉楽しそうだな。こんな上機嫌な上杉見るの久しぶりかも。

「それじゃあ皿拭き頼むわ。優子は風呂掃除頼む」

「らじゃ~」

 優子はかわいらしく敬礼をして風呂場へ、俺と上杉は並んで皿洗い開始。

「ね、ねえ鈴木くん」

「ん、何?」

「き、今日は誘ってくれて・・・・・・ありがとう」

 上杉がもじもじ縮こまっていう。初めて見るその仕草にどきっとしてしまった。

「お、おう。まあ、いつかみんなでする予定だったし」

 上杉と水原に戦車道の資料を渡すのが今回2人を家に呼んだのと、上杉にまともな飯を食って貰うのが今回の主目的だったが。成功したようだ。それに上杉も結構機嫌良いみたいだし。

 洗い物はすぐに終わった。まあ、使った食器少なかったし。たこ焼きセットは次近いうちにやるときのために、元々置いてあった棚の一番前にしまっておいた。仕事を終えた俺達は再びよっこいせと畳の上に座る。

「ありがとう上杉。助かったよ」

「ううん、ご馳走になったんだもん。これくらいしないと」

 相変わらず真面目なやつだ。そこが良いところでもあるんだがな。

「あのさ、鈴木くん」

「ん、今度は何?」

「この際だからはっきり聞いておきたいんだけど・・・・」

 俺何か変なことでもしたかな。

「優子ちゃんとデきてないよね?」

 は?

「はぁあっ!?」

 思わず大きな声が出てしまう。

「俺と優子がか? なんでぇ」

「・・・・だって、さっきからずっと、何するにしても息合ってたし、なんか雰囲気が・・・・ど、同棲カップルみたいだったんだもん」

「だって家族だし。それくらい普通だろ?」

「本当にそれだけの関係?」

 何言ってんだこいつは。家族以上の関係って無いだろ。

「し、心配すんな。俺達は健全な兄妹だ!」

 優子に聞こえないようボリュームを抑えつつ、強めの語気で言う。ここはしっかり主張しないと。勘違いされたら困るからな。

「なら、良いんだけど・・・・」

 なんだなんだこの雰囲気は。なんでそんな切なそうな顔しているんだ。もしかして上杉は俺のことが好きで俺と優子の関係を気にしているとか? いやいや、そういった期待はしちゃいけない。違ったときにがっかりするだけだからな。

・・・・・・

 途切れる会話。困ったな、こういうの苦手だから何て言えばいいのか分からない。

「あのさ、鈴木くんにお願いがあるんだけど」

「なに?」

 この状況でお願い? いったい何なのか。

「な、名前で呼んで欲しいのだけど・・・・」

「なんでまた急に」

「だって、わたしだけ『上杉』って呼び捨てなんだもん」

 俺が上杉を呼び捨てにするようになったのは中2の頃からだっただろうか。別に文句も言われなかったのでずっとそうやって呼んでいたが。やっぱり女子としてはそういうところが気になるのだろうか。

「どうせ呼び捨てにするんだったら名前の方が良い」

 つまり『綾子』と呼べと。何か恥ずかしいな。

「分かったよ、上杉さん」

「・・・・・・」

 何故か睨まれた。ちゃんと『綾子』と呼んで欲しいらしい。

「ん・・・・じゃあ、綾子」

「・・・・・・ありがと」

 今度は赤くなって俯いてしまった。何だよさっきから可愛い反応をして! こっちまで恥ずかしくなっちまうじゃねえか。 

 しかし、今日の上杉はどうもおかしい。何かあったのか。上杉といてこんな空気になったのは初めてだ。

「おフロ掃除終わったよー」

 優子が風呂場から戻ってきた。さっきのふわふわした空気が一瞬にして解ける。

「おう、サンキューな。こっちももう終わったから」

「じゃあ、わたしもう帰ろうかな」

「おう、皿拭きありがとな」

「ううん、こっちこそありがとう。また明日ね」

 綾子を2人で玄関までお見送り。隣だしここまでで良いだろう。

「じゃあおやすみ。鈴木くん」

「おう、おやすみ綾子」

 ドアが閉まり綾子が見えなくなる。さて、とっととフロ入って寝ますかな・・・・ん?

 背後からなにやら不穏な空気。

「・・・・まさ兄」

「ど、どうした優子」

 優子の俺を見る目がなんだか怖い。

「いま、綾子ちゃんのこと『綾子』って呼んだ」

「ああ、あれな」

 よう観察しているな。気付かないと思ってたのに。

「あいつに名前で呼べって言われたんだよ。苗字呼び捨ては嫌だって」

「・・・・そう」

 優子の目は怖いままだ。

「わたしがおフロ掃除している間に何かあった?」

「別に、何も・・・・」

「綾子ちゃんが女の子の顔になってたんだけど」

「何じゃそりゃ」

 女の子の顔って何だ。メ○の顔の下位互換か?

「何だお前、妬いてんのか?」

「・・・・別に」

 優子はそっぽを向いて部屋に戻って言ってしまった。まったく女の子の相手をするのは大変だな。

 優子を追いかけるように部屋に戻ると、テーブルの上に置いていたスマートフォンが通知のランプを点滅させていた。確認してみると河嶋先輩からだった。どうしたのだろう。メッセージを確認してみる。

 

 

 来週の日曜日に聖グロリアーナ学院との練習試合が決まった。各戦車長は作戦会議を行うので、明日の昼休みに生徒会室に集合せよ。

 

 

 ・・・・・・

「どうしたの、まさ兄?」

「ごめん。早速だけど約束守れない・・・・」

 

 




読んでいただきありがとうございます。


次回から聖グロ戦です。
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