東方赤弓兵   作:ライダ

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藍と買い物

紫様、どうして私にこんな苦行を強いるのですか。

 

「早く来いアーチャー」

 

「ちょっと待ってくれ藍、あそこで道を渡れず困っている老人がいるんだ」

 

やっぱり私はアーチャーが嫌いだ。

 

 

事の発端は数時間前に遡る

 

 

「藍ちょっと」

 

「どうかしましたか紫様」

 

紫様が朝から起きてくるなんて珍しい。今日は雨でも降るんじゃないだろうか。

 

「?人の顔をじろじろ見てどうしたの」

 

「いえ、なんでも。ところで何の用ですか」

 

「ちょっと外まで買い物に行ってきてくれない」

 

「外って別にかまいませんが。何を買ってくるんですか」

 

紫様が外、つまり幻想郷の外に買い物に行かされることは珍しくない。確かこの間は新発売のお菓子を買ってこさせられた、橙も気に入ってたから構わないけどあれだけの量いったい何に使ったんだろうか。

 

「これよ」

 

「お、多いですね」

 

渡された紙はメモ帳ほどの大きさだったが髪にびっしりと文字が書かれていた。パッと見はメモというより何かの呪いのようにも見える。

 

「安心しなさい、ちゃんと持ち帰れるようにもう一人用意したわ」

 

「もう一人ですか?」

 

外に出るということはそのもう一人は人間なのだろうか?しかし紫様の人間の知り合いなどいただろうか。

 

「ちょっとまって今出すから」

 

そう言うと、紫様はまるでポケットに手を突っ込み道具を出す猫のようにスキマに手を入れ中から白髪の人間を…って

 

「アーチャー?」

 

「む、藍か…ということは紫の仕業だな」

 

「こんにちは」

 

「こんにちはじゃない、いきなりなんだ」

 

「いきなりじゃないわよ、この前ちゃんとお願いがあるって言っておいたじゃない」

 

「お願い…それってまさか半年前に言っていたやつのことか?どれだけ前の約束を持ち出してくるんだよ」

 

「あら、たかが半年妖怪にとっては瞬きする時間程度にしか感じませんわ」

 

どうやら紫様は半年前に何らかの約束をしていたようだ。それにしたってなんでアーチャーなんだろうか。付き添い程度ならそこらの人間を操れば事足りると思うのだが。

 

「で、俺になにさせようってんだよ」

 

「藍と一緒に買い物に行ってきてほしいのよ」

 

「なんでさ、子供のお使いじゃないんだぞ。どうして俺が行く必要があるんだ。それ以前に紫は俺が外に出れないこと知っているだろう」

 

「そのことなら抜かりないは、きっちり外に出られるように調整しておいたから」

 

「調整ってなんだよ」

 

「聞きたい?」

 

「いやいい、何だか猛烈に嫌な予感がする」

 

賢明な判断だと言わざるを得ないな。紫様の意味不明な行動ほど危険をはらんでいるものはない。

 

 

その後なあなあでアーチャーと買い物に行かされてしまった。そして今に当たる、アーチャーは困った人間を見れば手助けに入る。そのせいで買い物が一向に進まない。

 

「藍どうかしたか?」

 

「いやなんでもない」

 

どうかしたかじゃない。今まさにお前の行動で不快な気持ちになっているところだ。

 

「それじゃあ早くいくとしよう。日が暮れて店が閉まると困る」

 

「ああ」

 

それはこっちのセリフだと言ってやりたい。

 

「次で十件目か後難件回れば終わるんだ藍」

 

「あと三件ほどだ」

 

買い物が始まれば以外にもすんなり買い物は進んだ。頼んだものは的確に取ってくる、荷物は何も言わなくても積極的に持つ、確かに買い物には便利かもしれない。

 

「次は向こうの…ってアーチャーはどこに行った」

 

少し目を離しただけでアーチャーはその場から姿を消していた。頼むから少しは行動を自重してくれ。

 

「ちょっといい御嬢さん」

 

「ん?」

 

振り返ると後ろに人間が一人いた。はて、私に何か用だろうか。

 

「御嬢さん一人?よかったら一緒にお茶しない」

 

どうやら面倒事は常に降りかかってくるようだ。

 

「すみません、一緒に来てる方がいるので」

 

「え、そんな奴どこにいんの?いいじゃん、御嬢さんみたいな美人をほっとく奴なん捨ててさ、俺と一緒に遊びに行こうよ」

 

最初の方だけは美人はともかく非常に同意したい。

 

「ささ、いこうよ」

 

「あ、止め…」

 

もういっそのこと殺ってしまうか。いやさすがに殺しはしないがストレス発散のためにサンドバッグくらいにはなってもらいたい。

 

「そこの君、彼女は私の連れだ。勝手に連れて行かないでもらおう」

 

まるで図ったかのようなタイミングでアーチャーが戻ってきた。いったい何してたんだか。

 

「はあ、何だよお前。今いいとこなんだから邪魔すんじゃ…ひぃ!?」

 

「すまない聞こえなかったみたいだな。彼女は私の大切な人なんだ、引いてもらえると助かる」

 

アーチャーの殺気を込めた視線を見てナンパ男は腰が引けたようで一目散に逃げ去って行った。

 

情けない、男ならもっと度胸をつけてもらいたいものだ。けど私も一瞬背筋がぞっとした、英雄としてのアーチャーの姿を垣間見たような気がした。

 

「どうした藍?まさか怖かったわけじゃないだろ」

 

「当たり前だ。第一いったい何をしていたんだ」

 

今目の前にいる人物からはさっきの覇気をまったく感じない、ほんと調子が狂う。

 

「そこの店の路地辺りで女の子が絡まれていたんだ」

 

「その結果今度は私が絡まれたと」

 

「すまん、せっかく藍の護衛できたのにこれでは本末転倒だった」

 

「別に頭まで下げる必要は」

 

まったくわからん奴だ。私をないがしろにしてると思いきや、本当に大切な者のように私を扱う。

 

「ほらさっさとい…ん?」

 

ポツ……ポツ……ポツ……

 

なんてことだ雨が、まさか本当に雨が降るとは。今日は災難続きだ。

 

「ほら使いたまえ」

 

「……どこから傘を取り出したんだ?」

 

「ただ作っただけだ」

 

「どうした差さないのか?濡れてしまうぞ」

 

「アーチャーはどうするんだ」

 

「ん、安心しろ。荷物を濡らすほど俺は愚かじゃない」

 

そういうとアーチャーは懐から一つ大きな袋を取り出し今まで買った物を袋にいれ水が入らないよう縛った。なるほど懐で投影していたというわけか。

 

「まったく、自分が濡れてればせわないぞ」

 

「藍…それでは君も濡れてしまうぞ」

 

「かまわん、もともとはお前がいなければ濡れてたんだ」

 

その後もこいつはなんだかぶつくさ言っていたが全て無視してやった。あっちが先に私を無視したんだからこちらがしても無視しても文句はないだろう。

 

 

 

「あらお帰りなさい、思ったより早かったじゃない」

 

「ただ今戻りました紫様」

 

何とか買い物を終え幻想郷に戻ってくることができた。しかしそんなに早かったただろうか、アーチャーがあっちこっち行ったせいで時間がかかったはずだが。

 

「アーチャーはどうしたの?」

 

「紅魔館まで送りました」

 

「そう、ご苦労様」

 

買ってきた荷物をひとまず机の上に置いてアーチャーのことも報告した。これで完璧に今日の仕事は終了だな。

 

「あ、これご褒美よ」

 

そう言うと紫様はキーホルダーを渡してきた。しかも油揚げ型の。

 

「何ですかこれ」

 

「彼からのプレゼントみたいよ、なんかスマンって書かれた紙が一緒に袋に入ってたわ」

 

しかし油揚げってどういうセンスかしらね~と紫様は言っているがいったいいつの間にアーチャーは。

 

「あ、藍一つ勘違いしてるでしょ」

 

「勘違い?」

 

「言っとくけどこれはアーチャーからじゃないわよ」

 

「え、でもさっきアーチャーからのプレゼントって」

 

「誰がアーチャーなんて言ったのよ。第一アーチャーが人間ならまだしも妖怪なんかにプレゼントなんか渡すわけないでしょ。もし渡されたら真っ先に爆弾じゃないか調べるわ」

 

紫様が言っている意味がよく分からない。

 

「藍、まず第一にあなたは今日アーチャーと買い物になんて行ってないわよ」

 

「はい?」

 

ますますわけが分からない。それじゃあ今日私の隣にいた人物は誰だったのだろう。

 

「今日最初に言ったわよね。彼が外に出られるようにしたって」

 

「それは聞きましたが」

 

「彼が外に出られなかったのは何でだと思う」

 

「誰も彼を知る人物がいなかったからでわ」

 

紫様は笑いながら半分正解とだけ言った。はて、ほかに理由があるんだろうか。

 

「もう半分は彼が英霊だからよ」

 

「英霊…もしかして」

 

「わかったようね、前にも言った通りアーチャーはこの世界とは全く別の生き物と仮定できるわ。この世界の英霊とアーチャーの言う英霊は意味がまるで違う。だから結界が世界でただ一つの異物とみなしてアーチャーを取り込んでしまうのよ」

 

なるほどアーチャーが外に出られなかった理由はわかった。しかしそれでは今日のことはいったいなんだったんだろうか。

 

「彼が外に出ることができたのわ、私が彼の魂の境界を歪めたからよ」

 

「境界を?」

 

「そう、英霊である魂を極端に歪めて結界が感知できないほどの人間である彼を表に出したのよ」

 

なんて無茶を。へたをしたら魂が消滅しかねない行為ですよそれ。

 

「めんどくさったわ。彼がいつもの服を着てると何故か彼の境界をいじれないんだもの」

 

何でかしらねと私に尋ねてくるが、紫様が知りえないことを私が知るはずもない。

 

「だから今日はもっと帰って来るの遅いと思ってたのよね。彼が表に出ているんだもの、誰構わず助けに入るはずだもの」

 

「紫様、それがわかってて私と彼を行動させたのですか」

 

「だってあなたいまだに彼と会うと妙に気を張ってるんだもの。彼の本質に触れれば治ると思ったの。彼のそばにいると心地いいでしょ、私たちにとっては貴重なんだから。人間でいうアロマみたいな」

 

彼は芳香剤ですか?まあ、たしかにそういえばいつもより感情がストレートに出ていたかもしれない。

 

「よかったじゃない彼からプレゼントもらえて。彼とデートできてうらやましいわ~」

 

「な!?」

 

な、何がデートですか。第一デートだとしたらあんなデートが私の初デートなんて納得いかない。

 

 

 

後日

 

「ふあぁ~」

 

「おや橙おはよう」

 

「おはようございます藍しゃま。藍しゃまその帽子についてる変なのなんですか?」

 

「ああこれかい、おせっかい者からの贈り物だよ」

 

「……ほんと、素直じゃないんだから」




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