ハイスクール&パンツァー   作:鈴木大佐

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いもうと、襲来

「相手の聖グロリアーナは、強固な装甲と高度な連携力を活かした浸透強襲戦術を得意としている」

 昼休み、各戦車の車長達は生徒会室に集合し、作戦会議を行っていた。今はちょうど、河嶋先輩が相手校の特徴と、河嶋先輩立案の作戦を説明しているところであった。

「相手の戦車はとにかく硬い。相手の主力の《マチルダⅡ》に対して、こちらの砲は100m以内でないと効かないと思え」

 そう言いながら河嶋先輩は相手が使用すると思われる戦車の三面図を示す。

 聖グロリアーナ学院。戦車道では全国屈指の強豪校で、昨年はベスト4に入っていた。イギリス戦車、特に足は遅いが重装甲が特徴な歩兵戦車を主力とする。

「そこで、1輌が囮となって、地の利を活かして相手をキルゾーンに誘い込み、残り全車両で上から叩く!」

 バン! と河嶋先輩がホワイトボードを叩く。この作戦に相当自信があるようだ。

「今回の試合日は春のオープンスクールの2日目に行われる。相手は強豪ではあるが、我が校のイメージアップの為にも頑張って貰いたい」

「オープンスクールって、外部から中学生呼ぶやつですよね?」

「そうだ。ここ数年志望者が減ってきているから、何としても志望者を増やしたい」

 そう言えば去年、中等部以外の中学生が中等部の生徒と混じって高等部の授業に体験に来たことがあった。俺が中学生の時は行かなかったのだが、大洗学園では春と夏の2回、外部の中学生と中等部の生徒をごちゃ混ぜにして、高等部に体験入学をするイベントをやっている。一泊二日にかけて行われ、学園艦も出航する。

 こういったイベントは大洗学園のような中高一貫の学園艦ではよく行われているらしく、高校から入学してきた外部生と内部進学した内部生の壁をなるべく解消するのが目的らしい。確かに、俺がしょっちゅう絡んでいるのは、一緒に外部から進学してきた人ばっかりだな。既に1年の頃から仲良しグループが完成している内部生とはあまり絡んだことがない。もし行っていたら『あ、オープンスクールの時に一緒の班だったじゃん』とか言って、内部生グループの中にすんなりと入れたのかもしれない。

「西住ちゃんはどう思う?」

 干し芋を食べていた角谷先輩がその干し芋でみほを指す。みほの表情を見ると、なんだか心配な様子。この作戦の問題点について分かっているようであった。

「えっと、その・・・・」

「いいよ、言ってみ?」

 角谷先輩、言い方と恰好が不良グループのリーダーみたいになってますよ。

「聖グロリアーナは当然こちらが囮を使ってくることは予想していると思います。裏をかかれて逆包囲される可能性があるので・・・」

「あー、確かに」

 小山先輩がうんうんと頷く。確かに相手はこちらが正面から撃ち合うことはしないと予想しているだろう。1輌でちょっかいをかけてきた車輌がいれば、当然囮だと考えるに違いない。

「うるさいっ!」

 河嶋先輩がビシッとみほを指差す。

「そんなこと言うなら貴様が隊長をやれ!」

 先輩、そんな逆切れしなくても。

「す、すみません」

「まあまあ」

 荒れ狂う河嶋先輩を会長がなだめる。

「まあ、でも隊長は西住ちゃんの方がいいかもね~」

「えっ・・・」

「西住ちゃんがウチのチームの指揮とって」

「えーっ!」

 困惑するみほに対し、会長は黙って拍手をする。

 ぱちぱちぱち。

 俺たちもついついつられて拍手してしまった。

「頑張ってよ~。勝ったらすんごい商品あげるから!」

 え、マジですか?

「あれ、そんなのありましたっけ?」

 小山先輩が少し驚いている。あ、これ会長が今考えたな。

「干し芋3日ぶーん!」

 ・・・・そんなところだろうと思ったよ。

「あ、あのもし負けたら・・・」

 バレー部チームの磯部さんが手を挙げる。あ、余計な事を。

「じゃあ、大納涼祭りでアンコウ踊りおどってもらおうかな」

 あー、もう言わんこっちゃない!

「ええーっ」

「あ、あの踊りを・・・」

一同困惑。みほだけ何かわからずきょとんとしている。

みほ、ファイト・・・。 

 

 

「全員での作戦会議は金曜日に行う。西住と鈴木はそれまでに作戦の最終案を考えてくること」

 第1次作戦会議が終了し、俺達は生徒会室を後にする。生徒会室の前では、優子が手提げ鞄を持って待っていた。

「すまん優子。お待たせ」

「ううん、大丈夫」

 昨晩、生徒会の呼び出しによって、俺が早速優子との昼食の約束を守れないかもしれない事態に陥った時、優子がある案を俺に出した。それが彼女の持っている手提げ鞄の中に入っているものだ。

「あの、鈴木先輩。先輩方って、本当に兄妹なんですか?」

 背後から声をかけてきたのは《M3リー》の車長、1年生の(さわ)(あずさ)だ。

「そうだけど。何か変?」

「い、いえ! とっても仲がいいなあ、と思って」

「そうかな。昔っからずっとこうだけど」

「確かに、この時期の兄妹とは思えん仲の良さだ」

 話に介入してきたのは《Ⅲ号突撃砲》のリーダー、赤いマフラーを羽織ったカエサルだ。カエサルという名前は歴女チーム内でのあだ名(ソウルネーム)らしく、ちゃんと本名はあるらしい。

「やっぱ兄弟姉妹(きょうだい)ってみんな仲悪いもんなのか?」

「私は一人っ子だから分からないなあ」

「わたしは弟がいますよ。実家に帰る度に生意気になっていって大変で」

 へー、やっぱり普通の兄弟ってそんなもんなんだな。

「・・・・・・」

 優子がブレザーの左袖をくいくいと引っ張ってきた。早く行こうという無言の催促だ。

「それじゃあ、また放課後!」

 優子に引っ張られながら、俺は他の車長達と別れる。

「優子、そんなに引っ張んなよ」

「ちょっと大事な話あるから」

 優子はこっちを向かずに言う。少々不機嫌なようだ。

「分かったから、待てって」

 半ば無理矢理袖を優子の手から引きはがして、俺は優子の隣に並ぶ。

「話ってなんだよ」

「・・・・食堂行ってから話す」

 優子は目も合わせてくれない。なんでそんなに不機嫌なんだよ。妬いているのか? まさか、この程度のことで嫉妬するとは思えないし。

 無言かつ早歩きで食堂に到着。食堂は一番混む時間帯を超えたようで、いくつか席が空いている。俺達は適当に席を選び落ち着いた。

「で、大事な話って何だよ」

 弁当を広げながら、俺から話を切り出す。

 優子の大事な話というのは、大体俺にとって都合の悪い話ばかりだ。大抵の場合、話をするときの優子は嫌な笑顔をするのだが、今回は珍しく気まずそうな顔をしている。これはかなり厄介な話に違いない。

「えっとね、本当は昨日言おうと思ってたんだけど」

 視線が泳いでいる。逆に興味が沸いてきた。

「怒らんから、言ってみ?」

 俺は卵焼きを拾い上げながら言う。

「・・・えっとね、有理沙ちゃんの事なんだけど」

 その名前を聞いた瞬間、俺の箸から半分ほど食われた卵焼きがぽろっと落ちた。幸いな事にそれは弁当箱の中に落ちた。おっと、危ない危ない・・・じゃなくてだな。

「あいつが・・・何だって?」

「来週のオープンスクールなんだけど、来るって」

「・・・マジかよ」

「今週の金曜日に来るんだけど」

「・・・・・・」

 有理沙ちゃん、鈴木有理沙(ありさ)は俺達の2つ下の妹だ。今年中3だから受験する高校を決めないといけないが、大洗も選択肢に入っていたか。いや、そんなことより、

「あいつに戦車道やってるって言ったか?」

「ううん、まだ」

 俺が戦車道を履修するにあたっての唯一最大の懸念事項、

「・・・どないしよ。絶対バレるよなぁ」

 有理沙は戦車道が大っ嫌いなのだ。いや、憎んでいるとも言ってもいい。まあ、その原因を作ったのは俺なのだが。

「まさ兄が悪いんだからね。ちゃんと話してあげなよ」

「わかっとるって。何とかするから」

 俺は、はいはいと答えながらさっきの卵焼きを拾い上げ、口に放り込んだ。

 

 

 その日の放課後から、俺達はひたすら戦車道の訓練に明け暮れた。縦隊や横隊での行進、隊列の切り替え。そして射撃訓練。

『土煙を上げるな!』

『稜線を不用意に超えるな! 敵の的になるぞ!!』

『拓けた場所は遮蔽物を使って身を隠せ!』

『斜面は超えられそうか事前に調べろー!』

 隊列を組んで走り、止まって撃つ。また走って、止まって、撃つ。これの繰り返しだ。そもそも素人ばかりなのだから、練習できる内容といったらこのような基本的な練習しかない。

 練習が終われば、みほと作戦会議を行う。一応河嶋先輩の作戦を基本にすることに決めた。後はこの作戦が上手くいかなかったときの予備の作戦をいくつか考えておく。当然相手の方が練度は圧倒的に上なので、こちらは待ち伏せや奇襲が主な戦術になりそうだ。 

 で、あとは有理沙への言い訳を考えるのみなのだが・・・

 どうしても有理沙を納得させることができる言い訳が思いつかない。あいつは疑い深い奴だから中途半端な言い訳はできない。

 しかし、こういうものはなかなか思い浮かばないもので・・・

 

「あー、もうやだなー」

 金曜日になってしまった。

「ちゃんと迎えに行ってあげなよ」

「優子が代わりに行けよ」

「やーだ」

 仕方なく俺は有理沙を迎えに学園艦の下まで向かう。現在学園艦は大洗港に入港中。艦首部にある艦と埠頭をつなぐランプウェイへ向かう。ランプウェイまでは結構時間がかかるのだが、今日に限ってはあっという間な感じがした。

 ランプウェイに着くと、一人の少女が立っていた。最初俺は彼女が有理沙であることに気付かなかった。というのも彼女は髪を切っていたのだ。春休みに帰ったときは腰近くまであったのだが、それが肩くらいまでになっていたのだ。だが俺はすぐに彼女が有理沙であることに気付いた。彼女は俺の母校、札幌中央学園中学の女子制服を着ていたのだ。彼女は俺に気付いてキャリーバッグをカラカラと引いて走ってきた。右手にキャリー、右肩にスクールバッグ、そして優子と対比して明らかに飛行甲板(フルフラット)な胸の前にはリュックサック。おそらくバスから降りてすぐなのだろう。

「遅い」

「第一声がそれかよ」

 有理沙は目の前まで来るなりキャリーバッグの持ち手を無言で差し出す。俺は断る前に既にその持ち手を握っていた。さらには背負っていたリュックまで問答無用で持たされた。

「なんでこんなに荷物多いんだよ」

「女の子は荷物が多いの」

 有理沙はまだスクールバッグを持っていたが、それは渡されなかった。俺は修学旅行並の荷物を持たされたまま学園艦の居住エリアに向かう。居住エリアに向かうまでの間、有理沙は俺の真横を歩いていたのだが、全くこっちを向いていなかったのだ。やっぱり怒っているのだろうか。

「ねえ、お姉ちゃんと一緒に住んでるんだよね?」

 有理沙がこっちも見ないで俺に聞く。

「・・・してるけど。優子から聞いているだろ」

「そうだけど・・・。変なことしてないでしょうね!」

「してねえよ」

 どちらかというと、優子(あっち)からしてくる。

「どうだか」

 呆れたような溜息をつかれる。どうやら大体のことは分かっているらしい。

 さて、戦車道をやっていることについてはいつ話そう。今か? でも明らかに機嫌悪いよな。ここで火に油を注ぐようなことをすると、あいつが帰る日曜まで地獄になりそうだ。

 かといって家に着いてから話すとしても、優子がいるし。優子には2人でいるときに話せと言われたので家で話せる機会というのはほとんど無い。

「ねえ」

 俺は思わずビクッと反応してしまう。

「何か話すことはない?」

 そっちから話を振ってきたか。まだ心構えができてないのだが。

「えーっと、髪切ったよな?」

「そうよ」

「背ぇ、伸びたんとちゃう?」

「春休みに帰ってから全然経ってないじゃない」

「初めて学園艦に乗った感想は?」

「普通」

 ・・・・・・

 一問一答の会話が続く。このままでは俺の方がネタ切れで負けてしまう。仕方ない、正直に戦車道のことを話すか。

「なあ、有理沙・・・」

「戦車道」

 有理沙は俺の言葉を遮りじっと俺の方を見る。これは怒り(マジ)の目だ。

「・・・やってるんだよね?」

 有理沙が本気で怒っているときの声はドスがきいている。今まさしくその状態だ。

「ああ、そうやけど」

「どうして?」

 まずい。いきなり一番回答に困る質問をされてしまった。俺は「Why?」の質問に答えるのが一番苦手なのだ。

「まあ、他にやりたい科目無かったし」

 嘘はついていない。嘘はついていないぞ。

「私が戦車道嫌いなの知ってるよね?」

「うん、まあ・・・」

「そう・・・」

 すると有理沙はあっちを向いて何かぶつぶつと言っている。声は微かすぎて何を言っているかは聞こえない。

「・・・やめてくれたと思ったのに」

 やっと聞こえる音量になる。

「戦車道やめてくれたと思ったのに・・・!」

 ボリュームがどんどん大きくなる。

「馬鹿っ!」

 ぶんっ! とスクールバッグが目の前に飛んでくる。

「うおっ!?」

 完全なる奇襲であったが、俺は何とか回避することに成功した。有理沙は俺をキッ、と睨みつける。

「『あのとき』もこうやって避けたら良かったのに!!」

 彼女はそう言って右の方、つまり学園艦の左舷側の方向に向かって走って行ってしまった。家を目前にしてだ。

 完全に俺が悪かった。有理沙は真面目で真っ直ぐな性格だから俺もはっきりと自分の考えていることを言えば良かったのだ。俺が中途半端な返事をしたがために、彼女の堪忍袋の緒が切れたのだ。

「有理沙!」

 呼んでも彼女は走るスピードを落とさない。追いかけるべきだろうが、この荷物を持ってでは追いつけないだろう。さすがに道端に荷物をほっぽりだして追いかけるわけにもいかない。

「ああもう、くそ!」

 俺は荷物を抱え、家に向かって走り出した。

 

 




登場人物紹介
鈴木(すずき)有理沙(ありさ)
身長:160cm,体重:51㎏,血液型:B型
スリーサイズ:72/56/79、髪型:セミショート
誕生日:3月21日
出身:熊本県熊本市
クラス:札幌中央学園中学校3年
好きなもの・事:?
苦手なもの・事:戦車道、男
好きな戦車:?
優子の妹で母の再婚により正弘の義妹になる。男性に対してかなりの嫌悪感を抱いている。とある事情で戦車道が大嫌いになり、正弘が大洗に進学する理由となった。
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