「う……あ………」
こ、ここは…俺はどうなった。
「……ッ!?なんだこの臭いは…」
此処にこれ以上いたくない。この吐き気を及ぼすような臭いはオレには耐えられない。
ハヤクココカラデナケレバ
後はもう覚えていない。はいずるように光に向けて動きまわっただけ。そして気がついたら俺は外にいた。
外の空気に触れ少しは落ち着いたらしい。混濁していた記憶が蘇ってきた。そうだ、俺は魂の変換の激痛で気を失って……
「って、結局どうなったんだ。俺が残ってるということは成功したのか」
そうだ、俺が得たのは赤い弓兵の力。解らないなら解析するだけだ。
「
俺にはなれない言葉だが、体は違ったらしい。長年付き合ってきたように体がすんなり魔術回路のスイッチを入れた。
「基本骨子・解明」
基本となる骨子を解明し
「構成材質・解明」
構成された材質を解明する
「
「そう…か」
解析した結果俺の魂は弓兵の魂に塗り潰されて閉まったようだ。ある一点を除いて。どうやら俺の魂の一部だけ弓兵自身の魂が拒絶したのだろう。道理で俺が残れたわけだ、感謝すべきは自分の異常性か。
「けど流石は英霊か、拒絶はしたが消去するとは」
拒絶したものの俺の異常性は弓兵に根本を塗り替えられたらしい。残った俺は俺と実感出来ないほど希薄だった。既に自分の最初に抱いていた異常性思い出す事が出来ない。代わりに残ったものはオレだったものの残骸。薄められた異常性だろう。
あの後違和感ある体を持ち上げ場所を移動した。最初はオレだったため気が付けなかったが弓兵ならば気が付ける。最初に俺がいた場所から臭ってきた吐き気を催す臭い。あれは血だ。
解析の結果俺は心身ともに大きく変化していた。おそらく洞窟の血の臭いはオレの血だろう。いや正確にはオレだった者の血か。鏡を投影して全身を見たところ容姿服装赤い弓兵に似通っていた。違いがあるとすれば身長が弓兵より10センチ程低く髪がオールバックになっていないということか。雰囲気は高校時代の弓兵に似てる。オレだったころの面影は微塵も残っていなかった。
「それにしても」
さっきから付けられている。洞窟を離れたあたりからだ。やっぱり離れるのが少し遅かったか、熊でもついて来たか?いや、それにしては些かおかしい。これは動物が発する殺気じゃない。そう、それは人間の天敵のような。残った人間であるオレが震えているのを感じる。
「でもなぁ」
英霊である弓兵は背後の生き物を脅威に感じていない。
けどこのまま付けられてるのは気分が悪いな、誘い出して始末するか…って俺ってこんな物騒な奴だっけ?
そう思いつつも俺はさっき見つけた崖で囲まれた遮蔽空間に歩みをかえた。
「……さて、言葉が理解出来るなら出てこい。お前の存在は知覚している」
……すると茂みの奥から狼のような風貌をした化け物が姿を表した。
「グルルルル……」
「理解はできても言葉を話す知能はないか!」
化け物は跳躍しその鋭利な爪で俺を刺し殺そうとした。
オレだったのならそのまま刺し殺されていただろう。しかし今の身は英霊。
化け物の跳躍を優に超える跳躍で化け物の背後に回り込んだ。そして化け物の爪は背後にあった岩を砕いた。
「なるほど、力は見た目通り化け物並ということか」
「ガアァァァ!!」
「ふん!貴様の実力は底が知れた。
魔術回路を起動し手にこの身にもっとも馴染む剣、干将莫耶を投影した。
「ハアァァァァ!!」
「ギイ?」
投影した干将莫耶を使い俺を貫こうとした腕を斬り飛ばした。化け物はなぜ当たらなかった解らず、無くなった腕を見て不思議がっていた。
「君の腕ならそこだ」
「あ゛?」
化け物は足下に落ちていた腕を掴むと斬れた部分に押し当てた。
「……ほう繋がったか。治癒…いやそもそも腕を落としたくらいではダメージにならないということか」
「ガアァァァ!!」
「よかろう、付き合ってやる。ただし五体満足でいられると思うな!何せ生まれたばかりだ手加減なぞできないのでね」
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「終わりだ、
「…ギアァ!?…………」
化け物の体は魔力の爆発により跡形もなく吹き飛んだ。
やったことは単純だ。腕をもっていっても再生するなら元に戻れないほど粉々に粉砕するだけだ。
俺は化け物に干将莫耶を突き刺していった。化け物は突き刺されてもダメージがなかったのか、剣をそのままにして攻撃してきた。その攻撃を躱し再び剣を投影、それを相手に突き刺す。十分に剣がたまったら後は内包された魔力を爆発させ化け物を爆殺することに成功した。
「最初の戦闘にしてはうまくいったな。これも弓兵のおかげか」
俺が得たのは何も弓兵の能力だけではなかった。弓兵が培ってきた戦闘経験なども得ることができた。俺が理解できなくても弓兵の経験は体を動かし敵を駆逐する、まあ俺が未熟だから完全にとはいかないみたいだが。
戦闘中相手を倒すすべはいくつか浮かんできた。ただそれが実行できるかは別だ、俺は無意識で一番自分が傷つかない選択をしていた。残った俺の魂が自分が傷つくのを嫌ったためだろう。
「まあ、それは今後直していくか」
今は一刻も早くここを離れるべきだ。こんな化け物がいると分かった以上さらに注意深く進むべきだろう。
赤い礼装を纏った男は跳躍を用いて崖を駆け上りその場を後にした。
「……すさまじい力だ、ただの人間が持てる力ではない。あの方に早く報告しなくては」
戦闘を一部始終観察していた第三者の存在に気付かぬまま。
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